アクタージュ 暗殺者(になるはずだった)ルート 作:朕好こう
商業において、最も大切なのは
特に
「全く馬鹿げている、そうは思いませんか?」
「…心一さんって俳優嫌いなの?」
「金になる内は好ましく思いますよ」
頭鬼恋歌は金になる。CM、ドラマ、映画、舞台などマルチに展開出来、演技力と技術力に申し分無し。だが、知名度がまだ少し足りない。だからこそ、“羅刹女”の公演を決めた。夜凪景と頭鬼恋歌、百城千世子という話題になる
「ところでさ。心一さんは、“羅刹女”で誰が勝つと思う?」
「勿論、貴女が勝つと思いますよ。夜凪景より技術に優れ、百城千世子より演技に優れる貴女なら」
これは嘘では無い。個々で批評するなら頭鬼恋歌の勝ちだ。だが、舞台は独りで行うモノでは無い。彼女以外の役者が足を引っ張ればどうなるかは分からず、私の考えたスタッフ表の通りになるならば、彼女は確実に負ける。
「そんな訳ないよ…私が景ちゃんと千世子ちゃんに勝てるわけない。私には才能が無いもの」
「でも勝たなければいけない、でしょう?」
「うん。勝てないと私に生きてる価値なんて無いから」
自己嫌悪が行き過ぎた結果、才能の有る者に歪んだ執着を見せる。
愛が行き過ぎた結果、殺意を抱き、愛する者を殺める術を求める。
仮面を被りすぎた結果、自分を見失い、精神の成長が止まる。
本当に芸術家というのは厄介だ。特に頭鬼恋歌という芸術家は非常に厄介だ。笑顔で善悪や倫理観を簡単に越えてくる。こちらの思惑など知らん顔をして、荒らしてくる。そのような好悪だけで世界を見ている化け物を飼い慣らす方法は一つだけだ。好きな物で釣ればいい。
「夜凪景が勝てば、これを機に更なる名声を手に入れるでしょうね。勿論、百城千世子が勝てば現在の名声を維持する事が出来る。勝たなくとも注目を浴びることが出来る」
「うん。最初の契約通りだね」
「えぇ、夜凪景を女優として輝かせる。そのひとつが叶えられますね。では、もうひとつの方は如何でしょうか?」
水を飲もうと、コップに手を伸ばした頭鬼恋歌の動きが止まる。そして、私を見据える。私は笑顔を崩さずに言葉を続ける。
「人気絶頂の夜凪景を殺す。最初聞いた時は驚きました。何せ、自分にとって大切だと思う人を殺すなんて私には到底理解出来ない事です。復讐かと私は疑いましたが…」
「…」
「貴女は笑顔でその言葉を口にした。あの時の笑顔は嘘では無いですよね?」
「…そう、だよ。私は心の底から景ちゃんを殺したいと思ってる。だって、景ちゃんを綺麗な顔で死なせてあげたいじゃん。人気絶頂のまま死ぬってことは、人気のまま死ねるんだよ?女優としてさ、それって幸せな事じゃない!人の記憶に残る限り、彼女は美しく居られるんだよ。それに…私が殺せば、彼女の初めてになれるって思ったの。私が、彼女の初めてになりたかった。お風呂も、ご飯も、キスも、全部!全部!!ほら、初めが欲しくなったら終わりも欲しくなるでしょ?だから、彼女の死も欲しくなっちゃったの」
いつもの作られた笑顔では無い。もっと醜い歪んだ笑みだ。彼女は愛という曖昧なモノに囚われ、囚われていることに気づいてない。
「だけど…今は違う。なんか、おかしいんだよ。景ちゃんの顔を見ると心臓が痛いの。千世子ちゃんと出会うと顔が熱くなって恥ずかしくなるの。殺したく無いんだ。なんでかな?なんで、こんなにも変な気持ちが溢れるの…?」
…成程。歪んだまま成長しているかと思ったら存外、まともな部分もあったらしい。いや、まともにさせられたのか。マネージャーに拠れば、百城千世子と夜凪景から熱烈なアプローチを掛けられているらしい。それのせいで矯正されたか。明確な愛情を受けて、歪んだ愛情をおかしいと気づき始めている。
「私には貴女の気持ちが分かりかねますが、その気持ちはしまっておいた方が良いでしょう。それは貴女の演技を鈍らせるもののように思われる」
「…うん」
だが愛情を彼女に自覚させるのは、宜しくない。彼女の演技はまともな愛情が無いからこそ、客観的かつ精巧な演技を可能にしているのだから。
だからこそ、彼女の気持ちを抑制する。彼女が末永く私の
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たまたま付けたテレビに頭鬼恋歌が映っていた。相変わらず、化け物染みた才能だと思って見ていると、何処か違和感を感じる。
違和感を感じた瞬間には、消えているほどの違和感だ。少し水面が揺れた程度。だが完璧な演技をしているからこそ、その揺れは目立つ。
「夜凪」
「ん?何かしら、黒山さん」
「最近、頭鬼の調子はどうだ?」
「相変わらず、可愛いけれど」
「…」
だめだ、こいつ。全然使えねぇ…
俺は夜凪との会話を打ち切って、また頭鬼の出演したCMや映画を見る。そして最近のCMを見て、違和感の正体に辿り着く。
「…メソッド演技、か」
メソッド演技は自分の感情に基づいて演じる演技法だ。だが、頭鬼はメソッド演技を使うのでは無く、他の役者に使わせたり、観客に感情を思い出させるのに使っていた筈だ。
それが何らかのきっかけで、変わった。あの日、俺が忠告しても変わらなかった奴の演技に変化を与えた者がいる。
それは十中八九、夜凪と千世子だろう。頭鬼は学習の見本として、夜凪と千世子を選択していた。その過程で演技に限らず、あいつらの頭鬼に向ける愛情すら取り込んで学習したのだろう。その結果、見てるこっちが恥ずかしいくらいのイチャつきにまで発展したわけだ。
そうすると、少し懸念が出てくる。“羅刹女”でのテーマである怒りと嫉妬。どちらも負の感情であり、人間である以上抑制することが難しい感情だ。それらを頭鬼が2人から学習した場合、どうなるのか。あいつは素直に、全てを学習してしまう癖がある。その素直さが今まではプラスに生きてきたが…
「今回はそれが仇になる可能性があるな」
「…?」
思わず口に出してしまい、いつの間にか隣に座っていた夜凪に首を傾げられる。俺はなんでもねぇ、と言うと少し溜息を吐く。
夜凪の怒りと嫉妬、千世子の怒りと嫉妬を学習して頭鬼はまともで居られるのか。大切な人からの敵意に、あいつは打ち勝てるのか。
敵にも関わらず、不安になる。だが無理に止めようとするのは無意味だ。俺もあいつもこの世界に踏み入れた以上、やりたいことをやる時に他者の制止なんてクソ喰らえだからな。逆に俺が殺られかねん。
では、どうするのか。簡単だ。頭鬼を正しく成長させてやればいい。と言っても直接、成長させるのではなく周囲に成長を促させる。
その為に、千世子に協力して貰う。千世子の演技で、頭鬼に怒りと嫉妬の制御をどうにかこうにか教えてやる。
夜凪に頼むことも考えたが夜凪は俺にとっても敵だし、協力を頼むことは出来ない。だが、あいつは勝手に自分なりの正解を見つけるだろう。そういう神に愛された女だからな…夜凪は。
本当なら頭鬼を無視してもいい。だが、1度忠告した身として、少しだけ力を貸す。
それに今の頭鬼なら少し撮りたくなった。機械的な正確無比の演技では無く、今のような感情を込めた演技をする頭鬼恋歌なら撮ってみたいと思ったから。俺は身勝手にも、救いの手を差し伸べる。それを手に取るかどうかは、頭鬼次第だが。
「ねぇ、黒山さん。なんで、ずっと恋歌のシーンを見てるのかしら?もしかして…好きになったのかしら?もしそうなら私にも考えがあるのだけど」
「安心しろ。俺はあんな貧相なのに興味ねぇ」
「恋歌が貧相ですって!?撤回して、ヒゲ男!!」
「お前、めんどくせぇな!?」
こっちが真面目に考えてるにも関わらず、夜凪に邪魔される。
その後、適当にぎゃあぎゃあ騒ぐ夜凪をあしらっていた俺は小一時間、頭鬼の良いところを聞かされることになる。