問 東北地方の太平洋側に夏になると吹く、
寒流の影響を受け、冷たく湿った北東風の名称を答えなさい。
《解答》
音羽康介の答え
『やませ』
教師のコメント
正解です。
『やませ』は夏季にオホーツク海気団から吹く冷涼・湿潤な風で、
海上を進む間に雲や霧を発生させ、太平洋側の陸上に到達すると
日照時間の減少や気温の低下の影響を及ぼし、
農作物へ甚大な被害をもたらします。
このことを『冷害』といいます。覚えておいてください。
吉井明久の答え
『北風』
教師のコメント
それは冬に吹く風です。
調理室を後にして俺らは新校舎三階にやって来た。
雄二「よし。それじゃあ、このまま新校舎三階をうろつくぞ。暇そうにな。」
明久「え?時間がないって言ってるのに目的もなくうろつくの?」
雄二「BクラスとDクラスに俺たちが何も知らないというアピールをするためだ。」
康介「なるほど、Bクラスには時間稼ぎに、
Dクラスには開戦に踏み切る為の判断材料になるというわけか。」
雄二「そうだ。それに、DクラスがBクラスに対して敵意を抱いているという
ムッツリーニの偽情報が伝われば、BクラスはDクラス戦も想定する必要が出てくる。
そこで俺達が動きに気づいて黙って点数補充に勤しむべきだろさ。」
・・・
康介「おい、雄二。明久がフリーズしているぞ。」
雄二「やれやれ、容量の無いパソコンが。」
軽く罵倒されている・・・
雄二「いいか、よく聞いておけ。まずはBクラスだ。このクラスは俺達に宣戦布告する気でいる。
現在は点数補充を行っていて、俺たちが感づけば即、試召戦争をするつもりだ。」
明久「うん。」
雄二「次にDクラスだ。このクラスは俺達に対して開戦するかしないかで内部争いをしている。
で、今のところお前の所為で開戦派のトップの清水が戦意を失っているため
非開戦派の平賀に分がある状況だ。
このままではDクラスはFクラスに試召戦争は仕掛けてこない。」
明久「なるほど。」
雄二「そして、俺達Fクラスだ。Bクラスに宣戦布告されれば勝ち目はない。
だから、Dクラスに宣戦布告される必要がある。
狙いは戦後に用意される回復試験を受けるために時間だ。」
雄二「最後に、現状とこれからどうするかだが、
現状は、BクラスからFクラスへの宣戦布告を遅らせるために、
『DクラスがBクラスを狙っている』という欺瞞情報を流した。
このことでBクラスは対Dクラス戦を考慮する必要が出てくる。
BクラスはDクラスの本心を確かめるために時間を取らざるを得ない。
で、これからどうするだが、Bクラスからの宣戦布告を遅らせた時間で
DクラスからFクラスに試召戦争を挑んできてもらえるように仕向ける。
具体的には、のんきに廊下を歩いている姿を見せることで、
Bクラスに対してはFクラスに戦意が向けられていることを気づいていないことをアピ-ルし、
DクラスにはFクラスとの試召戦争の判断材料にしてもらう。
わかったか?明久。」
明久「うん。それで、のんきに廊下を歩くってただフラフラ歩き回っていればいいの?」
雄二「まあ、そうだな。」
退屈そうだな・・・。
康介「何かゲームでもするか?」
明久「ん、オーケー。」
雄二「んじゃ、英単語クイズでもやるか。英単語を言うからその意味を答えるんだ。
語問のうち一問でも答えられなかったら負けだ。」
そ、それは・・・
明久「ん、オーケー。どんと来い!」
康介「いいのか!?」
雄二「なんだ康介、言いだしっぺはおまえだろうが。」
いや、まあそうだけど。英単語だなんて思わなかったし・・・
康介「わかった。」
そう言うと雄二は口の端を持ち上げ、
雄二「よし、それじゃ、罰ゲームは『負けた方が勝った方のいう事を何でも聞く』だ。
それじゃあ、行くぞ!」
明久「え!?」
康介「ま、待て!」
しかし、雄二は聞く耳を持たずに問題を出した。
雄二「"astronaut"」
あ、これなら簡単だ。
明久の様子を見るとわかっていない様子だ。
雄二「お、康介答えをきこうか?明久はあっちに行っていろ。」
明久「そんないいかたしなくてもいいじゃないアk!」
明久から少し離れたところで
康介「(宇宙飛行士)」
すると雄二は口の端を持ち上げる。いやらしい奴だ。
雄二「正解だ。さ、明久、答えはわかったのか?」
わかったような顔をする明久、
明久「僕を甘く見ないで欲しね。」
雄二「じゃあ、言ってみろ。」
明久「道路に使われているアレだよね。」
アスファルトか、
・・・アスとトしか会っていないじゃんか!
雄二「俺の勝ちだな。」
康介「ああ。」
明久「どうして最後まで聞かずにそんなことが言えるのさ!
勝負は最後までわからないはずだよ!」
康介「明久、おまえが言っているのはアスファルト、道路の舗装材だ。
問題はアストロノート、日本語訳は宇宙飛行士だ。」
雄二「お前は“宇宙飛行士”を道路に埋めるつもりなのか?」
明久「・・・・・・ケアレスミス、か・・・。」
康介「待て!どこに注意を損なう要素があった!?」
全然別物だろ!
明久「でも、負けは負けか・・・。認めるよ雄二。」
雄二「今ので負けを認めないようなら人としてどうかとは思うが・・・。」
全くだ。
康介「雄二が終わったことだし、次は俺か・・・"army"、でどうだ。」
すると雄二は
雄二「明久、わかるか?」
明久「なに?雄二はこんな簡単な問題をわからないの?」
雄二「ほおぉお、明久は簡単らしいぞ。」
康介「マジか。凄いな。答えてみろよ明久。」
大方『腕』と勘違いしていると思うんだが。
明久「いいけど、雄二がまだ答えていないから雄二の負けでいいんだね。」
雄二「それは癪だな。」
そう言って雄二は俺の耳元で小さな声で、
雄二「(軍隊だろ。)」
康介「正解だ。さて、明久?」
明久「答えは腕だ!」
自信満々に告げる明久。
康介「残念ながら不正解だ。」
明久「バカな!」
雄二「おまえが言っているのは"arm"だ。そして問題は"army"だ。」
明久「同じじゃないか!そう言って僕をまた陥れようとしているんだな!」
雄二「またも何もさっきのはおまえの間違いだろうが。」
明久「くぅう、ああ言えばこう言う。」
そんな時、
翔子「……吉井、雄二と音羽の言っていることは本当。」
音もなく霧島が現れた。
康介「わっ!?」
雄二「ぶっ!? しょ、翔子!?」
明久「霧島さんがそう言うなら僕の負けでいいよ。」
負けでいいよって何だよ?どう考えても間違っていただろうが
明久 「それじゃあ、次は霧島さんの番だね。」
翔子「……頑張る。」
坂本の後ろで霧島が小さくコクンと頷いていた。
雄二「ちょっと待て、いつの間に来たんだ!?」
慌てふためく雄二
明久「問題を出し始めたあたりからずっといたじゃないか。」
全然気づかなかった。
もしかすると明久の頭には脳みその代わりに特殊なレーダーが入っているのではなかろうか?
翔子「……雄二が『何でも言うことを聞く』って言ったのが聞こえたから。」
なるほど、雄二は愛されているな。
明久「それじゃ、霧島さんが出題者で雄二が解答者だね。」
康介「そうだな。」
翔子「……わかった。」
雄二「ま、待て! 翔子が参加するなんて聞いていないぞ!?」
明久「今更そんなコトを言うなんて男らしくないよ?
雄二はそんな言い訳をして逃げるような男なのかい?」
ふむ、
康介「明久、よく考えろ。あの雄二がまさか逃げるだなんて・・・ありえないだろ。
なあ?」
明久「そうだったね。ごめん雄二♪」
雄二「く・・・っ!
じょ、上等じゃねぇか!きっちり答えてやらぁ!」
・・・ここまで見事に思った通りになると少し面白くないな。
明久「というわけで霧島さん、一問目をどうぞ。」
翔子「……うん。えっと──」
何かを思い出すように霧島が顎に手を当てる。
「──"betrothed"」
ダッ(身を翻す雄二)
ガッ(その肩を掴む俺と明久)
明久「雄二、どこに行こうとしているのかな?」
康介「クックック、答えろよ雄二。」
答えは確か【婚約して】だったと思う。
雄二「康介、キ、サ、マ・・・!」
俺を睨みつける雄二。今までにないほど殺意が込められている。
因みに俺は、ニターっと笑って雄二を挑発する。
明久「ど、どうしたのさ!」
そんな様子に明久がオドオドする。
まさに一触即発のピリピリとした空気
が、
明久「霧島さん。いきなりトドメっていうのも可哀想だから、問題を変えてあげてよ。」
翔子「……わかった。」
この言葉で若干空気が和らいだように思える。
小さく頷いて明久の提案を呑む霧島。
一方雄二は【何とかなった】の顔をしている。
明久「?どうして康介は僕を睨むの?」
康介「別に・・・。」
一方雄二は、苦しい表情を見せながらも俺に笑みを浮かべる。
翔子「……じゃあ、"prize"」
雄二の額から水滴が流れる、
雄二「prize・・・【賞品】か?」
霧島は正解と小声で告げてから更に問題を出す。
翔子「……"as"」
雄二「【として】」
翔子「……"engagement ring"」
湯治「【婚約指輪】」
翔子「……"get"」
雄二「【手に入れる】」
翔子「……"betrothed"」
ダッ(身を翻す雄二)
ガッ(その肩を掴む俺と明久)
明久「だから雄二、どこに行こうとしているのかな?」
康介「フッハッハッハ!!良かったな雄二。」
雄二「放せお前等!後生だから放してくれ!」
懇願する雄二。そんな願い聞き入れるわけないだろう?雄二♪
雄二「頼む、本当に頼む。今の一連の単語を聞いたなら俺の恐怖がわかるだろ!?」
明久「えっと、つなげると【賞品】【として】【婚約指輪】を【手に入れる】だね。
霧島さんは勝ったら雄二に婚約指輪を買ってもらうつもりなの?」
小さく頷いく霧島
雄二「(ヤバい、ヤバい・・・)」
明久「冗談がうまいね、霧島さんは。
でも、僕らは学生だよ。指輪なんて帰るわけないでしょ。」
翔子「……あっ!?」
霧島が何か取り落とした。・・・宝石店のパンフレットか・・・。
雄二「(マジヤバい、マジヤバい・・・)」
フハハハハ!!
翔子「……冗談。」
そう呟いて、霧島は恥ずかしそうに案内書を拾う。
康介「いつも持ち歩いているのか?」
翔子「……うん。」
雄二「(チョーヤバい、チョーヤバい・・・)
康介「そうか、雄二に買ってもらいたいんだな。」
小さく頷いく霧島。そして雄二は、
雄二「(ゲキヤバい、ゲキヤバい・・・)」
明久「あはは。雄二ってば。
そんな僕らにしか聞こえないような小さな声で『ゲキヤバい、ゲキヤバい』
なんて連呼されても困っちゃうよ。」
頷く俺。そして虚ろな目の雄二。
明久「さぁ雄二、答えをどうぞっ。」
雄二「・・・やっぱ無理だ!俺には言えない!」
仕方がない。
康介「雄二の負けだな。」
雄二「はぁあ?」
明久「そうだよね。
答えられないんだから、約束通りなんでも言うことを聞いてあげないと。」
雄二の表情がどんどん曇っていく。
雄二「翔子、さっき冗談って言ったよな?」
翔子「……うん。婚約指輪は冗談。」
そうそう、
雄二「じゃあ、本気の方はなんだ?」
翔子「……それは──」
頬を染めて俯きながら霧島が呟く。
翔子「──人前じゃ、恥ずかしくて言えない・・・。」
雄二「なんだ!?俺は何をさせられるんだ!?」
?プロポーズのお願いじゃないのか!?
人前だと恥ずかしくて言えないこと・・・まさか
翔子「……こんなところで言わせるなんて、雄二はいやらしい。」
明久「死ね雄二ぃぃーっ!」
雄二「なぜ俺が狙われるんだ!?俺は何も言っていないだろ!?」
明久「黙れ!今朝聞いた『寝ている霧島さんに無理矢理キスをした』
って話も含めて納得のいく説明をしてもらおう!」
康介「ほう、そうなのか雄二?大胆だな。」
雄二「違う!話の内容が変わっているぞ!?本当は──」
翔子「……キスだけじゃ終わらなかった。」
康介「雄二、表では否定していて裏ではやるんだな。」
明久「嫉妬と怒りが可能にした、殺戮行為の極致を思い知れ・・・っ!」
明久がもの凄い勢いで雄二に襲い掛かる。
雄二「うぉっ!?明久の動きがマジで見えねぇ!」
翔子「……キスの後、一緒に寝た。」
明久の動きがさらに加速される。
雄二「ごふっ!バ、バカな・・・!明久に力で負けるなんて・・・!」
翔子「……とても気持ち良かった。」
霧島の言葉で明久はさらに速くなる。
雄二「更に分身──いや、残像か!?もうお前人間じゃないだろ!?」
明久「『殺したいほど羨うらやましい』という嫉妬心は、不可能を可能にする・・・!」
雄二「上等だ! こうなりゃこっちも本気で相手してやらぁ!」
これは面白いものが見られそうだ。
・・・
新校舎三階に、摩擦で焦げた靴のラバーの臭いが充満したころ、
鉄人「貴様らぁぁああ!!何をやっておるかぁぁああ!!」
鬼神と化した鉄人が爆走して来た。
雄二「はぁ、はぁ、はぁ・・・。危ないところだった・・・。」
明久「ま、まさか、鉄人が、あんなところにいた、なんて・・・。」
康介「いたん、じゃなく、て、騒ぎを、聞きつけて、やって来たんだと、思うぞ。」
所変わってFクラスの教室。鉄人から逃げきってここまでに戻ってきた。
みゆき「おかえり。首尾はどう?」
みゆきが帰りを出迎えてくれた。
康介「まあ、目的は、達成した、な・・・?」
雄二「あ、ああ。結果的に、予想以上に、うまく、いったと思うぞ。」
明久「そ、そう、だね・・・。他の、クラスの人達も、見ていた、からね・・・。」
むしろ俺らの悪評が更に広まってしまった感がする。
雄二「ふぅ・・・。
余計な時間がかかった気がするが、一応予定通りだな。ムッツリーニは?」
みゆき「あっち。」
みゆきの指差した方を見ると、
エイミー「師匠♪」
ムッツリーニ「……(スタスタ)」
ムッツリーニがエイミーを回避しながらこっちにやって来る。
そしてその背後からはまがまがしい殺気を感じる。
雄二「上手くいったかムッツリーニ?」
ムッツリーニ「……守備は上場。」
誇るわけでもなく淡々と答えるムッツリーニ。
ムッツリーニ「……それで、次の仕事は?」
なんというかプロの姿を感じる。
雄二「ああ、今姫路が戻ってくる。そうしたら次の仕事に移ろう。」
教室内に姿が見えないという事は
まだ、調理室で【化学ゼリー】を作っているのだろうか?
明久「そういえば、わざわざ手料理を作ってもらってどうするのさ?」
雄二「姫路の料理は暗殺用の武器だ。」
堂々と言うなよ。もし聴いていたらどうするんだ。
みゆき「誰を・・・暗殺する・・・の?」
雄二「Bクラスの奴だ。」
明久「根本君を暗殺するの?
僕らの出したものを簡単に口にはしないと思うんだけど・・・。」
雄二「いや、ターゲットは根本じゃない。
今更根元を暗殺したところでBクラスが止まるとは思えない。」
康介「だろうな。」
雄二「狙いはBクラスからDクラスへの使者だ。
ムッツリーニの欺瞞情報でDクラスに狙われていると知ったら、
Bクラスの連中はその対応をする必要がある。
その場合、考えられるとしたら何だ明久?」
明久「う~ん・・・僕らがCクラスにやったみたいなことするんじゃないかな?」
雄二「まあ、正解だ。同盟を結ぶことだ。
使者を出すだけで戦いを避けられるなら、それに越したことは無いからな。」
みゆき「ってことはかなりマズいんじゃない?」
エイミー「確かめラレたらバレちゃイマす!」
康介「それを防ぐために使者を暗殺するわけか。」
使者に同情するな。
雄二「その通り。
同盟に向かった使者がやられたらBクラスは間違いなく敵意を感じるだろう。
そうなれば同盟は成立しないし、連中の疑心は深まるはずだ。」
相変わらず考えることが外道だ。
明久「けど、暗殺だったらスタンガンでもいいんじゃない?
わざわざ姫路さんの料理で毒殺なんかしなくても。」
ムッツリーニ「……スタンガンだと悲鳴をあげられる。」
明久「口を手で押えればいいじゃないか?」
雄二「アホかお前は。んなことしたら自分も感電するだろうが。」
明久「でも、・・・」
雄二「気にするな。姫路の料理を選んだのは俺の趣味だ。」
その時、
瑞希「え?坂本君、私の料理が好きなんですか?」
丁度、教室に姫路が戻ってきた。
雄二「ひ、ひめ、じ・・・?」
雄二の顔から一気に血の気が引いていく。
ギギギ、とブリキの玩具のように首を動かす坂本。
瑞希「良かった。そう言ってもらえると嬉しいです。
けど、霧島さんに聞かれたら怒られちゃいますよ?」
姫路は嬉しそうに笑っている。
雄二「は、はは、は・・・」
明久は切なそうに笑っている雄二を慰める為か、その肩に手を置いた。
明久「ウェルカム(グッ)」
雄二「テメェ、そのムカつくほど爽やかな笑顔はなんだ・・・!」
仲間が増えたことに喜ぶ明久。
瑞希「坂本君の分もありますので、良かったらどうぞ。」
姫路は笑顔のまま明久と雄二にパック入りのゼリーを渡す。
それを出来る限りの作り笑顔で受け取る明久と雄二、
一方、俺らは安堵のため息を心の中で吐いていた。
雄二「そ、そうか。すまないな。後で腹が減った時にでももらうとしよう。」
明久「ぼ、僕もそうするよ。姫路さんありがとうね。」
瑞希「いいえ。これくらいお安い御用です。
それでは私は調理室の鍵を返しに行ってき
ので。」
ペコリとお辞儀をして姫路は教室から出ていった。
それを確認して、
雄二「んじゃ、行くぞお前ら。」
明久「了解。」
康介「おお。」
みゆき「うん。」
ムッツリーニ「……わかった。」
エイミー「私モ行キマすっ!」
俺らは共に再びA~Dクラスのある新校舎へと向かった。