△雄二SIDE
翔子「……雄二。」
雄二「なんだ翔子?」
翔子「……携帯電話を見せて欲しい。」
何の脈絡もなくそんな事を言い出した。
雄二「どうした?なんでいきなりそんなことを言い出すんだ?」
翔子「……昨日、TVで言ってたから。」
雄二「TVで?何を?」
またコイツは・・・
翔子「……浮気の痕跡は携帯電話に残っていることが多いって。」
雄二「ほほぅ。」
翔子「……だから、見せて。」
雄二「断る。」
親しき仲にも礼儀ありだ。いくら幼なじみとはいえ・・・
翔子「……歯を食い縛って欲しい。」
どうしてそうなる!?
雄二「待て!今途中経過が色々飛んだぞ!?いきなりグーか!?グーで来る気か!?」
翔子「……見せてくれる?」
声質が脅しに変わった。
来るであろう攻撃に備えながら、言い訳をする。
雄二「あー・・・。
いや、それがだな、今日はたまたま家に忘れてぎゃぁああっ!目が、目がぁぁっ!」
翔子「……最初からこうするべきだった。」
結局いつもの目突きじゃねぇか!
雄二「歯を食い縛れってのは何だったんだ!フェイクだったのか畜生!」
翔子「……雄二。手をどけて。携帯電話が取れない。」
俺のズボンのポケットに手を伸ばして力ずくに携帯電を奪おうとする翔子に抵抗する。
雄二「わ、渡さねぇぞ!
やっと直って返ってきたばかりだってのに、お前なんかに奪われてたまるか!」
翔子「……抵抗するなら、ズボンとトランクスごと持っていく。」
恐ろしいことを口にされた。
雄二「トラ・・・っ!?百歩譲ってズボンはまだしも、トランクスは関係ないだろ!?
お前は下半身裸の状態で登校しろと言うのか!?」
頭は大丈夫か?
翔子「……男の子は裸にYシャツ一枚だけの格好が大好きってお義母さんから聞いた。」
あの母親っ(ギリッ)
雄二「違う!好きだからって自分がなりたいワケじゃねぇ!
そこはかなり大事なところだから間違えんな!」
翔子「……それに、私も雄二のその姿を見てみたい。」
雄二「お前は変態か!?」
大丈夫ってもんじゃなかった。
翔子「……変態じゃない。
幼なじみの私には、雄二の成長を確認する義務があるというだけ。」
確認されてたまるか!?
雄二「ええい、ベルトに手を伸ばすな!ズボンのホックを外そうとするな!
わかった!渡す!携帯電話を渡すから!」
仕方がない。白昼堂々裸Yシャツになるよりは携帯電話を犠牲にした方がマシだ。
翔子「…………そう。」
雄二「翔子。なぜそこで露骨にがっかりした顔をするんだ。」
シュンとした翔子。
翔子「……それじゃあ、携帯電話を見せて。」
雄二「やれやれ・・・。頼むから壊してくれるなよ、機械音痴。」
翔子「……努力する。」
雄二「そうしてくれ。」
翔子「……。」
無言で俺の携帯を操作する翔子。
雄二「どうだ?何も面白いものはないだろ?
わかったらおとなしく携帯を返し――だから待て!
なぜ俺のズボンに手をかける!?携帯はもう渡してあるだろ!?」
翔子「……私より、吉井の方がメールも着信も多い。」
雄二「あん?それがどうかしたのか?」
翔子「……つまり、雄二の浮気相手は吉井ということになる。」
どうしてそうなる。男だぞ。
雄二「いや、ならないだろ。」
否定はしたが、
翔子「……だから、お仕置き。」
・・・どうして俺の周りには性別の違いを些細なことと考える連中が多いんだ・・・。
雄二「いいか翔子、メールの内容をよく見てみろ、ただの遊びの連絡だろ?」
幼なじみの頭をなでながら言う。
翔子「……でも。」
それでも食い下がる翔子、そこに
『PiPiPiPiPi』と俺の携帯電話のメール着信音が鳴った。
雄二「っと、メールか。今のは俺の携帯だよな?
確認するから携帯を・・・いや、違うな。
携帯よりも先に、スリもビックリの手際で抜き取った俺のベルトを返すんだ。」
どうして!
翔子「……ダメ。返さない。」
雄二「は?何で――ってうぉぃっ!?今度は更にズボンを取る気なのか!?
ここは天下の往来だと――いやいや、わかった!俺も大人だ。
千歩譲ってズボンは渡してやってもいい。だからせめて、トランクスだけは――!」
本当はズボンも取られたくはないがトランクスを奪われるよりはマシと思い、
交渉したが、
翔子「……ダメ。」
結果は交渉決裂、最悪の事態だ。
雄二「お前は正気か!?自分が何をしているのかわかっているのか!?」
翔子「……浮気は、絶対に、許さない・・・!」
雄二「畜生!さっきのメールには何が書いてあったんだ!?」
慌ててその場を走って逃げる。もうこうなったら逃げ切るしかない。
明久→雄二
【雄二の家に泊めてもらえないかな。今夜はちょっと・・・帰りたくないんだ。】
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
第4問:化学
塩素の生成方法を答えなさい。また塩素の使用例をあげなさい。
《解答》
姫路瑞希の答え
『生成方法:食塩水を電気分解する。
使用例:水道水やプールの消毒』
教師のコメント
正解です。
生成方法には他に塩酸に二酸化マンガンを加えて加熱することで
塩素が発生させることができます。
このほか、発生した機体の収集は下方置換法で行います。
また、使用例には漂白剤や酸化剤などにも使われます。
覚えておいてください。
吉井明久の答え
『生成方法:塩に素を加える。
使用例: 裏切り者の粛清』
教師のコメント
あなたは化学をなめているんですか?
塩素はとても気体化しやすいという事を知っていますか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
明久「【雄二の家に泊めてもらえないかな。
今夜はちょっと・・・帰りたくないんだ。】っと。よし。送信送信。」
学校に向かいながら雄二にメールを打つ。
本当なら今日は僕の家でボクシングゲームの再戦をする予定だったけど、
昨日姉さんが帰ってきてしまったのでそうもいかない。
あんなおかしな姉が居るなんて隠しておきたいし、何より僕自身が今日は家に帰りたくない。
今の減点程度ならまだ期末試験で挽回できるけど、
家に居たら更に何かの理由で減点されでもしたら取り返しのつかないことになりそうだ。
僕の一人暮らしを守る為にも、ここは是が非でも雄二を組み込んで家に泊めてもらいたいところだ。
メールの送信完了を完了してから携帯電話をポケットにしまう。
学校に着いたら康介に相談して、当面の生活費を貸してもらおう。
そのままのんびりと学校に続く坂道をのんびりと登っていると、
背中の方から驚きの混じった声が聞こえてきた。
秀吉「んむ?明久?」
明久「あ、おはよう秀吉。」
秀吉「おはようじゃ。」
・・・僕を観察するように見つめてくる。なんだろう。
明久「?どうしたの秀吉?僕の顔をじっと見て。」
秀吉「いや、なんというか・・・。明久よ。
今朝のお主はいつもと何かが違うような気がするのじゃが・・・?」
明久「ぅえ!?き、気のせいじゃないかな?何も変わったことなんて無いよ?」
秀吉の探るような視線から目を逸らす。早速何かバレた!?
でも、あの破天荒な姉の存在だけは何としても隠し通したい。
たとえ秀吉に嘘をついてでも!
・・・胸が痛い。
秀吉が僕を上から下までじっくり観察して・・・というか恥ずかしい・・・
秀吉「ふむ。」
明久「な、なにかな秀吉。そんなに観られると恥ずかしいんだけど・・・。」
秀吉「な、なんじゃ!ワシは決してそんなつもりではないのじゃ!」
明久「そんな、秀吉!」
秀吉「どっちなんじゃ!」
「ちっ、朝からいちゃつきやがって!」
「破ぜろ。」
「爆発しろ。」
・・・あれ?周りから今にも襲い掛かってきそうな殺気が感じられる。
明久「ごめん秀吉!僕は先に行くね。」
この殺伐とした空間から離脱だ。
秀吉「待つのじゃ、明久!
ううむ。撒かれた気がするのじゃ。」
ふう、流石に走って追いかけてくるような真似はしないみたいだけど、
教室が一緒なだけに後で追及される可能性がある。
何か言い訳を考えておかないとなぁ・・・。
息を弾ませて学校前の坂を上り切り、校舎内に入って上履きに履き替える。
そのまま階段を登って二‐Fの教室へ向かう。
いつものように教室の扉を開けると
下半身を体育用の短パンに着替え、上半身は制服のシャツという格好の悪友がいた。
コイツがこんな格好をしているということは・・・
明久「クール・・・、ビズ?」
雄二「下半身だけのクールビズがあるか!テメェが変なメール寄越したせいだ!」
さっきのメールの事かな?別に変なのには見えないけど・・・。
雄二「――その罪、死んで償えこのクソ野郎!」
明久「えぇぇっ!?どうしたのさ!一体何があったのさ!?」
雄二「黙れ!死ね!制服をよこせ!」
言っていることが全く分からない。
雄二は今朝、何を――
F「おい、知ってるか?坂本の話」
F「ああ。なんでも裸Yシャツで登校してきたらしいな」
F「まったく、流石としか言いようがないな・・・。
最近女装は見慣れてきたが、アレには度肝を抜かれたぜ・・・。」
聞こえてきたのは、クラスメイトの話し声。
明久「・・・。」
雄二「・・・。」
僕にはこういう時どんな言葉をかけていいかわからない。
明久「雄二・・・。何か辛いことがあるなら、相談に乗るからさ・・・。」
雄二「ち、違う!俺は自分から進んでそんな格好になったわけじゃない!
あと、トランクスは死守したからギリギリでセーフなはずだ!」
明久「うんうん。そうだね。
辛いことがあって、雄二の精神はギリギリのところまでいっちゃたんだよね・・・。」
雄二「だから違うと言ってるだろうが!
お前が送ってきたメールを翔子に見られたせいでズボンを奪われたんだボケ!」
頭に血が上っちゃっている雄二。言っていることが滅茶苦茶だ。
明久「何を言ってるのさ雄二。
いくら霧島さんでも、男からのメールくらいでそんなことをするわけないじゃないか。」
雄二「いや。正直、お前のメールはかなり際どい感じだったと思うぞ・・・。」
瑞希「際どいって、どんなメールだったんですか?」
突然現れたのは荒野の中に咲く一輪の花のような存在の姫路さんだ。
可愛らしい仕草や凶悪な胸部がとても眩しい。
明久「別にただの頼みごとのメールのはずだけど?」
雄二「ほほぅ。そう思うのなら、俺に送った文面を大きな声で読み上げてみろ。」
雄二にしてはやけにこだわるなあと思いつつ携帯を取り出す。
それは何かの罰ゲームに等しい。
「?別にいいけど?」
明久は疑問符を浮かべながらも、雄二の携帯の履歴を見る。
明久「えっと、それじゃ・・・ゴホンっ。
雄二の家に泊めてもらえないかな。
今夜はちょっと・・・帰りたくないんだ!」
ガラッ
明久が身の毛のよだつ台詞を言った瞬間、音をたてて教室の扉が開かれた。
美波「・・・。」
扉の向こうにいたのは、ポニーテールときれいな脚とペッタンコがトレードマークの美波だ。
美波「ウチにはアキの本心が全然わからないっ!」
明久「え!?何!?なんで美波は登場と同時に退場しているの!?」
看板を放り出して走り去って行った。
瑞希「な、なんてことを言うんですか明久君っ!
そうこうことはもっと、その・・・大人になってからですっ!」
姫路さんが顔を赤くしておかしなこと言っている。大人になっててどういう意味だろう?
○康介SIDE
秀吉「・・・おいて行かれたのじゃ・・・。」
見慣れた背中が前を歩いて居た。
康介「おはよう秀吉。」
秀吉「む、おはようじゃ。」
みゆき「おはよう。」
悠斗「よ、おはよう。」
さくら「おはようございます。」
エイミー「おはヨウございマス。」
秀吉「今日は珍しく大所帯じゃの。」
康介「ああ、今日は悠斗が早く起きてくれたからな。」
おかげで片付けが早く済んだ。
悠斗「それより何かあったのか?」
秀吉「うむ、実はじゃな明久が・・・《説明中》というわけでな。」
さくら「吉井君でもきちんとするときぐらいあると思いますよ。」
秀吉「じゃがな・・・。」
みゆき「問い詰めればいいんじゃない?」
悠斗「明久ならカマ掛ければポロリとこぼしそうだしな。」
エイミー「カツ丼デスか?」
それは刑事ドラマだ!
それから六人で登校して、
悠斗と さくら と分かれて俺と みゆき とエイミーと秀吉で教室に向かっていると、
美波「ウチにはアキの本心が全然わからないっ!」
島田が教室の前で悲鳴をあげ、顔を真っ赤にしてこちらに走って来た。
みゆき「どうし・・・。」
エイミー「凄い勢いデ走って行きマシタヨ。」
声をかけるまもなく走り去って行った。
島田の走って行った方を振り向きながら、
秀吉「なんじゃ、明久が何かやらかしたのかの。」
康介「大方そんなところだろうな。」
瑞希「な、なんてことを言うんですか明久君っ!
そうこうことはもっと、その・・・大人になってからですっ!」
今度は姫路の声が聞こえてきた。
やれやれ、朝から元気な事だ。
教室に入り、
秀吉「明久、お主はこんな時間から助平なことを言っておったのか?」
雄二「秀吉か。そうなんだ!
このバカは朝っぱらから公序良欲に反するような発言をしたんだ。」
明久「ち、違うよ!僕はそんなムッツリーニみたいな真似はしないよ!」
ムッツリーニ「……失礼な。」
後ろからムッとしたような呟き声が聞こえてきた。
振り返るとムッツリーニが立っていた。
エイミー「師匠、おはヨウございマス。」
ムッツリーニ「……おはよう。」
康介「おはよう、凄い荷物だな。」
両手には学校の鞄の他に大きな包みやら袋やらを提げていた。
エイミー「なンデスか?」
ムッツリーニ「……枕カバー。」
明久「枕カバー?そのわりには包みが大き過ぎない?」
みゆき「変な物じゃないんでしょうね?」
ムッツリーニ「……そ、そんなことはない。」
ブブンと首を振って否定するムッツリーニ。
怪しい。この否定のポーズは大抵何かを隠している時の物だ。
明久「ごめんムッツリーニ。ちょっと中身を見せてね。」
ムッツリーニ「……あ。」
荷物のせいで動きの鈍いムッツリーニから明久が包みを一つ奪い取り、ガバッと鞄を開けた。
中から出てきたのは、等身大の明久がプリントされた白い布(セーラー服着用)
みゆき「・・・吉井のセーラー服・・・これって合成?」
ムッツリーニ「……違う。それは・・・なんでもない。」
なるほど、これはイタイな。
明久「・・・ムッツリーニ・・・。何コレ?」
ムッツリーニ「……ただの抱き枕カバー。」
明久「ただの、じゃないっ!
枕カバーと抱き枕カバーには大きな隔たりが
あるということをよく覚えておくんだ!
っていうかどうして僕の写真なの!?」
それは需要があるからだろう・・・。
ムッツリーニ「……世の中には、マニアというものがいる。」
明久「何を言っているのさ!
僕の抱き枕カバーなんかを欲しがる人なんてどこにもいないよ!
とにかく、その抱き枕カバーはあとで没収するからね!
作った分は全部回収して、写真を秀吉に置き換えて持ってきてよ・・・。」
秀吉「明久よ、ドサクサに紛れてワシの抱き枕を作れでない。」
瑞希「そうですよ明久君。人の物を勝手に取って、しかも改造するなんてダメです。
(・・・一枚は私の分なんですし・・・)。」
まったく、ムッツリーニがやけに学生に似つかわしくない
高価な機材を持っていると思ったら、こうやって資金を調達していたのか。
秀吉「ところで、先ほどのお主らの話は何じゃったのかの?」
明久「あ。えっと、何の話をしてたっけ?」
康介「お前が変態だという話だ。」
明久「な、僕のどこが変態なんだよ!一番おかしいのは雄二じゃないか!
裸Yシャツで登校してくるとかさ!」
雄二「俺はお前にトランクス姿での登校を強要されたんだがな。」
秀吉「明久、お主・・・。」
みゆき「え、ええっと・・・。」
康介「ま、なんだ明久・・・俺は友達だからな。」
エイミー「変わッタ趣味デス。」
ムッツリーニ「……近づくな。」
瑞希「吉井君、やっぱり・・・。」
みんな一歩、そして一歩、また一歩下がる。
明久「みんな!どうして離れていくのさ!誤解だから!
雄二っ!わざと誤解を招くような言い方しないでよ!」
明久がそう言うと雄二は溜息をついて、
雄二「まぁ、それは冗談だが・・・。
要するに、明久が送ってきたメールのせいで翔子が何かを勘ぐって、
それが原因で俺が酷い目に遭ったって話だ。」
秀吉「メール?それは今朝の明久の様子がおかしいのと何か関係があるのかの?」
康介「そういえばさっきそんな事を行っていたな。」
みゆき「そうね、よく見てみると今日は顔色が良いわね。寝ぐせもないし。」
エイミー「制服がパリッとしてカッコいいです!」
明久「そ、そうかな・・・。」
ムッとしているムッツリーニを横目にして
康介「ああ、確かにおかしい。
顔色がいいのはわからなくもないが、制服がきちんとしているのは妙だ。」
ムッツリーニ「……明久らしくない。」
雄二「ああ、それにいつもはギリギリなのに早く来るなんてな。」
瑞希「そうですね。」
明久「た、たまたまだよ。たまたま。
そ、それより、そろそろチャイムが鳴るよ!
早く席に戻らないと!それじゃあ。」
額に汗を浮かべながら逃げていく明久
エイミー「怪シイデスネ。」
ムッツリーニ「……(コクリ)」
みゆき「何かかくしている。」
秀吉「ふむ。」
そう考えているとチャイムが鳴り、福原先生が入って来た。