「おーい、お二人さん! そろそろスイカ割りを始めるぞー!」
浜辺の方から声がして振り返ると、良一と藍が俺たちを呼んでいた。
「少し二人きりにしてあげただけで、もういちゃらぶですか。油断も隙もありませんね」
「いや、これはその、不可抗力というか……いちゃらぶとは違うんだぞ」
「そ、そうそう。イチャラブじゃないのよー」
「はいはい。そういうことにしておいてあげますよ」
藍はため息をつきながらきびすを返す。俺たちも浜に上がってその後に続くと、テントの近くにスイカを持ったしろはが立っていた。
「しろは、来てくれたんだな」
「……藍に誘われたから、仕方なくだし。逆らうと、後が怖いし」
しろははちらっと藍の方を見てそう言った後、持っていたスイカを砂の上に置く。
「スイカ割りするんだよね。置き場所、ここでいい?」
「いいけど……しろは、その水着ってもしかして……」
「い、言わないで。普段海になんて入らないから、水着持ってなかっただけだし。他意はないから」
顔を赤くするしろはは、まさかのスクール水着だった。学生時代のやつ、まだ持ってたんだ。正直、サイズが合ってない気もするけど。
「藍が水着で来いとか言うから、着ないわけにはいかなかったし。逆らうと後が怖いし」
同じ事を二回言っていた。なんか可哀想になってきたし、あまり問い詰めないであげよう。
「ところでしろはちゃん、その水着、お胸のサイズが合っていない気がするんですが。また大きくなりました?」
「ど、どすこぃ……」
そして俺も気になっていたところを、藍がズバッと聞いてしまっていた。しろはは小さく捨て台詞を残すと、顔をより一層赤くして紬たちの方へ走って行ってしまった。
「蒼ちゃん、今度しろはちゃん用の水着も買いに行きましょう。とびきり派手なのを」
「あー、そうねー。そのうちねー」
どことなく嬉しそうな藍とは裏腹に、蒼はあまり乗り気じゃなさそうだ。派手な水着を着たしろは。全然イメージできない。
「むぎーーー!」
「あー、紬、おしかったわよー!」
……そして夏の浜辺の定番。スイカ割りが始まった。
一番手の良一が豪快に砂を打ち付けた後、二番手の紬の一撃は見事にスイカに跳ね返されていた。さすがに腕力が足りなかったみたいだ。
「次は加納君ね」
「おまかせください! 心眼で見事に撃ち抜いてみせます!」
うなだれて戻ってきた紬に続いて、天善が目隠しをしてスイカの前に立つ。その手にはなぜかラケットとピンポン玉が握られていた。
「ちょれぇぇぇい!」
持つものが違うんじゃないかと思っていたら、次の瞬間には強烈なスマッシュを放っていた。
「いってーーー!?」
……しかし、天善の放ったピンポン玉はスイカではなく、良一の乳頭にぶつかっていた。あれは痛そうだ。
「風の影響を受けたみたいですね。天善ちゃん、惜しかったですよ」
「さて、次は私の番だな。天善、目隠しを貸してくれ」
そう言いながら、続いてのみきが目隠しを受け取っていた。というか、誰か良一の心配をしてあげて。
「……ハイドログラディエーター改・ジェノサイドモード! 一極集中弾! ファイア!」
そんなことを考えているうちに、目隠しをしたのみきはハイドログラディエーター改を構えて、見事にスイカを撃ち抜く。
「おおー、ノミキさん、すごいです!」
「えっへん。そんなにすごくないぞ」
のみきはその大きな胸を張った後、謙遜していた。スイカが一撃でバラバラになってしまったし、色々とすごいと思うけど。
……見事に粉砕されたスイカを皆で食べた後は、ビーチバレーをすることになった。
「いくわよ! おっぱいサーブ!」
公平なくじ引きの結果、俺は静久とペアになった。静久は運動神経も良くて頼りになるんだけど、その……サーブやレシーブの度に揺れる大きなものが気になって、どうしても試合に集中できない。
「蒼ちゃん、羽依里さんの目を覚ましてあげましょう」
「そーねー。ここは顔面狙いよねー」
……一試合目。何故か俺は空門姉妹から集中砲火を食らっていた。あの二人は揃って運動神経いし、コンビネーションも完璧だ。両方に狙われたらさすがに対処しきれなかった。
「……よし。ここは、羽依里狙いだな」
「ああ。異論はない」
「よーし、ツムツム! 一緒にズクズクを取り返そう!」
「そですね!」
……二試合目に三試合目。良一とペアになった天善も、紬とペアになった鴎も、皆が皆俺を集中攻撃してくる。どうしてだろう。俺、何も悪いことしてないのに。
……たっぷりとビーチバレーで遊んだあとは、皆で手分けしてバーベキューの準備をした。
男連中でバーベキューコンロを用意して、イスやテーブルをセッティングする間に、女性陣が食材の下ごしらえをしてくれる。藍の言う通り、人数が多いと役割分担ができて、作業効率もいい。
「それじゃ、俺はちょっとのみきを手伝ってくる。あいつの包丁さばき、どうも危なっかしいからな」
あらかた俺たちの準備が終わった後、良一はそう言って女性陣の方に行ってしまった。ここは俺も蒼の手伝いに行った方がいいかもしれない。
「天善、しばらく火の番を任せていいか?」
「ああ、構わない。こうして火おこしのために団扇を振っていると、空気抵抗があって良いトレーニングになるからな。ふーーーっ! ふーーーっ!」
天善はいつの間にか、ラケットを団扇に持ち替えていた。コンロには強い風が送られているし、トレーニングになるなら一石二鳥だ。
「それじゃ、よろしくな」
どことなく生き生きとしている天善に火の番を任せて、俺は蒼の方へと向かった。
「蒼、何か手伝えることがないか?」
「んー、今のところは大丈夫よー」
調理用のテントの下で、しろはと一緒に作業をしていた蒼に話しかけると、そんな返事が返ってきた。
思えば、良一と違って俺は料理が得意な方じゃない。やってきたのはいいものの、大したことはできなさそうだ。
「……ところで、あなたは料理できるの?」
その時、野菜を切っていたしろはが手元から視線を逸らさずにそう聞いてきた。
「一応、魚は捌けるよ。船で賄(まかない)を作らないといけない時もあるしさ」
「じゃあ、お肉や野菜に下味をつけてくれる?」
「いや、それは自信ない。賄の味付けとか、ワサビと醤油だけだったりするしさ」
「……あれだけ教えてあげてるのに。全然生かせてないじゃない」
今度は横目で睨まれた。確かに取引の度に色々教えてもらってたけど。
「え、料理を教え合うとか、二人ってそんな関係なの!?」
「「ち、違うし!」」
俺たちの会話で何か勘違いをしたのか、蒼が目を白黒させていた。思わず否定すると、しろはと声がハモってしまった。
「蒼、この人と私はただの仕事上の付き合いだから安心して。二人の恋路の邪魔はしないから」
しろはは澄ました顔でそう言ってたけど、珍しくイカのスミ袋を破っていた。どうやら、内心動揺しているみたいだ。
「しろはちゃん、塩コショウ余ってないですか」
その時、別のテントから藍がやって、空っぽになった瓶を見せながらそう聞いてきた。
「あ、私たちの方ももうないよ。藍たちもないの?」
「元々少なかったんですが、お肉の味付けに予想以上に使っちゃいまして。野菜の味付けに使おうと思ったら、空っぽになってたんです」
藍は腰に手を当てて不満顔だ。確かに、このままじゃ野菜が味気なくなってしまう。素材そのものの味もいいかもだけど、最低塩コショウは欲しい。
「しょーがないわねー。羽依里、ちょっと新しいのを家から取ってきてくれない? 場所、識ってるでしょ?」
「え?」
……そうだった。キャンプをしているのは浜辺。空門家からは徒歩十分程しか離れていない。
「わかった。それじゃ、ひとっ走り行ってくるよ。他に必要なものはないか?」
「あ。念のために紙皿と割り箸の予備をお願いできる? これも、場所識ってるわよね?」
「ああ、以前と変わって無ければ大丈夫だよ」
俺はそう返事をして、空門家へと向かった。蒼の記憶から調味料の場所は識ってるし。こうやってひとっ走りで足りないものを補充できるのも、デイキャンプの良い所かもしれない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……皆で準備しただけあって、バーベキューは楽しかった。
夏は日が長いと言うけど、食事を楽しみながら皆と話をしているうちに、いつの間にか日は暮れていった。
「……おお、すごい星の数だな」
夜の帳が下り、皆で波音を聞きながら星空を見上げる。調理に使った火も良い感じに小さくなっていて、星明かりを邪魔していない。
「えーっと、あの高い位置の星がベガですね。それから少し離れたあの星がアルタイルです。いわゆる、織姫と彦星ですね」
「おおー、タカハラさんとアオさんですね!」
「は? 紬ちゃん、その例えはやめてください」
俺から少し離れたところで、紬と楽しそうに喋っていた藍を盗み見る。なんだかんだで、藍が一番楽しんでいる気がする。夏休みっぽい事したかったのって、もしかして藍なんじゃないかな。
「夏の夜空も良いが、冬の夜空も見事なんだぞ。私は鉄塔からよく見る」
そんなことを考えていたら、隣に座っていたのみきがそう言っていた。夜も鉄塔に登る彼女は、星空を目にする機会も多いんだろう。
「さすが、のみきは島の良い所を知ってるんだな」
「ああ。星空だけじゃない。春には夕日に染まる桜が見えるスポットもあるし、秋の紅葉で真っ赤に染まった山も見事なんだ。この島は一年を通じて、常に美しい姿を見せてくれるんだぞ」
のみきは嬉しそうにそう言っていた。秋の紅葉。俺も今から楽しみだ。
「よーし! 良い感じに暗くなったし、そろそろお待ちかねの花火大会だよ!」
……その時、鴎がそう言って立ち上がった。続けてスーツケースを開けると、中には沢山の花火やロウソク、チャッカリマンや小さなバケツまで入っていた。どれだけ用意周到なんだ。
「さすが鴎、すごい数ねー」
「駄菓子屋だけじゃなく、本土のお店でも買ってきたから! 定番から今年の新作まで、なんでもござれだよ!」
鴎は喋りながらもバケツに海水をすくい、消火用の水を用意する。続いていくつかのロウソクを地面に立てて、火をつける。すごく手慣れていた。
「……それでは、僭越ながら一発目。いきます」
そして鴎はわざとらしく咳払いをした後、打ち上げ花火に火をつけて、素早く地面に置く。
……直後、夜空に一輪の花が咲いた。
「おおー、綺麗です!」
「でしょー。ほらほら、皆も好きな花火を選んで!」
俺たちもそんな鴎に勧められるがまま、適当な花火を手に取って火をつける。浜辺のあちこちで、色とりどりの花が咲き始めた。
……それからは各々浜辺に散って、花火を楽しんだ。
「よーし、いっくぞー!」
「来い、良一!」
良一と天善は波打ち際でロケット花火を打ち合っていた。いや、正確には良一が投げたロケット花火を、天善がラケットで撃ち返していた。
「あれ、危なくないのかな」
「ああ、もし裸に引火したら早急に消火するから大丈夫だぞ」
のみきはいつの間にかハイドログラディエーター改を構えていた。のみきに任せていたら安心かな。
「蒼ちゃん、火を分けてもらえますか」
「いいわよー。ほい」
そんな二人から少し離れた場所では、藍が蒼に花火の火を分けてもらっていた。そういえばロウソクの所に行くのが面倒な時、ああやって火をもらってたよな。懐かしい。
「えへへ、蒼ちゃんとくっつきましたよ」
なんか凄い嬉しそうだ。これは邪魔しないであげよう。
「紬、これはすごいわよ!」
「おおー、本当です! さすが新作花火です!」
仲睦まじく花火をする姉妹を眺めていたら、今度は反対方向から静久と紬の声がした。
「まるでおっぱいみたいな花火です!」
え、おっぱいみたいな花火!? ちょっと見てみたいんだけど。
慌てて振り向くけど、僅かな残り火だけが見えた。ちょうど終わってしまったみたいだ。残念。
「それじゃ、パラシュート花火! いくよー!」
鴎がそう言った直後、乾いた音とともに花火が打ち上げられた。少しの間を置いて、ふわふわと落下傘が降りてくるのが見えた。
「あれを一番に捕まえた人は、あおちゃんとデート!」
……次の瞬間、鴎がなんか言っていた。何を勝手なことを。蒼とデートしていいのは俺だけだぞ!
というわけで、落ちて来る落下傘を全力で追いかけた。よし、もう少し。
「わぎゅ!?」
「うわっ!?」
そして上ばっかり見ていたら、誰かとぶつかった。慌てて抱き留めると、藍だった。
「うう、シティーハンターの胸に飛び込んでしまいました」
ちょうど俺の胸板のところに鼻をぶつけたらしい藍が鼻を押さえていた。
「え、シティーハンターって何? ナゲットワイルド?」
鴎、そこで反応しないで。せっかく忘れてたのに、思い出させないで。
……結局、落下傘は誰も取れずに海へ落ちてしまい、蒼とのデートの件は文字通りお流れになってしまった。
そして、小一時間続いた花火大会のラストを飾るのは線香花火だった。決して派手さはないんだけど、不思議と皆がこれを選んだ。
「しかしこれ、どうして線香花火って言うんだろうな」
「昔はその名の通り、香炉に立てて楽しむものだったみたいだしねー」
俺の向かいで線香花火を持つ蒼がそう答えてくれた。香炉? 仏壇にある、灰の入ったあれのことかな。
「他にも、それぞれの状態によって名前がついてるのよー。最初の玉が蕾、その次が牡丹……みたいにね」
「さすが詳しいな。それも七影蝶の知識なのか?」
「そうよー。といっても、だいぶ忘れちゃったんだけどね」
「ああ、そう言えばそんなこと言ってたな」
「以前はほら、風の匂いで天気がわかったり、太陽の位置で時間がわかったりしたんだけどね」
「え、なにそれ。超能力?」
「違うわよ。七影蝶の記憶って現代の人ばかりじゃないから。大昔の人なら、それくらい当たり前に知ってたのかもね」
そういえば以前、時計も見ずに時間を言い当てたりしてたっけ。あれって、七影蝶の知識だったんだ。
「……さて、そろそろお楽しみの時間だな」
花火の片付けも終わり、そろそろ解散かな……なんて思っていると、良一が含みを持たせながらそう言う。お楽しみ?
「デイキャンプの最後の仕上げ。それは……肝試し大会だ」
良一は急におどろおどろしい声を出しながら、どこから取り出したのか懐中電灯で自分の顔を下から照らしていた。
「え、肝試しって?」
これは予定に入ってなかった気もするけど、藍が反対しないところからして既定路線みたいだ。
「それじゃ、ここからは紬に説明してもらおう」
「わかりました!」
まるでマイクのごとく、良一から懐中電灯を受け取った紬は、何故か同じように顔を照らしながら話を続ける。ところで、なんで紬が司会なんだろう。珍しいこともあるもんだ。
「それでは、肝試しを始める前に、まずはペアを作りましょう! この中に、同じ番号が書いてある人がペアです!」
紬はそう言って、小さく折られた紙の束を取り出した。ビーチバレーの時と同じく、公平な手段でペアを決めるらしい。
正直、怖いのは苦手だけど、今更逃げられるような状況じゃないし。俺はその場の流れに任せて、皆と一緒にくじを引いた。
「なんだ、のみきとかよー」
「ほ、本当だな。いつも一緒にいるのに、またお前とか。腐れ縁だな」
一番にペアが確定した良一とのみきは、そう言いながら笑顔だった。まんざらでもない感じだし、願ったり叶ったりなんだろう。さすがこの二人の絆は強い。
……くそ、負けるもんか。
俺も勇んでくじを開封する。書かれていた数字は3。蒼と同じだった。
「あ、あははー。あたしたちも一緒ねー」
「そ、そうだな。ははは」
わざとらしい笑顔を浮かべながら、俺は心の中でガッツポーズをしていた。どうだ。俺と蒼の絆だって負けてないぞ。
「むぅ……蒼ちゃんとペアになるはずだったのに」
一方で、藍は鴎と同じ番号のくじを手にしながら不満顔だった。そんな中、残り物には福があるというか、最後のくじを開いた天善は静久とのペアになっていた。天善、良かったな。
「……あれ? 数が合わなくない?」
その時、ペアの数を確認していた蒼がそう口にする。言われてみれば、この場にいるのは全部で9人だった。いつの間にか1人減ってる。これじゃ、紬が余ってしまう。
「そいえば、シロハさんはお役目があると言って帰ってきました」
不思議に思っていると、紬があっけらかんとそう言っていた。バーベキューの時はいたはずなのに、いつの間に帰ってしまったんだろう。
「そーいえば夏鳥の儀、堀田ちゃんの演舞指導はしろはがするって言ってたわね」
あ、やっぱりそう言うのあるんだ。ということは、しろはは食堂や演舞指導で忙しい中、わざわざ時間を作ってデイキャンプきてくれたのか。後で改めてお礼を言っておかないと。
「でも、それだとツムツムが余っちゃってるよね?」
「今回、わたしは司会進行に徹します! 誰かがやらないといけませんので!」
紬はそう言って胸を叩く。できたら静久と一緒に肝試ししたかっただろうに、頭が下がる思いだった。
「それでは、ルール説明をします!」
でも当の本人は気にしている様子もなく、笑顔でそう告げる。
「浜辺を出てまっすぐ行くと、一本道に差し掛かります! すると、そこの右側に古いお屋敷があります!」
紬は懐中電灯で照らしながら、砂地に簡単な地図を描いて説明してくれる。言われてみれば、蔦に覆われた建物らしきものがあった気がする。これまで気に留めたことなかったけど。
「ペアでそこに向かいまして、家の中に置かれたパリングルスを探し出してください!」
「え、パリングルス?」
「そです! 赤色、青色、緑色、黄色のパリングルスをそれぞれ置いてますので、好きな色のパリングルスをひとつ、持って帰ってきてください!」
すごく単純なルールだった。肝試しって言っても、途中に脅かし役の人が隠れていたりするわけじゃなさそうだし、古くて不気味な建物の中を散策するのが主になりそうだ。
「それでは、さっそく参りましょう! 肝試し、スタートです!」
そう言って、紬が懐中電灯を良一とのみきのペアに手渡す。それを合図とするように、二人はぴったりとくっついて暗闇へと消えていった。
まったく、ここぞとばかりに見せつけてくれるなぁ。
「……せっかくだし、何か怖い話でもして場を盛り上げようか?」
そして、のみきたちの懐中電灯の明かりが見えなくなると同時に、鴎がそんなことを言っていた。やめて。そんなことしても盛り上がらないから。
「あのね。これは私が旅行で東北地方の古びた温泉旅館に泊まった時の話なんだけど……!」
俺の願いもむなしく、鴎はおどろおどろしい声で怪談話を始めてしまった。うわぁ、聞きたくない。
「川の近くにあるそのお宿はトイレが離れでね。夜中にお手洗いに行きたくなった私は、長い長い渡り廊下をスーツケースを引いて歩いていたの」
聞きたくないはずなのに、なぜか聞き耳を立ててしまう。悲しいかな。オカルト好きの性だった。
「その渡り廊下のすぐ横には、併行するように大きな川が流れていてね。昼間見ると綺麗なんだけど、夜は不気味なの」
暗闇の中、その情景が頭に浮かんでくる。時間は丑三つ時。古びた渡り廊下とトイレ。聞こえてくる音といえば、川の流れる音だけ。嫌が応にも不気味だった。
「私が無事用を足して、さあ帰ろうと思ったその時! 窓の外に、川を流されている河童の姿が!」
「……ちょっと待って。それってつまり、河童の川流れってこと?」
「そう! 怖くない?」
「ごめん。全然」
「えー、とっておきの話だったのに」
思わずツッコんでしまった。だって、あまりに想像した結果と違ったから。
「オチで笑わせてどうするんだ。そういう時は尻切れトンボでもいいから、トイレの個室の上から河童が覗いてたとかだな」
「だって、私が見たのは流される河童だったし! 嘘をついてまで怖がらせるの、良くないよね?」
「そ、それはそうだけど……」
というか普通、怪談話ってのは兄弟の友人から聞いた話とか、出所をあいまいにして話すものなんだけど。鴎はまさかの体験談だった。
「じゃあ、羽依里は何か怖い話、知らない?」
「え?」
「オカルト話、好きなんだよね?」
「……よし。それじゃあ話してやろう。ブラッディ・マリーって話だ」
「ほ、ほう」
「これは、アメリカの都市伝説なんだけどさ……」
……俺は明らかに怖気づいている鴎を気にすることなく、お返しとばかりに怪談話を始めた。
内容としては、真夜中に鏡の前に立ってその名前を三回呼ぶと、血まみれの女の幽霊が鏡の中に現れるといった類のものだ。どうだ。この話を聞いたら怖くて夜中に鏡を見れないぞ。
「……という話だよ」
「うひー」
「あ、あははー。よくある都市伝説よねー」
「むぎゅぎゅ……」
俺が話し終えると、鴎たちは青ざめた顔をしていた。真っ暗だし、先の俺のようにイメージが浮かんだんだろう。
肝試しの前に怖がらせるのは可哀想だけど、話を振ったのは鴎だ。恨むなら、鴎を恨んでくれよ。
「きっとその幽霊、おっぱいまで血まみれなのね。それは怖いわ」
そんな中、話を聞いた静久はそう言って手を合わせていた。相変わらず、主観はおっぱいらしい。
……そんなこんなしているうちに、のみきと良一が戻ってきた。手には赤いパリングルスを持っていて、どことなく楽しそうに見える。
「それじゃ、行ってくるわね」
そんな二人から懐中電灯を受け取って、今度は静久と天善が廃屋へと向かっていった。
天善、こういう時は吊り橋効果が期待できるかもしれないから、頑張るんだぞ。さっきの静久の反応を見ていたら、望み薄かもしれないけどさ。
「……まったくもう。マリーさんより河童の方が恐いよねぇ。むしゃむしゃ」
……ちなみに、鴎は自身の怪談話が不発に終わったのが悔しかったのか、のみきからパリングルスを分けてもらってやけ食いしていた。
「ねぇ、あたしたちにも少しもらえる―?」
その食べっぷりがあまりにも気持ち良かったので、俺たちも少し分けてもらって、一緒に食べることにした。安定のうすしお味で美味しかった。
……その赤いパリングルスがなくなる頃、静久たちが戻ってきた。黄色のパリングルスを手にしていたけど、この二人は特に進展はなかったみたいだ。
「それじゃあいちゃん、冒険に出発しよう!」
「そ、そうですね。お手柔らかにお願いします」
「お屋敷までの道中、今度は私が沖縄を旅した時の恐怖体験について話してあげるね!」
「やめてください! 聞きたくないです!」
リベンジのつもりなのか、鴎は去り際、藍にそんなことを提案していた。
一方の藍は耳を押さえて、本気で怖がっていた。以前、心霊番組をすごく怖そうに見ていたし、大丈夫かな。
「たっだいまー」
……それから15分ほどして、緑色のパリングルスを手にした鴎が姿を現す。いよいよ俺と蒼の番だ。
「それでは、ゴブウンをお祈りしています!」
紬のそんな声に見送られて、鴎から懐中電灯を受け取った俺たちは夜の田舎道へと繰り出した。結構暗いし、足元には気を付けないと。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「うあー、なかなかに暗いわねー」
「そ、そうだな」
懐中電灯の明かりを頼りに、俺たちは田舎道を歩く。さっきまでは皆が一緒にいたからなんともなかったけど、二人だけになると途端に恐怖心が襲ってくる。
「なんか冷えてきたし、ちゃちゃっと終わらせましょー」
得体のしれない恐怖を感じている俺に対して、蒼はけろっとしていた。さすが、散々夜の山を一人で歩いていただけある。
「普段から歩き慣れてる道のはずだけど、夜だと不気味だよな」
「そうねー。ほらあそこの木、人がぶら下がってる風に見えない?」
「ひぇっ」
悪戯っぽくそう言われ、俺は思わず蒼に抱きついてしまう。
「ちょっと羽依里! 抱きつかないで! 歩きにくいでしょ!」
「ご、ごめん。急に怖くなって」
「こーいうのって普通、女の子の方が怖がるもんじゃないの?」
「オカルト好きだからさ、変に想像力が働いちゃって」
「あれだけ一緒に夜の山に入ったのに、今更ねー。男の子なんだから、しっかりしなさい!」
「うぅ、れいげんいやちこなれ……」
俺は頭に浮かんだ謎の呪文を口にしつつ、しっかりと蒼と手を繋いで先を急いだのだった。
「……ついた。ここだな」
道なりにしばらく進むと、右側に紬の言う廃屋が見えてきた。
おっかなびっくり近づいてみると、庭にも建物にも植物が生い茂っていて、人が住まなくなって長いということは容易に想像できた。
「そういえばこの家、ずっと昔からここにあるのよねー」
「さすがに入った行ったことないよな?」
「ないわねー。男の子たちなら、探検とか言って入ったこともあるかもだけど」
俺は蒼とそんな会話をしながら、手にした懐中電灯で周囲を照らしてみる。玄関は塞がれていた。
そして、うっそうとした草藪の一角が押し倒されていて、獣道のようになっているのを見つけた。
「もしかして皆、この道を通って建物の中に入ったのかな」
「たぶんそうじゃない? 最初の良一たちが倒して入ったのか、元から道があったのかはわかんないけどねー」
なんにしても、道らしい道があるならそれに越したことはない。
「それじゃ、行こう」
俺は懐中電灯と蒼の手を握りなおし、意を決してその道を進む。
元は庭だったらしい場所を横切ると、人がやっと通れるくらいの大きさの窓が見えてきた。そのガラスは綺麗になくなっていたけど、こちらからどうぞと言わんばかりに半開きになっている。
「ここから入って良いんだろうな。俺が先に入るよ」
金具がすっかり錆びついた窓を完全に開け放ってから、恐る恐る身体を滑り込ませる。さすがに埃っぽいけど、外見の割に建物内部はしっかりとしている。床とかも抜けてないし、ひとまず安全そうだ。
「大丈夫そう―?」
「ああ。大丈夫そうだ。どれ、手を貸してやろう」
「ありがとねー」
俺は室内の安全を確認した後、蒼の手を取って室内へ誘う。改めて懐中電灯に照らし出された室内は、どことなく女の子の部屋みたいだった。
「なんか変わった建物ねー。どうか洋館っぽいし」
蒼も興味津々といった様子で室内を見渡していた。俺も蒼が見やすいように、適当に室内を懐中電灯で照らす。
調度品や本棚も埃をかぶったままで、壁の方にはランプのようなものまで見える。この建物、いつ頃建てられたんだろう。
「あ、皆の足跡があるわよー」
その時、蒼が床を指差す。そっちに光を向けると、埃の積もった床に無数の足跡がくっきりと残っていた。
「ははぁ。これを辿れば、すぐにパリングルスも見つかりそうだな」
「そうねー。せっかくだし、あたしが探してみてもいい? 夜の森と違ってこういう場所って新鮮だから、ちょっと冒険してみたいのよねー」
「鴎みたいなこと言うのな。ほれ」
光源の位置の関係で顔は見えなかったけど、声からして笑ってる気がした。俺はそんな蒼に懐中電灯を手渡す。
「床の一部が弱くなってたりするかもしれないから、慎重に進むんだぞ」
「わかってるわよー」
俺から明かりを受け取った蒼は、どことなく嬉しそうに奥へと進んでいった。ちょっと。置いていかないで。
「あいてっ」
慌ててその後を追おうとしたら、壁際に置かれていた机に体が引っかかった。急に明かりが遠くなったもんだから、周りが良く見えなかったみたいだ。
転倒こそしなかったけど、思わずその机を手で押さえる。
「……あれ、なんだこれ?」
その拍子に、机上に置かれた物体に手が触れた。何の気なしに手に取ると、程よい重さ。どうやら本みたいだ。
なんとなく気になったので、俺はその本を持ったまま窓際へ移動する。そこは僅かながらも星明かりが差し込んでいて、なんとか判読できそうだ。
「えーっと……」
積もっていた埃を軽く払い、表紙を見る。かなり年季が入っているけど、日記帳かな。
「ツ……ギ……ェン……」
埃は落としたけど、その表紙はだいぶ擦れてしまっていた。カタカナで名前が書いてあるっぽいけど、ほとんど読めない。
「あれ、どうしたのー?」
その時、俺がついてきていないのに気づいたのか、蒼が不思議そうな声を発しながら戻ってきた。
「ごめんごめん。ちょっと気になるものがあってさ」
「羽依里、こーいう場所にある品物には手を触れちゃいけないのよ? オカルト好きなのに、そんなことも知らないの?」
……言われてみればそうだ。肝試しに入った廃墟から貴金属を持ち帰って呪われる。よく聞く話だった。危ない危ない。
俺は開きかけた本を元の位置に戻して手を合わせると、懐中電灯を持った蒼と一緒に奥へ進んでみることにした。
……それからは皆の残した足跡を辿るようにして、建物の中を歩き回る。どうやら、先に来た皆もパリングルスを探して建物内を彷徨ったみたいだ。
「こっちの部屋とか、どーなってるのかしらねー」
どことなく声が弾んでる蒼について、別の部屋に行ってみる。そこは和室だった。ひとつ前の部屋は洋室だった気がするし、和洋折衷というか、本当に変わった建物だ。
……しばらく散策したのち、建物の一番奥と思われる部屋に到着した。そこは畳の敷かれた広めの部屋で、隅の方に洋風の立派な鏡台が鎮座していた。
「あ、あったわよー」
蒼が嬉しそうな声を出しながら、懐中電灯の光をその鏡台へと向ける。すると、その大きな鏡の前に青色のパリングルスが一つだけ置かれていた。
「おお。これを持って帰ればいいんだな。楽勝じゃないか」
俺は安堵しながらパリングルスを手に取る。確かに建物自体は少し不気味だったけど、それだけだった。何事もなく終わりそう……。
「……え?」
その時、目の前に少女の姿が見えた。まさか、この家で不慮の死を遂げた少女の幽霊!?
「で、出た―――!?」
一瞬でそんな妄想が生まれ、俺は鏡台の前から飛びのき、畳の上にしりもちをつく。
「え、なにが出たの?」
「あ、あそこ。ほら、鏡……!」
俺は恐怖に必死に耐えながら、もう一度鏡を見る。そこには、やはり少女の姿が……!
「……って、これ、鏡じゃない」
「へっ?」
蒼にそう言われて、少しだけ冷静になって鏡を見つめる。そこには蒼が映っていた。
「な、なんだぁ……」
どうやら勘違いらしい。全く鏡め、驚かせやがって。
俺は立ち上がって、その鏡を見やる。蒼が映っている。何か違和感があるけど。
「フフフ……」
……その時、鏡の中の蒼が笑った。俺の隣にいる蒼は笑ってないのに。え、嘘だろ。
……まさか、ブラッディ・マリー!?
俺は再び畳の上にしりもちをつく。もしかして、浜辺で怪談話をしたから寄ってきてしまったのか!? あれって、アメリカの都市伝説だけど!?
「う、うわああーーー!」
俺は全力で叫ぶと、四つん這いになりながらその部屋を飛び出した。
……直後、目の前に一匹の七影蝶が飛んできた。
「……え?」
どうしてこんなところに七影蝶が?
そう思ったのもつかの間、勢いがついた身体は止まらず。一瞬の間をおいて、その七影蝶は俺の鼻先に触れる。
「あ……」
……次の瞬間、俺の視界が白く染まる。
ーーDas ist mein neues Haus.
ーーVerstehen Sie sich mit allen auf der Insel.
……Ja. Vater.
――今日から、島の学校に通うことになった。
ーー最初は、なんて声をかければいいでしょう?
……泣く子はいねがー?
……外しました。泣きたいのはわたしです。
ーーあれ、ヌイグルミが好きなのですか?
ーーよろしくお願いします。カトーさん。
……女の子のお友達ができました。
――ほかにも、カトーさんのおかげで、お友達がたくさんできました。
ーーそして、好きな人もできました。
ーーわたしは、この人と生きていくことに決めました。
……別の土地で。
……島の皆、ありがとう。
――そして、ごめんなさい。
……繰り返す波のような記憶の残滓が過ぎ去った後、気がつけば俺は床の上に仰向けで倒れていた。
「……羽依里、大丈夫!? あたしがわかる!?」
そしてそんな俺のすぐ目の前に、蒼の顔があった。左手に懐中電灯を持ちながら、右手は俺の顔に触れていた。
「……わかるよ。俺が大好きな蒼」
「気をしっかり持て―――! あたしの好きな羽依里は、そんな恥ずかしいこと言わないわよ―――!」
正直に言ったのに、思いっきり頬を叩かれた。痛い。
「だ、大丈夫。ちゃんと帰ってきてるから」
俺は身体を起こしながら、自分に触れたであろう七影蝶を探すけど、その姿はどこにもなかった。
「……まったく、ちょっと脅かしただけで気絶しちゃうってなんです?」
……その七影蝶に代わり、呆れ顔をした藍が俺の隣に座っていた。あれ、どうして藍がここに?
「いくらオカルト好きでも、想像力逞しすぎやしませんか?」
「……あ、もしかして」
俺は鏡の前での光景を思い出してみる。
あの鏡には、不気味な笑みを浮かべた蒼が映っていた。むしろ、その蒼しか映っていなかった。
近くに置かれていたはずのパリングルスも、反射するはずの懐中電灯の光も、本来なら必ず映り込むはずの俺の姿もなかった。
「……まさかあの鏡、額縁だけだったとか?」
「そうですよ。まんまと引っかかりましたね」
そう言って、鏡の中の蒼と同じ顔で笑った。つまりは、そういうことらしい。
「鏡だと思ってる場所に、双子の姉が立ってれば見間違えるよな……くそ、してやられた……!」
「ふふ。パリングルスを探して必ずあそこに来ると思って、蒼ちゃんと同じ格好をしてずっと待ってたんです。頑張った甲斐がありました」
そう言う藍はどこか嬉しそうだ。思い出してみれば、藍は鴎と一緒に行ったはずなのに、戻ってきたのは鴎だけだった気がする。暗かったとはいえ、なんで気づかなかったんだろう。
「鏡に映る蒼を見た時、少し違和感を感じたんだよな……あの時、気付けていれば……」
「あたしも驚いたわよー。羽依里が走って行ったあと、鏡の中から『蒼ちゃん』って声をかけられるんだもの」
目の前にあるのは鏡だと思っているんだから、確かにそれはビビるよな……。
「思わず逃げだしたら、あんたが廊下で倒れてるしさ。また七影蝶に触っちゃったみたいだけど、大丈夫?」
「ああ、そこまで強い思いじゃなかったのか、全然大丈夫だよ。意識を乗っ取られる感じもなかったし」
偶発的な事故とは言え、ああやって触れちゃうこともあるんだ。
「ところで、どんな記憶だったの?」
「……なんか、外国っぽかった。でも、場所は鳥白島だった」
「なにそれ」
「それで、すごく迷ってた」
「何を?」
「……よくわからない」
詳しく思い出そうとしてみたけど、ついさっき見たはずの記憶はすでに曖昧になっていた。最初の方は何か外国語っぽかったけど、英語じゃなくて、全然理解できなかった。以前感じたような激しい後悔や感情の昂ぶりも感じなかったし、本当に不思議な記憶だった。
「何にしても、大丈夫そうで良かったわ。浜辺にいる皆を心配させちゃまずいし、そろそろ帰りましょー」
「そうですね。ある程度の事情は、今頃鴎ちゃんが話してくれていると思いますが……」
……姉妹がそんな話をしていた矢先、蒼の持っていた懐中電灯が急に点滅し始めた。
「あ、あれ? どうしたのかしら」
三人揃って困惑していると、そのまま明かりが消え、周囲は完全なる闇に包まれてしまった。
「あちゃー。もしかして、電池切れ?」
「そういえば、一つの懐中電灯を皆さんで使いまわしていましたからね。そろそろ切れても不思議はないと思います」
「ちょちょいと電池の接触を直せば点くかもしれないぞ。蒼、ちょっと貸してくれ」
俺は暗闇の中、手探りで懐中電灯を掴む。……はて。懐中電灯にしては柔らかいような。
「って、どこ触ってんのよ―――!」
直後、蒼の絶叫がすぐ近くで響いた。み、耳が痛い。
「こんな場所じゃなくても、触りたいなら触りたいって言いなさいよ!」
「いや、そんな意図はないんだ。俺は懐中電灯を……って、頼んだら触らせてくれるの?」
「彼女なんだから当然でしょー!」
……蒼も相当パニックになっていると思う。ただでさえ出やすい本音がダダ漏れになっていた。
「ちょっと羽依里さん、暗闇に乗じて蒼ちゃんに何をしているんですか?」
少し遠くから、藍の低い声が聞こえた。表情こそ見えないけど、藍が憤慨しているのは十分に伝わってきた。俺はそんなプレッシャーから逃れるべく、文字通り闇雲に手を動かす。
「蒼、懐中電灯はここか!?」
「そ、そこも違うわよ! こっちよ! こっち!」
「こっち?」
「ちっがーーーう! ひゃーーーー!」
「蒼ちゃんが汚された……羽依里さんのけだもの……!」
……結果、やればやるほど泥沼だった。俺は途中で懐中電灯を探すのを諦め、完全に暗闇に目が慣れるのを待ってから、三人で廃屋を後にしたのだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……そんな色々あったデイキャンプが終わって、一週間が経過した。
一応警戒はしていたんだけど、以前七影蝶に触れた時のように、精神的なダメージから寝すぎてしまうようなことはなかった。
むしろ『肝試しで藍に驚かされて気絶した情けない男』という謎の噂が独り歩きして、その噂をもみ消す方が大変だったりした。
誰が広めたのか知らないけど、本当に勘弁してほしい。
……それからさらに数日後。夏鳥の儀を二日後に控えた日のこと。
「この島のならわしでな。祭り当日と、その翌日。つまり明後日と明々後日は釣りが禁止になるんだ」
いつものように仕事をし、船の生け簀一杯にシズや赤シタヒラメを乗せて島の漁港に戻る途中、しろはのじーさんがそんな説明をしてくれた。
「釣りが禁止ってことは、俺たちも海に出れないんスよね?」
良一が舵を握ったまま、どことなく嬉しそうに言う。
「やっぱり、そうなると仕事は休みに……」
「……何を喜んでいる。海に出なくても仕事はある。それに、祭り当日はその準備で休む暇などあるわけがない」
「そ、そんな……」
それを聞いた良一は一転、死んだ魚のような目になった。
「ちくしょー……こっそりのみきとデートする予定だったのに、そりゃないぜ……」
そして、がっつりと心の声が漏れてしまっていた。船のエンジン音にかき消されて、その声は俺にしか聞こえていないみたいだったけど。
……それにしても、釣りが禁止になるなんて変わった風習だな。
もしかしたら、島の漁師が仕事を休んで祭りの準備をするための口実として、祭りが受け継がれていく中で生まれたものなのかもしれない。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……そして夏鳥の儀当日。
予想していた通り、朝から忙しかった。
俺は早朝から空門家にやってきたじーさんに叩き起こされ、朝食も取らぬまま島中を走り回ることになった。
「すみません! 通ります!」
普段に比べて圧倒的に増えた観光客の間を縫うようにして、俺は港へと滑り込む。
そこで荷物を受け取った後、そのままとんぼ返りして小学校へと向かう。
プールサイドで灯篭の準備している先生たちに荷物を渡すと、今度は別に駄菓子屋への荷物を託る。
その荷物を持って駄菓子屋へと向かうと、今度はおばーちゃんから謎の風呂敷包みを田中さんちへ届けてくれと渡された。
「……炎天下の中、朝食抜きでこのハシゴはきつい……」
出かけ際、とりあえず持ってきていたタオルは既に汗でぐっしょりだった。
……学生時代、バイトで宅配業を手伝ったことがあるけど、それよりきつい気がする。
「兄ちゃん、暑い中大変だねぇ。これ飲んで、頑張ってね」
さすがにへばりかけていると、荷物を届けた先の田中さんが栄養ドリンクをくれた。こういう時、島民の優しさが身に染みる。
「ありがとうございます。いただきます」
「それで……この荷物を鳴瀬さんちに届けてほしいんだけど。誰も居なかったら、玄関に置いてくれればいいからさ」
……俺がその厚意に甘んじていると、田中さんが笑顔で荷物を差し出してきた。栄養ドリンクを飲んだ手前、断れない。前言撤回。島民は鬼だ。
……その後も色々な所で用事を頼まれ、ようやく漁港で一息つけたのはお昼前だった。
「い、一旦空門家に帰ろう。昼食くらいは皆と食べたいし……」
そう口にしながら空門家に足を向けた、その時。
『朝から島を駆け回っている鷹原羽依里君。鳴瀬翁がお呼びだ。至急役所前に来なさい』
少し離れたところに見える鉄塔から、のみきの非情な島内放送が流れた。
『繰り返す。朝から島を駆け回っている鷹原羽依里君。疲れているのはわかるが、鳴瀬翁がお呼びだ。至急役所前に来なさい』
……繰り返していないじゃないかと思いながら、俺は重い足を引きずって役所へと向かった。
「来たか。待っていたぞ」
役所前には大きな酒瓶を持ったしろはのじーさんが立っていた。どうやら、これを神社に持っていけとのご命令らしい。
「わかりました。行ってきます」
「ああ、頼んだぞ」
大きな酒瓶を受け取ってじーさんと別れた後、俺はそのままの足で加藤家に向かう。さすがに歩き回るのに疲れたし、こうなったら秘策を使うことにしよう。
「すみませーん!」
「はーい!」
玄関から声をかけると、すぐに鏡子さんが出てきてくれた。
「どうも。ご無沙汰してます」
「あら、羽依里君。色々噂は聞いてるけど、空門さんちで元気にやってるみたいだね」
「迷惑かけながらも、なんとかやってます。鏡子さんもお元気そうですね」
「まぁ、それなりだね。ところで、今日はどうしたの?」
「あ、実はですね……」
簡単に挨拶を済ませた後、俺は手元の酒瓶を見せながら、少しの間バイクを貸してほしい旨を伝える。
「いいよ。最近乗ってないけど、たぶん動くと思うから」
「ありがとうございます。少しの間、お借りします」
予想はしていたけど、鏡子さんは二つ返事で了承してくれた。俺はバイクのキーを借り受けるとガレージへと向かい、エンジンをかけてみる。
「おお、良い感じじゃないか」
鍵を回すと、すぐにトトトト、と小気味好い音を立てる。久しぶりだけど、相棒はまだまだ現役みたいだ。
「よし、出発!」
持っていた酒瓶を荷台にしっかりと固定して、準備完了だ。俺はヘルメットをかぶると、すぐにバイクを発進させた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
さすがバイクは快適で、あっという間に神社へと到着した。
境内に足を運ぶと、そこには見慣れぬトラックが止まっていて、荷台から色々な機材が降ろされていた。よくわからないけど、どこかに車が通れる抜け道があるんだろうか。
「すみません。このお酒を持ってくるように頼まれたんですけど」
「ああ、奉納品だね。ありがとう。そこに置いといてくれればいいよ」
トラックの近くで作業をしていた青年団の人に声をかけると、そんな言葉が返ってきた。俺は言われた通り、持っていた酒瓶をお堂の前に置く。
そしてせっかくなので、そのまま神社に参拝することにした。
一度手水舎に戻り、手と口を清めた後、優しくアンダースローでお賽銭を入れて、鈴を鳴らし、二礼二拍手。
「これからも、毎日無事に蒼の元へ帰って来れますよーに」
そして最後に深く頭を下げる。良一曰く、ここ鳴瀬神社は海運の神様らしいし、海の仕事をしている者として、しっかりと安全祈願しておかないと。
……神社での用事を済ませた後は、加藤家に向けてバイクを走らせる。
「いやー、快適だ」
風が気持ちいいし、なにより楽だ。どうしてもっと早くこの方法を思いつかなかったんだろう。
「……そうだ。今度天善に頼んで、中古のバイクを一台買わせてもらおうかな」
以前は加藤家にお世話になっていたから、なんとなくバイクも使わせてもらっていたけど、今現在の俺の居候先は空門家だ。そう何度も鏡子さんから借りるのも悪いし。
それに、大きめのバイクを買えば蒼を後ろに乗せてツーリングできるし。藍には悪いけど、バイクごと船で本土に渡って、神戸まで夜景を見に出かけてもいいかもしれない。
「あ、羽依里さん、ちょうどいいところに」
「うわっ、ごめんなさい!」
そんなことを考えていると、道の先で手を上げる藍の姿が見えた。俺は思わず謝りながら、バイクを急停車させる。
「……いきなり何を謝ってるんです?」
「な、なんでもないよ。藍こそ、こんなところでどうしたんだ?」
「おかーさんから頼まれて、港に行く途中なんです。ここで会ったのも何かの縁ですし、ちょっと乗せていってくれませんか?」
歩み寄ってきた藍はぽんぽんと荷台を叩きながら、上目遣いで俺を見てきた。
「残念だけど、タクシー代わりにしたいのなら他を当たってくれ。俺は今から帰って飯にするんだ」
「いいですけど、今家に帰っても誰もいませんよ?」
「え、そうなの?」
「はい。おかーさんと蒼ちゃんは青年会館で仕出しの準備をしていますから」
「そうなのか。なら、昼飯どうしようかな」
祭りの準備で皆忙しいとはいえ、家に誰もいないのは予想外だった。居候の身の上、家主もいないのに勝手に家の物を食べるのも気が引ける。
漁港の方に行けば出店の一つや二つ出ていた気もするけど、早朝に家を出たせいで財布を持っていない。どうしようかな。
「タクシー代わりに使わせてもらえるのなら、お昼ご飯ごちそうしますけど」
「……お客様、どうぞ」
俺は持っていたタオルで荷台を素早く拭いてから、藍に着席を促す。
「……変わり身の早さに驚くんですが」
「気にしないでくれ。ほい、ヘルメット」
微妙な顔で俺を見る藍を尻目に、俺はバイクの収納スペースから予備のヘルメットを取り出して手渡す。
「それでは改めて、港までお願いします」
俺がバイクにまたがると、藍もすぐにその後ろに乗り、ぴったりとくっついてきた。
「む、ごっほ」
……直後、とても柔らかいものが俺の背中に触れた。いや、しっかりと掴まっていないと危ないから、藍の行動は当然といえば当然なんだけど。これは……。
「……? 出発、しないんですか?」
確か蒼の記憶によると藍の方が大きいんだよな……とか考えていたら、藍が不思議そうな顔をするのがサイドミラー越しに見えた。一瞬、わざとやっているのかとも思ったけど、どうやら違うみたいだ。
「……もしかして、私を通じて蒼ちゃんのぬくもりを感じてるんじゃないでしょうね」
「そ、そんなことはない。そんなことはないぞ!」
……確かにぬくもりは感じているけど、そんなんじゃないから!
「えへへー。ねーねー、シティーハンターさーん」
……ちょっと藍、わざと蒼っぽい声色を出さないで。
「へ、変な演技してると舌噛むぞ。出発!」
妙な恥ずかしさを感じた俺は、そう言って藍の返事も待たずにバイクを発進させた。まったく、あまりふざけないでほしいんだけど。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……やがて行き交う観光客の間を抜けつつ、港に到着した。
さすが祭り当日ということもあり、港には出店がいくつも出ていて、なかなかに賑やかだった。
「ところで、碧さんからの用事って何? 大きな荷物があるようなら、帰りも乗せていくけど」
「なんだかんだで羽依里さんは優しいですね。まだ時間がありますし、まずはお昼ごはんにしましょう。あそこのベンチで待っていてください」
藍はそう言うと、良い香りを漂わせている出店……ではなく、すぐ近くの商店へと入っていった。え、そっちなんだ。
「はい。どうぞ」
そして一人残された俺がベンチに座って待つこと数分。藍は両手にビニール袋を持って戻ってきた。
「もしかして、これがお昼?」
「そうですよ。お腹、空いてるんですよね?」
「もちろんぺこぺこだけど……てっきり、出店の品を買ってくれるものかと」
「ああいうのって、本土から来るのもあって高いじゃないですか。見てくださいあのイカ焼き、400円ですよ。このパンが4つ買えます……あむ」
隣に腰掛けた藍は、一瞬出店を蔑んだような目で見た後、ビニール袋からコロッケパンを取り出してかじりつく。ソースのいい匂いがした。
俺もお腹は空いているし、さっそくいただくことにしよう。
そう思いながら、嬉々としてビニール袋を開ける。中にはパックの牛乳とあんぱん、そしてクリームパンが入っていた。
「甘い……どれも甘すぎる……!」
「……食べないんですか? お腹、空いてますよね?」
「え? ああ、いただくよ……」
今度こそ何か意図があるのかと思ったけど、藍の様子を見る限り、今回も違うみたいだ。きっと、総菜パンが売り切れてたりしたんだろう。
俺はそう思うことにして、牛乳を一口飲んだ後に、あんぱんを口に運ぶ。うん。美味しい。
「……ところで、あれから体調は良いんです?」
「え?」
「ほら、肝試しの日、七影蝶に触ったんでしょう? 蒼ちゃんも心配していますよ?」
「うん。これと言って変わりはないよ」
「そうですか。なら、いいですが」
まさか藍の口から七影蝶の話題が出るとは思わなかったから、少し驚いた。
そして誰かに聞かれたらと一瞬不安にもなったけど、祭りを控えた港はざわついていて、誰も俺たちの話なんて聞いてる風は無かった。
……思えば、先月も藍を庇って七影蝶に触れてしまっていたし、気にしてくれていたみたいだ。
「以前みたいに睡眠時間が増えたりもしてないしさ。たぶん、あの時触った七影蝶は『良い七影蝶』だったんじゃないかな」
「……七影蝶に良い悪いがあるんです? 蒼ちゃんに聞く限り、どれも良くないものって感じですけど」
「うまく説明できないけど、優しい気持ちになる時もあるんだ。まぁ、触らないに越したことはないけどさ」
「私は元々見えないので触れません。ご心配なく」
藍は少し拗ねたような顔をしながら、左手の指先についてしまったらしいソースを舐めとっていた。
……その時、藍が左手につけているトンボ玉に太陽の光が反射した。
「そのトンボ玉、相変わらず左手につけてるんだな」
「蒼ちゃんが作ってくれたものですし、当然でしょう? 今更ですね」
自分の目線までトンボ玉が結われた左手を持ち上げて、不思議そうな顔をする。
「俺が言うのもどうかと思うけどさ、そのトンボ玉、蒼みたいに髪飾りにしたらどう?」
「は? 蒼ちゃんがわざわざ付けてくれたのを、はずせって言うんですか? いくら羽依里さんの意見でも、業腹なんですけど」
「違う違う。ほら、蒼が藍の左腕にトンボ玉をつけた時、藍は眠っていたわけだしさ。今の藍は自分の意志でなんでもできるわけだから、蒼みたいに髪留めにしたりして、おしゃれしてもいいんじゃないか?」
「ああ……それはいい考えかもしれませんね。今度、蒼ちゃんと相談してみます」
藍は今一度左手のトンボ玉を愛おしそうに見つめながらそう言った。その表情は以前、藍からもらったトンボ玉を大事そうに見つめていた蒼のそれと、一瞬被ってしまった。
……その時、船の汽笛が聞こえた。どうやら、お昼の船が港に入ってきたらしい。
「ああ、ようやく船が来ましたね。あれに乗ってるはずですが」
その音を聞いた藍は、ベンチからぴょんと跳ねるように立ち上がった。
「乗ってるって誰が?」
「誰って、おとーさんですよ。夏鳥の儀には間に合うように島に戻ってくるって話、昨日したじゃないですか」
そういえば、昨日の夕飯の席で碧さんがそんなことを言っていた気がする。夕飯担当だった蒼の作った大量のそうめんの処理に追われて、俺は話半分にしか聞いていなかったけど。
「じゃあ、碧さんから頼まれた用事って、樹さんの迎えなのか?」
「はい。おとーさん、長旅から帰った時は出迎えがないとすごく落ち込むんですよ」
「え、あの人が?」
正直、全然そんな風には見えないんだけど。いつの間にか家に居て、悠々と新聞を読んでいるイメージだ。
「そうですよ。なんか、長い時間島を離れると禁断症状が出るみたいです」
「禁断症状?」
「……おかーさん曰く、発症ラインは3日だそうで」
……短いなおい。
「ああ見えて、おとーさんは寂しがり屋なので。羽依里さんも、逃げたりしないでくださいね。置いていったらひどいですよ」
藍はそう言いながら、いつの間にか俺のシャツを掴んでいた。期せずして、俺も巻き込まれてしまった。
「……おお、二人が出迎えてくれるなんて思わなかったよ」
どうしようと思った矢先、背後から聞き慣れた声がした。藍と揃って振り返ると、そこには樹さんが立っていた。
「ただいま! 帰ってきたよ!」
「わぎゅっ!?」
「ぐえっ!?」
……そして、次の瞬間にはその太い腕で思いっきり抱きしめられた。あ、藍だけならわかるけど、なんで俺まで抱きしめられてるんだろう。
「ちょ、ちょっと樹さん……」
とっさにその逞しい腕から脱出しようとするけど、ものすごい力で抑え込まれていて、とても無理だ。
そんな俺たちを、船から降りて来た観光客が微笑ましそうに見ながら通り過ぎていく。傍から見ると、数年ぶりの感動の再会に見えるかもしれないけど、そんなんじゃないから!
定期的に電話もかかってきていたし、体感としてはもっと短いと思……あ、やばい。息が苦しくて白い花畑が見えてきた。たくさんの七影蝶が飛んでる。
「……おとーさん、苦しいです!」
その時、俺の隣で抱きしめられていた藍が叫ぶ。それで我に返ったのか、樹さんが俺たちを解放してくれた。た、助かった……。
「ごめんごめん。久しぶりの再会で嬉しくなってつい、我を忘れてね」
その後、樹さんは先程まで俺たちが座っていたベンチに座って、申し訳なさそうに頭を掻いていた。
もしかして、久しぶりの再会を果たす度にこんなことになっているんだろうか。愛娘たちも大変だな。
「それにしても樹さん、生傷が増えてません?」
「ああ、富士の樹海で熊と遭遇してね。いやー、彼らが夜行性だったのを忘れていたよ」
これまた頭を掻きながら、笑いながら言う。熊と出会ってその程度の傷で済んでるのなら、むしろ幸運な気もするけど。
「……ところで、出迎えてくれたのは二人だけかい?」
「そうですよ。おかーさんと蒼ちゃんは仕出しの準備が忙しいみたいなので」
藍がくしゃくしゃになった髪の毛を直しながら、ため息交じりにそう言っていた。
「そうか……母さんと蒼は忙しいのか。じゃあ、せめて藍だけでも」
「は?」
言うが早いか、樹さんはゴツいカメラを手にして立ち上がり、フラッシュを焚く。
「ちょ、ちょっとおとーさん、いきなり写真撮らないでください!」
「祭りを前にして賑わう港で、久しぶりの再会をした娘の写真を撮る。自然だと思うけどね」
そう言う樹さんの眼鏡がキラリと輝く。しまった。今度はカメラマンモードだ。すっかり忘れていた。
「久しぶりって、一ヶ月くらいしか経ってないじゃないですか!」
藍はそう言いながら、俺を盾にしてフラッシュの雨から逃げ惑う。あの調子だと、樹さんの撮った写真のほとんどに苦笑いを浮かべた俺が写り込んでいそうだ。
……それから散々藍の写真を撮って、今度こそ樹さんは落ちついた。
「しかし、今年もすごい人出だねぇ」
「去年より多いみたいですよ。この後も何本か船がありますし、夕方の本番に向けて、もっと増えるんじゃないんですか」
散々浴びたフラッシュが眩しかったのか、藍は目を擦りながらそう答えていた。
「今年は祭りに間に合って良かったよ。向こうの学長はもう数日講義を続けて欲しい顔をしていたけど、僕も夏鳥の儀だけは譲れないと、全力で振り払ってきたんだ」
……先程、あんな目に遭ったせいか、筋骨隆々の学長が樹さんを帰らせまいと立ちふさがっている場面を想像してしまった。なんて世紀末漫画だろう。
「おーい羽依里! じーさんが役所前で呼んでるぞ!」
そんな時、港の入り口から良一が走ってきて、俺にそう告げた。
「え? ああ、今行くよ!」
藍と喋っているうちにすっかり忘れていたけど、まだまだ祭りの準備は続いているんだった。しろはのじーさん、今度は何の用だろう。
「すみません。それじゃあ、俺はまた祭りの手伝いに戻ります」
「ははは、島の一員になって初の祭りだ。初めてのことばかりで大変だろう?」
「ええ。大変ですけど、不思議と楽しいんですよ。こんな体験、したことないんで」
「頼もしい限りだ。僕は仕事柄、なかなか島に貢献できないからね。僕の分まで頑張っておくれよ」
「羽依里さん、おとーさんの土産話は夜のお楽しみにして、頑張ってきてくださいね」
「ああ、わかってるよ。それじゃ!」
そんな父娘に見送られながら、俺は再びバイクに跨ったのだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……そして夕刻。俺もなんとか作業を切り上げて、祭り会場である神社へと向かった。
事前にのみきから聞いた話によると、夏鳥の役とその一行はここのお堂を出発点にして島を練り歩き、海へと向かう予定になっているらしい。
「……うわ」
神社に辿り着いてみると、お堂と境内を囲むように島民や観光客が集まっていて、祭りが始まるのを今か今かと待っていた。
「あ、羽依里君、こっちよー!」
そんな人混みの中から、先に来ているであろう蒼たちの姿を探していると、俺に気付いたらしい碧さんが手を振って合図してくれた。
「おお、羽依里君も間にあったかい」
「ええ、なんとか終わりました」
人波を分けるようにして碧さんの傍に行くと、そこには空門一家が勢揃いしていた。
「祭りが始まる前に会えて良かったわー。向こうには水織先輩や紬、鴎もいるのよー」
蒼が自然に俺の手を取りながら、反対の手で向こうを指差す。俺もその先に友人たちの姿を探してみるけど、さすがに人が多すぎて見つけられなかった。
「港の観光客の多さからこうなることは予想してたけど、それにしてもすごいな」
「この日は特別だしねー。ほら、そろそろ始まるわよ」
そう言って蒼が姿勢を正すと、ゆっくりと厳かな音楽が流れ始めた。それと時を同じくして、ざわついていた見学客も潮が引いたように静まり返った。
……やがて、黄昏に染まるお堂の扉がゆっくりと開く。
そこから夏鳥の衣装を着た堀田ちゃんが静かに歩み出て、境内で舞を踊る。その衣装もさることながら、なびく黒髪が実に見事で、思わず息を呑んでしまう。
「へぇ。今年はあの子が夏鳥の役なのかい。まだ小さいのに、上手だね」
「さすがしろはちゃんが舞を教えただけあります。すごく綺麗ですね」
「本当よねー。この調子だと、来年も夏鳥の役は堀田ちゃんかしら」
樹さんと空門姉妹がそんな話をする。確か、去年まではしろはが夏鳥の役をしていたって聞いたけど、そろそろ世代交代なんだろうか。
「ところでさ、蒼は夏鳥の役に立候補したりしないのか?」
「あたしは空門の家の人間だから、海の祭事には関わらないのよ。仕出しとかは手伝うけどね」
「そうなのか。蒼の夏鳥の役、見てみたかったんだけど」
「さすがに無理ねー。そーいうしきたりだから」
俺の疑問に小声で返してくれながら、そう笑う。蒼は巫女服だって似合うし、あの衣装を着て舞ったら、さぞかし絵になると思うんだけど。しきたりなら仕方ない。
「あ、神輿が出てきましたよ。良一ちゃんや天善ちゃんもいます」
やがて夏鳥の役に続いて、船の形を模した神輿がお堂から出てきた。藍の言う通り、その担ぎ手の中に良一と天善、徳田やじーさんの姿も見える。皆一様に、ふんどし姿だった。
「……そういえば、羽依里さんはお神輿、担がないんです?」
「え? ああ、神輿担ぎは来年からって言われたよ」
実は俺も誘われてはいたんだけど、今日になってふんどしがないとか言われた。
どうやら、初めて担ぎ手になる者には新しいふんどしを贈るのが習わしらしいけど、手違いで新しいのが用意できなかったらしい。
まぁ、いくら洗ったとしても、ふんどしのお古なんて嫌だし、ある意味助かったかも。
……それにしても、俺も来年はあの中に入るのか。嬉しいような、恥ずかしいような。
「あ、そろそろ移動するみたいよ。皆、動きましょう?」
そうこうしているうちに、神社での一連の神事が終わったらしい。堀田ちゃんを先頭に石段を下りていく集団に続いて、俺たちも移動することにした。
……神社を出発した夏鳥の一団は、島の各所で舞を披露しながら、ゆっくりと進んでいく。俺たちもそれについて島を巡り、日が暮れる頃には浜辺へと辿り着いた。
茜色の海と空を背景にして、そこで夏鳥の役が最後の演舞をする。それが終わると、神輿船が沖へと流される。
「……あの船、海に流すってことは、毎年作り直すんですかね?」
「昔はそうだったみたいだね。今はある程度沖に流れたところで、役所が回収する手はずになっているよ。環境保護とか、色々あるらしい」
なんとなく樹さんに聞いてみたら、そんな答えが返ってきた。海の仕事をしていたら色々な漂流物を見る事があるし、その考えも理解できる。
「そういえば樹さん、祭りの写真は撮らないんですね」
「ああ、この祭りは撮らないようにしているんだよ」
……思えば、あれだけ写真好きな樹さんがカメラを持っていなかった。
観光客の中にはビデオを撮ってる人までいたし、撮影が禁止されているわけじゃないみたいだ。どうやら、これは樹さんの信念らしい。
「ほら、おとーさんも羽依里も、灯篭流しましょー」
「今年作っていないので、買ってきましたよ」
その時、両手に一つずつの灯篭を持った空門姉妹がやってきた。
周りを見てみると、中には手作りらしい灯篭を持った子供たちの姿も見える。
「夏鳥の儀はお盆みたいな意味もあるから、明かりを灯したこの灯篭を先祖を想いながら海に流すのよー」
不思議に思っていると、蒼がそう説明してくれた。なるほど、そういう意味があるのか。
どこか楽しそうに灯篭を流す子供たちに交じって、俺も数年前に亡くなった加藤のばーちゃんのことを想いながら、灯篭を海に浮かべる。
……明かりのついた無数の灯篭が波間に浮かぶ光景は、なんとも幻想的だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……島の祭りが終わった後、俺は空門家での打ち上げに参加していた。
漁師仲間や青年団、のみきをはじめとした実行委員会の皆も各自で集まって打ち上げをしているみたいだけど、俺はまだ呑めないとか、居候先の家主が戻ってきたからとか理由をつけて、そっちは遠慮させてもらった。
ちなみに蒼たちと一緒に漁港を後にしようとした時、漁師仲間に引っ張って行かれる良一が救いを求めるような目で俺を見てきたけど、あえて無視した。夜くらいは蒼と一緒に過ごしたいんだ。良一、許してくれ。
「もらいものがたくさんあるから、羽依里君もたくさん食べてね」
「ありがとうございます。いただきます」
食卓には近所からもらったらしい、色とりどりの料理が並んでいた。この手の席に定番の刺身がないのは、やはり今日と明日は釣りができない風習が影響しているんだろう。
「この魚寿司も美味しいわよー。佐藤さんが作ったんだって」
そう言って碧さんが差し出してくれた小皿には、ママカリのお寿司が乗っていた。どうやら、保存用に酢漬けにしたものらしい。
「うーん。これを食べると、島に帰ってきたって実感がわくね」
樹さんは日本酒を片手に、そのお寿司を堪能していた。やっぱり、郷土料理みたいなものなんだろう。
「あ、これ、おいしー」
「ふわふわですね。おいしいです」
一方、空門姉妹は樹さんからの東京土産にさっそく舌鼓を打っていた。これだけ豪勢な料理が並んでいても、やっぱり女子は甘い物が良いのかな。
「え、変わった形してるけど、それ何?」
家族を知り尽くしている樹さんが用意したお土産。どんなものか気になって見てみると……バナナのような形をした、見たことないお菓子だった。東京のお土産と言えば、サンダーおこしじゃないのか?
「最近の新商品らしいです。空港で売ってるらしいですよ」
そう言う藍からそのお菓子を受け取って、食べてみる。甘くてふわふわの生地にバナナ味のクリームがマッチして、美味しかった。
……その後、洗いものをすると言って碧さんと蒼たちはキッチンの方へ行ってしまった。
一方、樹さんは場所を縁側へと移して、晩酌の続きを始めた。
俺もそれに付き合って縁側に座る。一ヶ月ぶりのはずなのに、自然とそうしていた。
「そうそう。今度、こんな計画があるらしいんだけどね……」
お酒の入った樹さんはいつも以上に饒舌で、富士の樹海の話を中心に、色々な土産話をしてくれた。
なんでも現在東京では新しい電波塔の建築構想が進められているらしい。東京デカイツリ―。名前からしてでかそうだけど、どうして昆虫学者の樹さんがそんな話を知っているのかは謎だった。
「……そういえば羽依里君、また七影蝶に触ったんだって?」
なんてことない雑談が続いていたその時、唐突にそんな話題を振られた。
「どうして樹さんがそのことを知っているんです?」
「いや、蒼がぼやいているのを聞いてね。大層心配していたようだけど、体調が悪くなったりするのかい?」
「そうなる場合もあるみたいですけど、今回は大丈夫でした」
一瞬悩んだけど、記憶を読み取ってしまうとか、その記憶の整理のために睡眠時間が増えてしまうとかの辺の話はしないでおいた。それこそ、オカルトの世界だし。
「そうかい。七影蝶は何か毒でも持っているのかと心配したよ」
冗談とも本気とも取れる、実に昆虫学者らしい発言だった。七影蝶の毒。言い得て妙だ。
「……ところで一度聞いてみたかったんだけど、その七影蝶と言うのはどんな見た目をしているんだい?」
「え?」
もうこの話題は終わりだと思っていたら、樹さんが踏み込んできた。これは予想外だ。
「えーっと、個体差はあるんですが、大体これくらいの大きさで……色は全体的に青白い感じなんですけど、時折光の加減で虹色に光って……」
俺は右手の親指と人差し指を広げながら、自分の記憶にある七影蝶の容姿を伝える。
「そんなものが、ひらひらと飛んでいるのかい? 日光に当たればさぞかし綺麗だろうね」
「あ、昼間にはほとんど見る事がないんですよ。もしかすると、蝶そのものが光っているので、夜の方が見つけやすいだけなのかもしれません」
「なるほどね……」
樹さんは手元のメモを見ながら、何やら頷いている。
「そういえば、加藤家の蔵に七影蝶に関する文献がありましたよ。ご覧になったことは?」
「人づてに話を聞いて、もちろん見たよ。文献は本物だったが、一緒にあった標本はどう見ても偽物だね。ただのオーロラモルフォだよ」
かつて、蒼も同じことを言っていた気がする。七影蝶はあらゆるものをすり抜けてしまうし、捕まえて標本にするなんて無理な話だ。
「……ところで、どうして急に七影蝶の話を?」
「そう怪訝そうな顔をしないでくれ。ちょっと確認したいことがあったんだよ」
「……どういうことです?」
「……僕が富士の樹海に行ったという話をしただろう? 実はね。その時同行した助手の一人が、森の中で不思議な光る蝶を見たらしいんだ」
「え、そうなんですか」
「でも、彼以外は誰もその蝶を見ていなくてね。結果、見間違えだろうと言うことでその場は片づけたんだが……もしやと思い、彼が見たという蝶の絵を後で描いてもらったんだ。それが、これだよ」
樹さんはそう言いながら、手にしていたメモ帳を見せてくれた。そこには俺が普段から見ている七影蝶にそっくりな絵が描かれていた。
「……これ、七影蝶ですよ」
「やはりそうか。話を聞けば聞くほど、同じものにしか見えなくてね。思った通り、彼には七影蝶が見えていたのか……」
「やっぱり、見える人と見えない人がいるんだと思います。その助手さんは俺や蒼のように、七影蝶が見える人だったんでしょう」
「……どうやらそうらしいね。うーむ……蝶を研究する者として、一度でいいからこの目で実物を見たいものだが」
樹さんはどこか悔しそうに、御猪口に残っていた日本酒を飲み干す。そういえば以前、蒼も七影蝶が集まりやすい『場所』があると話していた気がする。それは日本各地に点在していて、鳥白島もその場所の一つだと。もしかして、富士の樹海にも同じような場所があるんだろうか。
「やれやれ、少し話題を変えよう。羽依里君は蝶の別名を知っているかい?」
「え?」
考え事をしていた矢先、そう質問された。本当、この人はお酒が入ってると多弁だ。
「えっと……てふてふとか?」
「はは、合ってはいるが、それは古語だね。もっと以前からあるもので、夢見鳥というものがある」
「夢見鳥?」
「そう。現存する最古の日本漢詩集である『懐風藻(かいふうそう)』をはじめとして、蝶を読んだ漢詩は数多く存在するが、中でも『荘子』の『胡蝶の夢』に由来する『夢見鳥』は有名さ」
「それって、どんな内容なんです?」
「端的に話すと、蝶になった夢を見た主人公が目覚めた後、自分が夢で蝶になったのか、蝶が今夢の中で自分になっているのか、どっちだろうと迷ったという話だよ」
蝶になって、夢か現実かわからない狭間の世界を垣間見る。なんだろう。どこか既視感がある。
「古来より、睡眠中は霊魂が体を抜け出すという考えがあり、その抜け出た霊魂が姿を変えたものが蝶だとされる話もある。特に蝶と夢の関連を示す話は世界中にあってね。アメリカの先住民の間では、夢を運ぶ蝶の力を借りて子供を寝かしつけるため、その髪に蝶の形をしたアクセサリーをつける風習があるという。また、隠れキシリタンの伝承では、聖霊が蝶となってマリアの口の中に飛びこみ、マリアは身籠ることになっているし……」
……いつの間にか、講義の装いを呈してきた。さすが詳しい。蝶を語らせれば、この人の右に出る者はいないのかもしれない。
「と、ところで、樹さんはどうして蝶の研究を?」
このままだと深夜まで講義が続きそうだったので、今度は俺が話題を振ってみた。
「そうだねぇ……祖父が蝶の研究をしていてね。その影響が大きいかな」
樹さんは腕組みをして、懐かしむように言葉を紡ぐ。
「僕は学生時代に昆虫学を専攻していてね。フィールドワークの一環として、この鳥白島を訪れたんだ。そこで、碧と出会った」
……そういえば以前、お役目中の蒼からそんな話を聞いた覚えがある。父親は島の外からやってきたと。
「その出会いと言うのがまた変わっていてね。調査のさなか、暑さに負けた僕が道端の木陰で休んでいると、突然彼女が上から降ってきたのさ」
「え、上って、木の上からですか?」
「そうだとも。どうやらそこで昼寝をしていたらしい」
話の感じからして、いつも蒼が昼寝をしているあの場所のことを言ってるんだろう。もしかして碧さんも、あそこがお気に入りの場所だったのかな。
「そうそう。自分から僕の上に落ちて来たくせに、彼女の第一声はね……」
「……『手籠めにするつもり?』ですか?」
「あれ? よくわかったね。もしかして話したことがあったかな」
「いえ、蒼と初めて出会った時も同じことを言われたので」
「なるほど、さすがは母子というわけだ」
「本当ですね」
そこまで話して、俺と樹さんは一緒になって笑う。思わぬ共通点を見つけたような、そんな感覚だった。
「まぁ、それから色々あって、碧とのお付き合いが始まったんだけど……当時の島民は今以上に排他的でね。島の外からやってきた僕への風当たりは当然厳しかったよ。シティーボーイは帰れとか言われてね」
先程と同じように笑いながら話してくれているけど、当時はすごい苦労があったはずだ。それに比べると、今の俺なんて恵まれている方だ。
「今になって思えば、相手は空門の一人娘だ。島の名家を絶やされるかもしれないと危惧する島民の気持ちも分かるけどね」
「んー? あなた、まーた羽依里君に難しい話してるんじゃないのー?」
……その時、新しいお酒とおつまみを持った碧さんが縁側へとやってきた。
「はは、そんなのじゃないよ。今日はむしろ、僕の方が教えてもらっているほうさ」
「本当ー? キッチンの方には、おとーさんの声ばっかり聞こえてきてたらしいけど」
そんな碧さんに続いて、お風呂上がりっぽい蒼が笑いながらやってきた。髪を解いているせいか、ますます碧さんに似ていた。
「はい。羽依里にもこれあげる」
そう言って手渡されたのは、よく冷えたコーヒー牛乳だった。銭湯の自販機で見るやつだけど、これが家にあるんだ。
「やっぱり、お風呂あがりはコーヒー牛乳よねー」
そんなことを言いながら、蒼は俺の隣に座り、美味しそうに喉を鳴らす。
俺も指で適当に蓋を外して、一口飲む。うん。俺は風呂に入ってないけど、良く冷えていておいしい。
「ほら、あなたもどうぞ」
「すまないね。君も久しぶりにどうだい?」
「あら、それじゃ少しだけね」
そんな声に視線を横に向けると、樹さんは碧さんと杯を交わしていた。言葉とは裏腹に、碧さんもまんざらでもなさそうだった。
……結局、樹さんの昔話は途中で打ち切りとなってしまったけど、この二人の馴れ初め。いつかもっと詳しく聞いてみたい気もする。
「ほら、あたしたちも乾杯しましょー」
「コーヒー牛乳だけどな」
「細かいことはいいじゃない。ほら、乾杯!」
俺と蒼も、そんな二人の真似するかのように瓶を打ち合わせる。
祭りの後の、何とも言えない達成感の中、夏は少しずつ過ぎていった。
第十一話・あとがき
皆さん、おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。
今回は前回のデイキャンプの続きから、夏鳥の儀までのお話でした。
デイキャンプ後半ではバーベキューや花火をやりましたが、メインは肝試しだと思います。
お分かりだと思いますが、肝試しで使った廃屋は旧ヴェンダース邸です。一度、紬√で入ったあの場所ですね。肝試しを主催した紬があの場所を会場に選んだ理由は、あの場所についての記憶が実はあるからです。しかし、これ以上の深入りはしない予定です。蒼アフターなので。
また、廃屋で羽依里君が触れてしまった七影蝶はトキアミの灯台に捕らわれてしまったツムギのものです。本編ののみき√の時のように、島の皆を捨てて灯台守と駆け落ちするか否かを悩み続けたツムギから零れ落ちた記憶の残滓……と思っていただけると嬉しいです。
ちなみに、この蒼アフターでは去年の夏鳥の役をしろはがやっていたという設定になっています。昨年の同時期には蒼は起きてはいましたが、まだまだ外を歩ける状態ではなかったので羽依里君は祭りを見に行っていない……というわけです。そしてこの時は何事もなく夏鳥の儀は終了しています。あくまで蒼アフターですので。
では、今回のあとがきはこの辺りで。
一言感想や評価など頂けましたら、次話執筆への活力になりますので、よろしくお願いします。