「……ちょっと、寝すぎちゃった……?」
「……おはよう」
「ああ。おはよう。蒼」
「ずっと待ってましたよ。おはようございます。蒼ちゃんっ……」
……蒼が眠ってから、一年後の夏。
俺たちは、ようやく蒼を起こすことができた。
「……ところで、なんで二人はあたしの上に乗っかってるの? 近いし……その、重いんだけど」
「いや、えっと。これは藍が悪いんだ」
「は? 聞き捨てならないですね。もとはと言えば、羽依里さんが大人しく渡さないから……!」
「あたたたた……あたしの上で暴れないで」
「あ、悪い……」
俺と藍は申し訳ない気持ちになりながら、いそいそと蒼のベッドから降りる。
「えっと、どうしてこんなことになったのか、理由を説明して欲しいんだけど……?」
目覚めたばかりの蒼は、まだ眠たそうな目をぱちくりさせて困惑している。寝顔以外の表情を見るのは、本当に久しぶりだ。
「その、実はですね……」
「話は蒼が起きる少し前に遡るんだけどさ……」
そして俺たちは一度顔を見合わせた後、どちらともなく口を開いた。
……待ちに待った、迷い橘が咲く季節。
俺はイナリと共に毎夜のように山の中を歩き回り、ようやく蒼の七影蝶を見つけた。
その足で診療所へと向かうと、緊急用なのか玄関は開けっ放しになっていた。
島の防犯意識の低さに感謝しながら、さっそく病室へ向かい、蒼を起こそうとしたんだけど……。
「……確か、蒼が藍を起こした時と同じように、キスをすればいいんだよな」
「鏡子さんから翻訳してもらった古文書によると、そうなりますね」
「よし……!」
俺は意気込んで、山からついて来ていた蒼の七影蝶に触れながら、ベッドの方へ向かう。
「……ところで羽依里さん、ものは相談なんですが」
「相談?」
その矢先、隣のベッドの藍がそう告げてきた。
「はい。蒼ちゃんへの目覚めのキスなんですが、私がしても良いですか」
「え、なんで?」
「去年の夏、私は蒼ちゃんと同じことをすると決めました。ということは、蒼ちゃんが私を起こしてくれたように、私が蒼ちゃんを起こしてもいいはずですよね?」
いや、確かに同じことをするって言ってたけど、それは蒼の七影蝶を探す手助けをしてくれるって意味じゃなかったのかな。目覚めのキスまでしちゃうの?
「いやでも、俺、彼氏だし……蒼を起こすのはその、俺の役目でもあるし……」
「……彼氏さんなら、蒼ちゃんが起きた後でも、好きなだけキスできるじゃないですか。私が真っ当に蒼ちゃんにキスできるチャンスは、今しかないんです」
真っ当って……ちょっと藍、真顔で何言っちゃってるの。
「というわけで、蒼ちゃんの七影蝶を渡してください! その右手の先に居るんですよね!?」
「そうだけど、藍は七影蝶が見えないじゃないかっ!」
俺はとっさに蒼の七影蝶を両手で包むようにして守りながら、藍から遠ざける。
「蒼ちゃんの七影蝶なら、心で感じられます! ほら、早く渡してください!」
藍は寝ていたベッドから素早く降りて、俺の手を無理矢理開こうとしてきた。最近、やっと歩けるくらいに体力が回復したって言っていたのに。なんて行動力だろう。
「嫌だ! 俺だって蒼とのキスを一年以上待ってたんたぞ! 渡すもんか!」
そのあまりの気迫に、このままだと本当に蒼の七影蝶を奪われかねないと思った俺は、早くキスしてしまおうと、蒼が眠るベッドに急ぐ。
「ちょっと、抜け駆けは許さないですよ!」
一方の藍もそう叫びながら、負けじと体重をかけて俺を羽交い絞めにしてきた。背中に何か柔らかいものが当たってる気がするけど、まだリハビリ中の藍に力で負けるはずがない。
「うおおおお!」
俺はそんな藍を背負うようにしながら、蒼が眠り続けるベッドの上に這い上がり、キスをする。
それと同時に、手の中にいた七影蝶が消えていく気配がした。初めての感覚だけど、まるで俺の身体を伝って、蒼に戻るようだった。
そして、今に至る……。
「本当に何してるのよ、二人とも……」
俺たちの話を聞いて、蒼は引きつった笑みを浮かべていた。
「悪い。俺も藍も、蒼のことを思うばっかりにさ」
「そう。蒼ちゃんのことを思っての行動なんです。反省してます」
「はぁ……なんか笑ってるし、絶対反省してないわー」
蒼はため息をついていたけど、俺たちは蒼を無事に起こせた嬉しさもあって、どうしても笑顔になってしまう。
こうして話をするのは一年振りのはずなんだけど、まるで昨日の続きを話しているみたいに自然だった。
「もうちょっとだったのに……はぁ。また蒼ちゃんが汚された……」
そんな中、藍はぶつぶつ言いながら、自分のベッドへと戻っていった。自分の行動は棚に上げて、この発言。いかがなものだろうか。
「……ちょっとあなたたち、こんな朝早くから何を騒いでいるの?」
不満顔をしている藍に一言言ってやろうかと思っていると、早番の看護師さんが声を荒げながら病室に飛び込んできた。
「あ。看護師さん、ちょうどいいところに来てくれました」
藍はそんな看護師さんに気圧されることなく、蒼が目を覚ましたことを伝える。
「え、蒼ちゃん、目を覚ましたの!?」
……予想はしていたけど、ものすごく驚かれた。
「ちょ、ちょっと待ってて! 先生を呼んでくるから!」
そして看護師さんはすぐに踵を返し、先生を呼びに行ってしまった。
やがて先生がやってくると、問診や検査があるということで、俺は病室から追い出されることになった。
そのまま無人の待合室にいるのも息が詰まる気がしたので、俺は診療所の外で待つことにした。
「……あら、羽依里君?」
「あ、碧さん。おはようございます」
玄関先の石段に座っていると、聞き慣れた声がした。見ると、蒼の母親が立っていた。
「ついさっき、診療所から蒼が目を覚ましたって連絡をもらってね。もしかして、羽依里君と藍がやってくれたの?」
「ええ。と言っても、蒼の七影蝶を見つけられたのはイナリのおかげですけど」
「それでも、ありがとう。イナリちゃんにも今度、高級油揚げをごちそうしてあげなきゃね」
そう言って、俺の手を握ってくれた。この人は空門の家の人間ということで、七影蝶の存在も知っているし、俺や藍の突拍子のない話もすんなりと信じてくれた。
蔵にあった古文書を解読してくれた鏡子さんと同じく、この一年でお世話になった人の一人だ。
「……それで、羽依里君はどうして外に?」
「検査があるとかで、追い出されました。家族の碧さんなら、入っても問題ないんじゃないですか?」
「そう? それじゃ、少し様子を見て来るわね」
「ええ。家族水入らずでどうぞ」
俺の言葉に笑顔で頷いて、碧さんは嬉しさを隠すことなく、診療所へと入っていった。
その背中を見送った後、俺は白んできた空を見上げながら、この一年を思い返していた。
……蒼が眠ってからというもの、俺はほとんど毎週のように鳥白島へと足を運んでいた。
もちろん、本来の目的は蒼と一緒の時間を少しでも多く過ごすことだったけど、おのずと藍や、その両親とも親しくなっていった。
先日、蒼の父親が島に帰ってきた時なんて、わざわざ空門家での食事に招待してくれたし。
のみきや良一といった少年団の皆も定期的に顔を見せに来てくれ、蒼にたくさん話をしてくれた。
また、俺が蒼のためにイベントをやりたいと提案すると、皆喜んで協力してくれた。
時々やりすぎてしまうこともあって、先生や看護師さんに怒られたりもしたけど、今となっては良い思い出だ。
「おまたせー。羽依里君、もう検査も終わったから、中に入っても良いそうよ?」
しばらくすると碧さんが戻ってきて、蒼の検査が終わったことを教えてくれた。
今更ながら、碧さんは声といい見た目といい、どことなく蒼に雰囲気が似ている。さすが、あの姉妹の母親といった感じだ。
「わかりました。それじゃ、俺も戻りますね」
満足そうな表情を浮かべる碧さんと入れ替わるように、俺も病室へ戻る。
そこで蒼から聞いた話によると、さすがに丸一年眠っていたこともあって筋力が衰えているらしく、少なくとも半年はリハビリをしないといけないらしい。
でも、それ以外には特に問題はなく、心身共に健康そのもの。まずは一安心だった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
……その後、蒼が目を覚ましたという話は島を駆け巡ったらしく、お昼を過ぎると少年団の皆も揃ってお見舞いに来てくれた。
「蒼、目が覚めてよかった」
「まったくだ。待ちに待ったぞ」
しろはとのみきも嬉しそうだった。蒼と幼馴染である彼女たちにとって、この一年の心労は相当なものだったに違いない。
「これで、ようやく姉妹ダブルスが組めるわけだな」
「駄菓子屋のおばーちゃんも、蒼が戻ってくるのを待ってたぜ?」
天善や良一も多くは語らなかったけど、病室の壁にもたれながら、安堵の表情を見せていた。
「それで皆、学校の方はどうなのー?」
そんな皆の心境を察してか、蒼も努めて明るく話をしていた。
「……ああ、これは去年の文化祭の話なんだがな。しろはに調理を担当してもらって、島カフェをやったんだ」
「しろはが? すごいわねー」
「ぜ、全然すごくないし!」
「まぁ、しろはの料理は好評だったんだが、ウェイターをやっていた良一がな……」
「ちょ、ちょちょちょっと待て! その話より、天善がやってたピンポンカフェの話の方が面白いぞ!」
そんな蒼に応えるように、皆も面白おかしい話をしてくれる。ところで、ピンポンカフェってなんだろう。卓球しながらコーヒーが飲めるんだろうか。
……結局、皆は夕方近くまで、蒼との空白の一年を埋めるように会話を楽しんでいた。
「それじゃ、また来るからなー」
「二人とも、リハビリ頑張ってね」
「ありがとねー」
名残惜しそうに帰っていく皆を、身体を起こせない蒼はベッドに寝たまま見送る。
「蒼ちゃん、私は皆さんを送りがてら、少しリハビリに歩いてきます。羽依里さんと二人っきりになりますが、気を抜いちゃダメですよ」
「へっ?」
……ちょっと藍、妙な言い方をしないで。
「ふふ……それじゃ、行ってきます」
藍は俺に意味深な笑みを向けた後、自分のベッドの脇に置いてあった杖を手にして、ゆっくりと病室を出ていった。
……扉が閉まると、さっきまでの賑やかさが嘘のように静まり返る。
「……なんか、急に静かになったよな」
「そ、そうねー」
もしかして、藍は気を使ってくれたのかもしれない。
俺はそう考えることにして、椅子の位置をずらして蒼の近くに移動する。
「え、えーと。その、さ……」
なんだろう。蒼が眠っている時にはたくさん話したいことがあったはずなんだけど、いざ起きた蒼を目の前にすると、何を話していいのかわからない。
「……なんか、浦島太郎になった気分」
何を話そうか迷っていると、蒼の方が先に口を開いた。
「どういうこと?」
「眠ったのも、起きたのも夏だし、あまり実感がなかったんだけど……皆の話を聞いてると、本当に一年経っちゃったんだなーって」
窓の外に視線を送りながら、蒼は儚げな笑顔を見せる。
「もちろん、あたしが眠ってる間に羽依里たちが話してくれた話は覚えてるわよ? でも……皆、いつの間にか三年生だし。あたし、置いて行かれちゃったかな……」
……そうか。一年間眠っていたということは、そういうことなんだ。浦島太郎。言い得て妙だった。
「……もしかして、起きたばっかりの藍も、実はこんなふうに不安だったのかもね」
……言われてみれば。蒼の場合は一年だけど、藍の場合は十年だ。普段の様子からは想像できないけど、藍も突然見知らぬ世界に放り出されて、浦島太郎のような気分だったのかもしれない。
「皆から遅れた分は、今から取り戻せばいいじゃないか。藍も一緒にさ」
だから、俺はそう蒼を励ましていた。
「……うん。そうよね」
「楽しいイベントだって、たくさんあるぞ。これからは俺も一方的じゃなく、蒼と一緒に楽しみたいし……」
「うん……って、一方的?」
「あ」
つい、口が滑ってしまった。俺は慌てて口を押さえるけど、後の祭りだ。蒼はさっきと変わって、怪訝そうな視線を俺に向けてくる。
「……実はこの一年、藍と一緒に、寝てる蒼に色々してた」
「は?」
「おお、今の言い方、めちゃくちゃ藍に似てたぞ」
「……誤魔化さないで。色々って何?」
「えっと……クリスマスにケーキ用意して、それを蒼の口元に持っていったりとか」
「……それ、あたし食べたの?」
「いや、さすがに食べないけどさ……気分?」
「……」
……ちょっと、全力で俺から離れようとしないで。傷つくから。
「だって蒼、気づかない程度だったら、寝てる時に変なことしていいって言ってたしさ」
「あー、言ったような気がするわー……」
蒼は何かを思い出したように、こめかみを押さえていた。
「ほ、他に変なことしてないわよね……?」
「……バレンタインに自分でチョコ買ってきてさ……いや、なんでもない」
「え、そこでやめるの? 気になるじゃない」
「あの日は、雪が降っててさ……」
「だから、遠い目をして誤魔化さないで。自分で買ってきたチョコをどうしたのよ?」
「……蒼の指を借りて、食べさせてもらいました」
「……」
……ものすごい顔で睨まれた。
「ちょうどリハビリから戻ってきた藍に、同じ顔で睨まれたよ」
「そりゃそうよねー。大事な妹の指がそんなことに使われてるのを見たらねー」
「……でも、その後で藍も同じことしてた」
「……」
続いて複雑そうな表情を浮かべながら、じっと自分の指を見ていた。
「そんな顔しないでくれよ。少なくとも、俺は満ち足りてたから」
「そこで笑顔にならないでよ……怒れないじゃない」
俺の顔を見て、今度は気まずそうな表情を浮かべる。蒼の表情がコロコロ変わって、本当に楽しい。この感覚、本当に久しぶりだ。
「その流れだと、お花見の時には先生に黙って、あたしを外に連れ出してそうね……」
「いや、お花見の時は皆で桜の花びらをかき集めてきて、病室でぶちまけた。その後、先生にめちゃくちゃ怒られたけど」
「……もういいわ。頭痛くなってきた」
蒼は何かを諦めたかのようにため息をついて、天井を見るように頭を動かす。
「……あれ、何これ?」
その拍子に、枕元に置かれていたアルバムに気がついたらしい。
「ああ、アルバムだよ。イベントの度に皆が写真を撮ってくれたんだ」
身体を動かせない蒼に代わって、俺がそのアルバムを手に取り、見やすい位置で開いてやる。
「……あ。これ、誕生日?」
最初のページには、バースデーケーキを前にして、眠った蒼に思いっきり抱きついている藍の写真があった。
―――9/20、蒼ちゃん誕生日。と書き込みがされている。藍の字だった。
「そう。藍がめっちゃ幸せそうだった」
「写真からも伝わってくるわねー。藍ってば、めちゃくちゃ笑顔だし」
「それで、こっちはクリスマス」
次のページには同じく蒼を囲み、サンタやトナカイの格好をした俺や良一、天善の他、皆が笑顔で写った写真があった。
「あはは、羽依里のサンタ衣装、似合ってるじゃない」
「診療所の先生や看護師さんにはめちゃくちゃ引かれてたけどな……後悔はしてないぞ」
その次のページには、振袖を着た皆の写真。
「これはお正月ね」
「ああ。皆が振袖を着て、病室に来てくれたんだ」
「……でも、なんで羽依里の顔、真っ黒なの?」
「いや、直前まで天善と羽子板対決しててさ。余裕で勝てるだろうと思ったら、思いのほか強くて」
「なるほどねー。罰ゲームで墨をつけられちゃったと」
「ああ。それで写真に残っちゃうなんて、一生の不覚だよ」
俺は苦笑いしながらページをめくる。
「……あ、正月と来たら、次は節分ね」
次の写真には、節分豆を持った皆と、鬼の格好をした俺としろはが写っていた。
「羽依里はいいとして、なんでしろはが鬼の役してるの?」
「くじで引き当てちゃったらしい。『いつもならのみきなのに。たばかったな……』って恨めしそうに言っていたよ」
「のみきも鬼の役、似合いそうだしねー」
「本当だよな」
ところで、しろはは豆を投げつけられるたび『痛いっちゃ! 痛いっちゃ!』って言っていたけど、あれってなんだったんだろう。
……その後も、ひな祭りに七夕……眠った蒼を中心に、楽しそうな瞬間を切り取った写真が並んでいた。
「……皆、一緒に過ごしてくれたのね」
「ああ、そうだぞ」
「……置いて行かれてなんてなかった」
「当たり前だろ。皆、いつも蒼と一緒に居てくれたんだからな。ずっと起きるのを待ってた」
「……今度、何かお礼しないと……ね」
そう言いながら笑った拍子に、その瞳の端から涙が零れる。
「……変なの。嬉しいのに、涙が出るなんて」
蒼がゆっくりと、細い指でその涙をぬぐう。
「……俺だって」
「へっ?」
「……俺だって、ずっと待ってたんだぞ」
「……んっ」
その涙を見て急に愛おしくなり、俺は思わず、蒼を抱きよせるようにキスをしてしまう。
「ふあっ……い、いきなりしないでよ……久しぶりだし、恥ずかしい……」
「俺だって、一年振りだし」
「あ、あたしを起こすとき、したんじゃないの?」
「したけど、あれはノーカウントで。やっぱり、じっくり味わいたいし」
「……もう。しょーがないわねー」
今度は蒼の方から俺に身体を預けてくれた。俺はそれを確認して、もう一度唇を重ねる。今度は少し長めに。
「……眠ってても、羽依里の声はずっと聞こえてたわよ」
「そっか。なら良かったよ」
「すごく、安心できる声だし。大好きな声だった」
「そ、そこまで言われると、逆に恥ずかしいんだけど」
「ふふ。さっきのお返しってやつねー」
「そういう蒼の顔も、真っ赤な」
「う、うるさいわね……」
……たぶん、言ってる俺の顔も真っ赤なんだろうけど。
「……ねぇ、もう一回、いい……?」
「も、もちろん」
お互いに見つめ合い、今度はどちらからともなく、もう一度唇を近づけて……。
「……まったく。お熱いですね」
……その時、背後から藍の声がした。
「「……」」
目を見開いて、唇が触れる直前で固まった俺たちは、そのままゆっくりと声のした方を向く。
「ひょっとしたらこんな状況になっているかと思って、二度もノックしたんですよ? 二回とも無視とか、さすがに二人っきりの世界に入り過ぎじゃないですか?」
……どうやら、決定的瞬間を見られまくっていたっぽい。藍は顔を赤くしながら、一気にまくしたてる。
蒼も恥ずかしいのか、助けを求めるように、視線を泳がせまくっていた。
「そ、そうだ蒼、俺たちも少し、外へ散歩に行かないか?」
「へっ? あたし、動けないんだけど」
「俺がおぶってやるからさ」
「でも、それなら着替えないと」
「少しだけだし、このままでもいいじゃないか」
「そ、そう……ね。藍、いい?」
「……蒼ちゃんが望むのなら、いいですよ」
藍は思いっきり不服そうな表情をしていたけど、なんだかんだ言いながらも、俺が蒼を背負うのを手伝ってくれた。
「……よっと。蒼、大丈夫か?」
「平気よー」
俺は背中の蒼の様子を気にしながら、そのまま診療所の外へと向かった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……やっぱり、気持ちいいわねー」
蒼を背負ったまま、診療所の近くをぶらつく。
太陽はいつの間にか山の向こうへ陰り、頬を撫でる風は既に心地よかった。ちょうど夕飯時ということもあるのか、表を歩いている人の姿はない。日中は元気に鳴いていた蝉の声も、どこか遠くに聞こえる。
「ところで羽依里、重くない?」
「……思ってたより重い」
「そこは、思ったより軽い、でしょー?」
「……そうだな、軽い。軽すぎるよ」
当たり前だけど、一年前に背負った時より、さらに軽くなってる。
「これからは、頑張って太らないとな」
「……言い方。羽依里は太ってる彼女が好きなの?」
「え?」
「あたし、羽依里の彼女……なの、よ……?」
耳元でそう言われたら、動揺しないわけがない。たぶん、今の俺の顔は夕日に負けないくらい赤くなってると思う。
「わ、わかってる。俺の、大切な彼女だよ」
「えへへ。ありがと。大好きよ」
「お、俺も蒼のことが大好きだぞ」
「あ、う……」
お返しにそう伝えると、背中の蒼も言葉に詰まっていた。
「相変わらず、直球に弱いよな」
「め、免疫ないって言ったでしょ」
「寝てる間、散々直球投げたんだけど。覚えてない?」
「も、もちろん覚えてるけど……それはそれよ」
「じゃあ、これから毎日言って、免疫つけなきゃな。これもリハビリだぞ」
「そんなリハビリ嫌です―――!」
「み、耳元で叫ばないで……」
「あ、ごめん……」
……もちろん、蒼にはこの先、本当に辛いリハビリが待っていると思う。
大変だろうけど、それを乗り越えた先には、たくさんの楽しい出来事が待っていると信じている。
それは夏だけじゃなく、春も秋も。冬だって。
「……これからは、起きて、笑ってる蒼とずっと一緒だな」
「え、何?」
「なんでもないぞ」
俺は大好きな彼女のぬくもりを背中に感じながら、これから訪れる未来に思いを馳せていたのだった。
第一話・あとがき
皆さん、おはこんばんちわ。トミー@サマポケです。
今回より始まりました『蒼アフター』は、その名の通り、蒼ルートクリア後のお話になります。
プロローグから早速、甘々なシーンを挟んでみたつもりですが、いかがだったでしょうか。
次回からは一話ごとに季節のイベントを絡めつつ、原作の雰囲気を壊さないように話を進めていきたいと思います。
主な登場人物は蒼と羽依里、そして藍になると思うのですが、私は賑やかな話が好きなので、島の皆がたくさん絡んでくるようなお話も書きたいですね(*'▽')
そして、今回登場した空門碧さん。半分オリジナルキャラクターになりますが、空門姉妹の母親になります。
両親に名前を付けるか悩んだのですが、長編の予定なのに名前がないのも……と思いまして。
名前の由来は、藍や蒼と同じ、色の種類です。そらかどみどり……って、語呂も良い気がしますし。
また、次回では蒼たちの父親も登場する予定です。原作によると、昆虫学者で海外にいることが多い人らしいのですが、どんな感じにするべきか、今から頭を悩ませています。
では、今回のあとがきはこの辺りで。
一言感想や評価など頂けましたら、次話執筆への活力になりますので、よろしくお願いします。