・基本的な世界観としてはこち亀のノリで進んでいきます。その為不自然な点や矛盾点が多々あるかもしれません。
・こち亀に関して、筆者の知識の七割がアニメの為、出演キャラや設定に偏りがあると感じる方も居るかと思いますが、ご了承ください。
「ふぅ〜あちぃぃ…」
警察官の象徴であるブルーの制服をたくし上げ、手足を投げ出しだらしなく椅子に寄りかかるつながり眉毛の男。照りつける太陽を恨めしそうに見つめながら、企業の名前入りのチープな団扇を武器に暑さと格闘していた。
「くそ、こう暑くちゃ仕事もやる気にならねぇなぁ…」
「よく言うわ。暑くても寒くてもまともに仕事なんかしないくせに」
「そんな事はないぞ。こうして派出所に来て机に向かう。これを働いていると言わずになんと言うんだ」
もっともらしい事を言ってはいるが、彼の机の上には作りかけのプラモ、ゲーム、ラジコンに娯楽雑誌と、仕事の"し"の字も無い有様だった。
「先輩、そろそろ部長も来ますし、その辺にしておいた方が…」
「何、後もう少しだ。部長が来るまでには完成する」
「それにしてもまた戦艦作ってるの?全くよく飽きないわね…」
「違う!前に作ってたのはそうだがこれは戦艦じゃない!」
大砲を備えた船=戦艦という、興味の無い者にはありがちな間違え方ではあるが、プラモに心血を注いできた両津が聞き流す事はできず、身を乗り出し抗議の声を上げた。
「そんなの分かんないわよ。どれも同じに見えるわ」
「全くこれだから素人は…よく見ろ!そもそもサイズが全然違うだろ?これは駆逐艦と言ってな、大きさは戦艦より小さいが、速力を活かして偵察をしたり魚雷で攻撃するんだ」
「そんなに上手くいくものなんですか?」
「戦艦の主砲は小さい的を狙うのには不向きだったからな。特に魚雷攻撃は脅威で、大艦巨砲主義の象徴だった戦艦が消えた理由の一つなんだ」
「へぇ…今戦艦を保有している国が無いのはそのせいなんですね」
「寂しい事ではあるが、何事も時代に付いていけない物は廃れるのが世の習いってやつだ。ワシはそうならん為に、日々新しい知識を娯楽を通して取り込んでいる。プラモ作りもその一環という訳だ」
「呆れた…プラモデルなんて年中作ってるんだから、真面目に仕事した方が新しい知識が身につくんじゃない?」
「フン、警察の仕事なんかダメだ。考えても見ろ。仕事仕事とうるさい部長はどうだ?最新の知識どころか、十数年前の家電製品の動かし方すら怪しいんだぞ」
「みんな、おはよ…
「IT化が進む昨今、あのままじゃ部長はお荷物老人まっしぐらだ」
「りょ、両ちゃん…」
得意げに話をする両津に反比例し、二人の顔には徐々にぎこちなさが増してゆく。そんな様子には微塵も気が付かず、勢いに任せて軽口を叩きつづけた。
「その点ワシは違う。なんせ警察官は副業みたいなもんだからな。部長も少しはワシを見習って欲しいもんだよ全く──
「せ、先輩、うしろ…」
「あぁ?後ろがなんだって……ってまさか…」
不吉な予感を胸に背後に目をやると、そこには怒りに肩を震わせ、鬼の形相でこちらを睨みつける部長の姿があった。
「ゲッ、ぶ、部長ぉぉっ!?」
「…悪かったなお荷物で」
「い、いやぁ…あれは言葉の綾というかなんというか…」
「バッカモーンッッッ!!」
派出所中に響き渡る怒号に思わず目を瞑る両津。そんな姿などお構い無しに、痛烈な小言が耳に飛び込んでくる。
「ぐぇぇぇっ!み、耳がぁっ!」
「勤務中に遊び呆けている世界一のお荷物警官のお前に、そんな事を言われる筋合いは無い!なんだこのプラモとゲームの山は!小学生じゃないんだぞ!」
「ぶ、部長違うんです!これには深い訳が…」
「言い訳無用!全く世間は大変な事になっているというのに…」
「大変な事?最近何かありましたっけ?」
「もしかして、例の輸送船が襲われてるって言う事件の事ですか?」
「ああ。実は署の方で小耳に挟んだんだが、今朝方また被害が増えたそうだ」
近頃日本近海で起きている謎の船舶襲撃事件。乗組員達の証言は突如砲撃を浴びせられたという物が殆どだったが、いくら警察や自衛隊が捜索してもそれらしい船は見当たらないという。
「へっ、なーんだ。ワシらの仕事とは関係ない話じゃないですか」
「このバカ!気持ちの問題だ気持ちの!それに本庁の方からも、同一犯によるテロ行為に警戒するようにお達しが来ているんだ。お前もこんな所で油を売ってないで、パトロールにでも行ってこい」
「えぇ、嫌ですよこの暑い中。第一プラモが──」
「ええい、うるさい!つべこべ言わずにさっさと行ってこんかっ!このバカもんが!」
「わ、わかりましたよ!行けばいいんでしょ行けば!中川、お前も来い!」
「──ったく…部長め。口を開けば人の事をバカ、バカって」
「まぁまぁ先輩。今日は没収されなかっただけよかったじゃないですか」
「…それもそうだな。よし、石頭の部長の事なんかほっといて、どっかでかき氷でも食おうぜ」
渋々パトロールに出た両津だったが、現在の時刻は昼時を過ぎた所。強く照りつける西陽によって、まるで体内の水分を直接吸い出されているような感覚に見舞われてくる。
「それにしても本当に暑いですね。これは40度超えてるんじゃ…」
「中川、ちょっとそこらで休憩でもしようぜ。この先の公園なら木陰が……ん?」
「先輩?どうしたんですか」
「いや…気のせいか?」
何気なく見つめた十数メートル先の交差点。行き交う車の中で、何か小さな黒い陰がふわふわと浮かんでいるように見える。
(蜃気楼を見間違えたのか?……ん!?いや違うぞ!な、なんだあれは!?)
気のせいなどではない。そう確信した時、彼の足は既に動き始めていた。
(しめた!こいつは金になるかもしれん!)
「あっ、先輩!一体何が…」
「いいから早くこい!」
相手も両津達に気づいたのか、サッと向きを変え逃げるように飛び去って行く。
「あっ、こら待ちやがれ!」
この男の金が絡んだ時のパワーは計り知れない物がある。先程暑さでへばっていたのが噓のように、隣を走る自転車や原付、果ては自動車さえも軽々と追い越してゆく。そんな陸上選手も真っ青な敏捷さを見せる両津を見て観念するかのように、相手は小さな神社に入った所でこちらに向き直り、ふわりと地面に降り立った。
「よし…やっと観念したか。それにしてもなんだこいつは…?」
両津の前に立っていたのは、軍服を身にまとった少女。少し茶色がかった髪を後ろにまとめ、モスグリーンのジャケットと同色のスカートという出で立ちである。これだけならまだ普通?なのだが、その身長は15cm程しかなく、まるで人形のようだった。
「お前名前は?どっから来たんだ?」
「──!───!」
手始めに簡単な質問をしてみるが、手足をバタバタと動かすばかりで会話にならなかった。
「せ、先輩!はぁ…はぁ…やっと追いついた…急に走り出してどうしたんですか?」
「ほら、こいつを追いかけてたんだよ。これ以上は逃げないみたいだからさっきから話しかけたりはしてるんだが、まるで会話にならんのだ」
「えっ…先輩、誰と話してるんですか?」
「だから、目の前のこいつだって───
「誰もいませんけど…」
「はぁ?今目の前にいるだろ。ほら、今ワシの手に乗ってるこいつだ」
彼女の襟をつまみ上げ中川の目の前に突き出してみたものの、中川の反応は変わらない。事実、彼の目にはその少女の姿は映っておらず、両津の行動は一人芝居としか思えなかった。
「…何も見えませんけど」
「ど、どうなってんだ?こいつはワシにだけ見えてるって事───ん?こいつよく見たらあっちに指を指してるんじゃ…」
初めはただ無意味な動作だと思っていたが、よく見ると小さな人差し指を境内の方に向け、何かを伝えようとしている。それが何を意味しているのかは分からなかったが、とにかく行って見るより他なかった。
そして境内の裏手に回った時、指を指していた理由はすぐに理解できた。
「あっ、先輩!あそこ!」
「分かってる!」
二人の目に飛び込んできたのは、木の幹に寄りかかっている一人の少女。遠くからでも分かる程顔色が悪く、幹に体を預けぐったりと座り込んでいる。
「酷い熱だ、それに汗が出てない。典型的な熱中症だなこりゃ。中川、急いで水買って来てくれ!」
「わかりました!」
「ううっ…あ、あの…どなたですか…?」
「ワシは警官だ。お前、自分の名前とこの場所は言えるか?」
「な、名前は…あ、明石です。場所は…すみません、分からないんです。道に迷っちゃって…」
「よし、とりあえず意識はあるみたいだな」
「あ、あの…ありがとうございます…」
「いいって事よ。礼ならワシじゃなくこいつにしてやれ」
「えっ…!?も、もしかしてあなた…その子が──」
「先輩!買ってきました!」
「よし、お前自分で飲めるか?」
「は、はい。そのぐらいは…」
「このまま病院に連れて行きますか?」
「いや、意識はあるようだから大丈夫だろう。ここからなら派出所の方が近い。ほれ、ワシの背中に乗れ」
「は、はい…すみません…」
「よっこらせと……ん?」
両津が立ち上がると、それに合わせて地面にカツンカツンと硬いものが当たる音がする。音のする方を見てみると、少し大きな石が転がっていた。拾い上げてみると数本の釘やピンが張り付いており、磁気を帯びている事が分かる。
「何だこりゃ?しかも紐がついて…」
「先輩、これって彼女のでしょうか?」
「ん?なんだ、リアカーじゃねぇか」
「あっ、そうです、私のです!」
先程は気がつかなかったが、彼女の座り込んでいた木の裏には木製のリアカーが置かれており、中には穴のあいた鍋や傘の骨などがこれでもかと詰め込まれていた。
「ガラクタばかりじゃないか。こんな物集めてどうするつもりだ?」
「そ、それはですね……ううっ、頭が…」
「あぁ、分かった分かった。話は後にしよう。中川、悪いがそれも引っ張って来てくれ」
「───って事があったんだ」
「へぇ。僕が居ない間にそんな事があったの」
パトロールの間に出勤して来た寺井を交え、先程の少女の事についてあらかたの説明をした。
「ワシはてっきり両津が人攫いでもして来たのかと…」
「んな事する訳ないでしょうが!」
失礼千万だと抗議するものの、日頃の信用の無さからか素知らぬ顔で流されてしまった。
「でも相当疲れてたのね。よく眠ってるみたい」
「見たところ学生さんみたいですけど…こんな制服はこの辺りじゃ見たこと無いですね」
「そんな事よりコイツだよコイツ!お前らホントに見えないのか!?」
机の上にちょこんと座る小さな少女を指差すが、やはり両津以外には全く感知出来ないようで、部長らは疑いの眼差しを向けていた。
「まだそんな事を言ってるの?」
「ホントなんだって!こんぐらいの背丈の小人が──」
「止めんか両津!いつまでもそんな子供のような噓を…」
「先輩、その彼女ってどんな姿なんですか?」
「よし待ってろ。今紙に描いてやる…」
「中川、信用せんでいいぞ。あいつの事だ。またよからぬ事を考えているに決まってる」
「でも倒れていた彼女を発見したのは事実です。それに、こんな嘘をついても先輩が得をする事なんてないと思うんですよ」
「それはそうだけど…」
中川の言葉には耳を傾ける部長らに憤りを覚えたものの、かと言って見えないのであれば信じさせる術もない。歯がゆい思いを噛み締め、両津はメモ用紙にスラスラとペンを走らせた。
「よし、完成したぞ……って痛ててっ!な、何すんだ!つねるんじゃない!…何?全然似てない?もっと上手く描け?馬鹿言うな!漫画家志望だったワシの絵に間違いはない!」
「何よこれ?全然可愛くないじゃないの」
「本当にそんな姿なんだからしょうがねぇだ───痛てっ!手の皮を引っ張るなっての!」
「ぶ、部長、僕もホントのような気がしてきたんですけど…」
「う、ううむ…」
絵の出来栄えは酷いものだったが、両津のリアクションは嘘をついているようには見えなかった。とはいえ、それを部長らが簡単に信じられる程、普段の両津の態度は好ましいものではないため、向けられた疑いが晴れることはなかった。
「あ、あの…」
そんな時、奥の部屋からあの少女が顔を覗かせた。
「あっ、よかった!気が付いたのね」
「はい。昼間の事はよく覚えてないんですけど、私と妖精さんが色々ご迷惑おかけしたようで…申しわけありませんでした」
「いいのよそんな事…って、妖精さん…?」
「その机の上の子の事です」
「な、何!?それじゃあ君、小人が見えるのか?」
「はい。その子は私が連れてきたので…」
「それじゃあ両ちゃんの言ってる事は…」
「ほら見ろ!やっぱり本当だったじゃねぇか!」
「でも両さん、やっぱり僕には何も見えないよ?」
「無理もないです。本来普通の方には見えないはずですから」
「こいつは一体何者なんだ?」
「本当は外部の方に話すのは良くないんですが…皆さんにはお世話になりましたし、話さない訳にはいかないですよね。ええっと…何から話せばいいのかな…」
「えーっとつまり…貴女達艦娘は秘密裏に深海棲艦と戦ってきたという事でいいのかしら?」
「はい。その認識で大丈夫です。そっちの子は妖精さんといって、彼女達の力を借りることで、深海棲艦達と戦えるんです」
「そのさっきから出てくる深海棲艦というのは?」
「あっ、そうでした。皆さんはご存知ないですよね。深海棲艦は世界の様々な海域に現れ、無差別に船舶を攻撃する怪物です。国家機密の為一般には公表されていませんが、最近は特に活動が活発になり、世間にもその被害が認知され始めています」
「それじゃあ最近の船舶襲撃事件も、その深海棲艦が原因なの?」
「恐らくそうだと思います。それに伴って資源も乏しくなって来たので、私が鉄資源を集めようと回っていたのですが…何日も道に迷ってしまって…」
「それじゃあ、あのリアカーと腰に下げていた磁石は…」
「ええ。こうして鉄を集めると本に書いてあったので…」
「がばいばあちゃんかお前は!今時回収業者だってあんな集め方はせんぞ」
「うっ…た、確かに効率が悪いとは思ってたんですよね…」
(しかしワシとこいつらにしか見えんとはな。これでは金儲けには使えんな…)
「でもそこまでして資源を集めなきゃならないなんて、そんなに戦況が悪いの?」
「…はい。艤装の運用には莫大な資源や燃料が必要ですし、深海側の活発な活動によって、支給される物資だけでは厳しくなって来ていまして…」
「ん?ちょっと待て、自衛隊は何をやってんだ?そこまで大事になってるなら出動するはずだろ」
「駄目なんです。自衛隊の方が本格的に動いたりすれば、多くの人にその事実が知れ渡る事になります。もし未知の生物が日本近海で暴れ回ってるなんて知れ渡ったりしたら、日本中大騒ぎになってしまいます」
「だがもう被害は出ているんだ。そんな事を言ってる場合では…」
「何より深海棲艦は普通の電探では探知出来ないんです。妖精さんの力を借りたものでないと…」
話が進むにつれ、彼女の声には段々と張りが無くなってゆく。まだまだ遊び盛り高校生のような姿とは裏腹に、切迫した状況という事がひしひしと伝わってくる。
「せめて私達を指揮してくれる提督がいらっしゃれば…」
「提督って、何か条件があるんですか?」
「そうですね…まず司令官の仕事は激務ですから、バイタリティのある方で…それから深海棲艦とは長い戦いになるので、諦めない不屈の心も必要ですね。あとは生命力。実際に矢面に立つ訳では無いですけど、いつ危険な目に合うかわかりませんから。…あっそうだ、それと妖精さんが見えないと駄目なんだった!」
「バイタリティがあって…」
「不屈の心を持ち」
「強い生命力…」
「妖精さんが見える…?」
「おい、お前らなんでワシを見るんだ?…ま、まさか…」
「両さん、力になってあげなよ」
「ふざけるな!誰が進んでそんな危ない事するか!それにワシは警察官だぞ、他の業務が出来ないだろうが!」
「心配はいらん。お前が居なくなった所で誰も困りはせん。むしろ始末書を提出する手間が省けるというものだ」
(ぶ、部長めなんて事を…)
微塵も名残惜しさの感じられない口調でピシャリと言い放つ部長と、それに対し言い返せない自分に無性に腹が立ってくる。
「それに両ちゃんは船とかに詳しいし、それでいて妖精さんが見える人なんてそうは居ないわ。これはきっと、両ちゃんが提督をやれって言う神様の導きよ?」
「クソ…他人事だと思って好き勝手言いやがって…ワシは絶対やらんぞ!」
「皆さん!…いいんです。これは私達の問題ですし、本当に大変な仕事ですから…支給されるお金だって、月に二千万円ぐらいしか───
「何っ!?二千万円!?」
たちまち目の色が変わり、明石の肩を掴む両津。この金があれば何ができる?プラモ、ゲーム、ラジコン、高級車…様々な物が彼の頭の中を駆けずり回った。
「お前、今二千万円って言ったか!?」
「え、ええ。言いましたけど…」
「よし!ワシが提督をやってやるぞ!!」
「えっ、い、いいんですか!?でも…」
「任せろ。ワシも市民の安全を守る警察官として、海を荒らす無法者に悔しい思いをしていた所なんだ…」
「両津さん…!そこまで私達の事を…」
両津の真剣な言葉に思わず涙腺が緩む明石。その瞳に映っている者が艦娘ではなく福沢諭吉である事など、この時は知る由もなかった。
「部長!不肖両津勘吉、日本の平和と安全を守るため、及ばずながら彼女らの力になって参ります!」
(よしよし…まさか二千万円が自らやって来るとは…へっへっへ…)
大金に目が眩み条件反射的に飛びついてしまった両津。こうして名物巡査長の提督業が始まろうとしていた。果たして彼の向かう先は大金持ちか、それとも───