こちら葛飾区亀有公園前鎮守府   作:めんづくり

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人と兵器の狭間で②

「ただいまー。…あれ?」

 

遠征任務を終え部屋に戻って来ると、先に任務を終えたはずの三人の姿はありませんでした。シーンと静まり返ったお部屋の中、振り子のコツコツと言う音を聞いていると、世界中からみんなが消えてしまったのかも、なんて想像してしまいます。

 

そう思うと何だか急に寂しくなって、たまらず気を紛らわす物を探しました。でもこの部屋にそんな気晴らしになるような物はありません。…ただ一つを除いては。

 

「……少しだけなら…」

 

私はそう自分に言い聞かせ、勉強の本に紛れ込ませた雑誌を手に取りました。

大きな字で葛飾区と書かれたその表紙には、とても立派な建物、鳳翔さんの所でも見た事の事ない料理、楽しそうに笑う人たちがたくさん載っています。

そして、中でも私の心を惹きつけてやまないのは、その背景に映る大きな花火でした。

 

(凄いわ…)

 

私には花火がどんな風に空に描かれるのかわかりません。でも、町や川を色とりどりに照らしているところは、ただ綺麗という言葉だけでは現せませんでした。

 

もしも願いが叶うなら、また海の底に帰る前に私達四人で花火を…

 

 

 

 

 

 

 

『ダメじゃない電!提督の前で花火の事なんて話しちゃ…!』

『…ごめんなさいなのです』

『まぁまぁ雷、その辺にしてあげなよ』

『そうよ。それにあの提督はいい人そうだし、ちょっとぐらいなら…』

『ダメよ!』

「雷…」

『それでもし提督が怒ったらどうするの!?私達駆逐艦なんて、いくらでも代わりは居るのよ!もしみんなにもしもの事があったら…私…』

『雷ちゃん…分かったのです。私はもうみんなを心配させるような事はしないのです』

 

 

 

 

 

 

────

──

 

 

 

 

 

 

…だめよ雷。電には昨日ああ言ったのに、私がこんなんじゃ示しがつかないわ。

そう思い雑誌を閉じようとしたその時でした。

 

「おーい!雷!」

 

バンッと勢いよく開け放たれた扉の前に立っていたのは、法被を着た提督でした。

 

「し、司令官!?どうしたのその格好…」

「そりゃあお前、法被に半だこと言ったら、祭りに決まってんだろ?」

「ちょっと両ちゃん!女の子の部屋なんだから少しは遠慮して入りなさいよ!」

「んな事言っても、早くしないと始まっちまうだろ?」

「全くもう…デリカシーが無くてごめんなさいね?」

「い、一体どういうこと…?」

「雷!帰ってきてたのね!」

「暁!それに響に電まで…」

 

提督の言葉の驚きが収まらない内に、知らない女性の方が浴衣を着た電達を連れてやって来ました。もう何が何だか分からなくなってきたわ…

 

「驚かせてごめんなさいね?私は秋本麗子。両ちゃんと同じ派出所で婦警をやってるの」

「ほら麗子、挨拶なんて後だ!さっさと雷にも浴衣を着付けてやれ」

「はいはい。それじゃあ外で待ってて頂戴」

 

提督が外に出て、私と同じように困った顔の三人と麗子さんが残りました。

 

「みんな、これは一体…」

「それが私達にもよく分からないのよ…」

「えっ、みんな両ちゃんから何も聞いてないの?」

「は、はい…私も突然の事で…」

「やっぱりね。そんな事だろうと思ったわ。実は今日ね、亀有で大きなお祭りがあるの。はい、腕を上げて」

「は、はい…!」

「両ちゃんはそこにみんなを連れていきたいのよ」

「えっ…ええっ!?」

「ふふっ、意外だった?ああ見えて面倒見がいいのよ。今度は後ろを向いてね」

「でもどうして提督はそんな事…」

「両ちゃんはお祭りが大好きだから、きっと頑張ってる皆を連れて行きたかったのよ。…はい、完成。うん!とっても可愛いわ」

 

着せてもらった浴衣は、綺麗に染められた薄橙の生地に紫陽花の柄が散りばめられています。見た目だけでなく肌触りもとても心地よくて、浴衣を着たことのない私達でも質の高い物だとわかる程でした。

 

「すごい…こんなの初めて着たわ…」

「終わったか麗子。おっ雷、よく似合ってるじゃないか」

「あ、うん。ありがとう…」

「それにしても両ちゃんもなかなかセンスあるじゃないの」

「知り合いに呉服屋をやってる奴がいてな。子供用のいい浴衣を借りられたんだ。あいつはワシに恩があるから喜んで貸してくれたぞ」

「とか言って、また強引に借りたんじゃないの?」

「へっへっへ、まぁそんな事はいいじゃねぇか。麗子、早速会場まで送迎頼む」

 

 

まだまだ聞きたい事はありましたが、嵐のように色々な事が起こりすぎて、私達は言葉が出ないまま提督について行くしかありませんでした。

 

 

「な、なんだいこの車は…!」

「とっても長いのです……」

「おっ、リムジンじゃねぇか。でも祭りに行く車にしちゃあ目立ちすぎじゃないのか?」

「圭ちゃんに六人乗れる車を借りようとしたら、すぐに出せるのはこれしかないって言うんですもの」

 

リムジン……そういう車があるという事はなんとなく知っていましたが、実物は初めて見ました。

外見はすごくピカピカで、鎮守府に置いてある車とは全然違います。室内も革のシートやシャンデリアがついていて、まるで高級なホテルの様でした。相も変わらず開いた口が塞がらない私達でしたが、暁だけは

 

「リムジンと並ぶ麗子さん…とってもレディだわ…」

 

と、呟いていました。

 

「よし、それじゃあ出発だ!」

 

提督の掛け声で車がゆっくりと出発します。

そんな私達の目の前に、鎮守府の大きな門が現れました。それを見た時、私はハッとして思い出しました。

 

 

 

『いいか、お前達艦娘の中には、なまじ人間の見てくれを持ってしまったが故に、自分達が我々人間と同じであると勘違いしている者がいる。だが忘れるな。お前達は兵器。人間の為に命を惜しまず戦う事が全てなのだ。それ以外に余計な事を考えるな』

 

 

 

 

 

(そうだ…私達は…)

 

 

 

「…提督、やっぱりだめよ」

「ん、どうした急に…」

「司令官、私達はね…よっぽどの事がないと外には────

「…知ってるよ」

「えっ…」

「昨日大淀や鳳翔から大体の事は聞いた」

「そ、それじゃあどうして…」

「そんなもん決まってるさ。祭りに行きたいんだろ?外に出る理由なんぞ、お前のその想いだけで十分じゃねぇか」

「提督…」

「それにこれは提督命令だ!祭りに行くぐらいでピーチクパーチク文句を垂れる奴は誰だろうがワシがぶっ飛ばしてやる!」

 

その言葉を聞いてみんなポカンとしていたし、私もなんて無茶苦茶な事を言っているんだと思いました。

でも私達の為にそんな事を言ってくれる司令官がこの上なく頼もしくて、それがまた嬉しくて。

半分答えになっていないような気もしたけど、いつの間にかみんな笑っていました。

 

「……しょうがない。司令官の命令じゃしょうがないわ!」

「暁ちゃん…!」

「こうなったら楽しみましょう!」

「うん。私も行きたい所があるんだ」

「あっ、ずるいわよ響!私だって行きたい所が───

 

 

 

 

 

こうして、私達の"人生"が始まったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ?これが音に聞こえた浅草の顔、雷門(かみなりもん)だ。雷門(いかずちもん)じゃな──

「ひ、人がいっぱいだわ!」

「それに外国の人もいっぱいいるのです!」

「落ち着いてみんな!迷子にならないように…あれ?みんなどこに行ったの!?」

「田舎者みたいな反応だな…まぁ無理もないか」

 

麗子さんに近くまで送ってもらいましたが、花火まではまだまだ時間があるからと、司令官が浅草を案内してくれることになりました。でも読み方が雷門(いかずちもん)じゃなかったのはちょっとショックだったわ…

 

「折角来たんだ。仲見世通りも少し見ていくか。お前達も好きなもの買っていいぞ」

「でも司令官、私達お金を持ってないわ」

「何?だってお前……まさか」

「司令官?」

「お前達、もしかして給料は…」

「…?えぇ。貰ってないけれど…」

(な、なんて所だ。今月の収支は見てなかったが、まさかタダ働きだったとは…ブラック企業も裸足で逃げ出すレベルだなこりゃ…)

 

「…司令官?」

「あ、あぁ気にするな!今日の分ぐらいはワシが何とかしてやる」

「えっ…でも…」

「金がないんじゃ祭りの楽しみも半減だ。ほれ、二万やるからこれを分けて使え」

「あ、ありがとう司令官!」

 

意気揚々と門を潜り抜けると、真っ直ぐな道の両側に、色とりどりのお店が見えなくなるまで続いていました。

 

「す、凄いのです…」

「色々ありすぎて、どれから見ていいのか分からないな」

「あんまり金使いすぎるなよ。屋台で使う金が無くなっちまうからな」

「おや、両さんじゃないかい!どうしたんだいその子達は?」

「おお、婆さんか。いやまぁその、なんだ、ちょっと知り合いの子の面倒をな」

「こ、こんにちは…!」

「はじめまして…」

「おお、挨拶ができて偉いねぇ。浅草は初めてかい?」

「は、はいなのです」

「そうかいそうかい。それじゃあ、これを食べてっておくれ」

「これは…?」

「人形焼きだ。中に餡子が入ってるんだ。食ってみろ」

「はむ……うん!凄く美味しいわ!」

「見た目も楽しいし、餡子がいっぱいなのです!」

「気に入ってくれたかい?それならこっちも持ち帰って、みんなで食べとくれ。お金は取らないよ」

「そんな!こんなにいっぱい貰っては…」

「いいのいいの。初めての浅草なんだろ?今度は家族みんなで来ておくれ」

「おばあちゃん…」

「ありがとうございます!」

「悪いな婆さん。こんなに貰っちまって」

「両さんには昔世話になったしね。これぐらいどうってことないよ」

 

「おっ、両さんじゃねぇか。こっちにも寄ってくれよ」

「こっちにも来いよ両さん!」

 

司令官はここじゃとっても顔が広いみたいで、その後も、私達は色々な人に話しかけられました。最初はおっかなびっくりだった私達ですが、次第に積極的にお話をするようになりました。

その結果、ほとんどお金を使っていないのに…

 

 

「お土産が凄い量になってしまったわ…」

「し、司令官、大丈夫なのですか?」

「やっぱり私達も持った方が…」

「い、いやいい。どうせこの量じゃ分担して持っても祭りどころじゃないからな。この辺の知り合いに預かっといてもらう」

 

そんな事をしている内に、段々と空が紺色に染まり始め、お祭りの会場に着く頃には完全に太陽は隠れてしまいました。鎮守府なら静寂に包まれるはずの時間帯だけど、みんなの活気が衰える事はありませんでした。

 

「わぁ…これが…」

「お祭り…というものか」

「明るいわね…」

 

数え切れない程の屋台がひしめき合う様子は、雑誌で見た通りの景色でした。

 

「私はわたあめがいいわ!」

「暁、たこ焼きも美味しそうだよ」

「りんご飴よ!りんご飴があるわ!」

「後でもいいですけど、電はチョコバナナが食べたいのです!」

「はははっ、好きなだけ食え食え。だがお前達、食い物だけが祭りじゃないぞ?」

「そうなの?」

「他にはどんなのがあるのですか?」

「そうだな…まずは───

 

 

 

 

 

「そーっとそーっと……やった!ヨーヨー取れたのです!」

「ふふん、私は二つよ!」

「甘いよ雷。こっちは三つさ」

「へっへっへっ、見ろ、ワシは一度に六つだ!」

「す、凄いわ司令官!」

「全く、両さんには叶わないね。…そっちの嬢ちゃんは取れそうかい?」

「ま、まだこれからよ!」

「取れなかったら、一つだけ好きなのをあげるからね」

「だ、大丈夫よ!暁にかかればこれぐらい……あっ…」

「またこよりが切れちゃったのです…」

「うう…」

 

 

 

 

「金魚さん、動かないで…あっ!網が破れちゃったのです…」

「雷のも破れちゃったわ…司令官、何かコツとかないの?」

「ポイには裏表があるんだ。和紙の貼ってある方を上にして掬うと破れにくいぞ。後は深追いしない事だな」

「へぇ…これはポイっていうのか…」

「何だか夕立さんみたいなのです」

「見てろ、ワシにかかれば……てりゃあっ、あよいしょ、ほい、そりゃあ!」

「す、凄い!あっという間にお椀が一杯に…」

「よし…雷も……あっ、取れたわ!」

「電もできたのです!」

「雷も電も上手いね。…暁は取れそうかい?」

「ま、まだよ!でも見てなさい、暁は大っきいのを狙うんだから!……えいっ!あっ…」

「見事に破れてしまったね」

「君、よかったら破れない網使うかい?」

「うう…」

 

 

 

 

 

 

 

「今度は射的か」

「うーん…もっとできるかと思ったけど、艤装とは勝手が違うわね…」

「あっ、お菓子が取れたのです!」

「よし…今度は私も……Огонь!」

「うう…当たったのに商品が動かないわ…」

「何だ暁、あの熊のぬいぐるみが欲しいのか?」

「べ、別にそういう訳じゃ…!それに、あの大きさじゃ全然動かないし…」

「そう照れるなって。それにしてもいきなり特賞を狙うとは、中々チャレンジャーじゃないか。その心意気を買ってワシが取ってやろう」

「げっ、りょ、両さんじゃないか」

「へっへっへっ、他の奴から散々搾り取ったんだろうが、ワシが来たからにはそうはいかん!現職の警察官を舐めるなよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっはっはっは!大量大量!」

「結局、棚の商品は取り尽くしてしまったね」

「凄い、凄すぎるわ司令官!」

「何、このぐらいワシにかかれば朝飯前よ。…おっと忘れてた、このぬいぐるみは約束通り暁の物だ」

「えっ、ほ、ホントに!?やった!やった──

「ふふっ、暁ちゃんよかったですね」

「フ、フン!私は別にどっちでもいいんだけど、私が貰わないとみんなが喧嘩しちゃうからね!仕方ないから私が持っといてあげるわ!」

「分かった分かった、そういう事にしといてやるよ」

「そう言えば司令官、花火はまだ始まらないの?」

「おっ、そういやそろそろだな。いい場所を取られちまう前に土手の方へ行くとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻─居酒屋鳳翔

 

 

「今頃暁ちゃん達どうしてるでしょうかね…」

「そうね、時間的にも今頃花火を見てるんじゃないかしら」

「それにしても提督…まさか昨日の今日でもう外に連れ出してしまうなんて…」

「もしかして大淀さんも暁ちゃん達が羨ましい?」

「そ、そういう訳では…」

「ふふっ、いいんですよ隠さなくても。本音を言えば私だって行きたかったですから」

「そうなんですか?」

「きっと楽しいと思いますよ。綺麗な浴衣を着て、美味しい物を食べながら花火…想像しただけで素敵じゃないですか。でも、夢を諦めてしまった私には手が届かないのでしょうけどね」

「鳳翔さん…」

「せめてあの子達には…今日ぐらい夢を見せて欲しいものです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土手に腰掛けた私達は、花火が上がるのを今か今かと待ち焦がれていました。ずっと憧れ続けた瞬間がもうすぐ訪れるのかと思うと、どうしてもそわそわしてしまいます。

落ち着かない私達を見かねて司令官が何度もなだめてくれましたが、胸の高鳴りは抑収まりません。

 

そして、その瞬間は突然訪れました。ヒュウッと甲高い音が聞こえたかと思うと、あっという間に夜空に大輪の花が開きました。

 

そしてその残響が冷めない内に、二発目、三発目と次々に打ち上がって行きます。そして花火は消えまでに様々な色に変化し、たちまち空は七色に染まりました。

 

「どうだ、初めての花火の感想は──ん?」

 

私達は司令官の声にも気が付かず、夢中になって空を仰ぎ続けていました。

短い命を繋ぎながら、懸命に私達を照らし出すその姿を見とれてしまい、私達は感想を口にする事ができませんでした。

 

「…司令官」

「なんだ、雷」

「私達を連れてきてくれて、本当にありがとう。こんな楽しい思い出ができて…このことは一生忘れないわ」

「へへ、全く大袈裟だな」

「本当よ。これでもし明日沈んだとしても…悔いはないわ。だから…」

「…いや、案外忘れちまうかもしれねぇぞ」

「えっ…」

「なんせ来年も再来年も、また花火を見に来るんだからな。最初の祭りの事なんざ、すぐに頭から出てっちまうさ」

「司令官…」

「だからそう簡単に沈むなんて言ってくれるなよ。祭り以外にも楽しい事は山ほどある。お前達のやりたい事、みんなやってみりゃいいんだからな」

「司令官……うん……そうね」

 

…おかしい。目頭が熱くて司令官の姿が歪んでよく見えないわ。

 

「あーあー、泣くんじゃねぇって。涙を溜めてちゃ折角のスターマインを見逃しちまうぞ?」

「す、すたーまいん?」

「何百発の花火を短時間に打ち上げるんだ。凄い迫力だぞ」

「そ、そんなのがあるの!?」

「聞いただけでも凄そうなのです…」

「おっ、そろそろ来そうだぞ!スターマインだ!お前ら、目逸らすなよ?」

 

 

 

 

 

 

──────

────

──

 

 

 

 

 

─い──ち─、─いか─ち──おい雷、鎮守府に着いたぞ」

「…んん……しれーかん……まだ眠いわ……」

「ダメだこりゃ、全く起きる気配がないぞ」

「こっちもダメね。響ちゃん以外は全員寝ちゃってるわ」

「うーむ仕方ない。ワシが全員おぶっていくとするか」

「司令官、私も景品を持つよ」

「おお、すまんな響。それじゃあその袋だけ持ってきてくれ」

「ふふっ、何だかそうしていると、みんな両ちゃんの子供みたいね」

「茶化すなよ。だが今日はありがとな麗子」

「いいのよこのぐらい。こういう頼みなら喜んで手伝うわ。それじゃあまたね両ちゃん」

 

両津は景品を手に持ったまま、さらに背中と両脇に雷達三人を抱えると、彼女らを起こさないようにゆっくりと歩き出して行く。鎮守府の明かりをバックに歩を進める姿は、まるで本当の親子のようだった。

 

「ふぅ…やっと部屋についたな…」

「司令官、改めてお礼を言わせて欲しい。今日は本当にありがとう。花火も想像してたよりずっと綺麗だった。…欲を言えば鎮守府のみんなにも見せてあげたかったな」

「喜んでくれたようでよかったよ。しかしまぁ、響だけでも起きててくれて助かったよ。前から思ってた事だが、お前が一番お姉さんって感じだな」

「そうでもないさ。こう見えて頼りになる時もあるんだ。やっぱり私達の姉さんは暁さ」

「本当か?今はこの中じゃ一番爆睡してるがなぁ」

「その内司令官にも分かるよ。それじゃあおやすみ、司令官」

「おう。また明日な。あぁ、それからな響」

「ん…なんだい?」

「花火、他の連中にも見せてやるから安心しろ」

「えっ…?」

「じゃあな。お前も早く寝ちまえよ」

「う、うん…そうするよ…」

 

荷物と暁達を降ろして部屋から出た両津だったが、今度はどっと疲労感がのしかかって来た。

 

「ふぅ…やっぱりチビ共のお守りは疲れる…」

「提督、今日はお疲れ様でした」

「ああ、でもまぁなんとか──ってほ、鳳翔!それに大淀まで…」

「お祭り、どうでしたか?」

「な、何の事だ?ワシはちょーっと見回りをしていただけで…」

「ふふっ、そんなに隠さなくたっていいんですよ?」

「そうです。一言言ってくれれば、私達もお手伝いしたのに…」

「ハハハ…わ、悪かったな…」

「提督、お店はまだ開けてありますから、よかったら来ませんか?」

「いや、折角だがワシはこの後まだ仕事があるんだ」

「仕事…?でも今日分の書類はもう…」

「仕事といっても、ワシの個人的なもんだ。明日はお前達にとって特別な日になるからな」

「えっ…」

「なんて、カッコつけすぎちまったか?まぁ明日になりゃわかるさ。お前達も楽しみに待ってろよ!」

 

意味深な言葉を残して急ぎ足で走って行く両津。その姿を残された二人は唖然として見ている事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────そして結局、次の日の夕方まで提督からは何も音沙汰がありませんでした。

 

「えっ、提督がそんな事を?」

「えぇ。今回の事、明石はどう思う?」

「そう言われても…私だって提督と会ってまだそんなに経つ訳じゃないし…」

「それもそうねぇ…」

 

連絡がてら一応明石にも聞いてみましたが、やはり彼女も何も知らないようでした。さてどうしたものかと考えに耽っていると、頭上のスピーカーから音声が流れ始めました。

 

『あーあー、こちら提督だ。鎮守府内にいる全艦娘に告ぐ、至急正門の前に集合されたし。繰り返す、至急正門の前に集合されたし』

 

噂をすればなんとやら。私達の疑問を解消してやると言わんばかりのタイミングの良さでした。

 

私達が外に出た私達の前に現れたのは、演説台に立つ提督…それから提督の知り合いの方でしょうか、ガタイのいい男性が二人と、内股気味の細身な男性が下に控えていました。

 

(結局、提督は何をするつもりなんだろう…)

 

周りを見てみると、やはり提督のやる事については誰も知らないようで、集まった他の皆さんも不思議そうな顔をしていました。

 

「あー、みんなよく集まってくれた!今日はお前達に重大な発表がある!」

 

提督の言葉に一瞬どよめきが起こります。それもそうです、提督はまだこの鎮守府に来てから数日しか経っていません。そんな人がいきなり発表が重大なものだと宣言すれば、動揺しないはずはありません。

 

「その発表とはズバリ……この鎮守府の改革だ!」

 

「えぇっ…!?」

「すごいね大井っち、改革だってさ」

「何をするつもりなんでしょうか…」

 

「諸君らの生活についてだいたいの事は聞いた。今まで娯楽をほとんど知らないで生きてきたそうだな。だが、ワシがここの提督である限り、そんなつまらん鎮守府にするつもりはない!お前達はロボットでも兵器でもないんだ。仕事の時以外は好きにしていいと思ってる。だからワシはお前達艦娘の、外出の自由と給料制度を実施しようと思う!」

 

「外出の自由という事は、私達も街に出られるという事ですね!」

「それはナイスなアイデアネー!」

「凄いっぽい!」

 

盛り上がる私達の中、長門さんが声を上げました。

 

「待ってくれ提督」

「ん?どうした長門」

「提督の心遣いはありがたい。だが私達が深海棲艦と戦わなければならないのは事実だ。もし娯楽に現を抜かし、奴らに遅れをとるような事があれば──

 

「シャラァァァップ!!」

「なっ…」

 

提督の突然の大声に、私達も長門さんも驚きました。

 

「テレビもねえ、ラジオもねえ、マンガもねえ、つまんねえ、寝るしかねえって…お前らホントにそれでいいのか!」

「そ、それは…」

「この際だからハッキリ言うがな、ここの生活レベルは刑務所レベルだぞ!お前達はもう少し自分の境遇に不満を持つべきだ!それに目の前に楽しい目標があった方が、仕事も捗るってもんだろうが」

「そうよ長門。貴方だってこの前、私達は何のためにここにいるのかーなんて、神妙な顔で言ってたじゃない」

「陸奥…」

 

私は提督の話を黙って聞いている一方、声を上げて喜びたい自分がいることに気が付きました。そうだ…私だって本当は──

 

「この改革に当たってちょっとした景気付けを用意した。おい左近寺、本田、すぐに準備しろ」

「せ、先輩、ホントにやるんすか?」

「当然だ。じゃなきゃ昨日徹夜した意味がないだろ」

「提督、一体何をなさるおつもりですか?」

「ふっふっふ、見て驚くなよ、ワシが用意したのはこれだ!」

 

提督が指を指した方を見ると、たくさんの灰色の筒が一列に並んでいました。

 

「あれは…?」

「あっ、もしかして司令官、これって昨日の…」

「そう、打ち上げ花火だ。昨日のよりは少し小さいが、市販のものとは比べ物にならん程大きいぞ」

「へぇ、これが花火…」

「私、花火なんて初めてみるわ」

「これだけじゃないぞ?あの門を見ろ!」

「門…?」

「あの門はな、お前達を外に出さないために作られた、言わば監獄の門だ」

「監獄…」

「そうだ!そんなもんがあったんじゃ縁起が悪いからな。この門は爆破処理する事にした!」

「「ええっ…!?」」

 

衝撃の一言に耳を疑いました。でも確かに提督は言ったのです。門を"爆破"処理すると。

 

「で、でもどうして爆破する必要があるんですか?普通に解体したほうが…」

 

(まぁ当然の疑問だよな)

(せ、先輩、どう説明するんですか?)

 

「確かに、普通に解体しても結果は同じかもしれん。だが今日はお前達にとって特別な日だ!ワシが多少危険な目にあっても験を担いだ方がいいだろ?」

「テイトク…そこまでワタシ達の事…」

 

 

「全く…相変わらず口のうまい奴だな両津は」

「本当は解体費用を抑えたいからなんすよね…」

「…何か言ったかね本田くん?」

「い、いえ!なーんにも言ってないっす!」

 

「よし、それでは早速開始する!ボルボ!起爆装置を作動させろ!」

「了解!起爆装置、スタート!」

 

迷彩服を着た男性の方が高らかに宣言すると、足元の大きなレバーを押し込みました。その瞬間───

 

 

 

 

 

──ドォォォォォン!!

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁっっ!!」

 

体の芯まで響くような強烈な爆破音が耳に飛び込んできました。その刹那、同時に大量の土煙が辺りを包み込み、一時的に私達は視覚と聴覚を失ってしまいました。

 

そしてその視界が段々と晴れてきた頃、提督の怒った声が一番に響いてきました。

 

「ボルボォォォ!貴様どれだけ爆薬を入れたんだ!」

「い、いやあすまんすまん、結構頑丈そうな門だったから、つい炸薬量を多くしてしまって…」

「だからってこりゃどう考えても入れすぎだろうが!鎮守府を潰してゴルフ場でも作るつもりか!?」

「し、司令官!大丈夫ですか?」

「おうお前ら、ワシは大丈夫だ。そうだ、それより花火はどうなった!?」

「えぇ。多分大丈夫みたいネ。今の衝撃で倒れちゃったみたいだけド…」

 

金剛さんの言う通り、花火の筒はこちらを向いて倒れていました。

 

「ふぅ…よかったよかっ──

「あぁぁぁぁっ!!」

「何だ本田!急に大声を出して…」

「先輩忘れたんすか!?お金が勿体無いからって、爆薬と花火の着火スイッチを共同にしたんスよ!」

 

「あっ!そ、そうだったぁぁ!」

「そ、それじゃあまさかあの花火は…」

 

今この時非常にまずい状況だと気付いた時、既に筒の奥は真っ赤に燃えていました。

 

「み、みんな逃げろぉぉぉっ!!」

 

提督の大声と同時に発射された一発が、本田さんの頭を掠めました。それを皮切りに次々と弾丸が発射されていきます。そこからはまさに阿鼻叫喚の嵐。みんなが蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行きます。

 

「きゃあっ!なんなのこれぇ!?」

「な、なんだ!?敵襲かっ!」

「違うわ長門!提督の花火が暴走してっ───がっ……!

「大変よ!花火が陸奥さんに当たったわ!」

「陸奥、しっかりしろ陸奥ぅっ!!」

「あぁぁっ、い、今ので彼女のふ、服がぁっ!ぶふぅっ!」

「あ!この馬鹿ボルボ!こんな時に鼻血吹いて倒れるやつがあるかぁ!」

「こっちも扶桑と山城に当たってしまったよ!」

「誰か運ぶの手伝ってっぽい!」

「はっはっはー、提督も中々やるねぇ」

「北上さん!笑ってないで早く逃げましょうよ!」

「て、提督、なんとかしてくだ──きゃあっ!?」

「何とかって言ったって!うわっ!こう連射されたら…ひぇぇー!」

 

加農砲よろしくこちらに狙いを定めた弾丸は、休む暇も与えまいと私達に火を吹き続けます。砲撃戦をしているようなその光景は、雷ちゃん達の語っていた花火の美しさとはかけ離れたものでした。

 

「こ、これは…」

「はわわ…大変なことになったのです…」

「司令官大変よ!あっちの倉庫が燃えてるわ!」

「倉庫焼失および門周辺は壊滅状態…はぁ…これは私達の給料どころではなさそうですね…」

「ついでに、両津の給料もな」

 

 

「クソぉ、もう花火なんてこりごりだぁぁぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

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