今回からギャグ回です。こち亀の世界観をうまく表現できているかわかりませんが、これからも読んでいただけると嬉しいです。
花火暴発事件&城門爆破事件の数日後、なんとか門周辺および中庭の仮修復は完了させ、とりあえず一息つける程度には作業を終わらせた両津。しかしそんな彼を待っていたのは、溜まりに溜まった書類の山だった。
「くそぉ…数日やらなかっただけでこれかよ…」
「我慢してください。これでもお祭りに行ってた時の分は私がやっておいたんですからね」
それに加えてこの暑さ。この古びた鎮守府にクーラーなどあるはずも無く、火照った体を癒してくれるのは、窓から入り込む生暖かい風と、風鈴の音色のみだった。
しかし、人間は常に道具を使い進化して来た生き物。エアコンや扇風機が生まれる前から、手軽に暑さに打ち勝つ方法を生み出してきたのだ。
「提督、お待たせ」
「間宮さんからアイスクリーム貰ってきたっぽい!」
クーラーボックスを肩に下げて駆け込んできた二人。本人達もまだ食べていないようで、部屋に入るなりすぐに蓋を開けて中を覗き込んだ。閉じ込められていた冷気がふわっと二人を包み込むと、箱の中から様々な種類のアイスが姿を現した。
「おうサンキュー時雨、夕立!どれどれ…バニラブルーにダブルソーダ、クロキュラー…あっ宝石箱まであるじゃねぇか!……って、随分懐かしいアイスばかりだなおい…間宮のやつどっから仕入れたんだ…?」
「提督、これはどうやって食べるっぽい?」
「あぁチューチュー棒か。そいつはその細いところで半分に折るんだ」
「へぇ…こういうのもあるんだ…」
「んん……ぽいっ!よし、折れたよ時雨、一本あげるね!」
「ありがとう夕立。…んん…これは凄く美味しいね…」
夏に兄弟でアイスを分け合う二人。下町ではどこにでもある光景だが、彼女らにとっては生まれて初めての体験。目を輝かせながらアイスを頬張るその姿は、初々しさに満ちていてとても愛らしかった。
「それじゃあワシも食うとする──
「Heyテートク!ここにIce creamがあるって聞いたネー!」
「なんだ金剛四姉妹か。また暑苦しい奴らが来やがったな…ほら、アイスならここにあるぞ」
「Oh!これが噂のIceですカー!」
「お姉さま!早速食べましょう!」
「金剛さん…その前に出撃の報告をお願いしますね」
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「提督、遅くなりましたが今月の収支をご確認ください」
「ん、分かった」
大淀から書類を受け取ると、真っ先に収入の欄に目をやった。
(どれどれ…0が1.2.3.4.5.6.7……おっ、本当に2000万円入ってきてるじゃねぇか!)
(あっ!待てよ、だがよく見たらこりゃワシの給料じゃないぞ。ここから艦隊の運営費が引かれるのか…)
「クソ、明石のやつ騙しやがったな…!」
「…?提督、何かおっしゃいました?」
「い、いや別に…」
別に明石もそんなことは一言も言っていないのだが、この男の性質上聞き間違えるのも無理はなかった。
(まぁいい。2000万もあるんだ。上手く切り詰めれば一千万ぐらいはワシの物に…)
「えーっと、まずは建物の維持費だな。電気代、水道代、弾薬費、あっそうだ、壊した鎮守府の修理代も───
艦娘達の憩いの場である間宮食堂。艦娘達の宿舎から少し離れた場所に建つこの建物は、最低限の広さしかない上に、お世辞にも新しいとは言えない。しかし、暖簾をくぐれば集まった者達の楽しげな声とほのかに漂う夕飯の香りが、どこか懐かしく暖かな心持ちにさせてくれる。
そんな賑やかな食堂の引き戸を、また新たな艦娘が開いた。
「あら赤城さん、加賀さん、いらっしゃい」
「こんばんは間宮さん」
日本的な美しさに富んだ2人の姿は、正に立てば芍薬座れば牡丹の言葉通り。そんな彼女らだが、一つだけ"花"とは程遠い点がある。
「今日は皆さんの好きなカレーですよ」
「わぁ、ありがとうございます。とても嬉しいです!」
「さすがに気分が高揚します」
「いつもの一航戦盛りで大丈夫かしら?」
「はい、それでお願いします」
「では加賀さん、早速いただきましょう。…あら?」
手頃な場所はないかと辺りを見回すと、カウンター席の端の方で、突っ伏している者が一人。
「提督じゃありませんか。どうされたんですか?」
「ん…誰だ──って、なんだそのカレーの量は!」
起き上がった両津の目に飛び込んで来たのは、天高く盛り付けられたカレーライス。シルエットクイズなら誰一人正解できないであろう富士山型のカレーは、とても清楚な彼女らの胃袋に納まるとは思えないものだった。
「そんな事よりも提督はどうされたんですか?お食事もなさらずに…」
「ワシがどうされたか…だとぉ…?」
「て、提督…?」
「他人事みたいに言いやがって!誰のせいだと思ってるんだぁーっ!」
「えっ、えぇ…!?」
起き上がった両津は、困惑する赤城の両肩をグワングワンと揺さぶりながら、怒りと悲しみの涙を流していた。
「提督、落ち着いてください。赤城さんも困っています」
「これが落ち着いていられるか!見ろ、これが今月のワシの今月の給料だ!」
薄っぺらい財布をひっくり返して出てきたのは、5千円札が一枚と数字の小さな小銭が少々だった。
「えっ、これだけですか?」
「そうだ!五千円だぞ五千円!?中学生の小遣いじゃあるまいし、ワシに飢え死にしろってのか!」
「お言葉ですが提督、ここは鎮守府の関係者はどれだけ食べても無料ですから、食べ物に困る事はないかと」
「そりゃお前らはタダかもしれんが、食費だって鎮守府の運用費から出とるんだぞ!?お前らがそんなに食うから、ワシがこんな倹約生活する羽目になったんだろうが!」
「そ、そう言われましても…」
「そもそも資金が足りないのは提督が倉庫と門を吹き飛ばしたから───
「ええいうるさいうるさい!大体その量はなんだ!艦娘じゃなくて、フードファイターにでもなるつもり───
(ん、待てよ…フードファイター?前にテレビで見たぞ。ありゃ確か…)
『これは凄い!大食いの女王キャル保根、二位以下に圧倒的な差をつけて優勝!賞金1000万は、またしても彼女の物となりました!』
その時だった。両津の灰色の、いや金色の脳細胞に電流が走った。頭の中で様々な情報が「
「どうしたんでしょう加賀さん、提督が急に固まってしまいました…」
「さ、さぁ…私もわかりませんが──
「これだぁっ!」
「きゃっ、急にどうしたんですか?」
「なぁ赤城、加賀。自分達の食う量について考えた事はあるか?」
「えっ…?」
両津は赤城のカレーを手に取ると、先程とは打って変わって冷静な口調で何やら語り始めた。
「例えばこのカレー。具は大きめで食べ応えがあり、ルーも深みのある素晴らしい香り。一気に大量に作っているとはいえ、これはレトルトでは絶対に出せない味だ。ワシの見立てでは一人前約500円ってところだな。そうだろ間宮?」
「え、ええ。大体そのぐらいだと思います」
「そしてお前達の食う量だ。こりゃ少なく見積もっても一皿五人前はある。伊良湖、この二人はこれを何回お代わりするんだ?」
「は、はい!日によっても多少変わりますけど…おふたりの場合朝昼晩にそれぞれ三回ずつぐらいは…」
「つまり!!お前達はこの調子で飯を食ったら、500円のカレーを一日に22500円、月にして675000円!二人合わせれば135万円分食っている事になる!日本人の平均月収が35万円なのを考えれば、お前達二人の食費は3.86人分の穀潰しを生んでいる事になるのだっ!」
「そ、そんなっ…ご、穀潰し…」
「まさか私達がそんなに食費を浪費していたなんて…」
「そんな事がほかの連中に知れたらとどんな目にあうか…あーあ可哀想に」
「ど、どんな事って…」
「決まってんだろ?こんな具合にだな───
『ちょっと加賀!』
『ず、瑞鶴…それに翔鶴も…何か用かしら…?』
『加賀さん、白を切るつもりですか』
『アンタが食いすぎるせいで、弾薬の補充も装備の改修もできなくなったじゃないの!』
『そ、それは…』
『何が「五航戦の子なんかと一緒にしないで」よ!』
『それはこちらの台詞です。同じ空母というだけで白い目で見られる私達の気持ちを考えた事あるんですか?』
『あ、ああ…』
『ねぇ知ってる?鎮守府の運営費が足りないのって、一航戦の二人の食費が凄いからなんだって…』
『Oh…赤城がそんな人だったなんて…失望したネー』
『鎮守府がボロボロでも修理できないのも、あの人達のせいだったのね!』
『聞こえてます赤城さん?あなたの食い意地のせいですよ!』
『ううっ…』
「そ、そんな…」
「これでは私達一航戦の誇りは…」
皆の責めにあう自らの姿を想像し項垂れる二人。勿論そんな事はないのだが、この男の妙な説得力に引き込まれてしまっていた。
「でも提督、私達はこれを食べないと力が…!」
「安心しろ、ワシも鬼ではない。働かざる者食うべからず。自分で食べる分は、自分で稼げばいいんだ」
「自分で稼ぐ…ですか?」
「そうだ。ワシがいい仕事を紹介してやる。なんと飯を食うだけで金を稼げる仕事だ。どうだ、やってみる気はあるか?」
「お願いします!」
「是非やらせてください…!」
「よし!任せろ、ワシがすぐに儲けさせてやるからな!」
(よしよし、案外チョロい奴らで助かったぜ。うしし…待ってろよ1000万!)
大食いバトルロイヤル関東地区予選会場。今日ここで新たな伝説が生まれようとしていた。
──第一位、822杯、レッドキャッスル選手!」
結果の発表と共に、観客から驚きの声が上がる。それもそのはず、今回予選の段階にも関わらず、日本大食い史上類を見ない記録が叩き出されたのだ。
「ごちそうさまでした。わんこそば、とても美味しかったです」
野次馬の中央に居るのは、仮面舞踏会にでも出るかのような赤と青のマスクが印象的な二人の女性だった。
「こ、これは凄い…」
「あのチャンピオンに迫る記録だ…!」
「加賀さ……ブルーマウンテンさんは…780杯ですか。すみません、遠慮させてしまって…」
「いいんですよ。この地区から出場出来るのは一人だけですから、私より優勝の可能性が高い赤城さ……レッドキャッスルさんが出るのは当然です」
驚く人々には気にもとめず、何気ない会話を交わす二人。その余裕っぷりを見た関係者達は、大食い界のニューヒーロー誕生の瞬間だと騒ぎ立てた。
「よしよし、あの二人ならもう勝ったも同然だな。待っててね〜1000万ちゃん!…ん、こんな時に電話か。一体だれからだ?」
至福のひとときに水を刺された為、両津は少しばかり不機嫌そうに電話に出た。
「もしもし、何か用事か?」
「あっ、先輩、この前のお金の件ですけど…」
「おお中川、その話か!」
(そうだ、あいつらの給料の事を中川に相談したんだった!)
「で、どうなったんだ?」
「何しろ鎮守府は普通の企業じゃないですからね。会社から直接は無理ですが、僕のポケットマネーという形でなら何とかなりそうです」
「おおそうか!恩に着るぜ」
「でも先輩もいい所あるじゃないですか。給料が支払われていない艦娘達の給料を払いたいなんて」
「まぁ約束しちまったもんは仕方ないからな。それに結局お前に頼っちまったんだ。そんなかっこいいもんじゃねぇよ」
「そんな事ないですよ。また僕に協力出来ることがあったら言ってください。それじゃあ失礼します」
「おう。ありがとな」
電話を切ると、ひとまず問題が片付いた事にため息がこぼれる。
「ん…待てよ?中川から金が入ってくるという事は、鎮守府の修理代を入れても余裕がある…つまりこの1000万は無くてもいいという事か。おっ、もしかしてこの金があれば色々と…
「提督」
「ギクッ…!な、なんだ。赤城と加賀か。ははは…」
「何を驚いているんですか。終わりましたよ」
「無事予選突破できました」
「おうそうかそうか。そりゃよかったあはははは…」
「…なにか喋り方が変ですね?」
「い、いやっ!?何でもないぞ?ほら、終わったなら長居は無用だ。早く帰るぞ」
(危ない危ない、もしこの金を遊びに使う事がバレたら…)
『提督!?よくも騙しましたね!』
『お金がないなんて嘘だったんですね。頭に来ました』
『ち、違う!これは大きな誤解なんだ!』
『許しません!全機発艦!』
『ひぇぇ〜お助け〜!』
(…考えただけでも恐ろしい。こりゃ上手く誤魔化さんとな)
「さぁ今年もフードファイト界の大イベント、大食いバトルロイヤルの季節がやって参りました!今年も各地区から集まった8人の挑戦者が昨年のチャンピオンに挑戦します!」
司会者が高らかに開始の合図を宣言すると、今回のメニューであるカレーライスが設置されたベルトコンベアによって選手達の前に運ばれて来る。
「注目選手は今回が初出場の謎のマスクファイター、レッド・キャッスル選手!挑戦者の中では紅一点、しかしその食欲はまさにブラックホール級!関東地区の予選では過去類を見ない二位の選手との壮絶な争いの末勝利を納めました!チャンピオンとの一騎打ちが期待されます!」
「赤城さん、頑張ってください!」
「鎮守府の未来はお前にかかってるぞ!」
(この勝負、一航戦の誇りに賭けて絶対負けられません!必ず勝たせてもらいます!)
「それでは早速行ってみましょう!レディ……ゴーッ!」
参加者が一斉にスプーンを取り、カレーを口の中に運んでゆく。一皿分は決して少ない量ではないものの、すぐに白い皿の底が見え始めた。
「他の参加者も凄い食べっぷりだ…赤城は少し遅れてるが大丈夫なのか?」
「大丈夫。赤城さんは味わって食べているだけです。彼女も私も予選の時も本気ではありませんでしたから」
「あのわんこそば800杯がか!?し、信じらん食欲だな…」
(うん…間宮さんや鳳翔さん程ではありませんが、美味しいカレーです。これならっ…!)
各選手が胸の辺りまで白い塔を築き上げる頃、少しずつペースの落ち始める者や脱落するものが現れ始めた。そして───
「うっ…も、もう限界だ…」
「おーっとここで山田選手も脱落!残るはチャンピオンとレッドキャッスル選手のみとなりました!」
「あのチャンピオンかなり強いですね…まさか赤城さんとここまで渡り合うなんて…」
(それに赤城は礼儀正しく食べている分チャンピオンに遅れをとっている。…仕方ない、こうなったら作戦を実行するしかないな)
両津が小さな無線機を取り出すと、予め忍ばせておいた諜報員と連絡をとり始めた。
「おい金剛、比叡、聞こえるか?」
「大丈夫ネ。それより赤城の調子はどうですカ?」
「まだ余裕だが少し遅れている。例の作戦を開始するんだ!」
「ほ、本当にやるんですか?でも大食い大会でカレーに胃酸入れるなんて卑怯なんじゃ…」
「鎮守府の未来がかかってるんだ!そんな女々しい事言ってられるか!」
「ひ、ひえー…わかりました…」
「よし、金剛は人が来ないか見張れ。その隙に比叡が薬を入れるんだ。コンベアを間違えるんじゃないぞ」
(ふう…これで大丈夫だ)
「提督…?緊急の用事ですか?」
「え"っ…い、いや大した事はない。それよりほら、赤城を応援するぞ」
「そうですね。赤…いえレッドさん、頑張ってください!」
「もう少しだ!もっとペースを上げろ!」
(チャンピオンはまだ余裕そうですね。やはりこちらも少しペース上げなければいけないみたいです)
赤城がスプーンを持ち直し呼吸を整える。胃袋にはまだまだ余裕があるが、時間はあまり残されていない上、チャンピオンの食べっぷりを見る限りギブアップも期待出来ない。ここからは彼女の追い上げに期待するしかなかった。
(ここからです。一航戦赤城の意地、お見せます!)
(えーっと、赤城さんのコンベアはこっちか。それにしても凄いカレーの量だなぁ…)
奥の調理室と直結された長いコンベアの上に山盛りのカレーが鎮座する姿は、まるで食堂のカウンター席。見ているだけで胸焼けを起こしてしまいそうだ。
(でもいくら赤城さんでも、同じ料理を食べてたら辛くなるだろうな……あっ、そうだ!)
「ヒエー、調子はどうですか?」
「バッチリですお姉様!これなら優勝間違いなしです!」
「OK!それじゃあ早い所退散するネ!」
「おーっと!ここでチャンピオン、少しペースが落ちてきたか?それに対しレッドキャッスル選手、なんとここに来てペースが上がってきている!物凄い追い上げです!」
(よし、今が好機…これで決めます!)
ここで赤城が29皿目を食べ終え、30皿代に突入、今まさにチャンピオンに並びかけようとした───その時だった。
「っ!?こ、これはっ…!」
まず最初に感じたのは、その異様な舌触り。カレーにあってはならないジャリっとした感触に思わず眉をしかめた。
(何でしょうこの砂のようなものは…うっっ…!?)
食感も去ることながら味の方も凄まじく、甘さとも苦さとも言えないねっとりた物が口の中に絡みついてくる。
「どうしたことでしょうか?レッドキャッスル選手、急に手が止まってしまいました!」
(いけないわ…この程度で泣き言を言ってられない!)
体は食うなと拒否反応を示しているものの、一航戦の名誉と誇りの為、ここで諦めるわけにはいかない。赤城はなるべく味を感じないようにと、目を瞑り一心不乱にカレーを掻き込んでゆく。しかし、明らかに無理をして飲み込んでいるのは第三者の目にも明らかだった。
「赤城さんはどうしたんでしょう…?いつもの赤城さんならこの程度…」
(どうなってるんだ?比叡のやつ、ちゃんと胃酸は入れたんだろうな…)
「すまん加賀、少し席を外すぞ」
「えっ…提督どこに…」
「大丈夫だ、すぐに戻る!」
「大丈夫って…勝負はまだ──ん?これは…」
「あっ、テイトク!」
「赤城さんの様子はどうですか?」
「それがおかしいんだ。急にペースが落ち始めている」
「What's?それはおかしいネ。確かに比叡はちゃんと薬を入れたはずヨ」
「比叡、本当か?」
「は、はい。気は引けましたけどちゃんと薬は入れましたよ。それどころか赤城さんが飽きないように少し味付けを変えて───
「No!絶対それが原因デース!」
「そ、そりゃどういう事だ!?」
「比叡の味付けはHell classネ!過去に私も気絶しましたから分かりマース!」
「何!?比叡、ちょっとカレーに入れたもん出してみろ!」
「は、はい。これですけど…」
「そんじゃあ少しペロッと───うげぇぇぇっ、な、なんじゃこりゃあ!?」
「ひ、ひえぇぇ…」
「赤城さん!頑張ってください!」
(加賀さんの声が聞こえます、あぁ、…っでも…すみません、もうダメです…意識が遠のいて…し、しばらくカレーは…遠慮…しようかし…ら…)
加賀の必死の応援も虚しく、カレーの山…というより比叡の毒牙によって赤城は力尽きてしまった。
「ここで挑戦者選手ノックアウトォっ!!チャンピオン、意地を見せましたっ!」
「そ、そんな…!まさか赤城さんが…」
唖然とする加賀の近くで、携帯の着信音が鳴り始める。はっとして足元を見てみると、そこに落ちていたのは両津の携帯だった。
「これは…提督の…?」
着信の相手は知らない人物だったが、もし緊急の用事だとしたら自分が聞いておかなければならない。そう思い電話を取った加賀だが、予想に反し相手の声はかなりフランクなものだった。
「あぁ両さん。どうだい、1000万はもうゲットできたかい?実はさ、知り合いの模型屋のツテですごいレアな模型が手に入ったんだ。それだけじゃないぞ、限定版1/3サイズのティーガーI型のプラモが手に入ったんだよ!両さんの為に取っとくからさ、早く来てくれよ。…あれ、もしもし両さん?もしもーし」
「……成程、そういう事でしたか」
「おーい加賀!赤城の様子は…って、あーっ!」
「やっぱり気絶してるネ…」
「どうしてくれるんだ比叡!お前のせいで1000万が消えちまったじゃねーか!」
「ひ、ひぇぇぇぇっ、ご、ごめんなさいぃ…」
「提督、これをどうぞ」
「ん、どうした加賀?こりゃワシの携帯じゃないか。しかも繋がって…」
「両さん、両さんか!」
「わっ、なんだ、プラモ屋の親父じゃねぇか。いきなり大声出すなよ」
「すまん両さん!俺、そこにいるねーちゃんに1000万の事話しちまった!」
「な、何!?は、話したってお前、どこまでだ!?」
「計画のことから使い道の事まで全部…携帯だから両さん以外が出るなんて思わなくて…やっぱり不味かったよなぁ…?」
「な、なんて恐ろしい事を───
「提督」
「い"い"っ!?は、はい何でござんしょう加賀さん?いやぁ、それにしても今日は一段とお美しいでござんすねぇ───
慌ててゴマをする両津だったが、もう何もかも手遅れだった。彼女の不自然な笑顔が元に戻る事はなく、逆に彼女の逆鱗に触れてしまったのだった。
「──頭に来ました」
「や、ヤバイ!逃げるぞ金剛!比叡!」
「待ちなさい提督。絶対逃さないわ…!」
「な、何でワタシ達まデー!」
「逃げなきゃいけないんですかぁ〜!」
「クソぉっ!フードファイトなんて、大っ嫌いだぁぁぁぁぁっ!」