半分自己満足で書いていたものだったのですが、予想よりも多くの反響を頂けて嬉しいです。
今回は今後の書き方についてのアンケートがありますので、よろしければ回答していってくださると嬉しいです。
「…到着したぞ。駆逐艦吹雪、ここで降りろ」
「は、はい!」
外界を遮っていた黒いカーテンとドアが開かれ降りるように促された私は、自分の荷物を手に取り東京の地に足をつけました。
空を見上げると、そこには雲一つない青空。
送迎の車が去ってゆくのを見届けると、私は心を落ち着かせようと大きく息を吸ってみました。
東京の空気は美味しくないと聞いていましたが、やっぱり海辺の風は心地がいいです。
「ここが…私の新しい故郷…」
この場所からは木の陰になってしまっているため建物はほとんど見えませんが、それも事前に聞いていた通り。私は教えられた通りの道を歩き始めました。
(はぁ…私、ここでちゃんとやっていけるのかな…)
前の鎮守府でまことしやかに囁かれていた噂。この鎮守府の司令官は元警察官のとっても危険な人で、服装は普段から海パン一丁で、カレーに毒を盛ったり、上司と乱闘騒ぎを起こしたり、挙句の果てには門を爆破したり…
(落ち着け吹雪…!今度こそここでは上手くやろうって決めたばっかりじゃない!それに噂なんて尾ひれがつくものだし…大体門を爆破するなんて有り得な───
なんとか自分を言い聞かせようとする私を嘲笑うかのように、私の目の前に黒焦げのひしゃげた門が現れました。
「ひ、ひぃ…やっぱり噂は本当なんだ…」
これから当分の間、こんな所で過ごさなくてはならないなんて…
(あぁっ、だからだめだったら!最初からこんな調子じゃ活躍なんて無理だよ!よ、よし…やっぱり第一印象って大事だからね。挨拶はビシっと決めよう!)
そう覚悟を決めて門をくぐり建物の前まで来た所で、一人の艦娘の方が待っていました。
「あっ、ようこそ。今日からここに配属の吹雪さんですね?」
「は、はい!吹雪型駆逐艦一番艦、吹雪です!」
「ふふっ、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ?…私はここで秘書官をしている大淀です。どうぞよろしくお願いしますね」
(良かった…秘書官の大淀さん、優しそうな人だ…!)
「今提督は那智さんと羽黒さんと一緒に駆逐艦の子の講義をしてらっしゃいます。その間に私が軽くこの鎮守府を案内しますね」
「は、はい!ありがとうございます」
こうして大淀さんと共に敷地内を回ることになったのですが、何やら中庭の方から賑やかな声が聞こえてきました。
(なんだろう…男の人の声も混ざってる…)
「あっ、この声まさか…!」
「あ、待ってください!」
大淀さんは何かに気がついたようで声のする方に走っていってしまいました。慌てて私もあとを追いかけると、そこには驚きの光景が広がっていました。
「よし!もうすぐゴールだぞ!」
「なんの、ワシのテクニックを舐めるなよ!」
本来授業を受けているはずの駆逐艦達に囲まれながら、庭の土と廃材で作ったダートコースを縦横無尽に走り回る二つのラジコンカー。それぞれのハンドルを握る両津と那智は、指先を忙しなく動かしてデッドヒートを繰り広げていた。
「これが最終カーブ!この勝負勝ったぞ!」
「甘い甘い甘いっ!秘技、押し出しインチョロライン!」
「なっ…!」
半ば無理やり那智の車体内側に潜り込むと、そのままコーナー外側に押し出すようにして両津が前に出る。そしてそのまま最後の直線を駆け抜けて、両津の車がチェッカーを受けた。
「いよっしゃぁ!これでワシの8連勝!」
「何故だ!何故何度やっても勝てんのだ!」
「当然だ。ワシは何年もかけてラジコンの腕を熟成させてきたのだ。一日二日かじったぐらいの奴に負けるわけがない」
「くっ…もう一度…もう一度だ!」
「別にワシは構わんが、負けた数だけ酒を奢るのを忘れるなよ?」
「那智姉さん、そろそろ講義しないと本当にまずいですって…!」
おろおろしながらも姉を宥める羽黒の声も届かず、再戦の申し込みを叩きつける。
「…那智さんムキになってるっぽい」
「あの人も負けず嫌いな所あるから…」
そんな彼女らの背後に、怒気を纏った人影がまっしぐらに駆けてきた。
「あなた達は何をやってるんですかーっ!」
「ゲッ、やばい大淀だ!」
すぐに逃亡を試みる両津だったが時すでに遅し。そんなことは予想済みだとばかりに進路に回り込まれてしまった。
「提督!講義はどうしたんですか!?」
「お、落ち着け大淀。これは緊急時におけるラジコンカーの操縦を───
「そんな緊急時があってたまりますか!それから那智さんと羽黒さんもですよ!講師のお二人が提督と一緒に遊んでいてどうするんですか!?」
「ご、ごめんなさい…!」
「す、すまんな大淀。私も最初は止めるつもりだったんだが、挑発されて熱くなってしまって…」
「もう…新しい子も来てるんですから、少しは提督らしい所を見せてください」
「新しい子?あっ、それじゃお前の後ろに居るのが…」
「ど、どうも…」
「おぉ、お前が吹雪か!ワシが提督の両津勘吉だ。よろしくな。…よし那智、吹雪も来たことだし早速講義室に行くぞ!」
「あっ、おい提督!」
両津は少し強引に吹雪と握手をすると、そのまま彼女の手を引いて大淀から逃げるように走り出してしまった。
「前回のテストを返す前に紹介しておくか。今日からここに配属になった吹雪だ」
「み、皆さん!どうぞよろしくお願いしますですっ!」
「おいおい、そんなに緊張するなって。みんなお前と同じぐらいの歳のやつばかりだぞ。えーっと空いてる席はどこかに…」
「提督!夕立の隣が空いてるっぽい!」
「お、そうか。じゃあ吹雪、あそこに座っていいぞ」
「は、はい!恐縮です!」
(うーむ…どうも固いやつだな…)
「よし、それじゃあテストを返すとするか…まず暁!」
「ふふん、今回のは自信あるんだから!」
「…その割には微妙な点だぞ。はい70点」
「あ、あれ?もう少し高いと思ったのに…」
「次は響…ふむ満点か。よく頑張ったな」
「このぐらい朝飯前さ」
「雷…まぁまぁだな。電は…もう少しで満点だったな。夕立…あぁこりゃひでぇ。時雨…おっ、お前も満点────
艦娘にも様々な特徴を持つものがいるように、テストの出来栄えも千差万別。両津が一通り回答を返し終えると、那智は生徒達に檄を飛ばした。
「今回は全体的な点数は良かった。が、出来の良いものと悪い者の差が激しいぞ。今回点数の良くなかった者はしっかりと勉強にも励むように。…提督、そちらからも何か一言頼む」
そう言われ彼女と入れ替わり教壇に立つ両津。那智が作った空気に同調するように、この男も静かに教壇にたった。
「那智の話は聞いてたな。いいかお前ら、今のうちに忠告しておくが、勉強なんてしなくてもどうにかなると思ってるかもしれんが…」
いつになく神妙な面持ちの彼を前に、艦娘達の間にピリッとした空気が漂う。そんな彼女達の様子を見渡すと、計画通りとばかりにニッと笑みを見せた。
「全くその通り!なんとかなっちまうから人生は面白いっ!」
予想に反した両津の言葉に、教室にどっと笑いが起きる。初めはずっこけていた那智と羽黒も、心底楽しそうにしている子供達の表情を見ている内に、まぁこの提督なら仕方ないと小さく笑みを浮かべた。
「流石、提督が言うと説得力ある!」
「ふふっ、そうね!」
「おいお前ら、そりゃどういう意味だ!」
「だって提督の少年時代なんて大体想像つくっぽい」
「きっといっつも授業中に居眠りして、先生に叱られてばっかりだったのよ!」
「だろうな。この提督がまともに授業を受けていたとは思えん」
「コラ!那智まで混ざって勝手に決めつけるんじゃない!」
「では違うというのか?」
「当然だ。ワシが小学生の頃は宿題はやらない備品は壊すしで、常に寝る前に廊下に立たされてたから居眠りなんてする暇が……ってあら?」
「なんだ、結局授業を受けてないではないか」
「「あははははっ!」」
再び彼女達の笑い声が響き渡る中、前の鎮守府なら失礼だと一蹴されそうな掛け合いをする彼女らに、吹雪は戸惑いを隠しきれなかった。
(み、みんな司令官に言いたい放題…ここって本当に鎮守府なの…?)
「はぁ…」
その晩、時雨ちゃんと夕立ちゃん、それから第六駆逐隊の皆に連れられ、鳳翔さんの居酒屋へと足を運んだ私でしたが、慣れない環境というのは何もしていなくても疲れるもの。ため息など良くないと自負してはいるものの、身体が自然と疲れを吐き出そうとするのを止めることはできませんでした。
「吹雪ちゃん疲れてるっぽいね〜」
「あ、ごめん!私またため息ついてた?」
「またも何も、さっきからつきまくりよ」
「初めての人はここの提督に付き合わされたらそりゃ疲れるわよ。鳳翔さんもそう思うわよね?」
「ふふっ、確かにそうかもしれませんね」
「あの…さっきから気になってたんですけど…ここの皆さんは提督とはその…いつもこんな感じなんですか?」
「…あぁそっか。あんな風に会話したり、遊んだりって…よく考えてみたら、養成所や普通の鎮守府じゃ有り得ない生活だよね」
「私達はもう慣れてしまいましたけど、提督が来る前はここも他の鎮守府と同じだったのです」
「えっ、そうだったの?」
「ええ。両津提督がここに配属されたのはつい最近だけど…あの方は私達に多くの物を与えてくれました」
「多くの物…ですか…」
優しげな表情でそうつぶやく鳳翔さん。他のみんなもそれに同調するかのように小さく笑みを浮かべました。確かにこの鎮守府はかなり自由です。食べ物も美味しそうな物がたくさんありますし、娯楽品も皆それぞれ好きな物を持っているようでした。
穏やかに過ぎてゆく居酒屋での時間でしたが、そんな雰囲気を吹き飛ばすように、外から司令官の歌声が近づいてきました。
「「なっかぁ〜がわぁにうかぁぶぅぅ〜ゆうひをめがけてぇ〜」」
「あっ、司令官が来たわ!」
「この声…もう酔っ払ってるみたいだね」
時雨ちゃんの予想通り、那智さんと肩を組んだ司令官によって、店の引き戸が乱雑にひらかれました。
「ようお前ら!集まってるなぁ!?」
「今日はパーっと飲み明かすぞ!文句のある奴は私が追い出してやる〜!」
「ちょっと!司令官も那智さんも酔っ払いすぎよ!」
「何、心配するな!少しばかり酒の味見をしただけだ!」
「あかつきぃ〜さては酒が飲めないからって嫉妬してるな?ケチくさい奴は立派なレディになれんぞぉ?だっはっはっはっ!」
「何よ!暁はもう立派なレディなんだからぁ!」
司令官はともかくとして、あんなに厳格そうな那智さんまですっかりへべれけになってしまっています…
そんな中、入口に駆け込んできた艦娘の方に声を掛けられました。
「Hey!アナタが吹雪ですネ!私は金剛型一番艦の金剛デース!」
「あ、ど、どうも…」
「こっちは妹の比叡、榛名、霧島デス!これからは一緒の任務になるかもしれないから、その時はよろしくネ!」
「は、はい!こちらこそよろしくおねがい──
「あ、あの子が吹雪ちゃんね」
「あら、結構可愛らしい子じゃないの」
私が金剛さん達との挨拶を終えたのもつかの間、艦種に関わらず次々と艦娘の方が波のように押し寄せて来ました。
「川内参上!ねぇねぇ、吹雪は夜戦って好き?」
「はいはーい!アイドルのなっかちゃんでーす!」
「あ、あの…姉と妹が騒がしくてすみません…次女の神通です」
「私は一航戦の赤城です。よろしくおねがいしますね」
「…同じく、一航戦加賀です」
「はいはーい!私が瑞鶴だよ!」
「姉の翔鶴です。妹共々よろしくね」
「球磨だクマー!」
「北上様だよ〜よろしく〜」
とても建物に入り切らないであろう人数から次々に声をかけられてしまいました。堅苦しい雰囲気は微塵もないのですが、私より年上の人も大勢いるのでなんだか緊張してしまいます。
「お前ら!堅苦しい挨拶なんて後だ後!それより今日は吹雪の歓迎会だ!飲んで飲んで飲みまくれ!」
「「おーう!」」
「か、歓迎会!?私のですか?」
「おうよ!これから同じ屋根の下で飯を食う仲間を、はいよろしくねの一言で済ませちまうとあっちゃ、江戸っ子の名が廃るってもんだ!今日はお前が主役だ!とことん食ってとことん飲め!」
「提督、吹雪ちゃんはまだ未成年ですから、お酒はダメですよ」
「おっとそうか、それじゃ酒は我慢しろよ。はっはっはっ!」
(歓迎会…か)
呆気に取られている私の隣に、やれやれと言った表情の大淀さんが腰を下ろしました。
「ごめんなさいね吹雪ちゃん、提督やかましくなかった?」
「む、聞こえとるぞ大淀!やかましくて悪かったな!」
「い、いえ全然!私、こんなに歓迎してもらったことないから…その…なんというか慣れなくて…」
「あらそう。でも貴女もすぐに馴染むと思うわ。提督……両津さんはこの通りめちゃくちゃな人だけど、決して悪い人じゃないの」
大淀さんも直接言うのは照れくさいのでしょうか。ボリュームを落としてひそひそと私にそういいました。
「はい。私もそう思います。あんなに私達艦娘と楽しそうにしてる提督は見たことありませんから」
「ふふっ、そうかもしれないわね」
…でも私はきっと──
その時私が小さく呟いた言葉は皆のどんちゃん騒ぎにかき消され、会話していた大淀さんにも聞こえることはありませんでした。
「見ててね吹雪ちゃん。ベーゴマはこうやって……回すっぽいっ!」
「わぁ…夕立ちゃん上手い!」
「ふふん!これぐらい朝飯前っぽい!」
あれから数日が経ち、私もやっとここの空気に慣れ始めていました。この鎮守府は開放的な雰囲気のおかげか、みんな心に余裕があって優しく接してくれるような気がします。
司令官のことも噂のように恐ろしい人ではありませんでした。歓迎会でだる絡みされた時はちょっと苦手かなぁ…とも思いましたが、実際に話しているととっても気のいい人で、ここでなら私、上手くやっていけるかもしれません。
そんな事を考えていると、司令官が私達の部屋を訪ねてきました。
「おーい、吹雪は居るか?」
「あっ、はい。何か用事でしょうか?」
「おう。ちょっとワシの部屋まで来てくれ」
「も、模擬戦ですか?」
「あぁ。だが別に本格的な物じゃないぞ。ちょっと実力を確かめようってぐらいなもんだ」
「実力も分からないのにいきなり出撃させるわけにはいかませんしね」
「は、はい!了解しました!」
(つ、ついにこの日が来ちゃった…!)
「だぁー、そんなに鯱張るなって!何たって吹雪、お前前の鎮守府じゃ相当活躍してたそうじゃないか。書類には大層な褒め言葉が書かれてたぞ?」
「えっ…!?」
「まだ歳は15なれど文武両道の極み。性格は大人しく真面目だが戦場で敵に怯むことなし、任務もただの一度も失敗した事がない……こんなに評価が高いなんて凄いじゃないですか!あちらの提督はよく吹雪さんを手放しましたね」
「え、えぇっと…それは…」
「うーむ、流石は世界を震撼させた特型駆逐艦。秋月あたりに相手をしてもらおうと思ったが、こりゃウチの駆逐艦じゃ歯が立たないかもしれんな。北上か大井あたりに代役を頼むとするか」
「あ、あの!実は私…」
「よし、なら早速招集するぞ!大淀は明石に準備をさせておけ。ワシは北上を呼んでくる」
「わかりました。すぐに用意させますね」
「あ、ま、待ってくだ───
私が声を掛ける間もなく、二人はせっせと部屋から出ていってしまいました。
「ど、どうしよう…話がどんどん大きくなってるよぉ…」
「よし、これで準備おっけーだよ。吹雪ちゃん、頑張って来てね」
「は、はい…」
艤装を装備し終えると明石さんが肩をポンポンと叩いてくれましたが、今の私にはその心遣いさえ重くのしかかってきます。
「んじゃ、よろしくねブッキー」
「よ、よろしくお願いしますっ!」
目の前の大井さんは準備運動とばかりにターンを駆使しながら海面をスルスルと滑っています。あんな風に動けるようになるのは、一体どのぐらい練度が必要なのでしょうか…
「吹雪ちゃーん!頑張るっぽーい!」
「う、うん。ありがと────っ!?」
夕立ちゃんの声の方を振り返ると、そこには提督が連れてきたであろう沢山の艦娘の方が見物に来ていました。
「頑張れよー特型駆逐艦!」
「ファイトよ吹雪さん!」
「ど、どうして私の演習にこんなに人が…!?」
「へへっ、みんなお前の勇姿が見たいって言うからな。ワシが連れてきたんだ!」
"余計なことをしないでください!"
心の中でそう叫んでみますが、来てしまったものは今更どうにもできません。
「北上さぁん!頑張ってくださいねー!」
「コラ大井、今日の主役は吹雪だぞ。こういう時は北上じゃなくて吹雪を応援するもんだろ」
「えーっとそれじゃあ………吹雪さん!北上さんに怪我させたら承知しませんからね!」
「は、はいぃ!」
「バカ!緊張させてどうする!応援をしろ応援を!」
うぅ…大丈夫です大井さん。貴女の心配が現実になる事は多分ないと思います。だって私は…本当は───
「hey提督!喋ってないで早くbattleを初めましょうヨ!」
「おっと、それもそうだな。じゃあ早速始めるぞ。よーい…始めっ!」
司令官の雑な開始の合図と共に、北上さんが動き始めました。私を中心に円を描くような軌道で航行するその姿は、徐々に獲物を追い詰める狼のようです。
(こうなったらやるしかない…!勝つのは無理だと思うけど、少しはいいところを見せて…!)
ここで止まっていても仕方ありません。北上さんの練度を考えれば、静止している艦娘なんていい的にされてしまいます。
(頑張れ私…!ここでは上手くやるって決めたじゃな────
バチャーンッ!
「きゃあぁぁぁぁっ!」
「……へっ?」
大きな音の正体は、被弾の音でも砲撃の音でもなく、私の身体が思い切り水面に叩きつけられた音でした。
まるで風呂場で石鹸を踏んだようにすっ転び、きりもみ状態で海上を転げまわる私を見て、みんなが呆気に取られていました。
三十秒程経った頃でしょうか。ようやくスピンが収まった頃には、手にしていた筈の連装砲と脚につけた魚雷発射管はどこかに消えてしまっていました。
「…ねぇ提督。模擬戦、まだ続けた方がいいの?」
「い、いやもういい。吹雪を助けてやれ」
「う、うぅ…やっぱりだめだよ…」
「提督、失礼します」
「おう、鳳翔に間宮じゃねぇか。何か用か?」
「今月の食材の出納帳が出来ましたので報告に。…それと吹雪ちゃんの事で…」
「あの子、一人で海辺でずっと落ち込んでるんです」
「私達も声をかけたんですが、一人にして欲しい、ご飯もいらないの一点張りで…」
「…そうか。うーむ、模擬戦で失敗したのがショックだったか」
「提督、実はその事で私からもお話が…」
「大淀…?」
「これを見てください」
複雑そうな表情で持っていたファイルを開くと、そこには吹雪の顔写真と、細かなプロフィールがびっしり書き記されていた。
「これは吹雪ちゃんの…」
「これがどうかしたのか?パッと見おかしい所はなさそうだが…」
「…ここを見てください」
大淀が指を指したのは、吹雪の配属された鎮守府の欄。他の艦娘達はせいぜい1、2箇所しか書かれていないが、吹雪だけは何行にも渡って書き記されていた。
「…成程、そういう事でしたか」
「この短期間でこの数は…いくら何でもこれは…あんまりです…!」
「お、おいおい!ワシを置いていくな。一体何が分かったってんだよ?」
「…吹雪ちゃん、いろんな鎮守府をたらい回しにされてたんですよ」
「な、何だって…?」
大淀の口から出た言葉に面食らう両津。細かいことは分からなかったが、たらい回しという言葉は決していい言葉ではない。
「私、模擬戦の後気になって少し調べたんです。吹雪ちゃん、養成所に居た頃から艤装を扱うのが苦手だったみたいで…鎮守府に配属されてからも実戦は勿論、演習も満足にさせてもらえなかったみたいで…」
「どうしてだ!その時は実力不足でも練度を積めば吹雪だって…」
「提督もご存知でしょう。演習といっても燃料は消費しますし、演習用の弾薬も決して安くありません。戦術的な事だけを考えれば、見込みのない艦娘に費用を掛けるのは非効率的です」
「そりゃそうかもしれんが、そんなもん微々たるもんだろうが!たらい回しになんかしなくたって…」
「影響はそれだけではありません。新しい艦娘や装備品というのは、基本的に人員が足りていない場所に配属されます。吹雪ちゃんを抱えているという事は、それだけ上からの施しが減ってしまうということなんです」
「そ、それじゃあ吹雪は…」
「…邪魔だったんでしょうね。でなければ、引き継ぎの書類にこんな嘘を書いてまで艦娘を引き渡すことなんてしないでしょうから」
「あ、あいつがそんな…」
『私、こんなに歓迎してもらったことないから…その…なんというか慣れなくて…』
「…ちょっと急用を思い出した。出納帳は大淀が見といてくれ!」
「あっ、提督!」
三人が条件反射てきに引き止めたものの、両津はそのままドアを開け放って飛び出して行ってしまった。
「…提督、今度は何をするつもりなんでしょう」
「大丈夫。暁ちゃんの時だって上手くやってくれたんですから」
「だといいんですが…」
鎮守府の端に立つ古びた灯台。古びた鎮守府の中で唯一、工廠とここだけはコンクリート製の建造物です。ひんやりとした壁に背中を預け、私は一人膝を抱えていました。
またダメだった。
前と全く同じ転び方じゃないか。
まるで進歩していない。
何故艦娘として当たり前の事すらできないのか。
今まで言われた言葉がひたすらに頭の中を回り続けます。
「誰にも必要とされないなら…いっそ私なんて居ない方が…」
そんな事を呟いてみますが、私には自分の命を断つ勇気なんてありません。ただ誰かに同情して欲しいだけです。
自分で分かっていながらもこんな事を呟いてしまう私。卑しくて、浅はかで…本当に大嫌い。
そんなやり場のない怒りと虚しさで、自分の腕にぎゅっと爪を立てました。
…そんな時、後ろから聞こえてきたサンダルの音に振り向くと、司令官の姿がありました。
「よう吹雪。やっぱりここだったか」
「司令官…!」
そう言って司令官は私の隣に立って私が何か喋るのを待っているようでしたが、あんな情けない姿を見せた手前、何を話していいのかわかりません。そんな私の心を察してくれたのか、黙っていた提督が口を開きました。
「そんなに落ち込むなって。今日ダメでも明日また挑戦すりゃいいじゃねぇか」
文面だけ見れば皮肉にも聞こえますが、司令官の顔にそんな感情は全くこもっていません。しかし、そんな優しさが、逆に私の中の自分の情けなさをより浮き彫りにされたような気持ちになってしまいます。
「…すみません、司令官」
「なんだ?どうして謝るんだ」
「きっと、私のこと期待してくれていたんですよね。あんなに盛大に歓迎会まで開いてもらって……私、こんなんだからどこの鎮守府に行ってすぐに移動させられちゃって…だから友達とかもあんまりできたこともないし、みんなにあんなに優しくしてもらったの初めてだったから、とても嬉しかったんです」
「………」
「でも私は…司令官やみんなの期待には答えられません」
「大丈夫だ。他の鎮守府じゃ演習させてもらえんかったらしいが、ここに居る限りお前を倉庫の隅に押し込むような真似はしない」
その時、沖の方から砲撃の音が聞こえてきました。音の方に目を凝らしてみると、雷ちゃんと電ちゃんが訓練をしていました。
「あいつらはこの鎮守府じゃ一番幼い奴らでな。どうしても他の連中と比べると運動神経に差が出ちまってたんだ。だが本人達は足を引っ張りたくないからって、ああして自主的に練習してるんだ。中々凄いもんだろ?」
二人は小さな体で重たいはずの艤装をしっかりと構え、次々に浮かべた的を撃ち落としていきます。私より小さいはずなのに、私とは比べ物にならない程艤装のコントロールができています。
「凄い…ですね。あの歳でここまで出来るなんて…私とは才能が───
そう言いかけた時、司令官が声を荒らげました。
「それは違うぞ吹雪!」
「えっ…」
「あいつらが凄いって言ったのはな、二人が歳の割に強いからじゃない。二人があきらめずに努力しているからだ!」
「っ…!」
「自分を信じろ!他のやつにできてお前にだけできないなんて事はない!」
「…私にはできません」
「出来る!」
「…できませんよ」
「絶対できる!」
「できませんったら!」
「絶対絶対できるっ!」
私のバカ!ひねくれ者!こんなに司令官が説得してくれてるのに、ムキになって反発して…
理由は分かっています。私は怖いのです。期待はずれだった時、役立たずだと判断された時に向けられる冷たい目が。あんな思いをするなら、最初から期待なんかされない方がずっといい。
そんな意気地のない私についに我慢の限界だったのか、司令官はさらに大きな声でとんでもない事を宣言しました。
「だったら!ワシがやってやる!」
「できませ………え…?」
「ワシが艦娘になって、お前も立派な艦娘になれることを証明してやる!」
「えっ…」
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
今後こち亀のマイナーキャラ(登場頻度がボルボや左近時以下程度のキャラクター)が出た際のキャラ解説についてです。
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後書きに詳しい解説があるとよい
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自然に地の文に混ぜて解説があるとよい
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解説はいらない