S.O.N.G・・・元特異災害対策機動部二課で負傷者が出た場合、政府お抱えの国立総合
病院に搬送される。
其処には、翼が定期的にお見舞いに来る相手がいる。
三年前に搬送されてきた彼女は今だに意識不明で、昏睡状態。
彼女の名は、天羽奏。
異世界の、未来の英雄を最初に呼び寄せた片翼の歌姫だ。
数日としない内にS.O.N.G.本部ではある事案が議論されていた。
それは火災。
単純に火災の一言で片付けるのは容易いのだが、普通の火災ではない。火災現場で炎を纏ったライオンが目撃されているのだ。
正確にはライオンのような“何か”である。
「和真君はどう見る?」
資料が表示されているモニターを見ながら顎に手を当てる和真へ弦十郎が意見を求める。
「何とも言えませんが、恐らくレプリロイド・・・でしょうね。」
そんな奴いたかなぁ?と首をかしげて記憶を探る和真。
あー・・・像とかティラノ型はいたな。あと鹿とかハイエナ型も。
「流石に確証の無い情報では和真さんでも絞込みは難しいですね。調査部でも全力を挙げて調査を続行します」
「頼む」
「緒川さん?俺は其処まで博学じゃありませんことよ?」
緒川が言うと弦十郎が頷き、和真が呟くと「現状、敵の情報は和真さんが一番有力ですから」と笑顔で言う。
「それに僕もファントムでしたか?彼には一度お目にかかりたいものです」
最後にそう言って司令部を出て行く緒川。
それは忍者としてのプライドですか!?
司令室を出ると廊下では翼が待っていた。
ライダースーツで、バイクの鍵だろう。手の中でちゃりちゃりと弄びながら、こちらを見るなり声をかけてきた。
「武藤、今日は用事があるのか?」
その問い掛けに和真は少し考えて答える。
「どうしたんだ?特に急ぎって用事はないけど」
「ならば、付き合ってもらいたい所があるのだ。良いだろうか?」
「ああ。構わない」
翼に答えるとヘルメットが飛んできた。
普段からマリアでも乗せているのだろうか?
「つ、翼ぁ!スピード落として!!」
「何だ!?怖いのか、武藤!!」
翼にしがみ付きながら叫ぶと下道にも限らずアクセルがんがん吹かす翼が叫び返す。
怖いなんてモンじゃない、二人乗りしているのにドリフトしないで!飛ぶ、バイクから吹っ飛んじゃう!!
「翼がプロ選手並のドライビングテクを持っているのは分かったからっ!ね?法廷速度を守ろうぜ!?」
因みに、現在走っている道路の法廷速度は50キロ。
翼のバイクは現在70キロで走行中。そんな状態で二人乗りでドリフトして見なさいな。
「む、奏に会わせたくてな。先走ってしまった」
と詫びる翼。
その結果、ルアールに齧られても見えなかった走馬灯が見えた和真だった。
白い空間で、奏の意識は久しぶりに覚醒した。
彼女が最初に思ったのは、ついに死んだか?と言うこと。
LiNKER投与による薬品に頼っていた奏は、自分の身体が悲鳴を上げていること。あのコンサートの時点で戦闘時間は徐々に少なくなっていることも悟っていた。
あの絶唱で死ななかっただけ奇跡だ。
「そういや、翼は元気かな?アイツ・・・」
最初に抱いた感情とは裏腹に、奏は最後に見た翼の泣き顔を思い出す。
最初は、翼が気に入らなかった。
達観したような、哀れむような目をした翼が。家族を失ったことも相俟って荒れていた奏は翼に何度も酷いことを言った。
「なのに、アイツは最後まで私を見捨てなかったんだよな」
白い空間に、彼女の独白が響く。
寂しくないと言えば嘘になる。再開出来るならもう一度会いたいと強く思った。
「なら、起きれば良いじゃない?」
声を掛けられて驚いて振り返る奏。
後ろには何処となく残念そうな女性が居た。
「やっほー、私は女神・スミア。」
「女神だぁ!?」
「うわっ!その反応傷つくなぁ、キミが死ぬ結果を回避させたのもアタシなんだぞ!?」
「・・・。」
「疑ってるね?これ以上になく疑っているね!?」
いきなり女神と名乗ったスミアに奏は呆れながらも、伊達に認定特異災害ノイズなんて物を相手にした訳ではなく、状況が状況なので疑いながらも話を聞く。
「ま、良いさ。キミには目覚めてもらう頃合でね。キミが眠りついてからおきたことを見せてあげるから、心してね?」
そう言って、スミアは二回ほど床をつま先でつつくと奏とスミアの間にシンフォギア世界で起きた出来事が、ビデオのように再生されていく。
着いたのは政府お抱えの総合病院。
最新設備が整っている上、一度は翼も入院した事がある場所だ。
「ゼロの話はしたな?」
受付を済ませた翼が酔って青い顔の和真に言う。
「あ、ああ。ゼロの介入で助かったって話だろ?」
「当時、私はツヴァイウィングと言うユニットを組んでいた。奏は当時のパートナーなの、あの時から昏睡状態なのよ・・・」
語る翼の肩は震えていた。
何時ものように凜とした剣の姿はなく、一人の少女の姿が垣間見えた気がした。
「・・・どうして俺を?」
「ゼロの力を引き継ぐと聞いた時から、どうしても奏に会わせて上げたくてな。本当ならもっと早く連れて来たかったのだ」
翼の答えを聞いて納得する。
それ以上、何か聞くのは何か野暮だと思った。
個室の病室が並ぶ廊下まで来て、何人かの医師が二人を追い抜いていく。
最奥の病室の扉を開き、入っていくのを見て翼が走り出した。
「奏の病室なんだっ!」
駆け込んでいく翼を見送る形で、取り残された和真は慌しく出てきた看護師に尋ねた。
「あの、どうしたんですか?」
「昏睡状態だった天羽さんが目を覚ましたんです!」
それだけ答えると看護師はナースステーションに駆け込んでいった。
え?目を覚ましただって!?
「ほい。」
「ありがとう・・・」
病室の外に追いやられて、落ち着かない面持ちで長椅子に座る翼にジュースを渡して隣に座る。
「良かったな。天羽さん目が覚めて」
それだけ言うと黙る翼にどう声をかけて良いか分からなくて和真は黙る。
「二人共!」
「叔父様・・・」
振り向けば、弦十郎と緒川が走ってきていた。
「奏さんの意識が回復したと連絡がありまして!」
「今、検査中です。」
緒川に現状を伝える和真。
「そうか、良かった・・・」
そう言って胸のつっかえが取れたような表情の弦十郎をちらりと一瞥し、和真は思った。
(辛かったんだな、翼も弦十郎さんも)
自分は場違いではないか?そんな気がしてきた和真。
めでたい話題があると面倒な話題も出てくる。
駐車場に現れたファーブニルは、渡されたクリスタル・・・アルカノイズの転送ジェムを見ながら舌打ちした。
自分が望むのは、S.O.N.G.のロックマン・・・武藤和真との
新たな主は、目的の為なら手段を選ばないのは合理的だと思う。が、こと戦闘スタイルに口を挟まれるのは面白くないと思うファーブニルである。
「ま、一発撃てば出てくるだろ!」
既に戦う事しか頭にない彼は、深く考えずにマルチブルランチャーを天に掲げると引き金を引いた。
轟!と巨大な炎弾が、空に向かって消えていく。
そして、何を思ったのかファーブニルは叫んだ。
「其処に居るんだろう!?武藤和真ァァァ!!」
女神・スミア、奏を起す。
ファーブニルならきっとアルカノイズは使わないでこういうアバウトなサインを出しそう。