十月初め、秋の終わりを感じながらも和真の溜息は寒空に消えいく。
「溜息ばっかりじゃ幸せ逃げるわよ?」
バンッ!と和真の背を叩くアッシュ。
『どうして直に相手に適応出来るんだ?』
「痛っ!ちっとは加減しろって・・・まぁ、順応力が高いのが売りだからな」
ふわっと浮いて出たモデルAが和真に尋ねて和真はアッシュに苦情を吐きつつ、モデルAに答えた。
『ふぅん、何だかロボットみたいだな』
『モデルA、和真は間違いなく人間だよ?』
『分かってるよ、そう思っただけだ。なぁ、異性と付き合うってどんな感じだ?』
モデルAがあんまり興味なさそうに言うとモデルXが言う。それに反発するように答えるとモデルAの興味の矛先が別の所に向いた。
「な、何だ?いきなり・・・」
『いやぁ、アッシュには未だ縁がなさそうだしコイツに付き合ってくれる男ってレアだろ?』
「モデルA・・・アンタ、良い度胸じゃない!?」
まるでアッシュがモテない。そう言いたげなモデルAをガシッとアッシュが掴んで眼前に持ってくる。
アッシュの顔には青筋が浮かんでいる。
言わなきゃいいものを・・・。
『大丈夫だって!アッシュがモテないっていう訳じゃ・・・』
『モデルA、もう遅いと思うわよ』
弁解するモデルAにモデルLが呆れながら言った。
天界でその様子を見ていた女神・スミアは唸っていた。
シンフォギア世界・・・・和真の存在する世界線以外にもレプリロイドが出現した。と言うよりも発掘された。
その事実は、
(いや、まさかね?確かに好きな世界にお行きって言ったけど・・・)
和真の異世界の知識+エルフナインの錬金術、そして当世界最新技術を持ってしてもレプリロイドの修繕は望めないのが現実で、ペンギーゴの話が本当なら先史文明期にはペンギン型は作れたことになる。
先史文明スゲー。
「思い当たる節があるのね?」
これまたギクッ!と擬音が聞こえそうな反応をするスミア、そんな駄女神の反応を見た四天王は総出で文句を言うことにした。
「流石にこれ以上は和真やシンフォギア奏者達だけでは荷が重い。拙者達も馳せ参じるべきかと」
最初に意見したのは
エックスの子である四天王達の長兄が、現在の主であるスミアに異を唱えた。
「今度は俺達が行こう。サイバーエルフの力を使えばあのボディの再起動も可能だろう」
今度は
「これ以上、エックス様の手を煩わせるのは心苦しい。それにこれ以上歪みを加速させるのは不味いだろう。」
「ちょっと待ってよ!キミ達までシンフォギア世界に下りたら私の仕事はどうなるのさ!?」
「テメェの仕事はテメェで片付けろ!そんなんだから「そんな風だから彼らが“必要な世界”になってしまったのね」あ、アンタ!?」
彼の台詞を遮るように、一人の少女が現れた。
「マザーエルフって、こんな姿をしていたのね・・・」
エックスともゼロとも縁深い彼女、マザーエルフ・・・レプリロイドの頃の名称をアイリス。
赤と青のツーカラーを基調にした旧世代のアーマーは何処か軍服を思わせ、腰まである栗色の髪の先をちょこんと纏めた姿は可愛らしい少女そのものだ。
しかし、エックスの世界線で当時の最強レプリロイドとして誕生した兄妹の片割れだ。
四度目のイレギュラーの反乱、通称レプリフォースの反乱で死亡した彼女の頭脳チップは回収され、後にマザーエルフとして復活。悪用されることになった。
後にゼロと古の破壊神の決闘で開放され、どういう訳かスミアの元に流れ着いた。
「ま、まさか・・・・シンフォギア世界に下りていたんだ?」
「ええ、好きにして良いというものだから。“彼と再開できる未来”が少しでもある世界に下りたわ。女神様、自分の不始末は自分で片付けるべきだと思うの。」
未来など比にならない圧でアイリスはスミアを説き伏せる。
「私の我が侭が原因でもあるから、私も尽力するけれど貴方達はスミア様の補助を・・・エックスから頼まれたのでしょう?」
一瞥され、直立不動となったSE.ファントムとSE.ハルヒュイアがこくりと頷いた。
「・・・・・アイリス。キミのボディは稼動しているのかい!?」
スミアはペンギーゴの一件から推測し、驚いた。
「いえ、でも切欠があれば直ぐに動くことは出来るわ。私も二人と供にある青年を見たわ。似ているわね?生真面目で、ただ真っ直ぐな所なんて二人に」
アイリスはそう言うと球体に戻り、下界・・・スミア出言う所の“シンフォギアの世界”へ戻っていった。
後に
ハルヒュイアの躯体からデータの吸出しに成功したと知らせを受けたのは先日のこと。
S.O.N.G.本部に集合した全員が難しい表情で基地を示す座標を睨む。
「まさか、水中とはな。」
「太平洋・・・日本海で最も深い所ですね。」
唸る弦十郎。調査部とて無能ではない為、何度も撤退時の転送先割り出しに取り掛かってもらっていた。
ざっくりと友里が座標から水深を割り出して呟いた。
「海の中だと行くまでが大変そう」
「いつも見たくミサイルでどーん!って訳にもいかなそうデスよ」
かつて、奏者達は大気圏まで弾道ミサイルで出るという荒業をした事があるが、今回は違う。
敵の本拠地に乗り込む、水中と言う立地がその手段を大きく狭めている。
魚雷で直前まで近づく?迎撃されるのがオチだろう。
本部潜水艦で突貫する?論外。
「アタシ等なら単身突撃可能だけどね」
「・・・気乗りしないがそれしかないとなれば、致し方なし。と言っても弦十郎さんが許すかといえば」
「断じて許さん!」
ですよね~。
弦十郎が和真に振られて即答する、分かっていた答えだ。
それしかないと主張するアッシュと水中と言うフィールドに適さないと悔しそうな表情を見せる奏者一同。
「和君・・・また、あんな無茶しないよね?」
響の脳裏に浮かんだのはルアール戦の一幕、和真がルアールの本体に噛殺されそうな姿であった。
「大丈夫。無茶はしないよ。」
とは言うもの、やはり無茶はするだろうと和真は思う。
アルカディア、その奥に潜むのは多分シアールのアルティメットアーマーではない気がする。
例えるなら、もっと制御を外れた何か。
「潜入の方法はこちらで考える。作戦開始は一週間後、各自準備を怠らないで欲しい!」
弦十郎がそう場を〆た。
アルカディア、単純にシアールをトップに据え置いた敵対組織という訳ではなく、実際にシアールが動く時、シアールの指示を遂行するのは四天王で、ファルスロイドやレプリロイドはある男がシアールの指示を代弁していた。
平たく言えば一枚岩でないのだ。
パヴァリア光明結社で力の独占を目論んだアダム・ヴァイスハウプトと純粋に革命を望み、行動していたサンジェルマンのように。
「ヴァプス、お前にハッキングなんて指示をした覚えはない」
シアールが毅然と目の前の男性に言い放つ。
一見するとアダム・ヴァイスハウプトに似ている男性、ヴァプスが不敵な笑みを浮かべた。
「ああ、こうすればS.O.N.G.は悠長に構えて入られない。直ぐにでもこの場へ侵攻を開始するだろうと思ったのだ。シアールの望む決闘も叶うだろう、何せシンフォギアは水中活動に適さないのだから」
まるで、来るのはロックマン達だけと分かっているような口ぶりにシアールは怪訝な表情を浮かべた。
ヴァプスの言うことは見てかのような正確さを持っている。
シアールは以前の作戦で、ヴァプスの言葉通りだと戦慄を覚えることとなった。
アルカディアの戦力はヴァプスとシアール、二人に仕えるレプリ・フォルスロイドである。
現状、シアールはファーブニルとレヴィアタンの二人だけ。ヴァプスは雑魚を含めて圧倒的な差があった。
結論から言えばアルカディアの指揮権は、シアールではなくヴァプスに移っていたのだ。
残った四天王、ファーブニルとレヴィアタンは待っていることが苦手なタイプでアルカディアで受けられる味気ない事務的なエネルギー補給よりも
「それにしても困ったわね」
紺色のポニーテールの少女、外見的に年齢設定は二十歳前後のレヴィアタンがクレープを頬張りながら呟いた。
ファーブニルとレヴィアタンはヴァプスの作戦を知った。
いや、作戦と言うよりは虐殺に近い。シアールは確かに同じ手段を用いて世界を壊そうと画策した。が、四天王は心のどこかでシアールを止めようと、止めてくれる者の登場を待っていた。
ハルヒュイアはイレギュラー化した、シアールの凶行を止められなかった。心のどこかで守るべきだと思っていた人間を手に掛けたからだと分かる。ファントムはシンフォギアが後を託すことができるのか試した、この世界を守ってきたのは彼女たちだし、何より世界外の戦力に何処まで抗えるか見たのだろう。
ファーブニルは、シアールを影ながら守るためにアルカディアへ残っている。
レヴィアタンは色々考えながら、エネルギー補給も兼ねて散策しているのだ。
現金は何処から?
気にするな、ソレは気にしちゃいけない。
「はぁ、
レプリロイドとて心は痛める。
傷心で普段はぼやくより皮肉が多いレヴィアタンがクレープの包みを丸めた所で、あの時に突っ込んできた少女を見つけたのだ。
そして、レヴィアタンとて恋する乙女。
突っ込んできた少女こと立花響と手を引かれている和真に思わず絶句するレヴィアタン。
「・・・・仕方ない。私の気持ちも知らないでイチャコラするなんてお仕置きが必要ね!」
低く呟くと和真にとっては理不尽な怒りと供に駆け出したレヴィアタンだった。
露店が並ぶ自然公園へ響を筆頭学生組に引っ張り出された和真は若干困惑していた。
「こんなことをしている暇はないって顔に書いてありますよ?」
未来に図星を突かれて唖然としてしまう。
確かに、アルカディア本拠地へ乗り込みに辺り、従来のロックマンシリーズのような戦闘を想定すると厳しいと思っていたところである。
具体的に言うと今まで撃破したレプリ&フォルスロイドとの連戦の後にシアールが待っていると考えていた。
「そうそう!そんな怖い顔しないで今は私を見てよっ」
「惚気んな!ま、確かにこのバカの言う通りだ。」
ばっと両手を広げてカモンッ!と体現する響をクリスがぺしっと軽く叩いて向き直るとそう言った。
どうでも良いけど、未来さんがスタンドを背負っていらっしゃる。
阿修羅スタンドなんてあったっけ?あったか。いや、無いよ!
「アッシュだって居る。アタシ等だってオッサンが移動手段をどうにかしてくれる筈だ、武藤一人に戦わせない」
「そうですよ、響を悲しませたら私は許しません」
クリスが真顔で言うと未来が続けて言葉を紡いだ。
未来が言うとしゃれにならん、だってこの子後に神様になってなかった?
詳しい経緯は忘れたけど、確かになってたよね?あれ、そうなるとスミアとどっちが位高いんだろう?
不利、どう立ち回れば良い?なんて考えは吹っ飛んでどうでもいいことが頭に浮かんだ和真。
「確かに響を見てたら何とかなりそうな気がしてきた。ありがとうな、三人とも」
吹っ切れて、微笑みを浮かべたところへ凶器は到来する。それは駆け出したレヴィアタンではない。
鎌だった、イガリマのアームドギアよりも機械的な鎌の刃の部分が飛んできたのだ。
事態は急速に悪い方向へ転がっていく。
錬金術の基本である分解・理解・再構築、そこへ未来の技術体系を組み込んだ場合どうなるか?
答えは空間から滲み出るように現れた蟷螂の鎌のような腕を持った存在である。
目にした響、響の反応から察してクリスは振り向き様にその脅威を確認し思わず逃げるように周囲に叫んだ。
混乱する人々、腰を抜かした屋台の主を守るために飛来する鎌をライブメタルを盾に防ぐ和真。
「ギチギチッ、誰一人殺せねぇか」
一人の長身の男性、その顔は不気味な仮面で覆われており「ギチギチ」と言う特長的な口癖があるレプリロイドが一人だけ居る。
ロックマンゼロシリーズに登場する最悪の科学者、Dr.バイルの配下・・・所謂バイルナンバーズ。
「お前等まで再生していたのか?鎌キリン」
「誰だよ!?」
顔を顰め、何とか押し留める和真が呟くとクリスがツッコミを入れた。
本部で、鎌キリンことデスタンツ・マンティスクが捕捉されたのは彼が攻撃を始めた直後だった。
鎌の刃部分である右肘から先を飛ばした彼が人ごみの中に現れたことに藤尭が叫び、友
里が本部潜水艦内に待機していたアッシュとマリアへ通信を開く。
「イレギュラー反応です!」
「これは!今まで観測されたどのイレギュラーよりも強力なエネルギー反応が!?司令!!」
友里が報告すると藤尭が続く。