「五河ー、剣龍ー、どうせ暇なんだろ、飯いかねー?」
始業式を終え、帰路に就こうとしていると王騎の友人、殿町宏人が話しかけてきた。
王騎はこの後に予定があるか
「俺はいいぞ」
「悪い。今日は先約があるんだ」
もう一方はもう1人の友人、五河士道、どうやら今日は予定があるらしい
「なぬ?女か」
「あー、まぁ……一応」
「なんと!!」
「グリコかよ」
殿馬が両手をV字に掲げて片足を上げ、王騎がツッコミを入れた。
「一体春休みに何があったって言うんだ!あの鳶一と仲良くお話するだけじゃ飽き足らず女と昼飯の約束だと!?三人一緒に魔法使いを目指すって誓い合ったじゃねぇか!」
「裏切り者だね」
「いや、誓った覚えもないし裏切った覚えもないが……ていうか、女っていっても琴里だぞ?」
「なんだ身内か」
「驚かすんじゃねぇよ」
「お前らが勝手に驚いたんだろうが」
「でもま、琴里ちゃんなら問題ねえだろ。俺達も一緒に行っていいか?」
「ん?ああ、別に大丈夫だと思うけど……」
と、士道が言った途端、殿町が士道の机に肘をのせ、声をひそめるように言う
「なあなあ、琴里ちゃんって中二だよな。もう彼氏とかいんの?」
「は?」
「いや、別に他意はねえんだが、琴里ちゃん、三つくらい年上の男ってどうなのかなと」
「…やっぱ却下だおまえ来んな」
士道は半眼を作り、いやに顔を近づけてきていた殿町の頬をぐいと押し返した。
「そんな!お義兄様!」
「お義兄様とか呼ぶな気持ち悪い」
そんな会話を見ていると、ふと外の方が気になった。外に目をやるとそこにはいつもの街並みが広がっている。
しかし気になった物はそんな物では無い、ナニカが起きる。とてつもなく大きなナニカ
「…………」
カチリ、と体の中身のスイッチが切り替わった。
体が軽い、今なら岩でも持ち上げられるのではないかという程に力が湧いてきて、いつもより速く走れそうだ。
「王騎?」
「どうしたんだ?ボケっとして」
「えっ?あっ、なんでもない」
「なんだなんだ?外に可愛い女の子でもいたのか?」
そう言って殿町が窓の外を見ようとした瞬間
ウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ_____
教室の窓をビリビリと揺らしながら、街中に不快なサイレンが鳴り響いた。
サイレンに次いで聞き取りやすい様にするためか一泊ずつ区切るようにして機械越しに音声が響く
『これは訓練では、ありません。これは訓練では、ありません。前震が、観測されました。空間震の、発生が、予測されます。近隣住民の皆さんは、速やかに最寄りのシェルターに、避難してください。繰り返します___』
それは今朝もニュースで放送されていた災害、空間震を知らせる空間震警報だった。
「おいおい…マジかよ」
殿町が額に汗を滲ませながら、乾いた声を発する。
「シェルターはすぐそこだ。落ち着いて避難すれば問題ない」
「お、おう、そうだな」
廊下を見ると既に生徒達がシェルターに向かって列を作っていた。
そんな中、一人だけ列とは逆方向に走っている女子生徒がいた。
「鳶一!何してんだ!そっちにはシェルターなんて…」
廊下を駆けていたのは今朝士道と話していたという鳶一折紙だった。
「大丈夫」
折紙は一瞬足を止めたが、それだけ言ってまた走り出して行った。
「大丈夫って…何が」
「忘れ物か何かだろ、すぐ戻ってくれば間に合うさ」
実際、警報が発令されたからと言ってすぐさま空間震が起こる訳でもない。
すぐ戻ってくれば間に合うだろう。
「お、落ち着いてくださぁーい!だ、大丈夫ですから、ゆっくりぃー!おかしですよ!おーかーしー!おーかーしー!おさない、かけない、しゃれこうべー!」
「まず先生が落ち着いてください」
「…自分より焦ってる人見ると何故か落ち着くよな」
「あー、何となく分かる」
実際タマちゃん教諭の様子を見て生徒達の緊張はほぐされているように見える。
「あ!王騎!」
聞き慣れた声で名前を呼ばれる。王騎が振り向くとそこには王騎の姉、美桜が立っていた
「大丈夫?怪我してない?体調は?」
「過保護か、何処も怪我してないし心配されるような所は無いよ」
「良かった…」
美桜はなぜか安堵した様子でそう言うと布で包まれた物を王騎に手渡した。
「良い?これ絶対に手放しちゃダメだからね!少なくとも家に帰るまでは手放さないでね!」
「は?いきなり何言って_______」
「それじゃあ私はまだ用事があるから!あとでね!」
そう言って美桜は走り出し、あっという間にいなくなってしまった。
手渡された物に目をやるが、特に何も感じない、
「変な物渡しやがって…」
そんな事を口にしていると、士道達の大きな声が聞こえた。
「お、おいッ!どこに行くんだ五河!」
「悪い!忘れ物だ!先行っててくれ!」
士道達の声がした方向を見ると、列を逆走して走っていく士道の姿が見えた。
「……」
違う気がした。あれはただ忘れ物を取りに行ってる様には見えなかった。
「殿町、俺も忘れ物を思い出したから先行っててくれ」
「お、おう!気をつけろよ!」
そう言って王騎は駆け出した