最近の注射は凄いですね刺す時と抜く時両方とも全然痛くない。
その後の副反応のが痛かったです
琴里が士道に精霊達についての説明をし始めた。
そんな様子を尻目に王騎は令音に声をかけた。
「すみません。俺の解析結果って聞いていいですか?」
王騎は士道が眠っている間に自らの身体を解析していた。
解剖などではなく機械で身体をスキャンするものだったのですぐに終わったのだが、結果を聞かずに士道の様子を見に行ったので気になっていた。
「あぁ、その事なんだがね」
令音が言い淀む
「…君の身体の中にはカードのような物が七枚と、何かをバラバラにした物が検出された。何か心当たりはあるかい?」
「……心当たり自体はあります、けど、モヤがかかったみたいに思い出せないです」
瓦礫の中で見た記憶を手繰り寄せる。
経験していないハズの記憶、まるで自分以外の誰かの記憶が詰め込まれてるようだ。
瓦礫の中で見た記憶は欠片の一つに過ぎない、しかし全体を思い出そうとすると意識にモヤがかかる。
見るな、立ち入るなとでも訴えてくるかのように。
「埋まっている物、特にバラバラになっているこれはなんなのか分かるかい?」
「詳細は分かりませんが、カードは使い方は分かります。バラバラになっているのは多分鞘だと思います。」
「鞘?」
「はい、多分俺が使った剣の鞘です。」
その後も鞘やカードが何故身体に埋まっているのか、埋め込まれた当時の記憶はあるかどうかや瓦礫の中で見たものも説明した。
しかし自分でもよく分かってない物を説明しても謎が謎を呼ぶだけで進展は何も無かった。
「なるほど…ところで君はどうする?」
「どうするって?」
「彼は精霊と対話する為に精霊に恋をさせるらしいが君はどうだという事だ」
そう言われて士道の方を見る、そこには不満があるが渋々了承したであろう士道の姿があった。
「いや、俺にできることなんて…」
「あるだろう、君の戦いぶりはここにいるクルーの皆が見ている。もし君が〈ラタトスク〉に協力してくれるのなら、君の友人である彼の手助けになると思うのだが」
確かに士道が精霊と対話する際に向かってくるASTという火の粉を払うのに俺はちょうどいいだろう。
「…精霊って複数いますか?」
「?…あぁ、今回の個体以外にも複数確認されている。」
複数確認されている。この言葉に惹かれ、協力を決意した。
もしかしたら記憶を元に戻せる精霊がいるかもしれない。
そんな淡い希望を胸に抱きながら、〈ラタトスク〉と士道に協力することに決めた。
「なんでもありません。あと、俺も協力します」
そうして、自分の記憶を取り戻す為に藁にもすがる思いで承諾した。
そんな都合のいい精霊がいる保証は無い、それでも僅かに残った記憶の中にいる名前すら覚えていない少女に会うためにできる事は全てするつもりだ。
その後、別室へ移動し、事の詳細が書かれた分厚い紙の束と書類数枚にサインをして帰宅した。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
『久々に起きる事ができたと思えば自由が無いか、何とか意識を喰われることは無かったけど主導権は取られちゃったか』
誰かの声が聞こえる。
『にしても、俺が眠っている間にこんな人格があれの残骸で形成されるとはな。まぁそれでバグが起きたおかげであれを使えるから良いか」
何の話だろうか、主導権、残骸、バグ、何がなんなのか今のぼんやりとした意識の中では検討もつかなかった。
『…起きれたからいけると思ったんだけど、まだ分離は無理か、次の機会に持ち越しかな』
そう言った誰かが遠のくと共に、意識がハッキリとしてくる。
水の底から引き上げられるような感覚が体を支配する。
そうして、目が覚めた。
時刻は五時二十二分。
珍しく早起きをした、いつもなら美桜が起こしに来るまで起きずにいるというのに、今回は夢の中から弾き出されたかのように起きた。
「………」
夢の内容は覚えていない、ただ沈んでいく自分が、なにかの声を聞いていたら何かで引き上げられた、そんな内容だった気がする。
いつもなら気にならない夢の内容が、今は気になってたまらない。
それを紛らわす為に何かをしようと立ち上がり、部屋を出た。
明るくなった窓の外では鳥が鳴いている。
日課のランニングをしているご近所さんと犬の散歩をしているおばさんが挨拶を交わしている。
いつもの光景だ。
昨日の出来事が嘘に思えるほどいつも通りだ。
俺の使ったクラスカードとかは全て夢で、実は久々の登校で死ぬほど疲れていたんじゃないか。
「
そう呟くと、先程までの考えを塗り変える現実が現れた。
甲冑を身にまとい、手には昨日振るった聖剣が握られている。
これでもこの英霊の力の一端に過ぎない、生前の彼女の力はこの程度では無かっただろう。
夢幻召喚を解き、洗面台へ向かう。
手に貯めた水を顔に打ち付ける、寝起きでぼんやりとしていた頭がスッキリした。
「……そういえば、なんだったんだあいつ」
昨日、鳶一折紙との戦闘の際、向こう側で精霊と戦っている人間がいた。
そいつは黒い鎧に身を包み、他のAST隊員とは一線を画した動きをしていた。
精霊と互角かそれ以上、さらに何かを足せば精霊を倒せるのではと思わせるその動きはまさに流星だ。
しかし流星は燃え尽きた。
精霊という太陽と戦い、自らの身を粉にしながら戦っていたそいつは所詮人間、最終的にあの精霊を追い詰めはしたが最後の最後で攻撃手段が無くなった。
彼の剣は折れたのだ。
精霊の持つ大剣との打ち合いに耐え切れずに折れた。
彼は剣が折れると同時に勝ち目が無くなったと判断したのか撤退していった。
「あいつも邪魔しに来るなら、撃退できるかな、俺」
一度協力すると言ったからにはやり通すが、クラスカードを使った自分でもあれを相手にしながら他のやつらを相手にする余裕が無いことが考えなくても分かった。
今回主人公の回想で登場した黒い鎧を纏った彼ですがこれまたオリキャラくんです。
士道が十香をデートに誘う時辺りに多分出ます。
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