グリフォンは西の森に向かう。瓜生は途中から、姿を消したままグリフォンの爪に身を引っかけていた。
荒野の中の、円形の大きな森。その上にさしかかると、強い違和感を感じる。
「まいったな、ここは魔法が使えないのか」瓜生は舌打ちして、レムオルが解ける前に飛び降り、着地点と思える家に向かって加速だけして、パラシュートを開く。
瓜生の物資を「出す」能力は魔法とは違い、竜が炎を吐くのと同様どんな状態でも、ピラミッドの地下や魔王の爪痕でも使えることはわかっている。
パラシュートで着地はしたが、その家まで結構あるし、魔物がいるかもしれない。
(武器を出すのに、魔力の補助がないと前みたいに手間取る)
サイガブルパップもしまいMk48、ミニミ7.62mm×51NATOを手に、長い弾帯を大型リュックに入れて背に、デイバックに大量の手榴弾を入れて前後逆に担ぐ。また、諸刃の剣と合成された、身長ほど長い刃の両手剣を出し、柄部分を肩に金具で固定する。
常人なら歩くこともきつい重量。
(これで、なんとかするか)
と、見える小さい家に近づこうとする。三人が家に入り、ドアが閉まる、直後聖獣は消えた。
「さすがクレフ、凄まじい魔力でこの世界につなぎとめていたんだな」
同時に、脚が地面から伸びる触手につかまれそうになる、瞬間両手剣がそれを、豆腐を斬るように断ち切った。
「襲うものは殺す!」
叫ぶと、出現した巨大な本体に手榴弾を投げ、常人には不可能な速度で飛び離れて重い銃弾を浴びせる。
背後からわらわらと出現した、数十体の、不気味な羽で飛びかかる足が多すぎる蜘蛛を弾幕でなぎはらい、また手榴弾を投げて離脱。
遠くから足音を響かせ、恐ろしい速さで襲ってくる、八脚の30mはある、四つの頭が剣歯虎・牛・クワガタ・ハエ、胴体が虎の怪物。
ほんの数秒の時間にクレイモアを仕掛け、飛び離れて虎の首を両手剣で切り落としつつ至近距離で炸裂させ、さらに手榴弾を二個放って、また一連射ぶちこみながら逃れる。
背後に吹き上がる爆風をぎりぎりで避けて、目に見えない山猫に腕を噛まれたのを至近距離から腹を銃撃。それで力が緩み姿が見えた瞬間、ナイフで喉をえぐる。はぐれメタルの精髄と水の羽衣、ドラゴンローブの力が合成された防具のおかげでダメージはない。
その家を包囲し攻撃しようとする魔物に、100m8秒を切る走りで撃ちまくりながらレーザーワイヤーを仕掛け、伏せるとM2重機関銃を手早く準備し、連射。重低音とともに放たれる重弾が次々と魔物を貫通し、脆いものは粉砕し、柔らかいものはミンチにしていく。
その家の中で、モコナと遊んだりプレセアに捕まったりしている三人は、その家の高い防音性のため外でどんな戦いがあるか、まるで知らないままだ。
瓜生が乱射する重機関銃が激しい衝撃を受け、崩壊する。魔衣のおかげでダメージはないが、衝撃は激しい。
「暴発、じゃない。狙撃か」
素早く岩陰に隠れ、周囲を双眼鏡で見回す。
「向こうも魔法は使えないはず……」
双眼鏡の、熱画像増幅がやや遠くの木陰に、かすかな温度の違いを見た。機関銃が、かなり高く空を向いて咆哮する。
数十発の銃弾が、大きな放物線を描く。その中の二発の曳光弾だけがその軌跡を見せる。
「ち、もう逃げたか」
機関銃を構えなおして別の岩陰に移る、その途中で首筋に細い紐がかかるのを感じ、後ろにナイフを突き出す。
魔力を帯びた不可視の衣が首筋も覆っていたから助かった。
(でなければ、首が落ちてたな)
何の手ごたえもない、そして気配も何もない。ただ、血痕だけがかすかに地面につく。
それに機関銃を向けようとするが、別の魔物に襲われ応戦する。
「遠距離からの狙撃、見えない暗殺者、それに多数のザコ、か。厄介だな」
と、言いつつ最後の一連射と焼夷手榴弾で、巨大なナメクジが焼き尽くされる。
ドアが開く。
その瞬間、おびただしい魔物の骸が、あっという間にのびる植物の葉に覆われる。
「ここは、場所が定まっていないのか」
瓜生が嘆息する。
飛び出してきた少女たち。光の腕には、卵のような丸く柔らかい、額に宝玉をつけた動物が抱えられている。
少女たちの後ろからは、長い髪をポニーテールにした美しい女性も出てきた。
「ああ、やっぱり鳥さんがいない」と海が探すのに、瓜生は軽くため息をついた。
「ええと、瓜生さん、でしたね」風が瓜生を見る。瓜生は軽くうなずいた。
「なんか花火の匂いがする」光が鼻をひくつかせる。
プレセアが最後に、三人と話す。
「モコナ、みんなをお願いね」
「いってきます!!!」と、変な動物を抱えた光が手を振り、立ち去る。
瓜生はそのまま周囲の警戒を続けつつ、少し離れて三人を追おうとする。
見送り、深く祈っていたプレセアが、瓜生に話しかけた。
「あなたは」
「瓜生。あの三人と同じ世界、異世界の旅人で一応賢者。彼女たちを守るために追ってきました。顔が崩れる病気で島に流された人々を魔物と吹きこまれて虐殺し、あとでそれと知るようなことにはさせたくない。あなたは?」
プレセアがうなずく。
「創師プレセア。彼女たちが、伝説の鉱物エスクードを手に入れたら、魔法騎士のための武器を作るのが役目です」
「それが、無辜の血で染まらないよう、全力は尽くしますよ」
プレセアが、瓜生の硝煙まみれの全身を見る。
「あなたには、あなただけの、ただひとつの武器は必要ない、ですね」
「多くの武器を必要に応じて使えますし、この沈黙の森でなければ魔法という選択肢もありますから」
「一つの武器と、心から愛し合い一つになる喜びは、あなたにはない」
「おれもそれは、前からとても哀しいことでした。でも……これ一つで完全に満足、というのは、おれにはありえません。
2m、20m、200m、2000m、それぞれで最強の火器はまったく違います……2mならショットガンのフルオートかアンチマテリアルライフル、20mなら手持ち対戦車ロケット、200mなら対空機関砲、2kmなら核砲弾。
こんな能力を持たない普通の歩兵は、弱いアサルトライフルで満足するしかない……いや、アサルトライフル・手榴弾・グレネードランチャー・手持ち対戦車ロケット・銃剣・シャベル・支援要請といくつもの選択肢から選ぶのは同じです」
「わたしは、そうではないと信じています。その人だけのための、たった一つの武器を作るのが仕事です」
「軍では、現実はともかくライフル一つに対する忠誠と情愛を叩きこまれます」
「それはともかく、どうかあの子たちを、守って」
「もちろん。そのために来たのですから」
言うと深く礼をし、三人を追って沈黙の森に向かった。
モコナと旅する三人は、特に海がどう行けばいいのかわからなくて混乱していた。
戻ろうとしても道が見えていない。
それを、影から見ている瓜生は、声を出さないように腹を抱えて笑っていた。
(魔法の世界で、目に見えるものを信じるのは馬鹿なんだけどな)
モコナが走り出すのを目で追う、その向こうに、熱画像に魔物の気配があり、瓜生は銃を構えなおす。
一つ目で翼のある、長い爪の巨人。動きは鈍いが、炎さえ吐く……が、三人とも無事なようだ。
(ま、あれだけの鎧があればな)
援護しようとした瓜生を、別のほうから似た魔物が七体ほど襲う。また、モコナと呼ばれた変な動物が瓜生の肩にとびついてきた。
「襲うものは殺す、退けば追わない!」
瓜生はモコナを、前に回したバックパックに押しこむ。ちょっと土手になっているところに伏せ、Mk48の一連射で動きを止め手榴弾で全滅させて、三人の少女の、少し見えにくい背後に回る。
長い両手剣を構える光、弓矢を手にする風、細長いレイピアの海。
光の剣は、鋼であれば彼女の体には大きすぎるが、彼女たちが招喚された時点でその並外れた『心』の力が肉体的な力になっている。
追いつかれた海と風に、巨大な爪が迫る。瓜生のフラッシュライトがその目をくらませ、勢いが緩んだ爪を光が剣で受け止める。めまいがしたほどの無謀と勇気だ。
瓜生は魔物の足をぶち抜いてさらに力を緩め、すぐ女の子たちの背後から迫る巨大なザリガニを両手剣で切り刻んだ。
風の矢が魔物の目を貫き、海のレイピアが脇腹を切り裂く。
(なんて冷静さだ、初の実戦なのに。いや、幼くて現実感がないからか?心が極端に強いからか)瓜生は複雑な思いだ。自分の初の実戦を思い出すと……巨大蜘蛛の糸にからめとられ、失禁し泣き叫んでいた。
影から瓜生の銃が、魔物の両肩を打ち抜く。
なおも暴れる魔物を、光が正面から真向唐竹割りに断ち割る。
元の世界では絶対にありえない、身長の三倍を越える垂直飛びも、『心』の強さが肉体的な力になったものでもある。だがそれにも、彼女たちは違和感を持っていないようだ。
「たいしたもんだな、三人とも」瓜生が微笑を浮かべ、その背後から高速で襲う頭二つの狼に十発以上の銃弾を叩きこむ。『沈黙の森』だけに、銃声もわずかに離れたらろくに聞こえなくなるようだ。
三人が楽しそうに語り合っている、そこにはなんの警戒もない。
モコナが暴れるのでバックパックを開けてやると、そのまま光の腕に飛びこんで甘えている。瓜生は、見ようと思えば見える場所にいるが、顔は出さなかった。
警戒は瓜生の仕事だ……別の、無数の太い、トゲだらけの、タコの腕のような蔓のようなので立つ、花のような牙のような中央部を持つ魔物。銃を向けた瓜生だが、別の気配を見て発砲をせず、周辺警戒に戻る。
「お前たち何者だ!?」という、巨大な刀を持つ少年の声。
瓜生にも向けられた言葉だが、瓜生はただ銃口を向け、周辺を熱暗視双眼鏡で警戒し続けるだけだ。
光たちはそれぞれの武器を構える。
突然、モコナがその少年に飛びつき、遊び始めた。
光は笑顔で、「助けてくれてありがとう」と呼びかけた。
だが海と風の二人は警戒しているようだ。「親切で助けてくださったのかは、これから確認すればいいことですわ」
「あ、瓜生、よね」海が瓜生に気づく。「どこ行ってたのよ、乙女たちが危なかった時に」
瓜生は肩をすくめるだけ。
「あなたは、どうお考えですか?」風が瓜生に聞く。
瓜生は首を振り、「おれは、きみたちの行動を一切束縛しない。好きにすればいい、危なくなったら助ける」
「無責任ね、レディーを守るナイトじゃないの?」海が怒鳴るが、
「ナイトなんて資格はないさ」というと、また双眼鏡を出して周囲の警戒を始める。いかにも、自分はノンプレイヤーキャラクターだ、と背中で主張して。
風はうなずいて、少年との会話を再会する。同じくエテルナへ向かう、エスクードを取りに……そう聞いた時点で、瓜生はその少年を殺すことを覚悟した。
(人殺しの血は、おれがかぶればいい)
風が、フェリオと名乗る少年と慎重に交渉を始めた。一段落してから、瓜生もいくつか聞く。
「ザガートがめちゃくちゃ強い、と言っていたが、誰に聞いたことだ?ともに戦ったか稽古でもしたか、それとも伝聞?噂?常識?」
「いやまその、誰もが知ってることだ」フェリオの言葉には、ごまかしがあった。
「それで、武人階層と神官階層の対立は?収税権・立法権・司法権はそれぞれどの層が持っている?」瓜生が聞くが、フェリオには意味がわからないようだ。
「対立など、このセフィーロにあるわけがないだろう」
「人間ならないわけがないんだがな。その、柱とかいう王はどの階層を基盤にしてる?」
「階層も何も、このセフィーロに、そんな違いなんかない。みんなで柱であるエメロード姫を守りつつ、永遠の平和を謳歌する生活だったさ」と、言いながらフェリオの表情にかすかな翳が混じる。
「そのザガードの、王位継承順は?そしてクレフの」
「王位継承?そんなことは考えられない。『柱』の寿命はなかば永遠だから」
瓜生は軽くため息をつき、
「ま、そっちにはこちらの世界が、わけわからないか」と一歩引いて、また交渉を風に任せた。
いつしか瓜生はそこを離れ、熱暗視双眼鏡に引っかかった魔物に応戦して片付け、遠くから突進してくる魔物にRPG-7を叩きこんでいる。
その防衛線からもれた魔物を一体、フェリオが叩き切った。
そして、モコナの額の宝石が光を放ち、森の出口を示す。
土中から出てくる魔物、かなりいたが、少し孤立した場で出た二体を除き、瓜生が形をとる前に破壊した。
その二体は光と海が倒し、フェリオが「なかなかやるじゃないか」と感心する。
さらに空を飛んでくる、足が一本の魔物を銃撃するが、銃弾が効いていない。そのまま光を襲い、彼女の剣もすり抜けた。
「あの魔物には武器がきかない!」というフェリオの叫びに、瓜生は考えこんだ。武器が効かない魔物と戦った経験はあるが、その時は車の機動力で逃げ切るか、ニフラムで消し去った。この森では車は使えず、魔法も使えない。
炎の吐息。スピードまかせに四人の前に移動すると、巨大な鉄板を目の前に出して一瞬防ぐ。
そのまま、素早く物陰に戻り、周囲から襲ってくる別の魔物を次々と銃撃する。
フェリオがその魔物から逃げるように動きながら、着地した足元を崩して木のトゲに貫かせた。
(なるほど、地形を使えばいいわけか)
瓜生はもう一匹の同じような魔物が襲ってきたのを、自分は岩の隙間に爆薬を入れて、その破片で仕留めた。
その間に、魔物の断末魔が風を灼こうとしたのをフェリオがかばう一幕があった。それを守れなかったのに唇を噛みしめたが、周囲を見ていた熱暗視双眼鏡が、もう見慣れた影をつかむ。気持ちを切り替え、素早く海とその影の中間に移動し、一連射。
矢と銃弾が、高速で交錯する。
(おかしい)気がついた瓜生は、遠隔操縦できるようにしたミニガンを置いて少し移動し、さらに使い捨てカイロを近くの木のトゲに刺し、見当をつけた場を遠隔操作で銃撃する。
反撃の矢が、使い捨てカイロとミニガンを次々とぶち抜く。
その二発から勘で三角測量した方向に双眼鏡を向けるが、影はいつの間にか消えていた。
ちょうどその時、モコナが示した出口に向かって走り出す海と光……
「危ない!止まれ!」振り返った瓜生が叫ぶ。
「ぷぅうう!」モコナも叫び、光が足を止める。
瓜生が伏せて、Mk48の引き金に指をかけた、瞬間に海を氷の槍が無数に襲う。
その向こうを、瓜生が銃撃するが、防御魔法で弾かれたのがわかる。
「近づくな!助けようとするのを狙撃するのが、よくある手だ!」
と、瓜生がダネルMGLグレネードリボルバーを瞬時に出し、岩の上に立つ女魔法使いとは別の、自分が狙撃兵なら隠れる茂みや岩陰一つ一つにグレネードを放り上げる。
瓜生が、もう二発グレネードを近くに当てて爆発させ、それを煙幕に沈黙の森の結界を飛び出す。まずマホカンタを自分にかけ、海にベホイミをかける。それで死は免れたはずだ。
マホトーンとマヌーサを女魔法使いに向けて放つが、それはあっさりと相殺され、攻撃呪文を一発食らうが、それはマホカンタで弾き返した。
「その程度の魔力で」言わせない、手榴弾を投げつけ、そのままピオリムを自分や光たちにかけて走り去ると、森に潜む狙撃者とMk48で銃撃戦を始める。
「やっと捕まえた。彼女たちを攻撃する者は殺す!」
瓜生の叫びに、ふっとまた影が気配を消そうとする、瓜生は手元の小型コンピューターで、上空に投げた無人機の熱画像を見る。
「いた」
位置を特定し、そこにバレットを連射する……
まったく別の角度から、矢が左肩に突き立つ。
言葉にならない悲鳴。なんとか回復呪文をかけ、トリガーに紐を結んだバレットをのこして移動する。
(敵は熱源ダミーも使える。熱源もわかる。試すか)
と、数メートル離れたバレットのトリガーを、紐で引く。
次の瞬間、巨銃を矢が貫く。
(よし、敵も全知全能じゃない。となれば)
素早くマヌーサとレムオルを唱える。
その向こうで、光はアルシオーネと激しい魔法戦闘を続けていた。
双方の強大な魔力に、瓜生は驚きながらも狙撃手を無人機で探す。時にアルシオーネを大口径銃弾で狙撃、直後に飛んでくる矢をテトラポッドで受け止めて移動するのを繰り返す。
無人機は多くの熱源を探知した。可視光線の解像度を上げ、なんとか、偽装した人影と弓矢と見えた……それに迫撃砲を向けようとして、一瞬ためらう。
別の呪文を、かたわらの木にかける。
そして、慎重にほふく前進で移動し、それから……遠隔操作の迫撃砲、一時使い魔とした木の放つギラが同時に放たれる。
迫撃砲が矢に貫かれるが、
(こっちか)
攻撃呪文に焼かれながら上空を飛んでいる、奇妙に巨大で美しい蝶。それに、瓜生のMk48が放たれる。それで弱ったところに、瓜生のメラゾーマ、岩をも蒸発させる超高温の極炎が襲い、機関銃にえぐられた穴から内部を焼き尽くした。
絶叫がどこかから上がり、森のあちらこちらで、曲がった枝を弓とした木が、呪縛を振り払われて元の姿に戻っていった。
「人の姿、それ自体が幻惑だったってわけか」
そうつぶやき、別の魔力を広げると……光に背後から、姿のない何かが迫るのがわかった。
それを瓜生が狙撃し、影が弱り消える。
そのとき、海がモコナを通じ、クレフから魔法を受け入れた。光にとどめを刺そうと狙うアルシオーネを、莫大な量の水が超高速で襲う。
瓜生は海の治療に向かおうとするが、周囲から膨大な数の魔物が襲ってくるのがわかる。
森の中に駆け入った瓜生。
(クレフから習った魔法、試してみるか)
まず、目の前にヴィーゼル空挺戦車を出す。
それから、ドラゴラムを応用し、地竜とヴィーゼル、そして自分自身を一体化させる。
一つ一つの、鉄の部品が、魔力で別の本質を見せる。鋼の、幾何学的な法則が、竜そのものの別の本質と共鳴する。
(やばい)瓜生の魔力、編む複雑さが、限度を越える。さっき戦った敵との、疲労も。
だが呪文は中止できない、全力で、続けるほかない……
(助けたいんだ、あの子達を!)瓜生の心が、叫ぶ。それが、崩壊しかけた魔力を編み上げ、一つの力とする。
そこには、中型トラック程度の、鋼の肌を持ちキャタピラと太い足で地面に立つ竜がいた。
襲う魔物に、竜の口が炎を放ち、同時に上から伸びる機関砲が20mm弾をばらまき、魔物の巨体を次々と貫通する。
移動する速度も、時速100kmを越える。ヴィーゼルの最高速度をはるかに上回る。
瓜生が、自らの一部となったエンジンを最高速で回し、その力を竜の生命に直接注ぎ、荒れ狂う。
その間に、風もモコナを通じてクレフから魔法の使い方を習い、海を完全に回復させた。
元の姿に戻った瓜生が、抱き合って喜んでいる三人のところに戻る。海も風が治したようだ。
そしてちらりと、モコナを魔法のやりかたで見ようとする、それだけで圧倒された。
(神)他に考えようがない、絶対の、形容不可能な圧倒的な力とありよう。賢者となった時に垣間見た、そしてその知識から改めて理解したエゼキエル書やヨハネ黙示録の記述すら体で思い知る。
とっさに、これまで積み重ねていた、神に対する激しい恨みと憎しみが爆発しそうになる、が武器を手にすることもできず、その存在自体に打ちひしがれ硬直する。
一瞬、完全に石になって、また元の姿に戻される。敵意を向けただけで。
(ヨブ、か。たしかにオリオンの鎖を解くことはできない、存在の次元が違いすぎる、人間の善悪など……貴様にとっては!)
瓜生が呆然としているうちに、三人の少女たちは熱く語り合っている。
「私たちは仲間だ。まだ出会ったばかりだけど」と、海と風に訴えている光。意識を取り戻した瓜生は一歩引く。
「瓜生も」光が言うのを、軽く首を振る。
「え」光が泣きそうな目で見上げる。海が怒りの目で見た。
「おれを、仲間と思ってもらったら困る。こちらからは攻撃しない、でもおれはいつだって、きみたちが……虐殺をしようとしたら、止めるつもりでいるんだ。たとえ殺してでも」感情を抑えきった、疲労にしわがれた声。
「そのために、いるのですか」風が哀しそうに瓜生を見る。
瓜生は、昔の仲間の気持ちがわかった。いつでも自分や、幼い頃から知る勇者を殺すために、苦楽をともにしつつ監視していた賢者。
「そ、そんなこと、するわけがないじゃない!」海が叫んだ。
「すまない。でも、もし自覚がないのなら……きみたちは、人を殺したのかもと、思わなかったのか?」
海の表情が凍りつく。
「あの女魔術師は、ダメージは受けたが逃げたよ」瓜生の言葉に、光がほっとする。風は表情を変えない。
「自分や仲間を襲う相手を殺すのは当然だ、特殊なキリスト教徒やガンジー主義者でない限り。責めてるわけじゃない。ただ、今まで倒してきた魔物も、どれかは姿を変えられた人間かもしれない。もしかしたら、別の魔物に追われた、何もわからない子どもかもしれない」
軽く、目を閉じる。
「おれは、おれやきみたちに牙をむく者は、どんな姿をしていようが殺す。花束持った小さい子の腹に爆弾が巻かれてる、ってことは地球でもよくあるんだ、撃つしかない。だが襲ってこない限りおぞましい魔物でも、どんなひどい話を聞いていても殺さないし、きみたちが武器を向けたら殺してでも止める。それだけなんだ」瓜生は言って反応を待たず、また森に消えた。
その森にも、多数の魔物が出現している。
巨大すぎる、一つ一つの腕が蛇のようになったヒトデ。足の一本を両手剣が断ち切り、メラミがその体全体を焼く。
切れたのが再生しようとするのを、頭上に自動車ほどの庭石を出して押しつぶし、それで別の敵が襲い掛かるのを止めて、その影に隠れて岩越しに手榴弾を放る。
飛び出すときには身長より巨大なダネルNTW-20を持っており、20mm砲弾が頑丈な、表面が金属のような、ワニの頭とヤマアラシのようなトゲを持つ魔物の後ろ半分を爆発のように吹き飛ばす。
目の前に巨大な鉄板を出し、それに突進してくる頭が岩のような魔物が激突するのを横にかわし、また巨大な機関砲弾をボルトアクションで装填し、はらわたにぶちこんで手元から消す。
上を巨大な、八枚の羽の蛾が飛び去り毒鱗粉を撒こうとするのを、キアリーを唱え解毒しつつ小さいが風速が強い高密度の竜巻をぶつけ、爆風手榴弾で竜巻ごと吹き飛ばす。
その目の前に、肌が岩でできているような、巨大な魔物。近すぎる。
瓜生は振り落とされる腕だけを両手剣で切断し、ルーラの応用で十メートルほど瞬間移動するとRPG-7を発射し、弾が着く前に素早く呪文を唱え、魔物の足から下半身に氷の刃が降り注いで氷像となったところに着弾、粉砕。
そうして戦いながらも、瓜生は三人とフェリオも見ている。フェリオが牙をむいたら、瞬時に殺す覚悟を固めて。
心を通わせあった三人が、決意に満ちて固く手を握り合う。
その三人とフェリオの会話に、何かおかしいことが多くあるが、考える暇はない。
モコナが別の道を示し、そしてフェリオは立ち去っていった。風の手に指輪と、キス一つ残して。
合流した瓜生が、フェリオの、魔力の編み目を見ようとふっと魔力の糸を伸ばすが、フェリオは鋭くそれを断ち切った。
魔法使いとの交流もよくあるらしい。