しばらくモコナが示す方向に歩く。瓜生は適当に、時々消えては魔物を皆殺しにし、また合流するのを繰り返している。
「おなかへっちゃった……」と光が倒れた。
「旅に必要なものはモコナが、とプレセアさんが言っていましたね」風がモコナを見つめる。
「おれが出すこともできるけどな」いつしか合流していた瓜生がつぶやく。
「材料さえあればねえ」海が光を抱っこしてなでながらぼやく。
「お菓子!?アイスクリームも作れるのか!?海ちゃん」光の嬉しそうな顔。
「今すぐ東京に帰れるなら、てっさが食べたいですわ」風がいうのに、瓜生は商品として売られてないか、適当なカタログを出してめくってみる。フグを出して自分が調理するのは危険すぎる。
「あることはあるな」と苦笑し、自分はチョコバーを口に詰めこんだ。
光たちが、モコナの額の飾りを通じてクレフに連絡し、それでモコナが額から、かなり巨大な果物やマンガ肉をいくつか出した。
三人は大喜びで食べている。
「食べないのか?」光が瓜生に聞いた。瓜生はイチゴを一つだけつまむと、
「そっちも、あっちの地球で売られているのなら、何でも言えば出すよ」と言ってレディボーデンのバケツを光に、パックされたフグ刺身と醤油、それに自衛隊用の缶飯を風に出し、缶を魔法で加熱してやる。
海を見ると、彼女は少し考えて、「スパゲッティ」と言ったのでコンビニ弁当をそのまま出し、魔法で加熱してやった。
「ありがとうございます、何から何まで」と風。
「どうやって出したんだ?」光が聞く。
「おれも知らない。商品か、軍正式採用品だけだ。魔法が封じられる場でも使えるし、量に制限もない。地球全体に十個しかないものを千個出すこともできる」と瓜生。「でも、きみらの旅は、モコナの助けを使うのが本筋のようだ。おれの食物は、ちょっと余計なおやつが欲しいときにすればいい」
他にも塩飴やスポーツドリンクなどを渡した。
「あと、そろそろ足も疲労しているはずだ。靴下を履き替え、裸足の足をぬぐってマッサージするんだ」と、替えの靴下とウェットティッシュ、フットパウダーと絆創膏を渡す。
三人とも、足の痛みに気がついたようで、あわてて足の手入れを始めたが、すぐに女の子同士くすぐり合いっこになってしまった。
瓜生自身は、(平和な暮らしをしてたのがこんな激戦の連続で、よく食欲があるな。現実感ないんだろ)と呆れていた。
それからしばらく歩いていると、日が暮れてきた。
「そろそろ寝る支度をしたほうがいい。五時間は歩いて、足もかなり疲れているだろう」と、いつのまにか合流した瓜生が三人に言う。
「あ、はい、そういえば」風がこらえた痛みを、素直に顔に出す。
瓜生は周囲を見て、小川を見つけた。
水を試験管に入れていくつかの試薬で安全を確かめ、大きなビニール袋を出して汲み入れ、近くの木の枝に吊り上げた。それから、その枝の上からテントを張る。簡易シャワーだ。
別のところに深めの穴を掘り、別のテントで覆ってトイレットペーパーとアルコール消毒スプレー、念のため生理用品と蓋つきのゴミ箱を用意する。
「あしたにそなえてもうねなきゃ」と光がモコナに話しかける。
「ねるっていったって、この大自然の中でどーしよーっていうのよ」海が突っ込む。
突然モコナの額の飾りが輝くと、目の前に卵を立てたような大きな部屋が出現した。
「便利なもんだ」瓜生がつぶやき、三人に声をかける。
「トイレとシャワーならこっちにあるから、使ってくれ」
引き上げた袋の水を魔法で暖め、石鹸とタオルも置く。
「のぞくんじゃないでしょうね!」海が怒った表情でいう。
「その気になれば、おれは魔法で透視だってできるし、盗撮カメラだっていくらでも仕込める。それに、アダルトビデオとテレビとデッキと発電機と燃料を出せる」瓜生の言葉に、海が嫌悪に悲鳴を上げた。
「信じてもらうしかない。それに、緊急事態では羞恥心は制御できるほうがいいぞ。想像を絶する習俗の村に入るかもしれない」そう言って、双眼鏡で周辺の警戒を続け、モコナが出したのとは少し離れたところに自分用のテントを張った。
「こっちで寝ないのか?」光が無邪気に聞いてくる。
「な、何考えてるのよ男なのよ、あいつも!」海が光をどなるのを、光はわかってないように見返す。
「ありがとう、でも男が女の子たちの寝室に入るわけにもいかない。おれはこっちでどうにかなる、さっさと足をマッサージして休め」とだけ声をかけた。
言いたいことがもう一つあったが、いわなかった。(普通なら着の身着のままの野宿、いろいろな工夫が必要なんだぞ。それを学ぶ機会を失うのは残念だが。まあこうして異界に招喚されること自体、普通じゃないけどな……)
「まあパジャマや歯ブラシまで……いたれりつくせりですわ」風がモコナが出したテントを確かめていた。
「ここはホテルかーっ!」海が叫んでいる。
「それに、こちらにはシャワーとお手洗いまで、なんて便利な旅でしょう」風が、今度は瓜生の出したテントを確かめる。
「まったく便利なもんだな。まあおれがいるだけで、同じようにはできるんだが。睡眠導入剤だ、眠れないようなら飲め」と瓜生は薬瓶と水ペットボトルを渡して自分のテントにもぐりこみ、激しい疲労に崩れ落ちながら栄養ドリンクを飲む。
眠れるのは、ごくわずかな時間だけ。モコナが出したテントは魔物を遮断するようだが、瓜生はそれは無理だ。
わずかな居眠りで最低限の魔力を回復し、テントの中で濡れタオルで体をぬぐい、カップスープにオリーブ油を、ヨーグルトに蜂蜜を大量に加え、食欲もないのに腹に詰めこむ。
無人機で周囲を警戒し、魔物がいれば向かって、魔法だけで音を出さぬように倒す。
テントの中では、それとは全く別に何か騒ぎがあるようだが、それはもう放置。
朝になると、光は元気に、プレセアから借りた剣で素振りを始める。
「百本でやめておけ、あとで体がきかなくなったら馬鹿らしい」と声をかけながら、瓜生も自分の両手剣をゆっくりと振りかぶり、振りおろす。
まず足を開き気味に、長い両手剣を担ぐように振りかぶり、斧で木を切るように斜めに叩きつける。
剣を抱えるように腰を深く落とし、一歩前進しつつ体ごと突く。
それを百回ずつ、ゆっくりと。
ナイフを手に出し、大きく踏みこみながら袈裟、突きをこれまた百回ずつ。
「剣を使うのか!稽古しよう!」光が一段落するまで待って、すぐそばまで寄ってきた。
瓜生は防具と竹刀を出し、少し考えて、首を振って消した。「腕が違いすぎる」
「え」
「そっちのほうが上すぎる。下手と稽古しても腕が落ちるだけだ。それに試合で勝てなくなるぞ」
「情けないわねえ、大人の男でしょ!」海が軽蔑したように言うが、笑うしかない。
「彼女は天才だよ。元の地球でも、彼女に試合でも……真剣でも勝てる男は、大人を含め全国で数人もいない」瓜生の言葉に、光が哀しそうにうなずく。「会わせてやりたいな。昔、別の異界での仲間に。彼女も天才だったから」
「でも、うぬぼれちゃだめだって、いつも兄様たちにいわれてる。一番下手だ、初心者だと思って毎日竹刀を握れ、と」光が、少し悲しそうに瓜生の目を見上げた。
「だろうな。おれは、ただ稽古を続けているだけだ。何十年も、毎日百回だけでも続けていれば、たどり着けるところはある、っていわれたから」
「剣道とは、離れてる。別の基本、螺旋が入ってる、人間相手の剣ですらない。捨て身防御なし、一撃で鎧ごと叩き割る戦場剣」光が目を閉じ、一度下ろした自らの剣に手をかけた。
「よせ!自分の剣を疑うな。見たものは忘れたほうがいい。出かける支度をしよう」
(ラファエルがゾーマから学んだ技がもとだしな、後で調べたら八卦掌に似た技があったけど)
瓜生はそういうと、モコナが出していた食事とは別に、かなりの量の菓子やパンを積み上げ、自分もいくつか食べ始める。
それからまた水を汲み、シャワーに吊り上げ、女の子たちが大喜びで飛び込む。
そんな旅が、数日続く。
瓜生はやや離れたところで、時々いなくなっては多くの魔物を掃討する。
夜の娯楽はどんどん贅沢になっていく。携帯用ゲーム機、テレビとビデオデッキと発電機……瓜生の睡眠不足もたまっていく。
三人が瓜生を尾行しようとしたことがあったが、マヌーサとメダパニでごまかして、ただタバコを一服していただけと見せかけた。
ある日、海がいい滝を見つけた。何事もなかったように合流した瓜生は、その水圧落差を利用して、簡易浴場をいろいろ出してつくり、ゆっくり入浴させた。
高くそびえる、オベリスクのような岩に囲まれた芝生のような場に、モコナが三人を導いた。
瓜生は、まずそこが安全かどうか事前に見る。しばらく待たせて先行し、強力なフラッシュライトで照らし、魔力を探り、無人機の映像をパソコンで確認する。
そして戻って許可を出し、駆ける三人の後方を警戒する。
警戒せずに前進するな、海の痛い経験から学んでからは、三人も素直に瓜生に任せている。
そこには、中央の細い一脚で支えられた、テーブルのような薄く丸い岩があった。その岩の上にも芝生が生えている。そして、線。
瓜生には、強力な魔力があるのはわかる。それが、象徴的に『泉』と表現するのが一番簡単であることも。
「こんなお弁当でも広げたくなるような場所……」と海がモコナを怒鳴りつけている。
そしてモコナに導かれた光が、上から見ると水があるのを見つけた。
騒いでいるうちに、モコナが突然消える。
「でも深さもわからないし、水の中での呼吸はどうするの?」と海が慌てるのに、瓜生がアクアラングセットとウェットスーツを三つ出し、着替え用のテントも素早く張る。
「ありがとう、でも、なんか違う気がするんだ。大丈夫だよ」光が言って、三人がうなずき合い励ましあった。
「おれには、何もしてやれないな」瓜生がじっと、三人の目を見る。昔のことを思い出す。一人で洞窟に入る勇者に、銃の扱いを教えるだけで送り出した、その辛い数日間を。
「いいえ、待っていてくださる方がいる、というだけでも心強いですわ」
風が微笑する。
「一人でできないことも、三人ならできるかもしれない!」
「がんばろう!」と、三人が声を合わせ、岩によじ登り、飛び込んだ。
横からは『線』にしか見えない水面から、激しく水しぶきが上がり、そのまま静かになる。
何もできないことに唇を噛みしめる瓜生。だが、感慨にふける暇はなかった。
膨大な数の魔物が、『伝説の泉・エテルナ』を囲み、襲いかかってきた……
レーザーワイヤーでのけようとしたが、傷も構わず巨体で障壁を破り、侵入してくる。明らかに敵意のある動きだ。
かなり近いところから出現する魔物、どうしても接近戦となり、さまざまな武器を使い分ける。いつものことだが、「おれは接近戦は苦手なんだ。三十メートルあればRPG-7で」とぼやきながら。
接近戦時には特に愛用する、サイガ12ブルパップフルオートショットガンと、両手持ちの魔剣と長柄ナイフ。
さらに状況によってはAK-103、Mk48、バレットM82、ダネルNTW-20、そしてカール・グスタフ無反動砲のフレシェット弾も使い分けている。
ブルパップ式のショットガンは短く室内戦でも取り回しがいい。AK機関部の高い信頼性、高連射速度でスラッグとOOバックショットを至近距離の敵に叩きこむことができる。鳥用散弾、非致死性弾、グレネードと弾種の豊富さも魅力だ。フォアグリップと一体化した強力なフラッシュライトで眼をくらませ、探ることもできるし、標準装備のダットサイトに暗視装置を加えれば闇の中でも敵を探れる。
両手剣とナイフ、そして柄一体ペティナイフとメスは、四つに見えて本当の実体は一つ。普通の鋼に諸刃の剣やはぐれメタルの精髄、メドローアの魔力を、ゾーマ城に隠されていた邪神の祭壇で合成し、さらにルビスの祝福を受けている。紙のように薄い刃だがこの世に切れないものはなく、実体のない妖魔も斃せる。逆にまな板まで豆腐のように切ってしまうため、普通に包丁としては使えないほどだ。
両手剣は50cmほどの柄、単純な丸鍔から1m50cmほどの細長い両刃。薄いが金剛不壊、密度も高いため四キロ近い重さがある。
ナイフは包丁正宗を思わせる、牛刀のように薄く長い刃が、少し湾曲した長めの、刃と同じくステンレスに見える柄につながっている。長い柄の端を握れば脇差ほどの長さとなり、鍔元を握れば包丁同然。
AK-103は軽く扱いやすく、装弾数も多いし、大口径重量弾は至近距離のストッピングパワーと貫通力のバランスもいい。固い敵が多数出てきたときは遠ければ一発ずつ狙い撃つことも、近ければフルオートの掃射でなぎ払うこともできる。至近距離に巨大な敵が出ればフルオートで乱射すればどれかは急所に当たる。魔法を応用して「出す」ことが瞬時にできるようになる前は、ずっとサイドアームとして左腰に固定していた。
Mk48は定評のあるFN-ミニミの7.62mm×51NATO弾バージョンだ。FN-MAGよりはかなり軽く、確実に強力な銃弾を連射し続けられる。近距離から中距離の多数の敵に、走りながら撃ち続けたり銃身を交換しながら弾幕を張ったりには最適だ。
バレットM82は強力な、M2重機関銃と同じ.50BMG弾を10+1発、セミオートで連射できる。マズルブレーキとバネで反動も制御できる。長く重く取り回しは悪いが、複数のきわめて強大な敵を叩ける。1kmの距離があっても人間を両断できる威力、それが至近距離で複数ぶちこまれれば……
ダネルNTW-20、これはめったに使わない切り札だ。2mを超える長大さ、26kgに及ぶ重量、常人の膂力では立ったままの射撃は不可能。20mmまたは高初速の14.5mm機関砲弾をボルトアクションで三発。本来は南アフリカの荒野、2km以上の長距離で敵の軽装甲車両・飛行機・通信設備などを粉砕するための規格外アンチマテリアルライフル。至近距離で喰らえば人なら赤霧、象サイズの魔物も四分五裂する。
カール・グスタフは後方噴射スペースを必要とするが、至近距離の対人制圧に用いられるフレチェット弾は1100本の鉄棒が百メートルにわたり一メートル四方に十本以上、鋼のヘルメットも軽く貫通する威力で着弾する。もちろん距離があれば成型炸薬弾頭で主力戦車の正面装甲以外は撃破できる。
さらに、場所の余裕があればすぐにM2重機関銃を出して伏せるし、小口径野砲のキャニスター弾やボフォース40mm機関砲の対空牽引版すら使うことがある。
わずかな距離さえあれば手榴弾、さらに後方噴射に対する安全域があればRPG-7も叩きこまれる。
膨大な敵を全滅させた、その瓜生に女の声がかかる。
「ありがとう、その魔物から、いくつかの金属を取っていただけますか」
プレセア。その傍にはモコナもいた。
瓜生は軽くうなずきかけて、魔物の骸にナイフを突き刺し、ビニール手袋すら灼く魔血にびっくりしながら、いくつかの奇妙な何かを取り出し、プレセアに渡していく。
「それの脳内の、粘つく油のようなものもフアメと呼ばれる素材です」
などと指示されながら、いくつもの骸を切り刻み、おぞましいものを抜いてはガラス器、ガラスを溶かしてしまう代物は白金るつぼに入れて渡す。
「そろそろですね、もし生きているのなら」
プレセアが、『伝説の泉・エテルナ』を見ると、奇妙なことに周囲の草や地面が、魔物の骸を呑みこんでいった。
直後、泉の上に三人の少女が出現する。その甲冑も姿形を変えていた。
彼女たちの上に、奇妙な結晶がまばゆく輝いていた。
それを見たプレセアがほっとして、笑いかける。
三人は泉の上に浮いている状態に慌てていた。
「さ、降りてらっしゃい『伝説の魔法騎士』たち。『セフィーロ』で最高位の『創師』であるこのプレセアが、その『伝説の鉱物・エスクード』で最高の武器を作ってあげるわ」
その微笑には、凄まじい決意があった。神の金属から神の武器を鍛え上げた、故郷を離れた鍛冶屋のように。
瓜生はそれを察し、見てはならないと隠れて、周囲を警戒し始める。
突然、凄まじい速度で何かが襲い、斬りつけてくる、なんとなく両手剣を構えていたからそれが弾いたが、体をかなり深く切られた。
(この魔衣を、20センチ厚の鋼板に匹敵するのに)瓜生はショックに硬直しつつ、ベホマで自らを癒し、ピオリムを重ねてかける。
モシャスで、光の姿を一瞬盗む。彼女の才であれば、高速で動く敵の気配もとらえられる。
両手剣を青眼に構え、じっと目を閉じる……光の姿のままで。その彼、いや彼女を無視して、薄絹を舞わせるプレセアを襲おうとする高速の……実体がない、影だけが見える何か。
それが、凄まじい魔力に襲われてひるむ。
そこを光の姿の瓜生が斬った。その断末魔すらかき消す、神レベルのすさまじい力の気配。
ちらと見ると、恐ろしいほど強大な魔力が凝縮した、三つの神武器が輝いていた。
光のそれは、広刃で頑丈な両手剣。
海の細身の長い剣。
風も、広場で長さがあり、アンモナイトの殻のようでもあるが鳥を意匠化した、横から見て円形の鍔がついた剣。
三人の手の飾りから、それまで使っていた武器が飛び出し、プレセアの手に戻って消える。
「今のあなたたちには、『伝説の鉱物・エスクード』で作ったその武器のほうがふさわしいからよ」と言うと……そのままプレセアは崩れるように倒れた。
モシャスを解除した瓜生が歩み寄り、吸い飲みにスポーツドリンクを入れてプレセアの口にあてがい、同時に脈を診る。
「大丈夫、単なる過労だ。ショックには至ってない」
と、光にうなずきかけた。
それからプレセアが三人に話しかけるのを、瓜生はまた一歩引く。
立ち上がった彼女が、三人の手を握って「死んじゃ……だめよ」と厳しい目で告げる。
直後、モコナが目の前に、半球形で翼がある乗り物を出現させた。
「これを食べろって言ってるのなら」という海の言葉に、瓜生は思わず笑い転げた。
「いきなさい『魔法騎士』たち」プレセアの言葉。「『魔法騎士』となるためには『魔神』を蘇らせなければならない」と、奇妙な伝承を三人に告げる。
「でもプレセアが心配だ」光が哀しげに言った。
「ヒカルにもらった食べ物、すごくおいしかったわ」
「ほんとうに!?」と光が表情を輝かせる。瓜生にはわかった、それが一番、光が喜ぶ言葉だから。
別に持っていなかったか、とポケットを探る光の手をプレセアは取ると、「帰ってきたらぜひもう一つほしいわ」とウィンクする。
そして「待ってるわ」と、優しく額に唇を落とす。
かなり大きな乗り物に、光たちが登ろうとするのを、瓜生が呼び止めた。
「おれはこれには乗れない、『魔法騎士』じゃないから。これをもっていて、どこかに着いたようなら落として、この呪文を」と、呪文の魔力の展開を示しながら、ビニール袋に入った奇妙に輝く砂を風に渡す。
「わかりました」
風がそれを受け取る。
「これに登るのは結構大変だな」と、瓜生が脚立を用意した。下手をすると身長ぐらいの高さはある。
奇妙な乗り物は翼を広げ、空に飛び立つ。三人がプレセアに、繰り返し「ありがとう」と叫んでいた。
見えなくなった瞬間、プレセアがまた倒れて、激しく息をついた。瓜生がすばやく、酸素の呼吸補助器つきスプレーをあてがい、もう一瓶栄養ドリンク剤を飲ませる。
「『心』を使いきっただけですから、医薬では治りません」
「あなたは、安全なところに移動できますか?」瓜生が訪ねる。
プレセアはつぶやき、「すぐに、導師クレフが迎えにいらっしゃるはずです」と微笑みかけた。
それから立ち上がり、瓜生に手を差し伸べる。
「せめてもの、感謝の『心』です。今あなたが使っているサイガブルパップフルオートと、魔剣が合成された両手剣を」
瓜生は静かに、短い銃と長い両手剣を、プレセアに手渡した。
いとおしむように彼女は二つの武器を見つめる。それから、先ほど瓜生が魔物からえぐった、奇妙な素材をいくつか宙に浮かべ、手から伸びる薄絹で軽く握るように包んだ。
と、プレセアは薄絹をひるがえし、引き締まった裸身もあらわに踊りだした。
誘惑のための裸と踊りではなく、心を高め、魔力を展開するためのそれ。限りなく美しいには違いないが。
瓜生も、彼女の言葉ならぬ要求に応じて魔力を展開し、自らの世界の鋼や異界の金属に注いでいく。
その舞いが終わり、彼女が崩れ落ちつつ瓜生の、愛用の武器を返す。
短い、フラッシュライトとダットサイトがついた散弾銃。鋼の銃身が深緑色に、アルミ合金の体はかすかに透き通る氷のような質感となり、かなり軽くなったことがはっきりしている。
「一発弾(スラッグ)が装填されている状態で魔力をかければ銃口初速が速くなります。機関砲弾に匹敵する単純な破壊力です。また鹿弾(バックショット)に魔力をかけて放てば、狭い範囲ですが消滅呪文(メドローア)となります」
両手剣の見た目や重さは変わらない、何の飾りもない、光をあまり反射しない細長い剣。ただ、柄頭に見慣れぬ飾りがある。
「この切れぬものなき剣の、柄を魔法の杖同様に短距離の瞬間移動(ルーラ)を魔力を消耗せず使えるようにしました」
「ありがとう、大丈夫ですか?」
「このセフィーロでは『心』がすべてなのです。その他者を心配してくれる優しい心、それに感謝の心で返しただけです」
そこに、一瞬天が暗くなると、上空から大きな鳥が舞い降りてきた。
「クレフ!」プレセアの表情が輝く。半裸の彼女に、瓜生は広めの毛布をかけてやった。
感謝の目を瓜生に返す。
鳥の背から飛び降りたクレフが来ると、杖を向けて強大な魔力で彼女を浮かせ、鳥に乗せた。
「プレセア、ありがとう。できるだけのことはする」瓜生がそう告げる。
「見ていた。ずっと彼女たちを守って、戦い続けてくれていたようだな」クレフが瓜生を見た。
「すぐ、おれなど役に立たなくなりますよ。もう、全面的に戦えば、多分彼女たち三人のほうが強い」
瓜生が言って、魔力を探る。砂が使われた気配に自らの魔力を開き、自分の存在をほどいて、別の織り目の糸に縒り継いでいく。
「では。祈っていますよ」三人の使命が、偽りではないことを。三人が本当は無辜の虐殺を強いられたのなら、クレフを敵とするかもしれない、その覚悟を、消える瞬間の目にこめる。
クレフはその目をしっかりと受け止めた。
「1の続き」で瓜生が持っていた魔法のかかった銃はそういうわけです。