奇妙な味の…『魔法騎士レイアース』   作:ケット

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風の影

 高い空に浮かび滝を滴り落とす巨大な山に、乗り物は翼をはためかせ着地した。

 瓜生が周囲を一度警戒し、戻ってくると、美しい踊り子が踊っていた。

「けったいな兄ちゃんやな。このカルディナさんの踊りを見ていくかい?」

 その踊りの魔力を察したときには、もう操られはじめているのがわかる。光と海は動けない、完全にやられている。

「すべての魔法を解除できる、大魔王の姿を」とモシャスを唱え始めたとき、別の、桁外れの力に魔法を封じられる。

(手出しは無用)と、凄まじい声が瓜生の脳内に響く。心の目に見えたのは、巨大な翼。風の支配者、ウィンダム。

 それで動きが取れなくなった間に、頭が曇り始める。

 最後にできたことは、自らの手と足を結束バンドで縛り、自らを眠らせることだった。

 

 巨大な鳥の姿をした神と会って、戻った風。突然襲ってくる海と光、踊り子であり『幻惑師』でもあるカルディナが丁寧に自己紹介する。

 そして仲間に襲われて逃げ回った末、新しい魔法で二人を封じると、カルディナに剣を突きつけた。

「殺せ!ためらうな!」自らを縛ったまま、目覚めた瓜生が叫ぶ。

 だがカルディナは身軽に逃れると、また踊りだして風をも幻惑する。繰り返し、光と海を傷つけた風だが、最後に強い意志で呪縛を振り払った。

 そして風は、瓜生の手足も解こうとした。

「これは、結束バンドではありませんか」

「ああ、刃物でなければ切れない」というのに、風がより大きくなった剣で切り離してくれた。

「自分で縛るなんて、なに考えてるのよ」海が怒る。

「それだけでなく、自分で自分を眠らせてもいらっしゃいました」風が、傷ついた瓜生の手首を見るが、瓜生は自分で素早く癒した。

「仲間と旅をしていた頃は、混乱させられると思ったら自分を縛って眠らせるのはしょっちゅうだった。その間に仲間がどうにかしてくれる、というのだけが頼みでね」

「強い信頼関係だったのですね」と風が静かに言う。

「君らも負けてないよ」瓜生が微笑みかける。

「その、仲間は?」光が聞いた。

「こっちの世界に戻ったとき、別れたよ。予言によれば、あいつらの子孫には会えるかもしれないけどな」瓜生が寂しげに遠くを見る。

「二度と、会えないの?自分でそこに行くことは」海が悲しげに口を押さえた。

「ちょっと無理だな」瓜生が表情を殺す。

「そんなかわいそうなことって!」光が泣きそうな顔をする。

「そんな顔しないでくれ」と瓜生が菓子を光に差し出した。

「ほな、うちは帰るわ」カルディナが光の頭をなでていた。可愛いものが好きらしい。

「裏口にあった、空を飛べる絨毯は破壊されていたぞ」瓜生が軽く言う。

 カルディナが慌てて、なぜか踊りだした。

「ふしぎなおどりを踊るな。まあどうにかするよ、おっとそのまえに……ま、四人でお茶でもしてろ」

 と、ティーセットとカセットコンロ、水とヤカンまで出し、菓子類を積み上げて立ち去った。

 さっそくのんきに、魔法騎士の三人とカルディナはお茶を始めている。

 光が、「もしかして、敵?」と聞いたが、瓜生は答えなかった。

 

 瓜生は岩山の影で準備していた、大型のレーダーが警報を発したのを確認した。

 地対空ミサイルのマニュアルをめくっている瓜生は、通信機からの声にびくっとする。

「まさか、そんな原始的な対空システムを見るなんて」

 強引に割り込む声。奇妙なノイズがかかっている。

「何者だ?私は公的存在ではないが、導師クレフらの庇護を受けている。電波警戒網を構築する力があり、攻撃には自衛するが、交渉には応じる。所属を名乗り、敵対行動を取らずに交渉を始めてくれ」

 法的にはむちゃくちゃな状況だ……瓜生の故郷でやらかしたら犯罪を通り越している。が、とにかく言えるだけのことは言う。

「ザガートに雇われた、ってことは敵だよ」

「魔法騎士の三人に危害を加えるなら、撃墜する」

 通信機から強烈な笑い声。

「ぼ、ぼくを?この『オートザム』のファイターメカ、スタリオンをその原始時代の兵器で?」

「飽和攻撃には対処できないはずだ。貴機はロックオンされている」

 瓜生の手が、対空レーダーを確認する。

「はっ!」

 通信機の叫びとともに、レーダーから光点が消える。

「ハッキングできるコンピューターはこのレーダーにはついていないはず」と双眼鏡をのぞき、驚いた。完全なステルス形状をうかがわせる、YF-23グレイゴーストにそっくりな戦闘機。

 次の瞬間、時間差のないレーザーが対空ミサイルシステムを赤熱させ、二秒後には爆発になる。

 だが瓜生の姿はなかった。

 生身で虚空に短距離ルーラした瓜生が、カールグスタフ無反動砲を空中で発射する。主力戦車の正面装甲以外は貫通する成型炸薬弾頭が直撃したはず。だが効いている様子はなく、容赦なく超音速で体当たりしようとしてくる。

 空中城の入り口に瞬間移動した瓜生が手を振ると、そこにA-10の巨体が出現する。

 それに魔力の網をかぶせ、その巨体の部品一つ一つを糸とみて縒りほぐしながら、自らを空を駆ける、鳥の翼を持つ竜の姿に変えつつ戦闘機と混ぜる。

 糸の中でさなぎとなり、幼虫の内臓も組織もすべて溶けてまた再構築されるように。

 クレフに習った、ドラゴラムの変形呪文。

 機械・電子を問わず計器が、竜としての感覚器とも統合される。

 以前、出して使おうとして、膨大なマニュアルと部品の山に一人では使えないと諦めた大型軍用機、それが手足を動かすようにわかる。

 その翼に、瞬時に多数のミサイルや爆弾が出現し、ハードポイントに固定される。

 姿はグロテスクとも美しいとも、なんとも言いようがない。

 竜の姿と雷電を帯びた鳥の翼、それがA-10のまっすぐに広げた長い翼と奇妙に一体化している。

 その変身は一瞬であり、そのまま短距離で離陸する。

 それを見た敵機はあざ笑いながら人型に変形する。両の翼が切り離され、一つは盾、もう一つは独立に動く無人機となる。

 機首部は背に折りたたまれ、量の多いポニーテールのようにも見える。変形を終えると右腕から、長い光線剣が吹き上がる。

「見せてあげるよ、絶対的な技術水準の差を!」

「ここ『セフィーロ』では、『心』がすべてなんだろう?これが最後だ。もう理性が……」A-10が、サイドワインダーを八発同時発射した。

「ふざけないでよ!」叫びとともに、レーザーがミサイルを撃墜し、次々に機体表面を赤熱させる。だが、装甲の厚さで貫通しきれぬ間に、鋭い方向転換で命中箇所を変えながら、30mmガトリング砲が叩きつけられる!

 人型機の膝部から放たれるミサイル。その弾頭が数百個の超小型ミサイルとなり桁外れの高速に加速し、高初速の弾芯をことごとく粉砕した。

「そんな低速弾で、『オートザム』のファイターメカと空戦できるとでも思っているのかい?」

 応えない。もはや、瓜生は竜だ。戦うだけの獣の心しかない。

 大きく旋回する。速度は鈍いが、大きい直線翼の旋回性能は高い。

 そして、風上を一瞬つかむと、機首とは違う口が大きく開き、高密度の火球を吹き出した。

 迎撃ミサイルを飲み込んだ炎の断片が、高速で人型機のあちこちに命中する。

「炎?う」

 それで隙を作って背後から一気に真上を取り、クラスター爆弾を投下し追うように急降下する。

「甘いよ!」

 人型機ならではの恐ろしい機動でA-10の背中にとりつき、ビームサーベルが機体をえぐる。

「かかったな」

 瓜生はドラゴラムを解除し、人の姿で短距離瞬間移動していた。元々変身し続けられるのは長時間ではない。

「大容量の燃料庫に、化学肥料を大量に混ぜて爆薬にした。ついでに翼下パイロンには大型爆弾」

 爆弾を抱えたままの、無人のA-10。周辺は、爆裂したクラスター爆弾の小爆弾がうずまいている。

「イオナズン!」

 人の生身で落下しながら、瓜生が叫ぶ。

 大型爆弾並みの爆発力が、無数の小さな魔法の流星となり、動くものすべてに吸いこまれて爆発する。

 クラスター爆弾のすべての子弾が、A-10内部いっぱいの爆薬と大型爆弾が、ことごとく起爆して衝撃波の嵐を巻き起こした。

「なめるなあっ!」

 表面の無数の穴を自動修復機構で癒しながら、爆煙からファイターメカが飛び出し、戦闘機形態に再変形して高速で空中城を狙う。

「おまえなんかに構っている暇はない、あの城を爆撃で」

「と、そのルートを取るのは最初からわかってたからな」

 正面から待ち構える、二つのゴールキーパー対空システム。

「わずかな変形や傷、食い込んだ破片も電波を反射する」

 超音速でレーダー誘導の、A-10と同じ30mmガトリング弾幕と正面衝突した戦闘機は、一瞬で蜂の巣になる。

 ゴールキーパーがレーザーで吹き飛んだ、傍らの瓜生の姿がかき消え傷ついた戦闘機の正面に出現し、巨大なトイレットペーパーにも見える、家規模のロール鋼板を目の前に出す。

 大質量に超音速で正面衝突した機体は、ひとたまりもなく崩壊し落下する。

「最初から、戦闘機形態で超遠距離戦に徹していれば、こっちはなすすべもなかったさ」

 

 瓜生が戻り、「じゃ、行くか。クレフのところまで送る」と、カルディナを誘った。

「ええってええて、ちゃんと逃げられるし」と言っているのを構わず、瓜生はカルディナの肩に触れるとルーラを唱える。

「やっぱり大人の美人を送りたいのでしょうか」風が軽く言ったのを、海が硬直した。

「そうに決まってるわよ!あんなナイスバディの美女、まったくなにやってんだか!」海が自分の、年齢の割に均整が取れているとはいえカルディナには及ばない体の線を意識しながら怒る。

「なにか、悪いことなのか?だって、危ないから送っていくのは当然だろう?」光が首をかしげるのを、風が優しくなでる。

 それから魔法騎士の三人は、いつの間にか出ていたモコナが出す乗り物に乗った。

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