ルーラでクレフに合流した瓜生は、すぐにカルディナを預けた。再会したアスコットとは、軽く微笑を交わすだけ。
「いくつか聞いておきたいんだが」クレフに言うが、彼は首を振った。
「彼女の安全は保証しよう。この『セフィーロ』が崩壊しなければ、の話だが」
「うちなら、そうなったら『チゼータ』に帰るとか、どこにでもいけるしな」カルディナが笑う。
「『セフィーロ』が崩壊したら、ザガートにも利益はない。宗教的妄執、外国への売国、人質を取られての強要なども考えられるが」
「どれも外れだ。これ以上は何もいえない……助けてくれ、魔法騎士を」
「彼女たちが充分に試練にあい成長するのを邪魔しない程度に、だろう?」瓜生の目はますます厳しくなる。
クレフはうなずくだけだった。
「『チゼータ』は前から、領土の拡張を望んでいたはずやで、そらあんなせまっくるしい土地やもん」カルディナがつぶやくように言う。「『オートザム』も、あの汚れた大地はどうもならへん」
「そうだな」クレフが悲しげに言う。
「大丈夫か?何か隠しているのが辛いなら、吐けば楽になるかもしれないな」瓜生が、その表情の哀しみをかすかに察した。
「一眠りできるならしておけばどうだ」
「お言葉に甘えて」と、瓜生はすぐにハンモックを木に張り、よじ登るとすぐに眠り込んだ。この何日も、一日三時間も寝ていないのだ。
だが、眠れたのはほんの二時間程度だった。
リリルーラの、砂の反応。
火山の神殿に出現した直後。出会い頭の、ただ一撃だった。
風が倒れ、海が必死で剣士と切り結んでいるのを見、割りこんでの突きが最後の記憶。
剛剣の一撃に瓜生の意識は消し飛び、次に目が覚めた時には到底動けぬ重傷を負ったまま、火山の隅に放置されていた。
その剣士と戦っている光を見て、何とか助けようと自らにベホマをかけたが、次の動きは炎の獣、絶大な力を放射する魔神に止められる。
「これはあの少女の戦いだ」圧倒的な力を持つ、炎をまとう巨狼の姿をした魔神の意志。
「これくらいはいいだろう」と、ピオリム・スクルト・バイキルトを光にかけてやる。剣士にボミオスやルカニをかけようとしたが、それは魔神に打ち消された。
(操られているな、あの剣士は。動ければ、ゾーマにモシャスすれば呪縛は解ける……制御をしくじれば光まで殺してしまうかもしれないが。無論、離れて機関砲叩きこめば……出会い頭か、どうしようもなかった……負けは負けだ)悔しさに唇を噛みしめる。
中距離なら圧倒的な火力がある瓜生だが、超接近戦における剣技だけはどうしようもない。集団の乱戦や、主導権をとった戦いでは豊富な経験と毎日の練習で充分に強いが、超一流の剣士との考える暇もない一合となれば、生来の才能と運だけの勝負だ。
(選択は間違ってなかった、互いに二の太刀不要じゃもう運だ。ずっとミカエラやラファエルに、出会い頭は任せきってたからなあ……次からはリリルーラで呼ばれるときは、目の前に鋼板ロールだ)と心の中でため息をつき、光を見守る。
剣技に魔剣の力を加えた風圧の遠距離攻撃が、動けない海と風を何度も打ちすえる。光はとっさに二人をかばい、仲間を見捨てるかの選択を迫られる。見捨てないことを選んだ彼女は、凄まじい勢いで剣士に斬りこんでいく。
その強い心が、そのまま速さと化したのか。
凄腕の剣士と天才少女が、激しく切り結ぶ。
「光!魔法を」という海の声に、
「相手は剣士だ!私も魔法は使わない!!」と光が叫ぶ。
「そのほうが賢明なんだ、魔法と剣の連携にはまだ慣れてはいまい。逆に相手は魔法使いとの戦闘には慣れているだろう。慣れ親しんだ剣だけで戦うほうがまだ確実だ」といいながら、瓜生が海と風にベホマをかける。
つばぜり合いをしつつ、光がエメロード姫の名を叫ぶ。
海が、魔法を使おうとして魔神に止められた。
光の小手が決まり、ラファーガの剣が弾き飛ばされる。
そして喉に剣をあてがい、止める、
「ばかっ」瓜生が叫ぶ間もなく、ラファーガの手刀が光の剣を弾き飛ばし、そのまま光の喉輪を決めながら押し倒し……光の剣に手を伸ばす。
手に取った瞬間、剣が炎を噴出し、ラファーガの全身をなめていく。
主以外が手にすることを許さない魔剣……よく、ある。瓜生の、切れぬもののない刃もそうだ。
その炎が顔の刺青を焼き落としたためか、ラファーガは突然呪縛が解け、「エメロード姫をお救いせねば」とかなりボケたことを言っている。
瓜生は深くため息をついた。
そしてラファーガを許した光と、そして海と風も凄まじい魔力に包まれる。
「見るな」瓜生が、ラファーガの目をふさぎ、別の方向を向く。
人が見てはならない、神々の魔力。
普通の人には影しか見えまい、少女たちの裸身と理解できない炎・水・風の乱舞しか。だが、ある程度以上力がある、その実体がわかる者が、見てしまえば失明ですめばいいほう、おそらくは死、それも普通の死よりまだ悪い、魂を砕かれる死。
背に、すさまじい力がわかる。
「直前まで、ザガートとエメロード、また親衛隊などの権力闘争はなかったのか?」瓜生が背後の、凄まじい魔力の嵐から結界でラファーガと自分をかばいながら聞く。
「いや、何も。つい昨日までは、神官・ザガートは忠実に姫をお助けし、『セフィーロ』をよく治めていた」
「ザガートが、何を求めていたか、噂などは?」
「前の親衛隊長、ザガートの弟ランティスの出奔、それに姫の弟、フェリオが勉強に身を入れないことを気にしてはいたようだが……」
(やはりフェリオは王族だったか)と思いながら、背から圧倒してくる力を相殺するために魔力を強める。
「これほどの力、一体何が」
「そちらのほうが知っているのだろう?魔法騎士の伝説は」
「いや、私も知らない。知っているとすれば導師クレフ、またザガートやフェリオ程度だろう」
神魔力の奔流が治まり、振り向くと、また姿を変えた甲冑に身を包み、完成された神剣を握る三人の少女が、炎・水・風の膨大な魔力に包まれていた。
「なんという力だ」ラファーガが震える。
「伝説の『魔法騎士』よ、汝の友を思う『心』の強さ確かに認めた」と、炎の魔神が言い、巨大な人型ロボットの姿をとる。
海と風の胸の飾りからも、それぞれの巨大ロボットが出現する。
そして、少女たちの剣が反応する。
「そういえば、『伝説の鉱物』エクシードで作られた武器が、『魔神』の鍵になるって」瓜生がつぶやく。魔法解析は、危険が大きいのでとっくにやめている。
三人の姿が消えると、巨大な魔神の中で、その魔神そのものを少女が肉体としていることがはっきりわかる。
瓜生にとってこそ、想像を絶する魔力だ。
そして、この姿になってまで、海がモコナを追い回していたのは大笑いさせられた。
三人が飛び立ってから、ラファーガとモコナが瓜生を見た。モコナはどこかに飛び去っていったが、心配する必要がある存在ではない。
瓜生は軽く唇を噛む。本当はラファーガに試合を頼み、自分の実力を確かめたい。
(でも実戦は一度きり、負けは負け。それに、おれは卑怯な戦い方もする。試合とは別の世界の人間じゃないか。負けは負けだ)
しばらく下を向いて歯を食いしばり、「クレフのところに送る」と言い、強引にルーラを唱える。
「だが私は神官・ザガートを倒して、エメロード姫を」と、森に着いてもラファーガは言っている。
「それはあの三人の使命だ」瓜生は言って、クレフに目を向ける。
アスコットとカルディナもいた。
「お、兄ちゃん」カルディナがラファーガを見つめた。「へんな幻惑は解けたようやな」
「はじめまして」というラファーガに、カルディナが非常に強いショックを受けた顔を、演技でしている。
「い、いや、ザガートと対峙して、それからの記憶がないのだ」ラファーガが慌てて弁解している。
「そんないけずいわんといてな、あんな熱い夜を過ごした二人やろ」カルディナの冗談に、身に覚えがないラファーガが真っ赤になっている。
「さてと……」瓜生がクレフを厳しく見つめた。「行ってみれば、何が真実なのかわかるだろう。改めて言うぞ、もしあの三人に無辜の虐殺を強いたのなら……」
「殺すがいい」クレフが瞑目し、軽く手を振ると、巨大な氷の滑走路が、ちょうど999の線路のように崖からはるか遠くの海上まで一瞬で出現した。
(冗談じゃない、なんて魔力だ)瓜生は呆れながら、滑走路の後端にF-15Eストライクイーグルを出し、クレフが協力して呪文を唱え始める。
「待て、ザガートと対決するだと?」ラファーガが絶望的な声を出す。
「無理だよ」アスコットも止める。
「別に戦うとは限らない。当事者の口から真実を聞くだけ、襲って来たら逃げてもいいし、逃げ切れなければ戦うさ」
瓜生は言うと、呪文を唱え終わる。
竜の姿がそのまま、優美な、それでいてB-29以上の大量の爆弾を積んだ戦闘攻撃機と混じり合っていく。
20mmバルカン砲だけでなく竜の炎息もあり、A-10と同口径の30mmガトリング砲もガンポッドに納められている。
『魔神』を『まとう』光たち魔法騎士の行いとは比較にならないほど弱く醜い、人の力だが、それでも人が作った最強の兵器と最強の魔獣との一体感が、危険なまでの力の実感となる。
そのまま、アフターバーナーを点火して滑走路を加速、離陸すると最高速で上昇する。
竜としての感覚器と一体化したレーダーが三体の『魔神』を確認したとき、三つの呪文が空に刺さると、巨大な鏡が割れる。
その向こうには、荒れ果てた荒野の城。背にしたセフィーロとは隔てられている。
『も、戻る』
瓜生が、羽竜/戦闘攻撃機の姿から人に戻り、F-15Eのコクピットに乗る。
昔、この能力を得て大喜びでF-15を出して、膨大なマニュアルに諦めたことがある。だが今はそれこそ命がかかっている。それに、操縦は今は最低限でいい、落ちない程度、安定するためだけに、指先で操縦桿を動かす。
「なんてことだ。この世界全部、鏡に囲まれたドーム世界だったのか」
激しく息をつきながら、それだけ言う。
「米軍や自衛隊の、F-15イーグル?」風の声が、通信機から聞こえる。
「魔神が無線を自動調節してくれているのか?」瓜生の問い。
「瓜生さん!ええ、そのようです」風が返す。
「あ、あんた、なんでそんな高価な戦闘機を」海の声。
「すごいや」光の声もする。
「それより」瓜生が見た方向に、巨大な岩のトゲトゲと、そこに黒く巨大な人型機の姿があった。
『ついにここまできたか、伝説の魔法騎士よ。そして呼ばれずに来る邪魔者よ』声が響く。
「応答せよ、神官ザガートか?」瓜生が返す。魔力を用いた心の会話、通信機は必要ない。
「そうだ」
と、その巨体が、馬上槍のように長い武器を操る。
「あれは『魔神』?」光が叫び、戦いの構えを取る。
「ザガートも『魔神』を持ってたの!?」と海。
「これは私の持てる『心』の『力』のすべてを注ぎ込んで『創造』りあげたもの。伝説の『魔法騎士』を倒すために!」すさまじい力が、瓜生に魔力として伝わる。
「よせ!人の身で『神』の領分を侵すな。寿命が縮むだけで済めば御の字だぞ!それにおれは、あなたと戦いに来たのではない。確かめに来た。話せないのか!戦うより話すことは」
瓜生がなんとか、失速はすまいと操縦桿を指先一つで動かしつつ、通信機で叫ぶ。
「話すつもりなどない」ザガートの凄まじい気迫と殺気。
「彼女たちを攻撃する者は殺す。確認する、彼女たちは、突然異界から呼ばれここに来た。故郷に帰りたい。導師クレフと名乗る魔導師に、帰る唯一の方法は……いや、正確に覚えているとは限らないし、人は言葉をねじまげる」と、瓜生がポケットから録音機を取り出す。
《エメロード姫の願いどおり『伝説の魔法騎士』となって、この『セフィーロ』を救うことができれば、姫の『願い』はかなえられ浄化される。おまえたちは元の世界に戻れるだろう》クレフの声が再生される。
「こう、我々は吹き込まれた。クレフの言葉に嘘はないか?……あなたを殺して、信仰や肌の色が違うだけの女子供を虐殺することが本当の使命なら、おれは彼女たちを殺してでも止めなければ」
瓜生の言葉に、光たち三人は衝撃を受け、呆れたような目を向ける。
「裏の裏まで考えすぎですわ」風がため息をつく。
「どんなひどい目に遭えば、そんな悪いことばかり想像できるのよ。ねじくれすぎじゃない」海が苦笑した。
「クレフもプレセアもいい人だし、だから、それに私は、『魔法騎士』になるって決めたんだ」光が叫ぶ。
「嘘、はついていないな。さすが……そのように愚かで矮小なことと思ったか」
ザガートの力が膨れ上がり、黒電を帯びた闇の球がいくつも出現する。
「バギクロス!」
瓜生は爆風に匹敵する大気の流れを塊状に放って壁とし、そしてF-15Eを急上昇させる。
「ピオリム・スクルト・バイキルト」瓜生の呪文が、光・海・風の三人を次々と包む。
「力が、みなぎってくる」剣を抜いた光のレイアースが、輝きを増す。
「これまでも、瓜生さんが補助呪文を使ってくれて」風が目を見開く。
「鬼に金棒よ」海が好戦的に、剣を構える。
急上昇する瓜生の、耐Gスーツをつけていない体が壊れようとする瞬間、別の呪文が完成する。
鳥の翼と、東洋の龍の顔。羽毛に包まれた、果てしなく長い胴と、鋭い爪の腕。天空の力と獣の凶暴性を身に宿す姿、それをなすすべてが、F-15Eの無数の部品と、一つ一つ響きあい、絡み合い、複雑な魔力に編まれ、織られていく。
獣が当然のように見聞きし、身を動かし、筋肉細胞に血を通じて酸素や水や栄養を送り老廃物を除くように、すべての機械・電子機能が竜であること自体によって制御される。
その禍々しくも美しい姿が、魔神たちと〈ザガート〉の間に立ちふさがり、機首を〈ザガート〉に向ける。
「瓜生」光が驚いた。
「こんな、高度な魔術を」海が口を覆う。
「心強いですわ」風が静かに集中する。
「もう、人の理性を失う……竜、戦うだけだ。話す気はないな!」瓜生が最後に確認する。
応えは、強力な魔力の、闇の球電だった。
F-15Eの機首が竜の口となり、コクピット部に見える一つ目から、人心の光が消える。
竜の咆哮が、F-15Eのアフターバーナーと20mmバルカン、30mmガンポッドが同時に絶叫する。
「炎の……矢!」光のレイアースが、激しい剣とともに炎の嵐を吐く。人の姿のときとは比較にならない、燃料気化爆弾級が吹き荒れ、〈ザガート〉を襲う。
炎は球形の魔法壁の表面をすべり、ラファーガの剛剣に似た一撃必殺の唐竹割りがレイアースを襲う、それを海の、セレスのレイピアが受け流した。
F-15Eの巨体が、蝶のように舞い襲う。機銃が次々に〈ザガート〉の盾に弾け、30mmが一部を欠けさせる。
剣が届きそうな至近距離で投下された、バンカーバスター。廃棄する榴弾砲から流用した、超高品質の鋼の重い筒が、ライフル銃弾なみのマッハ2で〈ザガート〉を襲う。
「なめるなっ!闇盾防除」
ザガートが描いた複雑な三次元積層魔法陣が瞬時に、ダイヤモンドの壁を形成する。何千枚もの傾いた超高硬度板が、大質量のエネルギーをそらせる。
爆弾が〈ザガート〉をかすめ、大量の炸薬の爆発もマントが吸収した。
広い翼を大きく舞わせ、周囲の水蒸気を雲にして方向転換した巨体が、口から槍のような炎を吹きだす。
「いまだ、炎の矢!」光が同時に放った炎、そして左腕の盾から突進する。
巨体と巨体が音速で激突し、巨大な剣が激しく打ち合わされる。
光の天才的な剣技と、ザガートの正しい剣が激しく交錯し、レイアースの一部が激しく砕ける。
「癒しの風」風の、ウィンダムの癒しがレイアースを癒し、「水の龍!」海の、セレスの放つ高圧水流が〈ザガート〉を包む。
そこから飛び出し、放たれる数十発の、黒い稲妻をまとう闇弾に、三機が深く傷つく。
「これが最後だ、剣を引け。交渉しよう」ドラゴラムを解いた瓜生が、F-15Eのコクピットから怒鳴る。
「否!」ザガートの叫びと、強力な闇弾が真上に放たれる。
「ならば、出し惜しみはなしだ!」瓜生が叫び、かなりの上空で急旋回・失速し、真下に向けてアフターバーナーを全開にする。
「死ね。闇衝(レク)」……闇が収束する、そこに真上から戦闘機が、最高速度を超えて突き刺さっていく。
「特攻!?」光が叫ぶ。
「ばかっ」海が怒鳴った、その瞬間、三機の『魔神』が消えた。
「コクピットが、開いて」風の呟きが、どちらに残ったのか。
三人の意識が戻ったのは、闇のはるか彼方。トゲトゲの岩でできたような城は、はるか彼方に小さく見えるだけ。
「こいつの影に伏せろ!全力で守れ!あっちを見るな!」人の生身に戻った瓜生が叫び、鉄鉱石を山積みにした巨船を地面に横たえ、さらにその影にメルカバ重戦車まで出して後方ハッチから飛び乗った。
「え」光が呆然とする。
海のセレスがレイアースの巨体を押し倒すように伏せさせる、「本気よ、従わないと」
「守りの風」と、風の呪文が四つの巨体、そして莫大な量の鉄と石を包む。
そうなるまで、ほんの一秒。呪文が完成し三体の『魔神』が伏せた瞬間、凄まじい光の嵐が周囲を包む。
「何を」風が恐怖に怯える。
「B61、核爆弾」瓜生の、乾いた言葉に三人が凍りつく。「なぜより頑丈なA-10じゃなくてF-15にしたか、答えは……A-10に核が積めないからだ」
「そ、そんな恐ろしいことを!」光が絶叫した。
強烈な衝撃波と爆風が、巨大な鋼塊と魔法の壁にかろうじて阻まれている。
「戦うなら手段を選ばない。全力、それだけだ。君たちは何度も、敵に剣を突きつけて止めては、やり返されて味方を傷つけていた」
瓜生の言葉に、思い当たる風が身を硬直させる。
「確かに、そのために私は操られ、光さんと海さんを傷つけました」風が眉をひそめる。
「私も、そのために押し飛ばされた。もし私の、プレセアが造ってくれた剣が助けてくれなかったら」光が歯を食いしばった。
「で、でも、いくらなんでも、核兵器なんて。それでも人間なの!?」海が叫ぶ。
「その『魔神』の出力に、上限はない。核兵器以上だ。本当に全力を出せば、地球を消滅させることだってたやすいさ」
瓜生が悲しげに言う。
「そんな」光が顔を覆う。
「怖くなってくれ、武器を持つことを、戦うことを。『魔神』なんて神の力を使うことを。恐れつつ戦いぬけ。来るぞ!」
瓜生がメルカバの主砲を一発放ち、車長ハッチから身を乗り出して両手剣を手に握ると姿が消えた。
「え」
砲口煙が薄れる暇もなく闇の稲妻がメルカバを貫き、炎が吹き上がって自動消火で止まる。さらに追い討ちの球電が、今度は跡形もなく重装甲の戦車を押しつぶした。
「ザガート」
光が、レイアースが立ち上がる。
「許さん」ザガートが、マントは吹き飛ばされ、盾に戦車砲弾の傷跡を残しながら飛んできている。「この『セフィーロ』に、悪魔の破壊を」
「『セフィーロ』など、どうでもいいんじゃなかったのか」遠くの虚空に浮いている瓜生が叫んだ。
「まさか、核爆弾が至近距離で爆発して、生きているなんて」海が呆然とする。
「これは私の『心』だ。この『セフィーロ』では、『心』がすべてを決める」
遠くに、余熱の光に照らされるキノコ雲を見た風が、恐怖に打ちひしがれて迫る巨大な姿を見る。
「伝説は成就しない。『魔法騎士』の伝説など、私がこの手で打ち砕いてやる!!闇衝招撃!」
ザガートの放った闇の巨大な球塊が、三機の魔神を打ちひしぐ。
「海ちゃん!風ちゃん!」光が叫ぶ。
「がんばろう海ちゃん!風ちゃん!ザガートを倒せば東京へ帰れる……この『セフィーロ』を救えるんだ!!!」
「これまでいっしょに戦ってきたんですもの、三人いっしょにがんばらなきゃね」海が、
「帰るときは、三人いっしょですわ」風が支えあい、剣を杖に立ち上がる。
「負けない!!」光が強い意志で剣を構え、凄まじい迫力……核兵器にすら耐え抜いた力で迫る〈ザガート〉に対峙する。
レイアースが、激しく〈ザガート〉と切り結ぶ。
〈ザガート〉の膝に、背に、次々と砲弾や地対空ミサイルが刺さる。うるさげに反撃する一発一発が、簡単に戦車を破壊する。瓜生は一発放っては移動し、次々と新しい装甲戦闘車両に乗り換え、生身でも魔力で加速したスラッグ弾を叩きこむ。
「風」瓜生が遠くから声をかけた。
「はい?」
「一瞬でいい〈ザガート〉を行動不能に。海!そこの岩塊の、〈ザガート〉から見て裏に移動し、この強さの、冷気の魔力を練ってくれ」
瓜生が静かに言い、手を伸ばすとマヒャドを放つ。
すべてを凍結・粉砕する液化空気の奔流。〈ザガート〉は軽く殴られた程度のようだが、つばぜり合いの最中目を狙われたため一瞬の牽制にはなり、レイアースの下がり胴に傷つく。
「おのれ」ザガートが叫んだ瞬間、
「戒めの風」風の、ウィンダムの呪文が〈ザガート〉を縛る。
「この程度の!」叫んで風の縄を引きちぎり、振り下ろされるレイアースの剣を弾いて鮮やかなカウンターが、レイアースに刺さる瞬間にレイアースの姿が消える。
「サガルーラ……メラゾーマ」
レイアースを強引に引き戻した瓜生が、巨岩をも蒸発させる超高温の炎を手にする。
セレスは丁寧に剣の先で恐ろしい低温の冷気を制御しながら剣を地面近くに伸ばし、瓜生の手に触れさせる。
冷気と炎が融合し、複雑に魔力が縒り合わされ、編み織られる。
その、要求される魔法の編み方の複雑さ、精緻さに海は驚くが、必死でついていく。暴発したら、自分も危ないことだけはわかる。
「メドローア!」
瓜生が叫ぶと同時に、セレスのレイピアの延長に放たれる虚無の光弾が岩塊を簡単に貫き、〈ザガート〉を襲う。
「なめるな!」とっさに出現した魔力の闇塊が、メドローアの光砲をそらし、相殺していく。
周囲は広く消滅していたが、〈ザガート〉の巨体はわずかな傷だけだ。
「編み方は覚えたな。次からは光と組んでやってみろ。ベギラマ、ベホマ」素早く瓜生が、半ば凍りついていた自分を高熱で溶かし、治癒呪文をかけながら物陰に隠れる。
打ちかかったレイアースだが、それはあっさり叩き落され、距離をとっての対峙になる。
「癒しの風」風の呪文が瓜生にかかったが、それはそのままウィンダムに弾き返された。
「魔法反射呪文」瓜生の、かすれた声が魔力で伝わる。
「そんな呪文も、でもそれって、味方が癒すのも拒むってことじゃ」海が驚く。
「どうしてエメロード姫をさらったりしたんだ!」光が叫ぶ。「姫は『セフィーロ』を支える『柱』なんだろう!?」
遠く、核爆発の影響と、セフィーロ自体の荒れによる激しい稲妻が時に戦場を照らす。
「姫が『セフィーロ』の平和を祈らなければ、この世界は崩壊してしまうんだろう!?」光の声に、ザガートが答えた。
「なぜ姫が『セフィーロ』の平和を祈らねばならんのだ」それは穏やかで、断固として、怒りに満ちてはいるが正気の男のものだった。
「え!?」
「なぜエメロード姫だけが、『セフィーロ』のために祈り続けなければならんのだ!銀爆殺襲!!」
ザガートの、強大な呪文が高密度の、液体の炎の嵐のように練られ、核爆弾に匹敵する威力で三機の『魔神』を直撃し吹き飛ばした。
「セフィーロの『柱』は『自由』もなく、ただ、この世界の安定のみを祈り続けるのが『運命』」
「姫だけじゃない!」鉄塊の影でやりすごしていた瓜生が、声を魔力にして叫ぶ。「おれのとこの子たちの故郷でも、同様な一族がいる。天皇が国のため、一切の政治的権利や市民権を奪われて、代々自らを犠牲にし続けている。そしてどの世界の、どの人も、共同体に所属し縛られ、縛られていなければ……おれのように、自由そのものに苛まれている!」
瓜生が叫ぶと、膨大な情報を魔力で圧縮し、ザガートに送る。そして光たち三人それぞれが知っていることを、同様にザガートに送るよう指示し、三人は操られるように魔力を使い、従った。
「比較にならん。この『セフィーロ』の『柱』には、祈り以外には何もないのだ。子を産むことも、死の希望さえも」ザガートの、底なしに悲しげな言葉。
「だとしたら、そのシステム自体持続可能じゃない。人間に可能なシステムでなければ、滅びるだけだ」瓜生の言葉に、ザガートは何か言おうとして、殺気を迸らせた。
「ザガート、お前の戦う理由、重要なことはひ」
「黙れ!」瓜生の言葉をさえぎり、魔弾が二発放たれる。一発は瓜生を隠れていた戦車の残骸ごと吹き飛ばした。そしてもう一発が突然把握できない超高速に加速、かなり離れたところで爆発。一部がザガートに跳ね返るが、それは悠然と耐えた。
そして着弾点で、別のところで吹き飛んでいるはずの瓜生が崩れ落ちる。
「小ざかしい、幻覚呪文など」
それに三人の少女が悲鳴を上げる暇もなく、膨大な呪文が〈ザガート〉の前で練られ、無数の円を描く。
「闇…爆殺…襲!!」
巨大な魔力の奔流が、傷ついた三機の『魔神』を襲う。
「私たちは絶対に負けない……」海が、鋼の意志をかき集める。
「三人いっしょに東京へ帰る……」風が、じっと死を見つめる。
「大切な『仲間』を、これ以上絶対に、失ったりしない」光が、激しい痛みを振り払う。
「私たちは絶対に負けない!!閃光の螺旋」三人の極大呪文。瓜生が海に教えたメドローアと同じように、まず光の炎と海の水が融合し、それを風がまとめ螺旋に縒りあわせていく。
虚無を超えた破壊が〈ザガート〉の攻撃呪文を呑みこみ、巨体を包み、消し去っていく。
「エメロード……どうか自由に……」その、かすかな言葉が、戦場に響いた。
どこからか、聞こえる絶叫が、巨大な爆発にまぎれる。
残るのは、岩に突き立つ巨大な剣のみ。
「やった……これで東京へ帰れる!!『セフィーロ』を救える!」光が喜びに満ちた笑顔で叫び、城に向かう。
三人の頭には、もうRPGのエンディング曲が流れていた。花園と美しい姫。民の笑顔と花火、スタッフロール。
これほどの高揚感を、喜びを感じたことは、彼女たちの生涯に一度もなかった。
長い苦闘。痛み。そのすべてが、報われた。
だからこそ、ゲームというものは人の心を捉えて離さない、麻薬に匹敵する力で。
「サガルーラ」は筆者の創作です。
「ドラクエ3」のときに瓜生が作った呪文。
他者を自分の近くに、短距離瞬間移動させるだけです。
前衛が敵とつばぜり合いをしている最中に引き戻し、隙にメドローアや対戦車ミサイルなど遠距離攻撃を叩きこむのが使い方。