奇妙な味の…『魔法騎士レイアース』   作:ケット

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真実

 水あふれる城に侵入し、『魔神』を降りた三人は、滝の中の広場にいた一人の美女と会った。

 そして彼女は、「エメロード」と名乗る。

 それに光は、おずおずと事情を説明する。いぶかしみながら。

「ザガートは倒した」という光の言葉に、エメロードの口からは、意外すぎて言葉として受け止められない言葉と、凄まじい殺気が放たれる。

「私の愛するザガートを殺したのは、あなたたちね……!許さない!」

『魔神』に守られ、辛くも飛び出した三人の『魔法騎士』を、ケンタウルス状の巨大な何かが襲う。

 凄まじい威力の攻撃に、『セフィーロ』の大地が運河並みの規模で裂けた。

「たった一撃で大地が裂けたわ!」海が叫ぶ。

「金爆殺襲」

 振り下ろされる剣とともに、凄まじい衝撃波が拡散して襲う。

「サガルーラ!」

 一瞬で、三人が相当遠くまで飛び、それでもかなりのダメージは負ったが致命傷は免れた。

「「「瓜生(さん!)」」」三人が叫ぶ。

 瓜生が、半壊した岩山の影の、さらにメルカバ戦車の車長ハッチから顔を出した。

「マホカンタは唱えてあったからな」体の大半が潰れたが。瓜生の魔衣には、力の盾も合成されている。「生きてさえいれば、おれは自らを癒し、全快できる」瓜生が微笑する。

 回復過程は大量のモルヒネを打たなければショック死する痛さ、とは言わない。

 モルヒネの影響が抜けまともな意識が戻るまでかなりの時間がかかり、目が覚めた直後に城が崩壊したぐらいだった。

(すまない。人殺しをさせてしまった)それも、言うことができない言葉だった。

「あ、あれは、エメロード姫だって言ってるけど、変な」

「誰であろうが関係ない。自分たちを攻撃する者は殺せ、それだけだ」瓜生が言う。

 なんとなく、どういうことか、わかりそうな気はした。だがそれより……正面から襲う、圧倒的な殺気と力。

「一つだけ、先に言っておく。おれは神にも傷をつけることができる」瓜生がじっと、あのときのことを思い出す。「使っていいときは指示してくれ。そして全力で逃げろ」

「どうやって?」

「自己犠牲呪文の攻撃力は絶大だが、ザコにしか効かない。だがその、生命そのものの絶大な魔力を、別の力を制御することだけに使う……一発の銃弾の加速に、大型水爆のエネルギー全部つぎこむ。ニュートン方程式だけなら光速以上、相対性理論で質量を増し、そこらのロボットアニメのビーム砲より強力な素粒子ビームとなる。神ですら傷は免れない。おれは死ぬけど」

「ぜ、ぜえったいにだめだよそんなの!」光が絶叫した。

「おっそろしいこと、いわないでよ!」海がぞっとした目で瓜生を見る。

「合理的では、ありますわね。ですが、あなたを死なせた負い目を、ずっと担えと?」風がじっと瓜生を見る。

「忘れられるさ。人間はなんにでも慣れる」瓜生が静かに言い、両手剣を構えて虚空に消え、上空で羽竜/F-15Eに姿を変えた。

 恐ろしい速さで襲う〈エメロード〉の呪文、風の防御呪文ですら威力を半減させただけで、二人とも大ダメージを負う。

 そして、魔法騎士たちに、別の……彼女たちにとって聞き覚えのある、小さなエメロード姫の声が聞こえた。

 瓜生も、その声を魔法で聞いている。

 聞きながら三人が、〈エメロード〉と必死で戦う。

 竜に変じF-15Eと一体化した瓜生は、M83、より大型のメガトン級水爆を至近距離から〈エメロード〉に直撃させた。

 それすら、四体の魔神には、彼らが操る魔法と同等の、たいしたことのない威力だが……。

 

 戦いの中、小さなエメロード姫は、真相を打ち明けていく。

『セフィーロ』を救うため。姫をザガートがさらい、幽閉した。だからセフィーロは崩壊しつつある。だからザガートを倒し、姫を救えば、『セフィーロ』は救われる……それが、三人の少女が思い込んでいた、この〈RPG〉の〈ストーリー〉だった。

 瓜生もせいぜい、そうだと思って戦ったら単にザガートは一勢力の長で、ひとつ間違えば三人が人間の戦争に巻き込まれ、何万人もの女子供を虐殺させられる、それを恐れていたぐらいだ。

《違います……ザガートの、あの人のせいじゃない……》小さなエメロード姫が嘆く。

 F-15Eを破壊され、変身が限界で解除した瓜生が、録音されたクレフの言葉をあらためて流す。

《私が伝説の『魔法騎士』を招喚したのは、私を殺してもらうためです》

「そうだ。クレフは一言も、エメロード姫を助けるように、とは言わなかった……嘘はついてないが、事実すべてじゃないってわけか」

 激しく歯を噛み鳴らす。

 瓜生が天界の神竜、巨大すぎるほど巨大な竜の姿をとり、激しい炎を吐き散らし巨体の重量でのしかかる。

〈エメロード〉の攻撃が、それを簡単にはねのけ、鋭く反撃する。瓜生は神竜の姿をわずかしか持続できず、すぐ人に戻った。

《『柱』はみずから死ぬことができません。そして『セフィーロ』の何人たりとも、『柱』に危害を加えることはできない》

「ふざけるな!人を、縄か剃刀みたいに扱いやがって!死にたければ一人で首吊れ!」

 人に戻った瓜生の怒りが、激しい言葉になる。

《お願い、私を殺して……》

「殺してやる、このザガートの剣で殺してやる!」

 三人の魔法騎士を狙う追撃。瓜生が大魔王の姿となり、その膨大な魔力を凍てつく波動で消し去る。そして巨大化して膨大な冷気を吐き、馬上槍のような大剣の一撃を、全身が描く美しい螺旋でそらしつつ鮮やかに連打を入れて死の癒しを注ぎ、邪悪な哄笑で天地を引き裂き闇に凍りつかせる。

〈エメロード〉は圧倒的な力と速さで、大魔王の優雅な拳に反撃し、強烈な魔力をぶつけ合う。

「す、すごい」光が呆然とする。

「なんで、あんなとんでもなく邪悪な姿に」海が、大魔王から放たれる恐怖と邪悪に頭を抱えた。

「ザガートの最後の言葉。それは、『エメロード、どうか自由に』だ」すぐ限界が来て生身に戻った瓜生が、〈エメロード〉のすぐ上に瞬間移動すると巨大なタンカーを出して巨大な円錐を放り、三体の『魔神』とともに、空中神殿の陰に跳んだ。

 とてつもない爆発、それをエメロードが、強烈な魔力で空間ごと虚無に返した。

「なんということを、大魔王め!」そして恐ろしい速度で、また〈エメロード〉が迫る。

「な、何をしたの」海が叫んだ。

「満タンの石油タンカーの甲板で大型水爆を爆発させただけだが?とんでもないな、すべて握りつぶして虚無に消し去りやがった」瓜生の平静な声。「ザガートは他国に逃げることもできた、あんたを愛していなかったなら。また、この子たちにすべてを打ち明ければ、彼女たちにあんたを殺すことはできまい。それで彼女たちを元の世界に帰すのも……きついし、そうなったら次を呼び出すだけか。

 ザガートは、あんたを愛していた。立派な男だった」

 瓜生が、奇妙な平静さで語っている。上空で瞬間移動を繰り返し、次々に大型爆弾を落とし、巨大な鉄鉱石運搬船を〈エメロード〉のすぐ上に出してまた消える。

 圧倒的な質量に潰されつつ、凄まじい『力』で切り払い、魔法騎士たちに激しい攻撃を続ける〈エメロード〉。

「ザガートは、こうも思っていたはずだ。自分が死ねば、あんたは諦めて、『柱』としてでもせめて生きられるかもしれない。いや、あんたが自由になることを望んでいた……『魔法騎士』を返り討ちにし『セフィーロ』を破壊して、やっと自由になって一人別の国で生きる、それを求めていた、か」

《ザガートのいない世界で、一日でも生きていたくない!》小さいエメロード姫が叫ぶ。

「おれたちの世界は、みんな常命だ。誰もが愛する人を失って生きるんだ、まあインドで未亡人を火葬に放り込む風習が残ってるところは別だがな」瓜生が微笑みかける。

《でも、『セフィーロ』が》

「人々を他国に移住させることはできたはずだ」瓜生の言葉に、小さいエメロード姫が激しく首を振る。

「できたはずだ。神力があるんだ、この世界のルールを変えることはできたはずだ。譲位することも、全員で少しずつ背負うことも。そうしなかったのは『柱』であることに執着した、それに……」瓜生の目が、残酷な光を放ちつつ、伏せられる。

(精神分析を凶器として使うのは、核兵器より罪悪感重いな)

「怖かったんだろう。姫で、『柱』でない、一人の女として彼の前に立つのが。彼の敬意と愛情は義務だけだったのかもしれない、疑心暗鬼。うまくいっても、いつ浮気されるかもわからない恋愛の日々より……

 出ようと思えば出られたんだろう?なぜ、どの段階でもいい、止めにこなかった?ザガートが死ぬまでに」瓜生が静かに言う。「何もしなかった、手遅れになるまで。立派な男を、何も知らない少女が殺す前に」激しい怒りに、瓜生が歯を食いしばる。

 そして史上最大のツァーリ・ボンバ水爆を背に、座布団を積み上げてダネルNTW-20対物狙撃銃を構える。スコープの設定を変えて、銃弾の落下をゼロとして〈エメロード〉を狙い、水爆の起爆装置に手をかける。

「望んでいたんだろう、この結果を。二人で死んで、楽になることを。三人の、異界の少女を縄扱いして心を引き裂くのとひきかえに」

 エメロードが、大人の姿が絶叫する。子供の姿が激しく泣き崩れる。

「少なくとも、傷は免れまい……その隙に、容赦なく殺せ!迷うな!」瓜生が叫び、魔力を集中する。

「じ、自爆を」海が叫ぶ。

「だめだああああああああっ!」光が、絶叫した。

「戒めの風!」風の呪文、瓜生の唱えかけていた変形メガンテが霧散、引き金を引けぬほど、起爆装置を押せぬほど拘束される。

「慮外な闖入者!消えうせろ!汚らわしい故郷へ帰れ。この世界に、永遠に一歩も踏み入るな!」エメロードの叫びとともに、瓜生の存在自体が消滅していく。

「く……抵抗しても無駄か」素早く呪文を唱え続ける。スクルト、ピオリム、バイキルト、ベホマラー。魔法騎士の三人が、輝きを増していく。

 唱え終わると同時に、瓜生の姿が消えた。直後光弾が、起爆寸前の超巨大水爆を虚無に消し去る。

 

「瓜生さん」風が息を呑む。

《彼は元々、不自然にこの『セフィーロ』に来ています。元の東京に、戻っただけです、二度とこちらには戻れぬよう呪われて》冷静を取り戻した、小さなエメロード姫の声。

「それにこの、強力な補助呪文。これがなければ、私たち、何度も死んでた」海が、自らにかけられた魔力を見直す。

《彼が、どれほどあなたたちを助けていたか、知らないのですね》と、光・海・風の三人は、三人が招喚されて以来の、瓜生の激しい戦いの連続を一瞬で〈知って〉しまった。

「私、は、守られてたんだ。ずっと」光が歯を食いしばる。

「な、なんなのよ。どれだけ強いのよ。それを、ずっと隠れて、おくびにも出さず、バカにされても苦笑してて。これじゃ、わたしたちが、バカみたいじゃない!」海が、衝撃に目をうるませる。

「何度も傷ついて、感謝の言葉一つ求めず」風が顔を伏せた。

 

《『伝説の魔法騎士』たちよ、私を殺して……そして『セフィーロ』を救って……》

 小さいエメロード姫の、祈り。〈エメロード〉が手にするザガートの剣が、レイアースの肩を貫く。

 祈りに応え、涙を流しつつ。三人の魔法騎士は、そのすべての力を一つにした。瓜生が繰り返し見せた見本から学び、みずからの存在を解いて撚り合わせ、美しく編み織って。

 一つの『魔神』の炎剣が、〈エメロード〉の胸を貫く……

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