ムゲン牢獄 作:遙方
ご指摘をいただいたので少し書き換えました。
「…いいよ、あたしは負けた。ジムリーダーとしてやっちゃいけないことかもしれないけど、一人のトレーナーとして協力する。ムゲン団に入るよ」
ああ、姿は変わってなくても私の性根はとうの昔に腐りきってる。だって今親友としての私はマリィを悪事に引き込むことに罪悪感を感じていながらも、女としての私はマリィが自分の想像通りに動いている事実に笑ってしまうから。私の親友の筈なのに…
「それで、私はどうすれば良い?」
「じゃあ明日の夜、部屋に行くから準備しておいて。キバナさんを説得する舞台にさせてもらうよ」
「キバナさん、“無敗”のダンデさんと試合したくありませんか?」
『…そいつはどういうことだ?』
「もし興味があるなら、明日の夜10時スパイクタウンのポケモンセンターに来て下さい。ああ、勿論誰にも伝えることなく一人で来て下さいね」
『だからどういうことかせ――』
鬱陶しくなったので電話を切る。ついでに着信拒否もしておこう。何かマリィがじとーって感じでこっち見てるけど気にしない気にしない
「乱暴」
「キバナさんは“無敗で誰にも倒すことが叶わなかった”ダンデさんに拘っていた。それが証拠に、私がチャンピオンになってからパフォーマンスは段々下降していってる。ちょっとくらいおかしく感じても来るよ、これは絶対に」
私は、ムゲン団にキバナさんも巻き込もうと思ってる。いくら私が無敗だからってルール無用でジムリーダー全員に狙われたら私だって負けかけない。だから最強のマリィを最初に巻き込んだし、二番目のキバナさんも引き抜きたい。何よりダブルバトルに関してはそれこそ“無敗の帝王”なんて呼ばれてる程。万が一他のジムリーダーに集団で迫られても、とりあえずキバナさんに任せておけば大丈夫だろうっていう計算もしている。メロンさんに全く勝ててないのは不安材料だけど、そのときは私が直接手を下せば良いか
オレとダンデはライバルだ。確かに、オレは一度も勝ったことが無かった。それでもダンデはオレをライバルだと認めてくれたし、ガラルの皆もそう認めてた。でもあいつは負けた。他のジムリーダーならまだしもトレーナー歴が一年にも満たないようなやつにだ。勿論オレもそいつに負けた。だがまさかダンデまで負けるとは思っていなかった。更に言うと、あいつはセミファイナルトーナメントの決勝戦以降一度もダイマックスをすることなく勝利していた。あのキョダイマックスリザードンとダンデすらユウリの野郎にダイマックスを使わせることはなかった。まるで私に最後のダイマックスを使わせたホップの方が強いんだって暗に言われているようで凄く腹が立ったのを覚えている。何があったのかは知らねぇがそのホップはセミファイナルトーナメントを準優勝までしながら次の年は参加しやがらなかった。もっと言うと、ダンデの態度も気にくわなかった。何が“ついにオレを負かすトレーナーが現れた!”だ。おかしいだろ!そこはずっとお前に挑戦してきたオレがやらなきゃいけねぇことだったんだ!…そう考えた瞬間、オレの中で何かが切れた。多分、情熱とかそんなもんがまとめて切れちまったんだと思ってる。対外的に見て劇的に弱くなった訳でもなかったが、ここが一番重要だってタイミングに攻めあぐねるようになった。そうじゃなかったらいくら成長株といってもオレがマリィに負けるはずはねぇ!まあなんだ、あいつがスパイクでのジムリーダーは私以外にあり得ないとかなんとか宣ったおかげでオレはまだナックルシティのジムリーダーをやってる。最強のジムリーダーに情けをかけられた元最強ジムリーダー(笑)なんて叩かれてもいるが、不思議なことにそういうやつらに対して怒りを覚えることは無かった
「ここらが潮時ってことかね」
オレのその呟きに、反応するやつはいない
「時間ぴったりですね。しかもちゃんと一人で。約束を守る男の人はモテますよ?」
「そんな冗談言うために呼び出したんじゃねえだろ。用件はなんだ」
口調はかなり荒々しいけど、15年前に比べて覇気がない。結構あっさり仲間になってくれそうなのは嬉しい誤算
「立ち話もなんですからマリィのところに行きましょうか」
「オレは確かにここに来たが、お前の提案全てに頷いてやる義理はねぇぞ」
今の私はホップが約束を破ったショックとムゲンダイナから漏れでるエネルギーがよく分からないMIXをした結果、10才のままで体の成長が止まっている。まあ何が言いたいのかというと――
「今私が“止めてください!この変態!”って叫んだらキバナさんはどうなりますかね」
「おいやめろそこの合法ロリ」
「因みにエール団はマリィと仲良しの私にも優しいので冤罪くらい楽勝です」
「分かった分かった。早くマリィのところに連れてけ」
「理解が早いようで助かります♪」
エール団の皆は“お嬢が手伝うって決めたんならオレらも一緒に手伝うのは当然だ”って言ってくれた。“もしユウリがチャンピオンになるのをやめるなら、お嬢がホップに勝つかもしれねぇだろ”って慌てたように付け足してたけど、やっぱりエール団の皆は優しいし、他人の優しさにつけこむだけの私は私自身をもっと嫌いになっていく
「早速本題に入りましょうか。キバナさんはムゲン団について何か知ってますか?」
場所はマリィの家のリビング。自分の家に呼ばなかったのは別の人――この場合はマリィが居ても不自然に思われない為。交渉が決裂したときに捕まえるための人手はいくらあっても良い。一対一だと隙をついて逃げられかねないし
「最近活動的な組織だな。ダイマックスエネルギーをどうにかして金儲けすることとそこらのトレーナーに無理やり大人数でバトル申し込んでリンチにする犯罪者集団だな。あとは、活動量の割に逮捕者が少ないってのは気になるな。内通者の存在が疑われている。…そんなところだな」
「思ったより詳しくてちょっと驚きです」
「お前オレがリーグ委員と警察の折衝担当なの忘れてるだろ」
そういえばそうだった。ナックルシティは宝物庫もあるし都合が良いからナックルシティのジムリーダーに折衝を任せるのが通例なんだっけ。これはますます引き入れるメリットが高くなった
「じゃあ毎回私が迷惑かけてたのってキバナさんなんですね、すいません」
「おい、その言い方だとまるでお前が内通者みたいじゃねえか」
「それだけじゃないですよ」
言葉を切って、一旦息を整える。ここは大事な局面だ。もしキバナさんの説得に失敗したら、口封じに捕まえるか殺すかしなきゃいけないけど、そうしたら計画も早めなきゃいけなくなってくる。落ち着け私。チャンピオンとしての私じゃない。ムゲン団団長としてしっかり対峙するんだ
「ムゲン団の団長は私です。ムゲン団の本当の目的はムゲンダイナのエネルギーを使って世界を巻き戻すこと。教えて下さい、キバナさん。貴方は過去に戻れるとしたら何をしたいですか?」
「そんなことが実現できるわけ無いだろうが!」
「じゃあ今すぐその席を立ったらどうですか?座り続けるように強制しているわけではありませんよ?」
キバナさんの目は迷っている。ジムリーダーとしての矜持か、一トレーナーとしての歓びか。私は何もしない。天秤がどちらに傾いているかは分かりきっているからだ
「…本当に、ダンデとやれるのか?」
「はい。少なくとも私はチャンピオンにならないので他の人に負けさえしなければいくらでも可能です」
椅子を引いてキバナさんが立ち上がる。私の後ろにいるマリィが慌てたように動き出すけど、それを左手で止める。訳が分からないという風に私を見つめるけど、今は動き出すタイミングじゃない。これは必要な儀式だと思ってる。ここまで悪事を止める側だった人間が私欲の為に悪事に走る側になることに、自分なりの折り合いをつける誰にも邪魔は出来ない時間だ
「…いいぜ。手を貸してやる」
「ありがとうございます。でも実は、大してやってもらうことは無いんですよ。計画がバレたとき、もしくは計画の大詰めになったときに邪魔者を追い払う役目。それがキバナさんと後ろにいるマリィに求めるものです」
「一大決心だってのに、案外ショボいもんだな」
「だからこそ、キバナさんとマリィに頼んだんです」
計画を止めるためには私、マリィ、キバナさん、ローズさんの四人を、他のムゲン団員もろとも蹴散らさなければいけない。チマチマ戦うわけにもいかないし、かといって早くバトルに勝とうとすればその分隙はうまれやすい。極端な話、全員負けたとしても誰かが止める前にムゲンダイナにエネルギーを集めきってしまえばいい。あとは私が願いさえすれば世界は過去に巻き戻る。どこまで巻き戻すかは決めてないけど、旅立ちの前日くらいかなとは考えてる
「とりあえずキバナさんは今まで通りにムゲン団を捕まえようとしてください。私が勝手に情報抜いて逃がしますから。ああ、無理やり大人数でバトル申し込んでリンチにしてるやつらってどこで見ました?そいつら過激派っぽいので叩きのめしておこうと思って」
「今のところはターフスタジアム近くで散見されてる。ジムチャレンジ始まったらチャレンジャーも食い物にされるかもな。じゃあなんかあったら呼んでくれ」
そう言い残してキバナさんは帰っていった。肩の荷がおりる感覚はとても気持ちいい
「ねぇユウリ。計画が失敗したらどうするの?」
「考えないよ、そんなことは。誰が負けることを想像してチャンピオンに挑むのさ」
「そうだよね。少し意地悪なこと聞いた」
「気にしないでいいよ」
もし計画が失敗したら、あとは全部流れに任せる。素直に逮捕されるかもしれないし、自殺するかもしれない。国外に逃げるかもしれない。なるようになるって
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