桜並木のアルカディア   作:野生のムジナは語彙力がない

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あらすじ
某オフ会ゼロ人の如く、バレンタインデーにチョコレートを貰えなかったベカスが発狂したり……
ベカスが龍馬にいつも通りのセクハラをしたり……

ベカスがアルトに怪しげな薬を盛ろうとしたり……

なんやかんやあってベカスが性転換したり……

ベカスがウッドに壁ドンされたり……

最終的に男だけのバレンタインデーが開催されたり……など、狂気と波瀾に満ちた1日が集結してから約1週間後……

本作の作者、ムジナ宛に1つのコメントが送られてきた。



『コロナウィルスでアレな世の中なので、みんなでお花見に行く話を作って下さい!』



コメントを要約すると、このような内容だった。

リクエストとも取れるこのようなコメントが送られてきた見て、その日、ムジナは驚きを隠すことができず、口に咥えていたきゅうりを静かに床に落としてしまった。(ちゃんと洗って食べました)

確かに、ムジナはリクエスト等も受け付けていると、前作『焦燥バレンタイン』のあとがきの方に付け加えていた。
しかし、先のあらすじを見ても分かるように、ムジナは主人公ベカスやダッチーをディスっている感が作品の節々に見られ、作品に対するリスペクトに乏しい物語を作る傾向があった。
そのため、ムジナは二次創作作者としては作品本来の魅力を台無しにするクソ投稿者であると言わざるを得ず、そもそも語彙力が壊滅的であることもあり、そんなクソムジナに対してまさかリクエストをする者は恐らくいないだろうと思われた。(作者自身的にも)

にも関わらず、わざわざお花見イベントを作って欲しいというリクエストが来た。……これはつまり、コメント主がムジナのようなクソ投稿者を頼るほど逼迫した状況に陥っているのだと、ムジナは推測した。(大げさな解釈)

新型クソコロナの被害を受け、明日への希望を失った全ての指揮官様のために、そして創作活動に制限をかけざるを得ない状況に陥ったダッチーの為にも……こうしてムジナは、またアイアンサーガの二次創作を描くことを決めた。

ムジナ「まあ、こんな暗い世の中だし、アイアンサーガ本編的にも鬱々とした話が続いているので、たまには純粋に安らぎのあるお話でもどうですか?」

そんなわけでお花見イベント、スタートなのです。



前編ーそうだ お花見 行こうー

桜並木のアルカディア

 

 

ーーーーー

 

 

 

日ノ丸ー桜海道3丁目ー

 

その日、指揮官は慰安旅行も兼ねて、日ノ丸出身の部下たちを伴ってお花見に訪れていた。

 

「うわぁ〜!!」

 

周囲に広がる圧巻の光景を前にして、その少年……高橋龍馬は惚れ惚れとしたような瞳を浮かべた。大きく開いたその口からは感嘆の声が漏れ、全力で歓喜を露わにしている。

 

それもそのはず、樹海へと続く一本道のど真ん中に佇む彼の両端には、丸1日を消費しても数え切れないほどの桜の樹が立ち並んでおり、1世紀近い年月を経たそれらは丸々太った高級和牛の如く太い幹を持ち、横にも奥にも分布を広げ、一部の隙間も許さないというように一本道を包囲していた。

 

桜の樹によって覆い尽くされた並木道

桜は全て満開

 

一度頭上に目をやれば、そこには群生するあまり一本道の真上に向けてはみ出さざるを得なくなった桜の枝木が道の両端から交差していた。それはまるで、一本道の中を歩く者を歓迎するためのアーチを作っているかのようだった。

 

そして言うまでもなく、アーチ状になった枝の表面には美しい桃色の花が無数に咲き乱れており、一本道の天井に広がる青い空を、完全なる桃色で埋め尽くしていた。

 

それは桃色の絨毯を空の一面に敷き詰めたような……

 

いや、それはまさしく桃色の雲海だった。

 

風の流れで桃色の雲海が静かに揺れ動くたびに、木々や花々の隙間から差し込んだ木洩れ陽も連動して形を変え、一本道の中を暖かく照らしている。

 

また、ひらり……ひらりと……桃色の雲海からは絶えず桜の花びらたちが舞い降り続け、その全てがたっぷりと時間をかけて地面へと着地している。

舞い降りた花びらによって鮮やかな桃色に彩られる一本道、これぞまさしく桃色の絨毯と呼ぶに相応しい光景だった。

 

「お姉ちゃん! 見て見て! スゴイよ!」

 

「はいはい、ちゃんと見てるわよ」

 

興奮冷めやらぬといった様子で一本道を駆け回る龍馬を追って、龍馬の姉……高橋夏美は桜の樹海を眺めながら一本道を進んだ。

 

「わぁ〜とっても綺麗……」

 

「うむ! 風情があってとても良いな」

 

「まさか、俺たちの地元にこんな場所があったとは……」

 

「へぇ……ここは、すごく良いところだね」

 

夏美の後に続く他のメンバーも、視界を埋め尽くさんばかりの桜を見て、次々に絶賛の言葉を口にした。

 

(よかった、みんな楽しそう)

 

楽しそうに桜に見入っている彼らのそんな様子を遠くから見ていた指揮官は、そこで小さく頷いた。

 

「あら? 何を満足そうに頷いているのかしら?」

 

(……?)

 

指揮官が振り返ると、そこにはA.C.E.学園の風紀委員を務めている黒髪の少女……五十嵐命美がいた。

また、その足元には彼女の親友兼助手であり、大切な家族でもあるフェレットのゆきちゃんの姿があった。

 

(命美、気分はどう?)

 

「うん、まあ……悪くないわね」

 

指揮官が聞くと、命美はニッコリと笑って満足そうにため息を吐いた。

 

「ここ、とても素敵なところだと思うわ。桜が綺麗なのは言うまでもなく……うっすらと差し込む日差しもあったかいし、私たちの後ろから通り抜けていく風も心地いい……それに、排気ガスにまみれた都会とは違って空気は美味しいし」

 

まあ、それはそれで嫌いではないけど

命美の付け足した言葉に、指揮官は苦笑した。

 

(そういえば、クルスは?)

 

「ああ、あの子なら……」

 

いつも命美の隣にいる幼い少女の姿が見えないことを指摘すると、命美はチラッと一本の桜に人差し指の先端を向けた。

 

「ふはははは!」

 

見ると、黒髪の幼い少女……クルスは桜の樹の上に登り、なにやら楽しそうな様子で指揮官たちのことを見下ろしていた。

 

(クルスは何やってるの?)

 

「さあ? 高いところに登りたくなるお年頃なんじゃない?」

 

(危なくない?)

 

「大丈夫大丈夫、今はあの子の好きにさせてあげましょ、私だって小さい頃は……ううん、何でもないわ。でも、後少ししたら降り方が分からなくなって、私に助けを求めてくると思うわ」

 

(あはは……)

 

流石にいつも一緒にいるだけあって、クルスの扱いに関してはお手の物といったところなのだろう。命美は肩をすくめてみせた。

 

「ところで、ここはどこなの?」

 

そこで命美はキョロキョロと辺りを見回した。

 

(どこって、お花見スポットだけど……)

 

「そうじゃなくて、ここ日ノ丸よね? なんというか……私たちの身近にこんな素晴らしい場所があったなんて、思いもしなかったから」

 

(ああ、それは……)

 

 

 

「それについては私たちが説明するよ!」

「なのです!」

 

 

 

その時、高らかに放たれたその言葉と共に指揮官の背後から2つの影が勢いよく飛び出してきた。

 

「うわっ!? もう、びっくりさせないでよ」

 

(エル、フル? いつの間に後ろに?)

 

それは日ノ丸の伝統的な装束、『和服』を着た双子の少女たちだった。1人は桜と同じ髪色をした女の子、もう1人は桜の色とは対照的な青い髪の毛の女の子で、着ている『和服』はどちらも彼女たちの髪色に合わせた鮮やかな色合いの生地を使用している。

 

「まあまあ、細かいことは置いといて〜」

「この場所について、説明するのです」

 

双子の少女……エルとフルは、息ぴったりという感じで別に頼まれてもいないのにその場で説明を始めた。

 

 

 

「この場所は『桜海道3丁目』」

「桜海道というのは、日ノ丸に数多く存在する桜の名所の中でも最高峰と称されるお花見スポットなのです」

 

「桜海道は1丁目から5丁目まであるんだけど、その中でも『桜海道3丁目』は最も多くの桜の樹が生えているスポットでね〜」

「その名の通り、空から見ると桜の海が広がっているように見えるから、そう名付けられたそうなのです」

 

 

 

「あっ、なるほど……それで海道なのね」

 

(まあ、海沿いにあるっていうのも影響してるようだけどね)

 

さらにエルとフルによる説明は続く。

 

 

 

「それで、桜の名所としては最高なスポットなんだけど、でも……残念なことに認知度が極端に低いのが現状なんだよ〜」

「はい。実はこの場所、日ノ丸の聖地として認定されていて一般人の立ち入りは許可されていないのです」

 

「入れるのは専ら、政府の役人とか日ノ丸を代表する色んな企業の重鎮とかくらいかな〜まあ、聖地って言っても政府とかのくだらないパーティに使われるのが普通なんだけどね〜」

「最近でいうと、総理大臣が主催した『桜を見る会』で週刊誌の餌食になっていましたね……その花見会場がここなのです」

 

「身勝手だよねー、勝手に神聖な場所って決めて一般人の立ち入りを禁止にしたクセに〜自分たちはこの場所で悠々と飲み食いしてるなんて〜」

「お姉ちゃん……それを言ったら私たちだって、高橋家のメイドとして以前ここに来たことあるから、同じ穴のムジナなのです」

 

「悲しいけど、綺麗なものっていつも偉い人たちのオモチャにされる運命なんだよね〜うーん、汚い!」

「い、一応……皇室の神事とかにも使われているので、そんなにアレな場所ではないのですよ」

 

 

 

「へええ……聖地って、それは凄いわね……」

 

(でしょ?)

 

エルとフルの説明を聞いて、命美は感心したように何度も頷いた。

 

「ええ、ほんとに……うん?」

 

(どうしたの?)

 

「ちょっと待って……一般人は入っちゃダメなんでしょ? じゃあ、何で私たちはここに入れているの?」

 

命美は真っ青な顔をして指揮官を見つめた。

もしや自分たちは意図せずして日ノ丸の規則を破ってしまったのではないだろうか? 風紀委員としての責任感の強さが命美の心に強くのしかかった。

 

(大丈夫。ちゃんと許可は取ってあるから)

 

「許可って、そんな簡単に取れるものなの?」

 

(うん、ちょっとツテがあってね)

 

「そ、そう? なら安心だわ……」

 

命美はホッとしたようにため息を吐いた。

 

きゅー、きゅー

 

「ゆきちゃん?」

 

見ると、先程から命美の足元で丸まっていたフェレットのゆきちゃんが、可愛らしい鳴き声ををあげながら鼻先で命美の足首をツンツンとしていた。

 

「どうしたの?」

 

ゆきちゃんを抱き上げた命美は、そこでゆきちゃんの視線がクルスのいる桜に向けられていることに気づいた。

 

「あなたも桜を見に行きたいのね?」

 

きゅー!

 

まるで命美の言葉が分かっているかのように、彼女の腕の中でゆきちゃんは強く頷いた。

 

「わかったわ、それじゃあ……」

 

命美がゆきちゃんに優しく笑いかけた時だった。

 

「びええええええええええん!!!」

 

遠くから、そんな悲鳴が聞こえてきた。

何事か反応した4人が視線を向けると、そこには桜の樹に登ったまではいいものの、どうやって降りたらいいのか分からず困惑して泣きわめくクルスの姿があった。

 

(命美の言った通りだったね)

 

「はぁ、もう……あの子ったら」

 

命美は小さくため息吐いた。

だが、呆れながらもその表情は優しげだった。

 

「それじゃあ指揮官、また後で」

 

(また後で)

 

手を振って命美とゆきちゃんを見送った。

 

(さて……)

 

自分はどうしようかと思った指揮官だったが、そこでエルとフルが意味ありげにジッと見つめていることに気づいた。

 

(どうかした?)

 

「ねぇねぇ、指揮官」

「指揮官は今、お一人なのです?」

 

(まあね)

 

お花見文化的なこともあって、主にA.C.E.学園に所属している日ノ丸出身者たちを連れてきた指揮官だったが、みんな頭上の桜に魅了されて先に行ってしまったようだ。

 

「あーあ、じゃあ指揮官は一人寂しくお花見ってことね」

「指揮官、かわいそうなのです……」

 

そう言って双子は哀れみの視線を指揮官に向けた。

 

(あのね……)

 

「あはっ、怒った?」

「冗談なのです」

 

双子でありながら姉であるエルはやんちゃ、妹のフルは物静かと真逆の性格をしているものの、思考に関してはそこは双子らしく、まるでお互いの言葉を補足しあっているようだった。

とことん息ぴったりな2人だった。

 

「それじゃあ、そんな指揮官のために」

「私たちが、ここの案内をしてあげるのです!」

 

(案内? ただ桜が並んでいるだけじゃ……)

 

指揮官の言葉に、エルはちっちっちっと指を振った。

 

「甘いね指揮官! そう、まるでチョコレートのように!」

「ここをただのお花見スポットって思っちゃダメなのです!」

 

なんでチョコレート?

そう思いつつも、指揮官は2人の言葉に耳を傾ける。

 

「というわけで、私たちが指揮官にここの魅力を紹介してあげるよ〜」

「さっきも言ったように、私たちは一度ここに来たことがあるので色々と知っているのです」

 

キラキラと目を輝かせる2人

 

(それじゃあ、お願いしようかな)

 

2人の申し出に、素直に応じることにした。

 

「あ、ガイド代は後でちゃんと支払ってね〜」

 

(えぇ……)

 

「ふふっ、冗談なのです」

 

そんなこんなで、指揮官はエルとフルと共に桜海道3丁目を歩くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

機動戦隊アイアンサーガ

非公式季節イベント『桜並木のアルカディア』(前編)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれがシノノザクラで、あっちが……」

「オトメザクラなのです」

 

(へぇ……)

 

エルとフルに連れられて、指揮官は桜海道3丁目を練り歩いていた。その間に、エルとフルによる桜に関する解説は続く……

 

「あっちの二又に分かれてるのがソメイ・トウキョウ」

「その奥にあるのがオオサカ・ダイフクなのです」

 

桜に関する2人の知識は豊富なようで、次から次へと桜を指差してはその名前を言い当てている。最も、指揮官に桜の細かい名前など分かるはずもなくそれが本当に正しいかどうかを判断することは出来なかったのだが

 

(よく知ってるね)

 

「そりゃあ、高橋家のメイドだからね〜」

「高橋家のメイドをなめるなーなのです!」

 

(答えになっていないような……)

 

思わず、苦笑いを浮かべる。

 

(でも、ここは本当に色々な桜があるんだね)

 

「まあねー! 普通の自然公園とかなら、大体数種類から数十種類程度の桜があるけど、ここはそれを遥かに上回る300種類以上の桜の樹が群生しているって言われるんだ。……まあ、実を言うとここは完全にナチュラルの状態で生まれたスポットじゃないんだけどね〜」

 

(どういうこと?)

 

「ここはその昔、日ノ丸の至る所が戦火に包まれる瀬戸際にまで陥った時に、日ノ丸が誇る桜の種の保存・継承を主張したとある財閥が、日ノ丸中の桜を集めて隠して、戦争が終わった後にそれを改めて一箇所に植えたことで作られたスポットなのです」

 

「いわば、人工的に作られた桜の博物館ってところだね〜」

 

(なるほど……ん?)

 

2人の話を時折相槌を交えながら聞いていた指揮官だったが、ふと、一本道だと思っていた通りの先に桜の間を掻き分けるようにして小さな脇道があることに気づいた。

 

「あ、気づいた?」

 

その様子を見て、エルが反応する。

 

「折角なので入ってみるのです」

 

続いてフルが、そう言って指揮官の手を引いた。

 

2人に連れられるようにして指揮官は脇道の中に足を踏み入れた。桜と桜の間という、狭い通路をぐぐり抜けると、そこは原っぱにも似た開けた場所へと続いていた。

 

四方八方を桜に囲まれた空間、そこは一度に30もの人を押し込んでもゆったり出来そうなほど広々とした空間で、宴会をするにはもってこいな場所だった。

 

「この場所は私たちのオススメスポットでね」

 

「見れば分かると思いますけど、この空間を囲んでいる桜の樹は、珍しいことに全部種類が違うのです」

 

「まさに十人十色のお花見スポットってね!」

 

エルと言う通り、一つ一つが僅かに雰囲気の違う桜に囲まれたこの場所にいると、まるで桜たちに見守られているような感覚になった。

 

(確かに、いいところだね)

 

そう言いつつ辺りを見回すと、開けた空間の奥に先客の姿があった。それは指揮官にとっても見知った影だった。

 

銀色のビニールシートを地面に敷いて座り、その女性は良い意味でアンニュイな雰囲気を醸し出しながら桜の木々を見つめていた。時折、穏やかに吹き付ける風が彼女の綺麗な青い髪の毛をサラサラと持ち上げている。

 

(エリカさん)

 

その場の雰囲気を極力壊さぬよう指揮官が静かに呼びかけると、その女性……エリカは声に反応して振り返った。

 

「ああ、誰かと思ったらあなただったのね」

 

指揮官の姿を目撃したエリカは、そう言って小さく笑いかけた。彼女は合衆国出身の軍人ではあるものの、現在はA.C.E.に所属していることから、今回は大多数の日ノ丸出身者の中に混じってお花見に参加していた。(サクラ対象外ではありますが……)

 

また、そういう意味ではエディも同様である。

 

そのため、エリカは佐伯や夏美などといった個性豊かなA.C.E.学園の生徒たちの引率の役割を引き受けてくれていた。

 

桜を眺めるエリカの傍には一本の缶が置かれていた。

ラベルの色からして、それはビールのようである

 

(お酒?)

 

「違うわ、これはノンアルコールよ」

 

指揮官の言葉に、エリカは傍の缶を手にとって示した。確かに、それはビールはビールでもノンアルコールビールだった。

 

(少しくらい飲んでもいいのに?)

 

これほどまでに見事な桜に囲まれながら飲むお酒は言うまでもなく格別なものだろう……

 

「そうしたいのは山々だけど……ね」

 

そこで、エリカはちょいちょい……と指揮官を手招きした。そして、指揮官の両脇で疑問符を浮かべているエルとフルに聞かれてしまわないように小声で耳打ちを始めた。

 

「知ってるでしょ? その、私の……酒グセの悪さを……」

 

(ああ……)

 

ボソボソと話す彼女の言葉に、指揮官は思わず喫茶店バビロンでエリカと一対一で飲んだ時のことを回想した。

 

とにかくアルコールが入ると豹変するエリカは、普段のお淑やかさは何処へやら……ビールを飲むと「もう一杯!」と叫び、ワインを飲むと「女々しい酒だ!」と声を荒らげ、しまいにはプレゼントで渡した歴史書を何故かアーミーナイフと酔っぱらって誤認(諸説あり)し……

 

「ち、ちょっと……」

 

(ん?)

 

「あ、あんまり思い出さないで欲しいのだけど……」

 

指揮官の思考を読んだエリカは、そう言いつつ恥ずかしさで頰を赤く染めた。赤く染まったその表情は、桜の花にも匹敵するほど色鮮やかなものだった。

 

(おっと、失礼しました)

 

「学園のカウンセラーとはいえ、一応教員だし、それにA.C.E.学園の生徒たちの前だから……あんまりね? それにほら……私の酒グセの悪さを見て、がっかりされたくないし……」

 

エリカはエルとフルをチラリと見て呟いた。

 

「そういえば、あなたはその……酒グセの悪い私を見て、失望しなかった?」

 

(何を今更……)

 

「よ、よかったら……教えて」

 

エリカは上目遣いで指揮官を見つめた。

 

(最初は……まあ驚きはしたけど、別に失望するほどではありませんよ)

 

そんな感じで、指揮官は素直にそう告げた。

 

「そ、そう? それならよかったわ……」

 

その言葉を聞いて、エリカはホッと胸を撫で下ろした。

 

「ねぇねぇ、エリカせんせー!」

「何の話をしているのです?」

 

そんなエリカの様子を見て、蚊帳の外に置かれていた2人が興味津々と言った様子でエリカの元へと近づく。

 

「な、何でもないわ!」

 

「えー? 嘘だぁ」

「お顔が真っ赤なのです」

 

「き、気のせいよ……」

 

エルとフルにからかわれ、エリカは小さく俯いた。

 

(そんなに気にしなくても……)

 

「でも……」

 

(少なくとも、ウチにインターンシップで来ているA.C.E.学園の生徒たちの中に、酔ったエリカさんを見ただけで失望するような心の狭い子はいないと思いますよ?)

 

「そ、そうかしら……?」

 

(はい。というかそもそも、ウチにはもっと酒グセの酷いスタッフだって何人かいますし……ほら、あの朧だってお酒を飲んだら妙にテンションが高くなるし……)

 

「ああ……」

 

『ビールくださーーーーい!』

指揮官とエリカはバビロンでの朧の飲みっぷりを思い出して、苦笑し合った。

 

「そうね、言われてみれば……私はまだマシな方、なのかしら?」

 

(ええ。それに……もっと悪酔いする人がエリカさんの身近にもいるじゃないですか?)

 

「A.C.E.学園の先生に?」

 

(いえ、先生ではなく生徒の方で……というか、飲酒ではなくてですね……)

 

「ああ、あの子ね……」

 

指揮官の思考が伝わったのか、エリカは遠い目をした。

2人の脳裏に、とある女生徒の姿が浮かび上がる。

 

その時、雑談をしている指揮官たちの元へ近づく何者かの影があった。それは立ち並んだ桜の向こう側からフラフラと、千鳥足の状態で危なげに歩いており、明らかに酒に飲まれて酔っているかのような印象を受けた。

 

「ビール〜〜〜泡〜〜〜えへへへへへ〜〜〜〜」

 

(噂をすれば……)

 

指揮官が声のする方向に目を向けると、1人の少女が原っぱの中に姿を現した。水色の髪の毛、四角い縁の眼鏡、優等生らしくA.C.E.学園の制服をきっちりと着こなしている。

 

「水原さん?」

 

千鳥足になった少女を見て、エリカが呟く

それは、A.C.E.学園の生徒会長副会長……水原梨紗だった。

 

しかし、普段の真面目で成績優秀な彼女の面影は何処へやら……その顔は酔いで真っ赤になっており、口元はにゃはははと楽しそうに曲がり、その瞳は焦点が定まらないのかゆらゆらと泳いでいる。

一見すると、お酒の一気飲みでもしたのかと思ってしまうほどに泥酔している水原だが、言うまでもなく真面目な彼女は一滴たりとも酒を飲んではいない。

 

「あ〜〜〜指揮官とエリカ先生だぁ〜〜」

 

水原はパアッとした笑みを浮かべて2人の元へと足を踏み出した。だが、視界がおぼつかないのか地面からこれ見よがしに突き出た桜の根に足を取られ、その体勢が崩れる。

 

(危ない……!)

 

水原があわや転倒しかけたその寸前のところで、指揮官は彼女の両肩を掴んでその体を支えた。

 

「水原さん、あなた……またなのね」

 

指揮官に支えられたまま、水原はビニールシートの上にゆっくりと横たわった。そんな彼女の顔を、エリカは心配そうに覗き込む。

 

「なんか〜〜〜ふわふわ〜〜」

 

「水原さん、何を飲んだんですか?」

 

「これ〜〜〜」

 

ふにゃふにゃとした表情で、水原は手に持っていた小さな瓶をエリカへと差し出した。

 

(エリカさん、これって……)

 

「ええ、やっぱり……ただの清涼飲料水ね」

 

水原が飲んでいたのは黄色の飲み物、つまるところのビール……を模したソーダだった。味はビールに酷似するところもあるらしいが、ノンアルコールで清涼飲料水に分類されるため学生が飲んでも法律違反にはならない代物だった。

 

因みに、雰囲気だけでもお酒を味わいたいという要望もあって、喫茶店バビロンでも同様のものが提供されている。

 

(いつものアレ?)

 

「そうみたいね、お酒の匂いはしないし」

 

水原梨紗はどういうわけか、ノンアルコールであるはずのソーダを飲んで酔っ払ってしまうという不思議な特徴(?)を持った少女だった。

それは彼女特有の体質が影響しているのか、はたまた思い込みによる影響なのかはA.C.E.学園出身者の中では最大級の謎とされている。

 

「世の中には、大豆などの穀物を摂取しただけで酔っ払ったようになってしまう体質の人もいるそうよ。お腹の中で、豆が発酵してアルコールが作られてしまうの……でも、これは」

 

(流石に、ソーダを飲んで酔っ払うのは……)

 

 

 

「なるほどね! これが『プラシーボ効果』なのね!」

「お姉ちゃん、それは多分違うのです」

 

「じゃあ……これが『オトナノジジョウ』なのね!」

「メタ発言なのです」

 

先程から様子を伺っていた双子のうち、エルはケタケタと楽しそうな様子で、フルはやや呆れ気味に変わり果てた姿の先輩(水原)を見つめた。

 

 

 

「あははははは〜〜〜指揮官がいっぱいいる〜〜〜! 指揮官がひと〜り、ふた〜り、さんに〜ん、あはははは〜〜〜」

 

 

 

酔っぱらって視界がおぼつかないのか、水原は上機嫌な様子でそう言って屈託のない笑みを浮かべた。

 

「ところで、あなたは今何をしているの?」

 

エリカが水原に膝枕をしてあげたところで、彼女はふと指揮官へそう尋ねてきた。

 

(ああ、今は2人にここを案内して貰っているんです)

 

「あら、それはいいわね」

 

(エリカさんも一緒に来ます?)

 

「お誘いありがとう。でも、私は遠慮しておくわ……今は、この子を見ておかないといけないし……」

 

そう言って、エリカは視線を落とした。

水原はエリカの膝の上でいつのまにかスヤスヤと安らかな寝息を立てていた。

 

(それもそうですね)

 

「ええ。だから私の分も楽しんできてちょうだい」

 

それから、エリカはエルとフルを見て……

 

「2人とも、指揮官をよろしくね」

 

そう言ってニッコリと笑った。

 

「うん! オッケー!」

「任されたのです!」

 

そうして、エルとフルは指揮官の両腕をがっしりと掴んで連行するようにして、来た道を戻り始めた。指揮官は慌ててエリカと水原に別れを告げて、双子の案内に従うことにした。

 

 

 

そんなわけで、指揮官たちのお花見はもう少しだけ続く……




話は変わりますが、グレンラガンってどうなんですかね? なんか聞いた話によると宇宙にある恒星どころか銀河よりも大きなマシーンが登場するようで……は? 馬鹿じゃないの?
草! これはマジで草! 宗教かな? 脚本家は頭沸いてるのです?



……というのが、グレンラガン未視聴の私の意見でした(過去形)



しかしもう少し話を聞いてみたところ、どうやら主人公はロボットものでは珍しい成長型の主人公と言うじゃありませんか! ムジナは努力とか成長とか、そういうの大好きな狸なので、めっちゃ好感持てました!(手のひら返しで)

アイサガでグレンラガンイベやるっていう話なので、もし少しでも面白いなって思えたらグレンラガンを見ようって思いました! なので是非、ダッチーには面白いグレンラガンイベを作って欲しいですね!(作れるものなら)

だが、ヨーコ……スパロボでの出演実績があるとはいえ、テメーはダメだ!(流石に生身の人間が戦うのはねぇ……)



次回、佐伯くんたちと鬼ごっこをします。
そして、日ノ丸最大のVIPをエスコートします。

例え見る人がいなくても、時間がかかろうとも書き上げますので……それでは、また……

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