東京レイヴンズ~二天龍を従えし者~【本編完結】 作:眠らずの夜想曲
―――回想。
ジジイ襲来事件はあっけなく幕を閉じた。
陰陽塾は膨大な損害を被ったが、ジジイが奪おうとした烏羽は夏目の親父、土御門泰純がすでに持ち去っていた。
塾舎の修復の間、俺たちは祓魔局目黒支局に通い、プロの祓魔官に囲まれて引き続き呪術を学ぶことになった。
回想、終了。
―――呪練場。
俺は今、プロの祓魔官を相手にしてるんだが……
「なんなんだ貴様は!!」
まるで相手にならない。
俺は武器を一切使っていない。
俺は呪術も一切使っていない。
俺は身体強化すらしていない。
なのに相手にならない。
よくよく考えてみれば当たり前のことだった。
いくらプロの俺は祓魔官だとしても、それだけだ。
今まで十二神将や道満の相手をしてきたんだ。
その程度じゃ、まったく相手にならない。
さっさと決めるか。
「よっと……」
一気に懐に踏み込み、人造式を殴る。
それだけでラグが強くなり、やがて消えていく。
「これでいいか?」
「ぐっ……」
悔しそうな顔をする相手。
「すごいな、刃くんは」
「おっさん……」
いつぞやのおっさん教師だ。
「藤原さん!!なんなんですかこいつは!!」
「んん?陰陽塾の塾生だけど?」
「信じられません!!生身で人造式を一撃で倒すなんて……」
「こっちもだぜ……この程度かプロと言っても」
「なんだと!!」
おぅおぅ元気がいいねぇ。
「ちょっとは何かの役に立つかと思ったけどだめだこりゃ。準備運動……いや、遊びにもなんねぇ」
「き、貴様!!黙って聞いていれば―――」
「まぁまぁそこまでにしときなさい。刃くんも」
「うっす」
「くっ、わかりましたよ!!」
あー……なんか刺激的なことないかなぁ……
―――帰り道。
俺は夏目を二人で帰っていた。
「すごいですね、刃くんは……プロの祓魔官を相手にあんなに簡単に会ってしまうなんて」
「そうか?今の夏目でも余裕だと思うぞ?」
「そ、そんなわけ―――」
「ある。なんせ『神使』で俺の嫁だからな」
冗談交じりに言う。
「よ、嫁って///」
だがそれを真面目に受け取ったのか、顔を真っ赤にしてしまった。
「そういえばさ、塾の上にあった祭壇。あれさ、田舎にあったのと同じだったよな?今からさ、塾舎に行ってみないか?」
「わかった」
―――塾舎。
「や、刃様。ここはコンめが先導いたします」
「あぁ、頼む」
コンが青い狐火になって出現する。
真っ暗だったからな、ちょうどいい。
「うわぁ……ひっでぇなぁ……」
「……そうだね。でもこの程度ですんでよかったとも言えるよ」
―――屋上。
例の穴から屋上にでる。
「あ……」
コンが声を上げる。
「どうした?」
「さ、祭壇に何者かおりまする」
確かに気配を感じる。
俺たちはゆっくり祭壇に近づいていく。
「誰だ?」
声をかけてきた。
「ここの塾生だが。そっちは?」
「…………………」
この野郎……
「明かりをつける。ただの明かりだ。コン、火を」
コンは狐火を祭壇に向けて一列につけていく。
そして相手の顔が見える。
ん?
俺たちは祭壇に近づいていく。
「土御門の……」
一瞬だけ微笑んでこっちに向かって歩いてきた。
「土御門夏目くん、君はつちm「違う、神浄だ」…神浄刃くんだね」
俺と夏目は顔を見合せる。
「初めまして、僕は相馬多軌子。君たちと同じ、陰陽の道を歩むものだ」
なんだかな……
こいつは好きになれないな。
「相馬……多軌子さん?」
「多軌子でいいよ。でも、こんなとこで直接会えるなんて!!うれしいよ、夏目、刃」
また俺と夏目は見合せる。
「多軌子はここの塾生なのか?」
「僕の場合はちょっと事情があって……」
「事情?」
「うん。でも僕も塾生ではあるんだ。本当だよ」
……なーんか信用できねぇ。
「多軌子さんは、ここで何をしていたんですか?」
核心を訊く夏目。
「君たちと同じことじゃないかな?天壇を見に来たんだよ」
「この祭壇か……多軌子はこれを見に来たのか?」
「そうだよ」
こっちを見ずに答える。
「君はこの祭壇がどういうものかわかっているのかな?」
「まさか。僕如きじゃ天壇は理解できないよ。だってこの祭壇は土御門家の呪術の粋。かの安倍清明が残した最大の呪的遺産じゃない!!土御門夜光ですら全てを理解できていたかどうか……」
「君はここで行う儀式のことを知っているのか?」
夏目は冷たい声音で言う。
「泰山府君祭のこと?もちろん」
ますます信じられなくなった。
「泰山府君祭は土御門家の秘密の儀式なんじゃなかったのか?」
俺は夏目に訊く。
「君は一体何者なんだ?」
俺をスルーして多軌子に訊く。
「言ったじゃない。君たちと同じ、陰陽の道を歩むものだよ。あんまりおしゃべりしていると怒られてしまいそうだから少しだけ。どうして天壇がここにあると思う?陰陽塾は元々、夜光の私塾だったからだよ。その名を夜光塾。家や血筋に関係なく、素質あるものに門戸を開いた育成塾だったのさ。これはいわば、夜光の痕跡なんだよ。そのころの事情は倉橋塾長が詳しいんじゃないかな?何しろ当事者だもん」
「当事者?」
「今の陰陽塾を育て上げたのは彼女なんだよ。彼女は小さいころ夜光に見いだされた。いわば、夜光塾設立当初のメンバーだ」
俺は転入初日のことを思い出す。
将棋が好きだと言っていた。
「もしかしたら、この塾にもまだそのころの夜光の資料があるかもね」
―――翌日、塾舎。
「その女、信用できるのか?」
「わからない、だから調べに来たんだ」
絶対信用できない。
「それが確かなら烏羽のオリジナルは陰陽庁ではなく陰陽塾に保管されてたって野もうなずけるがどう考えてもここを穿り返すより、塾長に直接問いただす方が手取り早いだろ」
「塾長は今とても忙しいし、あぁ見えて曲者だからごまかされないための情報が欲しいんだ。陰陽師設立時の資料は夜光の手掛かりがあるかもしれない」
「一番早くて確実なのは今すぐ相馬ってやつに電話する手なんだがなぁ」
それはしょうもない案だな。
「連絡先しらねぇし」
―――図書室。
「これはまた随分と派手に荒らされたもんだ」
「大丈夫、陰陽塾の歴史に関する資料が固まっているとこを見つけて、そこだけ掘り返せばいい」
「……今度から、初め会った子にはまず、ケータイの番号を聞いとけ」
「そうだな、とりあえずおまえを呼び出すよ」
やだよ、得たいの知れないやつの番号知るなんて。
しっかしなんで図書室がこんなに荒らされてるんだろう?
分からん。
それから簡易式を複数出して書を机に持ってこさせる。
そして俺たちが読む。
時間がたつにつれ飽きてくる。
冬児はすっかり夢の中だ。
「だめだ!!名簿がつくられたのは十期以降。設立時のものはない!!」
「ソウデスネー……でもちょと見たかったぜ。六十年前のババア」
「確かになぁ……」
俺はふと気づいた。
「これってさ、大友のとかもあるよな?」
「あるなぁ」
冬児のやつ、すごくイイ顔してる。
俺もかなりイイ顔してると思う。
早速行動に出る。
「確か小暮が同期だっけ?何期だ?」
「夏目!!おまえ、知ってたよなぁ?」
メチャクチやる気がでてる冬児。
もう興奮しまくってる。
「二人とも真面目に……はぁ、三十六期」
観念したのか、素直に教えてくれた。
見つけた……
「いたぞ!!大友陣!!」
冬児がすぐによってくる。
「クソ!!なぜ写真がない!!」
「んーなになにぃ?有意義な三年間でした。ってなんだそりゃ。手抜きもいいとこだなぁ」
「ぶっ」
「妙におかしいな、なんか」
「「「あはははは」」」
さてさてお次は……
「小暮だ小暮。あぁ?」
「どうした?」
「おいおい……この名前って……」
二人とも覗き込んでくる。
「「あっ」」
そこに記されていたの名前は早乙女涼。
鈴鹿のを夜光への興味に導いた人間だった。
―――翌日。
「早乙女涼って大友先生の同期だったんだ」
京子が言う。
「卒業生ってのは分ってたんだけど、うかつだったわ」
親指の爪をかじりながら言う鈴鹿。
「その相馬って子も本当に塾生なのかな?」
「いつもなら事務の先生に訊いていた」
「ま、どちらにしろ先生に訊けばわかるさ」
プップー
横を通り過ぎた車からクラクションを鳴らされる。
窓から顔を出したのは幼女先輩だった。
「こんなところで何してるの?」
「あんたこそ上野になんかようか?」
「コンちゃんをさそってドライブ」
「真面目に答えろ」
「心配しなくても夜には返すから」
「そういうもんだいじゃねぇ」
こいつ、コミュニケーション能力が皆無なのか?
そうなんだな?
「少しくらいならお金もある」
「いい加減にしろ」
「紹介する。夏目は前に会ったな。涼先輩。こいつらは―――」
「知ってる。阿刀冬児、倉橋京子、大連寺鈴鹿、メガネ」
「メガネ!?」
「なんだ知ってたのか。まぁ有名と言えば有名だからな」
「あ、あの僕は……?」
あえて言おう。
天馬はメガネでいいと。
運転手を見る。
こいつ式神だな。
「式じゃよ、たんなる運転用じゃ」
後ろにいかにも坊ちゃん―――こいつ、道満だな。
「息災でなによりじゃ、あれから少しは―――」
その先は幼女先輩のアイアンクローされて言えなかった。
「しゃらっぷ」
「そいつさ―――」
「親戚の子よ。ちょっと預かっているの。今日はこの子がどうしても会いたいって人がいたからわざわざこうして連れてきたのよ。でも、あいにく先客がいたから機会を改めようって帰りかけていたところ。正直、よかった」
なんだ?
何があった?
「涼よ」
「じゃあ行くわ」
「あ、ちょっとまった」
「何?」
俺は少し殺気を放ちながら、だがみんなには聞こえないようにして坊ちゃんに言う。
「道満、また遊ぼうな」
「あなた……」
「ふぇふぇふぇ、そうじゃな」
今度こそ、去っていった。
―――病室。
大友は道満の瘴気をくらったせいで入院している。
「大友、来たぞ」
俺はノックじないで扉を開ける。
「おう、ようきたな」
なんかいかついおっさんもいる。
「京子ちゃんと大連寺さんは久しぶりだなぁ。あとのメンツとは会うのが初めてかな?」
「天海のおじ様!!」
「京子、知り合いなのか?」
冬児が訊く。
「まぁね。呪捜部の部長さん」
「天海だ、よろしくな」
「おえぇぇぇぇ……おっさんがウインクすんなよ」
「ちょっと刃くん!!」
見てはいけないものを見てしまった。
「なんで部長さんがここに?」
「別に驚くほどのことじゃないでしょ?アンタらの担任は元呪捜官で、おまけに爺さんは塾長ともつるんでるんだし」
「元部下だから、わざわざお見舞いに来てくださったんですか?お忙しいところをすいません」
京子が訊く。
てかババアとつるんでんのか……
「こらこら、それは僕が言うべき言葉やぞ。言わんけど」
「はん、ただ元の部下のところにこの爺さんがいちいち顔を出すわけないじゃん」
その一言で全員が鈴鹿の方を向く。
「つーか、これで確信が持てたわ。あたしにかかった封印をあっさりハックし、帝式ですらない古代の呪術を操る。その正体は呪捜部部長、『神扇』天海の懐刀職務上名を伏せて行動する、呪捜官の十二神将。ついたあだながシャドウ。だっけ?」
かわいく決める鈴鹿。
大友はやっぱり十二神将だったのか。
「はぁ?なんy「はぁーコイツは一本取られた」…て、部長!!」
「今更ごまかしきれるもんじゃねぇよ。あぁちなみにシャドウなんて気取った呼び名じゃなくていいぞ。黒子だ黒子」
「神扇の方がよっぽど気取ってて恥ずかしいとおもいまっせぇ」
「大友がねぇ……こんど殺りあうか……」
「勘弁してくれ」
だろうな。
道満の二の舞だ。
「どうして先生は呪捜部をやめて先生になったんですか?」
「その理由は夏目、お前だと思うぜ」
冬児が言う。
俺もそう思う。
「大友先生が塾に赴任したのは昨年度から。つまりお前が入塾してからだ。塾長は星詠みだしな。おまえに起こるトラブルをみこし、天海部長経由で大友先生に声をかけた。そう考えるのがだとうだ」
すごいいい読みだ冬児。
「結構なことだ。大事なことは他人に訊くんじゃなくて、まず自分で考える」
「図星ってことだな」
おっさんの話はながくてたまったもんじゃねえ。
さっさと結論を言ってもらいたいものだ。
「一つだけ教えておいてやる。この世界にいる大人どもはどいつもこいつも曲者ぞろいだ。いちいち真に受けている間は―――一人前にゃなれねぇぞ」
それだけ言い、病室から出て行った。
だがその途中で、
「大友さっきの件。おめぇからはなしてやんな。とうぶんは連絡は付かねェと思うがそのつもりでな」
くえねぇおっさんだ。
「まぁ、とりあえず座りぃ。伝えたいこともあるしな」
聞いたことを簡単にまとめよう。
どうやら、天海のおっさんは双角会が壊滅すると思っているらしい。
だが、警戒は必要だ。
陰陽庁から護衛がつくらしいが、それでも気を付けろ。
道満もどう動くかわからない。
相馬多軌子。
こいつは大友でも聞いたことがない。
早乙女涼。
コイツの話の時にはものすごく反応した。
「僕の動機やからなぁ」
「わざわざ足はかいがあったわ。その様子だと、早乙女涼が夜光研究のパイオニアってことも知ってそうよね?」
「烏羽衣の件やなぁ……君ら一個間違えとる。涼(すず)や。早乙女涼(りょう)と買いて、早乙女(鈴)」
「おいおい……」
やっぱり幼女先輩か……?
「僕が言うのもなんやけど、気つけや。この女、一筋縄ではいかへんで」
―――翌日、祓魔局、目黒支局。
「結局、早乙女涼のことも相馬多斬子のことも収穫なしか。京子、塾長の方はどうだ?」
「ごめん、まだ訊けてないの」
まだ訊けないか。
「おばあ様、今はそうとう忙しいみたいで」
誰か来たな……
気配の方を向く。
そこには―――
「喜べ、スーパーVIP待遇だ。なんせ俺がお前らの護衛につくんだからなぁ」
「あ、結構です。どうぞ、お帰りください」
「テメェ、ぶち殺されてぇのか!!」
まったくうるさいチンピラだ。