「遅いねサカグチさん。待ち合わせ場所は合ってるはずだけど」
「俺はそんなことより、あの女のファッションが気になってる。こんな田舎で縦ロールとか普通に通報されるぞ」
「ひどいな! あと大袈裟だなー」
タクヤたちの地元。最寄り駅の駅前。
どこにでもある地方都市の、ややはずれ。当然、電気街のような模型専門店や工作室の類など無く、あるのは待ち合わせ場所に指定した某家電量販店のホビーコーナーぐらいのものだ。
「あっ、これ再販かかったんだ。昔欲しかったんだよね」
「いや、お前もひどいな、心配してやれよ」
箱の側面を覗き込むタクヤに、眉をひそめるリュウジ。
ちなみに、ひそめられるほど眉毛は無いが、別に剃っている訳では無い。
タッタッタッ。
「……ごめんなさい。待たせてしまったかしら?」
意外に軽快な足音から、GBNより少しハスキーな声。
「あっ、サカグチさん。いや全然待っては……」
振り返ったタクヤが目を丸くする。
「? 何か変かしら?……ですわ」
「いや変というか……」
遅れて振り返ったリュウジも微妙な感じに。
本日のサカグチは原色系の派手派手なジャージに同じ色のニットキャップ。さらにデカい系のサングラス。某歌姫とか昔黒塗りにしてた人が掛けてそうなヤツだ。
端的に行って、滅茶苦茶胡散臭かった。
「YO俺リュウジ、今まさに有事」
「なんでラップ⁉」
「ですわ⁉」
「いや、てっきりライムがリリックでディスリスペクトな感じかと」
「意味が分かりませんわー!」
タクヤは首を振って気を取り直すと、手をパンパンと軽く叩いた。
「じゃあ、第1回反省会を始めようか」
先日、フォース『ワールド・ヒーローズ』との対戦に初の黒星を喫したフォース『DTS』
タクヤとしては悔しさこそあったが、言い方は悪いが所詮ゲームだ。一度くらい負けたとしても、その倍、3倍と勝ち星を重ねていけば着実に勝率を上げていける。そこまでワールド・ヒーローズに拘るつもりはなかった。
意外なことにリュウジが引っ掛かった。
「猿呼ばわりされて引き下がれるか、あの女ぜってーデレさせてやる」
とか、よく分からないことを言っていたが、正直あまり掘り下げたくない。
人相の悪さも相まってヤバい感じが半端なかった。
そんなリュウジにサカグチも同調。
「再戦を希望しますわー」
となって、まずは対策を立てようと本日の運びとなったのだ。
「じゃあ、まずはリュウジ」
「おう」
「何か気が付いたことはある?」
「それなんだけど」
リュウジはスマホを取り出し、対戦時の動画をチェックしていく。
「あっ、ここ、これなんだけど」
敵機体が大技を放ったところでストップ。
「この必殺技みたいなの、どうやってる訳?」
「それはたぶん、攻撃エフェクトをスクラッチしたんじゃないかな」
「? どういうこと?」
「つまり、プラ板か何かで造った蛇型のロボットを、ガンプラといっしょにダイバーギアで読み込んだということですわ」
「付け加えるなら、武器扱いでね。それなら当たり判定が発生する」
「要は俺らにも使えるってこと?」
「ああ。技術的に簡単ではないと思うけどね」
「GBNにはCランク以上で使えるようになる必殺技というのもありますわ。それでもいいのではなくって?」
「? こいつのは違うんだろ」
「ええ。おそらく」
「だったら興味無い」
そう言うとリュウジは何事かを考え込み出した。
「次はサカグチさん」
「はい、ですわ」
「敗因は……分かってそうな感じだね」
「ええ。主にふたつ」
指を2本、眼前に立てる。
「ひとつは、完全に意表を突かれました。まさかあんな形で性能も、攻撃手段の特性もガラリと変えてくるなんて想像もしていませんでしたわ」
指を1本折り、
「スピード重視の軽量アーマー。縦の動きに目を慣らさせておいて、居合抜きという高速の横薙ぎに繋げる戦術。初見殺しというやつですわ。」
残った指をピコピコ。
「これに関しては、一度見てしまえば対策は可能です。ただし……」
ここで頭を振り、
「もうひとつの方が問題ですわ」
「もうひとつ?」
聞き返すタクヤに改めて向き直る。
「少し話は変わりますが黄金比という概念はご存知ですか?」
「ベストバランスのことだよね。そこから少し外れただけで黄金の輝きは陰ってしまうという」
「ええ、そうです。ここで言いたいのは機体のプロポーション・バランスのことなのですが、つまりはストレートに組んだキットのプロポーション=黄金比なのですわ」
「ああ……まあ、そりゃそうだよね。プロがデザインして別のプロが立体化したものだし」
「そして……ここからが重要なのですが、GBNにおいて黄金比から外れた機体ほど追従性、つまり操作のレスポンスが低下するのです」
「えっと、それはどのくらい?」
「もちろん微々たる差ですわ」
最後に残った指を折る。
「ですが、強敵相手の場合その微々たる差が勝敗を分けます。わたくしの愛機キマリスナイトも言わば初見殺し、向こうも予測はしていなかったはずですわ。その上で撃ち負けた」
「それがレスポンスの差?」
「ええ、おそらく。そしてキマリスナイトの黄金比ですが」
スマホの画像を見せ、
「お分かりでしょう。本来のキマリストルーパーに比べて……」
「胴体が長い?」
「それもかなり。これでも限界まで小型化したのですが、どうしてもギミックの関係上これ以上は無理でした」
「対する向こうはフレームをそのまま使ってる」
「ええ。黄金比は完璧です」
拳を握りしめる。
「この差を埋めないと絶対に勝てない」
「最後は僕か」
腕を組む。
「僕の敗因はシンプルだよ」
「? と、いうと?」
「スピード」
腕組みを解いて、両の手指を機体に見立てる。
「速さで一枚上を行かれて、最後も速さでやられた」
右掌に左の指先を突きたてる。
「特に最後の技『ブレード・ストーム』は最低限空を飛べないとどうにもならない」
寝かせた掌に、上から指を何度も突き刺す。
「下以外のあらゆる角度から無数の短剣が襲ってくるんだ。走ったところで逃げようがない」
「それなら飛行ユニットを背中に取り付ければ……」
「重量バランスが悪くなって地上戦で不利になる」
かと言って、大気圏内ステージでずっと飛び続けるのでは、ブースト消費が激しすぎる。空力的に効率のいい航空機械ならともかく、そもそもモビルスーツは飛行には向かない。
それに、と前置きして、
「脆弱で嵩張るフライト・ユニットを庇いながらあの敵を相手取るのは現実的じゃない」
「と、すれば……」
「そう。課題は飛行能力と防御力の両立」
(これは難しい)
空を飛ぶ鳥は、軽量化の代償として骨が中空になっていて脆く折れやすい。それでは勝てない。
「鳥がダメなら……」
意識せず漏れた呟きにサカグチが何気なく答える。
「? だったら空飛ぶ竜、ワイバーンならいいのではなくて?」
その言葉に衝撃が走る。発想の転換。そして、天啓のように先程、サカグチが来るまで見ていたキットが脳裏に浮かぶ。
「あまりやったことが無いタイプのモデリングだけど」
思わずといった感じでニヤける口元を隠す。
「面白いかも知れない」
廃部まで残り数日。
こうしてリターンマッチの準備が始まった。
……何か大事なことを忘れていることに、誰も気付かないままに。
「子供の国」終了。次話「そして、伝説へ」