前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。   作:N-SUGAR

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久しぶりにNARUTO読んで、やっぱ多由也好きだなーって思って二次創作を漁ったのですが、まあ少ない。需要に対して供給が余りにも少ないから誰か書いてくださいと思ったので、とりあえず自分が書いてみることにしました。

ここで自分に向けて一言。

「多由也を書きたい?じゃあ、何故憑依転生させたし!」





第一話 3度目の命乞い

 助けてください。何でもしますから。

 

 そんな言葉すら命乞いとしては生温いくらいの危機的状況に陥ったのは、これで3度目のことだった。

 

 一度目は前世でのこと。趣味の登山の帰り道、崖で滑って転落し、途中に生えていた木の枝にパーカーのフード部分が引っ掛かった時のことだ。この時は命乞いもむなしく木の枝が折れて、私は岩肌の露出した地面と熱烈なハグを交わし、その命を落としてしまった。享年24歳。就職から二年経ち、やっと生活が安定してきた花のOL人生。これからが本番だというときに、惜しくも私はその生涯に幕を下ろすことになってしまった。

 

 その結果、私は転生という世にも不思議な体験を果たすことになった。しかも、その転生先を私は前世の知識として知っていたのだ。

 

 とは言っても、その事に気づくのにはかなり時間がかかった。まず、前世の記憶を認識するための物心というものがつくのに5年かかったし、まともに知識と思考を関連させるのに更に1年かかった。

 

 違和感を覚えてから確信を得るまでにそこまで時間はかからなかったが、確信を得た時の代償はでかかった。何しろ確信に至るまでに、人生で一度起これば十分すぎる命乞いタイムを2回も経験するはめになったのだ。

 

 というのも、私が7歳になってしばらくした頃、私の生まれ住んでいた山の隠れ里が一族ごと滅んでしまったのだ。後から知った話によると、私達の一族が持つ能力を危険視した草隠れの里の暗部による襲撃だったらしい。しかしそんなことを知るよしもない当時の私は、お父さんとお母さんの命懸けの時間稼ぎによって一人、なんとか命からがら逃げ延びるのに精一杯だった。2回目の命乞いタイム到来である。助けてください、何でもしますから。と、何度思ったか分からないし、実際生き抜くためにどんなことでもやってのけた。

 

 地面を這いつくばりながら、私はそこら辺の草を食べ、泥をすすり、物乞いをし、ゴミや死体を漁り、各地を転々と放浪した。里を襲った怖い人達から逃げたいという強迫観念もあって、一ヶ所にとどまることは少なかった。一ヶ所にとどまれるような境遇でもなかった。そんな流浪の旅の末、私は皮肉なことに、草隠れの里に拾われることになる。拾われて暫くして草隠れが私の里を滅ぼしたという事実を知ったが、もはや後の祭りだった。復讐するほどの気概も実力も余裕も、もはや私には残されていなかった。

 

 孤児ということもあり、私は使い捨ててもいい少年兵の一人として奴隷同然に働かされた。捨て身同然の任務に送り出され、お母さんから教わった魔笛の秘術を用いて何とか命を拾うような生活を一年ほど続けた。そして、いい加減この世界がどういうものなのか何となく確信していた頃に、とうとう決定的な証拠が目の前に現れたのだ。

 

「あなた、草笛一族の生き残りでしょう?」

 

 そう私に語りかけてきたのは、驚くほど青白い肌をした、蛇のような見た目をした人物だった。喋り声からも口調からも、まともな人間性を感じないどころか、男か女なのかもよく分からない。だが、その人物を網膜に刻んだその瞬間、私の脳内に電流が走った。

 

 あれ? ウチ、こいつ知ってるぞ? あれだよ。前世のウチが愛読していたあの漫画のアレだよ。ていうか、やっぱりこの世界アレだったよクソがコンチクショウ! 

 

 なにぶん最後に読んだのが10年以上も前だったし、慌てていたこともあって咄嗟に固有名詞が何一つ出てこなかった。だけど一呼吸おけば簡単に思い出せる。今や懐かしさを通り越して郷愁を覚える前世における青春時代。その一角を担った大人気少年漫画。初期におけるラスボス的ポジションを一身に担っていたあの強烈なキャラだ。忘れるなという方がどうかしている。なんだったら名前どころか、使う術も、アニメの声優も一緒に思い出せるレベルだ。

 

「私は大蛇丸。ねぇアナタ。私の所に来る気はないかしら? 今のアナタには手に入らないものを、私ならアナタに与えることができるわ」

 

 大蛇丸。木ノ葉隠れの里伝説の三忍の一人。自来也、綱手と共に第二次忍界大戦において名を馳せた忍だが、度重なる人体実験や危険すぎる思想から師である三代目火影、猿飛ヒルゼンによって里を追われた抜け忍。

 

 何より、前世の私が読んでいた漫画『NARUTO』の登場人物の一人だった男だ。そう。男性だ。

 

 それが目の前にいる。ということは、もはや疑うまでもない。

 

 この世界は間違いなく、それと似たような世界でもなんでもなく、『NARUTO』の世界そのものなのだ。

 

 漫画での大蛇丸は里を抜けた後、自ら有望そうな人材を集めて音隠れの里を創設したという話だったが、音隠れの忍装束を纏った姿からして、恐らく現在のこれはそんな人材集めのワンシーンなのだろう。

 

 草笛一族……。そうだ。暫くそう名乗ってはいなかったがその通り。私の名前は草笛(くさぶえ) 由也(ゆや)。今は亡き草笛一族の、恐らく唯一の生き残り。笛を使った秘術や封印術、結界術に精通する一族で、その能力を恐れた草隠れの里によって故郷を滅ぼされてしまった。

 

 前世の記憶持ちということもあり、精神の成長が早かった私は里でも神童と称される程の天才児だったが、そんなプライドも今や欠片すら残っていない。

 

 だが、そんな自分の名前を久しぶりに思い出したことで、ある違和感を覚える。

 

 大蛇丸に勧誘されるということは、私は音隠れに所属することになるのだろうか。となると、私も無事に生き続ければ木ノ葉崩しに参加することになる筈。私は、NARUTOに登場するようなキャラだっただろうか……。音隠れに笛の術を使う忍が……いた……ような気がする。

 

 バンダナの様に頭に被った草隠れの額当て。そこから溢れる肩まで伸びた自分の髪に触る。一族のみんなと同じ、薄汚れた赤色の髪の毛。手入れもろくにしてないからボサボサだし、枝毛もひどい。正直あまり好きな髪色ではないから、無意識のうちに隠しがちな髪だが、今や自分に残された数少ない一族であることの証でもある。

 

 赤い髪。笛使い。音隠れ。女の子……。正直女性キャラには比較的興味が薄かった私だが、それでもキャラを楽しむタイプの読者だったから、流石に思い出した。

 

 奈良シカマルは、私のフェイバリットキャラクターの一人なのだ。

 

「…………あああああ!!!!」

 

 いた。いたよそんなキャラが! 若干名前が違うから思い出すのに時間がかかってしまったが、思い出してみればその記憶は鮮明だ。

 

 多由也。通称は、『北門の多由也』だったっけ? 木ノ葉崩し編からサスケ奪還編にかけて登場した音隠れの四人衆だったか五人衆だったかの一人! 

 

 中でもサスケ奪還編においては、シカマルと戦うことになった口の悪い女の子! 

 

 嘘でしょ!? ウチ、NARUTOに出てたんだ! うわー! うわー! 

 

 急に訪れた情報の洪水に、私はパニックになった。今がどんな状況なのかも忘れて、頭を抱えて硬直する。

 

「? ……どうしたのかしら?」

 

 性別不詳のくじら(声優)ボイスが耳に届き、我に帰る。そうだ。パニックになっている場合じゃない。いくら自分が漫画の登場人物だと分かっても、行動次第でその未来は全く別物になるかも知れないのだ。

 

「なんでもねェ……いや、なんでもない……です」

 

 混乱して、一瞬普段の口調が出かかるが、敬語に修正する。あんまりな人生なせいで性格が自分でもわかるくらい捻じくれてしまったが、本来の私は教養ある社会人であることを未来の上司にアピールしなくては。

 

 いや、待て。本当に大蛇丸が未来の上司でいいのか? この人平気で部下を使い捨てにするタイプだぞ? 多少特殊な能力を持っている程度じゃあ、よっぽど有能でもない限り使い捨ての輪廻からは逃れられそうにないぞ? 実際多由也ってサスケ奪還編の時に……。

 

 ぞくり……と、背筋に悪寒が走る。そうだよ。興奮してる場合じゃない。このまま行けば、私は間違いなく死ぬ。シカマルと戦った時の多由也が何歳かなんて流石に知らないが、どう考えても成人しているようには見えなかった。下手すりゃ10代前半だ。ただでさえ前世も早死にだったのに、転生先で早死にのハイスコア更新なんて嫌すぎる。死んだらまた転生出来る保証もない。というか、NARUTOの世界は例のあの術のせいであの世の設定が若干定まってるのだ。この世界に生まれ変わりなどという概念はほぼないと言っていい。

 

 まずい。まずい。まずい!! 

 

 ここで大蛇丸に勧誘されて、素直についていけば死亡ルートに一歩足を踏み入れることになる。だが、迂闊に断ってもそれはそれで死亡ルートな気がする。

 

 あれ? もしかしてこれ、詰んでる? 

 

 いや、待て待て! 冷静になれ! こういう時こそクールにだ。例えばシカマルと戦うことになるあのシーン。あそこで死ぬ前に大人しく降参すれば、命だけは助かるのでは? 

 

 命だけは助かったとして、大蛇丸の元に戻ったらそれはそれで殺されそうだけど。

 

 じゃあ、木ノ葉に捕まったら助かるのかと言えば、それも怪しい。

 

 何しろ音の四人衆には全員呪印が施されているのだ。大蛇丸の呪印は特殊だが、元々呪印というのは対象者の自由を奪うための術だった筈。第二部になって登場したサイに施されていた暗部の『根』の呪印には、ダンゾウのことを話すと身体が痺れて動けなくなる効果があった。

 

 同様に、大蛇丸の呪印に裏切り者を始末するような効果が無いとは言い切れない。というか、むしろその可能性が高い。

 

 音の四人衆なんてのは、所詮、大蛇丸にとっていつ切り捨てても構わない程度の存在でしか無いのだから。

 

 あー。ダメだなー。これは詰んでる。間違いない。

 

 誰か助けてください。何でもしますから。

 

 今、この瞬間。大蛇丸が目の前に姿を現したこの時こそが、私の多由也としての人生のスタートポイントであり、そして前世から合わせて3度目の命乞いタイムだった。

 

 気付いたときには、もう遅かった。

 

 三手詰めの詰将棋……。しかも逃げ道は既に塞がっている。あと一手で詰み……か。

 

 絶望するには、十分すぎるな。

 

「おい! どうしたんだお前!」

 

 もういっそのことこの場で気絶して、意識を失えたらどれ程楽だろう。そんな現実逃避をしていた私の背後から、男の声が掛かる。

 

 私はその声のおかげでやっと現状を思い出せた。

 

 私は大蛇丸に声をかけられたが、それ以前にそもそも今は任務中だった。

 

 私の他にあと二人。三人一組(スリーマンセル)で森の中を移動している最中に、大蛇丸は私の目の前に現れたのだ。

 

 私の後ろに立つ二人のうちの一人、三人組のリーダー格である草隠れの中忍が声をあげる。

 

「コイツはなんだ! お前の知り合いか!? 任務の邪魔だから帰ってもらえ!」

 

 余計なことを言う。この男、もしかして死にたいんだろうか。

 

 目の前の人物が何者かなんて、ビンゴブックの1つでも見てれば直ぐに判るだろうに。

 

「い、いえ……。知り合いでは……ない、です」

 

 とはいえ現在の上司に返事をしないわけにもいかないので、私は辛うじて男にそう伝えた。知り合いではない。こちらが一方的に知っているだけだ。

 

「知り合いじゃない? じゃあ、ただの邪魔者か。おい」

 

 中忍は隣に立つ下忍に合図を送り、クナイを構える。どうやら二人で挟み撃ちにする腹積もりらしい。上司の出した合図は、私を囮にして残りの二人で強襲をかけるというものだった。

 

 オイオイオイ。死ぬぜお前。

 

 私からしてみれば仇でもある草隠れの忍が何人死んでくれても別に構わないが、この状況だと私まで巻き込まれかねない。

 

 これは全くいただけない状況だ。

 

 目の前の大蛇丸は、この状況を楽しそうにニヤニヤ笑って静観している。どうせ、私の実力も量れるからちょうどいいとでも思ってるんだろう。とんでもねービチグソヤローだ。

 

「待っ──―」

 

 草隠れの中忍と下忍は、大蛇丸が動かないのをいいことに私が何か言う前に早速行動を始めた。二人同時に地面を蹴って、私の両脇を通り過ぎる。二人の目は、既に大蛇丸にのみ集中している。

 

 ああもう! しょうがねェなァ!! 

 

 私はクナイを二本取り出し、狙いを定めて前方に投げつけた。

 

 手裏剣術は得意だ。前世でNARUTOを読んで憧れていたこともあって、故郷でみっちり特訓していた。原作で多由也は笛以外の武器を持たない主義だったらしいが、私にそんな主義は無い。プライドなんてものは、とっくの昔に地に落ちた。

 

 だから、投げたクナイは狙い通りに目標に向かって吸い込まれていく。

 

 クナイは大蛇丸に迫る二人の忍の、その首筋に正確に突き刺さった。

 

「がッ……!! 何故……!!?」

 

「伝説の三忍相手に真正面から突っかかる馬鹿があるか。この情弱ゲスチンヤロー共が」

 

 突然の裏切りに中忍が辛うじて疑問の声を絞り出すが、私の答えを聞く前に、二人の襲撃者は既に息絶えていた。頚髄叩き斬ったんだからむしろ即死してもらわないと困る。逆に何であの中忍は一瞬喋れたのか不思議だ。

 

 ドサドサ! と、大蛇丸の両脇に倒れ伏す二人の忍に、大蛇丸は全く目を向けなかった。元々興味の無かったオマケの二人だ。死んでいると分かれば、もはやそこに目を向ける価値など無いのだろう。大蛇丸の蛇のごとき眼光は、私だけを興味深そうに捉えている。

 

 獲物を狙う蛇とは、まさにこういうのを言うのだろう。

 

「アナタ、私を知っていたみたいね」

 

「情報は武器……ですから。失礼ながら、私が知り得る限りの危険人物については、目を通しています」

 

 嘘は言っていない。大蛇丸については調べなくとも知っていたが、この世界が自分の知っている世界なのかの確認がしたくて、草隠れにあった手配書(ビンゴブック)に目を通してみたことがある。まあ、奴隷同然の下っ端が目を通せる情報なんてそれこそ何もないに等しくて、私が原作で見たような大物の情報なんて何一つ載ってないようなカスみてーな手配書だったけど。

 

「フフ……。話が早くて助かるわ。でも良かったの? お仲間をあっさり殺しちゃって。私からすれば中々見所ある行動ではあるけど」

 

「草隠れの忍びなんて仲間とは思ってませんよ。仇そのものですし。この額当ても、常々外したいと思ってますから」

 

 自分の額にある、草隠れの額当てを親指で叩きながら私は言う。

 

 確かに、前世の私からすれば考えられないような行動ではある。だけど人間一度地獄を経験すれば、どんなことでも簡単にやってのけるようになるものだ。一族の滅亡と逃亡生活なんてその最たるものだろう。なんならサスケ君より悲惨な目に遭っている自信がある。そんな私だ。自分が助かるためならば、何だってしてみせるとも。

 

「クク……。良い目をしてるわ。死を目の前に貪欲に生き足掻こうとする肉食動物の目。自分が生き残るためなら何にだって食らいつく。残念なのは、仇を知っているにも関わらず、そこに復讐の炎が宿っていない事くらいかしら?」

 

 大蛇丸は愉快そうに笑う。蛇の眼光は私程度のことなど全てお見通しらしい。どうせ、私の故郷が草隠れによって滅ぼされていることも知っていて、それを交渉材料の一つにするつもりだったのだろう。

 

 誘い文句は、「アナタに復讐のための力を与えてあげるわ」とでもいった所か。容易に想像できるな。サスケ君への誘い文句そのものだし。

 

「復讐を考えるほどの心の余裕は、私には無かったものですから。生きるのに精一杯だったし、復讐なんてしても、腹は膨れないし、両親が生き返るわけでもありません」

 

 復讐なんて虚しいだけで、何の意義も生まれない。NARUTOという漫画は作品全体を通して、その事実を教えてくれる教科書だ。少なくともこの世界においては、それは概ね真理と言える。実際問題、復讐を正しい意味で完遂できたヤツなんて、この世界ではシカマルくらいしか思い浮かばない。

 

 そう考えると、やっぱシカマルって凄いんだな。

 

 多由也風に言うなら、大したクソヤローだ。

 

 閑話休題。思考がずれた。今は大蛇丸に集中しなくては。

 

「ふうん。復讐に興味はない、と。冷静なのねアナタは。では、誘い方を変えてみましょうか。アナタにこの世界を生き抜くための力を与えましょう。なんなら、亡くなったアナタの両親に会わせてあげることも、私にならできる。だからアナタ、私のモノになってみない?」

 

 大蛇丸が、手を差し伸べる。成る程。力を与える上に、私の両親と来たか。私がただの草笛 由也であったなら、その条件に一も二もなく飛び付いたかもしれない。実行するかどうかはともかくとして、大蛇丸には穢土転生の術という実際の手段もある。

 

 だけど私は知っている。大蛇丸の元に就いて、私の願いが叶うことなど絶対に無いということを。この残酷で過酷な世界を生き抜くだけの力を身に付けることも、両親に再び会うことも、恐らく出来やしない。普通に立ち回るだけでは、そんな希望に私の手が届くことはない。

 

「……貴方の手先、部下になるという条件なら、飲みましょう。使い捨ての駒にされても生き残れるだけの力を下さると言うのなら、貴方のどんな命令にも従いましょう。ですが、貴方のモノになるという条件には、承服しかねます……。モノというのは詰まるところ、貴方の掌に私の人生全てを握られるということに等しいですから……」

 

 流石にそこまで、直ぐには信用できません。

 

 私の考えうる限り、もっとも穏便で、かつ言質を取られない交渉を試みる。

 

 貴方の命令には従う。捨て駒扱いも甘んじて受け入れる。だけど、それで死ぬようなら契約不履行以前に、貴方にはその程度の力しか他人に与えられない存在でしか無かったということだ。私はそこまでまだ信用できないから、貴方に命までは預けられない。

 

 絶妙に相手のプライドを刺激しつつ、私の身分向上を求める。大蛇丸が私を便利に利用したいことは分かっているが、こちらも利用する立場であることを決して忘れないで欲しい。言外に、そう指摘した。

 

 こんな交渉がどこまで通じるかは分からない。そもそも現段階で、私の命は既に大蛇丸に握られている。私なんてのは彼の気紛れ一つで簡単に握り潰される儚い命だ。交渉しようという意識自体が間違っているのかもしれない。

 

「……私の実力に不安があるようなら、今ここで示してあげても良いわよ?」

 

 ブワッ!! と、風が巻き起こる。大蛇丸がチャクラを荒立てているのが目に見えて理解できる。感知タイプじゃない私にチャクラが感知できてしまうのだから尋常じゃないチャクラ量だ。漫画やアニメでトップクラスを知っているから理解の範疇だが、草笛 由也として生きてきた約9年間から言わせてもらえばこの時点でもう未経験かつ埒外の技量差である。交渉なんてどうでも良いから大人しく服従しておけと、本能が全力で叫んでいる。

 

「それにアナタも、私と対等に利用し合いたいと言うのなら、それに見合った才能を示しなさい」

 

 そちらから一方的に話を持ちかけておいて随分な物言いだが、大蛇丸にはそんな理不尽が許されるだけの実力がある。9歳児相手に大人気ないとも言えるが、逆に言えば、交渉のテーブルに乗ってきてくれている時点で私のことをある程度交渉するに足る人物であると認めてくれているということでもある。私がただ利用されるだけの子どもではないと、認めてくれている。

 

 大蛇丸は、才能を示せと言った。流石の大蛇丸も、9歳の子ども相手に実力なんて求めちゃいない。ただ、その将来に自分が投資しても良いと思うだけの才能を示せと、彼は言ったのだ。

 

 思い返せば、作中彼が対等に取引するような相手など、志村ダンゾウか忍界大戦時点のサスケくらいしか思い浮かばない。確かに言外にそんな身分を求めるなど、大蛇丸からすれば身分不相応の大言壮語もいいところだっただろう。私は交渉の初手で失敗していたのだ。

 

 だけど、彼はそのテーブルに乗った。

 

 気紛れかもしれない。遊びの延長かもしれない。だけど、彼は私の差し出した交渉の席に着いたのだ。

 

 命乞いをする段階では、最早無い。

 

 ここで引くという一手だけは有り得ない。

 

 この一席は、私の後の生存率に大きく関わる大切な一石だ。

 

 才能を、示せ。

 

 私の前世を含めて3度目の命乞いタイムは、今までとは大きく異なる状況になり果てた。

 

 ここは運命に自分を委ねる場所ではなく、自分が運命を掴み取るための場所だった。

 

 助けてください。何でもしますから? 

 

 違う。私がいうべき言葉は、そうじゃない。

 

 私は、心の中で叫んだ。

 

 

 

「ウチは助かる! 何をしてでもだ!」

 

 

 

 ▼次回へつづく。




いかがでしたでしょうか。いきなりラスボス戦じゃねーかと突っ込まれるかもしれませんが、これはあれです。下忍になった第七班がいきなりカカシと戦わされるみたいなあれです。つまりチュートリアルなので安心してください。作者のモチベーションを保つためにも、生ぬるい目で優しく見守っていただけると嬉しいです。次回をお楽しみください。

前書きの一言に対する自問自答。

「だって、オリジナルの多由也だと私の中で死亡ルート以外の運命が見えてこないんだもの…」
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