前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。 作:N-SUGAR
ここで自分に向けて一言。
「ちゃんときっちり一話でまとめなさいよねー!」
血龍眼。
血之池一族に伝わる血継限界。
なにしろ原作漫画ではなく外伝で登場した瞳術なので流石の私も記憶が薄いが、それでもアニメにおいては、独特の不気味な雰囲気が印象的な話だったので少しは記憶している。
確か、作中登場した血龍眼の能力は大まかに四つ。
起爆人間を作り出す能力。強力な幻術に嵌める能力。血液や血中の鉄分を操る能力。鉄泉を介した情報収集能力。
どれも優秀な能力だが、特に幻術はあの万華鏡写輪眼にすら匹敵するとすら言われている、極めて強力な瞳術だ。
「先ずは、説法です」
血龍眼の持ち主であり、ジャシン教の教団長を名乗る白髪の男、血之池
が。
(う……動けない……!)
腕どころか、指先一本すら動かせない!
私の視界にギリギリ映る君麻呂も、どうやら身体を動かすことができない様子だ。
まさか……最初の一瞬目を見ただけで既に幻術に!?
万華鏡写輪眼に匹敵するという幻術能力に、偽りなしか!
いとも簡単に金縛りにかかってしまった私たち二人におかまいなしに、アカは話し出す。
「君達二人は見たところ、まだとてもお若いようだ。若い身空でこのアジトまで辿り着くことができたという事実に、まず私は感心します」
すたすたと、今がなんでもない普段の日常と変わらない時間であるかのように、アカは自然な足取りで飛段の首を持つ君麻呂へと歩を進める。
「ですが、生き急いでしまうのはいただけない。小さな子供の二人だけでこんな場所に来てしまうというのは、いささか無茶が過ぎるものです。結果的に、このような事態になってしまっていますしね」
私は以前君麻呂が私の幻術に対して行った、呪印の進行を利用した幻術返しを思い出す。
「ですが、安心してください。貴方達が生き急いだその生涯は、決して無駄になることなど無いのです。何故なら貴方たちはそのお陰で、ジャシン様の贄となる栄誉を獲得することになるのですから」
私は呪印にチャクラを流そうとするが、なかなか上手く行かない。血龍眼の幻術の支配が強すぎて、たったそれだけのチャクラコントロールすら難しいのだ。
これでは君麻呂も、未だに幻術が解けていないわけだ。
私達が手をこまねいている間に、アカは君麻呂の前に辿り着き、動けないでいる君麻呂の手から、するりと飛段の首を奪い取る。
「貴方達は本当に間の良い人たちです。なにしろ今日この日、ジャシン様に正しい形で贄を捧げることができる唯一の存在が、こうして日の目を見ることが出来たのですから。不死の「儀式」に捧げられたジャシン教の信徒達を除けば、貴方達は正式なジャシン様への捧げ物第一号とすら言えるでしょう。なんと羨ましい。貴方達が抵抗しないと約束してくださるなら、私がその栄誉に授かりたかったくらいです」
約束なんていくらでもしてやる。だからお前はさっさと死ね! そしてその後で私は約束を破る!
そう口に出したかったが、そもそも唇一つ動かせない今の状況からして、あのアカとかいう奴は根本的に私達の意見を求めていない。
本当に一方的に、ただ話を聞かせているだけだ。
「意味のある死。人間の生涯において、これほどの救いが他に有るでしょうか。ジャシン様は、ただ無為に生き、無為に死んでいく私達に、生きる意味と死ぬ意味を与えてくださるのです。一族の死に目に立ち合えなかった間の悪い私にも平等に、ジャシン様の供物となり、その御力の一端となる栄誉を得るという形で」
何が栄誉だ下らねぇ。本当にその説法でジャシン教徒ってやつは集まるもんなのか?
死に意味なんて有ってたまるか。死は死だ。それ以上でもそれ以下でもない。だから人は己の人生を生き足掻くんだろうが。
所詮、それも私の意見ってやつでしかないんだろう。だけど、それが私の意見なんだ。他人に捻じ曲げられて良いものではない。
だが、私の意志を守れるのは私だけ、私の力が足りなければそんなものは、いとも簡単に捻じ曲げられ、へし折られてしまう。
私の必死の抵抗は、未だに自分の意志を貫くまでに至らない!
「ですから飛段。貴方はもっと自分の身体を大切にしなさい。貴方は神に選ばれた、人々に正しい殺戮を遂行できる唯一の使徒なのですから」
「わーってるよ! 相変わらず話がなげーんだよおっさんは! ホント!」
アカは、飛段の胴体が転がっている場所まで飛段の頭を持っていくと、その頭を切断された首に繋げる。
つ……、と、アカが飛段の首の切断面をなぞると、ボコボコボコ! と音を立て、首の傷口に何やら血の泡の様なものが次々と噴き出していく。
そして、
次に、アカは飛段の穴の空いた胸に手を当てる。すると首と同じように胸の穴から血の泡が噴き出し、飛段の傷を塞いでいく。
飛段が、自分の身体を動かして、立ち上がる。
「くぁ~! やぁっと元通りになったぜェ……。ふー! 生き返った生き返った! ま! 別に死んでねーけど!」
「私がこうして君の身体を治せるのも今日限りなのですから、君はもう少し注意深く生きることを学ぶべきです」
「だー! ウルセェな! わかってるわかってる! ジャシン様に誓うよ! オレはもう首は斬られねェ!」
コキリコキリと音を立て、肩や首を回して身体の調子を確認する飛段。あまりの光景に、私は一瞬心の中でさえ、言葉を失った。
あの男、あんなことまでできるなんて……。
あれが……血を自在に操るという、血龍眼の力……。
「さて」
飛段の身体の傷を塞いだアカは、私達に振り返り、口を開く。
「ところでこのアジトを発見した優秀な忍である貴方達は、何故私達がこんなところにアジトを建てたのか疑問に思いはしませんでしたか? こんな、
それは、確かに思ったことだ。この地獄谷のアジトは、隠れ家としては隠密性に欠けている。私たちじゃなくても、優秀な感知タイプの忍が探せば、容易く見つけることができてしまう。
「それはですね」
アカは言う。
「たとえ敵にこのアジトが見つかったとしても、私にはそれを感知する手段がここでなら使えるし、そして万が一アジトが暴かれたとしても、ここでなら私は、瞬時にこのアジトとそこに眠る情報を破棄することができるからです」
その言葉を聞いて、嫌な予感がした。
まずい。何が来るのか分からないが、とにかくまずい!
私は幻術の金縛りを解こうと、必死にチャクラのコントロールを行おうとする。
アカが何やら印を結び始めた。
その瞬間、ゴゴゴ……、と、何やら地面が揺れ動く。
ぞわ……。と、身体に違和感を感じる。
これは……、呪印が進行してる?
……そうか! アカが他の術を使い始めたから、その分金縛りの支配力が弱まっているんだ!
私は動かせる分のチャクラを全ての呪印に注ぎ込み、呪印を活性化させる。
自然エネルギーが体内に入り込み、一瞬、全身のチャクラが乱れる!
手が……動く!
私は、反射的に君麻呂に向かって走り出す!
「君麻呂! 呪印を回して防御を固めろ! その上から結界で囲む!」
「!」
君麻呂の反応は流石に早かった。一瞬で呪印を活性化させ幻術を解き、直ぐに骨の鎧を形成し始める。
『忍法・五重結界』!
私は印を素早く結び終わると、君麻呂の隣に立ち、術を発動させる。
球状の膜が五層、私達を囲むように覆っていく。
そして、君麻呂の骨も、その内側を守るように私と君麻呂を包み込む!
私達二人の絶対防御。それが完成した瞬間、アカが術を発動する。
「『血遁・血栓開放』!」
ゴバッ! と、強い衝撃が私達を襲い、次の瞬間、勢いよく上空に打ち出されるような浮遊感が、私達を覆う。
その後も落下と衝突の衝撃が私達を襲い、球状の防御壁の中で二人して揉みくちゃになりながらも、なんとか謎の攻撃を凌ぐ。結界が三枚割れたが、何とか耐えぬいたようだ。
「……いてて、クソ。だいぶ、飛ばされたみたいだな」
「どうやらそのようだ。……しかしどうする? あの目。どうやら尋常ではなさそうだけど」
急場を凌ぎ、骨の絶対防御の内側で暗闇の中、私達は作戦会議を行う。
「ありゃ、血之池一族の血龍眼だ。取り敢えず、目を見ただけで幻術に掛けられるから目を見ないで戦わなきゃいけねーのと、血を使った様々な術を使う。奴に傷を作らせるとそこからチャクラを流されて人間爆弾に変えられちまうらしいから、それも注意だな。血遁? とかいうのは、聞いたことがねェが……」
「あの目のことまで知ってるのか。流石だな」
「ま、日頃の情報収集のお陰だな。それより、行けるか?」
原作知識の言い訳をしつつ、私は君麻呂に確認する。
「もちろん行けるさ。君への幻術対策が役に立ちそうだ」
君麻呂は頼もしい返事を私に返す。確かに、君麻呂なら骨で目を塞ぐことも可能だし、視覚に頼らなくても骨の振動感知で相手の動きを把握することができる。
問題は、むしろ私か。
私の音感知は相手の動きをある程度把握できはするが、視覚に頼らない動きを私自身が行うことは不可能だ。私にはそこまでの感覚センスはない。
だが……。
「ま、それならやれるか。よし。防御を解くぞ」
モタモタしていると、防御の外であの二人に待ち構えられる可能性が高い。外の安全が確認できる今のうちに自由に動き回れるようにしなくては。
「分かった。行こう」
君麻呂は私に同意し、骨の防御を解除する。そして私も、三枚が割れた結界の、残りの二枚を解いた。
暗闇が晴れ、太陽の光が私の視界を覆う。
どうやら、洞窟から放り出されて、外に出てしまったらしい。
……と、いうよりは。
「おいおい……」
私の目に映ったのは、轟々と赤い熱水を天高く噴き上げる大きな間歇泉と、それによって跡形もなく消え去ったジャシン教のアジトの残骸であった。
そして、その残骸を掻き分けて、二人の男が姿を現す。
「あっつ!! 死ぬかと思ったぜ!」
「それくらいで死ぬはずないじゃないですか。いい加減不死に慣れてください飛段君。その身体の使い方、さっさと慣れないと死にますよ」
「だから、死なねーんだって。つか、今アンタが言ったんだろーが!」
おかしな会話を繰り広げながら、当たり前のように無傷で出てきた二人に、私達は警戒態勢を取る。
そして、私たち二人を認識したアカは、こちらに語りかける。
「どうです? なかなかの光景でしょう?」
自慢げに、気持ちの良い笑顔を浮かべて。
「このアジトはですね。鉄分を多く含む鉄泉の上に作られていたのです。私はそこに自分のチャクラを流し込み、血栓を作って流れをコントロールし、地中を流れる鉄泉を通じてアジト周辺の感知を行うことができるわけです。さらに有事の際はこのように、血栓を開放することでアジトを間歇泉で押し流すことも可能なんですね。重要な書類を水溶性の巻物に記しておけば、これだけで全ての情報が押し流せるという寸法です。こんなところにアジトを構えたくなるのも納得、といったところでしょう?」
ああ。確かにそうだ。納得だ。アカが居ないと意味がないという一点を除けば、確かにそれは有用だ。おそらく私達が侵入してほどなくアカが現れたのも、その感知とやらに私達が引っ掛かったせいなのだろう。
ちくしょう。お陰で大事な情報が全て失われてしまった。
これでは飛段を捕まえることでしか、完全な任務達成は不可能だ。
「まぁ、こうして血栓を開放してしまった以上、感知性能は落ちてしまいますが、それも気にするほどのことでもないでしょう。このアジトは今日限り。私自身も今日限り。何より、敵は目の前にいるのですから」
アカは、そう言うと印を構え、飛段に命令する。
「さぁ飛段君。あの二人をジャシン様へ捧げるとしましょう。そして、それが正しくできるのは君だけです。私がサポートしますから、どうぞ存分に」
「言われるまでもねェ! 見てて下さいよォジャシン様! 今! 供物をお届けしますから!」
ガシャン! と、いつの間にか拾ってきたらしい三連鎌を構えながら、飛段がこちらに走り出す!
君麻呂が、それに合わせるように飛段を迎え撃った。
「さて、それでは私は幻術を……おや?」
どうやら君麻呂に幻術を掛けようとしたらしいアカが、戸惑いの表情を浮かべる。
それもそのはず。君麻呂は、骨を仮面のように変形させて完全に顔の全体を覆っていた。
胴体や足にも鎧のように骨を纏った君麻呂は、なんだか日曜の朝にでもテレビで出てきそうな仮面ヒーローみたいな見た目だったが、そのお陰で、君麻呂は血龍眼を直接見ることはもう無い。
『白薔薇の舞』
君麻呂が私との戦闘訓練の末編み出した、新しい骨の戦闘形態だ。
私との戦闘時においては視覚を開き、聴覚と触覚を完全に遮断することで私の幻術に対抗するが、今回は、視覚と聴覚を遮断し触覚で動きを感知する応用バージョンだ。
そして、視覚と聴覚を封じられた状態のまま、君麻呂は飛段と体術合戦を繰り広げる!
「ほう。あんな状態で飛段と渡り合うとは。あの少年。何か特別な感知の術を持っているみたいですね」
「分析はどうでもいい! コイツめっちゃ固くて血が取れねーんだよおっさん! 何とかしてくれ!」
「ふむ。そうですね……」
アカが何やら考えているうちに、私は笛を口に咥え、曲を奏で始める!
『魔笛・心想操響曲』!
「む?」
「うお!?」
……よし! 血龍眼を持つアカには効かなかったようだが、身体が治った飛段の方には効果が出た!
私は笛を吹いて飛段の身体を操り、アカへと飛段を向かわせる。
「ふむ。人を操る笛の音……ですか」
鎌を振り回しながらアカへと迫る飛段を冷静に分析しながら、アカは距離を取りつつ印を結ぶ。
「『血遁・鉄血千本』」
アカが術を発動すると、アカの後方で噴き上がる間歇泉から赤い針の形をした熱水が数本飛来し、飛段の身体を突き刺す。
「あっつ! いってェ!」
「さあ、これで幻術は解けたでしょう。さっさと儀式を始めなさい」
「わかってるっつの!」
熱と痛みで幻術が解けたらしい飛段は、再び君麻呂に向かって鎌を振る。
というか、あのアカとかいう奴が攻撃に参加し始めたら此方が総崩れになりそうな予感がするのだが、奴が飛段のサポートに徹しているという現状は、運が良いと判断するべきところか?
そんなことを考えているうちにも、飛段の鎌が君麻呂に迫る。
だが。
「『白薔薇の舞・茨』!」
君麻呂が両腕を前に出すと、腕を覆っていた骨の鎧が形を変え、幾本もの大きな杭を生やして飛段の身体を串刺しにする!
『白薔薇の舞』は、絶対防御の骨の鎧でありながらも、即座に必殺の攻撃を展開できるという速攻性を強みにした型だ。正直あれを繰り出されると私も幻術が完封されるので、まったくやりづらいことこの上ない。
対抗策は有るが、それこそ10枚単位の互乗起爆札を使わないと骨の鎧にひび1つ入らないから、あれとは絶対にやり合いたくない。
君麻呂の腕から伸びた骨の杭は、飛段の四肢を縫いとめ、飛段の身動きを封じる。
よし。これで後は……。
そう思った束の間。
「おい! おっさん! なんとかしろ!」
「分かってますよ。さて、あの鎧の強度は一体どれ程ですかね」
アカが、高速で印を結ぶ。
「『血遁・鉄血風爆』」
ボコボコと、飛段の傷口を塞ぐ黒い血栓が、唸りを上げる。
ま、まさか───!
「逃げ──!」
ドゴオオオオオオオオォォォォォォォォォォ!!!!
大きな衝撃波が、大気を震わせる。
飛段の身体が爆発四散し、爆炎が君麻呂を覆う。
あの野郎! 飛段を人間爆弾に……!
ボフ! と、人型の影が爆発の煙の中から飛んでくる。
「君麻呂!!」
煙を払い、鎧姿の君麻呂が姿を現し、私の隣に着地する。
「無事か!? 君麻呂!!」
「ああ。骨にひびが入ったし、爆風をもろに浴びたせいで少しクラクラするが、取り敢えず外傷は無い」
よかった……。
私がほっと息を吐くと、君麻呂が、前方を指差す。
「それより、あれを見て」
君麻呂の指差す方に目を向けると、アカが天に向かって両手を上げている。
そして、その頭上に、何やら肉片のようなものがより集まって来る。
「『血遁・鉄血再生』」
ぐにゃぐにゃと形を変えながら集まった肉片はそのうち人型となり、飛段の容姿を形作る。
ぐにゃぐにゃの肉片が、口を形作った瞬間、その口から声が上がる。
「ぅぅぅぅぅおおおおおおお! 痛ェェェエエエ!! あり得ねーくらい痛ェぞこんのくそジジィ!!!! このオレ様をバラバラに吹っ飛ばすとか何てことしやがる!!」
「文句言わないで下さいよ。身動きとれなくなったのは君なんですから。ああなったらもうこうするしか無いでしょう。それに、たとえ分子レベルでバラバラになったとしても、君は死なないんだから良いじゃないですか。アナタだけですよ? こんなことしても繋げたら元通りになるのは」
「あったりめェだ! 元通りにならなかったらブッ殺すからなおっさん!」
「だから今、元通りにしてるんじゃないですか」
なんなんだあれは。
私は今、本当に何を見せられてるんだ?
人間を爆発して、散らばった肉片を集めて、再構成している?
そんなの……そんなのまるで……。
「どうやら。相手はボク達の常識で量れるようなやつらではないみたいだね」
……。
動く死体で似たようなことをしてた人ならいたけどね……。
君麻呂の言葉に、思わずそう返したくなったが、我慢する。
とにかく。なんとかしなければならない。
あの二人、どう考えても厄介なのは血之池一族の方だ。
飛段の攻撃のサポート、牽制、回復。元々相性の良さそうな二人組だが、二人のコンビネーションの支柱は間違いなく、アカに片寄っている。
アカを倒せれば、飛段も倒せる!
とはいえ厄介なのは、奴等に私の幻術が効かないということか……。
飛段は痛み、アカは血龍眼で私の幻術に対抗ができる。一度飛段に幻術は掛けられたが、おそらくもう通用しないだろう。向こうも対策は簡単に立てられるのだ。
となれば、私は結界術や細々とした牽制を用いて君麻呂のサポートをするしかない。
それに、相手に対して攻めあぐねているのは、おそらく向こうも同じなのだ。
完全に復活し、血で服まで作ってもらった飛段とアカが、会話をしている。
「困りましたね。あの爆発も効かないとなると、いよいよあの鎧は私達にとって天敵なようです」
「何か策はねーのかよ」
「一応間歇泉の熱水で囲めば、蒸し焼きにはできるでしょうが……」
「オイオイ! それじゃ儀式になんねーだろーが!」
「そうなんですよねぇ……」
本当、相手が「儀式」とやらに執着していてくれて助かる。あのアカとかいう奴が形振り構わなくなったら、いよいよヤバイ。私達は簡単にやられてしまう。
アカは、更に考えを進める。
「骨の少年は私達にとって天敵……。なら、
「…………っ!」
やっぱりな! そう来ると思った!
君麻呂が私を守るように前に出る。しかし、アカは、その目を私に合わせただけで、私に幻術を掛けることができる。
本当、格上の幻術使いほど厄介なものはない!
アカは、私にその赤い目の照準を合わせた!
「…………。どういうことです」
しかし、アカはそこで、疑問の声を上げる。
「……ハ! どうやら、
私はニヤリと笑う。本当に大丈夫なのか少し怖かったが、どうやらうまくいった。
「何故、私の目を見ているのに、幻術が通じない!」
「ハッ! 幻術。幻術ね! バカかテメー。
「!」
ドクドクと、私の脇腹から、服に血が滲んでいく。
内臓や大きな血管は避けているし、少しは止血をしているが、それでも、
……気を抜くと、気絶してしまいそうになる……。
幻術は、それを上回る別の五感に弱い。
相手の幻術は強力だ。もしかしたら、痛みだけでは幻術を防げないかもしれない。
だけど、私はある仮説を立てた。
血龍眼は、血液を操る瞳術だ。
ならば当然、その幻術も、私達の血液を通じて掛けるものなのではないか?
通常の幻術が正常なチャクラを乱すことによって解除できるように、この幻術は、
だったら、やってみる価値はある。飛段を相手に血を流すのは怖いが、要は流した血を奪われなければ良いんだ。
飛段との直接戦闘を君麻呂に任せ、遠距離からの援護に徹していれば、血を奪われる心配はない。
大丈夫だ。やれる。
そこまで考えても、この対抗策を実行するのにはかなりの勇気が必要だった。
当然だ。誰が好き好んで自分で自分を傷つける。
飛段じゃねーんだぞ。私は。
だけど、やった。やるしか、なかった。
私にはこれくらいしか、やれることがなかったから。
力が……無かったから!
「行くぞ! 君麻呂!」
「ああ!」
私は渾身の力で笛を構える。
状態2になれば、この傷を塞ぐことはできる。
だけど、やらない。この傷は、幻術返しに必要だから。
傷を治すのは、この戦いが終わった後でいい。
そう覚悟を決めて、私はアカと飛段に向き直る。
────
「なるほど敢えて傷を作り血を流す。良い覚悟です。そして、良い手段です。──もちろん。
「──は?」
嫌な予感を覚える私に向かって、アカは、掌を向ける。
そして。
「『血遁・鉄血吸引』」
ぞわり、と、私の脇腹に、違和感を覚える。
傷ついた脇腹に、目を向ける。
血が流れる脇腹に、目を向ける。
血が、
「──────―っ!! なん……だと……!?」
私は瞬時にチャクラの膜を張って傷口を塞ぐが、浮き上がった私の血液が、アカの掌へと吸い寄せられていく!
「私は血中の鉄分を操る。遠く離れた相手の血であっても、体外に晒されればこのように、吸い寄せることができるのです」
傷口から血を吸い出す術……!
なんつー術だ! いや、違う。この術自体は大したことない! 傷口から血が吸い取られるとしても、すぐに塞げば失血死の心配はない!
ただ、
飛段相手には血を一滴でも奪われたらゲームオーバーなのだ。それなのに──
──
「ゲハハ! 先ずは一人!」
飛段が吸い寄せられる私の血液へと手を伸ばす。
まずい。まずいまずい!
……死ぬ!
パシャ! と、小さな音を立てて、私の血が受け止められる。
「………………!」
これは───。
「血を奪われると、不味いんだったよね。確か」
───君麻呂の骨が、凹状に伸びて、私の血液を受け止めていた。
──た、助かった……。
「ナイスだ君麻呂! 助かった! ありがとうマジで助かった!」
「はは。多由也のそんな素直なお礼は初めて聞いたよ。どうやらコイツら相手に血を奪われるのは、よほど不味いことのようだね」
そりゃあもう!
君麻呂。お前は命の恩人だ!
「テメッ! その血を寄越しやがれ!」
「そうはいかない」
飛段が君麻呂の骨に付いた私の血を奪おうと接近するが、君麻呂はすぐに血の付いた骨を巻き取り、鎧の中に仕舞い込む。
「ううむ。なかなか上手くいかないものですね」
アカは残念そうな顔をしつつも印を結び、次の手に移ろうとする。
私もまた笛を吹き、それに対抗するための術を発動する。
もう、ミスはしない。相手の術の性質が分かった以上、もう、血は奪わせない。
私とアカ、君麻呂と飛段は、同時に動き出し、それぞれが技と術を衝突させる──。
──そして、10分が経った。
場は、完全に膠着していた。
体術で渡り合う飛段と君麻呂は、お互いに決定打を繰り出せずにいる。
飛段が不意をついて私の方へと鎌を伸ばしても、君麻呂は骨を伸ばしてそれを防ぐ。
だが、君麻呂がたまに飛段の拘束に成功しそうになっても、アカの中距離忍術がそれを妨害する。
その上で、アカが君麻呂にダメージを通せる術を使っても、私が結界忍術で君麻呂を守る。
しかし、私が起爆札付きのクナイを投擲し、外部から決定打をもたらそうと画策しても、アカの繰り出す熱湯がクナイを弾き、起爆札の火種を消してしまう。
お互いがそれぞれ相棒をフォローし、敵を妨害し合う。
私と君麻呂、アカと飛段は、全く同じコンビネーションを使用する、同タイプの
実力は拮抗している。いや、実のところ、こちらが押されている。
何しろ私は、脇腹に傷を負った状態で戦っているのだ。
傷が痛んで集中力が持続しないし、ともすると意識を失いそうになる。
しかも時間が経てば経つほどに傷の状態は悪化し、私の終わりが近づいてくる。
不利なのは、明らかにこちらの方だ。正直、もう、立っていることすらキツくなってきた。実戦の10分というやつは、それほどに長い。
永遠にすら匹敵する時間だった。
だが、真の終わりは、予想もしない方向からやってきた。
どこから?
それは、
「──え?」
君麻呂の鎧はほとんど密閉状態に展開されるが、完全ではない。
呼吸をするための空気は常に入れ続けなければならないから、顎のところに、小さな通気孔が空いている。
そこから、血が吹き出した。
何の、前触れも無く。
突然に。
「ハハッ! もらったァ!!」
膝から崩れ落ちる君麻呂と至近距離で戦闘していた飛段が、手を伸ばす。
結界を、展開する暇もなかった。
パシリ! と、飛段の掌が君麻呂の血をキャッチし、そのまま飛段は血の付いた掌を舐め取った。
まて。
待って。
そんな、馬鹿なこと……。
「フフ。これは、面白いことになりましたね」
アカが、本当に面白そうに口元を歪めて、話し出す。
「いや、私と長時間戦った人には稀にあるんですよ。こういうの。長い間私の術の影響下にいるせいで、変に血の巡りが良くなってしまうのか、
嘘。嘘だ。
だって、君麻呂は原作において、一時的とはいえ音の五人衆として活動していた男だぞ?
病魔に犯されるには、あまりにも早すぎる。
ありえない。そんなはずはない。
だって、やくそくしたばかりだ。
一流の忍になって、また戦おうって。
お互いの心を、理解し合おうって。
きのう、やくそくした、ばかりだ……。
「──
気づくと、飛段の姿が、変わっている。その肌に、独特の紋様が浮き出ている。
足元には、いつの間にか、ジャシン教のシンボルマークが、血文字で描かれている。
「ゲハハハハハハァ! やっとだ! やっと全ての準備が整ったぜェ! どれだけこの時を待ち望んだことか! ジャシンさまァ! ようやく! ようやくこの時が来ましたよォォォ!!」
やめろ。
私は、反射的にクナイを投擲する。起爆札付きのクナイで、儀式の陣を掻き消そうとする。
「無駄です。『血遁・鉄血千本』」
だが、私の投げたクナイは、陣に届くこと無く、アカの術によって弾かれる。
「オレの儀式はメチャクチャ痛ェから覚悟しろよボウズ! まァ、その痛みが気持ちいいんだけどな!!」
やめろ。
「やめろぉぉおおおおおおおおおお!!」
私は走り出す。呪印にチャクラを回し、傷を治し、状態2になり、強化された脚力で飛段に迫る!
──だが。
「無駄だと言っています。『血遁・血龍昇天』」
熱湯で作られた巨大な龍の頭が、私の身体を吹き飛ばす。
アカが、私と飛段の間に、立ち塞がる。
「どけよクソゲスヤロー! ブッ殺すぞ!」
「アナタの順番は後です。先ずは少年から。それに、君らの儀式が終われば、私も直ぐに後を追います」
順番なんてどうでもいい! お前がくたばればそれでいいだろうが! 私達を巻き込むな!
私は立ち上がろうとして、身体が動かないことに気付く。
クソ! 血龍眼の幻術……! 金縛りか!
ググ……と、私の視界で、君麻呂が立ち上がろうとしている。チャクラ切れを起こしたのか、それとも病のせいか、『白薔薇の舞』が解け、君麻呂の顔が露になる。
君麻呂は、ゆっくりとした動きでこちらを向き、私に手を伸ばす。
「やめろ血龍眼……。多由也に……手を……出すな……」
「…………っ!!」
君麻呂……! お前……!
「ヒュー! 熱いねぇ! 自分のことより女の心配かよ! オレァ感動して泣けてくるぜ! 健気だよなァあまりにも! あぁ、オレはそういうのを見ると、
ザク! と、飛段は仕掛け鎌から取り出した黒い杭で、自分の片足を刺し貫く。
君麻呂の、飛段の刺した箇所と同じ部分が出血し、ドサリと、君麻呂がその場に倒れる。
「────────! ──────────!」
動けない。声すら出ない。
何もできない。何もしてやれない。
何で。何でこうなる。
分からない。何も分からない。
私に力がなかったから? 私が、弱かったから?
だからこうなったのか?
君麻呂に落ち度はない。君麻呂は十分実力を発揮していたし、私は命の危機まで救われた。
それにひきかえ、私はなんだ?
君麻呂の命を、助けてやることもできない。
予想はできたはずだ。推測は可能だったはずだ。可能性はあったはずだ。
「世界というのは常に流動するものだ。前兆のない出来事などというものは、この世にはないよ」
最初に出会った時、君麻呂はそんなことを言った。
前兆は、何処かにあったはずだ。こうなる運命は、世界が動いた結果なのだから。
全ての出来事が重なって、今がある。
なら私はそれを予想できる立場にいたはずだ。だって私は、既に未来をある程度把握していたのだから。
私が、駄目だったんだ。
私がいけなかったんだ。
私の怠慢が、この結果を招いたんだ。
私は、前世において、限りなく無意味にその命を落とした。
ここでも、そうなるのか。
いや、それ以下か。
君麻呂を巻き込んでしまった。君麻呂の死期を、早めてしまった。
これでは無意味どころか、マイナスだ。
ハハ。なんだよ。私の努力ってやつは、こんなに報われないものなのかよ。
なんなんだろうな。ほんとに。この10年間、私は何をしていたんだろうな。
一生懸命やった、つもりだったんだけどな。
そっか。結局無意味だったか。
ウチは、本当に、カスい女だな……。
クソヤロー以下だ。
「ハハ! ヒハハ! ああ、これは気持ちいい! 絶対に気持ちいいぞォ!」
飛段が奇声を上げながら、杭を持った腕をゆっくりと上げていく。
心臓に、その狙いを定めていく。
ズル……ズル……! と、何かを引き摺る音がする。
君麻呂が、血を吐きながら、腕を使って、こちらに近づいてくる。
お前は……まだ諦めてないんだな……君麻呂。
最後まで、ウチを助けようとしてくれる。
本当に、良いやつだよ、お前。
そうだよな。
諦め……られねェよな……!
く……そ…………
「がああああああああああああああああああ!!」
「何!? 私の幻術を……自力で!?」
私は最後の力を振り絞って、無理やり金縛りを振り解く!
バサリ! と、いつの間にか、背中に翼が生えている。
これなら……!
私は、地面を蹴って飛び上がった!
「飛段を陣の外に……! それができなくとも、せめて陣を破壊する!」
「させません!」
「遅ェ!」
アカが印を結び始め、飛段が杭を構える。
私は、全力の飛翔で飛段の陣を目指す。
アカの術は、おそらく私には届かない。
だが! 飛段の杭は……!
頭の中で、時間と距離が、計算される。
そして、理性が言う。
「これは、間に合わない」
知るか。知るか。知るか!
理性なんざ知らない!
死ぬ気で間に合わせる!
気概は、最高だった。
だけど現実は、残酷だ。
間に合わないものは、どれだけ頑張っても間に合わない。
あと一歩で、手が届かない。
これが、私の努力の結果か?
これが、私の人生の積み重ねの結果か?
こんなものが?
こんな結果しか、得られないものだったのか?
「陣から、出やがれ! このクソヤロ────!!」
「死ねエエエエェェェェェェ!!」
お願いだ。陣から出てくれ。頼む! 君麻呂を、助けてくれ!
何でもするから! 何がなんでも!
陣から出ろ。────もしくは、
「
そんな声が、聞こえた。
でも、何処から?
ボコッ!
と、飛段の真下の地面が、盛り上がる。
陣が────崩れる!
そして。
「あァ!?」
がっしりと、地中から二本の腕が伸びて、飛段の両足を掴む!
『土遁・心中斬首の術』
術の会得難易度、Dランク。
地面の中に身を潜め、敵を地面の中に引き摺り込んで身動きを取れなくする術。
下忍でも、少し練習すればすぐに出来る、超基本忍術。
そんな術が、飛段の儀式を、根底から破壊する。
……でも、誰が?
ゴバッ! と、地中の穴に飛段を引きずり込み、地面から影が飛び出す!
影は地面に落ちた飛段の鎌を拾い上げると、目にも止まらぬ速さで印を結んだまま固まっているアカへと接近し、鎌を振り上げ、印を結んでいるアカの両腕を斬り飛ばす。そして、その勢いのまま回り込み、アカの腰椎に掌底を叩き込む!
アカは吹き飛び、そのまま間歇泉の中へと墜落していった。
影は、倒れ伏し、どうやら気絶しているらしい君麻呂の側に着地し、やっと、その姿を明確にする。
私と反対に被ったバンダナ状の、木ノ葉の額当て。
口に加えた、暗器千本。
この男の名は──。
「不知火……ゲンマ……」
「よう、嬢ちゃん。昨日ぶりだな」
空を飛んだまま呆然と立ち尽くす私の眼下の人物。木ノ葉の特別上忍。不知火ゲンマ。
湯隠れの里で出会った、一介の観光客であり、私達の調査の情報源の一人。
「何故、アンタがここに……」
私が疑問の声を出すと、ゲンマさんは答える。
「何、昨日はああして別れたが、ガキ二人でジャシン教の調査をするってのもなんだかなって思っちまってな。他里に干渉するのは頂けないが、旅は道連れ世は情けとも言うだろ? だから、ピンチになるようならちょっぴり手助けしてやろうと、こっちでも調査して追いかけてみたのさ。お節介もいいところだが、余計なお世話じゃあ、なかっただろ?」
ゲンマさんは、ニヤリと笑う。
「場所はすぐに分かったぜ。こんなでっけぇ間歇泉がいきなり噴き出したら、誰でも何かあったと思うもんだ。そしたら案の定、お前らがとんでもねー敵と戦ってやがるときた。すぐに助けてやりたかったが、こりゃあ真正面から割って入っても無理だなと思ってな。隙を突く準備をするのに時間が掛かっちまった。悪かったな」
悪いものか。ファインプレーも良いところだ。何だアンタ。声と顔だけじゃなくて行動までイケメンなのか?
完璧か?
私はゲンマさんの前に着地し、深々と頭を下げる。
「いえ、とんでもない。命を救われました。本当に、ありがとうございます」
「別に、ただのお節介さ。気にする必要はない。それにどうやらまだ、終わってないみたいだぜ?」
バシャッ! と、背後から水の跳ねる音がし、見ると、間歇泉の中から、アカが這い出てきていた。
「木ノ葉の忍……だと! よくも……! よくも我々の儀式の邪魔を……!」
アカの瞳が真っ赤に輝き、血の涙が、頬を伝う。
「キサマは……! 殺す! ジャシン様の贄などではなく、私が、手ずから殺す!」
凄まじいチャクラの奔流が間歇泉の形を変え、巨大な八頭の龍が姿を現す。
『血龍昇天』
血之池一族の秘伝忍術。スサノオに匹敵する大きさを誇り、何度首を切断してもチャクラの続く限り永遠に復活し続けるという、八頭の龍の首。
「おお。こりゃすげぇ。とんでもねー術がこの世には有るもんだな」
「感心してる場合か! どうすんだこれ!?」
あんなのに対抗出来る忍術私にはないぞ!? あまりにもでかすぎて破壊は無理だし、水だから起爆札は爆発しないし、そもそも結界で防御できるかどうかも怪しい!
しかし、そんな中でも、ゲンマさんは余裕の表情を崩さなかった。
「ま、何も規模のデカイ術ばかりが強い術とも限らないよな。大丈夫だ嬢ちゃん。あの男には、
聞き覚えのあるそんな台詞と共に、ゲンマさんは、無造作に腕を振り上げる。
「ぐ……ぁ……!」
その瞬間、距離の離れたアカの背中に、四本のクナイが突き刺さる。
あの、特殊な形をしたクナイは……波風ミナトがよく使っていた……。
「『忍法・飛雷神手裏剣の術』ってな。ミナト様みたいに一人で人間を飛ばすことは無理だが、手裏剣くらいならなんとか……って、言っても分かんねーか」
そうだ。不知火ゲンマ。彼は元々、四代目火影、波風ミナトの護衛小隊に所属していた特別上忍だ。特別上忍というのは、一芸に秀でた専門職に強い中忍が任命される役職。ゲンマさんの場合は、限定的にとはいえこの飛雷神の術が使えたことで、特別上忍に認められたのだという。
飛雷神の術。私の心の師匠、千手扉間様が考案した、超高等時空間忍術。
その応用の幅は広く、私も出来ることなら手に入れたいと常日頃思っている忍術だ。
それをこの人は、未完成とは言え、ここまで使いこなすのか……。
これが……木ノ葉の特別上忍……。
ゴクリ……と、私は唾を飲み込む。
「……こ……の。手裏剣程度で……この私がくたばるとでも……」
アカが声を絞り出す。アイツ……まだ生きてんのか……。しつこい奴だ。
「思ってねーよ。
だけど、ゲンマさんはここでもやはり冷静に印を結び、
大きな爆発と共に、アカの上半身と下半身が、二つ別々に吹き飛ぶ。ドサリと、アカの上半身が飛段の側に墜落し、地中に埋まる飛段がビクリと驚く。
「あーあ。死んじまったのかよおっさん。まったく。それじゃあジャシン様の贄にもなれねーし、つくづく間の悪いおっさんだったなー。アンタ」
どざああああああ! と、盛大な水音を立て、八頭の龍がただの間歇泉に戻り、その間歇泉も、次第に小さくなって収まっていった。
「これにて決着。か?」
ゲンマさんが呟く。私はそれに対して首を振り、否定する。
まだだ。まだ、終わっていない。
私はゲンマさんに君麻呂の様子を見てくれるよう頼むと、飛段の元へと歩を進める。
私は腰を屈め、千切れたアカの上半身の切断面に手を突っ込み、流れ出る血を掴み取る。
「? お前何を……ゴボッ!! ガハッ!! 何しやがる!」
私は、掴んだ血を、飛段の口に突っ込んで飲み込ませた。
飛段は咳き込みなら、私に悪態をつく。
「クソ! 訳わかんねーことしやがって! 陰湿なイジメか!?」
「テメーの『儀式』は一度に一人ずつ。そして、他人の血を摂取する毎に、儀式の対象は更新される。違うか?」
「うげ、そんなことまで分かんのかよ……。ったく。抜け目ねーな」
分からないはずがあるか。一度に一人ずつでなければアカが「順番」に儀式を行わせる意味は無いし、儀式の対象が更新されなければ、あれだけ大量にアカの血液を流し込んでおいてアカが儀式の対象にならないのはおかしい。
論理的に思考すれば、誰でも簡単に推測できる法則だ。
これで、取り敢えず君麻呂が儀式の対象にされることは、血をまた奪われない限りは有り得ない。
「さて、と」
私はクナイを取り出す。これでじっくりゆっくりと、恨みを込めながら飛段の首を削り斬る。
それで、晴れて決着だ。
私は地面にしゃがみこんで、飛段の首を斬ろうとする。
すると、
ガシッ! と、足首を掴まれた。
見るとその瞬間、
身体が……動かない……。
コイツ……死に損ないの癖に……まだこんな力が……!
「今の内です飛段君!! アナタだけでも逃げるのです! アナタだけは! コイツらに捕まってはいけません! ジャシン様のお導きに従って、より多くの殺戮を遂行するために!!」
「!」
ボコッ! と、地面が盛り上がり、飛段が力尽くで穴の中から這い出てくる。
そして、走り出す。
「クソ! コイツらまだ!」
ゲンマさんは、自分の方へと走ってくる飛段から君麻呂を守ろうとクナイを構えて前に出るが、飛段はそれを無視して落ちている自分の鎌を拾い上げ、そのまま脱兎の如く岩の死角へと逃走。一瞬にして、地獄谷の奥へと消えていった。
気付けば、私の身体が動くようになっている。
ジャシン教教団教団長。血之池 赤は、今度こそそのしぶとい血の巡りを完全に停止させた。
私は、呪印の状態2を解除する。10分以上も連続で術を使い続けて、状態2にもなって、傷を治癒して、もう、ほとんどチャクラが残っていない。
身体を動かすだけでも、精一杯だ。
「なんだ。そのかっちょいい堕天使姿やめちまうのか?」
眠っている君麻呂を抱きかかえ、ゲンマさんがこちらに歩いてくる。
「アンタ、結構年食ってるくせに中二病なとこあるな」
「オトコノコなんだと言ってくれ。それにオレはまだ26歳だ。十分若いっつーの」
「はっ! 言ってろおっさん」
「お前こそ、結構大人に対する口の利き方がなってないのな。まぁ、慇懃無礼な敬語口調よりは、幾分好感が持てるがね」
しまった。安全が確保された安堵感から、つい命の恩人相手に無礼な口調を働いてしまった。
ま、いっか。
こんなときくらいは、リラックスしたいものだ。
……だけど。
私は、ゲンマさんの腕の中で眠る君麻呂の、血まみれの口元を指で拭う。
君麻呂の病気が、発症してしまった……。
原因不明。あのカブトさんですら治すことのできなかった、不治の病。
こんな場所で。こんな時期に。
私のせい……か。
これでは、大蛇丸様の一番の器になるという、君麻呂の願いは叶えられない。
それどころか、私との約束も……。
……クソ。
なぁ君麻呂。お前は、夢を諦められるか?
難しい……よな。私だってそうだ。
足掻きたいよな。可能性があるなら、最後まで諦めたくないよな。
精神力だけで立ち上がって、戦って、夢を次に託すような奴だ。自分自身のことだって、本当は諦めたくなかったはずだ。
だったら、生き足掻くしかないんじゃないか?
あの憎々しい不死の身体を持つ飛段だって、最後は必死に生き足掻いて、私達から逃げ延びた。
そこに転がるアカとかいう奴だって、その精神性は理解できなくとも、最後の最後まで諦めるということをしなかった。
私だって、結局は諦めなかった。
人生は積み重ねだ。その積み重ねの結果、私達はギリギリ首の皮一枚繋がることができた。
だったら、その首の皮を、諦める事なんて出来ない。
可能性を積み重ねれば、もしかしたら突破口が開けるかもしれない。
だから、もし、お前が良かったら。
私に、お前の命を、救わせてみてくれないか?
私、頑張るから。
一生懸命、努力するから。
私に、恩を返させてはくれないか?
なんだって、してみせるから。
だから、先ずは──
「帰ろう。君麻呂」
私は、君麻呂の頬を撫でながら、呟いた。
任務三日目。
私と君麻呂二人の初めての任務は、苦々しい思いを残しながら、無事とすら言えないままに、こうして、終わりを迎えた。
▼次回につづく。
※注意。あとがきは温度の高低差が激しいため、作品の余韻に浸りたいという読者として最高の方は、暫く間をおいてから読むことをおすすめします。
▼この下があとがき。
はい。というわけでジャシン教編でした。今後の展開を予想している人もいたし、まぁ、順当な終わり方でしたよね?(ゲス顔)
多由也ちゃんが注意してたら可能性を予想できたか?地獄谷にアジトがある理由をもっと深く考えれば?君麻呂の胸の締め付けの原因をもう少し深く掘り下げていれば?はっはっは。ムリムリ(ヾノ・∀・`)、私なら無理だね。そんなことできるんだったら多由也ちゃんの前世はきっとOLじゃなくて名探偵だっただろうさ。彼女、自分のこと責めすぎなんだよ。気にしない気にしない。人生あまり気負いすぎないことが大事。私はそう思ってます。私は。
ところで間歇泉って、長いものだと一時間くらい噴き出し続けるものがあるそうです。自然ってすごいですね。え?どうでもいい?そう…。
さて、血龍眼は前述の通り外伝小説出典ですが、血遁の性質変化は多分私のオリジナルです(あったらごめんなさい)。文字通り血液を操る術で、血之池一族特有の性質変化ならこれだろうなと思って作りました。これ、分析してみると結構ヤバい性質変化です。
なにせ、鉄を操る磁遁と、起爆人間を作る爆遁に、さらに水分を形作る水遁の使い分けですからね。基本性質で言えば土と風と水でしょうか?磁遁に雷が無いのは自分でも調べて意外でしたが、爆遁はもしかしたら火も使ってるかもしれませんね。デイダラの自称爆遁なら土だけですけど。
一度に3つ同時に混ぜてるわけではないので血継淘汰ではないと思いますし、そもそも確認されてる血継淘汰は塵遁だけですのでそんなもん出せないんですけど、それでも血遁は、二つの血継限界と一つの基本性質の合わせ技と言うことで、血継限界以上血継淘汰未満くらいのレア度は有るのではないでしょうか。血之池一族、そう考えると強いですね。
血龍眼の治癒って、皮膚まで治すみたいですけど、飛段の場合は怪我がでかすぎると言う理由から、皮膚はすぐには治りませんでした。一応ここで、注意をば。
ああ。因みに、君麻呂の胸の違和感は病気に関係するものでしたが、それがどうしてあのタイミングだったのかと言うと、症状の発現がストレスによるものだったからです。「白い薔薇」の花言葉は「私はあなたにふさわしい」。つまり、そういうことだってばよ。
というわけで、ジャシン教編でした。楽しんでいただけたなら幸いです。
次回。君麻呂闘病編…じゃあ、ないんだよなぁ。
お楽しみください。
前書きの一言に対する自問自答。
「こんなもんどうやって一話(大体一万文字ちょいくらいを目安)に纏めろと!?」