前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。 作:N-SUGAR
ここからが、この物語の本番と言っても過言ではありません。
お楽しみください。
ここで自分に向けて一言。
「お前…遂にやってしまうのか…?」
「やぁ、多由也。来てくれたんだね」
「当たり前だ。お前にいつまでも倒れられてちゃ修行が滞る。調子は、どうだ?」
任務から帰ってきて、君麻呂はすぐにカブトさんの手によって治療室に運ばれた。そして現在、ベッドに横になっている君麻呂は周りを医療用の機械で囲まれており、君麻呂の身体からは、輸血や人工呼吸器をはじめとしたいくつもの管が伸びている。
痛々しい姿だった。つい最近まで全盛期で戦っていた人物の姿とは、とても思えない。
君麻呂の発症した病気が治る気配はない。むしろ、日を追うごとに症状は悪化している。カブトさんの懸命な治療も虚しく、君麻呂は身体の殆んどが動かせなくなってきていた。
「治りそうか? お前の病気は」
「治したい……が、カブト先生からは、難しいかもしれないと言われているよ……」
どうやら余程弱気になっているらしい。ついこの間までカブトさんを呼び捨てにして扱き下ろしていた人物の台詞とは思えない。流石に、ここまで身体に顕著な影響が出れば君麻呂でも心が弱くなるのか。
「しっかりしろ! らしくないぞお前。こんな病気なんてすぐに治して修行を再開するんだろうが! そんなんじゃ大蛇丸様の器なんて夢のまた夢だし……、それにウチとの約束はどうするんだ!」
「そう……だね……。そうだ。こんな病気。さっさと治さなくちゃね。ボクはまだ一流の忍にはなってないし、君との約束も果たしていない。なにより、ボクの生きる意味は……果たさなければ……」
分かっていたことではあるのに、心が焦る。今の私では、君麻呂の病気をどうにかしてやることはできない。
とにかく情報を集めて、何か突破口を探さなければ。
私は私の決意を、果たさなければ。
会話の最後に、君麻呂は呟くように、私に語り掛ける。
「ボクは病気を治したいが……それでも……万が一、このまま治らなかったとき……。そのときは……多由也……。大蛇丸様のことを……ボクの代わりにどうか……頼む……」
「……」
それは、お前がどうにかすることだ。
私に頼むことじゃない。
私はその言葉に、何も返さずに治療室を出た。
数日後。暁への潜入から一時的に戻ってきた大蛇丸様は、私からの報告を聞いて、今回の任務を成功と判断した。
「飛段という不死の存在。これが分かっただけでも私にとっては値千金の価値があるわ……。君麻呂という予備を失うのは惜しいけど、それに代わる副産物も、手に入れたしね」
大蛇丸様にとっては、確かにそうだろう。暁に潜入しているという一点からしても、将来のメンバー候補である飛段の情報は、それだけで暁への交渉材料になる。それに、私がこの任務で持ち帰ったモノも、直接任務と関係なくとも大蛇丸様にとっては貴重な研究資料になるだろう。喜ばれこそすれ、私の評価が下がるようなことにはならないと確信していた。
そんなことよりも、だ。
予備。大蛇丸様は、君麻呂のことをそう呼んだ。
当然だ。現在大蛇丸様はあのうちはイタチの身体を手に入れるために、暁であれこれと活動しているのだ。今の君麻呂はあくまでも器の補欠候補の一人。大蛇丸様は、君麻呂の存在をそこまで重要視していない。
「君麻呂の病気は、治る見込みが無いのですか?」
「まだ分からないけど、カブトが匙を投げるなら、私にできることは何もないわね。イタチ君がいる以上は、それでも特に問題はない。貴重な一族のサンプルを失うことになるのは、惜しまれることだけれどね」
「……」
道理だな。大蛇丸様の認識において、かぐや一族は絶滅危惧種とはいえ少し強いだけの戦闘民族。お気に入りのコレクションとして見るべきところは有るが、所詮はそれだけ。途中で脱落するのなら、それは君麻呂がそこまでの価値しか大蛇丸様に示せなかったというだけのことでしかない。
だが、それは大蛇丸様にとっての話だ。
「少し、君麻呂の様子を見てきます」
「多由也」
報告を終えた私が頭を下げ、部屋を出ていこうとすると、大蛇丸様が私を呼び止める。
そして、私に忠告する。
「君麻呂に情が湧いたのならば、早々にその情を捨てておくことよ。忍の世界、一々そんなものに足止めを食らっていたら、最奥に辿り着くことなど夢のまた夢なのだから」
「……失礼します」
私は一言だけ返して、扉を閉めた。
「これだけのサンプルが揃えば、原因は明白だ」
カブトさんの診察室。君麻呂の症状を分析した資料を片手に、カブトさんはそう言った。
原因不明ではない。原因は、明瞭だと。
「君麻呂に移植した大量の重吾の細胞。この細胞が、君麻呂の血液を変質させ、循環器系を中心に様々な異常を引き起こしている。どうやらかぐや一族と重吾の一族は、移植対象としては相性が悪かったらしい」
重吾の細胞。それが原因だというのならば確かに、発症が早まったのも頷ける。
元々呪印という形で重吾の細胞を取り込んでいた君麻呂は、遅かれ早かれ拒絶反応を起こす運命にあった。そしてその場合は、おそらくサンプルが少なすぎてカブトさんでは原因まで推し量ることができなかったのだろう。
だが、今回は違う。私との戦いの結果重傷を負った君麻呂は、その身体を繋ぎ止めるために大量の重吾の細胞を取り込んだ。結果、君麻呂の病の進行は、加速度的に早まることになった。
症状の原因が血液なら、血龍眼による影響とやらも受けやすかったことだろう。
「それで……。君麻呂を治す方法は本当に何もないのでしょうか?」
「難しいね。取り敢えず拒絶反応を和らげる薬は調合してみるが、それは対症療法にすぎない。根本的な解決を図るには、君麻呂の体質そのものを変えるしかない。彼を蝕んでいるのは重吾の細胞だが、彼を生かしているのもまた、重吾の細胞なんだ。取り除くことは出来ない以上、君麻呂の身体の方をどうにかするしかない。でもそれは……」
難しい……か。
そうだろうな。そんな簡単にアレルギーが治せるなら、この世界に花粉症なんて存在しないって話だ。アレルギーを治す方法も無い訳じゃないが、その治療法はアレルゲンを少しずつ摂取して身体に慣れさせるというもの。その治療法を施すには、君麻呂は重吾の細胞を一度に大量に摂取し過ぎている。そもそもアナフィラキシーショックによるアレルギーと細胞移植の拒絶反応では、アレルギーの分類が異なるから単純に比較することもできない。
手遅れ、だ。
私にはカブトさん以上の医学知識はない。そもそも医者を目指そうと思ったことすらない。カブトさんに治療法が分からなければ、私にはもうどうすることもできない。
血が変質しているということは、君麻呂は少なくとも造血幹細胞移植において重吾の細胞と適合していなかったということだ。造血幹細胞移植には白血球の型(HLA型)が一致する必要がある。この適合率は、兄弟姉妹において約四分の一。それ以外の非血縁者では数百から数万分の一と言われている。そもそも私が適合しているのがおかしな話であり、君麻呂がこんな風になっているのは、むしろ当たり前のことでしかない。
仕方の無い、ことなのだ。むしろ、半年もの間目立った症状が出ていなかったことの方が遥かに不思議な話なのだ。かぐや一族が生命力の強い特別な一族だったから、今まで耐えられていた。
おそらく現代医学の知識を私が詳細に知っていたところで、それでも君麻呂を治すには至らない。
どうしようもない、ことなのだ。
あまりにも、情報が不足している。
君麻呂は、今のままでは助からない。
「有り難うございました。カブトさん」
「いや、礼を言われる程のことじゃない。それに、謝るのはこちらの方だ。君麻呂と君を引き合わせたのはボクなのに、結果的には、半年で引き離すようなことになってしまった」
カブトさんは、神妙な面持ちで私にそんな言葉を掛ける。
感覚で理解する。
この人は今、思ってもいないことを述べている。
その証拠に、カブトさんは続けて言う。
「でも、君麻呂がもう使い物にならない以上、君は早々に気持ちを切り替えて新しくやるべきことを探す必要がある。万が一大蛇丸様がうちはイタチの入手に失敗した時、その予備役となれる存在は、もはや君しかいないのだから」
うん。分かっていた。味方はいない。
この音隠れにいるのは、どいつもこいつも人でなしばかりだ。
私を含めて。
そんなことは、初めから分かっていた。だから、気にならない。
気にしない。
そもそもカブトさんの言ってることは、根本的に的外れだ。
私は大蛇丸様の器になるつもりはないし、そういう風に大蛇丸様と契約した。
もちろん、大蛇丸様の思惑は、カブトさんの言っている通りなのだろう。でも、少なくとも私には、そんなつもりは微塵もない。
そんなつもりが有るのはこの世界で君麻呂ただ一人だけだ。
私は大蛇丸様の器にはなってやらない。
うちはイタチの入手がほぼ確定で失敗する以上、大蛇丸様。アンタには今君麻呂しかいないんだ。
少なくともサスケくんを狙わない限り、その事実は変わらない。
何、安心してほしい。アンタらがやらなくとも、君麻呂は私が救う。
そう決めた。
大蛇丸様の器になるかどうかは君麻呂が自分で決めることだが、少なくとも、君麻呂の病は私が治す。
私の計画に齟齬が生じる可能性は大きいが、何、私の我が儘なんだ。それくらいは許容するさ。何とかしてみせる。
だから、私は迷わず進む。ああ。こんなところで、アイツにくたばられてたまるものか。
くたばるのなら、せめて私との約束を果たしてからにしろ。
じゃないと、私はムカつきすぎて、ろくに自分の計画を遂行できないのだ。
だから、私はやる。やると言ったらやる。最後まで、やり抜いてみせる。
可能性を積み重ねて、首の皮を繋ぎ続けてやる。
待ってろよ君麻呂。お前の、いや、世界の度肝を抜いてやる。
「ぐ……うぐぐ……」
「チクショウ……手も足もでねェ……」
「とんだクソゲーぜよ……」
更に数日が経ち、大蛇丸様は暁への潜入任務に戻り、カブトさんは木ノ葉へのスパイ任務へと出掛ける。
私は新しい日課の運動として、次期音の五人衆の残りの三人、左近、鬼童丸、次郎坊をコテンパンにぶっ飛ばす作業をしていた。
「クソ! 多由也テメー! もう少し手加減ってもんができねーのか!」
倒れ伏す左近が、プルプルと震える指をこちらに向ける。
何言ってんだコイツ。
「ぬるっぬるに手加減してやってるだろーが。テメーらがザコすぎんだよボケカス」
「多由也……。だから、女があまりそういう言葉使いは……」
「だから、ザコデブは黙ってろっつってんだろーがハゲ! モノを言いたいならモノを言えるレベルになってからにしろ!」
「……つーかよ」
次郎坊に罵詈雑言の嵐を浴びせる私に、鬼童丸が口を出す。
「君麻呂の代わりの修行相手にオレ達がもの足りねーのは認めるが、それにしても雑すぎる気がすんぜよ。毎日毎日状態2でボコスカボコスカ。これじゃ修行じゃなくてただの暴力ぜよ」
「あ? あたりめーだろ。ただの暴力なんだから」
「ああ?」
大の字に倒れる鬼童丸のこめかみに青筋が浮かぶ。だけどそんな格好で青筋を浮かべられても滑稽なだけだ。
「監視だか護衛だか知らねーが毎日毎日飽きもせずにストーカーしやがって。あまりにキモいからこうして纏めて相手してやってんだ。つーか、君麻呂に瞬殺される分際で護衛とかちゃんちゃらオカシイんだよ。一回死んで生まれ変わってからやり直してこいカスヤローども」
大蛇丸様達がいない間、こいつらが付き纏うせいで計画の進行がうまく行かないのだ。だから私は、一日の始めにこいつらをボコボコにして動けなくすることにした。
お陰で、少しずつではあるが計画が進み始め、今ではもう大体の材料は揃っている。
あとは、実行あるのみだ。
私は三人を無造作に転がしたまま修行場を後にし、自分の部屋へと向かう。
計画。そう、計画を実行するのだ。
実のところ、君麻呂を助ける決意をしようとしまいと、私のやることにそう大きな違いはなかったりする。
私は大蛇丸様に拾われたその瞬間からある計画を立て、今までその下準備を推し進めてきたし、その計画を利用すれば、君麻呂を救う方法を探す手掛かりにもなるのだ。
私の生存戦略は、君麻呂の生存戦略にも繋がる。
だから、私のやることは常に一本道だ。
私は、頭の中で計画を反芻する。
大蛇丸様と出会い、自分が音隠れの多由也であると確信した瞬間私は考えた。生半可な実力では、大蛇丸様の部下として自分は生き残ることができないと。
だったら、私は実力をつける必要があるし、そのための環境を整えるには大蛇丸様に実力を認めてもらう必要がある。
だから私は頑張って、大蛇丸様に自身の才能を認めてもらい、大蛇丸様の弟子という特別な地位を手に入れた。
だけど、大蛇丸様の下につくにあたって、実力を示すという行動には致命的なリスクが存在する。
それは、大蛇丸様の器に選ばれてしまう可能性が出るというリスクだ。どれだけ有能さを示しても、その有能さが仇となって私に返ってくることになる。これでは本末転倒だ。
ならばどうするか。方法は3つある。
1、カブトさんのように、器としてではなく部下としての有能さを示す。
2、器にされる前に、大蛇丸様を打倒する。
3、大蛇丸様からさっさと逃げる。
この3つだ。
ただし、1は既に破綻しかかっている。君麻呂の病気にしてもそうだが、原作における木ノ葉崩しで大蛇丸様の腕が封印されてしまうことを考えると、
2の手段もかなり微妙だ。私が大蛇丸様を打倒するには、私の実力はあまりにも足りなすぎる。そもそもこの手段は音隠れ全体を一度に敵に回しかねない上に、仮に倒せたとしても大蛇丸様が死んでしまうと、原作との乖離が大きくなりすぎてその後の展開の予想がまるで意味をなさなくなる。
大蛇丸様にはサスケくんの師匠になってもらった上で、最後の最後まで生き延びてもらう必要がある。じゃないと第四次忍界大戦時点における主人公側の勢力が足りなくなり、うちはマダラの手によって忍全てが滅ぼされかねない。それでは、私が生き残ることは到底不可能だ。
うちはマダラや大筒木カグヤの計画が既に進行している以上、私にそれを止める手段は今のところ無い。ならば、盤上を出来る限り掌握するためにも、原作から大きく離れた展開に持っていくのは下策が過ぎる。
私は自分が生き残るだけで精一杯なのだ。私の手に負えないあれやこれやは、主人公達に任せるに限る。ならば私は、そのためのサポートこそすれ、邪魔をしてはならない。
つまり、私に取れる生存戦略は「3、大蛇丸様からさっさと逃げる」しか、残されていないのである。
だけどこれも、難しい。原作から大きな乖離をせずに大蛇丸様の不意を突いて逃げるには、やはり自身の実力とタイミングがものを言う。
私は大蛇丸様から安全に逃げるための策と、その策を実行できるだけの実力を持たなければならない。
では、大蛇丸様から逃げるにあたってそのタイミングは、果たしてどうするべきか。逃げるタイミングは二通りある。
木ノ葉崩し編と、サスケ奪還編だ。
逃げるだけなら、サスケ奪還編の時に逃げるのが、私は一番良いと思う。その方が原作との乖離も少ないからだ。
だが、それには大きな問題がある。木ノ葉崩し編の時に逃げておかないと、サスケ奪還編までの間に私が器にされるリスクが格段に跳ね上がるのだ。なにしろ木ノ葉崩しで大蛇丸様は腕を封印されてしまうのである。ならばその問題を即座に解決しようと、私が当分の間器にされてしまう可能性は非常に高い。それでは全てが台無しだ。
上手く逃げられたとして、逃亡先の問題もある。私が原作への細かい調整を施すためにも、なにより私が平和に暮らすためにも、私は木ノ葉隠れの里を第一の逃亡先に選びたいのだ。だとすれば、サスケ奪還編の際に音隠れを裏切り木ノ葉に逃亡するには、私はその時点で木ノ葉に実害を与えすぎている。なにしろ木ノ葉崩しの参加者の一人だ。私が平和に暮らすために木ノ葉と交渉するには、そのハンデはあまりにも重すぎる。
以上の問題点から、私が木ノ葉に逃亡するには、木ノ葉崩しの時点で音を裏切り、木ノ葉に加担するのが一番良いという結論が出た。
まず私は、大蛇丸様の弟子になるにあたって忍としての弟子だけでなく、
その後、君麻呂と戦闘し暫く動けなくなるという予想外の事態には遭遇したものの、私は君麻呂との修行の傍ら、術の研究と称して大蛇丸様がいない間にアジトの禁書庫や研究資料、材料を漁って本命のための準備を進めた。
私は呪印を常日頃から意味もなく草笛一族の封印秘術で封印していて、呪印を発動する際には一々その封印を解かなくてはならない。
大蛇丸様はそれを、丸薬を飲まなかった私が、呪印を暴走させないようにするために使っているのだと思っているようだが、実は違う。
この封印は、たとえ呪印に何が施されていようとも私の監視だけはさせないようにするための保護封印だ。呪印のコントロールなんて、私はもう封印術なしでもできる。全ては、私の計画を秘密裏に行うための策でしかない!
そして昨日、遂に計画実行のための全ての材料が揃ったのだ。
ここまで長かった。もちろん。この計画はあくまでもフェーズで言えば1なので、成功したとしてもそこで終わるわけではない。
だけどこの一手は、私の詰んだ人生を巻き返すための重要な神の一指しになることは間違いないのだ。
大蛇丸様がいない、今でしか打てない究極の一指し。
それを今から、実行する。
私は、自室で保管していた封印箱の封印を解き、中から2本の巻物と、ある術を使用するための材料を取り出す。
巻物の1本は、大蛇丸様が長年計画していた『木ノ葉崩し』の計画書だ。既に大蛇丸様の木ノ葉崩しは始まっていて、カブトさんはそのために、木ノ葉の下忍として長期間の潜入任務に就いている。
これは、ある人物との交渉に使う。木ノ葉に亡命するために必要な、交渉材料の1つだ。
もう1本は、その人物と交渉するために必要な巻物だ。この巻物は、大蛇丸様が研究しているある禁術を私が書き写したものだ。この術を使うのに必要な材料を揃えるのに、昨日まで隙を窺うのにとても苦労した。
だが、その苦労も今日で報われる。私はこの2つの巻物で、全てを欺き全てを引っくり返す!
私は計画を遂行するため、材料を鞄に詰め込んで部屋を出る。
巻物に書き写した禁術。
名を、『口寄せ・穢土転生』という。
二代目火影、千手扉間が開発した禁術であり、大蛇丸様が木ノ葉崩し計画までに完成させ、三代目殺しに使おうと目論んでいる死者を復活させ操る禁忌の術。
私には、情報が必要だ。
大蛇丸様を欺くために、大蛇丸様を欺けるような術を覚える必要がある。
だけど、大蛇丸様の下で修行するだけではそれは不可能だ。
私の里の秘術は全て大蛇丸様に教えてしまったし、大蛇丸様から新術を教わっても、それでは大蛇丸様を超えられない。
大蛇丸様を超えるには、大蛇丸様以上の忍から、大蛇丸様以上の術を教わる必要がある。
だけど、そんな人、存在するのか? そんな手段が、存在するのか?
勿論、するに決まってる! 大蛇丸様以上の忍は存在するし、その忍に出会う手段も存在する!
大蛇丸様は何故か木ノ葉崩しの時点で気付いていなかったみたいなのだが、本来『穢土転生』は、情報収集のための忍術なのだ。決して、死んだ強い忍者を操って最強の忍軍団を作ろうぜ! みたいなロマン忍術では無いのである。
もったいない。こんなに便利な術を持っているのに非常にもったいない。
だが、そんなことを大蛇丸様に教えてやるつもりは毛頭無い。
穢土転生の正しい使い方を知っているのは、私だけでいい。
穢土転生を扉間様のように正しく使えるのは、私だけでいい!
呼び出すとも。ああ! 呼び出してみせるとも!
私の記憶する中で、最も実用的で、かつ誰でも習得し得る数々の忍術を開発し、頭が切れ、役に立つ情報をより多く持つ人物。
穢土転生の開発者その人であり、正しい穢土転生の使い方をもって、過去の戦乱の世において誰よりも情報を蒐集した人物。
原作の描写から、写輪眼の生体的性質に気付き、生前の段階で柱間細胞の有用性に気付いていてそれを忍術開発にも応用していた節がある、細胞学のスペシャリスト。
何より穢土転生の秘術をゼロから開発し得るだけの、生体工学や遺伝子工学に関する優れた知識を持つ、君麻呂の病すらをも打倒してくれるかもしれない、この世界で唯一無二の存在!
私の心の師匠にして、私の心の中でのみ、兄上を差し置いて忍の神に位置付けられた、私の憧れの存在!
そんな存在に、手を伸ばせば届く場所にいるのに、チャレンジしないとか、ありえない。
そんなことをすれば、大蛇丸様にバレる? いいや。バレない。断言してもいい。
何故なら大蛇丸様が穢土転生で歴代火影を召喚するのは、木ノ葉崩しにおける三代目火影とのバトルが最初だからだ。
何故なのかは全くわからないが、でなければ、屍鬼封尽で封印された波風ミナトが穢土転生で呼び出せないという事実に、あの瞬間まで気付いていなかったのは辻褄が合わない。
だから、バレない。木ノ葉崩しのその時まで、大蛇丸様は扉間様を穢土転生しないから。
柱間細胞の研究をしていた時点で、その弟の細胞も入手しているであろうことは既に予想がついていた。
だが、何処にあるのかがいまいち分からなかった。それを探し出すのに半年も掛かってしまったが、柱間細胞の保管場所に辿り着くことで、やっと扉間様のDNAマップを手に入れることができた。
大蛇丸様はおっしゃった。自分がいない間は、この実験場と、そこに収容されている実験体を好きに使用してくれて構わないと。
ああ。使わせていただこう。私の計画のために思う存分、好き勝手に。
はははははは! やってやる! やってやるぞ! 今の私なら! 憧れにすら手が届く!
君麻呂のことさえなければもっとハイテンションで実行できたのに、こればっかりは後悔しても仕方が無い。
後顧の憂いを断つためにも、さっさと君麻呂の問題を解決してやらなければ。
大蛇丸様曰く未完成もいいところのこの術は、呼び出された死者が全盛期の足元にも及ばないという問題を抱えている。
ああ、なんて完成された完璧な状態だ。
尊敬する憧れの扉間様を縛り付けようなんて気持ちはもちろん微塵もない。そのために、わざわざ交渉材料として木ノ葉崩しの計画書なんてものを持ち出したのだ。
……でも、もしそれでも交渉が決裂したなら、その時は、仕方無いよね?
自分が最も尊敬する偉大な人物を上から踏みつけにする。そんな妙に背徳感あふれる妄想に少し身体を震わせながら、私はアジトの外に出て、口笛を吹きながら人気の無い森の奥へと歩を進める。
「……ここら辺でいいか」
私は森の中で足を止めると、印を結び、周囲に感知の結界を張る。誰かが来ればこれですぐに分かる。
私は扉間様のDNAマップを写し取った穢土転生の巻物を広げる。そして──。
「ほら。そこに立て」
「い……一体何を……」
──実験場に収容されている実験体。その中でも扉間様と体格の近い男を連れてきて、巻物の前に立たせる。男は既に口笛の幻術で縛っているので、完全に私の制御下にある。
私の計画の、最後の材料。
穢土転生には、
「悪いな。名前も知らない某さんよ。ウチの平和な人生のための、尊い犠牲になってくれ」
にっこりと、精一杯優しい笑顔を浮かべて印を結ぶ。
「ひっ……ひぃぃぃぃ!?」
ざわざわざわざわ! と、男の身体に、何処からか塵のようなものが集まって、その全身に纏わり付いていく。
思えば私も、随分とまあ、人でなしになったもんだ。
全く関係の無い赤の他人を犠牲にすることに特に罪悪感も抱かなくなってしまった私は、もう手遅れなのかもしれない。
──そして、口笛の音が、止まる。
「……おお。これだ。これだよ。これこそが……」
私は、塵によって構成されたその身体を見て、感嘆のため息を漏らした。
逆立てた白い髪。
顔の輪郭を覆うような金属製の額当て。
頬と顎に入った赤いライン状の化粧。
戦乱の世を思わせる、甲冑のような忍装束。
二代目火影・千手扉間。
私が昔、漫画やアニメで見たままのその姿が、今ここに再現された。
ごくり、と、緊張して唾を飲み込みながら、私は口寄せした魂を穢土転生体に縛り付けるための札をクナイに付けて、最後の仕上げを施す。
ずぶり……。と、札の付いたクナイが扉間様のうなじに吸い込まれ、扉間様の身体に血の気が宿っていく。
眼球強膜が黒く染まり、その瞳に生気の灯った真っ赤な光が輝く。
「──…………これは……」
声が──聞こえた。
今、私の目の前には間違いなく、伝説が立っていた。
▼次回につづく。
あーあやっちゃった。遂にやっちゃいましたねあなた。
あの禁忌の術を、やってしまいましたね?
もう、後戻りはできない!後悔してももう遅い!
もはや私は何も言うまい!
次回!お楽しみに!
前書きの一言に対する自問自答。
「あったりめーだろうがよ!これがやりたくてオレァこの話を書き始めたんだ!何のために一話から卑劣様タグ付けてると思ってんだコンチクショー!(やけくそ)」