前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。   作:N-SUGAR

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卑劣様の人気は凄いですね。登場しただけで他の全てを置いてけぼりにしましたよ。軽く嫉妬するレベル。まあ、かくいう私も卑劣様の魅力に抗えない一人ですが。

はい。と言うわけで、vs卑劣様~交渉編~。スタートです。


ここで自分に向けて脳内誰かさんから一言

「卑劣様などと呼ぶな!そこは二代目様でいい!」



第十二話 尋問する側される側。

「……これは、穢土転生か」

 

 開口一番、速攻で自身の置かれた状況を把握したらしい台詞を吐く、二代目火影・千手扉間。

 

 今から数十年も前に亡くなられた、帰らぬ人。

 

 私の憧れの忍であり、実際に伝説の時代の中心を生き抜いた忍でもあり、何より私の抱える全ての問題を解決してくれるかもしれない唯一の忍。

 

 私の生存計画に、欠かせない存在。

 

 そんな帰らぬ筈の彼が今、私の実行した穢土転生の術によって世の理に背き姿を現した。

 

 一目で自身の身体の状態を確認し終えた扉間様は、次にこちらへと目を向ける。

 

 私は素早く、扉間様の前に跪いた。

 

「安らかな眠りを妨げてしまったこと、先ずはお詫びさせて下さい扉間様。私が、貴方を呼び出した者。名を、多由也と申します」

 

 ファーストコンタクトは重要だ。最初に敵意がないことを示し、会話のできる状況を作り出す。

 

 自然な導入と自然な自己紹介で、下手に出ながらも流れを作る。

 

「貴様が術者か……。見たところ木ノ葉の者ではない。何が目的だ?」

 

 流石に、扉間様は話が早い。余計な問答を一切しないままに、すぐに目的を問いただしてくる。

 

 私の目的、それを答えるには、二つの答え方がある。

 

 建前から話す答えと、本音から話す答えだ。

 

 建前というのはもちろん、木ノ葉崩しの計画を失敗に終わらせるための相談というものであり、本音というのは当然、私の生存計画の為というものだ。

 

 表面上の印象は前者の方が良いが、しかし扉間様相手に建前から入る交渉術が通じるとも思えない。

 

 私が少し言い淀むと、扉間様は私が口を開くよりも先に言った。

 

「いや、答えんでも良い。今貴様が何を答えようと信用に値せんからな。ならば状況は、ワシが整える」

 

 え? 

 

 状況を整えるって、具体的にどういう風に? 

 

 いきなり少し予想外の展開に流れが向き始め、私は念のため扉間様の身体をすぐに縛れるよう印くらい構えておこうかなと指を動かそうとする。その瞬間、私の首の辺りに何かが掠めた。

 

 え? 何? 

 

 扉間様、今特に動いた様子も無かったよね? 流石に生前の十分の一も実力を出せないような今の状態で私の目に追えないような動きは出来ないはずだよね? 

 

 つ……と、首筋から液体の垂れる感触がする。

 

 ……これは、血? 何かが首筋を掠めて、掠り傷を? 

 

 私が後ろを振り向くと、私の背後に生えている木の幹に、水で形作られた針が一本深々と刺さっている。

 

 あれは……もしかして、『天泣』? 

 

 予備動作が要らず、チャクラも練らずに発動できると噂の、あの? 

 

 私が君麻呂戦の時にチャクラを練って発動したあれの、本家本元? 

 

 うわぁ、ここまで何も出来ないうちに突然打ち込まれるとか、急所に当たれば初見殺しもいいところだなぁ。流石は扉間様本人の天泣だ。

 

 威力も弱体化しているはずなのにあの貫通力となれば、万全の天泣はもっと凄そうだ。

 

 私は感心しつつも、同時に訝しむ。

 

 でも、だとしても天泣が脅威になるのは、あれが急所に当たればの話だ。

 

 首筋を掠めただけの天泣に……何の……

 

 

 意味……

 

 

 

 

 が……

 

 

 

 

 

 

 あぇ? 

 

 

 

 

 

 何で……意識……

 

 

 

 

 

 

 

 が……? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……な? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 私が目を開けると、私の目線の正面に、扉間様の目があった。

 

 え? なんで? 私、跪いてたよね? 

 

 何で同じ高さの目線に? 

 

 そう思って身体を動かそうとすると、なんと、身体が動かない。

 

 ていうか、足が地面に付いてない! 

 

 私、木に縛られてる!? 

 

 顔を下に向けて確認すると、私の身体は木の幹にワイヤーで、足から肩までぐるぐるに縛り付けられていて、しかもそのワイヤーにはご丁寧に何枚もの起爆札が貼られていた。

 

 私が一瞬でもなにか妙な真似をすれば、問答無用で殺すという意志が垣間見える。

 

「えぇ……」

 

「動きは封じた。()()()()()()()()()()()()()()()()()。ワシの意識を縛りもせず呼び寄せたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 あ、はい。それは思ってました。

 

 私がどんなに対策を講じようとも、相手は穢土転生の術の開発者。当然意識を縛らず呼び寄せれば、場合によっては何らかの抵抗は受けるだろうと思っていたし、最終的には穢土転生の支配を破られてしまうんじゃないかくらいのことは予想していた。

 

 そりゃ開発者だもの。契約解除の印くらい当然知ってるよね。

 

 予想していたけど、ここまで速攻片が付くとは思ってなかった。

 

 そっかー。私って、ここまで瞬殺されちゃうレベルだったかー。

 

 ……納得いかねェ。

 

「あのー。1つ質問いいですか?」

 

「この状況でか? 明らかに尋問する側はワシの方だと思うが」

 

「そりゃしますよ。貴方を尋問するために穢土転生したのは私の方なんですから」

 

「正気か?」

 

「本気です」

 

 私がいたって真面目に答えると、扉間様は一瞬顔を背け、すぐにこちらに向き直る。

 

「……よかろう。冥土の土産になるかもしれないからな。一度だけ、質問を許す」

 

 え? 一回だけしか許されないの? じゃあ、別のこと訊きたいんだけど。

 

 だけど、この際だ。仕方無い。

 

 冥土の土産にするつもりは更々無いし、例えこんな状態にされたとしても交渉を続行できるだけの材料は揃っている。

 

 なら、好きなことを訊いてしまおう。

 

「あの、まず確認したいんですけど、さっき私に撃った術、『天泣』ですよね?」

 

「よく調べているな。その通りだ。それがどうした?」

 

「あの、私が知ってる『天泣』は、あくまで動作やチャクラなしに発動できる不意討ちの術であって、首に掠っただけで行動不能にされるような術では無かったんですけど」

 

「前言撤回だ。あまり調べられてはいないな。その程度しか伝わっていないとは」

 

 ええ……。違うの? いやまぁ、確かに原作のアレは完全に防がれているから、当ったときにどういう効果があるのかまでは全くわからないんだけど……。

 

 追加効果とか、あるの? 

 

 嘘でしょ? 

 

「『天泣』という術はな、速射性と即効性にのみ重点を置いたただの含み針だ。威力は二の次で、ただ不意討ちで当てることにのみ重きを置いている」

 

 そこは知っている。威力も十分あると思うけど、とにかく暗器としての性能が重視されることは、少し術を使えば誰でも分かる。含み針は、そもそもが武術や忍術の実践においてよく知られる技術であり、本来は至近距離で口に含んだ針を敵の目などに飛ばして怯ませる技だ。それを針ではなく水で代用できるというところに、『天泣』の強みはある。

 

 ただ、速射性は分かるが、即効性? 

 

 そこだけ、何か違和感を感じる。

 

「そもそも『天泣』の使い方は、口の中に予め一定量の水分を仕込んでおき、それを針状の形に整えて吹き出すというものだ。言うなら含み針と毒霧の合せ技だな。少し技術は要るが、訓練を積めば誰でもある程度はマスターできる。分類としては、体術・手裏剣術に該当する」

 

 いやいやいや。どう考えてもそういうレベルじゃないでしょ。少なくともチャクラを全く使わずにそれをやるのは扉間様でもないと無理だよ! 

 

 そう思う私を尻目に、扉間様は、いよいよ決定的な部分を説明する。

 

「口の中に水分を仕込む。では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 勿論、問うまでもなく、これは有った方が良いだろう」

 

 いや、うん。全くその通りだけど……。

 

「暗器としての含み針に当然毒を仕込むように、『天泣』もまた、毒を仕込む。忍にとっては常識だが蛇毒を始めとしたタンパク質を主成分とする毒は、胃酸や酵素によって分解されるため経口摂取する分には害の無いものだ。無害とは言わんがな。含み針には、そういう毒を使用する」

 

 聞いたことはある。蛇毒に代表される出血毒、神経毒、筋肉毒は、タンパク質やアミノ酸を主成分とするために、噛まれれば致命傷になるが、飲んだり食べたりする分にはそこまでの害は無いという話。

 

 マムシ酒など、蛇の毒を利用したお酒は存在するし、蛇毒を抽出した麻薬も存在する。インドなどでは、蛇毒を摂取する文化も存在し、飲酒の代わりにもなるという。

 

 忍者というものの性質を考えれば、扉間様の言っていることは至極当然のことでしかない。当然のことでしかないが……。

 

「それで……、蛇毒を私に吹きかけたと?」

 

「いや。殺すつもりならそうしても良かったが、今回は殺すつもりは無かったので普通に調合した痺れ薬を使った」

 

「いつ調合したんですかそんなもの!」

 

「死ぬ前だが?」

 

 死ぬ前て。いや、分かる。言ってることは分かる。

 

 穢土転生は術の性質上、身体の構成時に死ぬ直前に身に付けていた衣服や道具も一緒に再現される。

 

 つまり。

 

「扉間様は、死ぬ直前まで口の中に複数の毒を仕込んでいたと?」

 

「死ぬ直前というか、普通に四六時中仕込んでいるな。こんなもの、何時使うかも分からないし」

 

 うわぁ。

 

「うわぁ……」

 

 思わず声に出た。

 

「何を引いておる! 忍ならば当然の心構えであろうが!」

 

 勿論分かる。忍びたるものいつ何時にも備えを怠ってはならない。扉間様のしていることは忍者として最も基本的かつ模範的な当たり前のことだ。

 

 だが、その当たり前のことを実際に常日頃日常生活のあらゆる場面で実行できる忍が一体何人いるだろうか……。

 

 徹底した合理主義。常に準備を怠らず、忍としての本分を全うする。

 

 これが、千手扉間か……。

 

「貴様の質問はそれで終わりか? ならば、次はワシの番だ」

 

 そう言うと、扉間様は私の頭に手を翳す。

 

「わ……私に何をするつもりでしょうか……」

 

「いちいち質問が多いの。まぁ説明くらいはしてやる。その方がやり易いからな」

 

 扉間様の翳した掌に、チャクラが溜まっていく。

 

「貴様は穢土転生の術を身に付けたのだから、当然のその性質は知っておろう。死者の魂を呼び寄せ、塵の身体に縛り付け、専用の札で一方的にその魂を制御する。分かるな?」

 

「……はい」

 

 私が答えると、チャクラの溜まった掌が、私の頭にぽんと置かれる。

 

 あ、なんかあたたかい。ほわほわした気分になってきた。

 

「死者の魂を縛る術式。そんなものを作ったのだ。それができるのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 わぁー。そっかー。そうだよねー。別に、魂の本質は死者だろうが生者だろうが変わらないもんねー。

 

 なんだか頭がぼーっとしてよくわかんないけど。

 

「今からワシと貴様の間に、ワシに逆らえない、嘘は吐けないという契約を結ぶ。術式に逆らえばその拘束力は弱まるが、まさかこの状況で抵抗はしないよな?」

 

「ま……まさかー。するわけないじゃないですかー! 私は最初から扉間様に絶対服従ですよー!」

 

「……ワシを尋問しようとはしてたくせに、その態度にあまり嘘がなさそうなのはどういう了見なのだ?」

 

 どんな手段を使っているのか知らないが、私が嘘をついているかどうかを扉間様は見分けられるらしい。いや、それはいいのだが……。

 

 不味いな。扉間様に逆らう気なんて元々そんなに無かったけど、絶対服従で何もかも洗いざらい喋らされるのは困る。この世界の未来に関する情報まで抜かれるのは、最悪良しとしても、その結果私が別世界からの転生者だと分かれば、話が拗れかねない。

 

 人生でその片鱗を隠し通し、大蛇丸様にさえ一切バレなかったその事実を、看破されかねない。

 

 やばい。それはちょっと困る。

 

 それを話さなくても交渉できるように材料を持ち出したのに、全ての努力が無に帰してしまう。

 

 でも、扉間様ならいいのかな……。

 

 もう全てを吐いて、楽になってしまおうかな……。

 

 心地の良い感覚が脳内を支配しものを考えることもめんどくさくなってきた私の耳に、扉間様の卑劣な美声が届く。

 

「『忍法・操心魂縛りの術』」

 

 うわぁ、術名からして私を生きた傀儡にする気満々だよこの人。心を操って魂を縛るって、もうそれ全部掌握してるってことじゃないですかやだー。

 

 ていうか、マジで呼び出した当初と関係が真逆になってる。

 

 これじゃ私が穢土転生された方みたいじゃないか! 

 

 私がそう思っていると、扉間様は私の頭から手を離す。どうやら術式の処置が終わったらしい。

 

「これで基本的に、貴様はワシに逆らえん。無理に逆らおうとしたり嘘を吐こうとするとチャクラが乱れるからすぐにそれと分かる。では、尋問を始める」

 

 うわぁ、どうしよう。これって地味に私の人生最大規模のピンチじゃないの? 

 

 しかも、転生者バレするかもしれないような危機って、もしかして人生初じゃね? 

 

 頭がボーッとする。恐らくこの術式は、私の判断能力を鈍らせた上で魂を縛り、本能的に誘導に逆らえないようにしたあげく、それでも抵抗しようとすればすぐそれと分かり何らかの手を更に加えるといった一連の手順が完成されている術だ。扉間様が弱体化しているとはいえ、一度これに嵌められたら、逆らえる者は余りいないだろう。

 

 精神支配術、それに、幻術の要素もプラスされてる。

 

 ……うん。無理だな。諦めよう。

 

 もう、全て流れに身を委ねよう。

 

「まず、貴様の目的から聞こうか。貴様、なぜワシを呼び出した」

 

「ウチが扉間様を呼び出したのは、ウチの詰みまくった人生を打開し、死の運命から逃れ生き延びるための手段として、扉間様が絶対に必要になると……思ったからだ」

 

 うわ。口調が素になってる! 建前がまったく通じそうにない。この術本当に全部洗いざらい引き出されそうな勢いなんだけど! 

 

 どうやら内心は封じられていないようだが、逆に内心が封じられていないことによって心が焦り、更にたちが悪くなっている気がする! 

 

 つーかこの感じ、私の内心の焦りまで読み取って情報の重要度を量ろうとしているようにも思えるんですけど! 

 

 卑劣! あまりにも卑劣だよこの術! 

 

「貴様がどれだけワシを卑劣と呼ぼうと構わんが、ワシはやめる気は無いからな」

 

 しかも内心まで読み取ってやがるぅ──ー!! 

 

 なんだこれ! なんだこれ! もう恥ずかしいとかそういうレベルじゃないぞ!? 

 

 てゆーか、どこからだ!? このゲスヤローどこから内心を読み取ってやがった!? 

 

 場合によってはおま……これ……え!? 

 

 大丈夫かこれ!? 

 

「取り敢えず、貴様が別世界からの転生者であり、こちらの世界の未来をある程度把握しているということは分かった。あくまで貴様の中での真実というだけだが、まあ、取り敢えずはその前提で質問するとしよう」

 

 最初からだった────!! 

 

 そ、即バレした……だと!? というかコイツ術名言う前から既に術掛け始めてたんじゃねーか! 

 

 なんという高度なトラップ! ていうか、改めて考えて内心まで読み取るとかそんなのありかよ……! 

 

「ありに決まっている。山中一族の心転身の術の応用だ。人の内心に触れるのは、そこまで難しいことではない」

 

 なあるほど! 山中一族の心転身の術の応用! 自身の精神エネルギーをこちらの精神エネルギーに干渉させているのね! って、納得できるか! 

 

「術の概要を既に掴み始めているではないか。なかなか飲み込みが早い。それに、世界の情報をある程度把握しているという話にもこれで少しは信憑性が出てきた」

 

 うーわ。話の流れに無駄がねー。やけに素直に術のことを教えてくれると思ったら、こちらの情報力の確認までしてやがったのか。

 

「さて、ではそこを踏まえて、貴様の未来とそれに関する計画、そこに何故ワシが必要なのかを、洗いざらい吐いてもらおうか」

 

 扉間様の尋問には本当に無駄が無かった。

 

 私はあっという間に、私の全てを引き出された。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「……木ノ葉崩し。なんと下らん計画か」

 

 私の鞄から取り出した木ノ葉崩しの計画書を読みながら、扉間様はため息を吐く。

 

「この大蛇丸とかいう忍。サルの弟子の癖に根本的な部分で忍という存在を勘違いしておるな。術を追究するばかりでは忍の本分は掴めんというのに……。呆れてものも言えん」

 

「は……はあ」

 

「お主が何かをしなくとも、木ノ葉崩しは失敗に終わる。そうだな?」

 

「おっしゃる通りで……」

 

「だが、それだと間違いなくサルは死ぬ……か」

 

「はい……。このままだと間違いなく」

 

 うわーん! どうしよう! 木ノ葉崩しの顛末なんて話す予定じゃなかったのに! 

 

 計画だけ話してその対応策を提示して、扉間様を乗り気にさせる手筈だったのに! 

 

「内心が読み取れると言っておるのに随分と好き勝手なことを考えるな貴様。それはわざとか?」

 

「もうなに考えてもどうせバレるんだから隠したって仕方ないじゃないですか」

 

「開き直るの早いなお前。もういい。貴様の内心は十分分かった。心転身の部分は解いてやる。その分リソースを他に回せるからな」

 

 これ以上どこにリソースを割こうって言うんだろうか……。

 

 まあ、いいや。解いてくれるって言うなら是非もなし。

 

 やったぜ! 

 

「やったぜ! じゃないわ! 少しは殊勝になるということを覚えろ!」

 

「わー! 何まだ心読んでんだよ変態! スケベオヤジ! 言ったことはちゃんと守れよなー!」

 

「この……! 子どものような容姿をしていても中身は大人であることは既に分かってるんだからな! 少しこちらが譲歩したからと言ってあまり調子に乗るなよ!」

 

「えー。そんなどこぞの小学生名探偵みたいなことを言われましても」

 

「ええい! ワシの知らん世界の知識で煙に巻こうとするな! 貴様の暮らしていた世界などワシにとってはどうでもいいのだ。肝要なのはこの世界。ひいては里の行く末よ!」

 

 クックック……。せいぜいイラつくがいい! だが、合理主義の化身たる扉間様が私というイレギュラーの存在を知ってしまえば、その有用性に気付かない訳がない。

 

 扉間様は、もうウチから逃れることは出来ない!! 

 

「なんだか良からぬことを考えてる顔だの。この分なら内心を読まなくても大丈夫そうだ」

 

 何故バレたし……。

 

 だが、全てがバレてしまったのは明らかに計画外だが、しかしそれでも利用のしようはある。

 

 ある意味確定している未来と言うのは、それを変えるという形で交渉に利用できる! 

 

「とにかく、分かったでしょう。木ノ葉崩しだけでも、猿飛ヒルゼン様の死、ダンゾウの裏工作! 他にも、九尾復活事件やそれに端を発するうちは一族の諸問題! そして黒幕たるうちはマダラ! あなたは二代目火影として、次世代にちゃんと火の意志を残せていると言えるのでしょうか!」

 

「部外者がグチグチと……。だが、否定はできん。特にダンゾウの問題は闇が深すぎるな……。あれだけ感情を抑えサルとの私的な争いは控えろと口を酸っぱくして言ったのに、意味を取り違えた上に話の前提が間違っているとは……。しかもその上でサルへの対抗心が拭えてないとか、もう、なんなんだ……。どうすれば良かったんだ……」

 

「取り敢えず、ヒルゼン様との公的な争いも控えさせるべきでしたね」

 

「どうでもいい! 言葉の綾でしかないし根本的な解決になってないわ!」

 

 私に怒鳴られても困る。こればっかりは完全に扉間様の伝え方が悪かったのだ。

 

 他の失敗に関してフォローはできてもダンゾウに関してだけは、扉間様の感情の読みが甘かったと言わざるを得ない。

 

 まあ、それもダンゾウ自身の責任と言ってしまえばそれまでなんだけど。

 

 扉間様は何かを考えるように黙りこむ。

 

 というか、気付けば『操心魂縛りの術』の効果が大分弱まってる気配が有るのだが、これは術の効果が普通に切れかかっているのかそれとも敢えてそうしてるのかどっちだ? 

 

 まぁ、敢えてそうしてるんだろうなぁ……。

 

「……わかった。本来ならば、その生涯を既に終えたワシが、今更里に口を出すべきことなど何もないと一蹴するところだが、ワシのやり残しがあったというのは認めよう。貴様の思惑や、それにワシが乗ることのメリットも分かった。確かに大蛇丸とかいう危険分子を無視することはできんし、ダンゾウの再教育の必要性も感じる。なにより、マダラをこのまま野放しにしておくわけにはいかん!」

 

 お? なんか、話がうまい方向に進んでる感じ? 

 

 私が期待の籠った目を向けると、扉間様はこちらを鋭い目線で睨み付ける。

 

「だがそれと、貴様をワシが信用できるかという問題は別だ。お前は結局のところ、自分の利益でしか物事を考えておらん。お互いの利害が一致する内は良いが、利害が対立したとき、貴様は今音を抜けようとしているように、木ノ葉を抜けようとするだろう」

 

 ぐぬ……。せっかく上手くまとまりそうな流れだったのに水を差しやがって……。

 

 完全に否定はできないのがとても悔しい。

 

「貴様の計画通り、木ノ葉崩しに干渉することには協力しよう。だが少なくともワシは、貴様が木ノ葉に亡命するための手伝いなどせんし、貴様が逃げ延びるための強さを得る手伝いもせん。それは、自身の努力と研鑽で賄え」

 

 ぐぬぬ……。それじゃあ扉間様を穢土転生した意味の八割が消失するじゃねぇか……! 扉間様が木ノ葉崩しに干渉すれば、確かに大蛇丸様の隙は作りやすくなる。だが、あまり無節操に干渉されれば容易に未来が変わりかねないし、何より扉間様のコネがなければ無事に亡命できる確率は大きく低下する。木ノ葉隠れの里だってバカじゃないのだ。いきなり他里の抜け忍が匿ってくれと言ってきたって、まずはスパイを警戒するだろう。

 

 何か……何か材料はないだろうか。

 

 何か……くそ! 何も思い浮かばねぇ! もう、材料らしい材料は全部扉間様に知られてしまっている! 

 

 何も……ないのか? 

 

 ちくしょう……。

 

 それに、このままでは……。

 

「君麻呂……」

 

「ん? なんだ? それは」

 

 そうだよ。それに、君麻呂のことを、扉間様にお願いしなきゃいけないのに……。

 

 ただでさえ不利なこの状況で、更に不利になるようなことをお願いしなくちゃいけないのに……。

 

 私は考える。

 

 どうすればいい? 

 

 他の交渉のことなんざ、この際どうでもいい。

 

 君麻呂の病気だけでも治してもらえるように、何か、交渉を……! 

 

 どうする? 

 

 何がある? 

 

 分からない。

 

 分からない。

 

 分からない! 

 

 だけど、やらなきゃならない。

 

 こればっかりは、絶対にやり抜かなくちゃならない。

 

 何が駄目になろうとこれだけは……。

 

 こんなところで交渉終了なんて……してたまるか! 

 

 私は、動けない身体を精一杯前に乗り出して、扉間様に訴える。

 

「扉間様! お願いしたいことが、あるのです!」

 

「何? この期に及んで更に要求を追加してくるだと? どこまで面の皮が厚いのだ貴様は」

 

 呆れてものも言えないような目で、扉間様は私を睨め付ける。知るか。扉間様が何を思おうと、こればっかりは、譲るわけにはいかないんだ! 

 

 あきらめるわけには、いかないんだ! 

 

「こ……この願いが叶うのならば、私は代わりに扉間様に全てを差し出します! あらゆる条件を飲んでも構いません! 完全に扉間様に服従するだけの人形にしてもらっても構いません! ですからどうか! 話だけでも聞いてもらえないでしょうか!」

 

「む……」

 

 結局、私にできることと言えばただ真正面から扉間様にお願いしてみることだけだった。

 

 だが、私の言葉に何かを感じ取ったのか、扉間様の目が真剣なものになる。

 

「聞くだけは聞いてみよう。なんだ?」

 

「……君麻呂という名の、私の……ウチの友を、助けていただきたいのです!」

 

 私は、扉間様に君麻呂の事情の全てを話す。

 

 私と君麻呂の関係。

 

 君麻呂の人となり、事情。

 

 君麻呂が大蛇丸様の器の候補であるということ。

 

 君麻呂が大蛇丸様に心酔していること。

 

 君麻呂が重病で、恐らくもう先は長くないということ。

 

 それでも私が、君麻呂を助けると誓ったこと。

 

 君麻呂との約束を、私が勝手に果たしたいとただ、そう思っていること……。

 

 君麻呂が回復したら、もしかしたら彼は木ノ葉の脅威になるかもしれないこと……。

 

 全てを、本当に全てを包み隠さずに、曝け出した。

 

 私が懸命に語っている間、ただ黙って話を聞いていた扉間様は、私が語り終えると、口を開く。

 

「……よくもまあそんなことを、ぬけぬけとこのワシに頼もうと思ったものよな」

 

 はぁ。と、扉間様はため息を吐く。やっぱり、ダメか……。

 

 そりゃそうだ。ダメに決まってる。何の交渉材料も無いのに、こんな一方的に木ノ葉の里に不利なことを、扉間様が飲んでくれるはずもない。

 

 わかってたさ。

 

 わかってた。

 

 だけど……。だけど! 

 

「君麻呂が……。木ノ葉の脅威になるような時は、ウチが全力でそれを止めます。この命に代えても、ウチが一生木ノ葉の奴隷になることになっても! 絶対に! 木ノ葉の者達に手は出させません! ですからどうか! 他に何もなくていい。これだけは、この願いだけはどうか! 聞き届けて下さいませんでしょうか!」

 

 私は、縛られた状態のまま、頭を下げる。

 

 ずるりと……、音隠れの額当てが、地面に落ちた。

 

「お願いします……。どうか……。ウチはいい。ウチのことはどうでもいいんです……。君麻呂を……。君麻呂の命だけは……、助けてくれはしないでしょうか……」

 

 どうか……。どうか……。と、私は何度も繰り返す。こんなことしか出来ない自分がもどかしい。だけど、自分に今できることはこれだけだから、無理だとわかっていてもやるしかない。目から零れ落ちる水が邪魔で、鼻に水分が詰まってきて、声が小さくなっていくが、それでも構わずに、何度も、何度も……。

 

 扉間様は、そんな私の姿を黙って観察していた。

 

 目線がこちらを向いているのは分かるが、頭を下げている私には、扉間様が今どんな顔をしているのかは分からない。

 

 だから私はただ、願い続けるしかない。

 

 どうか、どうかお願いしますと、言い続けるしかない。

 

 どれだけの時間、そんな状態が続いただろうか。

 

 声がかすれて、もはや扉間様に私の声が届いていないんじゃないかと思い始めていたその時、漸く、扉間様が口を開く。

 

「お前が本気でそれを言っていることは、よく分かった」

 

 感情を抑えた声が、私の耳に届く。

 

 私は、まだ、お願いしますと言い続けている。

 

「当然、ワシの立場としてはその願いを聞き届けるわけにはいかん。どう考えても里に百害あって一利なしだ。無理な願いだ。何の対価も用意できん小娘の戯れ言として、聞き流すのが筋だ」

 

 ダメなのか……。そりゃあ、そうだろうなぁ……。

 

 分かってた。

 

 でも、だめなんだ。駄目だとわかっても、それでも、やめるわけにはいかないんだよ。

 

 一度決めたことなんだ。

 

 最後までやり抜かないと、私の存在理由が、消えちゃうんだ。

 

 生きる価値って、多分そういうものだと思うから。

 

 譲れないところを譲ってしまったら、私はもう私ではいられないから。

 

 最初は、ただ生き残ることを自らの使命として課した。それは、今でも変わらない。

 

 だけどそれはもう、第一の使命じゃない。

 

 気付いた。今、気付いてしまった。

 

 ああ、私って、こんなに君麻呂に生きて欲しかったんだ。

 

 出会って、まだ半年しか経っていない。最初は、命を狙われた。

 

 でも、一緒に修行して、仲良くなって、温泉で、裸まで見せてしまって……。

 

 君麻呂の、本音のようなものを見てしまって。

 

 命を救われて、命を救えなくて……。

 

 あぁ、本当に、駄目だなぁ、ウチは。

 

 全然合理的じゃない。君麻呂を救うなんて、ウチにとっても百害あって一利なしだ。

 

 歴史は変わるわ、扉間様との交渉も出来ないわで散々だ。

 

 でも、そうじゃないんだよな。

 

 君麻呂が、そこに居てくれるだけでいいんだ。

 

 それだけで、ウチにとっては他の何よりも価値があるんだ。

 

 こういうのって、何て言うんだろうな? 

 

 恋……とも、少し違う気がする。

 

 分かんねーや。

 

 ああ、でも、駄目なのかな。

 

 ここで、終わりなのかな。

 

 結局は無駄だったのかな。

 

 でも、諦められないよなぁ。

 

 ブツブツと、もはや声にもならない声で、それでもどうかと言い続ける私に、扉間様は重々しい声色で

 

「守り抜きたい者。それを生命を賭して守り抜き、命を繋げる。そういった想いの集合をなんと言うか、お前は判るか?」

 

 と、問うた。

 

 ……わかんねーよ。そんなの。

 

 今、考えたけど、わかんなかったんだ。

 

 それでも、敢えて言うなら、なんだろうな? 

 

 

 

「…………愛?」

 

 

 

「そうだな。一言で表すならば、そうとも言えるだろう」

 

 私の絞り出したかすれ声に、扉間様は同意を示す。

 

 そして、更に続ける。

 

「愛。そのようなものを胸に抱き、次へ次へと繋げていく。皆がそれぞれの意志を持って、次に繋げたい愛を、伝えていく。お互いがお互いを守るための、平和に暮らすための意志であり、自分達の平和を守り抜くための決意の意志でもある。そのような積み重ねを次世代に残すため、敢えて形のなかったその意志に、我々は名前をつけた。

 

 

()()()()

 

 

 とな」

 

 

 私は、顔を上げた。

 

 涙で霞む視界に、なんとかその像を結んだ扉間様の顔は、強面な顔に似合わず優しく微笑んでいた。

 

「さて、所属する里こそ違えどそこまでの『火の意志』を見せつけられて、何もしないでは()()の火影としての立場が無くなってしまう。兄者にも、里を守るため散ったという偉大な四代目にも、今もなお里を支え続けるサルにも顔向けができんというものよな」

 

 扉間様は言う。呆然とする私の頭を撫でる扉間様の手は、この上なく柔らかいものだった。

 

 なんだ? 

 

 今、何が起こってるんだ? 

 

 わからない。

 

 頭がぼーっとする。

 

 これは、何かの術の効果では……ない……のか? 

 

 ずび……。と、呼吸をしようとして、鼻が詰まっていることを思い出す。

 

「もちろん条件はある。お主がその宣言通り、たとえ死んでもその君麻呂とやらが里に仇なすのを食い止めるのがまず1つ」

 

 扉間様は人差し指を立てる、次に

 

「そして2つ。お主には、その君麻呂を完膚なきまでに止めてもらうのに強くなってもらう必要が有るが、残念ながらオレは、火の意志を継ぐに足る里の者にしか、己の技を叩き込むような真似をするつもりはない」

 

 だから、と、扉間様は中指を立てて二つ目の条件を述べる。

 

「お前はこれより、オレの名の下に木ノ葉の忍となれ。木ノ葉の忍として、木ノ葉の里を守る盾となり、木ノ葉の里のためにその力を振るう矛となれ。君麻呂とやらをどうするかはお前次第だが、少なくともオレの手解きを受ける以上は、お前が木ノ葉の忍以外であることなど断じて認めん!」

 

 喝破した。チャクラを練っている様子もないのに、風が吹き、緊張感が私の頬を掠める。

 

「以上がオレの出す条件だ。異論は認めん。さあ、これをどうする? 音隠れの多由也」

 

 初めて、名前を呼ばれた。

 

 プツリと糸の切れる音がして、私の身体を縛り付けていた拘束が外れる。

 

 ドサリ! と、私は思わず尻餅をついてしまうが、すぐに、姿勢を正して、扉間様の前に跪いた。

 

「ち……誓います! 私は、君麻呂には木ノ葉に手を出させません…! そして、私は今この時より二代目火影・千手扉間様の名の下に、未来永劫木ノ葉隠れの里の忍となることを、約束します!」

 

 願ってもない条件。完璧すぎる交渉結果。開かれた生存への道。

 

 だけど、そんな結果を手に入れた私の心に、勝利の感慨なんてものは微塵も湧き出てこなかった。

 

 よかった……これで……君麻呂も……。

 

 私の胸中を占める感情は、ただただ純粋な、安堵だけだった。

 

 

 よかった……。

 

 

 本当に本当に……、よかった……。

 

 

 

 

 

 ▼次回につづく。

 

 




※注意・あとがきの温度差。









▼この下からあとがきです。



うわぁ…。としか言いようがない。そんな気持ちです。

だって扉間様…。作者的には、あんたが多由也の転生事情知ってもらうと困るんですけど…。あんた何勝手に看破してるんですかね…。こんなつもりじゃなかったんですけど。なにその術、私知らない。

はい。私の中でキャラが勝手に動くというのはよくあることなのですが。それにしても今回はあんまりでした。泣きたいのはこっちだ。でも、扉間様だから仕方ないね☆

さて、私事なのですが、日常生活の方が忙しくなってきまして、執筆時間があまり取れなくなってきました。投稿ペースがもしかすると大分落ちてしまうかもしれません。というか、もう落ち始めています。

それでもこの話は頑張って書き続けようと思っておりますので皆さんどうか、気を長くしてお待ちいただければ幸いです。



ここで突然のミニコーナー。「質問、扉間様」

Q.なんで「正気か?」「本気です」の時に、一瞬顔を背けたの?

A.ちょっとツボったから。


Q.なんで『操心魂縛りの術』を段階的に弱めたの?

A.表情や感情の起伏があった方が内面を読み取りやすいから。+多由也相手の場合ある程度譲歩することで口が更に軽くなり未確認情報を溢しやすくなると思ったから。+感情の本気度を正確に量る方にチャクラを割きたかったから。

「質問、扉間様」終。


まあ、何はともあれ良かったね多由也ちゃん。これで人生楽勝モードだね?

少なくとも、今はな?

と、言うわけで、次回をお楽しみ下さい。


前書きの一言に対する自問自答。

「あ!二代目の顔岩のおっちゃん!」
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