前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。 作:N-SUGAR
ここで自分に向けて一言。
「話が終わるぞそれ」
「では、契約を結ぶか」
扉間様の前に跪き、木ノ葉の忍として生きていくことを誓った私に扉間様は言った。
「へ? 契約?」
君麻呂を助けるための第一歩を踏み出せた安堵から少し頭が働かなくなっている私は、扉間様の言葉の意味が分からず単語を繰り返す。
いや、多分万全の状態でも扉間様の狙いをすぐに理解するのは不可能だっただろうけど。
「そう。契約だ」
扉間様は頷く。
「お前が木ノ葉の火の意志を継ぐに足る人間性を持っていることは理解した。利害も一致している。お前の望み通り木ノ葉の忍として協力するに十分だと判断はした。だが、それとお前が将来木ノ葉を裏切るかどうかの信用は別問題なのでな。契約で、縛らせてもらう」
えぇ……。契約で縛るって、つまり何らかの術を私に施すってことだよね?
「それって、ウチのことを全然信用してないってことじゃないですか」
「平たく言えばそうだ。オレがお前に信用している部分が有るとすれば、それはお前の君麻呂とやらにかける想いだけだ。まさか、それだけで自分の全てを無条件で信用しろ等とは言わないよな?」
いや、まぁ、それは確かにそうだけども……。
それ、言っちゃうんだ。つまり、さっきの涙を流して懇願する私と扉間様のカッケー台詞の応酬は、二人の絆が深まった的なイベントでは別になかったのか。
なんか、それは微妙な気持ちになるなぁ……。
「なんだか面白くなさそうな顔をしているが、まさか契約を結びたくないと?」
「いや結ばないって訳じゃないんですけど、さっきの、私のことを認めてくれた的な雰囲気からいきなり落とされると、ちょっとショックというかなんというか……」
「別に、お前のことを認めていないわけではない」
扉間様はため息を漏らしつつ私の言葉を否定する。
「お前が打算だけで動く人間でないということが分かったからな。協力者として、オレが手を組む相手としてお前は相応しいと認めている。認めているが、それはそれとして保険をかけておくに越したことはない。それだけのことだ」
それだけですか。そうですか。
うーん。この合理主義者。やっぱり一筋縄じゃ行かないなぁ。
「それで、契約ってのは、何をするんです?」
扉間様の話す契約とやらにろくなものがある気がしない。
そこまでひどいものではないと祈りたいが、果たして……。
「何、簡単だ」
扉間様は、掌にまたチャクラをためつつ説明する。
本日二回目のその体勢に、やっぱりあまりいい予感はしない。というか、嫌な予感しかしない。その体勢から前に掛けられた術がエグすぎて信用できない。
「お前の脳に直接呪印を刻む。お前が木ノ葉の里に叛意を持ち、それを実行に移した瞬間お前の脳神経を焼き切るというものだ。その呪印を刻めば晴れて貴様は木ノ葉の忍として、オレの指揮下に入る」
「脳!?」
脳ですと!? 大蛇丸様でさえ首筋なのに!?
しかも、脳神経を焼き切るて!
案の定ヤバい術な上に絶対掛けられたくないんですけど!
「それ、脳じゃないと駄目なんですかね!?」
「当たり前だ。呪印の本体が目に見える場所についていれば、貴様の首筋にあるそれと同様に封印術で簡単に効果を縛れてしまうからな。呪印を施すのなら目に見えない場所に封印対策を施しつつ掛けるのが基本だ。具体的には、呪印本体を対象とする何らかの制限を検知した瞬間にも、呪印は即座に貴様の脳神経を焼き切る。条件は複雑だが、その分効果は単純だ。あらゆる全ての術の発動前に、呪印はその効果を発揮するだろう」
「ひぇっ……」
「心配せずともお前が余計なことをしない限り呪印は発動せん。例えば敵に操られて無理やり……何てことにはならぬよう、ちゃんと発動条件はお前の意思とお前のチャクラ、その両方を検知した瞬間に限定してある。そのために態々脳内に呪印を施すのだ。まぁそれだと、他人に解除されてしまう可能性もあるので解除されればオレがそれと分かるようにはしてあるがな」
いや、それを聞いてああ安心したってなると思ったら大間違いだからな? 脳神経を焼き切るってだけでこっちからすれば十分アウトなんだよ。
なんというゲスヤロー。何でこの人ってやることなすこと一々鬼畜なんだ。そりゃあ、術の合理性と有用性は認めるよ? 私はちゃんと尊敬はするけど、でもドン引きも同時並行なんだからな?
す……。と、無造作に私の頭に差し出される扉間様の掌を、私は思わず避けた。
「おい。なぜ避ける」
「いや、あの……。逆らう気は無いんです。微塵も無いんですよ? でも、流石に命に直結する爆弾を脳に埋め込まれるというのはちょっと……」
「大丈夫だ。脳神経を焼き切ると言っても、死ぬまでのことにはならん」
「え? そうなんですか? それならまぁ……」
「ただお前が自分で物を考えることの出来ない木偶人形となるだけだ」
「それを世間一般では植物状態って言うんだよゲスチンが!」
「……植物? 兄者のことか?」
「違うわ! ボケてんのかジジイ!」
「そうだな冗談だ。植物状態くらい知ってる」
えぇ……。この人冗談とか言うタイプなの?
それに冗談を言うにしてももっとタイミングってもんがあるでしょ。ちっとも笑えないんだけどそのジョーク。
というか、慌てた勢いでうっかり扉間様相手におもっくそ罵詈雑言浴びせかけちゃったんだけど、そこには何の反応もしないのかよこの人。
私が思わず口を押さえると、その動作で私の思考を察したのか、扉間様がニヤリと笑う。
「フン、今更失言に気付いたのか。貴様、態度を使い分けることはできても咄嗟に本性が出てしまうようだな。忍たるもの常に冷静たるべし。どうやらまだまだ修行が足らんらしい」
「う……ウチの本性の方は既に見抜いておいでで?」
「あれだけ漏らしておいて見抜くもなにもなかろう。なんならお前から情報を聞き出す間何回お前が内心でオレのことをゲスチン呼ばわりしていたか教えてやってもいいぞ」
「すいませんでした! 勘弁してください!」
このクソジジイ! インケン過ぎるにも程がある!
私が懲りずに内心で悪口雑言を大量生産していると、扉間様はまたもやため息を吐く。
「大体なお前、さっきの自分の発言を思い出してみろ。君麻呂を助けるためなら自分の全てを差し出すと言ったのはお前自身だろうが。その約束はどうした」
「あー……。いや、あのですね。……はい。そうですね……」
うっわどうしよう。めっちゃ痛いところを突いてきやがった。
そうだよなー。そうなんだよなー。言っちゃったよなーそういうことをなー。
そりゃ、本心で言いましたよ? 君麻呂のためなら命も惜しくないって本気も本気で思っちゃってたからそんな大それたことも言っちゃいましたよ?
でもほら、それってその場の勢いもあるって言うか、言葉の綾って言うか、いざ冷静に考えるとやっぱり自分の命も大事って言うか……。
「あのほら、あれですよ。全てを差し出すとは言いましたけど、命を差し出すとは言ってないみたいな……」
「いい加減にしろ」
がっしりと、顔面を掴まれた。
あまりにも鮮やかな、目にもとまらぬ早業だった。
「いたたイタイいたいイタイ!! ちょっと扉間様! 10歳の幼気な女の子相手にアイアンクローかますとかマジあり得ない!!」
「マジあり得ないのは貴様だ多由也。お前も忍ならさっさと腹を括れ。オレは殺すと言ってるんじゃない。裏切ったら殺すと言ってるだけだ。それとも何か? 貴様には木ノ葉を裏切る予定があると?」
「ないです! ないですけどやっぱなんか怖い! そして顔面が痛い!」
「顔面は痛くない。痛いのは頭の中だ」
「それもっと駄目なやつじゃねーか! 術掛けてるってことじゃねーか!」
「一々うるさいぞ。忍ならそれくらいの痛み耐え忍べ。そして、今はもうどこも痛くないはずだ。何故なら術を掛け終えたからな」
「い──や──!! 痛いよりもいや──!!」
や……やられた……。これが扉間様の卑劣な罠か……!
なんだかいい感じの言葉でこちらの心を安堵で解きほぐしたら即座に脳に爆弾埋め込んで縛り付けてくるとか、人間のやることじゃない!
「それが子ども相手にやることか!?」
「オレは貴様が子どもだとは思っておらん。身体に精神が引っ張られるのかは知らんが、前世の記憶持ち、それも合計30年は生きてるとなれば考えるまでもなくもう立派な大人だろう。このオレが見た目で絆されるような人間だとは思わないことだ」
「いやそれは全く思ってないですけど」
「即肯定されるのも腹が立つな。貴様がオレの何を知っているというのか」
メンドクセー! このじーさんマジでメンドクセーんだけど!
そりゃ、漫画やアニメで見ただけの人間を隅から隅まで知っているとはとても言えないけどさ! 今自分でそう言ったじゃん! 自分で言ったんならそれはもうそういうことでいいじゃん!
お前が俺の何を知ってるとか、そーゆーラブコメに有りがちなメンドクセー台詞をジジイが言っても需要なんかねーんだよ! 堀内賢雄様のイケボで? そんなアホなこと言われても? そんなのをおいしいと思う奇特な人間なんて、私くらいしかいないんだからね!
あ、やべ。ツンデレ入った。クソ! これもまた卑劣様の罠か! このくそジジイ、ラブコメの無いところでこのレベルの卑遁を!
「また何か不愉快なことを考えている顔をしてるな貴様……。とにかく、もう契約は済んだことだ。どうしても不安なようならば、一刻も早くオレに信用されるような働きをすることだな」
さっきからこのジジイの方こそなんで顔を見ただけでそんなことが分かるんだ。私ってそんなに顔に出やすいか? これでも大蛇丸様相手に謀を隠し通して早半年以上だぞ? そんな簡単にバレるんだったら私の計画なんて一瞬で露見してパーになってること請け合いだぞ?
前世の頃から外面と社交スキルだけは高いと知り合いの間ではもっぱら評判だったのがこの私だ。そりゃ、憧れの扉間様を前にして若干テンションが上がっている自覚は有るけれど、内心をそのまま顔面に書き表してるつもりは微塵もない。
不安になってくるから、そうズバズバ見抜いてくるのは止めて欲しいんだけど。
そう思っていると、どうやら扉間様は私がそんな不安を抱いていることすらもお見通しだったらしく
「心配せずとも、オレ以外に貴様の隠している内心がバレるようなことはないから安心しろ」
等と言ってくる。
「じゃあ、なんで扉間様は読み取れるんですか」
堪らず私が問い返すと、扉間様はそれがさも当然であるかのような顔で
「オレが貴様の内心を何となく察せられるのは、貴様の思考傾向と表情筋の動き、チャクラの微細な乱れのパターンを結びつけて関連させ解析しとるからだ。一度、貴様の内心をある程度データとして覗き見ない限りこんなことはできん。オレでさえ、こうして目の前で感知しとらん限りはそこまで精確には読み取れん。だからオレ以外で貴様がそんなことを警戒する必要はない」
等と抜かしやがる。その上で、
「だが、貴様は感情が高ぶると容易に本性を露呈する傾向があるのでそこだけは注意が必要だぞ。なまじお前は内心を隠すことに長けているだけに、そこだけが特大の弱点となりうる」
と注意まで飛ばしてきた。
いや、まてまてそうじゃない。問題はそこじゃない。
扉間様テメーこのやろう。今、私の内心の思考パターンを解析済みとか言いやがったか?
つまり何か? アンタは既にこの私という乙女の心を、程度は有るとはいえしっかりと把握済みだと?
キモイってレベルの所業じゃねーぞそれは。幾らなんでもやっていいことと悪いことの限度を飛び越えすぎているぞ!?
穢土転生とか開発して使っちゃうヤツの脳内倫理って、そこまでぶっ壊れてなきゃいけないものなのか?
「また不愉快なことを……。オレにも倫理観はあるわ! 今回は緊急事態ゆえ仕方なくやったにすぎん! 里の平和のため万全を期すため、時には倫理を二の次にしなくてはならんことも有るのだ!」
だからそーゆーところだよ! アンタのやり過ぎなところは!
まぁ……いいや。もう、何を言っても何を思ってもどうしようもない。頭に爆弾は仕掛けられちゃったしこちらの内心は殆んど把握されちゃってるし、どーしようもないってことだけは十分に理解させられた。
もうあとは野となれ山となれ。こちらの要求も大部分通っているのだ。ある程度のリスクは許容しよう。
許容できないけど、許容しよう。扉間様相手なら、こちらの内心をお見通されたりしたところで、それを無闇に悪用されることもないだろう。少なくとも、私の方が扉間様を裏切らない限りは。
むしろ内心をある程度把握されていることによって、扉間様の信頼度を高めていると思おう。それくらいでしか私が救われない。
……よし。覚悟は決まった。
「フン。ようやく腹を決めたか。覚えておけ多由也。その屈辱こそが、敵国に寝返るという行為だ。たとえ貴様の中では表立っただけだとしても、寝返り先がそう思うとは限らんのだ。オレとやり方は違えども、中途半端に寝返れば、どこに寝返ろうとも間違いなくおよそ人としての尊厳は踏みにじられることになる。まず信用はされん。肩身の狭い思いをすることにもなる。本来ならば、決して取っていい手段ではない」
ええ。よーく分かりましたとも。そうでしょうとも。形式上でのこととはいえ、寝返りがリスクの高い手段であることは最初から分かっていた。流石にここまでされるとは思ってなかったけど、何らかの形で命を握られるのではないかくらいは思ってはいた。本当にここまでされるとは思ってなかったけど!
だけど、私はやるしかないんだ。君麻呂のためというのも勿論だが、そうでなくたって、私の行動には私の命が懸かっているのだから!
「それで、扉間様。今後の予定としては、如何なされるおつもりでしょうか」
だから私は、話を進める。決意の証として、扉間様の顔を正面に見据えて。
「うむ」
私の表情を確かめ決意を読み取ったらしい扉間様は、それ以上余計なことを言うこともなく、私の言葉に応じる。
「ワシがすぐに何かをするということは、取り敢えずは無い。貴様の話の通りなら、無闇に未来を変えることは本来この世代の人間の勝ち得る筈だった成果を簒奪しかねん行いになるからな。それは、ワシの望むところではない。
マダラの復活や、それに伴う大筒木カグヤとやらの復活を見過ごすことはできんが、その未来を見る限りではかなり絶妙なタイミングと絶妙な立ち回りの末、忍の陣営は勝利を掴んでいることが分かる。封印のための力を得るにしろ、忍五大国の協力という大望の成就にしろ、今の状況今の戦力で同様の成果を上げることはおよそ望めそうに無い。故にまずワシらがすべきは、その望むべくもない結果を変えないことよ」
扉間様はそう、方針を語る。
だが、その方針には1つ大きな問題がある。
「そこで問題となるのが貴様の存在だ。貴様というイレギュラーが、未来に影響を及ぼす可能性は拭いきれない」
そして当然のように、扉間様は問題点を明らかにする。
「貴様は既に今の段階でワシを穢土転生で甦らせるという、本来貴様が知る歴史とはかけ離れた行いを平然と実行しておるし、あまつさえ、自身の死の運命に抗い生き残ろうとさえしている。君麻呂の病を治すこともそれに当たるな。これでは歴史の大筋に何か変化があってもおかしくない」
ではどうするか。扉間様の話は、どうもこちらにとって都合の悪い方向に進んでいる気がする。私からしてみればそれらの問題を解決する手段は、私というイレギュラーの排除が最も手っ取り早い解決策に思えてならない。
まさかこの流れでそんな話が来ることにはならないよな?
私は不安に思いつつも、扉間様の次の言葉を待つ。
「そこでワシは考えた」
扉間様は一呼吸置いて、導き出した考えを口にする。
「ワシは貴様というイレギュラーを存分に活用し、未来の効率化を図ることに決めた。そのため今後の予定としては、その具体策の細部を詰めることを第一の目標とする」
「未来の……効率化?」
なんだか話が私の予想外の方向に進み始めた。
効率化って、何をするつもりだ?
「未来の効率化。つまり、我々が貴様の知る未来、その輝かしい結果に辿り着くのに必要な要素を確実に取得し、より安定してその未来へと至れる道筋を作れるようにワシらは暗躍する。要素が1つでも漏れることは許されん。何しろ大筒木カグヤを打倒したとしても、その後にまたよくわからん大筒木の一族どもが暗躍するのだろう? 知識を持つ我々がマダラどもの計画を破綻させるのは容易いが、既に死したワシがいつまでもこの世に留まるわけにもいかん。ならば次世代を担う若者たちが、この世界を襲う如何なる脅威にも対応し、平和を掴み取れる力を持たねば未来は無い。よって、そのためにワシは動く」
マダラどもの計画を破綻させるのは容易いのか……。いや、重要なのはそこじゃないか。もっと重要なのはやはり、「効率化」という部分だ。
「具体的には、どういったことをするのでしょうか?」
「貴様のすることは、貴様が当初考えていた予定と大差はない。木ノ葉に亡命後、未来が不利な方向へ変わりそうだと判断したら必要に応じて適宜介入。軌道修正を図ればそれでよい。問題は、ワシのすべきことよ」
扉間様のすべきこと?
一体それは、何だ?
「ワシのすべきことは、基本的にはワシのやり残したことの尻拭いよ。細部は詰めてはおらんが、やることだけははっきりしておる。ワシを遠因とする木ノ葉の過剰な国力低下の阻止だ。具体的には──」
──ダンゾウの再教育と、木ノ葉崩しにおけるサルの死を防ぐこと。これを先ずは第一目標とする。
扉間様は宣言する。
だが、少し待ってほしい。それは──
「それは、未来を変えることになるのでは? それも、結構大幅に……」
私は頭の中で必死に、そうなった場合のシミュレートを働かせる。しかしどう考えても、それは大きな原作乖離を引き起こす原因になる。
私が箴言しようとすると、しかし扉間様は首を振った。
「安心しろ。ワシの考えではそれによる大きな乖離は起こらん。ワシはそれこそ細部を詰めるだけだからな」
と、いうと? 私が続きを促すと、扉間様は自身の計画を明かす。
「まず、大蛇丸の木ノ葉崩しを止めることはしない。被害を防ぎ、失敗させることには全力を尽くすが、これは敢えて起こした方が最終的に木ノ葉への利は大きい。何しろ無事に食い止めさえすれば、裏切りを働いた砂との同盟を有利な条件で結び直せるのだからな。それによって邪な考えを働かせた四代目風影が死亡し、尚且つ新しく誕生することになる風影が純粋な若者で、かつ木ノ葉に対し友好的になるということも大きなプラスだ。木ノ葉が同盟について考えを改める1つの切っ掛けにもなる。その機会は逃すべきではない」
うわ。木ノ葉崩しをそう捉えるのか。音隠れとの対立、大蛇丸の陰謀による木ノ葉存亡の危機と捉えるのではなく、砂隠れとの関係強化の交渉手段として木ノ葉崩しを利用する。
考え方が私のそれと掛け離れすぎているが、理には適っている。問題は、だからその先だ。
「だが、木ノ葉崩しによって木ノ葉の国力に大きな損失が出るというのもまた事実だ。そしてその損失の大半は、サルの奴が殺されることによって発生した損失であると断言できる」
そうなのか? 流石に私も、そんな視点でNARUTOを読んだことは無いから、そこら辺の問題は全く記憶していないんだけど……。
ただ、何となくサスケ奪還編の時の状況から、余裕が無いのかな程度のことしか理解していない。
「要するには信用が失われるのだ」
扉間様は説明する。
「火の国の持つ木ノ葉隠れの里という軍事力は強大であるというイメージが、木ノ葉崩しで里の絶対的リーダーを失ってしまうことにより大きく損なわれてしまったのだ。だからこそ各里が火の国にちょっかいを出す頻度が目に見えて増加し、その対処に人員を逐次投入する必要性に迫られ国力を疲弊させて行くことになる。サスケとやらが里を抜ける際、その追い忍に上忍を使えなかったのはそのためよ。各地で起こる火事場泥棒のような諍いを確実に鎮め木ノ葉の国力を主張するために、緊急時に即応できる最低限の忍すら里に残せぬような切迫した状況に里が追い込まれるのだ。大蛇丸はそこを突いたに過ぎん」
「な……なるほど……。で、その対応策が三代目様の生存だと?」
「そうだ。それと、ダンゾウの再教育だな。五代目政権成立時の一番大きな問題は、三代目によるスムーズな業務と情報の引き継ぎが為されなかったところにある。これはワシの時にも起こった問題でな。三代目就任自体はスムーズだっただろうが、その後の業務引き継ぎの段になってサルは大分苦労しただろう。恐らくワシの代から木ノ葉が慢性的に抱える政治的諸問題は、この引き継ぎの甘さに端を発している。故にワシは、サルにワシと同じ轍を踏ませるわけにはいかんのだ。勿論この対策にも問題点は浮かぶだろう。だが、それは解決可能な問題だ。
まず、貴様の懸念する歴史の改変についてだが、少なくとも木ノ葉崩しにおいてサルが死のうと生き残ろうと、火影は交代することになる。音と砂による木ノ葉崩しを容認した責任もあるし、何よりサルはもう高齢だ。上層部にまともな政治判断ができる者が一人でもいれば、この期にサルを引退させ、新しい火影を募ることになるだろう。そもそも四代目の事件の後にサルが三代目を続投したこと自体が政治的判断ミスだったのだ。大蛇丸がサルの弟子だったことも重要な判断材料になる。サルが火影を続けるのはもはや不可能だ」
「えっと……それでは、何も変わらないのでは?」
「変わるとも。前任者の死亡と引退では周囲に与えるイメージが違う。ひいてはそれに伴う問題の数もな。それに、大蛇丸とかいうのは確か『伝説の三忍』とか呼ばれておるのだろう? ならば火影の後継は、それに並ぶネームバリューを持たねばならん。確実に同じ三忍の残りの二人、自来也か綱手のどちらかが選ばれるだろう。自来也が火影に就任する気がなく、かつ血筋のことまで考慮に入れれば、兄者の孫娘である綱手が候補に上がる可能性は高い。どうだ? 歴代火影に関する歴史は変わると思うか?」
扉間様の問い掛けに、私は考える。確かにその流れならば、三代目が生き残っても五代目が綱手になるという歴史は変わらないことになる。自来也とナルトが綱手を説得しに行くという流れも、恐らくはそう大きく変わらないだろう。だけど……それはすべての流れが扉間様の希望通りになればの話だ。
「そう、上手く行きますかね?」
「上手く行かせるためにダンゾウを説得するのだ。まあこの説得も、恐らくはタイミングがものを言うだろうがな。細部はワシが詰めるからお前が気にすることはない。とにかく貴様が木ノ葉に亡命するにおいても、サルとダンゾウの説得は必須だ。これだけは逃すわけにはいかん」
いや、気にするなと言われてもそれでは気にしないのは無理というものだろう。
確かに、三代目火影とダンゾウといった木ノ葉のツートップと交渉できれば私はすぐにでも木ノ葉の一員になれるだろう。そう考えればこの作戦は間違いなく必須だし、私にとって何より重要なものになる。
だけど、その話が上手く行きすぎるのもまた問題だ。
「仮にその話が上手く行ったとして、そうなるとサスケ奪還の折に里に余裕が生まれるのは問題では? 上忍一人でも多くチームを編成されればサスケは奪還されますよ? それこそ歴史が大きく変わります」
「戦力調整はするとも。裏工作をしてそのタイミングに人員を目減りさせることなど容易いものよ。いくら多少の余裕が生まれると言っても、一時的に国力が低下するのは間違いないのだからな。ダンゾウを味方に付け、恐らく温存させているであろう根の者とやらを利用すれば簡単に状況は作れる。たとえダンゾウの懐柔が無理でも、その時はワシやお前自身で調整すればよい」
またとんでもねーこと言い始めたよこの人。本当に木ノ葉を救うつもりが有るのかこの人と言いたくなるほどの悪知恵を働かせやがる。
ダンゾウを再教育するとか言っておきながら、ダンゾウの部下を利用する気満々じゃねーか。
「というか、扉間様は、うちはサスケを里抜けさせるということに関しては賛成なんですか?」
「ん? ああ。当然だな。うちはの業に取りつかれた小僧など、下手に里に置いておくよりも居場所と先の分かる敵地に送っておいて大蛇丸の餌にでもしておいたほうが安泰というものよ。それに、最終的には木ノ葉側の陣営に戻る可能性があるのなら、マダラよりはまだ見込みがありそうだしな」
マダラよりは見込みがあるという評価は、果たしてこの人の中では良い評価なのか悪い評価なのか、判断に迷うところがあるな……。
しかし、通常ならば下手なことをされないよう警戒する人物は身近に置いておくという手段はよく聞くが、警戒するからこそ敵地に送っておくというのはなんだか新しい戦法な気もしないでもない。これも、ある程度未来を予測できるからこそ取れる戦法というわけか……。
とにかく、と、扉間様は話をまとめる。
「細部を詰めるのは後だ。幸いにして木ノ葉崩しの実行とやらにはあと数年時間もある。取り敢えず基本方針だけを予め話しておこうと思ったので貴様に説明した。今後は、そのような予定を見据えてワシは貴様に指示を出すことになる。分かったな?」
「は……はい!」
私が返事をすると、扉間様は頷く。
そして
「宜しい。ならば次は、貴様の番だ」
と切り出した。
「う……ウチの番?」
私が戸惑っていると、扉間様は右手をこちらに差し出して言う。
「貴様の番と言ったらやることは1つだろう。君麻呂とやらの病を治療する、そのヒントをオレに求めたいのだろう? 診断書が有るならさっさと出せ。無いなら口頭でできる限りの症状を伝えろ。かぐや一族のことなら少しは研究したこともある。何しろワシの世代ではあやつらは全盛を誇っておったしな。助けになる情報も渡してやれるかもしれん」
「!!」
そうだ。そうだよ! やっとその話か!
正直今か今かと待ち構えていたこともあって、上手く反応できなかったが……やっとか!
正直いつまで経ってもその話にならないから、扉間様が忘れてるんじゃないかと心配になってたんだけど、そんなことはなかったか!
私は自分の持ってきた鞄を開き、中からカブトさんが纏めた君麻呂のカルテのコピーを嬉々として扉間様に手渡す。
パラパラと、扉間様はカルテを一枚一枚めくって内容を頭に入れていく。
一分くらい経っただろうか、やがて扉間様はカルテから顔を上げる。
「なるほどな」
呟き、そして、扉間様は言った。
「君麻呂を治療する方法は、二つある」
私は、その言葉を耳に入れ、脳に届かせ、反芻する。
なるほど。君麻呂を治す方法は二つ……か。
え? 二つもあるの?
私はポカンと、口を開けた。
▼次回につづく。
つくづく思います。卑劣様万能過ぎて扱うの難しいなって。おそらくここら辺の話は、私がこの物語を進めるに当たって一番の難所ですね。うっかりすると卑劣様が当初の予定と全然違う最適解を提示しちゃって、本来進めたかった本筋とテーマが掛け離れる危険性がすごいです。腕が試されますね。
とにもかくにも、絞り出すのに大分時間の掛かってしまった13話。説明回みたいな感じなので退屈される方もおられるかもしれませんが、もうしばらくお待ちください。この難所を突破すれば、ある程度話がスムーズに進むようになります。三次元の方も忙しくなって大変な時期になってきましたが、気長にお付き合いいただければ幸いです。
それではまた次回、お会いしましょう。
前書きの一言に対する自問自答
「おわらないよ!打ち切りじゃないよ!」