前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。   作:N-SUGAR

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君麻呂くん生存おめでとう!よかったよかった!さて、それじゃあ安心して次のステージに進みますか!

さっさとリハビリして復帰しないと、マジで置いてかれるからな君麻呂くん!

ここで自分に向けて一言。

「前世のやたら「恋」を連呼するおかしな同級生ってなんだよ」




第十五話 忍の基礎

 指先が震える。

 

 汗が全身を伝い、衣服がベタついて気持ち悪い。

 

 顔を流れる汗が顎の先にたまり、水滴が宙に舞う。

 

 ヒュウ! と、風が頬を掠め、落ちた水滴が地面に落ちることなく霧散する。

 

 上を見上げる私の視界には、青空と、険しい岩肌の2つしか映らない。

 

「────っ!」

 

 全身を一気に動かそうとして、筋肉痛が身体中を駆け巡った。

 

 瞬間、岩の凹凸を掴んでいた左手の指がつるりと滑り、不気味な浮遊感が私を襲う。

 

 背中に空気が押し返してくるような感触を覚える。

 

 この感覚、忘れもしない。

 

 前世において、私を死に至らしめた瞬間の、あの感覚。

 

 自由落下と、衝突の恐怖。

 

 あぁ……。やばい。これは死ぬ。

 

 私は、硬い岩肌の露出した地面から50メートル上空にその身を投げ出した。

 

 右腕が腰に縛りつけられているが、仕方ない。

 

 私は自由な左手を無理やり縛られた右手に合わせて、印を結ぶ。

 

 左手にチャクラを溜めて、私はその掌を、迫り来る地面へと向けた。

 

『風遁・烈風掌』! 

 

 私の掌から勢いよく風が吹き出し、私の落下速度を和らげる。

 

 その間に私は身体の体勢を整えて、ゆっくりと近づく地面にふわりと優しく着地する。

 

 うん。上手く行った。

 

 新しい術が着々と身に付いている実感が湧いてきて、私は両手を強く握りしめる。

 

 扉間様を穢土転生してから、1ヶ月半と少し。

 

 君麻呂の病気が順調に回復し、とうとう本格的なリハビリが始まったと耳にした現在、私はといえば、扉間様の下で順調に実力を伸ばしていた。

 

 私が今行っている修行は2つ。

 

 チャクラを増やす修行と、五大性質変化をマスターする修行。

 

 今から1ヶ月と少し前、隙を見ては扉間様との密会を繰り返し、今後の主な予定を話し合った私達はその話し合いの結果、とうとう私の戦力アップのための修行を始めることに合意した。

 

「貴様には、忍としての基礎が足りておらん」

 

 そしていざ修行を始めようという段になって、扉間様はまず最初に言った。

 

 私に忍の基礎が足りない? 

 

 そんな馬鹿な。

 

「どういうことですか?」

 

 私が聞くと扉間様は特に前置きもなく、さっさと説明を始める。

 

「まず修行を始める大前提として、貴様は陰遁使いだ」

 

 扉間様の言葉に、私は頷く。そう。私は幻術、つまり陰遁を主に使う。これは陰のチャクラ性質変化に分類される術だ。現在五大性質変化をあまり上手く使えない私だが、それでも私はチャクラの性質変化自体を全く使えないわけではない。

 

「そして、貴様は血筋のお陰もあってか、結界術や封印術も得意としている。これは術の種類にも依るが、どれも一番基本的な部分でチャクラの形態変化を使用する忍術だ。つまり貴様は、性質変化や形態変化といったチャクラの扱いに関してはそれなりにマスターできていると言っていい」

 

「じゃあ。良いじゃないですか。忍の基礎が足りてますよ」

 

「足りとらん!」

 

 怒鳴られた。そんなに強い口調ではないとはいえ、なにも怒鳴ることないじゃないか。

 

 私が不満に思っていると、扉間様は私に問い掛ける。

 

「現在の貴様が苦手とするものを数え上げてみろ。足りないものも含めてだ」

 

 今の私に足りないもの。それは……

 

「えっと、まず、陽遁と五大性質変化は上手く扱えません。あと、体力とチャクラ量が全体的に足りないというか、幻術以外の術を使おうとすると、呪印なしではあまり大技を連続では繰り出せません。それに、君麻呂との修行で多少改善されたとはいえ、体術を苦手としていることには違いありません。動体視力は……そこそこついてきたと思うんですが……」

 

 私が苦手分野を数え上げていくと、扉間様は頷く。

 

「そうだ。貴様の弱点は主にそこだ。そしてそのすべての弱点の根本的な原因は、貴様の忍としての身体作りが全く完成されていないことに起因している」

 

「忍としての身体作り? えっと……、忍としての押さえるべき最低限のポイントは押さえていると思うのですが……」

 

 そりゃあ、私は体術を専門とする連中に比べれば全く身体は動かせないが、それでも忍組手や瞬身、手裏剣術などの基礎的な動きはそれなりに出来るようにしている。特に手裏剣術は幼い頃から好きで練習していたこともあってか、最近は手裏剣同士の衝突を利用した的当ても出来るようになってきた。流石に写輪眼を持たない私じゃあ、うちはイタチレベルの手裏剣術なんて望むべくもないが、それなりに特技として自信を持てるレベルにはなっている。

 

 基本が押さえられてないというのは、流石に言いすぎだと思う。私にだって今までの積み重ねに少しくらいプライドは有る。一方的に否定される筋合いは、決してない筈だ。

 

 そんな私の反抗心を読み取ったのか、扉間様は軽く鼻を鳴らす。

 

「貴様が下忍や中忍、もしくは並の上忍として真っ当に暮らすのならばそれでも良いだろう。幻術使いとしての基礎は出来ていると認めても良い。だが貴様は違うだろう。ワシを呼び出し、木ノ葉の里、ひいては忍世界全体の明暗を左右せんとする極秘任務を遂行しようと言うのだ。そんな忍が並のレベルで止まっていて良いはずがない。ワシが言う「忍の基礎」とは、貴様が最低限、()()()()()になるのに必要な基礎のことを話しているのだ」

 

「ご……五影レベル!?」

 

 なんつー無茶苦茶な前提条件を出してやがるんだコイツ。

 

 五影レベルっつったらお前、そりゃあ、私に化け物になれっつってんのと殆ど変わりがねーぞ? 

 

 いくら自分がその化け物の一人だからって、私みたいなちょっと人より才能が有るだけのか弱い女の子にそんなハチャメチャなこと言わないでほしい。

 

「無茶だろうがなんだろうがやってもらうぞ? そもそも我々の戦力は現在ワシと貴様の二名だけなのだ。戦術、戦略、兵站、兵力、装備、大義。戦に介入しようというのに戦に必要な要件を殆ど満たしておらん。戦術と戦略は後からどうとでもなるし、人数が少ないから兵站もすぐ用意できる。装備も後で用意するとして大義名分は立派なものが既に心に入っている。だが、兵力だけは、このままではどうにもならんのだ。手段を選ばなければなんとかなるが、情報統制の観点からそう何人も手駒は増やせん。増やそうとして不自然な動きをすればそれだけでも情報が漏れるかもしれんからな。なら、今ここに有る戦力を少しでも底上げしようとするのは当然の帰結だろう。貴様には少なくとも木ノ葉崩しまでの間に、一人で大蛇丸を出し抜ける程度には強くなってもらわんと困るのだ」

 

 うわあ、改めてそう言われると、できる気しなくなってくるなー。

 

 そりゃあ、大蛇丸様相手に逃げられるくらいの実力は付けようとは最初から思っていたけれど、まさか五影レベルを求められるとは思っていなかった。

 

 それ、大蛇丸様から逃げられるくらいの実力というよりは、大蛇丸様を倒せるくらいの実力を身に付けろってことじゃん。

 

 レベルたけーよそれは。まあ、身に付けさせてくれるってんなら喜んでやるけどさ。

 

 身に付けられるなら、身に付けるに越したことは無いわけだし。

 

「わ……分かりました。では、まずはどうすれば宜しいのです?」

 

 私が尋ねると、扉間様は端的に答えた。

 

「身体を鍛えろ。まずはそこからだ」

 

 

 

 と、いうわけでロッククライミングである。

 

 扉間様が見つけてきた、アジトから少し離れた場所にある山林の大きな崖の下に私は連れてこられた。

 

 この100メートルの断崖絶壁を、とにかく登って降りてを繰り返す。

 

 ()()()()()()()()()

 

「まずは普通に登って降りるを繰り返す。次にチャクラを足に溜め、足だけで登って降りるを繰り返す。次に手だけでそれを行い、最終的には片手ずつで全てを行えるようにする。ただし足だけで登り降りするとき以外は、チャクラを使うことは許さん。失敗して身の危険を感じた時のみ、術を使って危険から逃れることを許す。タイムアタックだ。一先ず1セット2周を五種類で合計30分。一周平均3分を目指せ」

 

「さっ……!」

 

 おいおいおいおい! アホ抜かすな。100メートルの断崖絶壁を一周三分とか冗談じゃねーぞ。しかもこの崖ほぼ直角だ。チャクラを足に溜めて駆け上がるのも一苦労だっつの。降りるときは尚更体幹を意識しないといけないからさらに一苦労だ。

 

 私は前世の趣味が登山だったから良く分かる。今、私は確実に無茶を要求されている。

 

 確か、スピードクライミングという競技は15メートルのクライミングで世界記録が5秒半くらいだった記憶がある。

 

 おまけで5秒で計算したとしても、体力が落ちないまま登ったとして100メートルで約33秒。下りも同じと計算して一分ちょっと。

 

 あれ? 意外と行けるじゃん、なんて思ってはいけない。これは、あくまでも競技用の人工壁面で行った場合の話だ。しかも下りのタイム差は考慮に入れられてない。

 

 ここは大自然の断崖絶壁。人工壁面と違って、しっかり手や足が掛けられる凹凸が必ずついているとは限らないし、そもそも私はロッククライミングの達人じゃない。登山でちょっとクライムしたことはあるけどスピードを求めた記憶はない。前世より運動神経が格段に上がっている自信はあるが、前世における世界記録保持者なんて、こっちの平均的な忍者とクライミングテクニックは大して変わらないだろう。少なくとも15メートル5秒は、こっちの世界でも忍者できるレベルだと思う。

 

 例えば私がそれよりも早く登れたとして、それでも最終的には片手で4周せねばならないと言う。疲労も蓄積してるだろうし、絶対そこでタイムロスを食らうだろうから、少なくとも他の方法の時に十分時間を稼がないといけない。一周3分なんてのは単なるまやかしだ。

 

 しかもこのクソジジイ、「一先ず」と言いやがったな? 後々タイムを縮める気満々じゃねーか。

 

 その上、扉間様は更にこう続けた。

 

「この反復運動を、修行の準備運動として修行開始前に毎回行う。その後、五大性質変化の訓練だ。分かったな?」

 

 ちょっと何言ってんのか良くわかりません。

 

 え? これ、修行じゃなくて、準備運動なの? 

 

 馬鹿なの? 死ぬよ? 私。

 

 愕然とした表情を浮かべていると、扉間様は

 

「最初から完璧に出来る必要はない。修行時間に限らず何度も練習し、少しずつ慣れていけば良いのだ。適度に休憩を挟みつつ、水分と兵糧丸をこまめにとって自分なりのペースで死ぬ気で努力しろ。最初に行う修行は本当に基礎の基礎だ。これが当たり前にできなければ、到底先には進めん。一ヶ月で慣れろ」

 

 と言って岩肌を掴んだかと思うと、左手だけでひょいひょいと崖を登って、あっという間に崖の頂上に辿り着く。

 

「先ずは普通に登って此所まで来い。話はそれからだ」

 

 私は早くも、扉間様を師匠に選んだことを若干後悔し始めていた。

 

 

 

 

 それから約一ヶ月半。日々の訓練が積み重なり、現在目標タイムは縮まっていないが、その代わりタイムが変わらないのに往復の量が全部二倍になった。

 

 ちょっと何言ってるのか良くわからなかったが、なってしまったものはしょうがない。正直往復の後半にはもう全身筋肉痛どころか、腕と指の力が殆ど入らなくなってしょっちゅう崖から落ちてしまうが、なんとか命は繋いでいる。ある時、落下中に指の力が入らず印が結べなかった時は流石に死んだかと思ったが、済んでのところで口笛で印を奏でて事なきを得た。

 

 まぁ、その時はそれでも術の威力が足りなくて大怪我しそうだったところを、扉間様にキャッチされて事なきを得たんだけど……。

 

 とはいえ、この修行で一番誤算だったのは、実は崖上りの量が2倍に増えたことではなかった。

 

 一番誤算だったのは、扉間様がかなり高いレベルの医療忍術を扱えたということだ。そのお陰で、ピクリとも動けなくなった身体を動かせるレベルになるまで回復させられ、修行を続行させられた。

 

 鬼! 悪魔! ド畜生! 

 

 そりゃ兄貴があんなスゲー回復術の使い手だもんな! 弟だってそこそこ使えるよな! と思って、試しに質問してみたら「兄者の治癒能力をヒントに医療忍術の基礎を開発したのはワシだ」と言われて、さらにドン引きした。

 

 というか、

 

「なんか、心なし穢土転生の完成度が上がってるように見えるんですけど」

 

 なんだか、ここ最近扉間様の覇気が目に見えて向上し、身体中の皹がほぼ無くなっているように見える。気のせいか? いや、絶対何かが変わってる。元召喚者が言うんだから間違いない! 

 

 そして、そんな私の疑問に対し扉間様ははしれっと、

 

「そりゃ、1ヶ月もあれば穢土転生を作り直すことくらい出来るだろう。穢土転生を開発したのはこのワシだぞ。自分相手にわざわざ能力を縛る必要も無い。改善くらいするわ」

 

 と、白状した。

 

 えぇ……。こんなのが普段私との修行をしてない間忍世界をなんの鎖もなく徘徊してるの? とんでもねーのが世に解き放たれてんじゃん。誰だよこんなの召喚した奴。

 

 まぁ、私なんだけど……。

 

 色々と最悪だった。味方であるうちは頼もしいことこの上ないが、制御不能という点において、あの人の右に出るものが私には思い付かない。今のところ、私にとって有利な方向にすべての話が進んでいるから良いが、決定的に意見が別れた時、あの人を止められそうな奴が思い付かない。

 

 そうなったらもう、いよいよ正真正銘の忍の神、千手柱間兄貴にご登場いただくしか無いのだろうか。もしそうなった場合、むしろ際限無く状況が悪化しそうで怖いんだけど。

 

 もう、どうでも良いか。今更すぎる。

 

 なるようになれー。

 

 私は諦めつつ、今度は本修行である五大属性の性質変化の訓練を行う。

 

 

 

 またもや1ヶ月と少し前のこと。

 

 扉間様は性質変化の修行の始めに言った。

 

「陰遁は精神エネルギー、陽遁は身体エネルギーを主に練り込んだチャクラで発動する。貴様の場合、育った環境故なのか転生者という特殊な身の上故なのか、とにかく精神エネルギーの総量はその歳にしては異常に多い。既に並の上忍は優に超えていると言えるだろう」

 

 そうなのか。まぁ、それほどでもあるのかな? 私は既に、『魔笛・夢幻音鎖』をはじめとする上忍レベルの難易度を誇る幻術を使用することが出来るし、今までの生活からそれなりに精神も鍛えられてる。陰遁に関しては自信を持って良いレベルではあるのだろう。しかし、

 

「だが、貴様には致命的に身体エネルギーが足りていない。貴様の身体エネルギー総量ははっきり言って下忍クラスの域を出ない。呪印でチャクラ量を底上げしないとまともなレベルの術を連発できないのはそのためよ」

 

 扉間様は私の問題点をズバリ指摘した。嘘だろ。君麻呂との組手の特訓で、体術も少しはやって来たつもりだったのに……。

 

「組手ばかりやっても身体エネルギーはそこまで増えん。大事なのは体力作りと身体作りよ。貴様はそれを、崖上りの修行で鍛えるのだ。そして五大属性の性質変化を行う上では、この精神エネルギーと身体エネルギーの兼ね合いが重要になる。なにしろ二つのエネルギーを均等に配分する通常チャクラの量が増えなければ、基本五属性の術はそう何度も繰り出せんからな」

 

 なるほどね。苦しいだけのクソ準備運動にもそういう意味が有るのなら、なんとか頑張れるってもんだ。私は扉間様の説明に納得した。

 

「幻術使いである貴様の欠点である火力を補うため、貴様はこれから身体エネルギーの総量を増やしつつ、五属性のいずれかの術を身に付けていくことになる。だが、勿論性質変化は遺伝や個性によって向き不向きがある。訓練によっては五属性全てを使えるようになる奴もいるが、基本的には得意属性を伸ばすのが戦力として手っ取り早いのは間違いない。五属性全てを伸ばすなんてのは、一部の暇と実力をもて余した忍が娯楽で修めるような技術よ。──ワシの様にな」

 

 扉間様が右手を掲げると、親指から順に、水、火、風、雷、土のチャクラ性質が、目に見える形で五本の指先を覆い始める。

 

「おお!」

 

 その光景に、私は素直に感嘆の声を上げる。五遁全ての性質変化を扱える忍は原作に何人か登場したが、忍世界全体で見れば驚くほど稀少だ。というか、それこそ原作に出てきた人達くらいしか居ないだろうから、こういう光景を見るのはかなり貴重な体験になる筈だ。

 

「既に知っているとは思うが、属性には相性がある。これは事象に依るものというよりは、チャクラ性質そのものの相性なので塗り替えるのは難しい」

 

 扉間様は、右手の指を二つずつ、順番に押し当てていく。

 

 水が火を消火し、

 

 火が風で勢いを増し、

 

 風が雷を吹き飛ばし、

 

 雷が土を崩し、

 

 土が水を吸収する。

 

 すごく、分かりやすい実演だった。私はここで初めて、扉間様が実は師匠として優秀なんじゃないかと思い始めるくらいには感心した。

 

 この時扉間様が少し微妙な顔をしたので、恐らく私が要らないことを考えているのを読み取られたのだなということは私にもわかった。

 

 これが、以心伝心というやつか。

 

「ふざけたことを考えてないで、先に進めるぞ。多由也。左手の五本の指先にチャクラを溜め、ワシの右手の指先に合わせろ」

 

 私は余計なことは言わず、素直に左手の指先すべてにチャクラを溜める。何をするつもりなのだろう。少しワクワクしながら、私はチャクラを溜めた左手の指先を、扉間様の右手の指先に合わせた。

 

 すると、

 

「うわ!」

 

「フム。結果が出たようだな」

 

 指先を合わせた内の、親指と中指のチャクラが大きく変化し、水と風が湧き出て吹き上がる。人差し指の火と、小指の土も少し大きくなった。

 

「多由也。お前の得意属性は風と水だ。順番に見ていくと、強い方から風、水、火、土、雷だな。ただし、雷の属性には殆ど反応が無いから基本的に雷の才能は無いと見て良いだろう」

 

 扉間様が私から右手を離しながら言った。

 

 お……おお。まさか、こんな風に私の得意属性を測るとは……。チャクラ同士を共鳴させ属性ごとに感応させるなんて、原作でも見たことの無い方法だ。というか、こんな方法、五属性全てを持っている扉間様でもないとできねーよ。

 

 すごくドキドキした。すげえ。素直にすげえ……。

 

 なんだかそれだけで、自分が新しい領域に足を踏み入れたかのような気持ちになり、テンションがみるみる上がってきた。この当時君麻呂の治療が上手く行くと完全に分かっていたら、きっと私のテンションは有頂天に達していただろう。

 

 とはいえ、心配事を抱えていた事もあってテンションが抑えられていた私は、それなりに冷静な状態のまま修行を開始することができた。

 

 

 

 

 

 そして現在。

 

「『風遁・風手裏剣の術』!」

 

「『水遁・水陣壁』」

 

 私は扉間様の指導の下、五大性質変化の術のみを使用した練習試合を行っていた。因みに私の勝利条件は、扉間様に一度でも何らかの手傷を負わせること、だ。

 

 私の投げた風の刃付の手裏剣が、扉間様の出した水の壁の中に沈んで勢いを止め、打ち上げられる。

 

 おかしいな。風遁って貫通力に優れてるって聞いたんだけど、水の壁を越えられないのかよ。

 

「術の威力が違いすぎて単純にパワー不足なのだ。もっと良くチャクラを練り込めばワシの水陣壁を越えることもできる」

 

 湧き出る水の向こうから、扉間様の指導が届く。

 

 その論で行くと私が扉間様の術を越えられる日が来る気がしないのだが……。

 

 まあでも、やってみるしかない。私はすぐに印を結び、地面に手を突く。

 

「『土遁・黄泉沼』!」

 

 ズブズブと水陣壁が地面に吸い込まれ、扉間様の足元が崩れてぬかるんでいく。

 

『土遁・黄泉沼』。原作でエロ仙人こと自来也様が使っていた会得難易度Aクラスの高等忍術だ。チャクラを流し込んで粘性の高い沼を作る。当然、性質変化を覚えたての私が使えるようなものではない。

 

 だけどそれも、工夫次第だ。

 

「ほう? ワシの出した水陣壁の水を利用して沼を作ったのか。面白いことをするな」

 

 ゴバ! と、沼から水飛沫が吹き出し、水で形作られた龍が姿を現す。

 

『水遁・水龍弾』。あぎとを開いて威嚇する龍の頭上に、扉間様が立っていた。

 

「だが、範囲も小さければ深さも無い。粘性もそこまでではないし、まだまだ未完成。黄泉沼と呼べるほどの術では無いな」

 

「ちっ!」

 

 流石に捕らえられなかったか。でも、扉間様相手に術を休めるなんて生ぬるいことはできない。

 

 残りのチャクラで撃てそうな大技は……、あとせいぜい2、3発くらいか? 

 

 少ないな。小技を連発して、でかいのを確実に入れていくしか無いか……。

 

 まだまだチャクラが足りず、大技を連発できないのはなんとも歯がゆい。扉間様に勝てないのは当然としても、手傷のひとつくらいは負わせたいものだ。

 

 穢土転生体相手だから修行でどれだけ傷つけても大丈夫なのに、そもそもその傷すら与えられないなんてちょっと格好がつかない。

 

『水遁・霧隠れの術』! 

 

 私は走りながら印を結び、周囲に霧を発生させる。

 

 私の耳は周囲の音を正確に聞き分け敵の居場所を感知する。チャクラを私の耳に集中させ感度を上げれば、空気の微細な振動反射を読み取り、目で見えなくても障害物の位置もある程度把握することができる。

 

 扉間様も感知タイプだから私の居場所は分かるのかもしれないが、それでも、視界をこちらから潰せば、数秒は反応が遅れるはず! 

 

 例え全然平気だとしても、霧によってこちらの結ぶ印が分からなければ、私が何の術を出すのかくらいは分からなくなる! 

 

 扉間様は私の修行のために絡め手をあまり使わず、最後の最後以外は基本正面からの攻撃しか出してこないから、一撃入れる隙くらい作れるはずだ! 

 

『風遁・真空玉』! 

 

 私は口から空気の塊を高速で複数射出し、扉間様を狙う。

 

 扉間様は龍の頭から飛び退くことで弾を躱し、同時に水龍弾をこちらに仕向ける。

 

 私は避けようと飛び退くが、水龍弾は私が逃げる方向に頭を向けて追ってくる。

 

 避けられそうにない……か。

 

 仕方無い! 

 

 私は逃げながら素早く印を結ぶ

 

『土遁・土石龍』! 

 

 私は地面から土で出来た龍を出現させ、水龍弾と衝突させる。術の相性はこちらが上回る筈だが、二つの術は、どちらかと言えば水龍弾が土石龍を飲み込む形で崩れて相討ちになった。

 

 まぁ、結果としては上々だ。これで扉間様と私の間に余計な障害物は無くなった。

 

 私は口笛を吹いて、少し遅れて印を結ぶ。

 

 口笛を吹き終わるとすぐに息を吸い込み風遁の性質を肺に注ぎ、それとほぼ同時に、火遁の性質を喉に溜め込む。

 

 さあ、これが私の、最後の大技! 

 

『風遁・延焼熱波』! 

 

 炎を纏った大風が、辺りに充満した霧を吹き飛ばしながら一面に広がっていく。

 

 一度に二つの印を結べる私だからできる、合体忍術。

 

 超高温の風が炎を纏いながら広範囲に広がり、あらゆる所に燃え広がっていく。森の中で発動しようものなら森が延々延焼を起こすこと請け合いの害悪忍術だ。

 

 もう、私のチャクラは底を突いた。これで手傷の1つでも負ってくれれば御の字なのだが……。

 

 霧が晴れ熱風が去った後の大地に、扉間様の影が立つ。

 

 水陣壁などで防いだ様子はない。これはもしや……傷の1つくらいは……。

 

 そう思った瞬間、バシャリと、攻撃をまともに浴びた扉間様の姿が破裂し水が飛び散った。

 

「み……水分身……?」

 

 と、いうことは……。

 

 ガシッ! と、私の足が掴まれる。

 

 下を見れば、地中から扉間様の手が伸びている。

 

 わー。この術見たことあるー。

 

 ぞるっ! と、足元の地面が崩れ、私は抵抗する間もなく地面の中に引摺り込まれて行ったのだった。

 

 ああ、ちくしょう。

 

 また、勝てなかった。

 

 

 

「さて、感想戦だ」

 

 扉間様は散らばった岩に座り、地中に埋まる私に語りかける。

 

「あの、出してください」

 

「自力で抜け出る練習だ。ほら、喋りながらで良いからさっさと出ろ」

 

 扉間様の修行には優しさが足りない。

 

 そう思いながら私は、もぞもぞと身体を動かして嵌まった穴に隙間を作っていく。

 

 扉間様は、早速今回の試合の感想戦を語る。

 

「ワシがいつ水分身と入れ替わったのか、分かるな?」

 

「ええ、ウチが霧隠れの術を出した直後……。おそらく、水龍弾の中に自分を潜り込ませて、水分身と入れ替わったのでは?」

 

「その通り」

 

 私の音感知は相手の大体の居場所を掴むのには有効だが、相手の細かい動きを捉えることは難しい。特に水の中等、音を阻害するものの中に潜り込まれたらその中の存在を感知するのはほぼ無理だ。

 

「そして、ウチが真空玉を撃ったときに、水分身がその攻撃を飛んで避け、アナタは霧で姿が見えないのを良いことに水龍弾ごとこちらに突っ込んできた」

 

「その後は?」

 

「私が土石龍をぶつけて相討ちにしたどさくさに紛れて、おそらく『土遁・土竜隠れの術』で地中に潜り、地下からこっそりウチの足元に移動。感知でウチのチャクラが切れたタイミングを見計らって『土遁・心中斬首の術』でフィニッシュ……ですか」

 

「正解だ。戦闘後の状況把握については、及第点を与えよう」

 

 わあい。やったね。

 

 とか、素直に喜べるわけが無いんだよなぁ。

 

 試験に合格しても、勝負に勝てないのでは意味がない。

 

 なら、

 

「どうすれば貴様は、ワシに勝てた?」

 

 当然考えるべきは、そこになる。

 

 私は一体、どうしていれば勝てたんだ? 

 

 扉間様に、手傷を負わせられた? 

 

 うーん……。

 

「霧隠れで視界を制限するのは、どちらかと言えば悪手だった?」

 

「まぁ、自分の状況判断を鈍らせたという結果から見ればそうだろうな。では、代わりにどうすれば良かった?」

 

「うーん……。それがいまいち分からなくて……」

 

 私が悩んでいると、

 

「ならばワシの方から、一例を出そう」

 

 と、扉間様が切り出す。

 

「今回貴様がワシに手傷を負わせられた可能性の一番高いタイミングは、ワシが地面に潜っているその時だ」

 

「!」

 

「霧隠れの術を出すのは別にそれで良いのだ。だが、その後の状況判断がお前の場合は疎かだった。お前はすぐに感知できるワシの姿を追うあまり、それが入れ替わっているという可能性の考察を怠ったのだ。もう少しワシの姿以外に注意を払っていれば、土竜隠れの痕跡くらいは見つけられたやもしれん。地上にばかりではなく地面や地下にも目を向ける。若しくは耳を傾ける。忍が相手ならば怠ってはならん警戒よ。土竜隠れの痕跡さえ見つければ、貴様はワシの作った穴に風遁でもぶちこんでワシに切り傷くらいは負わせられただろう。大技を狙うのは良いし術の精度も良かったが、結局当たらなければ意味がないからな。術者が主に油断するタイミングは、術者が攻撃しようと企んでいる時と、術者が攻撃に成功したと思い込んでいる時の2通りだ。ワシがそれを狙ったように、貴様もそれを狙えるよう先の先を読んで作戦を立てるべきだったな」

 

「……はい」

 

 勉強になる。勉強になる、が、それはそれとして勝てる気がしない。

 

 大体、こうして扉間様と試合をして感想戦をするのは今日が初めてというわけでもない。修行に一定の成果が出る度にこうして試合形式で成果を確認し合い、感想戦でより有効な術の使い道を模索していく。

 

 大蛇丸様の指導と似ているようで全く違う。大蛇丸様の修行が習得からの実践で終わるのに対し、扉間様の修行は習得、実践から学んだことをさらに突き詰めることに重点を置いている。

 

 更に言うなら、大蛇丸様は基本的に褒めて伸ばすタイプで、褒め所が全くないとすぐ切り捨てるタイプなのに対して、扉間様は、褒めるところは褒めて、駄目なところは駄目とはっきり指摘するタイプだ。褒めるところが全くないと、普通に駄目出しして改善案を提示し、次に期待するタイプでもある。

 

 うーん、これは、勝負がついた感があるな。

 

 一見すると厳しいのは扉間様の方だが、実際にはかなり甘々なのが扉間様だ。なにしろ真面目に学ぼうと思ったら、扉間様の修行は至れり尽くせり過ぎる。

 

 最後まで面倒を見るという意志がすごい。

 

 これが、里の子ども達の未来を一番に考えた千手兄弟の弟の修行方法か。

 

 アカデミーの概念を提案したのは柱間様で、それを制度として実現したのが扉間様だっけ? 

 

 確かに、この人ならそうするだろうなぁ。幼少期におけるナルトを救った要因に、アカデミーの存在は大きな役割を果たす。

 

 この人が道半ばで倒れることなく、ちゃんと自らの意志を十全に後継に伝えられていたら、木ノ葉は今頃どうなっていたのだろうか。少し気になった。

 

 ともあれこうして、私と扉間様の修行生活は続いていた。

 

 

 状況が変わったのは、それから二ヶ月後。

 

 君麻呂のリハビリが終了し、いよいよ君麻呂の修行が再開できるという知らせを、私が受け取った時だった。

 

 

 

 

 ▼次回につづく。

 

 

 




うーむ。多由也に火力がついたら、弱点が無くなるのでは?

ま、良いですとも。万が一多由也が万能になっても、原作は敵に困りませんからね。どうとでもなりますとも。卑劣様の教えが、この程度で終わるはずもありませんし?(意味深)

ちなみに、扉間様との修行中、多由也は大蛇丸様に気付かれないように警戒して呪印は使用しません。つまり、本当に素の実力が問われるわけですね。がんばれ!

次回、君麻呂はどうなった?お楽しみに!

前書きの一言に対する自問自答。

「タイトルに書いてあるでしょ!『前略』って!」
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