前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。   作:N-SUGAR

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骨を操るキャラは大抵ヤバい!血を操るキャラは大抵ヤバい!

じゃあ、骨と血を操るキャラは?


ここで自分に向けて一言

「それ、弱体化してると言えるの?」



第十六話 骨血使い

 君麻呂が、修行に復帰できる。

 

 その知らせを受けて、私は即座に君麻呂のもとへ走った。

 

 扉間様との基本性質変化の訓練が一区切りついて、今度は私の強みを更に活かそうと新しい術の開発に修行内容が移ったその数日後のことだった。今日も隙を見ては扉間様を呼び出して練習の成果を確認しようと思っていた矢先の報告だったが、すべての予定を返上して私が走るのに、何の迷いも浮かばなかった。

 

「済まない多由也。長いこと待たせてしまったね」

 

「別に待ってねーよ。こっちはこっちで勝手に修行してたからな」

 

 第三演習場。私と君麻呂が初めてチームとして戦った場所。そこで私達は向かい合う。

 

「本当に回復したのか? 確かに覇気は戻ってるみてーだが、いざ修行を始めたらヘナチョコでしたじゃ話になんねーぞ?」

 

「大丈夫。確かにまだ万全ではないかもしれないが、多由也に恥ずかしい姿をこれ以上晒せないからね。これでも結構死ぬ気で努力した」

 

 私の挑発に、君麻呂は涼しい顔で答える。あぁ。これだ。この感じだよ。この会話、この問答。この感じこそが、私の見慣れた光景だ。

 

 お互いに技を見せ合い、私が挑発し、君麻呂が涼しい顔で受け流す。

 

 お互いがお互いの技に対抗し、私が君麻呂に勝つ度に過度に勝ち誇って挑戦状を叩きつけ、次の対戦時には、君麻呂は私の挑戦にきちんと全て応えて、私をけちょんけちょんにぶっ飛ばしてくる。

 

 もちろんそれで諦めれば私が負け犬だ。私は更に対策を組み立て、君麻呂をボコる算段を積み上げていく。君麻呂に、勝ち誇るために。

 

 その繰り返し。

 

 それが、私達の日常だった。

 

 私の修行相手としての君麻呂が、戻ってきた。

 

 その事実を実感する。

 

「ボクが多由也に命を拾われてからこの3ヶ月の間、ただ漫然とリハビリだけして過ごしてきたと思ったら大間違いだよ。ボクはずっと考えてきた。多由也から与えられたこの新しい身体を、どう使うべきなのか」

 

「余計な問答だな。言うだけならなんとでも言える。ウチが気紛れで与えた身体なんてどう使おうと勝手だが、その結果テメーがカスヤローになりましたなんてのは認めねぇからな? 瞬殺されてくれるなよ?」

 

「ああ。始めよう」

 

 いつもの会話。いつもの問答。

 

 懐かしい会話。懐かしい問答。

 

 そして、懐かしい感覚。

 

 大分長いこと味わえなかった感覚だが、それでも身体が覚えてる。

 

 私と君麻呂は、自然に動き出し、いつもの流れを形作る。

 

 いつしかお互いのネタが尽きて終わってしまった日常だったが、今の私には新しいネタがある。

 

 お前にも新しい力は有るだろうが、修行してた私とリハビリで遅れをとってたお前じゃあ、差が開きすぎてて本当に瞬殺できちゃうかもしれねーぞ? 

 

 ま、今日のところは私が胸を貸してやるから、存分にボコられとけ。

 

 何、お前は元々天才なんだ。少しくらいハンデを負ったところで実力だけなら、時間を掛ければ私に追い付くくらいできるだろうさ。

 

 器としての有能さは、そこにはないけどな。だけど代わりにお前を害するモノは、もうここには何もない。

 

 私が、そんなことさせない。

 

 だから、お前は慌てることなく後からゆっくり追い付けば良い。

 

 悪いが暫くの間は、私が勝ち誇らせて貰う! 

 

 私はバックステップで君麻呂から距離を取りつつ、素早く印を結んでいく。

 

「『水遁・水蛇縛り』!」

 

 印を結んで私が前に掲げた両掌から、水遁でできた二匹の蛇が飛び出し、地面を這いずりながら私を追いかける君麻呂に巻き付いていく。

 

 そして同時に、私は戌の印で自分の足に風遁のチャクラ性質を溜め込み、一気に放出する! 

 

『風遁・瞬身の術』。

 

 瞬身の術と言えば雷遁のイメージがあるが、雷遁による身体強化以外に瞬身の方法が無いわけではない。

 

 特にただまっすぐ進むだけならこんな風に、風遁によるジェット噴射を利用した方法の方が、雷遁による身体強化のそれよりも初速度が速い場合もある。コントロールが雷遁よりも難しい上にチャクラ量の問題もあるので、使いどころはそう多くないのだが……。

 

 私はジェット噴射によって一気に飛びあがり、そのまま森の中に姿を隠す。

 

 バシャッ! と、水の弾ける音が耳に届く。どうやら君麻呂が水蛇縛りの拘束を解いたようだ。

 

 私は久しぶりに『秘術・乱反響結界』を繰り出し音の出現位置を不明瞭にして、笛を取り出し幻術を奏でる。

 

 この術が君麻呂に効くとは思っていない。実際骨が動く音がこちらに届いているので、恐らく君麻呂はいつもの手順で私の幻術を防いでいる。

 

『白薔薇の舞』

 

 私の幻術を完封するために作られた、君麻呂の新しい戦闘スタイル。

 

 全身を骨で覆い尽くし、耳を塞ぐのは勿論のこと、皮膚感覚さえ閉じて、私が触覚に訴えかけて幻術に嵌めることすらも封じる絶対防御。

 

 私と共闘する時に塞ぐのはあくまで聴覚だけだ。皮膚感覚は周りの状況を把握するためにむしろ感度を高めていることが多い。血龍眼との戦闘時には、骨の鎧で視覚を封じ、皮膚感覚を頼りに君麻呂は飛段と渡り合っていた。

 

 今回は私が相手なので目を閉じることはせず、聴覚と触覚の二つを封じて戦いに挑んでいるはずだ。

 

 つまりこういうことだ。現在君麻呂は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 今の君麻呂が使っている五感は3つ。視覚、嗅覚、味覚。

 

 君麻呂に嗅覚や味覚を用いた特殊能力は存在していないので、戦闘は主に視覚のみを用いて行わなければならない。

 

 ()()()()()()()()()()! 

 

 私は笛の音色を幻術ではなく、通常の術を発動するための印として奏でる。

 

『水遁・霧隠れの術』

 

 扉間様との練習の時には上手く活用できなかったが、君麻呂相手に、幻術を使って良いという条件下ならばこれほど有効な手札もない。

 

 第三演習場に濃い霧が発生し、視界を奪う。

 

 これで私は、君麻呂から聴覚と触覚と視覚を奪った。

 

 常人並みの嗅覚と味覚しか持たない君麻呂に、私を見つけ出す術はない! 

 

 そして私は音感知によって君麻呂の居場所を常時把握することができる! 

 

 これが性質変化を身に付けた私の必勝タクティクスだ! 

 

「どうだ君麻呂。降参するなら今の内だぜ」

 

 どうせ聞こえないし聞こえたとしても居場所が分からないのを良いことに、私は大声で君麻呂を挑発する。

 

 聞こえてないから、叫ぶことに意味はないのだけれど。

 

「これは……凄いな……」

 

 数秒後、君麻呂の呟く声がこちらの耳に届く。

 

 ふふん。どうだ。迂闊に動くことすらできまい。てきとうに術を乱射させたって、こちとら運動神経もそこそこ鍛えてるし結界忍術もある。対応は余裕だし、いくら君麻呂が絶対防御を持っていたところで、火遁あたりで延々焼き続ければ決定打になるのだ。チェックメイトも良いところだろう。

 

 私が君麻呂からの降参の声を待っていると、しかし君麻呂はその言葉の代わりにただ一言、術の名前を呟いた。

 

「『血遁・血霧の術』」

 

 けっとんちぎりのじゅつ? 

 

 なにそれ聞いたことないんだけど。

 

 私が戸惑っていると、みるみるうちに森の木々を覆い隠す白い霧が、赤色へと変色していく。

 

 いや……変色というよりは、これは浸食か? 

 

 白い霧が、赤い霧に押し出される! 

 

 なんだこの術!? 

 

 扉間様との戦闘訓練で染み付いた癖で私は思わず息を止める。以前扉間様と実戦訓練をしたときにあのクソジジイ、霧隠れに麻痺毒を混ぜて放ってきやがったことがあったのだ。こういうことをする奴もいるという教訓のために放ったらしいが、いきなり身体が毒に犯されたときはもしかしたらこのまま死ぬんじゃないかと思い、かなりトラウマを植え付けられた。

 

 身体が条件反射で動く。

 

 このままではまずい! 

 

 こういうときの対策は主に三つ。

 

 霧を払うか、安全な空気を確保するか、解毒するかだ。

 

 風遁で霧を払ったとしても毒素が完全に払われるかは分からない。霧から逃げられる保証もない。解毒はできるか分からない。だから先ずするべきは安全な空気の確保だと、私は扉間様から教わった。

 

 私は赤い霧が自分の所に来る前に、『水遁・泡沫の術』を自分の頭の周りに発動し安全な空気を確保する。扉間様がこちらに『水遁・毒霧隠れの術』を放って来たときに自分に使っていた毒対策だ。

 

 溶遁みたいにこちらを溶かしてくる毒が使われてたら最悪だが、君麻呂がまさか私にそんなことする筈がないと思いたいので、今回はこれで十分だ。そういう毒を警戒する場合は、多少チャクラを消費すること覚悟で強力な対毒結界を全身に施すことになる。

 

 ふっふっふ! この警戒力と対応力! 扉間様相手に鍛えられたんだ。これくらいのことはできなくては。

 

 しかし、もしもの時の備えをしたとはいえ、正体不明の術にいつまでもかかずらってる暇はない。ここは素直に、霧を吹き飛ばさせてもらおう。

 

 私はそう思って、笛で風遁の印を奏でようとする。

 

 その瞬間、声が届いた。

 

()()()()

 

 みつ……けた? 

 

 それは、どういうことだ? つまり、そういうことか? 

 

 じゃあ、それって、もしかして。

 

 ()()()()()()()()()()()()()? 

 

 私は自分に舞い降りた直感に従ってその場から飛び退る。

 

 その瞬間。

 

 ボボボボボボボボッ!! 

 

 と、私の隠れていた木の幹に無数の穴が空いた。

 

 何か、とんでもねー威力のものが飛んできた? 

 

 しかも、()()()()()()()()? 

 

 私は飛んでくる謎の弾丸から逃げながら、素早く印を奏でる。

 

 一体何が起こってるんだ! 

 

『風遁・霧払いの術』! 

 

 私は自分の周囲から勢いよく風を発生させ、辺りの霧を払う。どうやら血霧の術はちゃんと物理的な霧だったようで、森から赤い霧が霧散していく。

 

 やがて骨の鎧を纏う君麻呂が、その姿を現す。

 

「……!」

 

 私が見たのは、君麻呂の鎧の十本の指の部分が銃口の形に変化した姿だった。その銃口一つ一つから、ちょっとしたマシンガンのように弾丸を次々と発射している。

 

 だが、おかしい。以前の君麻呂も十指穿弾という銃弾のように指から骨を射出する技を持っていたが、ここまでの連射性能は無かった筈だ。

 

 それに、触覚すら封じている君麻呂が、あの濃い霧の中どうやって私の居場所を察知したというんだ? 

 

 とにかく、一つ一つ謎を解いていくしかない。

 

『土遁・土流壁』! 

 

 私は印を結びながら地面に着地し、即座に土の壁を作る。

 

 ドドドドド!! と、銃弾が土の壁に当たり、埋まっていく。

 

 私は壁の後ろから更にチャクラを流し込み、土流壁の形を変える。前の土を後ろに、後ろの土を前に流していくことで、土に埋まった銃弾を取り出そうとする。

 

 すると、土の中からドロリと、赤黒い液体が漏れ出てきた。

 

 これは……血か? 

 

「甘いよ多由也」

 

 声が届き、再び身の危険を感じた私は瞬時に飛び退る。その瞬間、土流壁から漏れ出た血の形が針のように変化し、私を突き刺そうとしてきた! 

 

「な……に……!?」

 

 済んでのところで針から身を躱したが、動揺は大きい。血を使ってくるんだから、つまり血龍眼に由来する能力なんだろうが、血龍眼所有者の血液ってのは、こんなに形と材質を自在に変えることができるものなのか? 

 

「言ったろう? ボクはただ漫然とリハビリを受けていた訳じゃない。その間も必死に考えて、カブト先生に協力を仰いで大蛇丸様の研究にも参加させてもらって、常に求め続けてきたのさ。多由也にもらったこの身体の、最も有効な使い道を」

 

「それが、この、血液硬化だってのか?」

 

「そうだ。血中鉄分の増幅だけじゃない。予め射出する血液にチャクラと骨芽細胞と破骨細胞を埋め込んでおくことで、流体操作と硬度変化と遠隔操作を同時に行うことが可能になったボクの新しい武器、『骨血(こっけつ)』! 流石の多由也でも、そう簡単には打ち破らせないよ」

 

 遠隔型の流体操作と硬度変化だと!? なんちゅー武器を獲得してやがる。骨の操作だけでも厄介だってのに、血液と合わさるとそんなことになるのか!? 

 

 いや、まて。まだ慌てる時じゃない。その術には弱点がある。

 

「確かに強そうな術ではある。だが、どうなんだ? そんなにバカスカ血を流したら失血死しそうなもんだが?」

 

 血龍眼は血を扱うことに長けた瞳術だが、その瞳術に血液増加の能力は内包されていない。血液を媒介に鉄泉を操るなどの能力はあったが、あんなもの、地獄谷のような特殊な場所でもなければ効果を発揮しない術だ。

 

「お前は骨をいくらでも増やせる能力を持っちゃあいるが、血を増やす能力なんて持ってねーだろうが。新しい力に有頂天になるのは良いが、あんまり調子に乗ってっと自分の身体を壊すだけだぜ?」

 

 私は勝ち誇った笑みを浮かべる。半分は強がりだが、残りの半分は確信を持って言える。私が君麻呂に負けることはない。

 

 その証拠に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 病み上がりというのもあるのだろう。だが、それだけじゃない。君麻呂は自らの血継限界と血龍眼の血継限界の同時使用に既に疲れ始めているのだ。圧倒的なスタミナ不足。ただ普通に戦うだけでも、チャクラをみるみる消費していく。

 

 私が選んだ治療法の、副作用。

 

 無理すんなよ。君麻呂。

 

 お前はもうそんなに無茶できるような身体じゃないんだから。

 

 私はただ逃げるだけで良い。逃げながら、ちょこまかと鬱陶しく攻撃をし続ければ、君麻呂はチャクラ切れでダウンする。

 

 ま、せっかくの君麻呂との久しぶりのバトルだ。そんなつまんねー試合をするつもりもねーけどな。

 

「流れる血が全て武器になるってんなら、全てを吹き飛ばすだけだ。ちゃんと骨で守れよ君麻呂。ウチの攻撃は、熱いぞ?」

 

 私は口笛と指の印で、風遁と火遁を練り上げる。前に合体させたときは風遁主体の忍術だったが、今度は火遁主体の忍術だ。

 

『火遁・火龍炎弾』+『風遁・烈風掌』

 

 で、

 

「『火遁・双頭大火龍炎弾』!!」

 

 豪ッ!! と、口から噴き出した炎の龍が、両手から出される風によって増幅し、その体躯を大きく広げ巨大な頭を二本に増やす。

 

 たとえ私の術の精度が低くてまだまだ弱い火遁だったとしても、風遁と合わせることで並みの火力を軽々と超越することができる。

 

 やはり印を同時に二つ結べるというのは、良いものだ。

 

 とはいえ、病み上がりと言っても100枚の互乗起爆札を生き残ったあの君麻呂である。ちゃんと骨で防御を固めれば、全身をちょっとやけどするくらいの怪我で済むだろう。あれから1年近く経って君麻呂も成長している。命に別状はない筈だ。

 

 多分。きっと。

 

 ……ちょっと不安になってきた。

 

 流石に火力が強すぎただろうか。

 

 最近まで相手が扉間様だったもんだからこれくらいの術普通にバカスカ撃ってたけど、君麻呂相手だとやり過ぎになってしまうんだろうか。

 

 せっかく現場復帰したのに、また数週間の入院生活とか嫌すぎるぞ? 

 

 と、思っていると、

 

「いやはや、凄い火力だ。少し目を離した内に、多由也がこんな術を身に付けているだなんて」

 

 煙の向こうから君麻呂の、割りと平気そうな声が聞こえてくる。ほっ。ひとまずは安心だ。

 

 でも、いくらなんでも声が元気すぎないか? 

 

 骨で守ったとしても、この火力なら少しくらい熱が浸透してても良いと思うんだけど……。

 

 そう思っていると、煙が晴れたその先に、あり得ないものが見えた。

 

「な……んだ……そりゃ……」

 

 煙の向こうに、赤黒い大きな壁ができていた。次の瞬間、壁はバシャリと破裂して、わりと大きな血の水溜まりを作る。

 

「それは……全部血液なのか……?」

 

 どういうことだ? あり得ないだろ。

 

 そんな大量の血、何処から持ってきたって言うんだ。

 

「多由也にしては、かなり鈍いね。もしかして知らなかったのかな?」

 

 液状に崩れた壁の向こうから姿を見せた君麻呂が、頭を覆う骨を開いてにこやかに語りかける。

 

「考えてもみなよ多由也。血液ってのは、どこで作られるものだい?」

 

 血液を、作る器官? そりゃ……。

 

 それは……。

 

 ああ。……そういうことか。

 

 血液を作り出す器官。それは……、

 

「骨髄……」

 

「そう。骨髄。血というものは元来、骨の中心にある骨髄の、造血幹細胞によって精製される。ねぇ多由也。君は自分で言っただろう? ボクには、骨を自在に増やすことのできる能力があるって。ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 おいおいおい……。何てこった。コイツ、思った以上に血龍眼と相性が抜群だ。

 

 じゃあ何か? 君麻呂は血龍眼によって武器となる血を、チャクラの続く限り幾らでも増やすことができて、血之池一族と違い場所に左右されず何処ででも、水遁とかと同じノリで血遁忍術を使用できるってことか? 

 

 なんだそのチートヤロー。私が苦労してチャクラ量増やして基本五属性会得してる間に、なんでそんなスゲー血継限界会得しちゃってんだよ。

 

 全然差、ついてねーじゃん。

 

「因みに、気になっているだろうから教えておくと、さっきボクが血霧の中で君の居場所を見つけたのは磁力感知によるものだよ。血龍眼は、空気中に散らばった血中の鉄分を介して物体感知を行うことができるんだ」

 

 はーあ? 磁力感知だあ? 何五感以外の第六感を増やしてやがるんだコイツ。つまりお前、あの血霧さえ出しておけば五感全部封じても動くことができるってことか? 

 

 才能の塊かよコイツ。マジでスタミナの問題が無かったら最強じゃねーか。血龍眼を本格的に使い始めたらお前、私以上の幻術まで使うんだろ? そんなことまでやり始めたらもう一部の化け物を除いてお前に勝てる奴なんかいねーよ。

 

 あー。ムカつく。なんなんだこの天才は。私の努力を嘲笑うかのような躍進を遂げやがって。

 

 

 よし。決めた。瞬殺しよう。

 

 

 病み上がりの病人相手だからって手加減してやったら調子に乗りやがって。ふざけんなよ? もー怒ったかんな。

 

 ぶっ殺す。ぶっ殺しはしないけど、瞬殺する。

 

 世の中そんなに甘くねーってことを、このマジもんの天才にわからせてやらなければ。

 

 使ってやる。本日扉間様と実戦訓練する筈だった新術を使って、どっちの立場が上なのかってやつを分からせてやる。

 

 リハビリしてた病人に、修行してた健康優良児が負けるわけねーだろうが! 

 

 私は木の上に飛び上がって笛の音を吹き始める。

 

『魔笛・幻惑香華』

 

 ふわりと、辺り一面に甘い香りが広がる。甘い香りというのは文字通り鼻で嗅いでも甘い香りだし、口で吸い込んでも甘さを感じるとにかく全体的に甘い感覚を与えることに特化した代物だ。

 

 再び頭を骨で覆い始めた君麻呂には分からないだろうがこの術、耳で聴いても曲が甘ったるいし、肌で感じてもふんわりした甘い感触がする。

 

「う……うわ……」

 

 そして何より、目で見ても甘い。そういう風に、演奏する。

 

「凄く……綺麗だ……」

 

 ……! そりゃ、そういう風に演奏してんだから、そんなこといちいち言わなくたって分かってんだよ! 私が何度この曲を鏡の前で頑張って練習したと思ってんだ! ダンスレッスンと勘違いしそうになったくらいだわ! 

 

 それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この術、ありとあらゆるものが甘いが、()()()()()()()()()()? 

 

「……! ぐ……、あ……!?」

 

 そら、掛かっちまった。残念だったなー君麻呂。()()()()()()()()

 

「身体中が……痛い……というか……、何で……()()()()()()()()()()!?」

 

 地面に踞る君麻呂が、困惑の声を上げる。そりゃそうだ。全身に耐え難い痛みが襲う上に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、誰だって驚きもする。

 

「君麻呂、テメーは共感覚って知ってるか?」

 

 私は木の上から君麻呂を見下ろし語る。今の私の声は、そのまま君麻呂にも届く。

 

「五感で認識するものごとを、他の五感の情報として認識しちまう知覚障害のことを言うんだけどな。例えば世の中には、音や臭いを色で感じる共感覚を持っている奴なんかがいるらしい。ただ、そこまでの事はないにしろ、五感のなにかを別の五感で錯覚するってのはわりとよく聞く話だろ?」

 

 梅干しを見ると酸っぱさを感じて唾液が出るとか、音を聴いて景色を思い出すとか。嗅覚と味覚は密接な関わりがあるとか。まぁ、それらは条件反射とか神経の繋がりとかの別の問題になるので共感覚とはまた違うのだが、とにかく似たような話ではある。

 

「この術は、それを積極的に誘発する。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚。五感の全てで同じ印象を抱かせる現象を引き起こし、チャクラを混ぜこんで知覚誤認を引き起こす。耳が聴こえないのに音が聴こえ始めたらもうアウトだ。お前は幻術に掛かっている」

 

 この術の強力な点は、五感全てに訴えかけて幻術を引き起こすという所にある。五感の何れか一つでもトリガーを捉えれば、対象は幻術に引摺り込まれる。感じる五感が多ければ多いほど術に掛かりやすく、また効果も大きくなるが、別に1つからしか掛からなくても十分な効果は得られる。この術を初めから防ごうと思ったら、私に対して五感の全てを封じなければならず、そんなことをしたら格好の的になること請け合いである。

 

 そして、この幻術が見せる幻惑はなんなのかと言えば、それは「痛み」だ。

 

()()()()()。この術の効果はそれだけだ。余計な幻覚なんか見せないし、対象を縛りもしない。ただ痛みだけはマジで酷い。それこそ、全身を串刺しにされるような痛みが襲うからな。とてもじゃねーが動けねーし、痛みで集中力が削がれてチャクラもろくに練れやしない」

 

 飛段みたいな痛みに喜ぶド変態でもない限り、この痛みに耐えられる奴はほぼいない。身体を動かせば動かすだけ痛みが襲うので、ろくに印も結べない。

 

 この術の特徴の1つに、一度でも幻術にかけてしまえば、後は演奏している曲を変えても他の感覚トリガーに変わりが無ければしばらくトリガー効果が続くというものがある。術を別のものに切り替えても匂いや味の成分は空気中に暫く留まり続けるし、視覚効果の部分は、私が演奏スタイルを変えなければそれで良い。

 

 幻術効果が残るのは当然として、その上で更に幻術を掛け続けた状態のまま、次の攻撃に移れるのだ。

 

 何よりこの術の一番良いところは、()()()()()()()()()()()()()()()()()。だってもう痛覚は必要以上に働いている。どれだけ自分を傷付けたところで、そんなのは幻の痛みか本物の痛みかの違いがあるだけでしかない。

 

 心臓の弱い人間に掛ければそのままショック死しかねない。数ある幻術の中でも、おそらくうちはイタチの『月読』の次に攻撃的なのがこの『魔笛・幻惑香華』である。

 

 勿論君麻呂には血龍眼があるから、少しでも落ち着いて対処しようと思えば幻術を解かれる可能性はあるし、よっぽど我慢強い人間ならもしかすると痛みに耐えることができるかもしれない。痛覚を遮断されてもこの術の痛みは幻なのでなんの影響もないが、上から痛みを和らげる幻術が掛けられれば効果を失う可能性もある。

 

 だからそーゆー余計な対処をされる前に()()()()()()で止めを刺すまでが1セットなのだが、君麻呂相手にその術を使う気は無い。だから、私は普通に声をかける。

 

「どうだ君麻呂。動けないようならそのまま止めを刺すけど、何か瞬時に繰り出せる対抗策はあるか?」

 

「……ない。正直……チャクラが足りなくて、血龍眼もまともに発動できそうに無い……。参った。降参だ……」

 

 よし、勝った。

 

 病人相手に大人げない気もするが、その病人に勝たれたんじゃ私の立つ瀬が無い。

 

 恨むなら、こんな術をパッと思い付きで提案してきた扉間様を恨むんだな。

 

 私は術を止めて、君麻呂の側に着地し、印を結んで踞る君麻呂の背中に右手を押し当て、幻術返しを施す。

 

 そうしてやっと激痛から解放された君麻呂は、全身の力が抜けて地面に倒れ伏した。

 

 うーん。流石にやり過ぎたか……。ぶっちゃけ感覚時間毎に感じる痛みのレベルは下手すると『月読』より若干酷いまであるので、あまり長時間掛け続けると精神崩壊を起こしかねないのだ。この術。

 

 掛けたときの痛みが常にその時施せるフルパワーなのが、この術の欠点だな。実戦使用前提過ぎて、練習で使えない。今度扉間様と練習する機会があったら、意地でも掛けてやろうと思った。どうせ使える術を寄越すならもっと自由度の高い術を寄越して欲しい。まぁ、私に合った術を即興で作り出してしまった発想の実現力は、流石としか言えないんだけど。

 

 

 それから数時間後、何とか無事にショックから立ち直った君麻呂と私は、演習場の外れで昼食を取っていた。

 

「どうだ? 味は」

 

「凄く美味しいけど、ちょっと量が多すぎないかい? 個人用の弁当に重箱って、初めて見るんだけど……」

 

「お前は今が成長期なんだからなんでもガツガツ食って身体に溜め込んだ方が良いんだよ。骨だの血液だの無駄に使いまくって、栄養が足りてるわけねーんだから」

 

 それに、ちゃんと病人食用に消化に優しいものしか用意してないし、もっと言えば青魚や海藻、大豆系、キノコ等の血管や骨によく効く材料を厳選してるからこれでも少ない方だ。

 

 お前が気絶してる数時間で大急ぎで作ってやったんだから、全部食ってもらわないと作った甲斐がない。

 

「負けた分際で文句を垂れるな。とにかく食え。食って力をつけろ」

 

「ムガモゴ!」

 

 私が箸で掴んだ煮付けを勢いよく君麻呂の口に突っ込むと、君麻呂は目を白黒させて私の腕をタップする。

 

 あれ? 喉にでも詰まらせたか? 私が箸を引っこ抜くと、君麻呂は勢いよく咳き込んだ。

 

「ぶは! 死ぬかと思った! 口にものを入れてるときに追加で突っ込まれたら流石に詰まるよ! それに、多由也の作ってくれたものなんだ。文句なんかあるもんか。ちょっと量が多いけど、このくらい食べれるとも」

 

「そうかよ。そりゃ良かった。じゃあ、全部食えなかったら罰ゲームな」

 

「ええ!?」

 

 私は笑いながら、君麻呂の弁当の片手間で作った握り飯を口の中に放り込む。君麻呂はそれを見て何か言いたそうにそわそわしていたが、何か言うより先に私が箸で焼き魚を突きつけて口を封じると、結局何も言うこと無く口で焼き魚を受け取った。

 

 

 それから更に数時間経って、私と君麻呂は昼食も食べ終わり、特に何をするでもなく草原の上に横になっていた。

 

 最初の方は、最近何してたのかとか何でもないようなことを言える範囲でお互い話してたりもしたのだが、意外とすぐにネタが尽きて、お互い話すことも無くなった。まあ、私の場合近況の八割がた話せないことばかりなので、仕方ないことなのかもしれないが……。

 

 でも、うん。

 

 たまにはこういう時間も、悪くない。

 

 いつもいつも修行だの事件だのの連続では、流石に疲れる。こまめに休息を取るのも、立派な修行のうちだ。

 

 春の麗らかな風が程よく私の身体をくすぐり、いっそのことこのまま寝てしまおうかと思い始めた時、ふと、何か違和感が私の耳を掠める。

 

 すると、私のすぐとなりで寝転んでいた君麻呂が、腕をついて起き上がる。

 

「……侵入者か?」

 

 ボソリと呟いた君麻呂の言葉に反応し、私も起き上がりながら印を構え、鼓膜の感度を上げる。

 

 すると──

 

「──おい君麻呂。もう少し近づいて様子を見る。行くぞ」

 

「分かった」

 

 なんだか不吉な声が僅かに聴こえ、私は確認のために、君麻呂と共に声のした方へと足を進める。

 

 やがて

 

「ここからなら、声が聴こえそうだ」

 

 侵入者から500メートルほどの距離。音を立てずに近づいた私と君麻呂は、木の影で息を潜め、様子を見る。

 

 感度を高めた私の耳に、二人の侵入者の声が届く。

 

 

「──で、この先にあるえっと……なんだっけか」

 

「音隠れの里だ」

 

「そうそう。それだ。聞いたこともねー里だが。そこに何があるって言った?」

 

「だから、賞金首だ。音隠れは犯罪人や抜け忍といったブラックリスト入りの賞金首を主な構成員としている。小物が多いが、それでも掴み取りだ。これ程の宝の山はそうそう拝めないレベルだと言って良い」

 

「興味わかねーなー。大体あれだろ? その音隠れ、大蛇丸の里だっつーじゃねーか。新入りのオレが言うのもなんだけどよ。仲間なんだろ? 良いのかよ、そんなことして」

 

「大蛇丸が音隠れを運営しているという情報はオレが個人で得たものだ。組織内で周知されてる情報ではないからな。見つかったとしても、知らなかったで通せば済む話だ。メンバー1人の軽微な損失など、これから手に入る金に比べれば気にするほどのものでもない」

 

「カーッ! 人情っつーもんがねーのかよアンタ! ほんと、変な奴の相方になっちまったなー」

 

「うるさい。あまりグチグチとごねると殺すぞ」

 

「だからよぉ。殺せるもんなら殺してみろっつーんだ。記憶力ねーのかよこのおじーちゃん」

 

「ハァ……。オレの方こそ、何故こんなのと組まなければならないんだ……」

 

「だからよ? 宗教は金になるっつってんじゃん。賞金首なんか集めてないで信者を集めようぜ。そしてみんなでジャシン様を崇めて殺し合うんだ。楽しいぞーきっと」

 

「……一銭の価値にもならん生産性のない行為だ。やはり殺すか」

 

「だからよ……。って、この会話無限ループなの? 怖いわ」

 

 

 ──うわぁ……。

 

 会話をそこまで聞いて、もう聞く気が無くなった。

 

 特徴的過ぎる声の二人組。しかも片方は数ヵ月前に聞いたことある声だし、なんなら見なくても現在の二人の姿形や服装がわかるレベルだ。

 

 えー。なんで? なんであの二人がここに来るの? 

 

 いや、理由は片方のくっそ渋い声のおじいちゃんが言ってたけどさ。

 

 えー。こんなことってある? そんな話聞いてないよ。

 

「どうだい多由也。何か分かったかい?」

 

 君麻呂が、私にだけ聞こえる声で話しかける。

 

 私は、そんな君麻呂にげんなりした顔を向けて、ため息をつく。

 

 つくづく思う。平和な日常ってのは、続かないものなんだなぁと。

 

 はぁ……。やるしか、ないか。

 

 

「不死のお客様が二名ご来店だ。ぶっ殺そう」

 

 

 私はやけくそ気味の投げやりな声で、投げやりに答えた。

 

 

 

 ▼次回につづく。

 

 




よっしゃー!多由也が性質変化を覚えたことで漸く敵キャラにアイツを出せるぜー!性質変化相性検定初級ことあの人をね!多由也が音隠れに来てから大体一年経ったし、まぁ、いけるでしょ(?)。

きみまろくん。君、ハンデ無しで成長すると多分あれだよ?音隠れ最強まで有るからちょっと自重した方が良いよ?

そんな16話でした。

ああ、あと、君麻呂くんの『骨血』ですけど、元ネタあります。ていうか、漢字は違うけど読み方は同じです。はい。狂気に飲み込まれないと良いですね。



前書きの一言に対する自問自答

「じゃく…たい…か?何それおいしいの?」
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