前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。 作:N-SUGAR
ここで自分に向けて一言
「アレってなんだよ」
飛段と角都。
基本的に
不死コンビ等と呼ばれるくらいなので、当然のように二人とも不死であり、会話内容からも分かる通りお互いの命を特になんとも思っていない節がある。仲が悪いんだか通じ合ってんだかよく分からないコンビだ。特に角都はトラブルが起こるとイラついてすぐに相方を殺す癖があり、『暁』内でも暫く相方が決まらなかったという経歴を持つ。飛段は前に一度語ったから省略するが、角都という忍は、飛段とはまた違った不死を体現している。
角都の年齢は作中登場した時点で91歳だという。現代日本からすれば有り得なくもない年齢ではあるが、大きな戦争が複数回起こっているこの世界の忍の平均寿命は著しく低く、一度も死なずに生き残っている忍の中では角都は最高年齢を記録していると言って良い。
死後復活するような化け物や、忍が誕生する遥か昔から生きている宇宙人がいやがるから霞んでしまうが、角都という男は忍の中でも生き残ることに関しては一番の成功を修めている。
初代火影千手柱間の暗殺に失敗しても逃げ帰り、滝隠れの里に処断されそうになっても上役を殺して生き延びて今の今まで命を永らえてきたその生存能力は、素直に賞賛に値するだろう。
私達の世界だったら、歴史の教科書やギネスブックに登録されててもおかしくない人物である。
生きた歴史。時代の生き証人。
そんな男が、音隠れの里に攻めてきた。
いつの間にか『暁』に入っていたらしい飛段とコンビを組んだ角都は、どうやらこの里にいる数多の賞金首たちを狙っているようだ。
正直、私的には心底どうでもいい。危険人物が来たならさっさと安全圏に逃げ込んで、特に親しくもない音隠れの忍達を好きに狩らせて満足して帰っていただくのが一番楽だ。
でも、立場上そんなことをするわけにもいかない。私は裏切っているとはいえ一応まだ音隠れの忍なので、敵が来たら迎撃しなきゃいけない。居合わせたのが私一人だったらそ知らぬ振りもできたが、君麻呂を連れてきてしまったのでそれもできない。
やるしかない……のか。飛段だけだったらまだ余裕を持って対応できたんだけどなぁ……。
私は角都の能力を思い出す。確かアイツ、5つの性質変化全てを高いレベルで使ってくるのだったか……。
初代火影と戦って、生還した男。
逃げ帰ったという言葉のイメージからは大したこと無いように聞こえるが、忍の神としての千手柱間の実力を知っていると、戦って逃げ帰っただけでも世紀の偉業に数えられるレベルと言って差し支えない。
そんな角都の忍としての腕が低い筈もなく、彼はとんでもない術を使って自らの不死性を高めている。
『秘術・地怨虞』
滝隠れの里の禁術で、自身の身体を作り変え、身体中から無数の黒い触手を生やして身体の形を自在に変化させる術だ。どんなに身体を分割しても、触手で繋げれば元に戻り、その触手を使って様々なことを実行することができる。
この術の最も特異な所は、触手を使って他人から心臓を周囲の経絡系ごと奪い取り自分のものにしてしまうという点にある。しかも奪った心臓の持ち主の経絡系を通して、その持ち主が得意とする性質変化を扱うことができるというおまけ付き。彼はこの術を使って常に新しい心臓を五つストックし、新鮮な身体のまま生き続けている。しかも5つの心臓の内4つは、自律行動を取ることまででき、角都は1人の人間でありながら実質5人分の戦力になる。
この術は医学的に見ると、かなりおかしな点が多い。心臓を古いものから新しいものに入れ換えるのは良いが、心臓移植というのは体格や血液型が合致しなければドナーとして適しているとは言えない。必ず拒絶反応や不具合が起こり、術後しばらくして心不全を起こす。心臓移植というのはそこら辺の誰かから適当に行えば良いというものでは無いのだ。
それ以前にそもそも心臓を移植したからと言って身体の全てが一新される訳じゃない。脳を始めとする心臓以外の細胞はすべてそのままであり、遅かれ早かれ細胞分裂が限界を迎え老化によって死亡することになる。
だけど角都はそうはならなかった。彼は禁術を使用し始めたその時から身体が大きく年を取った形跡がない。彼は心臓の移植だけで老化を止め、長い間生き続けているのである。
それは何故か、想像するしか無いが、ヒントは恐らく原作の描写に隠されている。
というのもあの男、身体の内部が全体的に黒い触手で満たされていて、心臓以外の臓器や骨、筋肉や血管が何処にも見当たらないのだ。術によって頭が分裂しても、脳が確認された描写が何処にもない。
少年誌だから載せられないだけかもしれないが、そこに意味があるのだとすれば、一つの答えに辿り着くことができる。
『秘術・地怨虞』は、おそらく人間を人間ではない別の何かに作り替える術だ。原理としては、同じ『暁』のメンバーである赤砂のサソリが行った自分自身の人傀儡化に近い。
心臓以外の身体の全てを、朽ちぬ触手に変換した。もしくは朽ちたとしても、いくらでも作り替えられる身体になったのかもしれない。おそらく、外見を形作っている姿も形だけ人間の姿を保った飾りでしかないのだろう。むしろ角都の本体は、彼が分裂体として出した仮面の化物そのものなのではないかと思われる。だからどれだけ分割しようとも心臓さえ残っていれば好き勝手に繋ぎ合わせることができるのだ。
飛段の首やデイダラの腕といった部品を触手を使って拒絶反応もなく綺麗に縫い合わせることができるという事実から察するに、あの触手は拒絶反応なしに人間の身体の代わりができる万能細胞のような役割を果たすのではないだろうか。
だが、その触手を動かすのにはどうしても生身のエネルギー源が必要だった。それが心臓と、その周囲の経絡系だ。こればかりは触手による代用が利かず、常に古い心臓と新しい心臓を交換し続ける必要があった。故に、角都は心臓を全て潰されるとエネルギー供給ができなくなって死んでしまうのだと思われる。
まぁ、こんなものは全て想像の域を出ない妄想だ。実際どうなのかは分からない。だがこの妄想が事実だとすれば、
『秘術・地怨虞』が解ければ、身体は元に戻るのかもしれない。でも、そんなことは角都が完全に死にでもしない限りはあり得ないことだ。角都を倒そうと思ったら、私達は角都の心臓をとにかく狙い続けるしかない。
強力な広範囲性質変化を使い、心臓しか弱点がない上に、その心臓が5つある実質5人組の忍と、広範囲攻撃を意に介さず連携できる不死の身体を持つ体術が得意な呪術師の二人組。
うーん。相手したくないなぁ……。
取り敢えず戦闘になった場合、あの二人に連携を取られるのは厄介だ。飛段にちょこまかと動き回られると心配になるし、角都と連携を取られるとろくに拘束もできない可能性がある。
できれば、初手で分断したい。
「君麻呂。お前今、チャクラはどんな感じだ?」
「……あまり、万全ではない。少しは回復したけど、すぐに尽きてしまうかもしれない」
だよな。私は君麻呂の返事に頭を抱える。数時間前の戦闘訓練で君麻呂は殆んどチャクラが底をついてしまっている。昼飯を食べて少し休んだとはいえ、完全回復なんてできるわけがない。あと数回術を使おうものなら、君麻呂はカカシ先生みたいに、一週間程動けなくなってしまうかもしれない。
私だって、まだチャクラは回復しきっていない。この状態で角都と戦えと言われると、正直少しキツイかもしれない。
一番手っ取り早い解決策は、口寄せで扉間様を呼んであの二人を追い返してもらうことだ。でも、君麻呂がいる今の状態でそんなことができるわけがない。
ならばどうするか……。
……。
…………よし。
私は考えを纏める。この作戦なら、多分、うまくいけば、勝てる。
私はまず、君麻呂に侵入者である二人組の情報を共有する。片方は既に共有済みだから良いが、角都の方は、かなり詳しく説明しておかなければならない。
「──……なるほど。滝隠れの抜け忍……。そんな忍がいるとは、やっぱり世界は広い……。それに、またあのジャシン教徒か……」
説明を聞いた君麻呂は、難しい顔をしながらも情報を飲み込む。
情報共有が済んだら、今度は作戦だ。
「君麻呂お前、飛段を一人で倒せるか?」
「ジャシン教徒を? うーん。多分、できるかな」
「残りのチャクラ量で、行けるか?」
「殺せるかは分からないが、拘束くらいなら余裕だと思う」
余裕か。コイツもなかなか言いやがる。少し不安だが、私も君麻呂なら飛段を封殺できると確信している。ここは、信じて任せてみるか。
「なら、ウチが初手であの二人を分断するから、お前は飛段を拘束して足止めしてくれ。その間に、ウチは角都の方を倒す」
「一人で大丈夫なのかい? 話を聞く限り、その男はかなり強い忍みたいじゃないか」
君麻呂が心配そうな声を上げる。真剣な目で私を見つめる君麻呂を安心させるように、私は不敵な笑みを返す。
「ウチを誰だと思ってる。今のとこ、ウチはお前より強いんだぞ? それに勝算もある。そう簡単に負けやしないさ」
その上でいざって時の対策も、今の内に施しておく。
私は印を結び、土遁の術で大蛇を形作る。そしてその口の中に侵入者二人の情報を書き写した巻物を入れ、アジトへ向けて這わせる。
「これで、バトルを耐久戦にできる。アジトには今カブトさんが居るはずだから、ちゃんと情報が届けば適切に対応してくれる筈だ」
赤い雲の模様が入った衣を着た二人組。この情報だけでも、カブトさんなら侵入者が『暁』のメンバーであることを察してくれるだろう。そうすれば、カブトさん経由で大蛇丸様へと連絡が入り、そうなれば、もはやあの二人は音隠れの里に手出しをできなくなる筈だ。メンバーが治めている里だと知らなかったという言い訳が、通じなくなるのだから。
「君麻呂。ウチはお前を信頼して飛段をお前に任せるんだ。お前もウチを信用して、角都を任せてみてくれないか?」
「もちろんボクは多由也を一番に信頼しているとも! あ、いや、その、……つまり、大蛇丸様と同じくらいには信頼してる。だけど……うん。そうだね。確かに、今のボクではその男相手に上手く戦える自信は無い。その男との戦いには、大量のチャクラが必要になりそうだからね……。分かった。ボクは多由也の作戦に乗ろう。ジャシン教徒の方は、ボクに任せてくれ」
「決まりだ」
私と君麻呂は木の影から立ち上り、自分達の周りに消音結界を張って、完璧に音を立てずに飛段と角都の方へ向かっていく。やがて、二人との直線距離が50メートルくらいに縮まった辺りで、私達はすぐに作戦を開始する。
『風遁・大突破』!
私は印を結び息を大きく吸い込み、暴風としてその空気を吐き出す!
風遁のチャクラによって巨大な突風へと増幅された私の息が木々を薙ぎ倒しながら飛段と角都に直撃する。遠距離からの完全な不意討ち。二人の侵入者は私の術を防ぐこともせずにまともに浴びることになる。
結果。
「うおおおおおおお!?」
「む……」
飛段は風遁を浴びて地面から吹き飛ばされ、角都は地面に踏みとどまる。よし! 予想通り!
私は全速力で二人の方へと走りながら、次の印を構える。
『風遁・真空大玉』!
私は地面から空に舞い上がった飛段に向けて更に空気でできた巨大な大砲を打ち出す。空中でもろに術を浴びた飛段は、大きく弧を描いて吹き飛び、遠くの木々の中へと墜落していった。
「今だ君麻呂! 行け!」
「分かった!」
私はそのまま角都の方へと接近し風のチャクラを溜めたクナイで斬りかかり、君麻呂は私と角都を迂回しながら飛段の吹っ飛んだ方へと走り出す。
「……成程な。オレと飛段を分断して一人一人仕留めようという腹か。特に困りもしないが、さっきの風遁は中々だったな」
角都は不意討ちを受けても冷静なまま状況を分析する。
「で、オレが素直に行かせると思うのか?」
そして、角都は私のクナイを完全に無視して、私と君麻呂の双方に向けて
「────っ! させるか!」
私はクナイの向きを変えて伸ばした腕の黒い触手部分に斬りかかるが、触手が少し撓んだだけで全く斬れる様子がない。
「ぐっ!」
近くにいる私の首が力強く掴まれ、君麻呂にもう片方の腕が迫る。
「──っ! 舐めるな!」
あまりの力に息ができないが、私は瞬時にクナイを角都に投げつけ同時に印を結ぶ。
『忍法・金縛りの術』!
「むっ……」
渾身の力で掛けた『金縛りの術』に、角都の動きが一瞬止まる。私はその隙に身を捻って腕の拘束から抜け出し、君麻呂も森の中へと走り去っていった。
「一匹逃がしたか。オレを一瞬とはいえ縛るとは中々強力な金縛りだ。だが、その判断は正しいと言えるのか?」
風遁による瞬身で素早く距離を取った私に、既に金縛りを解いた角都が語りかける。
風遁の性質変化を混ぜ込んだクナイの直撃を受けているのに、角都は全く傷ついた様子がない。
よく見れば角都の皮膚が浅黒く染まっている。これは確か、原作でも見たことのある術だ。
『土遁・土矛』。確か、土遁の性質変化で身体を強化し硬質化させる術だったか。硬質化による攻撃と防御を併せ持つ術で、しかもその防御力は弱点である雷遁以外の物理攻撃を全て跳ね除ける程の硬度を誇る。
カカシ先生の千鳥で簡単に打ち破られてしまったからそこまでの脅威を感じることが無かったが、そうか。この術、地味に絶対防御なのか……。
しかも都合の悪いことに、私は雷遁の性質変化に適性がない。
どうしよう。早速詰んだかこれ。
私が思索を巡らしていると、角都は更に言葉を続ける。
「貴様は、音隠れの忍だな。しかもお前の顔は手配書で見たことがあるぞ?」
「は? 手配書?」
私は思わず聞き返す。私が手配書? 冗談だろ。ビンゴブックはしょっちゅう確認してるけど、そんなもん見たことないぞ。
「ああ。お前、草隠れで上忍を含む忍8名を殺し里を抜けた由也とかいう忍だろう。草隠れの手配書で、Cランクの犯罪者として500万両の賞金が懸かっている」
いつの間にそんなもんが……。いや、成程。見逃してた訳が分かった。最近の私はAランク以上の大物の手配書しか見てなかったから、Cランクなんていう無限に湧いて出てくるような小物の手配書に目を配ってなかったんだ。しかも、草隠れの手配書自体、あんまり注目して見てなかったという事情もある。見逃すわけだ。
しかし上忍を殺してるんだから、指名手配されるんならBランクくらいあってもいいと思うんだけど、Cランクなのか……。もしかして、任務中に背後から騙し討ちしたと思われてんのかな。
一部間違ってはいないけど、釈然としない。いや、つーか、そんなこと言ったら手配書に載せられること自体心外なんだけど。
500万両。500万両かー。大金ではあるけど、賞金首として高いかと言われたら、全く全然そんなことはないんだよなー。普通に雑魚レベルの賞金だ。
アスマ先生なんかは闇の相場で3500万両の賞金首だし、アニメオリジナルではあったが、六尾の人柱力であるウタカタは霧隠れの抜け忍として5000万両の賞金が懸かっていた。そう考えると、私の賞金なんてのは本当に微々たるものだ。
因みに私がこの世界に来て手配書を確認した限りでは、カカシ先生も写輪眼を所有しているといった事情から各地の闇市場で最低でも4000万を越える賞金が懸けられていたし、赤砂のサソリや うちはイタチといった、一人で里や小国を壊滅させた実績を持つS級大犯罪者ともなるといよいよ億を越えるような賞金が課せられていた。ああいうのを見ちゃうと、金に目が眩んで賞金稼ぎに転職しようかと考える心理もかなり理解できる。賞金首はただ賞金首であるというだけで、誰かから狙われる理由を作ってしまう。
あんまり高い賞金首になって他所様から狙われるのもつまらないし、まぁ、そんなもので済んでいるなら、私はそれで良しとしておくべきか。
それにしても、由也か。そいつは随分懐かしい呼び方だ。
「ウチは由也じゃねェ。多由也っつーんだよジーサン」
「フン。名前などどうでもいい。大事なのはお前が金になるか、ならないかだ」
私が思わず訂正するも、しかし角都はそれを興味なさげに受け流す。
コイツ、本当に金の話しかしねーな……。
それこそ、分かっていたことではあるけれど。
「狙いは分かってる。さっきの会話は聞かせてもらった。で、その上で教えてやるが、お前に渡す金なんてこの里には1銭もないんだよ。大人しく帰るなら、今日のところは不法侵入を見逃してやるが?」
「貴様から金をもらう必要はない。お前達の死体を持ち帰り、金と交換するだけだ」
それでももしかしたらワンチャン帰ってくれやしないかなと僅かな希望を抱いて提案してみたが、やっぱり駄目だった。
じゃあ、もう、やるしかねーな。
「だったら、実力で排除するだけだ」
「出来るのならな?」
私は手の笛を口に当て、音色を奏でる。
君麻呂には耐久戦を仄めかしたが、悪いけどそんなに時間をかけるつもりはない。
今できる全力を用いて、私は角都を即座に潰す!
『魔笛・幻惑香華』!
ついさっき君麻呂をダウンさせた五感全てを用いる幻術『魔笛・幻惑香華』。どんなに身体が固かろうと関係ない。傷を与えられないのなら、傷を与えないまま苦痛を与えれば良いじゃない! そんなことを思いながら、私は術を放つ。
「!? ……これ……は……」
曲と共に辺りに甘ったるい香りが充満し、マスクの隙間から覗く角都の目元が苦痛で歪む。よし、掛かった!
さて、問題だ。土遁忍術である『土矛』を雷遁を使えない私が攻略するには、どうすればいいか。
一応、解決策が無い訳じゃない。パッと思いつくだけでも二通りは手段を考えられる。
その1、互乗起爆札。絶対防御だっていうのなら防御が崩れるまで延々一転集中爆破を掛け続けるだけだという脳筋戦法。
その2、幻術。既に幻術に掛かっている角都に更に幻術を掛け操り、『土矛』を解かせる。
どちらも捨てがたい案だ。ただし、問題がないわけでもない。その2は確実性に欠けるという問題があるし、その1なんて、確実に起爆札のストックを切らしてしまうから予算的にあまり使いたくないという気持ちが強い。
だが、『暁』のメンバー相手に文句も言ってられないか。
扉間様と君麻呂に、私も少しは成長したってことを見せなきゃな。
よし。両方やろう。
私は起爆札付きのクナイを二本取り出し、口笛を吹き始める。
『口笛・心想操響曲』
私は角都の行動を操作するための幻術を上から掛け、同時にクナイを投げる。
これで、確実だ。
プルプルと、角都の腕が解除の印を結ぼうと動き、その上から互乗起爆札が迫ってくる。
これで王手。
心臓一個どころか、5個まとめて爆破してやる。
音隠れの下っ端が相手だと思って油断したお前の判断ミスだ。角都。
私がそう思った瞬間……。
ボコッ! と、角都の右肩から黒い触手が噴き上がり、一枚の仮面が姿を現す。
──―あれは!
カパ! と、仮面の口が開き次の瞬間、私の正面から、ものすごい風圧が一瞬で迫ってくる。
『風遁・圧害』
角都の所有する、風遁を用いた大規模範囲攻撃の1つ!
「──ぐっ!?」
私は仮面が姿を現した瞬間即座に手で印を結び直し『風遁・大突破』を繰り出して相殺しようとするが、威力が違いすぎて吹き飛ばされてしまう。
起爆札付きのクナイは吹き飛ばされ、同時に幻術のトリガーも全て霧散してしまう。
──だがあの痛みの中、何故動いて術を発動できる!?
疑問に思いながら体勢を立て直し私は着地する。その間にも角都はボコボコと身体を変形させ、身体から三体の仮面の化け物が出現する。
仮面の形なんて流石に覚えていないが、仮面に入っている模様の色から、なんとなくその仮面が何を使うのかは理解できる。
風遁の面、火遁の面、雷遁の面。この三体が、角都の前に出現した。
土遁は角都自身が使っているとして、水遁の面は出さないのか? 原作ではカカシ先生に一撃で潰されていたから、結局見る機会の無かった面なのだが……。
いや、そうか。分かった。
「その面の怪物が、ウチの幻術を解いたのか……!?」
「ほう? すぐそれを見抜くとは、お前は頭も良く回るようだ」
クソ! なんてこった。角都は体内に自分と別に四つの怪物を飼っている。つまり自分が幻術に掛かっても、自律行動ができる残りの怪物が幻術返しを施せば角都は即座に幻術を解くことが出来るのだ。そして私の幻術に対抗するため、角都は敢えて一体の仮面を待機させて三体の仮面を繰り出した。
「お前の戦法は既に判った。お前は幻術を掛け続けながら攻撃を行うことができる。かなり厄介な忍だ。だが、幻術を掛け続けるのだと判れば、こちらも幻術を解き続ければ良いだけの話だ。貴様の幻術は痛覚を錯覚させるようだが、この怪物たちには元から痛み等という機能は存在しない。幻術に掛かるような五感も無い。ただオレの意思に従うだけの自動人形だ。お前の幻術は通用しない」
そして角都は私に言う。おいおいおいなんだその術。幻術にも対応してくるとか、ますます弱点がねーじゃねーか。
しかも、やっぱり風遁の面はそれ単体でも厄介だ。あの広範囲攻撃で、私の五感に訴え掛ける幻術の全てのトリガーが吹き飛ばされてしまう。
風遁使いというのは音使いの私に限らず、全ての幻術使いにとっての天敵なのかもしれない。その上、本命の起爆札まで吹き飛ばされてしまった。
作戦の練り直しが必要だ。
「だが、お前への警戒度は上げねばならない。先程の起爆札、ただの起爆札ではないな? 二代目火影を彷彿とさせる嫌な感じがした。こういうときのオレの直感は大抵正しい。まさかその札、連鎖爆発を起こすとは言うまいな?」
わーお。このおじいちゃん良い勘してる。そうか。この人、扉間様の時代の直撃世代でもあるのか。まさかまさか、互乗起爆札の存在まで知ってらっしゃるとは恐れ入る。
やべぇ、ちょっとお話ししたい。当時の様子とか超聞いてみたい。
私が少し興奮を抑えきれずにソワソワしていると、角都は私を強く睨み付ける。
「やはりそうか! オレは直接戦ったことはないが、二代目火影の恐怖は今でも肌に焼き付いている。滝隠れの陣地が幾度もその術によって壊滅させられたし、その術で滅ぼされた一族や里も少なくない。経験者の殆どは死亡する上、数少ない生き残りも誰もがその恐怖を思い出したくないと口を噤む。今ではもはや一部の伝承でその脅威の痕跡が残るだけ。存在そのものが抹消された禁術よ。貴様がその再来だと言うなら、お前は500万両で済むような賞金首ではない。一億出されても割に合わんが、しかし、貴様が芽を出す前にここで潰しておいた方が世のためだ。ここで確実に殺す!」
おーおー。好き勝手言いなさる。そっかー。悪名高いとは思っていたけど、角都をしてそこまで言わせるほどか。
扉間様、よっぽど他里から見たら極悪卑劣だったんだろうなー。あの角都が金のためではなく世のために動く? 何かの冗談を聞いている気分だ。
再来をそこまで恐れるとか、扉間様は大魔王か何かなのだろうか。
歴史の生き証人からの貴重なお話をいただき、私の知的好奇心はほどよく刺激された。だが、次の瞬間角都が動き出したことによって、私はその感慨に耽るわけにもいかなくなった。
火遁の仮面と風遁の仮面が、合体する。
ヤバイヤバイヤバイ! あの技が来る!!
火遁と風遁の合体忍術、『外留愚々』。
火遁の『頭刻苦』だけでも広範囲殲滅の強力な火遁なのに、そこに更に風遁を重ね掛けした超々広範囲殲滅忍術。いきなり出して来やがるのか! 本当に容赦ねぇなどんだけ私を警戒してんだコイツは!
カパ! と、二つの面の口が開く。
『火遁・頭刻苦』と、『風遁・圧害』が合わさり、『外留愚々』が完成する。
豪ッ! と、白色化した炎の波が私に迫る!
──私の合体忍術じゃ受けきれない! 私は風遁のチャクラ性質を足に溜め上へと放出し、同時に『水遁・水陣壁』を吹き出し炎を受け止める。
その上更に、私は呪印の封印を解き、一息に状態2へと身体を作り変え、背中から翼を生やす。
足に溜めてた風遁のチャクラを翼へと流しながら一気に空へと飛びあがり、水遁を蒸発させ尚も迫り来る炎から紙一重で逃げ切る。
危ない危ない。うっかり呆気なく焼き殺されるところだった。
漆黒の翼をはためかせ、空中に止まりながら私はやっと一息いれる。
「面妖な……。やはりただの忍ではないか。何故お前のような忍が無名のまま燻っているのか理解ができん。500万両では本当に割に合わない」
私を見上げる角都が呟く。お前の事情なんか知らないっつーの。有名になんかなってたまるものか。こちとら極秘任務を自らに課している身の上なんだ。人に知られちゃ困るし知られるつもりもないんだよ。できれば一生無名のままで生きていたい! その方が平穏無事に過ごせるから!
私は心の中で角都に反論する。とはいえしかし、これからどうしたものか……。
あの土遁の術がある限り、生半可な術では角都の防御は崩れないし、起爆札を当てようとしても風遁で吹き飛ばされる。幻術が効かず、一つ一つの性質変化が私よりも強力な上に、4つしか使えない私と違って角都は5遁全てを使用してくる。
空から一方的に攻撃してみるのも1つの手だが、残念なことに状態2はチャクラの消費が激しすぎる。君麻呂との戦いでの消耗を考えると、5つの心臓と経絡系を持つ角都と正面からぶつかった場合、先にチャクラが切れるのは間違いなく私の方だ。
隙がない。素直にそう思う。何しろ原作では、飛段と分断された後も最終的には実質5対1でようやく勝てたような相手なのだ。当時のカカシ先生よりも強い上に、シカマルやカカシ先生が最初に戦力を削ってなければナルトが勝てたかどうかも怪しいレベル。忍世界の動乱期を生き抜いた現役の老兵は、実力と経験が違いすぎる。
1対1で戦うのは分が悪い、か。
角都に勝つ方法。そんなものが有るのか?
私は自身に問いかけ、そして、確信を持って答える。
私が扉間様から教えられたもう1つの新術。それを利用すれば十中八九、私は角都に勝利する。
この術は簡単な術だ。『魔笛・幻惑香華』と違って準備さえ出来れば、習得するのに何の練習も要らなかった。だが、その準備にとても時間が掛かる術でもあった。
角都と戦うことになった日が、今日で良かった。
元々新術の実戦訓練を行う予定だった今日だからこそ、ギリギリ準備が完了していた。
ならば使わない手はない。扉間様との練習前に、お前で威力を確かめる。
術を確実に決めるために多少準備を行う必要は有るが、そのための算段も、既にまとまった。
覚悟しろよ。クソジジイ。
私は印を結び、『霧隠れの術』を発動して姿を隠す。
準備は万端、仕掛けを施し術を掛け、後は結果を御覧じろ。
私は霧に紛れて翼を操作し、滑空しながら森の中へと落ちて行った。
▼次回につづく。
懸賞金の話ですが、アスマとウタカタ以外は私の妄想です。多分こんくらいかなーとか思って書きました。
上忍を殺して里抜けした多由也がCランクの理由ですが、不意打ちと思われたというのも勿論あるのですが、忍としてまともに扱っていなかった下忍以下の忍に上忍が正面から敗けたとは思いたくなかったという草隠れ側のプライドの問題もあり、このような賞金と相成りました。裏事情というのは切ないものですね。
角都の術の考察に関してはオリジナル成分を含みます。原作とは関係が以下略。
それにしても、一話で終わらせるつもりだったのに一話に纏めるには書きたいことが多すぎる!私は悔しい!
悔しさをバネに、私は次の話を書き始めるのだった。
前書きに対する自問自答。
「次回の楽しみに取っておくんだよ!すぐに見れるさ!多分!」