前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。   作:N-SUGAR

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こーゆーのはすぐ出すのに限りますな。

ここで自分に向けて一言。

「で、アレの正体分かるんだろうな」



第十八話 vs不死コンビ(中編)

「オラァ! 大人しく血を寄越しやがれェ!!」

 

「やるわけ無いだろ。バカなのかお前は」

 

 ジャシン教の男、飛段が横薙ぎに振るう特殊な三連鎌を()は片腕で受け止める。皮膚の下には骨の鎧と血液硬化を重ねがけしてある。いくら刃物を突き込もうとこの程度の威力では僕の血を奪うことは不可能だ。僕はもう片方の手から出した骨の槍で、がら空きになった飛段の腹部を思い切り突き刺す。

 

「ク……ソ……が! イテェだろうが!」

 

 飛段は鎌を回転させ、柄の部分で僕の頭を突きながら、足で僕を蹴って槍の拘束から抜けようとする。

 

 学習しない男だ。前回そうやって不用意に僕に近づいて、どうなったのか覚えていないのだろうか。

 

 覚えてないのなら、思い出させてやろう。

 

『唐松の舞』。

 

 僕は胴体から幾本もの骨を生やして飛段の足を突き刺し、更に拘束を強める。前回は優秀な相方がいたお陰で逃げられただろうが、今回は飛段一人だ。逃げられる心配もない。

 

『地の君麻呂』。そう呼ばれ主に音隠れの忍達から恐れられる僕は、骨を自在に操り近づく者を全て串刺しにしてきた。

 

 近接戦闘において僕の右に出る者はこの里に存在しない。大蛇丸様が見出だしてくださったこの特別な力を使い、僕は音隠れに仇なす敵や、音隠れに不要な無能を何人も葬った。

 

 誰も僕を傷つけることはできなかった。音隠れの誰もが、僕の最強を否定できなかった。大蛇丸様も、僕を自身の器の候補に挙げてくれる程に、僕の存在価値は高かった。

 

 存在価値。そう。存在価値だ。一族が滅亡し、誰からも見放された僕が一番に追い求めたもの。存在価値。そして、生きる理由。

 

 大蛇丸様は、その全てを僕に与えて下さった。大蛇丸様に付いていくことで、僕の孤独は解消され、僕の居場所が形成され、僕の存在価値が立証された。大蛇丸様は僕の全てだ。そして、そんな僕が目指す先までも大蛇丸様は与えてくださった。大蛇丸様が扱うに相応しい器となり、大蛇丸様に文字通りこの身体の全てを差し出すこと。

 

 それが、僕の望む未来。僕は大蛇丸様となることで、その存在を永遠に大蛇丸様に刻むことができる。

 

 現在と未来全てを手にいれた僕は、何一つ不自由なく、その生を謳歌していた。

 

 だが今から一年と一ヶ月ほど前、僕の未来が、少しずつ揺らぎ始める。

 

 うちはイタチ。大蛇丸様が、その男に執着を見せ始めた。

 

 大蛇丸様が才能のある希少な血筋の者に興味を示すのは何時ものことだ。僕はそんなものに興味はないが、大蛇丸様のその趣向が僕を拾ってくれたのだとすれば、僕はその趣向にこそ命を拾われたことになる。だから、僕は大抵の場合、その趣向を受け流せる。あまりに大蛇丸様にとって役にたたない無能ならば容赦なく殺したが、大蛇丸様がそれを気にする様子もないので、有象無象がいくら増えたり減ったりしたところで僕の存在価値に揺らぎはないのだと、安心こそすれ不安に思うことは余り無かった。

 

 だけど、この時は違った。うちはイタチに対する大蛇丸様の執着は常軌を逸していた。うちはイタチのことを考えているときの大蛇丸様は、僕のことなど眼中に無いみたいだった。

 

 おかしい。そんなはずはない。大蛇丸様にとって最も役に立てるのは僕をおいて他にいない。こんなことがあって良い筈がない。

 

 このとき初めて、僕の未来に暗雲が射し込めた。

 

 それから二ヶ月後、突然カブト先生が僕の下にやって来て、そして言った。「大蛇丸様が新しく連れてきた多由也という少女は、どうやら君麻呂と同じかそれ以上のお気に入りになりそうだ」と。

 

 お気に入り。つまりは、器候補。

 

 それも、僕以上? 

 

 ただでさえうちはイタチとかいう良くわからない有象無象に悩まされているのに、唐突にそんなものが現れただと? 

 

 我慢、できるはずがなかった。

 

 そんなことを言って、その女が僕より弱いようだったら、確実に殺す。それもただ殺すんじゃない。出来る限り残虐に痛め付けて、この世に生まれてきたことを後悔させながら殺してやる。

 

 そう思った。カブト先生の狙いもどうやら同じような物だったらしい。利用されているのは分かっていたが、それ以上に、僕はその多由也とかいうぽっと出の女に嫉妬していた。

 

 うちはイタチに執着している大蛇丸様に、僕を差し置いてそれでも目を掛けてもらっているなんて、許せる筈がなかった。

 

 僕はカブト先生に促されるまま、多由也のいるというアジトへと足を運んだ。

 

 結果は、惨敗だった。

 

 僕に有利な条件で、僕が一方的に挑んだ死合に、僕は敗けた。

 

 残虐に殺すどころか、彼女は自分の術で自らを死の淵に追いやりながらも、僕の屈強なプライドを僕の骨ごと粉々に打ち砕いた。

 

 才能が、僕より高かったわけじゃない。彼女も特殊な生まれではあったようだが、それでも僕ほど特異な血継限界を持っているわけでもなかった。見た目はいたって普通の、僕より一歳年下の女の子。

 

 そんな娘が、僕の才能を正面から打ち砕いた。特別な才能とも言えない、言ってしまえばただの起爆札。誰でも使える普通の武器。通常なら僕にかすり傷ひとつ負わせられないようなそんな何でもないものが、彼女の手によって僕を殺傷し得る強力な兵器と化した。

 

 どうしてそんなことができたのか。どうしてそんな発想に至ったのか、その訳は、すぐに理解できた。

 

 カブト先生によって命を救われ、再び多由也と話す機会を得た僕は、そこで多由也の口から教えられた。

 

 彼女は、僕と同じ一族と居場所を失った忍であった。後に知ることになるが、彼女の場合は大蛇丸様にただ拾われたのではなく、大蛇丸様に自身の価値を認めさせお気に入りという立場を自分の力で手に入れたのだという。

 

 そして、彼女は言う。自分が一番であれば、それで良いのだと。

 

 他人のことなど気にする必要はない。自分が最も強くあれば、何も気にする必要はない。

 

 その言葉を聞いた瞬間、僕は理解した。彼女の最強の武器は、努力と研鑽なのだと。

 

 彼女は自分が一番であれば良いなんて言ったがそれでも、自分が一番足り得る才能を持っているわけではないと自覚していた。その証拠に多由也は、常々才能は僕が一番だと愚痴を溢す。

 

 それでも彼女は僕より強い。その訳は、彼女が常に自分を一番たらしめようと努力しているからだ。そのために彼女は大蛇丸様に自ら進んで弟子入りし、貪欲に術を学んでいた。

 

 彼女と一緒に過ごす時間が長ければ長くなるほど、僕は思い知らされた。彼女の努力と研鑽は、僕の及びもつかないほど凄まじいものだということを。

 

 僕は今まで、努力や研鑽なんて僕にとって無駄なものだと思っていた。そんなことをしなくても僕は最強だったし、僕以上の価値がある人間がいるとも思えなかった。

 

 僕は僕である。ただそれだけで、僕は大蛇丸様にとって価値のある存在なのだと思っていた。

 

 だけど、違ったんだ。研鑽を怠った僕の価値は、この広い世界に存在する僕以上の才能や、研鑽を重ね価値を磨いた人間達によって容易く追い抜かれる程度のものでしかなかったんだ。

 

 僕は僕より年下の少女に、その現実を教えられた。

 

 負けた。素直にそう思った。初めて、そう思った。

 

 思ったよりも清清しい気分だった。負けるというのがこういうことを指すのなら、そんなに悪いものじゃないようにも思えた。

 

 でも、それは違うんだとすぐに思い直す。敗北がここまで清清しいのは、負けた相手が多由也だったからだ。例えばうちはイタチが相手だったなら、僕はこんな気分は味わえなかっただろう。自分よりも強い才能に敗けたなら、それはただそれだけのことでしかない。世の中の摂理、運命、そういったものを嘆きながら夢を諦める、惨めな敗北にしかならなかっただろうと確信できる。

 

 でも違う。そうじゃないんだ。彼女の潜在能力は僕とそう変わらないし、身体の性能だけなら僕の方が上なんだ。それでも僕が負けたのは、ただ上へ進もうという向上心が僕に無かっただけなんだ。彼女の才能は僕のそれとは全く違うところにあるし、その才能は、僕でも磨くことができるものだ。

 

 だからすんなり受け入れられる。僕は彼女より弱い。才能とは別のところで、圧倒的に彼女に劣っている。

 

 だから、僕は決意した。負けてなんかいられない。他人に価値を量ってもらうことなんて誰でもできる。でも、自分の存在価値を高められるのは自分だけだ。僕は一番になりたい、でも、そのために努力しようという向上心が全く足りてなかった。自分よりも下の人間を見下すだけで自分を何一つ高めようとしない、人として、最も下劣な男だった。

 

 そんなことでは駄目だ。そんな男が、大蛇丸様の器として相応しい訳がない。僕は、自分の存在価値を自分で勝ち取らなければならないんだ。そうすることで僕は初めて、真の意味でこの世に生まれた意味を獲得することになる。

 

 天啓だった。この出会いこそが、僕を更なる高みへと導く運命なのだと確信した。ならば、その運命を受け入れ邁進することに、何のためらいがあるだろうか。

 

 僕に足りないものを持つ少女。彼女に僕は教えを乞い、そして彼女はそれを快諾した。当然だ。彼女が自分の価値を高めるのに、僕の才能はきっと役に立つ。彼女もそれを分かっていたに違いない。

 

 それからの生活は、夢のようだった。リハビリによって多少不自由な生活が続いたものの、その後の修行は、そんな不自由という小銭が気にならなくなるくらいの利益を僕にもたらしてくれた。日々の全てが僕を向上させ高みに導き、同時に多由也という僕の師を高みへと連れていっているという実感も得られた。彼女は僕に巨万の富をもたらし、僕もまた、彼女に大きな成果を与えているという実感があった。こんなに充実した日々は、僕の人生で初めての出来事だった。こんな幸せな日々があって良いのだろうかと思ったし、これは重症を負った僕がベッドの上で見ている長い夢なんじゃないかと不安に思ったりもした。途中、僕との対戦で得られるものが無くなった。修行相手として相性が悪いと言われたときはとてつもないショックを受けたものだったけど、その後すぐに多由也は、僕にまたもや新しい価値を示してくれた。

 

 競いあって高みに昇るのではなく、隣に立って、共に戦い高みに昇るという形の、僕の存在価値。

 

 好敵手(ライバル)ではなく、相棒(バディ)としての僕の居場所。多由也がカブト先生に相談し、そしてカブト先生がもたらしてくれたその価値は、僕の心を激しく揺さぶった。とうとう僕は収まるべきところに収まったのかもしれないとすら思ってしまった程だった。まだ器としての価値を証明していないのに、随分と早計なものだ。僕はまだまだ未熟なのだということだろう。

 

 だからだろうか。僕は彼女を守りたいと自然に思うようになったし、彼女が他の人間に少しでも寄ろうとすると、それを奪われたくないと思うようになった。

 

 不思議な独占欲だった。大蛇丸様の時に感じたものと似ているようで違う。大蛇丸様の器としての価値が奪われそうになったとき、僕は腹わたが煮えくり返るような怒りを覚えたが、多由也の時はそれと同時に、何か胸の奥が締め付けられるような切ない感情を抱くようになった。

 

 これは、何だ? 当然疑問に思う。

 

 大蛇丸様に抱く僕の感情は「尊敬」だ。他にも色々と有るだろうが、一番はそれだと断言できる。大蛇丸様は僕の一番の理解者であり、多由也もまた、僕のことを理解してくれる大切な存在だ。尊敬の念はこの上なく強い。

 

 だから当然多由也を尊敬する気持ちはある。大蛇丸様を除いて多由也のような忍に僕は会ったことがなかったし、多由也と出会ったことで初めて、僕は大蛇丸様もまた努力と研鑽の鬼であることを理解することができた。多由也と大蛇丸様は、深いところで似ているのだ。

 

 だけど、それだけじゃない。大蛇丸様の時に感じた感情は、大蛇丸様の器に一番相応しいのは僕だという自尊心から来る嫉妬の感情だった。でも、多由也の場合は似ているようで少し違う。

 

 多由也の相棒として相応しいのは僕だという自尊心はある。だけどそれとは違うところで、僕は多由也を有象無象に奪われたくないと思っている。いや、もしかしたら、有象無象どころか、カブト先生や、ひょっとすると大蛇丸様相手にすら、そう思っているのかもしれない。

 

 多由也は僕の理解者だが、多由也の理解者もまた、この僕なのだ。多由也のことを一番理解しているのはこの僕だし、多由也の隣が相応しいのもこの僕以外に有り得ない。多由也が他の人間の隣に立つなど言語道断。多由也が隣からいなくなることなんて考えられない。多由也が隣からいなくなることを思うと、寂しくて堪らない。大蛇丸様へのそれと似ているようで少し違った、今までにない自尊心と独占欲。

 

 不思議な感情だ。選ばれたいというだけでなく、奪われたくない、離れたくないという感情。これは、何だ? 

 

 何度考えても答えがでなくて、とうとう多由也に直接聞いてみたことすらあった。すると多由也は、なんと答えを知っているような様子だった。

 

 気になる。気になって仕方が無かった。だけど、多由也はそれを教えてはくれなかった。

 

 この疑問の答えは、僕が自分で見つけなければならないものなのだと、多由也は言った。

 

 多由也が言うんだからそれはきっと間違いが無いんだろう。これは僕の問題で、その答えは僕自身が見つけるものだ。そこに疑いの余地は無い。多由也は常に、僕にとって最善の提案をしてくれる存在だ。

 

 だけどそれでも気になって仕方がない僕のために、多由也はこうも言ってくれた。

 

「一流の忍同士なら、拳を一度交えただけで互いの心の内が読めちまう。口には出さなくてもだ」

 

 それができたら、彼女は僕に答えを教えてくれると、そう約束してくれたのだ。

 

 言葉の裏を返せば、それはこうも読み取れる。この感情がなんなのかは、僕が一流の忍になれば自ずとわかることなのだ、と。

 

 つまりそれは、僕が大蛇丸様の器として相応しくなれれば答えが得られるということであり、僕の進んでいる道が答えを得るための正しい道のりであるということを同時に示している。彼女はその言葉で、僕が答えを得るために進むべき道を指し示してくれたのだ。

 

 流石は、僕の心の師匠だ。多由也はいつも、僕に新しい天啓を与えてくれる。

 

 だけど、そのすぐ翌日に起こったジャシン教徒との戦いで、僕は絶望を知ることになる。

 

 今、僕の目の前で骨の串刺しになってもがいている男、飛段。

 

 僕は今コイツを完全に有利な立場から押さえ込んでいるが、果たして多由也と出会う前の僕がコイツに勝つことはできただろうか。

 

 油断なく戦えば、一対一でなら勝てたかもしれない。だけど、それはボクがこいつの情報を予め知り尽くして警戒していたらの話だ。おそらく何の事前情報も無いまま戦えば、僕は油断した上でこいつに血を奪われ、条件を完成された上で呪い殺されてしまうに違いない。あの頃の僕の鎧は、まだ完璧とは言い難かった。

 

 多由也との修行、そして何より、多由也の持っていた事前情報のお陰で、僕は初めてコイツを完封できる。

 

 情報の大切さ。それもまた、僕が多由也から学んだことの1つだ。これが有るのと無いのとでは、戦いの様相はまるで違ったものになってしまうだろう。

 

 多由也はことあるごとに手配書(ビンゴブック)を確認する。それも音隠れのものだけでなく、音隠れが集めた他里や闇市場の大物賞金首の手配書全てに目を通す。

 

 最初はそれが趣味なのかとも思ったが、後から思えば、それはすべて多由也の実益に適った行動だった。

 

 飛段の使う呪術の情報を彼女は最初からある程度把握していたし、そのお陰で僕達は最初から血を奪われないように注意して立ち振る舞うことができた。今回だって、彼女は飛段の新しい相方の驚くべき能力をしっかり把握していてそれに基づいて最も有効な作戦を僕と共有するという難行を一瞬でこなしてしまった。それもこれも、全ては彼女が常に貪欲なまでに各地の忍の情報をかき集めているからこそできたことだ。僕は自分のことだけで精一杯で、とてもじゃないが他里の忍のことにまで手を伸ばそうと思えない。二度目のリハビリ中に、一度真似をしてみようかとも思ったが、圧倒的な資料の山に押し潰されてまともなリハビリすらもできなくなってしまい、泣く泣く断念する結果となった。

 

 やっぱり多由也はすごい忍なのだと、改めて実感することができた。

 

 

「オッッッラァァァァァァァ!!!」

 

「────何!?」

 

 そう思っていると、飛段が自由な片足を地面に付けて、耳障りな叫び声を上げる。すると、僕の足が地面から離れた。

 

 コイツ、身体中を骨に刺されて拘束された状態でまだこんな怪力を──!? 

 

 僕はそのまま飛段に投げ飛ばされ、同時に、飛段に突き刺さっていた骨が力尽くで引き抜かれた。

 

「ハァ……ゼェ……。どーだ! やってやったぜ!! 前回はおっさんの助けを借りちまったが、今回は一人で抜けられた!! 見てますかジャシン様ァ! アナタの下僕として、オレァちゃんと成長していますよォ!!」

 

 油断した。言ってるそばからこれだ。まだまだ僕は未熟が過ぎる。飛段から数メートル離れた場所に着地しながら僕は自身の怠慢を猛省する。せっかく多由也に拾われた命だっていうのにこんな体たらくじゃ、恥ずかしくって多由也の前に立てやしない。

 

 勝てる相手だからと油断するな。一度諦めかけた命。多由也に与えられた命。ならば僕はせめてものお礼として、多由也の隣に立つに相応しい男でなければならない! 

 

「さァて、前回の屈辱は晴らせた。こっからは本気で行くぜ!! 根比べだボウズ! どっちの体力が先に尽きるのか、勝負と行こうじゃねェか!!」

 

 成程こいつ、意外と馬鹿じゃない。本能で僕との戦い方を学んでいる。

 

 飛段には、僕に対して決定打を与えられる手段がない。その代わり、奴には不死の身体がある。どんなに傷ついても、奴は死んで行動を止めるということがない。

 

 対して僕は、体力方面に限界がある。特に今の僕はチャクラの消耗が以前よりも激しく、戦いが長引けばチャクラが尽きて絶対防御が解けてしまう。そうなれば、飛段は僕の血が取り放題になり、簡単に儀式を実行されてしまう。

 

 更に間の悪いことに、僕は既にチャクラが尽きかけだ。大技をあと一発出しただけで、残りのチャクラの殆どを消費してしまうことになるだろう。つまり無駄な動きはできないし、当然長期戦に応えることもできない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 頭を使おう。情報戦だ。多由也の真似事のようなことを、やってみよう。

 

 僕は知っている。飛段の能力を。

 

 飛段は知っている。僕の、骨の能力を。

 

 だけど飛段は知らない。()()()()()()()()

 

 チャンスは一回。さぁ。始めよう。

 

「オラァ!!」

 

 飛段が鎌を振るう。僕に近付くようなことはせず中距離から、鎖鎌のギミックを使って僕の骨の届かない位置から攻撃してくる。

 

 正直、僕の骨も頑張って伸ばせば飛段の位置まで届くのだが、『早蕨の舞』は大技だ。チャクラ消費が激しすぎて、今の僕ではとても出せない。

 

 だから僕は素直に、腕で飛段の鎌を受け止める。

 

 ドシュッ! と、腕に鎌が突き刺さり、僕の左腕から血が噴き出す。

 

「あァ!?」

 

 呆気なく刺さった鎌を見て、飛段が戸惑いを見せる。

 

 僕は腕に刺さり、そのまま引き抜かれる鎌の痛みに若干顔を顰めながらも、鎖鎌を巻き戻す飛段に右の人差し指を向けて、言う。

 

「あまり僕を舐めるなよ? 僕はお前程度を相手に長期戦なんかするつもりは無いんだ。血ならくれてやる。だが、お前が儀式の準備を整える頃には、お前は僕の骨に貫かれているだろうさ」

 

 僕は、左腕の傷口から骨を生やして見せつけながら、飛段を挑発する。

 

 そうすれば、

 

「ゲハハハハハハハ!! 馬鹿! オマエ、馬鹿か!? ヒャハハ!! オレの能力を知っていながら、わざわざ血を渡して、挑発? バカのやることだぜそれは! 角都のヤローも散々オレを馬鹿馬鹿言いやがるが、テメーはそれ以上の馬鹿だ!!」

 

 品の無い笑い声を上げて、飛段は戻ってきた鎌を手に取る。そのまま飛段は、流れるように鎌の刃に刺さった僕の血液を舐め取った。

 

「さて、条件1だぜ。そして!」

 

 飛段は、鎌を振り上げ、自身の腹を突き刺す。血がボタボタと垂れ、飛段の足元に血が撒き散らされる。

 

「そして?」

 

 僕は続きを促す。飛段の攻撃手順は二つ。対象から血を奪い取り体内に入れること。自身の足元に血でジャシン教のシンボルマークを刻むこと。

 

 順番は関係なく、ただ二つの条件が揃えば儀式は発動する。飛段と僕の感覚がリンクし、飛段のダメージが僕に連動するようになる。

 

 後は、陣を刻むだけだ。そうすれば、飛段の勝ちはほぼ確定する。

 

 勿論それは、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ドサリ……、と、飛段は腹に鎌を突き刺した状態のまま地面に倒れ伏した。

 

「そして、お前に何ができるんだ? 飛段」

 

「ボウズ……テメェ、何をした……! 身体が……動かねェ……」

 

 僕はゆっくりと倒れた飛段の方へ歩きながら不敵な笑みを浮かべる。

 

「別に、特別なことはしていない。お前は不死身だが、身体の構造が人間と違う訳じゃない。だったら当然、()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうだろう?」

 

「何を……!」

 

「ほら、お前の首の神経を叩き切ったのは、()()()()

 

 僕は飛段の顔の方を指差す。飛段が僕の指の方へと目を向けると、僕の指と飛段の目線の間に、()()()()()()()()()()()()

 

「そいつはさっき、お前が鎌から体内に取り込んだ僕の血液だ。この血液には僕のチャクラや骨芽細胞等が練り込んである。遠隔から操作して、形と硬度を変換し、お前の頸髄を貫いてお前のうなじから飛び出してきたのさ。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な……なんだそりゃ! そんな術持ってるなんて聞いてねェぞ!! テメーがそんな術持ってんなら、何で前回戦った時にそれを使わなかった!?」

 

 飛段が叫ぶ。うん。そうやって困惑して慌ててくれると実に小気味がいい。前回の屈辱が晴れた気分だ。

 

 僕は少し上機嫌に説明する。

 

「そりゃ、聞かせた覚えもないし、前回はこんな術持ってなかったからね。でも、お前ならよく観察すれば分かったはずだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 僕の説明を聞いた飛段の目線が僕の目とかち合い、そして、飛段は僕の薄紫の瞳孔を見て口をパクパクと動かし驚愕に目を見開く。

 

「お……オマエ、まさか、アカのおっさんの目を……奪いやがったのか……!」

 

「そうだよ。ジャシン教教団長の力の残滓が今こうしてジャシン教の仲間を窮地に追い込んでると思うと、中々因果の巡りを感じると思わないか?」

 

「テメェ……! ぶっ殺す! このクソッタレの無神論者が!! ふざけるな!! アカのおっさんは! 最後までジャシン様のためにその身を捧げた敬虔な信徒だぞ! それを! オマエは!!」

 

 今にも噛みついてきそうな形相で飛段が叫ぶ。罵詈雑言の嵐を僕へとぶつける。

 

 へぇ。ジャシン教みたいなカルト宗教団体にも、仲間同士の絆のようなものがあったのか。僕は新鮮な気分になり、思わず感心する。仲間意識はあるけど、それでもお互いを殺し合う。やっぱり、僕には狂信者の気持ちはよく分からないな。

 

 役立たずの仲間を処分するのに何の感慨も抱かないし、役に立つ仲間ならそのまま放っておけばいいだけのこと。精々分かるとすれば、信望する神のためなら自分の命も惜しくない所くらいなものだ。まぁ、その神が仲間同士の殺し合いを推奨するなら、仕方ない部分もあるのかな? くらいは思えるかもしれない。

 

 分からない。だけどもし、大蛇丸様に多由也を殺せと命じられたら、僕はどうするだろうか。

 

 難しい問題だ。多由也のために命を差し出せと言われたら僕は喜んでこの身を差し出すだろうが、逆の場合は少し、難しい。

 

 もしそんなことを言われたら僕はまず、何とかして多由也を見逃してもらえるよう大蛇丸様に談判しようとするだろう。だけど、それでも駄目だったら? 

 

 その場合、僕はどうする? 

 

 僕は、多由也に命を救われた。

 

 病に倒れ、カブト先生からは治る見込みがほぼ皆無だと言われ、一時は夢を諦めかけた。

 

 自分の夢を諦めて、多由也に託そうとも思った。これが僕の運命だというのなら、それも仕方ないかとも思ってしまった。短い間とは言え、幸せな、いい夢を見ることが出来た。大蛇丸様にはうちはイタチという本命もいるし、多由也もいるから、必ずしも僕が器として成長しなくちゃいけない訳じゃない。できるなら僕がそうなりたかったが、でも、大蛇丸様の下で大蛇丸様の夢の一端に触れられただけでも、それで十分だと思いすらもした。

 

 僕の心は、確かに一度折れていた。

 

 でも、そうはならなかった。僕の病気は治った。症状は無くなり、立ち上がって大蛇丸様の役に立つことを今も許されている。

 

 そしてそれは、僕が諦めなかったからじゃない。

 

 

 多由也が諦めなかったから、僕はこうしてここにいる。

 

 

 僕が多由也との約束を果たすため? 修行相手として僕が必要だから? 詳しい理由は分からない。だけど確実に、多由也は僕を必要としてくれたし、僕の病気が治ったとき、多由也は泣いてそれを喜んでくれた。

 

 僕には、存在価値がある。多由也は、僕が生きていることを望んでくれる。

 

 こんなに嬉しいことが有るだろうか。

 

 やっぱり、そうだ。僕には多由也は殺せない。

 

 大蛇丸様の命令でも、それだけは無理だ。

 

 多由也が生きてくれるのならば、僕は喜んで大蛇丸様の命令にも背き、そして、死を選ぼう。そのくらいの覚悟は、多由也のためなら発揮できる。

 

 でも、そしたら多由也は悲しむかな。

 

 悲しんで、くれるかな。

 

 分からない。

 

 そもそも、多由也の望みはなんなんだろう。

 

 大蛇丸様の役に立ちたいというのが僕の望みだが、多由也が何を目的に生きているのか、僕にはいまいち分からない。

 

 聞いたら教えてくれるだろうか。それとも、いつぞやのように自分で答えを見つけろと突っぱねるだろうか。

 

 教えてくれると良いな。僕は多由也にお礼は言ったけど、まだお返しはできてない。

 

 僕は何をすれば、多由也に恩返しができるだろうか。

 

 僕は何をすれば多由也の役に立てるだろうか。

 

 多由也との約束をきちんと果たせば、多由也は喜んでくれるだろうか。

 

 僕が自分の夢をちゃんと最後まで全うすれば、多由也は喜んでくれるだろうか。

 

 チクリと、どうしてか胸が痛む。

 

 僕が夢を叶えたら、多由也とはもう話せなくなるのだろうか。

 

 それは少し、寂しい気もする。でもそれが僕が最も強く望む未来なんだ。本望を遂げて、後悔なんて有るはずもない。

 

 多由也が繋いでくれた命を、僕は無駄にするわけには行かない。

 

 大蛇丸様のためにできること。多由也のためにできること。

 

 二人の恩人のために僕は、何ができるだろうか。どうするのが一番いいのだろうか。

 

 やっぱり、よく分からない。

 

 もどかしい。

 

 僕は苛立ちを紛らわすかのように、罵詈雑言を叫び続ける飛段の喉と口に骨を突き立て、ポキリと折る。

 

 飛段はそれでもモゴモゴと口を動かし続けたが、少なくともさっきよりは静かになった。

 

 僕は、よろよろと側に生えている樹の幹へと歩を進め、ドサリと寄りかかる。血遁を用いて鎌に刺された腕の怪我を治すと、出血した血液が体内に吸収されながら傷は跡形もなく治った。しかしその治療行為によって、いよいよ僕の身体から力が抜ける。

 

 最初に思ったよりも、残りのチャクラは少なかったらしい。多由也を助けに行く力は、どうやら残されていないようだ。

 

 多由也……。無事に勝ってくれれば良いのだけれど……。

 

 多由也は僕より強いし、勝算も十分有りそうな様子だったから多分大丈夫だとは思う。カブトさんまで情報が届けば、最悪援軍も派遣されるだろう。

 

 心配するのは余計なお世話なのかもしれない。そんなことは分かってる。なのに、僕の不安が拭われることはなかった。恥ずかしい。多由也は僕を信頼して飛段を任せてくれたのに、僕が多由也を信用しきれていないなんて。

 

 申し訳なく思う。だけどそれでもどうしても、僕は祈らずにはいられないのだ。

 

 

 どうか、多由也が無事でありますように。

 

 

 僕は一体、誰に向かってそれを祈っているのだろうか。

 

 それすらも僕には分からない。僕は本当に分からないことだらけだ。でも、1つだけ分かることが有るとすれば、祈りの相手がジャシン様とやらではないことだけは、少なくとも確実だった。

 

 僕は空を見上げる。すると、遠くの空に翼の生えた人の姿が飛び上がった。大きな火の手が上がり陽炎のように揺らめく空に、ひときわ印象的にその姿は僕の目に焼き付いた。

 

 凶悪な姿。だけどどこか可愛らしい。例えるならば、小悪魔か堕天使とでも言い表すべきその風貌。

 

 ああ。そうか。そうだね。そうするのが、多分一番良い。

 

 僕はこの時ようやく、正しい祈り先を見つけることができた。

 

 

 多由也。どうか、君が無事でありますように。

 

 

 やがて、多由也の姿は突然生じた霧によって掻き消され、その姿を見失う。

 

 これから先のことは、どうやら僕には見ることができないようだ。

 

 僕はただ目を閉じて、多由也の無事を祈りながら待ち続けることにした。

 

 

 

 

 ▼次回につづく。

 

 




君麻呂くんって、すごい思い込み激しいですね。

多由也が聞いたら話の八割がたに首を横に振りそうです。

前書きの一言に対する自問自答。

「あいや待たれい!」


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