前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。 作:N-SUGAR
ここで自分に向けて一言。
「オリジナル設定盛り込みすぎてもはや別物じゃね?」
才能を示せ。
大蛇丸は言った。
対等な契約を結びたいのならば、それに足る価値を示せ。
そして大蛇丸が、勝負を仕掛けてきた。
いや、勝負なんていう真っ当なものではない。何しろ私には勝つことなんて許されてないんだから。
この戦闘は、大蛇丸が私の価値を量るための鑑定試験だ。
圧倒的強者が弱者に対して、どれだけ自分を驚かせられるかを求める戦いなのだ。
だから私は、今出来る限りの全てを用いて、大蛇丸の予想を飛び越えなければならない。
自分の価値を、示さなければ。
より良い未来を、掴み取るために。
決心すると同時に、私は足にチャクラを溜めつつ煙玉を足元に投げ、飛び上がると同時に一気に放出する。
一瞬で消えたように移動する瞬身の術。変わり身の術や分身の術と並んで忍者がまず覚えるべき基本忍術の一つであり、最も応用の幅が広い忍術でもある。
何しろ身体強化による俊足も時空間忍術による空間移動も全て瞬身の術で一括りにされるのだ。ややこしいことこの上ない。
勿論、下忍にすら数えられていない未熟な私が飛雷神の術みたいな高等時空間忍術を使えるはずもないので、私の瞬身の術は下手すると移動の軌道が見破られる程度の俊足移動でしかない。煙玉で煙に巻いて死角を移動するよう心掛けてはいるが、上忍レベル以上に通用するものでもないだろう。
だけど、大蛇丸は動かなかった。移動の軌道は見ても、追ってくる気配はない。私の価値を見定めるために、敢えて見逃しているのだろう。だから私はこれ幸いと、右へ左へと死角を飛び回りながら、距離を稼ぐ。
私の主な武器は笛であり、音だ。専門は中・遠距離戦であり、敵の目の前で悠長に笛なんか吹いてたらすぐに近距離戦に持ち込まれて話は終わりである。音で操る傀儡でもいれば話は別だが、生憎私はそんな便利なもの持ってない。シカマル戦の時に使ってたあの気持ち悪い人形達は、一体何時手に入れた玩具なんだろうか……。
直線距離にして、200メートルは離れただろうか……。私は気配を殺し、木の影に隠れる。気配を殺し、音をたてずに潜む隠形の術もまた、忍者の基本スキルの1つだ。これも高レベルになると、蜃気楼やらなんやらで自身を透明にするようなバケモノ忍者がいるらしいが、下忍未満の私には以下略。関係のない話である。
これだけ離れてても、私の扱う武器は音だ。音速の攻撃が対象に届くまで一秒もかからないし、避けようと思って避けられるものでもない。
とは言え、私の術には明確な弱点がある。先ずはそれに対処しなければ。
……耳栓したら通じないとか、そんなアニオリ特有のふざけた弱点じゃない。音を完全に遮断できる耳栓があるならこっちが欲しいくらいだし、そんなもんいざとなったら骨伝導でもなんでも使ってぶち破ってやる。現代知識の応用力舐めんな。もっと致命的な弱点だ。
私の術の弱点。それは、音を出すと隠形ができなくなるという弱点だ。
笛から音なんか出そうものなら、当然こちらの位置なんて相手に丸分かりである。いくら上手に隠れたって、大体の位置は察せられてしまう。
つまり、遠距離からの音攻撃は、その瞬間から、相手がこちらに辿り着くかこちらが相手を戦闘不能にするかのタイムアタックレースになってしまうのだ。
その弱点は、克服しなければならない。
だから私は、対策をきちんと用意した。
『結界秘術・乱反響結界』
草笛一族は魔笛の秘術だけの一族ではない。封印術、結界術にも高い素養を持つ。そして里の秘伝の書を読み漁れば、当然魔笛の秘術と相性の良い結界忍術も登場するというわけだ。
それがこの、『結界秘術・乱反響結界』である。
この結界は、薄く透明な膜を周りの空間に張り巡らせる。シャボンのような膜を張るだけで何かの動きを阻害するわけでも、何かを閉じ込めるわけでもないから、規模の割にはそこまでチャクラを必要としない。
ただしこの膜は、そこに触れた音波をあらぬ方向に乱反射させる特性を持つ。この結界内で奏でられた音は訳の分からない方向に反響し続け、音の発生源を見失わせる。
特に森のような障害物の多い地形で膜を張れば、その形もまた複雑になり、反響する音もまた複雑になる。もはや、音だけでどこに何があるのか当てようとするのは、不可能に近い。
しかも上手く扱えば、反響の重ね合わせによる音量の増大も見込めるので、耳栓対策にも繋がる。見れば見るほど、もとい、聞けば聞くほど、私のために有るんじゃないかと思ってしまう結界忍術だ。
因みに応用で、音の反響や膜そのものを通して結界内の地形や人物の居場所などが完全に感知できるようになるという画期的な追加効果もあるが、今の私だと術の精度が低すぎて何となく大雑把にしか感知できない。まあ、何となくでも十分と言えば十分だけど。今回の場合は、結界内に大蛇丸がいるかいないかくらいのことしか私には分かっていない。
私は懐から愛用の笛を取り出し、吹き口に軽く唇をあてる。
『魔笛・夢幻音叉』
私は笛の音を奏で始める。
注意しておくと、この術は作中に登場した『魔笛・夢幻音鎖』とは別物の術だ。読み方が同じなのでややこしいが、作中に登場したあの術は会得難易度Bクラス。上忍レベルの術なので、今の私だと発動のためのチャクラが全く足りないのだ。奏でられないこともないが、やったらすぐにバテてしまうので戦闘には使えない。
呪印で総チャクラ量を底上げするか、穢土転生体で実質無尽蔵のチャクラを得ることででしか、今の私があの術を実戦レベルで使いこなすことはできないのだ。
なので、今の私が使えるのはもっと難易度の低い。楽曲で言えば『かえるのうた』レベルの幻術である。
一定のリズムで一定の音節を奏で続け、聴いた者を徐々に夢の世界へと引き込む幻術。言ってしまえば、催眠術とそう大差ない術だ。クラシック聴いてると眠くなってくる現象の延長でしかない。音にちょっとチャクラを混ぜこんで誘発してるだけで、リラックスした状態の人間相手なら、チャクラなしでも同じ効果が得られるくらいだ。
そんな初歩の初歩みたいな幻術が、果たして大蛇丸程の忍相手に効くのか? 不安に思わないこともないが、音による幻術が幻術のプロであるうちはイタチにすら効いたという実績は一応ある。未来のことだけど。原作準拠なんだから確実に効かないということはないだろう。作中ではすぐに解除されてしまうが、それでも一瞬動きを止めることはできていたわけだし、しかも原作のあの解除方法だと写輪眼が二対必要になる。少なく見積もっても絶対に一個は写輪眼が必要になるわけで、そんなものがあるんだったら大蛇丸も苦労しないって話だ。少なくとも直ぐに解けるってことは無い筈である。
まあ、あれは、『魔笛・夢幻音鎖』が相手の動きを無意識下ですら縛るから、解呪の印が出来なくて写輪眼みたいな手段が必要になるってだけの話で、今やってる『魔笛・夢幻音叉』は解除するのに全然写輪眼なんか必要ないんだけどね。でもこっちは睡眠誘導だから、それはそれで印は結べないと思うけど。
しかも、痛みで解けるし……。あの術……。
で、あるならば、大蛇丸が意識を朦朧とさせているうちに早いとこクナイでも何でも投げつけて止めを刺すが吉。ちらりと、音を奏で続けながら私は木の影から大蛇丸の様子を窺う。
「あら、そこにいたの」
ちょこっと頭を出した瞬間に、
幻術が全くと言っていいほど効いていないのは、まあいいとしよう。徐々に誘導する系の幻術なんて、種が割れてれば解呪して直ぐに終わりである。だが、こちらも最低限隠形しながら首を出してるし、音が反響しまくってるこの空間で、200メートル離れた死角から顔を出した私を見つけるなんて、白眼や感知タイプでもなければ不可能では!?
……いや、大蛇丸には特殊な感知能力があったなそう言えば……。
今時の若者ならば別に蛇博士じゃなくても知っていると思うが、蛇にはピット器官というものがあって熱感知を行うことができる。太い木の幹の裏に隠れているときは流石に熱を感知するための遠赤外線が透過しなかったようだがちょっとでも頭を覗かせれば、大蛇丸はそれを熱源として検知することができる。
また、嗅覚感知の能力にも優れているらしいので、恐らくもう少し近くで隠れていたら隠形の意味もなく普通に居場所が露見していただろう。色々反則過ぎるんだよあのクソババアジジイ。
何でこんな重要なこと忘れちゃってたかなー。やっぱり、10年以上もブランクが空くと、色々頭から抜けてしまうものなんだな。むしろ私はこれでもよく憶えている方なんじゃないか?
大蛇丸が口を開く。普通の声量で話し始めるが、乱反響結界のお陰で、距離に関係なく音はこちらに届く。
「いやはや、まさか初手でここまでやってくれるとは、驚いたわ。この私をして、一瞬眠くなってしまったもの。でもまだまだ詰めが甘かったみたいね」
大蛇丸は印を構えると、メラメラとその身体に炎を纏う。同時に、私の首筋に冷たい金属の感触が宿った。寒気? いや、違う! まさか……。
炎を纏った大蛇丸の姿は既に消え去った。ならば、彼の今いる場所は1つしかない。だけど、視線を背後にやることすら躊躇われる。蛇に睨まれた蛙のように全く動けない。私の首筋にはしっかりとクナイが当てられ、とっくに命を握られている。
瞬身の術……。あの一瞬で、この距離を……?
時空間忍術も無しに移動したというの?
次元が違う。忍としての格が違う。
これでは木ノ葉の黄色い閃光と同レベルの瞬身だと言っても信じられる。
そんなものを見せつけられたら、私の決意が鈍ってしまいそうになる。
「さて、距離を詰められ、追い詰められて、それでもまだアナタに手は残されているのかしら?」
大蛇丸が問う。
ぶるり……と、身体が震える。これは、恐怖による悪寒?
いや、違う。
これは、策が上手く嵌まった時の武者震いだ!
「勿論です。攻撃ってのは一手目はだましのフェイク。二手目を当てるのが基本ですから……!」
「! ──まさか、アナタ!」
ボンッ、と、煙を起こして、私の姿が丸太に早変わりする。
変わり身の術。基本忍術の1つだ。今回の場合は、変化の術を用いた変わり身である。丸太を予め私に変化させておき、顔を出させた。
結界内ならば、たとえ背後まで近づかれても音源が反響しまくって全て同じに聞こえるから、喋る声に違和感なんか与えない。
だけどそれ以前に、丸太を用いた変わり身に熱源なんてあるのかと問われれば勿論、丸太に熱源なんか無い。
しかし! 丸太に貼り付けモノになら、熱源はあった!
ジジ……、と、点火された五枚の起爆札に、火の粉が巡る!
ピット器官なんて忘れてたから、罠のために起爆札を貼り付けてなければ直ぐに露見していた変わり身だが、結果オーライだ!
私は、変わり身の背後に立った大蛇丸の、更に20メートル後方から印を構えた。
「死ねェ! クソジジィ!」
「クッ! こんなもの!」
流石に大蛇丸の判断は素早く、即座に離脱体勢に入る。
だけど、伝説の三忍相手に勿論そんな容易い罠を仕掛けるつもりは毛頭無い。
皆さんは、二代目火影の卑劣な術を覚えておられるだろうか。
口寄せ・穢土転生。うん。名前を聞いただけでも分かる。なんて卑劣な術だ。死者を不死身にして蘇らせるなんて、どうしてこんな酷いことをするんだろう。
敵の忍を蘇らせて、情報を吐かせる。有効な使い道だ。尋問の必要すらなく、ただ敵を殺せば情報が手に入るなんて、尋問官からすれば喉から手が出るほど欲しい術だろう。
情報を吐かせるだけ吐かせたら、起爆札をくくりつけて爆弾にし、故郷に帰らせる。死んだはずの忍が味方と感動の再会を果たし、更に情報を集めたらその瞬間にドカン。敵陣地を壊滅させ、その上で穢土転生体は暫く経つと復活し、新しく得た情報を持ち帰る。以下無限ループ。
いっそ清々しいほどに卑劣で、憎々しいほどに合理的だ。
一番酷いのは、これらの手順は別に火影レベルじゃなくても、やり方と材料さえ揃えば全て下忍レベルで十分実行可能だという点だ。
何一つ特別ではなく、ありふれた非道。
うーむ。これは酷い。禁術にもなるわけだ。
NARUTOを読んでいた当時は、その仕組みを理解した瞬間だいぶ引いたし、扉間様カッコ良くてイケメンだけど、倫理観ゆるキャラだから苦手なんだよなぁなんて思ったものだけど、今の私はそんなこと一切微塵も思っていない。
ああ、扉間様。なんて合理的で無駄の無い術を作られるんだろう。あなたのその思考回路が、私の命懸けの逃避行に新たな活路を与えてくれる……。忍術を使えばこんなことまでできてしまうのだと、生き残るためならこんなことまでやって良いんだと、私の蒙を開かせてくれる。
イケメンでクレバーで味方に優しい。感情にも配慮してくれる。何よりイケボだ。堀内賢雄様(声優)だ。
千手扉間は、もはや私の中で一種の神に昇華されていた。
さて、今回私が使用するのも、そんな穢土転生の手順の1つである。
『口寄せ・二重起爆札』!
『互乗起爆札』という術がある。扉間様考案の卑劣な術だ。この術は、起爆札が起爆札を口寄せして延々爆発し続けるというおっそろしい効果を持つ。起爆札一枚穢土転生体に仕込んでおけば、それだけで敵陣地が壊滅するほどの爆弾に早変わりするという代物だ。勿論術者もろとも巻き込まれるわけだが、穢土転生なので一切問題ない。使う術は口寄せ1つなので下忍でも簡単に実行できる。どんな頭してればこんなこと思い付くんだと思うが、こいつをいざ実行しようと思うと、1つの壁に突き当たる。
というのも、よっぽどの金持ちでもないとそこまでの数の起爆札が用意できないのだ。
口寄せし続けるなんて言うから無限みたいに聞こえるが、実際は、口寄せするための起爆札は全部自分で用立てなくてはいけない。
これがけっこう金がかかる。起爆札って、地味に高いのだ。私が一年間せっせと奴隷みたいに働いても、支給された分と合わせて50枚くらいしか貯まらなかった。低賃金だから仕方ないと言えば仕方ないのだが、この時ばかりは、そりゃ火影なんて身分にいる人なんだからお金はいっぱいあっただろうよこのゲスチンが! と、拗ねてしまったのは記憶に新しい。
だが、それでも集めた分は有効活用しなければならない。いくら頑張って蒐集しても、実戦で使えなければ意味がない。
と、いうわけで、『口寄せ・二重起爆札』である。起爆札が起爆札を口寄せし、敵の想定の二倍の威力の爆発を引き起こす。穢土転生を用いた陣地破壊用ではなく、対人戦闘用のマイナーチェンジバージョンだ。
この程度の爆発ならまだ避けられるなんて、余裕ぶっこいてる相手に不意打ちをかましてやる。そんな弱者の一撃である。
20メートルくらいの距離では普通に爆発に巻き込まれるので、しっかり木の幹の裏に隠れて、簡易的な防御用結界を事前に張っておくのも忘れちゃいけない。
ドガアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!! と、長い爆発音をあげて、背後から爆風が通り抜ける。簡易的とはいえ結界を張っているのに熱が身体に届くのだから尋常ではない爆発だ。耳を塞いでるのに鼓膜が破れそうになる。合計10枚の起爆札でこの威力。互乗起爆札とかいう術は、一体何枚の起爆札を用いていたというのだろう……。
ゴワン……ゴワン……ゴワン……と、爆発が収まった後も、乱反響結界が音を反響させて、爆発の余韻を残す。
「……どう……なった?」
漫画の世界に転生したと分かった時点で、「やったか?」なんて復活の呪文みたいな戯れ言を吐くことは一生無いと心に誓った私ではあるが、流石にこの程度で大蛇丸が死ぬなんてことは無いだろうと心のどこかでは思っている。フラグというのはそういった心の不安から立つものだ。
だけど、威力極小のマイナーチェンジ版とはいえ、これは二代目様の手順なのだ。ひょっとすると、ひょっとするかもしれない。
せめて重症の1つでも負ってくれれば……。
「
だが、そんな淡い希望も、何処からか反響してきたその声によって、バラバラに打ち砕かれる。
「クソ……マジかよ」
私は木の幹から顔を出し、辺りを見回す。大蛇丸は直ぐに見つかった。というか、戦闘を開始した一番最初の地点にいた。無傷の状態で普通に立って、こちらを見ている。
……なんで一番最初の場所に?
あ。
「影分身か!!」
「クク……。ご名答」
成る程。影分身。これで瞬身の術の謎も解けた。こちらに来た大蛇丸はあくまでも影分身だったのだ。恐らく私が大蛇丸から離れるのに必死になっている間に、彼は既に影分身を出していた。そして、嗅覚センサー等を頼りに私の方へ影分身を探索させていたのだ。
そして、私の変わり身が姿を現し、正確な位置が判ると同時に近くを探索していた影分身が接近。本体は消えた振りをして近くに隠形の術で隠れる。結果的に私から見ると、まるで200メートルもの距離を一瞬で移動したかのように見せかけることができるという寸法だ。
当然起爆札に巻き込まれても、影分身が消えるだけで大蛇丸自身には傷の一つもない。
こすい! 汚い! だけど、非常に有効だ。こちらに畏怖を与えることができ、尚且つ、何があっても自身に被害が及ばない所とか、凄く私好みの戦術だ。私の感知結界の精度がもう少し高ければ影分身に気付けたかもしれないが、その反省にはあまり意味がない。純粋に私の実力が足りなかったのだ。
流石、私と同じく二代目火影を尊敬の対象としているだけのことはある。
大体、影分身とか術として狡すぎるんだよ。あれ1つで戦術の幅が1000倍は広がるっつーの。まあ、チャクラを等分に分配するとかいうふざけた燃費のせいで、下忍レベルのチャクラだと一体出しただけで戦闘継続が不可能になるんだけど……。
ご存知だろうか? チャクラを半分また半分と消費する影分身よりも、予めX分の一で等分に分配する多重影分身の方が実は総合的に燃費が良かったりするのだ。少なくとも三体目から先は明らかに燃費がいい。まぁ、最低限影分身を形作るだけのチャクラを強制的に何体分も持っていかれるから、調子に乗って大勢出したら即死レベルの技であることに代わりはないのだけれど。
化け物レベルのチャクラ量を持つ化け物が使えば結果的に燃費がよくなるという、脳内お花畑なロマン忍術をうっかり開発しちゃう扉間様ってば、お茶目さんでとってもかわいらしい♪
まあ、そのロマン忍術を禁術の巻物の初手に持ってくるという鬼畜プレイは、全くかわいらしくなかったけど。全くとんでもねーゲスヤローだぜあの方は(尊敬)。
どうでもいい話だった。全く大蛇丸攻略の糸口が見えてこないからうっかり現実逃避してた。
え? どうすんの? これ以上見せるものなんてウチもう何もないよ?
万策尽きたとはこの事だ。
私が諦めて天を仰ごうかと思っていると、大蛇丸が何やら手招きをしている。何かの術の合図か? と警戒していると、大蛇丸が言った。
「一旦戦闘を止めましょう。アナタの才能の一端は、十分に見せて貰ったわ」
戦闘中断? それはありがたい。ありがたいが……試験がこれで終了という意味では、あまりありがたくない。
これ以上見せるものも特にないが、しかしここで終わって、果たして合格点がもらえるのかといえば正直不安だ。
戦術立案には自信があるが、相手の戦術への対応力はあまり芳しくなかった。大蛇丸の影分身を見抜けなかったのは、大きなマイナスと言えるだろう。
だが、ここでごねても心証を損なうだけだ。試験官が終わりだと言ったら、テストはもう終わりである。
私は、木の枝を飛び移り、大蛇丸の目の前に着地する。
「ご苦労様。なかなか楽しませて貰ったわ。アナタ、結構強いじゃない」
「い……いえ。お見苦しい戦闘をお見せしてしまい、申し訳ないと思っています!」
大蛇丸のお世辞に、謙遜で返す。というか、実際謙遜するまでもなく見苦しいことこの上ない。作戦が何一つ嵌まらなかったというのは死ぬほど恥ずかしい。赤面ものだ。
「いえいえ。別に冗談で言ってるわけじゃないのよ? だってまさか、十にも満たない子ども相手に私の影分身が消されちゃうとは思わなかったもの。これで誉めなかったら、私の忍としての格がその程度ってことになっちゃうわ」
大蛇丸はご機嫌に語る。ああ。成る程。そういう認識なのか。確かに、「大蛇丸の影分身に子どもが対処した」という事実は、それだけ見れば功績の一つに数えても差し支えないのかもしれない。何しろそれは、「大蛇丸のチャクラを半分消費させた」ことと同義なのだから。
大蛇丸は講評を続ける。
「確かにアナタの術にはまだまだ改善の余地があるわね。音を使った幻術も、音を反響させ、居場所を分からなくさせる結界も良かったけれど、弱点が多い。幻術は遅効性過ぎて対処が容易だったし、反響は逆に利用されてしまう余地を残していた。自分の居場所を隠すのはいいけど、相手の居場所も分からなくなってしまうようでは減点対象と言わざるを得ないわ」
「……け、結界は本来なら感知の術も複合されているのですが、私の技量が足りず術がそこまで完成していなかったのです……」
私は正直に話す。忍術の研究に余念がない大蛇丸のことだ。きっと術の仕組みについて詳しく話した方が、好印象を与えられるだろう。
「へえ? 少し正直すぎる気もするけど、まあ、正直なのは良いことね。その結界について、後で詳しく教えてくれると嬉しいわ」
案の定、大蛇丸は私の秘伝忍術に食いついた。未来の上司の心証を明るくするためならこの程度いくらでも教えてやるとも。
「それに、戦闘の最後。あの起爆札の使い方には、目を見張るものを感じたわ。あの変わり身には起爆札は5枚しか貼っていなかったように見えたけど、爆発は明らかにそれを遥かに超えるものだった。私の影分身も消滅してしまったしね。あれは、どういうカラクリだったのかしら?」
む? 大蛇丸は、起爆札の口寄せをまだ見破ってなかったのか。まあ、爆発と口寄せは一瞬だから咄嗟に可能性を絞り込めないというのは十分に考えられる話だ。これは、大蛇丸の観察眼が鈍いのではなく、二代目様の手順が流石すぎるのだろう。
「あれは、起爆札に予め口寄せを仕込んでおくことで、起爆札が起爆札を口寄せしていたのです。『口寄せ・二重起爆札』といって、敵の想定の二倍の爆発を引き起こす罠忍術です」
「……素晴らしい」
大蛇丸が邪悪な笑みを浮かべる。どうやら大蛇丸は互乗起爆札の理論を知らなかったらしい。まあ、知っていたら木ノ葉崩しの時に間違いなく利用してただろうし、知らないと考えるのも全く不自然なことではないか。
だったら、互乗起爆札そのものを教えるのはまだ時期尚早かな……。教えてしまったら、最悪未来が変わることになりかねない。
口寄せ・起爆札の理論を知った時点でこの人なら独力で気付きそうな気もするが、まあ、そうなったらそうなったで考えることにしよう。木ノ葉崩し編終了時点で、大蛇丸には弱体化してもらわないとこっちが困るのだ。今後の予定的に。
「どうやら、草笛一族には私の予想以上に有用な秘術が眠っていたようね。どうかしら? 草笛一族の秘術を提供するという条件で、私と対等な協力関係を結ぶというのは」
「それはまた……随分な厚待遇ですね……」
「確かにアナタはまだまだ忍者としては未熟よ。けれど、アナタは今の戦闘によって、その若さで私を害しうるだけの戦術眼を持ち合わせていることを証明した。戦術構成のセンスだけなら上忍レベルと言っても過言ではないわ。それに草笛一族の秘術は、今までに無かった新しい着想を私に与えてくれる気がするの。ならば、それくらいのことはしてもいいと、私は考えるわ」
どうやら先の戦闘は、予想以上の好印象を大蛇丸に与えることができたようだ。私の知る大蛇丸から引き出すには、およそ最善に近い厚待遇を約束してくれようとしている。
だけど、まだだ。まだ、足りない。
私の描く最善手。人生の詰みから逃れる神の一手には、ここでもう一声必要になる。
「……『口寄せ・二重起爆札』は、草笛一族の秘術ではなく、私が自分で開発した術式です」
「……なんですって?」
やはり、食いついた。ここから先は、私の交渉術の見せ所だ。
「私は自分が生き残るために、あらゆる手段を用いてきました。時には、自分で新しい術を作る事にすら挑戦しました。二重起爆札は、そんな私の足掻きから生まれた術です」
嘘ではない。着想こそ扉間様の互乗起爆札に基づいているものの、口寄せの術式は私のオリジナルだ。物心ついたときから里の秘伝の書を読み漁り、貪欲に忍術を求めてきた成果が結実した私自身の努力の結晶だ。
忍術の最奥を求め続け、禁術に手を染め里を追われた大蛇丸ならば、この努力が如何に大変なものであるかを理解してくれるはずだ。ならば、そこに突破口はある!
「もし! 大蛇丸様。貴方が私の術開発のセンスを認めてくださるのなら! どうか。どうか私を! 貴方の部下でも協力者でもなく、弟子にしていただくことはできないでしょうか!」
真正面から大蛇丸の眼を見据え、私は叫ぶ。
さあ、大蛇丸の反応や如何に?
「……フフ。いい口説き文句ね。私、アナタに予想以上の興味が湧いてしまったわ」
THE・好印象! 良いぞ! このまま行けば私の狙い通りだ!
「いいでしょう。アナタは私の部下ではなく、弟子として招待するわ。将来有望そうだし、ひょっとしたらカブト並みの逸材になるかもしれないしね」
ああ! 期待以上の戦果だ! カブトと並べて語られるということは大蛇丸の下に就く者として、最高評価に近い扱いだと考えていい!
大蛇丸の弟子となり、ゆくゆくは、大蛇丸の術の共同開発者となる。
私の生存のための一手に、これは必須条件だ。
この場で即席で考えた一手だから、後で修正は必要だろうが、現状は概ね計画通りに運んでいると見ていい。
見てろよ。私はこの世界の全てを出し抜いてでも、生き残ってやる。
「ありがとうございます!」
私は大蛇丸に全力で頭を下げる。その瞳に、野心の光を輝かせながら。
「では、早速アナタにはこの額当てをあげるわ。これからは、草隠れではなく音隠れの忍として、私のために尽くしなさい」
大蛇丸は八分音符が刻まれた、新しい額当てを私に差し出す。
私は頭に巻いていた草隠れの額当てを外して、それを受け取った。
キュッと、私は、バンダナの上に音隠れの額当てを巻き付ける。
「フフ……。似合ってるわよ。アナタ、名前はなんと言ったかしら?」
「由也。草笛 由也です」
「フム……。では、アナタはこれから『多由也』と名乗りなさい。音隠れの忍として、今までの自分を捨て、より多くの真理を目指す者として生まれ変わるのよ!」
「! ……ハイ!!」
ここか! ここが! 私の人生のターニングポイントか!
大蛇丸によって、今までの人生が剥ぎ取られ、新しい自分を与えられる。
草笛 由也は、その名を捨て、新しく多由也へと生まれ変わる。
実感する。ここが私の、人生のスタートラインだ。
音隠れの多由也。私はこの時正しい意味で、ようやく自分がNARUTOの登場人物に生まれ変わったのだと確信した。
▼次回へつづく。
熱感知で起爆札と人体の区別がつかないわけないだろガバガバ設定もいい加減にしろ!という突っ込みが執筆途中頭に鳴り響きましたが、今さら新しい戦術を考えるのもめんどくさいのでそのまま突進しました。どうせガバガバ設定なんてそこら中至るところに存在するから良いんだよ!咄嗟のことで大蛇丸がミスしたのかもしれないじゃん!言わなきゃわかんねえって!そんな第二話でした。読者を舐めるのもいい加減にして欲しいですよね。こういう作者は今すぐ自害した方が世の中マシになると思います。そんな作者相手でも付いてきてくれるという心優しい聖者のような読者様は、次回をお楽しみください。
前書きの一言に対する自問自答。
「オリジナル設定は…、ロマンだから…」