前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。   作:N-SUGAR

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気付けば二週間。お待たせして申し訳ありません。忙しさが天元突破しておりました。まだピークじゃないとかいう恐ろしい事実は考えたくないので現実逃避を実行します。皆様は私のことは気にせず作品をお楽しみください。

ここで自分に向けて一言。
「前回の話なんだっけ?」



第二十一話 芸術は永く後々まで残ってゆく永久の美。

 大蛇丸様に私が穢土転生を使っていることがバレた。

 

 風の国の隠れアジトでのことである。任務開始前、久しぶりに会った大蛇丸様の口から唐突にその事実を聞かされ、私は少なからず動揺した。ぶっちゃけこうなるだろうと予想はしていたが、ここまですんなりさらっとバレるとは思わなかった。そりゃ、穢土転生を見せつけた相手が『暁』メンバーである角都だったのだから、当時まだ『暁』メンバーだった大蛇丸様がちょっと事実確認するだけで、簡単に私がどうやって角都を追っ払ったのかは分かってしまうだろう。そうすれば、私が穢土転生を使うことと、その穢土転生に大蛇丸様の実験体を使用しているであろうことは簡単に推測がつくし、実際ついてしまったというわけだ。そして、事のついでかのように今回、久しぶりに対面した私に大蛇丸様はその事を確認してきた。

 

 まぁ、だからと言って慌てることはないんだけどね。ここまでは、扉間様が仕込んだ台本通りの出来事なのだから。

 

「アハハー。実はそうなんですよー。便利な術を見つけちゃったもんだから、ついつい参考にしちゃいましたー」

 

 ここまで軽々しい発言はしてないけど、大体こんな感じの適当な嘘八百を筆頭に、然もなんでもないことのように私は、扉間様お墨付きの無難な言い訳を大蛇丸様の前に並べ立てた。

 

 話を聞く限り、そもそも潜入任務のせいで南アジトに滅多に帰ってこない大蛇丸様は、私が具体的にどこのどういう材料を使って穢土転生を再現したのかまでは調べがついていなかったようだ。それこそ実験体が何体かパクられたことくらいしか把握していない。だから私は本当に自分にとって無害なところだけをピックアップして、できれば知られたくなかったなーみたいな、いたずらが見つかった子供みたいな様子を演じながらペラペラと適当なことを喋る。

 

 この時の言い訳に際して、都合の良いことが2つあった。1つは、現在の状況があまり私のことばかりに気を取られても仕方のない状況であるという点。もう1つは、私達が今まで暮らしていた南アジトが、不死コンビ襲来のせいで現在撤収作業の真っ最中であるという点だ。

 

 1つ目は言うまでもなく、『暁』の追っ手が迫っている以上まず注目すべきは明らかにそちらの方であり、私が穢土転生を使えるようになっているという事実はそこまで優先度の高い問題ではないということ。むしろ任務成功率がプラスに傾く分、大蛇丸様的にとってはありがたい事実の1つになるだろう。

 

 2つ目は、実はこれがとっても有り難い。不死コンビが襲来してから私達も巻き込まれた二週間に渡るアジト撤収作業のゴタゴタは、隠蔽工作に丁度良い混沌を南アジトに齎してくれたのだ。お陰で私は扉間様を呼び出すのに使用したDNAマップを複製してこっそり保管庫に戻しておくことができた。あればかりは盗まれていることがバレると色々面倒臭かったので、大蛇丸様が戻ってくる前にどうにかしておく必要があったのだ。(うちは)シンの実験に使用していたクローン技術とか色々駆使してDNAマップを複製するのに基地内で結構怪しい動きをする必要があったので、その点だけ鑑みれば、不死コンビがアジトに攻めて来てくれたのは非常に助かったと言える。穢土転生の件が大蛇丸様にバレる原因は奴等によるものだが、それ以上のことがバレないようにするための手助けをしてくれたのも、奴等だったのだ。

 

 以上の幸運が重なり、私は大蛇丸様の突然の手痛い詰問に対してかなり余裕のある回答をすることができた。大蛇丸様自身、私が穢土転生を扱えるようになったこと自体は喜ばしいこととして認識しているらしく

 

「問い詰めた角都に逆に詰られた時はかなり愉快な気分になったものだわ。『貴様は二代目火影の再来でも作る気なのか』ですって。詳しい戦闘内容は話してくれなかったけど、それだけ聞かされれば何があったのか予想もできるというものだわ。クク……。本当に、よくやってくれたものね。多由也」

 

 等と愉快そうに話していた。話の内容を精査すれば、私にとって不都合な情報が何一つ大蛇丸様に渡っていないという事実が明白なので、その話は私にとっても愉快な内容だったというのはここだけの秘密だ。

 

 だから、現在私が頭を悩ませるべき問題はそれではない。それについても後で少し考えておく必要は有るが、間近の問題はもっと別のところにある。言うまでもない。大蛇丸様を追ってアジトへとやって来たサソリとデイダラ。この二人の対処こそが、私達にとっての喫緊の課題であった。

 

 任務開始前、大蛇丸様が私達に提示した逃亡プランは以下の通り。

 

 ①追っ手の前に姿を見せる。

 

 ②戦う。

 

 ③自分達を生死不明の状態にしたまま逃げ切る。

 

 と、いうラインナップになっている。①と②は、まぁいい。大蛇丸様に私の新術について一部ばれてしまったのなら、いっそのこと大手を振って使いまくってしまえばサソリとデイダラ相手でもちゃんと作戦を立てれば逃げ切ることくらいは余裕でできるだろう。

 

 だけど③。この箇所だけは、なんとも無理難題だ。自分達を生死不明にした状態で逃げ切る? この命題を達成するには、つまり私達は一度相手の攻撃をもろに食らう必要が出てくる。サソリの毒にしろデイダラの爆破にしろ、食らったら終わりな攻撃ばかりだというのにそれを食らえと言う。食らわないにしても、食らった振りくらいはしなければならない。

 

 相手の捜索の手を遅らせるために必要な手順であることは分かるのだが、それにしたって無茶を言うなと言いたい。

 

「ただ追っ手を排除するだけでは駄目なのかな?」

 

 大蛇丸様の作戦を聞いた君麻呂が、私に小声で耳打ちをしてくる。お前……。そーゆーのは作戦の提案者である大蛇丸様に直接聞けよ。崇拝者である大蛇丸様相手に疑問を投げ掛けたくないのは分かるけどさ。

 

「要するに、追っ手を排除することでもっと強い追っ手が差し向けられることを大蛇丸様は恐れてるんだ。飛段や角都レベルの忍が追っ手として差し向けられたのなら私達にも対処のしようがあるけれど、それを遥かに凌駕するレベルの忍が差し向けられたらどうしようも無くなるだろ? それと同じことが大蛇丸様にも言えるんだよ」

 

 私が君麻呂にしか聞こえない音量で答えると、君麻呂は難しい顔をして考え込む。

 

「未だに信じられないな……。飛段が『暁』のメンバーになったというのはなんとか納得できたけど、大蛇丸様を凌駕するような忍が、『暁』に複数人いるだなんて……」

 

 大蛇丸様が作戦を伝えるに当たってようやく一部解禁された『暁』のメンバー情報によって、君麻呂は飛段と角都が『暁』のメンバーであることを知った。そして、その情報によって与えられた精神的ショックはそれなりに大きかったようである。まぁ、君麻呂の心境なぞ私が考えても仕方がない。そればかりは自分で解決してもらうしかない葛藤だ。

 

 『暁』の実力なんて、それこそ実際に見て聞かないと分からないだろう。そして私は知っている。『暁』のトップ連中は、今の私ではどうにもできないレベルのやべーやつらばかりなのだと。イタチにしろペインにしろ、もしかしたら鬼鮫にしろ、そいつらを相手にしたら今の私だと穢土転生込みでも倒せないかもしれない。なんなら今回にしたって、まだ若いデイダラはなんとかなるかもしれないが、百もの傀儡を同時操作できるサソリには私では敵わないかもしれないくらいなのだ。原作ではサクラとチヨバアの二人で倒せてしまっているが、あれはサソリの傀儡操作を熟知し、かつ身内であったチヨバアがいたからこそ収められた勝利であることを忘れてはならない。

 

 特に今回の任務は、どれだけ追っ手を相手に上手く負けられるかが肝になる。私達はあくまでも追っ手より弱く、そして、生死不明になったときに追跡を一旦諦められるくらいの警戒度でなければならないのだ。そんなのただ勝つよりも圧倒的に難しいに決まっている。

 

 本当に、大蛇丸様が一人でやればいいと思う。絶対その方が『暁』から逃げ切るという任務の達成率は高い。だけど大蛇丸様は、私達を『暁』とぶつけさせる気満々だった。どうせ自分の目の前で私達を『暁』のメンバーと戦わせて、私達がどれだけ成長しているのかを直に量りたいとでも思っているのだろう。気持ちは分からないでもないが、本当に余計なことをしてくれる。愚痴の1つでも吐き出したくなるというものだった。

 

 こうして本当に仕方なく、私と君麻呂の二人は現在、デイダラ相手に戦わせられることになったのだった。

 

 デイダラを吹っ飛ばして、大蛇丸様対サソリの戦況を窺うと、大蛇丸様はサソリを相手に余裕綽々の表情で突っ立っている。そりゃそうだ。何しろ大蛇丸様の野郎、よりにもよってサソリが操っている三代目風影を、穢土転生でもう一体召喚しやがっている。

 

 いや。分かる。分かるよ? アニメで見たもん。アニメオリジナルストーリーの『イタチ真伝編』において、大蛇丸様は今と似たような構図でサソリと相対していた。三代目風影には三代目風影をぶつけるんだよ! みたいな、ロマンのある対決になってはいる。視聴者としてはそれなりに興奮したし、確かに大蛇丸様だからこそできる魅力的なマッチアップではある。だけど当の三代目風影本人からしてみればたまったものじゃない構図だろう。自分の死体が傀儡人形に改造されている様を大蛇丸様の人形にされた状態でまざまざと見せつけられるとか、もはや拷問とかそういうレベルですらない苦行である。生前どんな罪を犯したらそんな悲惨な目に遭うのかちょっと私では想像がつかない。

 

 かわいそうになー。三代目風影様。

 

 まあそれはそれとして、あの人の穢土転生は、私も超欲しい。

 

 磁遁という血継限界もさることながら、あの人歴代最強の風影とか謳われている忍なんだよな。原作じゃあ、サクラに割とすぐ傀儡を壊されちゃったし、アニメオリジナルでも大して活躍しないまま出番終わっちゃったからいまいち実力が掴めないところがあるけれど、絶対あの人実力を十全に発揮できれば強いはずなんだよなー。つーか、攻守共に活用できる磁遁って、私の戦術とも相性が良いんだよ間違いなく。

 

 なんかの拍子に手に入ったりしねーかなー。あの人。

 

 私は思いつつ、同時に不安も抱く。この戦い、今のところ負ける要素無くね? と。

 

 私と君麻呂は現在デイダラ相手にかなり優勢に戦っているし、大蛇丸様は三代目風影を用いてサソリと五分以上の戦いを行っている。

 

 大蛇丸様、作戦遂行する気有ります? 私は心の中で疑問の声を上げる。

 

 今回の作戦では、折を見て大蛇丸様が私達に合図を出し、その瞬間私達は撤退する振りをしてアジトの中に逃げ込む手筈になっている。アジトの中には逆口寄せの陣が用意してあり、その陣を通してこれまた合図を送ることで、ここから十キロ以上離れた場所に待機しているカブトさんが私達を一斉に口寄せするのだ。逆口寄せの陣は発動後消滅する仕様になっているので、そうなれば、今回の任務は八割方達成されたと言っていい。

 

 何しろ追っ手の一人は爆発大好きデイダラちゃんなのだ。砂漠のど真ん中なんて逃げ場の無いアジトに逃げ込めば、デイダラは間違いなくアジトごと私達を盛大に爆破してくれるだろう。そうすれば後に残るのは巨大なアジトの残骸のみ。私達の死体は見付からず、見事に生死不明の状況が形作られることになる。二人が誰もいないアジトを捜索している間に私達はすたこらと逃げ帰る。それで、今回の任務は完了だ。

 

 だけど、今のところ私達はあの二人相手に自然に撤退を敢行できるほど追い詰められていない。君麻呂のスタミナは着々と減っていっているが、それを考慮しても、このままでは普通に勝ってしまいそうなペースである。これで、本当に作戦の実行なんてできるのか? あの人、今明らかに新術の試し撃ちに夢中になっててそれどころじゃなさそうなんだけど……。

 

 私が懐疑的な視線を大蛇丸様に向けていると、その瞬間、現状に変化が訪れる。

 

 あ、そういえば、そうだったね。大蛇丸様は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私はアニメの朧気な記憶を呼び覚ましつつ、納得する。

 

 目の前の光景を見て私は、そろそろこの戦いも潮時みたいだと確信した。

 

 

 

 


 

 

 

 

 芸術とは、永く後々まで残ってゆく永久の美にこそ宿る。

 

 本物の永久というやつがどんなものなのかはこのオレをして未だ知る由も無いが、人傀儡はそれに近いものに迫っているという自負が、オレにはあった。

 

 腐らない肉体。若さと強さを損なわない肉体。いくらでも作り替えられる肉体。

 

 整備さえ怠らなければ永遠に作品が形を保ち続けるオレの人傀儡は、未来永劫、万人の目に留まり続け、永久にその美しさを人々の目に焼き付ける。

 

 デイダラのヤツと芸術論を戦わせると、いつも最初の段階で話が合わない。アイツは一瞬で儚く散りゆく爆発の美学こそが芸術と言って憚らないからだ。オレの美学とは全く合わない。ヤツの爆発芸術はちっとも美しいとは思わないが、しかしヤツの粘土アート自体は、ポップ過ぎる見た目を何とかすれば少しは見るべきところがあると思っている。自爆機能なんて余計な機能を付けるのはバカのやることだと何度言ってやったか知らねェが、どれだけ批判しようとアイツは己のスタンスを曲げようとしない。まぁ、アイツにはアイツなりの信念ってもんが有るのだろう。ヤツの作品は実に下らねぇと思うが、ヤツが己の作品に掛ける不変の情熱だけは、それなりに評価しても良いと認めている。それにヤツは表面上だけ軽くとは言え、一応芸術家の先輩であるオレにある程度遠慮することを知っていた。だからオレは、ウルセェクソガキとのツーマンセルに渋々ながらも甘んじてやっている訳だ。

 

 その点前の相方だった大蛇丸はクソの極みだった。永遠を求めているという一点のみにおいてヤツはオレと共通していたが、それ以外に関しては全く反りが合わなかった。まずアイツには芸術的素養が全く無い。オレの永遠は美しさを留めるための崇高な手段であるのに対して、アイツの永遠は全く節操というものを感じなかった。というか、はっきり言って醜かった。醜く、生き汚く、生にしがみつくことだけに執着していた。あんなものは芸術とかけ離れた概念だ。一緒にいるだけでオレの芸術観に泥を塗られているような気分になって、胸くそ悪いことこの上なかった。その上あの野郎、言うこと欠いてオレの芸術の不完全性を直してより完璧なものに近づけてあげましょう等と提案してきやがる。それだけならまだ利用してやろうという気にもなるが、ヤツの上げ連ねる改善案とやらはどいつもこいつも美学の美の字もねェ気色の悪いものばかりだった。もはや怖気を感じる肌すら残って無いってのに、それでも鳥肌が立つかと思うようなゲテモノの数々を見せつけられ、オレの精神は日々磨耗していった。

 

 オレは確信した。この世界を少しでも芸術性の高い美しい世界にするためには、何を置いても大蛇丸という概念だけは確実にこの世から消し去らなければならないのだと。オレは永遠を愛しているが、しかしヤツのようなゲテモノが永遠にこの世界に留まるなんて堪ったもんじゃない。世界は美しく永劫であらねばならないのだ。コンビでの活動中、オレは常にヤツを消したかったが、一応ヤツは『暁』の仲間な訳だし、組織ってのは秩序だっていなくちゃ美しくねェ。下心が透けて見える嫌らしいヤツだったが、それでもちゃんと『暁』の利益を産み出している以上はそう簡単に消し去るわけにもいかねぇ。だからオレは必死に我慢を続けていた。

 

 だが、それもいよいよ終わりだ。アイツは『暁』を裏切って仲間を襲撃し、あまつさえ逃亡しやがった。仲間を襲って殺すだけなら角都のジジイもよくやってたが、アイツの場合は、チーム間のトラブルの末の出来事だ。しかもその原因は大抵相方の方にあったので、リーダーも角都の癇癪はある程度黙認していた。何しろあのジジイ個人としての戦力が異様に高いのだ。オレの趣味ではないが、永遠の命に肉薄しているところも好感が持てる。気色悪さは大蛇丸と良い勝負だが、少なくともアイツはオレの芸術に変な口出しはしてこない。個人で完結しているから無害この上ないし、組織のサイフ役としての役割もきっちりこなしている。組織の利益になっている以上アイツの過失は過失と数えられないし、組織そのものを裏切ってる訳じゃないからどうでも良いとすら言いきれる。問題が起こる度、多少組織の秩序が乱れることは前々から気に食わなかったが、それも飛段がやって来たことによって解消された。

 

 だが、大蛇丸は違う。アイツは『暁』に対して明確な敵対の意思を見せた。個人の都合で仲間を襲い、その上組織の情報を持ち逃げして組織を裏切った。そもそも最初からアイツは『暁』に探りを入れる気でいるのを隠す素振りすら無かったし、リーダーだって危険なヤツは手元で監視しておいた方が良いと言ってヤツの『暁』入りを許可したのだ。その大蛇丸が『暁』を脱退した時点でもはやオレ達にとって百害あって一利なし。即刻即座に抹殺すべき対象へと切り替わった訳だ。もはや遠慮は無用。日頃のストレスのお返しに一目散にぶっ殺してやろうと決意する。

 

 そう意気込んで、オレは大蛇丸の前に立った。オレの忠実な部下であるカブトの情報から大蛇丸の隠れ家を暴き出し、大蛇丸を追い詰めた。

 

 だというのに大蛇丸の野郎は一向に余裕の表情を崩さねェ。しかもガキ二人連れでオレ達に相対するとか、完全に舐め腐った態度を取ってきやがる。初めてヤツと戦闘したときもそうだった。アイツは最初からオレとまともにやり合うつもりがなく、別の事ばかりに執着していた。初戦の時はリーダーの輪廻眼。『暁』在籍時はイタチの写輪眼。そして今は、部下に経験値を積ませるため? ふざけるのもいい加減にしろ。オレの至高の芸術作品を目の前にしておいて、美しさに息を飲むことも恐怖することもしやしねェ。ヤツに少しでも芸術を見出だせる要素があるなら我慢もできたが、生憎ヤツと芸術は無縁の概念だ。ただただムカツクだけの存在。そんなものがこの世に存在することなど、もはや許しては置けない。

 

 オレの芸術活動に、お前は邪魔なんだよ。大蛇丸。

 

 今こそここで、オレ達の腐れ縁に幕を下ろしてやる。

 

 そう意気込んで臨んだ追撃戦。よく分からん大蛇丸の部下をデイダラに押し付け、オレはお気に入りの人傀儡である三代目風影を口寄せする。オレの所有する二百を超える人傀儡コレクションの中でも間違いなく最高傑作。三代目風影をブチ殺し、その死体を材料に傀儡を作ることで、三代目風影の術である磁遁がそのまま使える逸品だ。オレは前にも一度、この傀儡を使うことで大蛇丸を倒すことに成功している。

 

 ここは砂漠のど真ん中。風影の操る砂鉄は無限にある。地の利は完全にこちらのものだ。

 

「三代目風影。こいつの力を、まさか忘れた訳じゃねぇだろうな?」

 

「エェ。もちろん。私、良いと思ったものは取り入れる主義なの。だから少し頂いたのよ」

 

 オレが大蛇丸を殺そうと構えると、大蛇丸は口寄せの印を結び、棺桶を口寄せした。

 

 ギギィ……、と、「三」とだけ刻まれた木製の棺桶が蓋を開く。

 

「何!?」

 

 そして、その中に眠っていた人物が、目をゆっくりと目を開いた。

 

「サソリか……。貴様あの時はよくも……」

 

 オレがぶち殺したはずの三代目風影。それが、本人の意識を持った状態でオレの前に姿を現した。訳が分からない。どうなってやがる。大蛇丸は、また一体何をしでかしやがった。

 

 アイツは気色悪い術ばかりを使うが、今回のは極めつけだった。見た目的な気持ち悪さではなく、精神的な気持ち悪さ。死人が現世に蘇るという、圧倒的違和感。未だにこんな術を隠し持っていたなんて、コイツはどこまでオレを虚仮にすれば気が済むのだろうか……。

 

「アナタのその人傀儡と私の禁術。果たしてどちらが上かしらね?」

 

 ……挑発しやがるじゃねぇか。上等だ。大蛇丸が一体どんな気色悪い手を使いやがったのか知らねェが、人傀儡として様々な改良や仕掛けを施しているオレの芸術が、ゾンビごときに負けるわけが有るものかよ。オレは大蛇丸の隣に立つ三代目風影が放つ『砂鉄時雨』を砂鉄の壁で防ぎ、無防備な三代目風影に無数の絡繰り義手を叩き込んで身体をむしりとっていく。

 

 オラどうだ! 即刻バラバラに刻んでやったぞ! やはりオレの傀儡に本物如きが敵うはずもねぇ。訳の分からん幕間劇など、さっさと終わらせるに限る。

 

「フン。他愛無ェ。次はオメェの番だぜ大蛇丸」

 

「さぁ、どうかしら?」

 

 鼻を鳴らすオレに対して、尚も気色悪い笑みを浮かべる大蛇丸。嫌な予感がしていると、今度はバラバラに分解したはずの三代目風影に塵が寄り集まり、再びその姿形を再構成していく。

 

「……どうなってやがる」

 

「これも一つの永遠の命。私の『穢土転生』は死なないのよ。もう死んでるけど」

 

 オレの疑問に、大蛇丸が愉快そうな表情で答える。永遠の命だと? 死なないだと? そんな馬鹿なことがあるか。不死などと謳ってやがる飛段の奴だって、バラバラにして放っておけばその形を保ってはいられなくなるだろう。だというのに、コイツの禁術とやらはなんだ? 再生能力? まさか、本当に不死だとでも言うのか? 

 

 永久に、形を保ち続けるとでも言うのか? 

 

「死なねェわけが、あるか!」

 

 オレは傀儡を操って磁遁を発動させ、幾本もの砂鉄の槍をゾンビに突き刺す。だが、ゾンビは特にダメージを受けた様子もなく、突き刺さった砂鉄を操ってこちらに攻撃してきた。

 

 磁遁対磁遁。相手の攻撃を防ぐことはどうということもねェ。だが、こちらの攻撃も通用しない。

 

 面倒臭いことこの上なかった。

 

 悪いことは更に続く。

 

 ボフン! と、オレのすぐ側で砂漠から砂埃が巻き上がる。何かが降ってきた。等と惚けるつもりはない。何が降ってきたのかは最初から一部始終把握している。それだけに、これが全く面白くない出来事であるということが分かってしまう。

 

「オイ、デイダラテメェ……。何ボロボロになって帰ってきてやがる。大蛇丸の下っ端風情にやられてんじゃねぇよドアホ」

 

 すぐ側に墜落してきたド阿呆に、オレは悪態を吐く。ただでさえ大蛇丸が予想の斜め上を無視するかのような変態軌道で抵抗を見せているってのに、これ以上厄介事の種を増やしたくない。大体よく見りゃなんだあの部下ども、二人とも揃って翼なんぞ生やしてやがるし、女の方に至っては人間かどうかも疑わしい有り様だ。クソガキとは言えデイダラが苦戦するってことは、アイツ等も相当だ。ゲテモノは部下までゲテモノになるのか、それともゲテモノだから大蛇丸の部下になったのか、知りゃあしねーが、どちらにせよ厄介なことだ。

 

「済まねェ旦那……。でも、アイツらおかしいんだ」

 

「んなもん見りゃわかる。大蛇丸の野郎、どうせあのガキどもにろくでもねぇ実験でもしてやがったんだろうさ。こっちも大分おかしな事になってやがるからな……」

 

「……旦那がお気に入りの三代目風影を使っているのは別にいいとして……。なんでその三代目風影が、大蛇丸の側にもいやがるんだ?」

 

「それが分からねェからこうして苦戦してるんだろうが。穢土転生とかなんとか、聞いたような聞かないようなことを言ってきやがるが……」

 

 分かりきっていることを一々確認されるのは苛つくもんだが、こんなところで仲間割れしてても始まらねェ。オレが丁寧に現状を説明してやると、デイダラがふと、言葉を漏らす。

 

「……この前、角都の旦那がオイラたちに似たようなことを口走ってなかったか?」

 

 んん? 角都? 角都だと? そういえば、大蛇丸を追跡しに行くって段になって、角都がオレたちに向かってなにかを忠告していたような気がしたのを思い出す。早く大蛇丸を殺したいという気持ちが逸ってろくに聞いてなかったが、確か──。

 

「ああ。確かに言ってたな。大蛇丸の部下に二代目火影の術を使う危険な忍がいるから気を付けろとかなんとか……。ジジイの戯言だと思って大して気にも止めなかったが、ふうん? あれがそうなのか……」

 

 二代目火影の術。そして『穢土転生』。確か角都はそう言っていた。それがどんな術なのかまでは聞きそびれたが、角都が警戒するような術がそう何個も有るとは思えない。となると、アレが? 

 

「確か……多由也……とか言ったか?」

 

「ああ? なんでテメーがウチの名前を知ってんだ。ストーカーか?」

 

 デイダラが角都から聞いたような気がする大蛇丸の部下の名前を呟くと、悪魔じみた見た目をした女部下が吐き捨て、デイダラのこめかみに青筋を作る。なるほど。あの女が多由也とかいうヤツなのか。角都が警戒する程の忍。面倒だが、大蛇丸を殺す邪魔をする以上はアイツもぶっ殺しておかなければならない。

 

「旦那。本当に済まねェな。だけど安心してくれ。オイラ、今からちょっと本気出すからよ。うん」

 

 一目でわかるくらい苛つきながら、デイダラは言う。今まで本気を出していなくてこの様なら、最初から出しておけとも思う。

 

「最初から出しとけ。だがそうだな。オレの方も、少し本気を出す必要があるか……」

 

「お互い様じゃねーか。じゃあ、二人で一緒に、本気出して行くとしようぜ。芸術コンビの本領発揮だ! うん!」

 

 思ったことを口に出さない理由もないのでデイダラに言い放つと、デイダラは生意気な口を返しつつ立ち上がり、巳の印を結んで両手で起爆粘土を練り込み始める。

 

「旦那。アイツらにでかいのを一発食らわせたいんだが、まさかもう、大蛇丸はどうしても自分でやるとか言わねェよな?」

 

「……勝手にしろ。オレは好きにやる」

 

「オッケー。早い者勝ちだな。うん!」

 

 デイダラの手の中で尋常ではないチャクラが練り込まれる。野郎、早速C3をぶっ放す気か。デイダラの実力を量るために先日小国で請け負った任務で、一度見たことがある爆弾だ。一発で城を城下町ごと吹き飛ばしやがって危うくオレの傀儡コレクションが破壊されるところだった。こんなところでぶっ放すなど過剰火力も良いところだ。コイツ、正常な判断力が無くなってないか? 

 

 まぁいい。大蛇丸など木っ端微塵に吹き飛んだところで爽快なだけだ。もしかしたらオレは、今回初めてデイダラの爆破芸術に共感できるかもしれない。

 

「まぁ、その前にオレが殺すがな」

 

 指先の糸を操り、オレは傀儡のチャクラを活性化させる。

 

『磁遁・砂鉄界法』

 

 オレの傀儡を中心に、砂鉄が網目のように細く広く展開される。『穢土転生』だかなんだか知らねぇが、要は術者である大蛇丸を潰せば終わりだろうが。三代目風影のゾンビには効かなくとも、毒を塗り込んだこの砂鉄が少しでも掠ればそれ以外の全員はお陀仏だ。この攻撃を避けられる奴などいやしねぇ。

 

「ソォラァ!! さっさと死ね!」

 

 無数の砂鉄が大蛇丸どもに迫る。しかし大蛇丸は生意気にも、落ち着いてオレの攻撃に対処してきやがった。

 

『磁遁・砂鉄大壁』

 

 大蛇丸とオレ達の間に、超巨大な砂鉄の壁が立ち塞がる。三代目風影の最大防御。砂の守鶴の全ての攻撃を防ぎきるとすら言われた絶対の壁だ。『砂鉄界法』の攻撃射程は四方100メートルにも及ぶが、『砂鉄大壁』の規模は、それを優に上回る。オレの砂鉄は、穢土転生の砂鉄によって完全に防がれた。

 

「ハッ! 阿呆が!」

 

 だが、大蛇丸はミスを犯している。『砂鉄大壁』は全ての攻撃から身を守る代わりに莫大なチャクラを消費する忍術だ。生前三代目風影がその術を使えたのは一回の戦闘で一度きり。それ以降はチャクラ不足で磁遁を使えなくなる。対してオレの傀儡にはまだチャクラに余裕があり、あと数回は『砂鉄界法』が繰り出せる。

 

 完全に勝負ありだ。

 

 取りあえずは、

 

「デイダラ。オレがこの壁を崩すから、お前は崩れた隙間から爆弾を投げ入れろ。あっちの三代目風影はもう磁遁を使えない。お前の爆弾で十分致命傷を与えられるはずだ」

 

 デイダラに指示を飛ばす。一先ずデイタラに攻撃させておいて、それで死ぬならよし。だが、大蛇丸のことだ。まだ何か奥の手を用意しているかもしれない。

 

 デイダラの攻撃の後、それでも大蛇丸が生きていたならば、その時こそオレが直々に殺してやる。

 

 オレはそう決意を改め、一先ず砂鉄でできた壁に穴を開けようと傀儡を動かそうとする。

 

「『砂鉄大時雨』」

 

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「何!?」

 

 次の瞬間、砂鉄でできた巨大な壁から、砂鉄の雨が無数に降り注ぐ。

 

「デイダラ!!」

 

 オレはデイダラを呼び戻しながら磁遁でオレの周囲に壁を形成する。「もう磁遁は使えないんじゃなかったのかよ旦那!?」と叫びながら大慌てで走り、間一髪でオレの後ろにデイダラが隠れたところで、辺り一面に砂鉄の雨が衝突し、砂漠に穴を穿っていく。

 

 やがて砂鉄の雨が止み、オレが壁を崩すと、そこには、尚も砂鉄塊を浮かせて戦闘態勢を維持する三代目風影の姿があった。

 

「……あり得ねェ。何故、まだ磁遁が撃てる!」

 

 思わず驚愕の声を漏らす。だが、それも仕方のないことだった。あれだけの大技を繰り出しておいてまだチャクラが尽きていないとはどういう了見だというのだ。常識的に考えて有り得んだろう!! 

 

「フフ……。流石のサソリも、これには驚きを隠せないみたいね」

 

 こちらの慌てぶりを愉快そうに眺める大蛇丸は、そう言って、勝手に講釈を垂れ始める。

 

「穢土転生として甦った死人のチャクラが尽きることはないわ。生前の状態を保つという性質上、どれだけ忍術を使っても穢土転生体はチャクラ量が一定に保たれる。朽ちぬ身体。崩れても再生する身体。そして、使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。穢土転生というのはね、本当に完全な不死を死人に与える究極の忍術なのよ。これぞ完璧な永遠。あなたの傀儡なんかよりも、よっぽど完成された究極の人形。便利な術でしょう? あなた達もすぐに、彼と同じにしてあげるわ」

 

「……正気か?」

 

 なんだその、ガキが妄想するような非現実的な最強忍術は……。不死で、再生するだけでなく、無限のチャクラだと? 馬鹿なことを言うなと言ってやりたい。そんなことは有り得ないと一蹴したい。だが、現実がそれを容赦なく否定する。

 

 現実が、非現実をオレたちの前に突きつけている。

 

 つまり、こちらが細々とした磁遁を使う度にオレのチャクラが減り続けるのに対して、向こうは大蛇丸が何もしなくとも、三代目風影の穢土転生が延々と磁遁の大技を繰り出し続けることができるって訳か? なんだそれは。無茶も休み休み言え。まだ、大蛇丸がいよいよ性転換して女になったとかそういう気色悪い妄想の方が理解が及ぶ。

 

「おい! 旦那! どうしたんだよ!?」

 

 だらりとヒルコの腕が下を向き、それを見たデイダラが困惑の表情を浮かべる。

 

「まさか、今ので諦めたってんじゃないだろ!?」

 

「バカ言うな。誰がそんな無様を晒すかよ。少し考えてるだけだ!」

 

 オレは怒鳴り付けてくるデイダラに怒鳴り返しながら考える。大蛇丸の言が全て真実だったとして、攻略法は何か無いのか。

 

 三代目風影同士のバトルでは決着がつかないどころかこちらがじり貧になることは目に見えている。だったら戦法を変えるしかない。だが、どうやって攻略する? 風影の磁遁は傀儡の天敵だ。どれだけ大量の傀儡を出そうとも、奴の磁遁ひとつで片がついてしまう。

 

 デイダラの爆弾で牽制しつつ隙を突くか? しかし、奴の『砂鉄大壁』は、恐らくC3でもぶち抜けやしない。だとするなら、後は何が残っている? 

 

 考える。考える。考える。

 

 だが、考えれば考えるほどに、道が次々と閉ざされていく錯覚を覚える。後は、後は、後は……。

 

 後は……後は何も……無い……。

 

 青褪める筈もない顔から、血の気が引いていく気がした。このオレが大蛇丸ごときに……敗ける? そんな馬鹿なことがあるのか? 

 

 だが実際問題、攻略の糸口が掴めないのもまた事実。弱点のない術など存在しないのだから穢土転生とやらにも何らかのデメリットはあるはずだ。だが、それが分からないからどうしようもない。

 

 穢土転生の弱点を探りつつ戦うとなれば長期戦にならざるを得ないが、長期戦になって困るのは明らかにこちらの方だ。正直勝てる見込みが浮かんでこない。

 

 というか、何より不味いのは、オレが半ば奴の術を認めかけてしまっているという点だ。

 

 永遠。永久。不滅。奴の術にはその全てが揃っている。大蛇丸の腕から作り出されたとは思えない芸術性が、あの術には内包されている。

 

 二代目火影の禁術……なのだったか。大蛇丸と違い、そいつには余程芸術家としての素養があったのだろう。術を見ればわかる。一つの忍術をあそこまで洗練するにはクリエイターとしてのセンスや発想力が他の追随を許さぬほどにずば抜けていなければならないだろう。もしかしたらあの術を作った人物は、初代傀儡操演者モンザエモンと並ぶかもしれないとすら思える程だ。それだけ奴の使った術には芸術性があった。敗けたと、一瞬そう思ってしまうくらいに。

 

 だが、そこまで考えた瞬間、ふと違和感を覚えた。あの術を作った人間は間違いなく天才だ。その上、オレ達傀儡使いと根本的に似通った思考をした人物であることも容易に想像ができる。もしもオレが砂ではなく木ノ葉に生まれていたら、オレは十中八九あの術に手を出していただろう。

 

 それ故に、どうしてもぬぐえない違和感があった。

 

 初代傀儡操演者モンザエモンが自伝に残した言葉が頭を掠める。

 

「傀儡操者は傀儡の魂を演ずる者也。故に、傀儡に魂宿すことこれ犯してはならぬ愚行也」

 

 砂隠れでは、人傀儡と同じく傀儡人形に人の魂を宿すことは、そういった術の有無に関わらず禁術とされている。里がその類いの術を禁じた理由は主に下らねェ倫理観から来るものだが、傀儡操演者達にとって、この禁術指定には別の事情が絡んでいる。

 

 理由は単純。当たり前の話ではあるが、傀儡の中に自律した魂なんぞが宿っていたら、それはもはや傀儡とは呼べないからだ。魂が身体を動かせないならともかく、身体を動かせてしまったら、その人形に傀儡操演者等という存在は必要がなくなる。人形が自分で身体を動かせば良いだけなのだから、そんなもの傀儡でもなんでもない。ただの一生命体の完成だ。そして意思のある人形は、容易に術者に反抗し得る。

 

 禁術の理由は、ただ単に危険だから。それだけだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 あの術の使い方は、大蛇丸のような使い方で本当に合っているのか? 魂を縛って人形にするという工程は、あの術そのもののスマートさに比べて無駄が多すぎやしないか? 

 

 オレだったら、傀儡作りのためにあの術は使わない。

 

 使うとしたら──。

 

 違和感が膨れ上がり、そしてその違和感は、オレの目の前で実際の事象として結実する。

 

「ふざ……けるな。オレは……三代目風影だぞ……」

 

 ぼそりと小さな声が届く。穢土転生が、ギリギリと大蛇丸の方へと向き直る。

 

「オレは……駒じゃねぇ……!」

 

 三代目はそれだけ呟くと、大蛇丸の制御を無視しドサリとその場に倒れ込んだ。サラサラと、風影は塵へと分解し、風に流されていく。

 

 穢土転生が破れた。他の誰でもない。三代目風影、その本人の意思によって、不滅の身体はただの塵へと戻っていった。

 

「おやまぁ……。術が完璧でなかったのかしら」

 

「違うな。お前の術は完璧だった」

 

 初めて余裕の表情が崩れ、苦虫を噛み潰したかのような顔をする大蛇丸に向けて、オレは痛快な気分で語りかける。

 

「テメーは術の使い方が間違ってるんだよ。その術は、()()()()()使()()()()()()()()()()

 

 死人を操るだけなら、魂の入った人間を復活させる必要なんざ微塵もない。戦闘用の兵器が欲しいのなら、オレみたいに死体だけ利用して生前の能力を再現すれば良いだけの話だ。開発者が態々魂を人形に宿らせたのなら、そこにはそれなりの意味が存在するはず。

 

 魂を入れなければならなかった理由。それは魂に刻まれた記憶の再現。この術は対象の情報、或いは生前の面影を求めた術だ。他の機能は副産物にすぎない。不滅になるのは身体ではなく魂。いや、違うな。元から不滅である魂に、入れ物としての身体が適合する……。あくまでも魂を現世に繋ぎ止める、これはただそれだけの効果。

 

「魂という永遠に追いすがるための術式。その為だけの永遠にして不屈の肉体か。故に、現世に留まる理由がなければ器は必要がなくなる。そんなものがなくても魂は最初から永遠なのだから……か。中々に芸術(アート)じゃねぇか。お前には勿体無い術だったな。大蛇丸」

 

 こんなに愉快な気持ちは久方ぶりだ。オレの人生の命題に、一つの解答を提示された気分になる。そうか。永遠は既に己が内に宿っていたのか。で、あるならばオレの芸術にも、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ま、お前には理解できねぇだろうがな。だから、お前は理解しないままそのまま死ね」

 

 オレは三代目風影の傀儡を操り、巨大な砂鉄塊を大蛇丸に投擲する。地面に衝突した砂鉄塊は轟々と土煙を上げる。普通だったらこれだけで誰しもが押し潰され、そうでなくとも砂鉄に仕込んだ毒にやられちまうもんなんだが……。

 

 ボフッ! と、土煙の中から大蛇丸が飛び出す。どうやらまたぞろ潰された身体の口から飛び出したらしく、下半身が蛇状になった大蛇丸は、地面を這いずりながらオレたちに背を向け、アジトの洞窟の中へと入っていく。すると、その後に続くかのように、部下の二人も男、女の順に洞窟の中へと姿を消そうとする。

 

「デイダラ! 逃がすな!」

 

「任せろ旦那! うん!」

 

 デイダラが印を結ぶと、アジトの上に墜落していたC1コンドルが爆発し、アジト入り口の天井を崩落させる。大蛇丸と部下の男はギリギリアジトの中に逃げ込んだようだが、どうやら女の方は崩落を乗り越えられずに逃げ道を失ったようだ。

 

 まぁ、それに関しちゃあまり関係は無いだろうがな。

 

「アジトに逃げようがなんだろうが関係ねェ! こいつで全員フィニッシュだ! うん!」

 

 デイダラは右手から鳥型の起爆粘土を放り投げる。起爆粘土は空中を飛翔しながら形を大きく肥大化させ、この世の物ではない伝説の怪鳥の姿へと成長する。

 

『C3コアトル』。

 

 デイダラの十八番の一つ。たったの一撃で町を跡形もなく消し飛ばす爆弾が、アジトの真上、そのど真ん中へと着地する。

 

「旦那! 防御は任せるぜ!」

 

「ああ。これでやっと、終劇だ」

 

 オレはオレの周囲に砂鉄の壁を展開する。先程大蛇丸が行った術よりは小規模だが、しかし防御力だけなら先程のものにも劣らない『砂鉄大壁』だ。穢土転生が成仏した今となってはオレ以外に使える者のいない術である。

 

 デイダラは起爆粘土で作った別の鳥に跨って空へと退避する。オレの防御の中に居りゃあいいものを、態々空から爆発を眺めるためだけにアイツは余計な一手間を掛ける。どうしようもねぇ爆発オタクぶりだが、自分の作品を目に焼き付けたいという心境は分からなくもないので、オレは好きにさせておく。

 

 次の瞬間。砂漠が大きく揺れ動いた。デイダラの爆弾が盛大に爆発し、その振動と熱がほんの少し壁の内部にも伝わってくる。

 

 相変わらず無駄に威力の高い爆発だ。だが、これだけの爆発ならばアジトは木っ端微塵に吹き飛んだだろう。中に避難していた大蛇丸や部下の男も、避難できなかった女も全員死んだはずである。

 

 しかし、思ったよりもギリギリの勝負だった。オレのチャクラは既に残り三割を切っているし、デイダラに至っては、もう起爆粘土がこれ以上残っていないだろう。そう考えると、このタイミングでの決着は実にベストタイミングだったと言えた。

 

 さてと、こうしちゃいられない。大蛇丸が使った穢土転生のお陰で、オレの頭に新しいインスピレーションが降りてこようとしている。さっさと死亡確認を済ませて構想を纏めなければ。

 

 そう思っていると、

 

「テメェ!! 何で……!! ……ガァ!?」

 

 壁の外からデイダラが苦悶の声を上げるのを聞き取り、ぞわりと背筋に悪寒を覚える。

 

 何だ? 外で、何が起こっている? 

 

 オレが急いで砂鉄の壁を崩すのと、木っ端微塵に吹き飛んだアジトの前にデイダラが墜落するのとが同時だった。起爆粘土が尽きているとはいえ、空を飛翔していたデイダラが一瞬でやられるだと!? 

 

 と、言うことは……。

 

 オレは瞬時に空を見上げる。そこでは二人の人間が、砂漠に降り注ぐ太陽の光に照らされて影を作っていた。

 

 二つの影は徐々に高度を下げ、墜落したデイダラのすぐ前に着陸し、そしてオレの前に姿を顕にする。

 

 一人は、大蛇丸の部下の女だった。見た目は先程の悪魔じみた姿から元の人間の姿に戻っている。アジトの中に逃げ遅れたのだ。外にいるのが必然的にこの女一人になるのは当然と言えば当然だが、おかしな点が一つあった。そう。この女は、何故か翼をしまった状態で空を飛翔していたのだ。先程までの悪魔の姿ならば普通に空を飛翔したことに納得はできただろうが、その悪魔の姿を解いていることでこの女は己の行動にかえって謎を深めている。

 

 だが、その謎も、女の隣に立つ人影の正体が判ればすぐに解けた。確かに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()

 

「なんで……。なんでテメエがそいつを召喚していやがるんだ!!」

 

 オレの疑問の叫びに、女は鼻で笑う。

 

「簡単な話だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 三代目風影。その穢土転生が、舌の根も乾かない内に再びオレの前に姿を現していた。ああそうだ。最強の磁遁使いさえいれば空を飛ぶこともC3の爆発から身を守ることも自在だろう。だが、穢土転生という術は、成仏した魂すら再び縛り付けられるものなのか? 

 

 分からない。だが実際に、こうして目の前には一度術の支配を破った筈の亡霊が、再びオレの前に存在を見せつけてきている。そして今度の亡霊には、以前と違って本来の意識というものがまるで存在していないように見受けられた。

 

 直感で理解する。この三代目は、魂の機能していない、完全な傀儡人形だ。

 

 この穢土転生は、使用用途が完全に傀儡人形としての機能に最適化されていることが、傀儡使いとしてのオレには把握できてしまう。

 

 術の使い方が、完璧に正しい。

 

 そうしてやっと、オレは角都の忠告の真の意味を理解する。

 

 そうだ。ヤツは大蛇丸を倒しに行くオレたちに、態々コイツに注意しろと警告を飛ばしてきたのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その意味を、オレはもっと深く考えるべきだった。

 

 二代目火影の術を使う忍。それは大蛇丸のことではなくこの女、多由也とかいう部下を指して使われた言葉だった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()

 

 なるほど。なるほどね。

 

 ()()()()()()()()()

 

 デイダラは既に戦闘不能。オレのチャクラ量も残りが心許ない。そんな状態でオレは、やっとのことで、今回の作戦における真の敵を認識した。

 

 多由也が印を結ぶと、砂漠から二つの棺が現れ、三代目風影の両脇に並ぶ。その光景が、オレにある事実を否応なく理解させる。

 

 三対二が一対一になる。数の比率で言えば先程よりもこちらの方が有利になっているはずの現状だ。敵側のリーダーである大蛇丸を排除しているという事実も、その認識を補強する材料にこそなれ、その逆を指し示すことにはならない。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 オレは今、圧倒的な窮地に立たされている。直感が先に立ち、そして──。

 

 ──ガシャリ。と、突然崩れ落ちた三代目の傀儡人形が、遅れてその直感を補強する材料としてオレの目の前に横たわる。見れば、いつの間にか足元の砂から砂鉄が伸びてオレの傀儡の隙間に入り込み、制御を奪っていた。そうしてオレは確信する。こいつは砂鉄の扱いが明らかに大蛇丸よりも上手い。()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ギシリ……。と、オレを守るヒルコの関節にも違和感を覚える。あぁ……。そりゃそうだ。ここまで術範囲が伸びるのなら、ヒルコも当然射程範囲だよな。

 

 呆としている暇はない。今すぐ動かなければ、間違いなく取り返しのつかないことになる。

 

 どうやら大蛇丸を倒した今になって、オレは()()()()を使わざるを得ない状況にまで追い込まれてしまったらしい。

 

 クソが。大蛇丸のヤロー。置き土産が一番キツいとか、なんでアイツはいつもいつも的確にオレが嫌がることしかできねぇんだ。そして、上司が上司なら部下も部下だ。よく見りゃあの女、大蛇丸譲りの嫌らしい笑みを浮かべてやがる。非常にムカつくことこの上ない。迅速にぶち殺さないと、マジでいろんな意味でヤバイことになりそうだ。

 

 ゴキブリは一匹見かけたら三十匹はいると思え等という言葉があるが、どうやら蛇も、一匹見かけたら周囲の全てを殺し尽くさないことには、厄介さが変わることが無いようだった。

 

 

 

 ▼次回につづく。

 

 




はい。と言うわけで、今度はサソリ様のターンでした。サソリさんが穢土転生について持論を展開しますが、あくまでも持論です。ただ、なにがしかのインスピレーションは得られたみたいですね。何を得たのでしょう?次回のお楽しみに?みたいなところで多くを語らず私は次話製作に取りかかろうと思います。また時間は掛かりそうですが、気長にお待ちください。

前書きの一言に対する自問自答。
「さっさと書かないと前の話忘れられちゃう!?」
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