前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。 作:N-SUGAR
ここで自分に向けて一言。
「お前さん多由也に負けさせる気あんの?」
芸術は永遠に受け継がれる瞬間の美に宿る。
感動とは瞬間の出来事だ。初体験の衝撃、あるいはじんわりと染み入る感慨。人間の抱く情動には様々な種類が有るが、それぞれの感情は、その場その場において抱かれるものであって何時までも持続するものではない。後から思い返すことも出来るが、その感動は、その時とはまた違った感動に変化している。人間が全く同じ感動を二度抱くことは無い。例えば同じ芸術作品を見て二度感動したとしても、一度目の感動と二度目の感動は、全く違ったものになるだろう。特定の感動は、常にその瞬間の一度きりにしか味わえないのだ。だからこそ、一瞬の感動は何よりも尊く価値がある訳で、それを作り出す芸術には昔から今まで常に価値が見出だされてきたのだ。
故に芸術は一瞬の感動にこそ、その真価が発揮される。芸術が人目に触れたとき、その人々が感じ取った十人十色の一瞬の煌めきにこそ、芸術は宿るのだ。
一瞬の美は芸術を構成する必須項目だ。だが、芸術を構成する要素はそれだけではない。例えば芸術と時間には、切っても切り離せない相関関係が存在する。芸術が人々の心を動かすには、人々の心を動かすに足る芸術家のセンスが不可欠だ。だが芸術の価値を高める要素の重要な一側面に、歴史というものが大きな比重を占めるのは否定できない事実である。これは何も骨董品に価値があるというだけの話ではない。例えその作品がつい昨日作られたような新作であったとしても、その芸術性を感じ取った人間が自身の歴史を積み重ねることで、その作品の価値は日々高められるのだ。芸術は人々の心に残ることで、ある種の成長を我々に見せてくれる。
芸術の価値は一所に定まらない。年代を積み重ね古ぼけたり欠けたりすることで、製作当初とは明らかに違った意図の芸術性を付与されることもある。それでも芸術作品は後世に残り続けることで、過去現在未来を通して数多くの一瞬の美を産み出し続けることができる。芸術が永遠であることは、客観的に芸術の価値を高める必須の事項であると言える。永遠という概念には、それ自体に美が宿るという訳だ。
しかし永遠というのもまた一枚岩ではない。残ること、受け継がれること、喪失したこと、断絶したこと、芸術はその全てに一定の価値が見出だされる。結局のところモノが残っていようが残っていなかろうが、存在が後の世に伝わっていればそこに価値は見出だされるのだ。モノが無くなっていても存在していた可能性に価値が見出だされ、存在したかもしれない可能性にもまた、価値が見出だされる。永遠は必ずしも形を伴った概念ではないという訳だ。有形無形を問わず全ての永遠には芸術が宿る。芸術は千差万別であり、千差万別はその全てに芸術を宿す可能性を秘めている。
斯様に芸術とは一筋縄では行かない概念であり、理性も感性も規則も矛盾も、その全てを飲み込む怪物でもある。最早「芸術」の言い過ぎで「芸術」がゲシュタルト崩壊を起こしそうだが、早い話が瞬間の美と永遠の美というものは、どちらも芸術にとって、切っても切り離せない概念であるということを私は言いたい訳だ。究極的には個人の主観に委ねられる芸術のどの側面を至高とするかなど、他人と論じても結論は出ないものだとも言える。
そして、ここまで語った私があえて言おう。至高の芸術とは、すなわち音楽である。
もちろん、私の中での話だ。私個人の世界において、至高の芸術が音楽にこそ有るのだと結論付けられた。ただそれだけのこと。この意見は他人に影響するようなものでは勿論ない。意見だけなら、私個人の中で完結している。これはそういうお話だ。
だけど私は音楽家。つまりは
私の音楽は私が作曲したアレンジやオリジナルを除けば、全て草笛の里の秘伝楽曲だ。私の祖先の皆様が必死に考え出した人々の心を震わせる楽曲の数々が、楽譜を通して私に受け継がれている。草笛の里は壊滅してしまったが、私が生き延び、そして楽譜を遺せば、草笛の秘伝は後世に受け継がれる可能性は十分に有り得るだろう。草笛の秘伝忍術を十全に演奏できるのは草笛の血を受け継ぐ者に限定されるが、そういった才能を持った忍が後世に出現しないとは限らないし、例えば私が子供でも産めば、秘伝の楽曲を伝授することは十全に可能である。私の音楽には、永劫の未来に対して存在を継承し続ける可能性を内包している訳だ。そして私の音楽は、幻術という手段を通して私の世界を一瞬で相手に伝えることに特化している。心を揺さぶり心を惑わす。他人に私の意図を強制し、確実に「私」を相手へと伝えていく。一瞬で人々の心を鷲掴み、それを永遠へと継承し未来に音を伝える。私の笛の音こそまさに究極の芸術に相応しいのだと、私は豪語する。
今、この場には三人の芸術家がいる。一瞬の美を昇華させる者。永遠の美を作り出す者。そして、一時の美を脈々と受け継いできた者。現在この砂漠に存在する人間は、この三人だけだ。他には誰もいない。
あーあー。どうしてこうなった。思わずため息をつきたくなるような現状だ。
作戦は確かに順調だった。大蛇丸様が良い感じに追い詰められて、予定通りの合図が出され、私と君麻呂は、二人の追っ手から背を向けた大蛇丸様に続いてアジトの中へと逃げ込もうと走り出した。
そこまでは良かった。そこからが良くなかった。
具体的に何が良くなかったのかと言えば、私の行動が良くなかった。君麻呂のすぐ後ろに続いて走り出したときに、ついつい欲目が出てしまったのだ。
『口寄せ・穢土転生』には、穢土転生したい死人のDNAマップが必要不可欠だ。死者の魂を現世に留める器は生前の死者の身体を
少しくらい寄り道してもデイダラとの距離を考えれば普通に逃げきれるだろうとたかをくくった私は、少し脇道に逸れて、三代目風影の穢土転生が倒れ込んだ場所に近付き、生け贄にされたであろうよくわからん忍の死体に付着していた穢土転生の塵を一掴み奪い去る。
穢土転生によって呼び出された死人の構成物質である塵には、その死人のDNA情報が記載されている。塵はそのDNA情報を辿って身体の構成、或いは再構成を行う訳だ。故に、穢土転生の塵は穢土転生の材料になり得る。つまりはチャンスだったのだ。私は嬉々として塵回収へと走り出した。
この一瞬の寄り道が致命傷だった。私は、デイダラの起爆粘土が一つだけ、アジトの上に墜落していたという事実を完全に失念していたのだ。そのせいで、君麻呂との間に僅かに空いた距離に、デイダラの爆弾によって崩落したアジトの天井が差し込まれることになるのだった。
ブワッと、冷や汗が溢れる。これは、もしかして、やらかしてしまったか!? 思考が脳を駆け巡り、その一瞬の隙が事態を手遅れにする。
ヒュルルル……と、上空から物体が落下する音が迫る。音の正体は、異様な量のチャクラが練り込まれた起爆粘土だった。恐らくC2ドラゴンよりも更に上位、C3はあるであろう巨大爆弾だ。嘘だろオイ。あんなんアジトどころか町が1つ吹っ飛ぶぞ。
土遁で崩落した瓦礫を取り払って逆口寄せの陣まで走れば間に合うか? いや、絶対に間に合わない。明らかにたどり着く前に爆弾が爆発する。──なら。
「君麻呂! 大蛇丸様と先に逃げておいてくれ! こっちはこっちで対処するから!」
大声で叫ぶ。こうしておけば私の張っている反響結界が音を向こう側に伝えてくれる。向こう側で君麻呂が立ち止まり、足音が消える様子が確認できた。よしよし。どうやら伝わってるな。だが、立ち止まるのはいただけない。
「立ち止まるな! さっさと作戦を遂行しろ馬鹿!」
私は指示を飛ばしながら一本の巻物を取り出す。爆弾が爆発する前にこちらも安全策を講じておかなければ。
私は呪印の状態2を解除し、何時ものように封印する。これから行うことは万が一にも大蛇丸様にはバレてはならない。だから呪印の感知は封じておく。
カリッ! と、呪印を封印する傍ら、私は親指を噛み切った。巻物に書かれた二つの術式の1つに、血の付いた手を押し付け術を発動する。こちらはただの口寄せの陣。呼び出すのは、穢土転生の材料だ。
呼び出した人物。その両目には写輪眼が宿っている。自称うちはシン。コイツはその体細胞を培養して作られたクローン人間だ。私が用意した、穢土転生用の生き人形である。
一週間ほど前のことだ。穢土転生を集めるにあたって、秘密裏に集めたいコレクションをどうやって集めるのかという問題を私は扉間様と話し合った。扉間様が集めてきた穢土転生用のDNAマップに使用する生贄の材料。それを大蛇丸様の実験体を消費して作ったら流石に怪しまれそうだなと思ったのだ。だから私と扉間様は材料を手軽に大量生産するための策を講じた。そうして話し合いの末に出た解決策が、この(うちは)シンのクローンである。
元々大蛇丸様はこいつのオリジナルを利用してクローン実験を繰り返していた。主な目的は写輪眼の複製だったようだが、写輪眼の複製は、本来の性能が上手く引き出せず、劣化したものしか作れないまま実験を一時中断した。その後もクローンは、写輪眼の移植実験において材料の1つとして利用されたりと便利使いはされていたようだが、実験材料としての管理は実に杜撰なものだった。
杜撰な管理をしているということは、誰でもクローンが作れる環境に有るということだ。そんなもんを利用しない手はないので、私はこいつを利用することにした。
証拠隠滅用に扉間様のDNAマップを複製する傍ら、私はシンのクローンを何体も作って秘密裏に培養していた。大蛇丸様特製の培養液に浸しておけば、僅か数日と待たずに成人男性の肉体を作り出すことができる。こうして出来上がったクローンに口寄せ契約を結び保管しておけば、いつでも何処でも生け贄用の肉体を呼び出せるという寸法だ。その内の何割かは、既に扉間様の集めてきた穢土転生コレクションの材料として使用している。生け贄としての効果は実証済み。安心安全の養殖素材だ。まさかこんなに早く実戦でも役に立つとは思わなかったが、使えるものはさっさと使ってしまうに限る。
私は巻物に書かれた二つの術式のもう1つ、穢土転生の陣に三代目風影だった塵を押し付け、印を結ぶ。後五秒もしない内にC3爆弾がアジトの上に墜落してきそうなのでもう大慌てだ。
ぞるぞるぞる! と、クローンの身体に穢土転生の塵が寄り集まる。集まった瞬間、穢土転生の魂を固定し縛る式札を括り付けたクナイをぶっ刺し意識を奪い、完成した三代目風影を私のコントロール下に置く。
悠長に笛を吹いてる暇もない。私はそのまま三代目風影に命令を出して、瞬時に砂鉄の壁を私達の周囲に展開させた。
大蛇丸様と君麻呂の気配は既にない。君麻呂が多少躊躇っていたようだが、大蛇丸様に連れられて、どうやら無事に逃げ切ったらしい。君麻呂は既に大分チャクラを消費していたから、ここで逃げてくれて良かったと私は安心する。
それだけ確認した次の瞬間、特大の衝撃が砂鉄の壁を襲った。
私の張っていた反響結界が吹き飛び、爆音だけが周りを支配する。あの爆発に巻き込まれていたらと思うとゾッとするが、どうやら一先ず助かったらしい。
ふう。と、一息つく。だが、悠長に構えている暇はない。すぐに次の行動に移らなければ普通に死んでしまう。『暁』のメンバー相手に油断できるほど私はまだ大物じゃない。
私は笛を口にあて、『人形音傀儡の術』を奏でる。意識の無い三代目風影を、さらに上から幻術で縛り付け、完全な私の奴隷人形に仕上げる。可哀想な三代目風影様。安らかに眠っておくれ。貴方の才能は、私が勝手に使うから。
そうこうしている内に爆風が収まった。私は砂鉄の壁の一部を開けて外の様子を覗き見る。
もうもうと立ち込める煙。木っ端微塵に崩壊したアジト。その上周囲一面が巨大なクレーター状に陥没している。そんな中で唯一まともに形を保って見えるのは、砂鉄の壁に守られたサソリと、鳥に乗って空高く飛翔し、「オイラの芸術は最高だ!」と高笑いを上げているデイダラのみ。
うーん。そうだなぁ。私の存在がバレない内に、一人は潰しておきたいなー。じゃないと逃げるに逃げられない。そう。だからまずは、デイダラから……。
そう思った私は、私と三代目風影を包む砂鉄球を浮かせ、煙に紛れて空へと舞い上がらせた。三代目風影はそれなりに自我が強い。制御の甘い未完成な状態での召喚だったとはいえ、大蛇丸様の支配から脱する事ができた時点で、相当な精神力の持ち主であることは十分理解できる。故に、私は油断せずに笛を吹いて術の制御力を保ちつつ三代目を操る。笛の音で存在がバレないように消音用の結界を張らなければならないので隠密行動はとても面倒だが、実力者を操るならば当然押さえておかなければならないポイントである。
さて、爆発跡を眺めるのに夢中なデイダラちゃんの死角に入るのは簡単だ。煙に紛れてデイダラの上を取れば良い。さっきも似たような手法で上を取ったはずなのだが、どうにも学習しきれていないご様子。やはりまだまだガキだな。アイツ。私の方が年下だけど。
さて、さっさと終わらせよう。
私は結界で音を殺しつつデイダラのすぐ頭上まで移動し、自分の作り出した爆心地に大はしゃぎしているデイダラの首筋に向けて砂鉄塊を叩き込む。
何らかの気配を感じたのか、衝突の直前デイダラが頭上に振り向く。私の存在がバレてしまったが、今更バレたところでもう遅い。
「テメェ!! 何で……!! ……ガァ!?」
ゴツン! と、鈍い音を立てて砂鉄塊が衝突し、デイダラは墜落する。そのままボフリと砂漠に沈んだデイダラは、死んではいないようだが完全に意識を失っていた。しめしめと思いながら目線をサソリの方に移すと、傀儡人形が生み出した砂鉄の壁を解除したサソリが、困惑した様子でこちらを睨み付けている。
「なんで……。なんでテメエがそいつを召喚していやがるんだ!!」
「簡単な話だ。
ヒルコの渋い声が私に届く。どんな風に返せばいいのか分からなかった私は、つい何時ものように虚勢を張って不敵な返答を返してしまうが、言った後ですぐに後悔した。仲間の安否が不明なんだから、もうちょっと切羽詰まった感じを醸し出した方が良かったか? 後から思っても、それは後の祭りというものだった。
そうして、私はようやく現在へと至る。三人の芸術家。その内の一人を早々にダウンさせた私は、次に残りの一人の無力化を図ろうとする。
死んだ振りをして逃げる。その作戦本来の手段が実行不可能になってしまった以上は、力業で行くしかない。緻密な作戦を考える余裕はないし、結構テンパってしまっているのだ。私という奴はほとほと想定外の事態に弱すぎる。だから私は今考えられる限りで一番安易な方法を取ろうとしていた。後から解除される可能性が有るのでできればやりたくは無い方法なのだが、方法とはすなわち、二人を無力化した上で幻術を掛け、私を含む大蛇丸様一行が死んだという錯覚を植え付けるというやり方である。恐ろしいくらい雑なゴリ押しだが、要は私達が姿を完全にくらませられるだけの時間が稼げれば良いのだ。後からバレたところで任務の成否に支障はあるまいという私の雑な判断も、多分ギリギリ許容範囲である。
私は地面に着地しつつ、三代目風影を操って砂鉄を操作する。磁遁は傀儡の天敵だ。砂鉄が関節部に入り込むと傀儡人形は動けなくなってしまう。その上ここは砂漠のど真ん中。操作できる砂鉄は至るところに満ち満ちている。地の利は完全にこちらにあった。
穢土転生を一度に精密操作できる最大数である三体になるように、私は更に二体の死人を口寄せする。棺を出現させながら、私は三代目の穢土転生を操り無尽蔵なチャクラを砂漠へと流し込む。サソリの傀儡人形の足元にある砂鉄をこっそりと操作して、傀儡人形の方の三代目風影と、サソリが纏っているヒルコを制御不能にするという寸法だ。
「クソッ!!」
バサッ! と、ヒルコの背中から、小柄な影が飛び出した。影が印を結ぶと、二つの傀儡人形が煙と共に消えて無くなる。どうやら完全に制御を奪われる前に口寄せを解除した様だ。流石に対応が早い。
「まさか、この姿を晒す羽目になるとはな……」
砂漠に着地したサソリは、この時初めて私の前に自身の姿を現した。真っ赤な髪、小柄な身体と幼さを残した顔立ち。自身を人傀儡としてから一切変わることの無い、サソリ本来の姿。
「流石は角都を警戒させる程の忍、と、ここは素直に誉めてやるか。大蛇丸の部下にしとくには、勿体ねェ逸材だ」
そして声もまた、姿同様がらりと変化している。青山穣様(声優)の声帯から櫻井孝宏様(声優)の声帯へとボイスチェンジを果たす。あー。どうしよう。やっぱイケメンだわコイツ。青山穣様の渋過ぎるボイスも良いけれど、やはり花も恥じらう乙女としては、正統派イケメンボイスにどうしても弱くなってしまうのだ。生前散々スピーカー越しに聴きまくってウハウハ言ってたオタク女子にこの生声は刺激が強すぎる。君麻呂だの飛段だのデイダラだの色々と経験してきたが、やっぱりこればっかりは慣れるってことがねェな。ついつい顔がニヤけてしまう。
「確か多由也とか言ったな。どうだ? オレの部下になる気はないか? 大蛇丸はもういない。うまい話だと思うが?」
え。何その誘い。凄く魅力的じゃないですか。って、違う。反射的に乗りそうになったが、どう考えても乗るべき話題じゃない。「音隠れの多由也」が取るべき行動としても確実に間違っている。
「死んでるかどうかなんざまだ分かんねーだろうが! ウチのやるべきことはテメー等をぶっ殺すことだけだ!」
実際死んでないので的を射た発言ではあるが、これくらいのことを言って見え見えの虚勢を張っておいた方が、「上司の死を信じきれない部下」っぽさが出ていかにもな感じがするだろう。しっかしアドリブでこんなことをしなくちゃいけないなんて、私は役者かなんかなのだろうか。
いや、役者というよりは詐欺師か?
まぁ、役者だろうが詐欺師だろうがどうでもいい。やるとなったら何でも全力でやってやるだけだ。私が生き残るためならば、どんな表情も演じ分けて見せよう。
「そうか。なら仕方無いな。お前は、オレの人傀儡コレクションに加えてやるよ。オレに新しい着想を与えてくれた礼だ。……ところで、お前の穢土転生はその三体だけでいいのか?」
私の虚勢に対して、サソリはニヤリと不敵な笑みを返してきた。ご自慢の傀儡を二つとも潰したというのに、どうやらまだ勝算が有るらしい。上から目線で傀儡コレクションに加えてやるとか、よくもまぁぬけぬけと……。
「ウチが直接操れる穢土転生の上限は三体までだ。だが、テメーを倒すのにウチがそれ以上の数を操る必要は感じないな」
「そうかよ。大蛇丸の部下らしい、ムカつく小娘だ。だが、
パチ……パチ……、と、サソリは『暁』の衣のボタンを外し、衣服を脱ぎ捨てる。
露になった肉体は、当然人間のものではない。サソリは自身の肉体を少しずつ作り替え、一部を除いた完全な自身の傀儡化に成功している。
「……人傀儡。テメー自身を傀儡に作り替えて、老いぬ身体を作った訳か。で、それがどうした?」
「クク……。これを見て驚かねェとは、本当に生意気な小娘だ。芸術的素養がねェのか、それとも予め承知していたのか。大蛇丸のことを考えると後者になりそうだが、
パカッ! と、サソリの右胸部の蓋が開き、そこから無数の糸が伸びる。そして、ぞるぞるぞる!! と、引き伸ばされた糸の先から次々と、
当然、知っている。「赤砂のサソリ」がその異名を得るきっかけとなった一国落とし。その大事件に利用された凶器が、この無数に犇めく傀儡人形達、『赤秘技・百機の操演』だ。文字通り百体の人傀儡コレクションを同時に操ることで、一人で軍に匹敵する兵力を扱う術である。一度に操れる傀儡の量が傀儡使いの技量を量る指標だとするなら、現代においてサソリを上回る傀儡使いなど存在しないことが、この『百機の操演』によって明らかとなる。
100対3。純粋な数の比較で言えば、降参する以外に選択肢など考えられない戦力差だ。だけど少なくとも、こちらには三代目風影がいる。傀儡人形に対する絶対的アドバンテージ。この人がいるだけで、私は数の戦力差の前に勝機を見出だすことができる。
「ところで、お前等の操るその穢土転生だがよ」
サソリがポツリと言い放つ。
「再生持ちの不死だってことは十分理解したが、
バサッ! と、無数の傀儡の中から一体の傀儡人形が飛び出す。傀儡人形の中から更に幾本もの鎖が飛び出し、三代目風影へと迫る。ヤバイと思った私は砂鉄球を作り出して風影の身を守り、直後に、砂鉄の周囲に鎖が雁字搦めに絡み付く。
「
次の瞬間、地面がぞわりと蠢き、私達の足元から黒い砂鉄が浮かび上がる。
だが、
「──三代目風影が、戻せねェだと!?」
「
サソリが勝ち誇った顔で挑発的な目を私に向ける。うずまき一族だと? じゃあ、つまり、あの傀儡人形が、うずまき一族の系譜の人傀儡だと言うことか?
それに、三代目風影の砂鉄。元々守鶴の人柱力が使用していた術を応用して作られたという三代目の磁遁は、封印術との相性がとても良い。
「まずは一体!!」
サソリの一喝と共に、鎖の巻き付いた砂鉄球の周囲に上から更に砂鉄が寄り集まり、小さなピラミッドを形成する。
『磁遁封印術・砂鉄葬封印』。
私の三代目風影が一瞬にして、完全に身動きを封じられた。
それにしても、すげーなこいつ。穢土転生のほとんど唯一と言って良い弱点を見抜いたばかりか、即座にその思い付きを実行してきやがるとは。それに、原作じゃあ全く描写が無くて分からなかったが、あの100体の傀儡共、もしかしなくても一体一体が、それなりの忍の集まりだな?
「オレが生涯全てを掛けて作り出してきた芸術品の数々だ。一体一体が一級の人傀儡であり、元となった忍も厳選を繰り返している。あまり調子に乗るなよ大蛇丸の部下。オレの最後の傀儡を見て、生き残れる奴などいやしねぇ」
「……確かに少し厄介だな。だがまァ、勝てないってほどでもねぇよ。ウチの穢土転生コレクションも、なかなかどうしてお前のそれに引けは取らねぇ」
「だが、三体しか操れない」
「そうだな。
私は再び二つの棺を口寄せし、その内の一つの蓋を外して中身を露にする。
中から現れた穢土転生は、和装の老人だった。顔に刻み込まれた深いシワ。衰えた肉体。忍として、どう考えても現役とは言い難い弱々しい老人だ。額に巻かれた布製の鉢巻きに刺繍された砂時計の紋様が、彼が生前、砂隠れの忍であったことを指し示している。
この老人は大蛇丸様の実験体ではない。私が殺した人間でもない。この老人は、
「なんだソイツは。砂の忍のようだが、見たことねェな。そんなジジイいたか?」
サソリが訝しむ。そりゃそうだ。サソリがこの老人の姿を見たことなんて有る筈がない。この老人は、扉間様が現役だった頃に生きていた人物。それも第一次忍界大戦の時点でかなりの高齢だったというのだから、世代が全く合っていない。
だが、サソリがこの人物の姿を見たことがなくとも、
「酷いことを言うな。このジジイはお前の大先輩、いや、原点とすら呼べる人物だってのに、そんなジジイいたか、だなんて」
このジジイがいなけりゃ、お前は今そんな姿になっていなかったかもしれないんだぜ?
私の言葉を受けて、サソリの表情が固まる。
どうやらサソリの頭の中に、この人物の正体が朧気ながらも浮かんできてしまったようだ。
「いや、しかし……そんな。まさか」
動揺した声が漏れ聞こえる。一見してサソリに有利なこの状況で、サソリの精神がみるみるうちに追い込まれていくのが目に見える。
扉間様の現役時代。戦乱の世と、そして第一次忍界大戦。戦乱の世の終わりにおいて、うちは一族と千手一族が手を組み作り出した木ノ葉隠れの里。そんなエリート忍軍団が初めて直面した忍世界全体を巻き込む大戦が、第一次忍界大戦だ。そしてこの大戦によって形作られ、結果的に生まれることになったのが現在の忍五大国である。言うなれば忍五大国というのは、第一次大戦における戦勝国の集まりだ。様々な一族や隠れ里の屍を踏み越え、大国を築き上げた猛者の集まりこそが、五大国の所有する隠れ里であった訳だ。共闘、中立、敵対。どんな立場で奴等がお互いに戦争していたのか詳しいことは分からない。だが、柱間、扉間、マダラとかいう前代未聞の化け物どもを抱え込んだ木ノ葉隠れとかいうチート集団相手に対等に渡り合うためには、他の五大国の連中も、それなりに頭のおかしな化け物でなければならなかっただろう。言うならあの世代の連中はどいつもこいつも伝説の集合体だ。そんな中で当時の扉間様が目をつけていた忍なんて、そんなの化け物以外には有り得ないだろう。
この老人は、だから一言で言ってしまえば化け物なのだ。老人から情報を抜き取った私は、素直にこの老人をそう呼ぶことができる。何しろこのお方は砂隠れの「伝説」だ。風影でこそなかったにしろ、この老人はある意味では、風影以上の知名度と影響力を砂隠れの里に残していると言える。
この世界に『傀儡の術』を産み落とした張本人であり、原作においてはチヨバアが使用していた『白秘技・十機近松の集』の製作者でもある。指一本につき一体の操縦が可能であり、忍術を含めた様々なギミックを内蔵した一騎当千の傀儡を作り出したその腕は、砂隠れにおいて未だ超える者がいないとすら言われている。サソリは人間を材料にすることで経絡系を取り込み様々な忍術を使うことができるが、モンザエモンは人間を材料に使わなくても、傀儡でしか実行不可能な忍術ギミックを製作していた。彼は全ての傀儡操演者の憧れであり、全ての傀儡操演者が辿り着きたいと夢見る境地に位置する忍なのだ。サソリがどれだけ当代一の傀儡操者であろうとも、この老人を前にすれば、流石にトップの席を譲らざるを得ない。
ま、たとえ憧れの人物が相手であろうとも、サソリが素直に身を引くとは思えないけどね。
未だ混乱の渦に飲み込まれている様子のサソリを余所に、私は更に次の行動に移る。
「穢土転生としてモンザエモンを呼び出したところで、操る傀儡がいなけりゃこんなの宝の持ち腐れだ。ウチは砂隠れ伝統の傀儡人形なんて持ち合わせちゃいないからな。
ピクリ、と、サソリの眉がつり上がる。私は口寄せの印を結んで、モンザエモンの前に更なる棺を召喚した。
10基の棺が姿を現し、砂漠の大地に死人を追加で出現させる。
私にはこれだけの数の傀儡を扱えるほどの制御力はない。私の幻術では大勢の穢土転生を精密に操ることは不可能だ。だけど、その問題を解決する方法は至極単純なのだ。自分で大勢を操れないなら、大勢を操れる人間を召喚して操れば良いのである。そう言って扉間様が投げて寄越したDNAマップが、この初代傀儡操演者モンザエモンのものだった。傀儡使いの術には『百傀儡魂縛りの術』等の生きた人間を対象にした傀儡操作術が存在する。モンザエモンは穢土転生体でありながら、傀儡の術を使うことで他の穢土転生を操ることができるのだ。
私の幻術による操作は相手の意識に働きかけるものなので、こちらが動かしたい方向性を誘導すれば、穢土転生は良い具合に己の技術を駆使して動いてくれる。幻術で縛った穢土転生が、傀儡の術で更に別の穢土転生を縛り操る。こうした連鎖を繰り返すことで、穢土転生の操作上限というやつは、実質無制限に水増しすることが可能になるのだ。ただもちろん、これは理論上での話だ。回りくどい方法な上に、数が多くなればなるほど粗が出てくるので、現実的な上限は当然出てくる。そもそも穢土転生を操れる忍を中継役として繋ぐ必要があるから、大勢の穢土転生を操ろうと思ったら、優秀な幻術使いや傀儡使いが複数必要になってくる。
ただ、現状10体の追加召喚に留めてはいるが、実はモンザエモンの同時操作可能数は10体どころの話ではなかったりする。私が全ての戦況を把握できるか分からなかったから取り敢えず10体に抑えているが、モンザエモンが本気を出すと、たとえ穢土転生が100体であったとしても十全に操作を行うことが可能であろうと思われる。
サソリみたいに自身を傀儡化しているわけでもないのに何でそんなことができるのかと言えば、それは『十機近松の集』を見れば一目瞭然だ。指一本で様々なギミックを発動することができる傀儡人形。これを全てフルスペックで操作可能なモンザエモンは、
ハッキリ言って化け物以外の何者でもない。しかも現役時代のモンザエモンは全身の関節を自在に操り、舞いのような傀儡操作で、自身も戦闘を行いながら傀儡を操作できたのだと扉間様は言う。当時モンザエモンは、一人で一軍に比すると言われていたらしく、彼の活躍を見た二代目風影沙門が、国家事業としての傀儡開発に取り組む姿勢を見せたという程なのだから、それはもう余程の実力を持っていたのだろう。実力が別次元過ぎて正直理解がおっつかないが、要するに私は、とてつもない戦力を手中に納めているのだと理解しておけばそれで良いのである。穢土転生の制限を穢土転生で克服する。術ってのは、色んな使い道が有るものだ。
「ウチが三体しか操れなくても、それ以上の数の傀儡を操れる忍を操れば、操作上限はいくらでも水増しできるんだよ。ウチの自慢のコレクションとお前の自慢のガラクタ。どちらが上なのか、戦争と洒落込もうじゃねェか」
兵の数だけなら、現状には今も尚、五倍以上の戦力差が存在している。だけどなぜだろう。負ける気がちっともしないのは。
モンザエモンレベルの穢土転生が後10体もいるからだろうか。扉間様の集めてくる忍連中はどいつもこいつも頭がおかしいとしか言いようがない奴等ばかりで、自分でも正直持ってて怖くなってくるレベルなのだ。いくら有事の際の保険だとはいえ、根が小市民だから過剰すぎる戦力を持たされると萎縮してしまう。強大な戦力を得たからと言って調子に乗ると、大抵ろくな目に合わないのだ。負ける気はちっともしないが、だからと言って警戒を怠って良い理由にはならない。
スゥー……と、10基の棺が消え去って、中の穢土転生達の姿が現れる。私が笛を吹くと、モンザエモンは指から明らかに10本以上のチャクラ糸を伸ばして穢土転生たちに繋げていく。どうやらこの人は、指の関節ごとに糸を繋げていやがるらしい。
辺りの雰囲気ががらりと変わる。意識の無い穢土転生達に、魂が宿ったかのような生気が宿る。この生気は穢土転生に縛られている魂のものではない。モンザエモンが傀儡に糸を繋げたことによって起こった操演の錯覚である。
モンザエモンの操る傀儡は、まるで魂が宿ったかのように動くと言われているらしい。だが、これでは「まるで」とか「ような」とか、そんな表現で語るのも烏滸がましくなってくる。
モンザエモンの操る傀儡には、文字通り魂が宿っていた。
私が笛の音で操ってこれだったら、自分の意思で傀儡を演じたときには一体どうなってしまうのだろうか。気になるところではあるが、しかしそれはもはや叶わぬ夢である。
息を飲むとは、正にこの事だろう。あまりの出来事を前に、サソリはただ呆然としていた。
しかし、正気を取り戻したサソリの顔に貼り付いていた表情は、絶望でも恐怖でもなかった。そう。サソリの顔に貼り付いているのは、紛うことなき歓喜の笑み。
「クク……。ハハ!! 面白ェ……! まさかこんなところでオレの夢が実現するとは思わなかった。期待していたものとは大分違うが、モンザエモンと傀儡の腕を競えるということに変わりはねぇ。感謝するぜ小娘。この戦争に勝利すりゃあ、オレは名実共に歴代最強の傀儡師を名乗ることができる……!」
どうやら私は、知らず知らずの内にサソリのモチベーションをマックスにまで高めてしまっていたらしい。
「モンザエモンを操るという偉業を甘くみるなよ小娘! ソイツを傀儡とした以上、無様な演舞を披露することは許されねェからな!」
サソリの傀儡達が一斉に動き出し、それに呼応するように、モンザエモンの操る穢土転生たちが迎え撃つ。
霧隠れの忍。照美ヨウ。鬼灯秋月。雪麗。
雲隠れの忍。夜月ワルイ。夜月クロイ。
岩隠れの忍。フヨウ。シカヌマ。
砂隠れの忍。舜静。
滝隠れの忍。レップウ。
鉄の国の侍。ササキ。
十体の穢土転生。その全員が、扉間様が厳選してきた旧時代の怪物達だ。歴史に埋もれた実力者。どいつもこいつも折り紙つきの実力しか持たない一騎当千の猛者である。
例え百機の人傀儡が相手であろうとも、サクッと倒してサクッと幻術に嵌める。
それで、今回の作戦は万事解決だ。
サソリの傀儡と、私の穢土転生が衝突する。
風の国における私とサソリの戦いは、最終章へと突入しようとしていた。
▼次回につづく。
どうあがいても戦力過多。そんな感じの二十二話でした。良かったねサソリ様!夢が叶うよ!
次回!流石に決着してると思いたい!お楽しみに!
前書きの一言に対する自問自答。
「あるように見える?」