前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。 作:N-SUGAR
芸術コンビとの戦いが終わり、多由也ちゃんは果たしてどうなったのか!お楽しみください!
ここで自分に向けて一言
「文章の書き方覚えてる?」
「し……死ぬかと思った……」
爆炎吹き荒れる砂漠から一転、静かな森の中へと一瞬にして視界が移り、同時に私は地面へと倒れ込む。
穢土転生八体を使用した互乗起爆札による自爆特攻。起爆札の使用枚数は約800枚。
ただし、爆発の規模は800枚分には留まらない。
「互乗起爆札は、穢土転生の術式そのものに起爆札を組み込むことでその真価を発揮する。何故だか分かるか?」
かつて扉間様から問われた質問に、私は自慢気に原作知識をひけらかしたことがあった。
「敵兵を用いることで容易に敵陣地への侵入と情報収集が可能になる穢土転生に殲滅兵器を搭載することで、穢土転生個々の兵力を増強し、且つ自爆後穢土転生が復活することで、敵を殲滅しつつ敵から情報を奪い取ることが可能であるからです!」
「70点だ」
その結果は悪い成績でこそ無かったが、同時に満額回答からは程遠いといったところだった。これが進研ゼミの漫画だったら、恥ずかしくて誰にも言えないような点数扱いされてしまう。
「その回答は、互乗起爆札を穢土転生に装備させる理由としては十分だが、態々術式に組み込んでおくことの答えにはなっていないな」
「えー」
大体、術式に組み込むってなんだ。穢土転生体を口寄せしたら、予め起爆札がセットされてるって意味か? そんなの、手間が省ける以上のメリットがあるか?
そんなことを考えながらぶう垂れていると、扉間様はうんざりした表情で、鬱陶しく目の前でゆらゆら揺れる私を払いのける。
「さて、補足すべき解答だが……そうだな。
「は! 承りました!」
そして扉間様は、
少し跳ね気味の黒髪を風に揺らし、扉間様の指示に従い私の方へと顔を向けたその男は、扉間様の問いかけに応え、すらすらと解説を始める。
「穢土転生の術式に互乗起爆札を予め組み込む最も大きな理由はね、それが、圧倒的な武器資源の削減に繋がるからなんだ」
年下の女の子に優しく諭すように、彼は私に語る。
「穢土転生の体の材料として起爆札を予め組み込んでおけば、その互乗起爆札は
「……爆発後に寄り集まって再生し、再度使用可能になる?」
「その通り! 100枚の起爆札を連鎖爆破用に用意し術式の一部として組み込めば、その100枚は何度も何度も使用することができる! 100枚の起爆札でも最終的には1万、1億枚分以上もの働きをこなすことになるし、一度の爆発においても、連鎖爆発の時間差を利用し使い方を工夫すれば、100枚目が爆発する頃には1枚目が復活するといったように爆発の無限ループを狙うことすら可能なんだ! 予め一定数の起爆札を用意しておくだけで、起爆札の在庫の心配をする必要がなくなる。これはなんとも画期的な発明だと思わないかい?」
ぐぐい! と、前のめり気味になって力説する彼の気迫に押されて私は後退りする。それを見た扉間様は彼の首根っこを捕まえ、彼を私の目前から引き離した。
「そこまで気合を入れて解説しろとは言っておらん。さて、互乗起爆札を穢土転生の術式に組み込むメリットは、理解したな?」
「はい。相変わらず頭がイカれてやがるようで何よりです」
「思ったことそのまま発言する前に少しはオブラートに包め。そしてワシが術理を教える度に一々引くな。いい加減慣れろ」
無茶を言う。扉間様が提案するトンデモ理論は、例え話の理屈は理解できても、実現のための手段が何一つ思い浮かばないようなゲテモノばかりじゃないか。例えばその永久機関みたいな理屈が通ったとして、実際に起爆札を穢土転生の術式とやらに組み込むのにどんな術式理論を用いればいいのかがまずさっぱりわからない。扉間様を呼び寄せる前から私は忍術開発の経験はそれなりに積んでるし、扉間様との新術開発で扉間流の術式理論をある程度見て学んじゃいるけど、毎回毎回新しい術が登場する度発想がイカれすぎてて具体的な実現のイメージがまったく湧いてこないのはどういう了見なのか。そんなもの、引くなと言う方が無理な話である。
ともあれこのように、私の使う穢土転生には現在、その一体一体に互乗起爆札が仕込まれているわけだ。一体につき100枚ずつ。これにしたってほとんどが扉間様によってどこからともなく集められてきた代物ではあるが、その上この起爆札が全て永久に使い回せると来た。便利とか助かるとかもはやそういう次元の話ですらないような気がする。なんならこれだけで、今からでも大国相手に戦争できるんじゃないかとすら思えてしまう。こちらの戦力で生きてる人間は私一人なのに!
まぁそうは言っても、起爆札が半永久的に使い回せるようになったことで私の起爆札を起因とする財政難に終止符が打たれたことは素直に喜ばしいことではある。術者が自分で止めないと永久に爆発し続ける世界終末スイッチみたいな術を押し付けられたという事実から目を背ければ、本当にお買い得な商品だ。互乗起爆札は既に禁術になって久しい。それ故に現代の木ノ葉隠れにはこの術を知る者が殆どいないということらしいが、そりゃ禁術にもなるわという話である。お買い得という意味ではなく、もちろん危険すぎるという意味で。
穢土転生を用いた互乗起爆札の実践は今回の戦闘で初めて使用してみたわけだが、まあひどい。あんなん自分の目の前で使うべき術じゃない。
最初に派手な爆発を小出しに見せることでサソリ達に防御する暇を与え、サソリが砂鉄を集め始めた瞬間を見計らってその場にある全ての札を一気に起爆させたのだが、それにしたって向こうがちゃんと生き残ってくれているかどうかに疑問が残る。そもそも自分自身生き残るかどうか、爆発を見た瞬間半信半疑になってしまったくらいなのだ。こうして現在、砂漠から遠く離れたどこかに逃げ切れている以上、行き当たりばったりな私の作戦は成功したと言っていいが、正直二度とやりたくない戦法だ。私の後ろに控えていた
結果的に見れば私は、『暁』二人相手に生死不明の状態で逃げ切ることができ、封印されていた穢土転生体を全員回収し、ついでにまんまと三代目風影の穢土転生をゲットして帰ってくるという二兎追って二兎狩って帰って来るみたいな離れ業を成し遂げてみせた訳だ。が、正直あまり心地良い気分ではない。絶対もっと安全な方法があったはずだし、戦闘記録に課題が残りすぎている。扉間様に報告しようものならねちねちと問題点を挙げ連ねられたあげくに鬼の課題克服メニューを追加されるに決まっているのだ。
残る問題は、だから、サソリとデイダラが生き残っているかどうかの確認だ。原作が始まる前にあの二人に死なれたら後々の細かい調整が面倒くさくなる。できれば生き残っていてほしいなぁと思いながら、私は二人の生存確認へ向かわせた『彼』の帰りを待つ。
やがて、私の目の前に、何処からともなく人影が現れた。
時空間忍術による転移。それも、特定の位置から対象物を引っ張り込むのではなく、自分自身を予めマーキングしておいた特定の位置へと瞬間移動させる、難易度最高級の転移術式。
『飛雷神の術』。
扉間様が開発し、後に四代目火影波風ミナトへと受け継がれることになる時空間忍術の奥義。
現在の木ノ葉隠れにおいて、この術を使える者は決していないわけではない。しかし現在に残る使用者の殆どは以前私が湯隠れの里で遭遇した不知火ゲンマのように、不完全な形でしか『飛雷神の術』を扱うことができない。十全な形でこの術を扱える忍となると、里の全ての術を扱うことができると言われている三代目火影、猿飛ヒルゼンくらいしか残っていないだろう。この術は、それほどまでに難易度が高い。
私自身、術のノウハウは既に扉間様に聞いて教わっているので訓練はしているのだが、中々思うように習得することができないでいる。チャクラの大量消費と精密操作。その両方を同時にこなさなければならないこの術を扱うには、まだ私は忍としての身体が完成されていないのだと扉間様は言っていた。だから私が『飛雷神の術』の恩恵に預かるには、今のところその術が使える穢土転生を呼び出すしか方法がない。
だから、私は緊急避難用の穢土転生として彼を呼び出し、『暁』二人との戦いの間いつ離脱してもいいようにすぐそばで待機させていたのだ。そして、彼の持つ『飛雷神の術』によって私は互乗起爆札の爆発から逃れ、こうして命を繋ぐことに成功した。
その後、サソリとデイダラがどうなったのかを確認するために『彼』はもう一度東の砂漠へと偵察に向かい、その偵察から今戻ってきたというわけだ。
「どうでした? あの二人。生きてました?」
私は脱力しきって木の幹に寄り掛かったまま、彼に尋ねる。
「ああ。生きていたよ」
そして私の問い掛けに、
「二人とも気絶はしていたが、命に別状は無さそうだった。あの爆発を乗りきってみせるとは、話に聞いていた通り『暁』の忍というのは中々にやり手のようだね」
今現在、私はモンザエモンを口寄せしてはいない。つまり、目の前に立つ黒髪の青年は、モンザエモンの演技ではなく、自分の意思で言葉を話し、余裕のある柔らかい笑みを顔に形作っているわけだ。
そう。私は彼の意思を縛っていない。どころか私は、彼に対して
何故か。簡単だ。彼が、私の召喚した穢土転生ではないからだ。
彼は私ではなく扉間様が口寄せした穢土転生であり、そして扉間様は、彼に対して何一つ拘束を掛けなかった。扉間様と同じ、完全に自由な穢土転生体。それが彼だ。私と口寄せの契約は結んでいても、彼が私の支配下に有るわけでは無い。彼は扉間様と完全に同じ条件でこの世界に復活を果たしている。
どうして彼は自由なのか。それも簡単な理由だ。扉間様が彼に対し、全幅の信頼を置いているからに他ならない。
穢土転生は戦力増強に非常に役立つ術だ。これは間違いない。しかし穢土転生を用いるとき、その術者は穢土転生の支配にかなり大きなリソースを割かれることを覚悟しなければならない。支配にかけるリソースが少ないと反乱の恐れが常に付き纏うし、リソースをかければ、術者本人は自由な身動きが取れなくなる。その上私みたいに万全の支配で戦闘に臨もうと思えば、どうしたって一度に支配できる人数に限りが生じることになる。工夫や裏技によって水増しすることはできても、私が一度に完全に支配できる穢土転生が三体までだという事実が変わることはないのだ。
そんな穢土転生のデメリットを克服するにはどうすればいいか。そんなものの答えは決まっている。そもそも復活した穢土転生が術者に反乱を起こす気さえなければ、そんなことを気にする必要など何処にもないのである。
つまり話は単純で、裏切る心配の無い信頼の置ける死人を穢土転生で呼び出せば、その穢土転生に態々支配を掛ける必要は無くなるわけだ。こんな簡単な話はない。
で、扉間様はその考えを実行に移した。自分の信頼の置ける人物を穢土転生によって復活させ、現状を話し、協力体制を築かせた。
その結果、現在こうして私の目の前に立ち、偵察の結果を報告している彼がいるわけだ。
超高難易度忍術である『飛雷神の術』を操り、私のとっさの判断に即座に対応して、爆発が直撃するギリギリのタイミングで転移を行えるほどの判断力と即応力とを併せ持つ実力者。
扉間様が態々穢土転生で呼び出すほど腕前が認められていて、尚且つ意識を縛られることなく行動を許されるほどに扉間様から信を置かれている数少ない人物。
癖のある黒髪の上に木ノ葉の額当てを巻き付け、そして、
彼の名は、うちはカガミという。
うちはシスイの類縁にして、うちは一族の厄介な特性を危険視していた扉間様が、それでも自分の部下として重用していた数少ないうちは一族。一族の垣根を越えて、里のために動くことができる者であると扉間様直々に評価された、広い視野で物事を考えられる、火影の素質を持つ忍。
原作にも殆ど出てこない人物なので彼の実力を私はよく知らなかったが、実際会ってみて、すぐに理解することになった。彼の実力は本物だ。写輪眼を開眼し、飛雷神の術まで扱うことができる。考えてみれば、四代目火影の護衛小隊だった面々が不完全とはいえ飛雷神の術を使えていた訳だから、扉間小隊の面々がまったく飛雷神の術を使えないと考える方が不自然だった。それくらい分かっても良さそうなものだったが、実際に目の前で実演された時は、目を真ん丸にして驚いてしまったものだ。
『瞬身のシスイ』と呼ばれ恐れられたうちはシスイの祖先もまた、瞬身の達人だったというわけか……。
そもそもうちは一族の写輪眼対策に開発された筈の飛雷神の術を写輪眼持ちのうちは一族が扱えるとか、ちょっと考えただけでも悪夢みたいな組み合わせだったが、それが味方となれば心強いことこの上ない。しかも私が操る必要が微塵も無いどころか、実戦経験や状況判断、作戦立案能力はそもそも彼の方が私なんかよりよっぽど上手なのだ。特に指示をしなくとも勝手に最善の仕事をしてくれる仲間のなんと頼りになることか。私は今回の件でそれを大いに実感した。
「しかし、本当に彼らを殺さないままで良かったのかい? 未来をできるだけ変えたくないとはいえ、常ならばいの一番に始末しておきたいタイプの二人だったけど」
「事前知識があるとはいえ未来にどうなるかは、実際に未来になってみないと分かりません。ここで殺すと確実に未来が変わりますが、確かに殺さなかったからと言って未来が変わらない保証もないです。だから私達は、この先どうなってもいいよう何時でも対応できるだけの策を考えないといけないわけです」
「その『策』が、アレというわけか」
カガミさんは腕を組んで考え込む。
『策』というのは、サソリとデイダラそれぞれの核と心臓に、カガミさんがこっそり飛雷神のマーキングを仕込んでおくというものだ。彼らが予想外の行動をしたときに何時でも始末できるように保険を打っておいたのである。扉間様的には、人質や捕虜を敵国に返還するときに保険としてよく利用してた手段らしい。断じて私の考案ではない。参考までに。
「あの二人、果たしてこちらの思惑通りに泳いでくれるかな?」
「泳いでくれないと困ります。それこそ、こちらで殺すしかなくなるじゃないですか」
私が肩を竦めて笑顔で返すと、カガミさんは若干引いたように顔を引き攣らせる。
「こんな幼い女の子が殺す殺さないを笑って語るようになってしまうとは本当に世も末だな……。平和な世ってのはいつになったらやってくるのやら……」
「その平和な世ってやつを目指すためにウチ等はこうして活動してるんじゃないですか。しっかりしてください。貴方の働きに掛かっちゃってますよ。世界の命運」
「……まさか死んだ後になってそんなものを背負うことになるとは、流石に考えてなかったよ。ま、やるだけやってみるけどね」
困ったように頭を掻きながら苦笑いするカガミさんは、やがて周囲を見回して言う。
「それにしても、ここはどこだろう?」
「え? ここがどこか分からないで跳んだんですか?」
そんなことある? 飛雷神の術って、予めマーキングしてなきゃ空間跳躍できない術じゃないの?
「いや、なにせ咄嗟のことだったからね。一度飛んだら元の場所からどのくらいの距離かは分かるんだけど、そこがどういう土地かまではまだ把握できてなくて……ほら」
カガミさんが指を差した木の幹には、飛雷神のマーキングが施されている。だけどこれは……
「このマーキングは扉間様のものだ。オレ達のマーキングは現在全てリンクしているからここに跳ぶことができた訳だけど、もしかしたらここは、オレが今まで一度も来たことがない場所なのかもしれない」
「ええ……」
扉間様は作戦の一環として、自由に動き回れる今のうちに、世界中を巡りながらあちらこちらに飛雷神のマーキングを施して廻っている。そして、私達は飛雷神の術のマーキングをお互いにリンクさせていて、私達の誰が設置したマーキングであろうとも、その全てのポイントに跳躍することが可能になっている。いつ、どこで何が起こっても即応できるように対策を欠かさない。実に扉間様らしい心掛けだ。
そしてカガミさんは私の突発的な自爆特攻から逃れるために、特に場所を選ばずランダムに跳躍を行った。その結果私達は、扉間様があちこちに設置しているマーキングポイントのどこかに引っ掛かって跳躍してしまったと言うわけか……。
ふーん? なるほどね? それってつまり。
「……遭難ですか?」
「い、いや! それはない! それだけはないから安心してくれ! もう一度飛雷神の術を使って今度はオレが設置しておいた避難先に移動すれば道に迷うことはないから!」
なんだ。遭難じゃなかったのか。いや、別に遭難したかった訳ではないけど。
「なら、安心ですね。一休みしたら、大蛇丸様達との指定の合流ポイントに一番近い場所に跳んじゃいましょう」
すべきことはした。後は野となれ山となれ。早く戻って大蛇丸様と君麻呂に合流しなければ。
あんな形で別れてしまって、君麻呂も多分心配してるだろうし。
私が言って、それにカガミさんが頷く。
「ああ。そうだね。なら、五分後くらいに──」
「
──突然、声が降ってきた。
ガバッ! と、私は瞬時に寄りかかっていた木の幹から腰を浮かせ、懐から取り出した笛を唇に当てる。
カガミさんはこれといって体を動かすことはなかったが、二つの瞳にスー……と、写輪眼の基本巴が浮かび上がる。
警戒態勢の私とカガミさんの目前に、ドスン! と、木の上から巨漢が落ちてきて、森が揺れる。
身長2メートルはあろうかという巨体に、力士よりも尚がっしりとした幅のある恰幅の男。木ノ葉の額宛を巻き付けたその男の眼球は、穢土転生特有の黒色に彩られていた。
そして男は、両腕を頭上に掲げ、
「そう警戒するな。オレだよ」
と、呆れたような声を出す。
「……トリフ、か」
カガミさんが少し迷いながら、確認するように、その人物の名前を口にする。
秋道トリフ。木ノ葉の名門、秋道一族の忍で、元、扉間小隊の一人だった男。
そして現在、カガミさんと同じく穢土転生として復活し、自由に現世を歩き回る死者の一人。
「同期なんだから迷ってくれるな。悲しくなる」
「いや……すまん。オレの知ってた頃のお前とのギャップに、未だに慣れなくてな……」
「お前だけ先にくたばっちまったのが悪いんだよ。それは」
カガミさんとトリフさんは、猿飛ヒルゼン、志村ダンゾウ、うたたねコハル、水戸門ホムラ等木ノ葉の重役四人と同期の忍であり、同じ扉間小隊に所属していた。だけど、二人の見た目年齢には大きな開きがある。カガミさんが20代前半の青年風の見た目をしているのに対して、トリフさんは初老の風貌だ。両名ともこうして穢土転生として復活している以上、亡くなっているのは確かなのだが、しかしその死亡時期には大きな隔たりが存在する。
九尾事件。
トリフさんが死んだのは、その時らしい。九尾が復活し、四代目火影、波風ミナトがその命を賭して九尾を自らの息子の腹の中に封印し、一人の人柱力を産んだかの事件の最中に、九尾との戦闘によって亡くなったのだそうだ。今から大体、8年ほど前のことである。
とはいえ、彼らは現在、こうして現世に再び足を下ろしている。あくまでも死人としてではあるが、自らの意思を持ち、扉間様と私に、進んで協力してくれる。
千手扉間、そして、うちはカガミと秋道トリフ。ついでに私。
この忍世界の未来をコントロールしようと暗躍するメンバーは、現在この四人というわけだ。
私だけ新参者で肩身が狭い上に、多分四人揃って活動することなんてほぼ無いと思うけれど、まぁ、こういうのは気分の問題だ。なんかこう、チーム感をフワッと出してみた方がこちらの気分が盛り上がる。とはいえ現在の状態は、世界を回って暗躍する扉間様と、それに付き従うトリフさん。私と、そのお世話係のカガミさんという組み合わせで動いているので、案の定既にフォーマンセルは破綻してるんだけどね。
私が下らない思考を走らせていると、カガミさんがトリフさんに質問をする。
「必要がない。というのは、どういうことだ? ここで何かがあるのか?」
「ああ、まぁ、そうだ。お前達は中々どうしてタイミングがいい」
お前達の力が、もしかすると必要になるかもしれん。
トリフさんの言葉に、私とカガミさんの二人は揃って首をかしげる。
「というか、ここはどこなんです? ただの森にしか見えませんが……」
「それに、扉間様はどうした? 確かお前と行動を共にしていたはずだったよな」
「待て待て、二人して捲し立てるな。質問は一つずつにしてくれ」
私達二人がほとんど同時に声をあげるのを慌てて制止し、トリフさんは私達の質問に順番に答える。
「まず扉間様だが、あの人はこの森の更に奥に居られる。一人で事に当たりたいそうでな。オレは、その間この森に邪魔者が入り込まぬかの監視をしていた。そこに、お前たちが来た訳だ」
ふむ。扉間様はこの森の奥か。この森がどこで、そして彼等はここで何をしているのかという疑問がすぐに浮かぶが、まぁ、それはこのままトリフさんの話を聞いていればすぐにわかるだろう。
「そして、この森がどこかというと、この森自体はただの森だ。名前すらついていない。場所は……説明しづらいな……。辺境にあることは間違いない」
トリフさんの説明はなんとも歯切れが悪い。そんなに説明し辛い場所なのかここは。マジで何処だ。いや、多分説明されても分からないような場所だろうけど……。
「この森自体には本当になにもないんだ。問題はその奥にある場所でな。オレもまだ足を踏み入れたことがないんで本当にこの奥に
「なんなんだ。勿体ぶらずに早く言ってくれ」
中々核心に辿り着かないトリフさんの語りに少し痺れを切らしたカガミさんがせっつく。トリフさんは「わかった! わかってる!」と、両手で前のめりになるカガミさんを押し留め、ぼそりと、この森の奥にあるという土地の名前を言う。
「湿骨林」
と。
「妙木山、龍地洞と並び称される秘境。仙人が暮らすと言われる隠れ里。森の千手一族の一部にのみ、口伝で伝えられるとされる土地が、この奥にあるらしい」
ぞわり。と、私の背すじに震えが走る。
湿骨林。原作においてほとんど語られることの無かった秘境の地。妙木山の蛙、龍地洞の蛇と並んで、蛞蝓が暮らすとされる土地。五代目火影になる綱手姫の口寄せ動物であるカツユは、その湿骨林の出身なのではなかったか。
なんだか知らない間に、とんでもないところに迷いこんでないか? 私。
「……それで、扉間様はその湿骨林に、何をしに?」
カガミさんが訊く。いよいよ話の核心が迫っている予感をひしひしと感じながら、私はトリフさんの次の言葉を待つ。
しかし私の予想に反して、トリフさんはその首を横に振った。
「さあな。仙人に聞きたいことがある。とだけ。その内容までは分からん」
なんだ。分からないのか。
仙人に聞きたいこと? なんだろう。仙術の方法でも聞き出すのだろうか、いや、そんなこと、できるなら生前からやってるか?
とにかく、扉間様の用事がなんなのかは、扉間様が帰ってこないことには分からないと言うことか。
しかし、扉間様め。人が『暁』と命がけの死闘を繰り広げている裏で何をやっているのだろう。そんな面白そうなイベントが有るなら私も参加させろと言いたい。
「じゃあ、トリフさんが都合がいいと言ったのは、扉間様を待つのに都合が良いと言うことですか?」
私が、少し緊張の糸を緩めた気のない声で質問すると、トリフさんは、
「
と、またもや首を振って否定した。
え? 違う? 何が?
私が頭の上にクエスチョンマークを浮かべていると、トリフさんは言う。
「確かに、現在オレは、扉間様の帰りを待っている。扉間様が湿骨林へと向かってから、かれこれ一時間」
トリフさんは、何故だか少し焦っているように見えた。
何をそんなに焦っているのだろう?
その理由は、直ぐに明かされることになる。
「しかし湿骨林に向かう前に、扉間様はオレにこう言い残したのだ。『もしも一時間経ってワシが戻らなかった場合、ワシは死んだものとして扱い、後は貴様等三人で任務を続行せよ』と!」
「「は?」」
私とカガミさんが、揃って声をあげる。いや……。は? どういうこと?
意味が分からない。
扉間様は、そんなに危険なことをしに行ったのか? 一体何を……?
いやいや、というかそれ以前に、扉間様は穢土転生体じゃん!
もう死んでるし! 死なないじゃん!
え? 何? まさか本当に戻ってこないの? あの人。いきなりすぎて話についていけない。湿骨林で、一体何が起きてるって言うの!?
「扉間様は仰られた。『間違っても、ワシを探しに後を追うことなどしないように。もしもの時はあとの二人にもそう伝えるように』と」
拳を握りしめ、歯軋りをしながらトリフさんは言葉を絞り出す。
「……オレは、湿骨林に向かおうと思っている」
「!!」
トリフさんは、眼光を鋭く光らせ、決意と共に宣言する。
「扉間様が死んでいる。そんなことを思いたくはない。そんなことを思うのは、『あの時』だけで十分だ。だから、オレは行く。だが、扉間様が戻ってこれないようなところに行って、オレが戻ってこれる保証などどこにもない。だから、お前たちが来てくれて都合が良かったのだ! 最低限、伝えるべきことを伝えることができるからな。カガミ。多由也。お前たちは……」
「一緒に行きますよ」
さらっと、私はトリフさんの言葉の間に、自分の言葉を差し込んだ。
「!? 何を言ってる!! それでは!!」
慌てて私を止めようとするトリフさんの言葉を、私は適当に手を振ってあしらう。
「私達は一蓮托生なんですから。何かするならチームの方がいいに決まってます。戦力も多い方が良いでしょうしね。それに、今の段階で扉間様にいなくなられるのはウチ、死ぬほど困るんで」
言いながら、私の身体に熱が点っていく。
沸々と、怒りの炎が、勢いを増していく。
あんのドグサレポンコツジジイ。人が死闘を演じてる裏で何を勝手にゲームオーバーしようとしてやがる。んなもんこのウチが許すわけねーだろーがドアホ。
湿骨林に何があるのかは分からない。あの人が何をしに、何に会いに行ったのかも分からない。だけど少なくとも、扉間様が約束の時間までに戻れないような『何か』はあるのだろう。もしかしたら、不用意に突入なんてしようものなら即刻即座に即死するようなヤバい何かがあるのかもしれない。
安全だとか安心だとか、そんなものを追い求めるなら、確実に扉間様のことを諦めた方がいいのだろう。そんなことは分かっている。
だけど、それじゃあだめなんだ。今はそれでよくてもそのうち絶対にどうしようもなくなるときが来る。
「扉間様無しで、アンタの考えた『作戦』が達成できるわけねーだろーがクソが……」
ぼそりと呟き、私は笑顔を貼り付けて二人の先輩に振り向く。
「じゃ、行きましょっか」
「そうだな。行こう」
私の言葉にカガミさんが即答し、トリフさんがいよいよ慌てる。
「待て待て待て! カガミまで何を言ってる!? 分かっているのか!? オレたち三人で行ってしまったら、三人とも戻れなかったときこの世界は誰が救うというのだ!?」
「誰かが何とかしてくれるのを、祈るしかないなぁ」
カラカラと、カガミさんはさっぱりした笑い声を上げてトリフさんに返答する。
「だったら!!」
ビシッ! と、鋭い音が響く。
カガミさんが、トリフさんにデコピンを食らわせた音だ。
「年食って耄碌しちまったかトリフ。お前、言ってることがめちゃくちゃたぞ」
「はぁ?」
疑問の声をあげるトリフさんに、カガミさんは言う。
「
「んなっ!? お前の方がよっぽどめちゃくちゃ言ってるぞ! もっと現実的に考えろ! 任務を全うするなら―!」
トリフさんの叫びを、私は心の中で肯定する。そう。現実的に考えれば、例え扉間様を追う選択をするにしても、一人は残していくのが正解だ。私一人でも残して行った方が、確実に誰かが生き残る公算は高くなるだろう。
だけどやっぱりそれではダメだ。それでは、生き残ったとしても意味がないんだよ。個人としては良いかもしれないけど、チームとして、それは致命的だ。
「仲間が戻ってこなかったとき、それを見捨てて戻ることが正解だと言うなら、そんな正解はいらない。トリフさんだって、そう思ってるから扉間様の命令を無視して扉間様を追おうとしたのでは?」
「だなぁ。自分だけいい格好しようだなんて、そうは問屋が卸さないぜ? オレたちだって考えは同じなんだから」
かつての己にできなかったことを、今こそ果たしたい。
元扉間小隊の二人には、共通してこの思いがあることは間違いがない。
じゃあ、私には扉間様を追う動機はないじゃないかって? そんなことはない。
私だって、あんまり自分勝手に行動するクソヤローの襟首を掴んで引っ張り戻し、ぶん殴りたいという気持ちは十分にある。扉間様は、「戻ってこなかったら置いていけ」なんて言葉で、私たちが本当に置いていくとでも思っていたのだろうか?
どうやら扉間様は、NARUTOの中でも屈指のあの名言を知らないと見える。
忍びの世界でルールや掟を守れないやつはクズ呼ばわりされる。
けどな、仲間を大切にしない奴はそれ以上のクズだ。
私は自分をクソヤローだとは思っているが、それでも自分を進んでクズヤローにする気は微塵も無いのだ。自分を少しでもマシに見せたいというのは、それなりに普遍的な感情だろう。
私とカガミさんが気軽に森を進んでいくのを後ろから呆然と見続け、やがて、トリフさんは私達の後を追って走り出す。
「クソ! これだから若い連中は! 向こう見ずが過ぎる!」
「同期だろ。それに、お前には言われたくない」
「ですねぇ。一番最初の言い出しっぺは、どこのデブだったって話です」
「デブと言うな小娘!! ポッチャリ系と呼べ!! とにかく!! 三人で入るならリーダーは年長のオレだからな! 指示はしっかり守るんだぞ!」
私の余計な一言でキレ散らかすトリフさんに私達二人は適当に了解し、そして三人は走り出す。
新生扉間小隊。もしかしたら今回は、そのはじめての共同任務になるのかもしれない。
呑気にそんなことを思っている場合ではないのかもしれないが、しかし私は、楽観的な思考を捨てきれないでいた。
湿骨林て、カツユ様が暮らしてる所でしょ? あの心優しい常識的なカツユ様相手なら、普通に話し合いができるのではないか?
扉間様が戻ってこないのもたまたま話し合いが長引いているだけで、実はそんな大したことにはなっていないのでは?
妙木山と同じようなところなのだとしても、あそこもそこまで危険な場所だとは思えなかったし……。
私はそんなことを心のどこかで思いながら、何があるのかも分からない未開の土地に、足を踏み入れていく。
だけど私は、すぐに思い知らされることになる。
湿骨林。その場所こそは、この世界に数少ない、文字通りの人外魔境であるのだということを。
私達は森の奥へと、歩を進める。
▼次回につづく。
あとがき
久しぶりの投稿いかがでしたでしょうか。新章突入と言った風情であります。一体何編になるんでしょうなぁ、これは。
原作においてまともに登場した仙人の秘境は妙木山だけ。ボルトのアニオリで龍地洞も登場しているらしいですが、私の記憶が確かなら、湿骨林は未だにどこにも書かれていなかったし、湿骨林の仙人も未登場のままだった筈。じゃあ、私が好き勝手書いてもいいよね?てなわけで、手をつけてしまった次第であります。湿骨林の仙人…、一体何蛞蝓仙人なんだ…。
vs芸コンの時についぞ正体を明かさなかったあの人の正体が、ここで明らかとなったわけですが、皆さん予想は当たっておられたでしょうか?私としては、意外な人物を出したつもりですが、よく考えるとそこまで意外でもなかったかもしれません。ついでにもうひとり、デブ枠を一人追加してみましたが、この人原作だと死んでるかどうか不明のままなんですよねぇ。勝手に殺しちゃって申し訳ありません。
本日はこの辺で、また後日お会いしましょう。次回をお楽しみにー。
前書きの一言に対する自問自答。
「忘れた…」