前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。 作:N-SUGAR
ここで自分に向けて一言。
「もはや潜影蛇手ってなんだ?」
「有望な人材を見つける」と言うよりは、「特別な人材を見つける」と表現した方が、私の勧誘活動を言い表す言葉としては相応しい。
ただ、特別であればいい。他にないオンリーワンであれば、それが実際に使えるかどうかは関係なく、私は貴賤なく蒐集する。
情報にしろ、個人にしろ、一族にしろ。
私は、珍しく稀少なものを好む。
それはもはや、ある種の癖のようなものだった。
この癖がついたのは、いつの頃からだっただろうか。里を抜ける前には既に、私の蒐集癖は始まっていた気がする。
伝説の三忍。私と綱手、そして自来也に与えられた称号。里の内外問わず、忍達はこの名に畏怖や憧憬を覚え、私達を特別な存在として扱った。
だが、この称号は私にとってあくまでも与えられたものであって、自らが勝ち取ったものではない。私達三人にとっては負け戦の苦い記憶と共に植え付けられた称号だ。そんなものに私は価値を見出すことはできなかった。あれは、得る物のない、失うばかりの戦争だった。
結局のところ、私は優秀の域を出ない平凡な存在なのだ。自身に他とは違う何かがあることを期待していたが、人よりちょっと優れているくらいが関の山だった。私はこの世の真理を網羅できるような存在ではないのだと、真理を追い求めれば追い求めるほどに理解した。
特別な何かが、必要なのだ。私の中にはない、唯一無二の何かが。
私はそれを求めて、自分にはない、他にはない特別を探し続けている。ひたすらに。我武者羅に。
それが手に入るのならば私は、人間であることすら辞めて見せよう。
草笛一族に生き残りがいるらしいという情報は、今から二年前、各地に散らせた子飼いの部下の一人からもたらされたものだった。
草笛一族。薄い赤髪が特徴的な一族で、元を辿ればうずまき一族をその源流とする系譜。生命力が強く、封印術、結界術に優れ、更に笛を使った独自の秘術を多く所有すると言われている一族だ。部下にするにも、実験用の素体にするにも申し分のない遺伝子。一族が滅亡した際、その秘伝忍術の殆どが焼失してしまったと聞いた時には残念に思ったものだったけれど、生き残りがいるというのなら焼失してしまった秘伝忍術も少しは回収できるかもしれない。
生き残ったのは年端も行かない少女で、木ノ葉の里ならまだアカデミーレベル。此方に取り込み、自分色に染め上げるのには丁度良い頃合いの娘だ。秘伝忍術を継承しているという期待はするだけ無駄な年齢だが、その身体を研究すれば、少しくらいはヒントを回収できるかもしれない。
そう思ったのも束の間、そこから先の彼女の消息は一切掴めなかった。不思議なことに、部下の捜索に彼女が引っ掛かることはまったく無かったのだ。最終的に草隠れに潜入させている別の部下から、それらしい少女が草隠れの里に在籍していると報告を受けたのは、つい二週間前のことだった。
だけど、その情報を聞いて、私がすぐに動き出すことはなかった。というのも最近の情勢が、私の趣味の蒐集活動を許すものではなかったのだ。
うちは一族の全滅。
1ヶ月前に届いたその一報は、私に衝撃を与えた。うちはという希少な血がほぼ途絶えたという事実も私の感情を揺さぶるには十分に過ぎるものだったが、それだけならまだ予定調和だった。ダンゾウとの裏の繋がりのお陰で、九尾事件の容疑で立場を危ぶまれたうちは一族が木ノ葉でクーデターを画策していることも、それを粛清する動きが木ノ葉上層部にあることも、情報として既に知っていたからだ。なんならうちは一族の粛清計画自体には、私も一枚噛んでいたくらいである。
だけど一つだけ、予想外のことが起きた。
うちは一族を滅ぼした張本人。高い忍術の素養を持つエリート集団を壊滅させた実行犯が、たった一人のうちはの忍だというのだ。
うちはイタチ。
7歳で忍者学校を主席で卒業。8歳で写輪眼を開眼。10歳で中忍に昇格。13歳の現在では、暗部の部隊長にすら認められていた、うちは一族のなかでも抜きん出た才覚を発揮するエリート中のエリート。
軽く経歴をさらうだけでも恐るべき才能と実力があることが分かる。そんな彼が、不意をついたとはいえ、一人でうちは一族を皆殺しにした。
正確には、一人だけ生き残りがいるという話だったが、それは予め残すつもりの一人だったようだし、そうでなくとも、子ども一人取り逃がしたくらいで、彼の行った所業の偉大さは変わらない。あの子は、今、どれほどの……。
欲しい。
素直にそう思った。
その後、ダンゾウとの裏取引で移植研究用の写輪眼が提供され、臓器移植に拒否反応を示さない特殊な検体を用いて写輪眼の研究に没頭している最中も、ずっと私は、イタチくんの事が頭から離れることは無かった。
イタチくん。アナタは今何処にいるのかしら。
イタチくん。アナタは今どうしているのかしら。
イタチくん。アナタの眼は、今、どうなってしまっているのかしら?
今、目の前にある有象無象の写輪眼ではない。より純粋な、より研ぎ澄まされた、蠱毒の淵で熟成された極上の写輪眼が、どこかで生きてこの世界を見据えている。
その眼は、一体この世界をどう見ているの?
その眼には、一体どこまでのものが見えるというの?
熱を上げるとは、まさにこの事を言うのだろう。
そんな状態で活動していたものだから、被験体の一人までなにやらイタチくんに感化され始めて、感情ばかりが先走り研究が一向に進まなくなりつつあった。
欲しい。欲しい。欲しい!
イタチくんの身体が! 欲しい!
だけど、イタチくんの里を出た後の消息は、現在不明のまま。私は完全に、蒐集欲の行き場を失っていた。
「感情ばかりが先走り煮詰まっているようならば、一旦箸休めをして、気分を発散させてみてはいかがでしょうか」
そんな進言を申し出たのは、私の忠実なる右腕であるカブトだった。
「……そうね。少し休んで、興奮した頭を整理するのも悪くない」
私はその意見に従い、一旦研究室から離れることにした。
何か別のことをして、この高まった感情を抑え、冷静にならなければ。
しかしそうは言っても私の趣味は真理の探求を除けば、それこそ蒐集活動くらいしか思い浮かばない。
適当な雑魚をぶち殺すだけじゃこの高まった気分は押さえられなかったし、やはり気分を変えるには旅行ついでに蒐集活動をする。これしかない。
だが、イタチくんという極上の獲物を用意されてしまった今、各地でいくら特殊な才能を持つ人材を調べさせても、中途半端な逸材では満足できそうにない。
そんな私が報告書をぼんやり眺めているとき、彼女に関する報告に目が止まった。
一族が壊滅し、一人生き残った少女。
最初はそんな、イタチくんとの微かな共通点だった。
しかしよく目を通してみると、その報告には不自然な箇所が散見していた。
「一年以上の消息不明……。発見されたときの経歴は、……草隠れの特殊補充部隊?」
草隠れ特殊補充部隊。この部隊は、お堅い名前を付けられてはいるが、要するに人材不足の草隠れが、そこら辺からどうでもいい雑兵を拾ってきて忍の肩代わりに使用するという組織である。草隠れは隣国との小競り合いが絶えず頻発していて、自里の忍が減少傾向にある。滝隠れと提携を結ぼうとしていた草笛一族とかいう極小の隠れ里を念のために壊滅させたりと、喧嘩ばかり売っているような連中なので当然と言えば当然の結果だ。そうして日々悪化していく忍の補充問題をなんとか解決しようとして編み出された解決策が、この特殊補充部隊の設立である。
名目上はその名の通り、通常の補充部隊と別途に用意された臨時の補充部隊だ。だがその実態は、忍ですらない雑兵をかき集めて一度派遣されたら帰ってこれないような激戦区に送り出し、草隠れの忍たちの壁役として使い捨てにするという極悪なものだった。時間稼ぎに取り敢えず頭数だけ揃えて本命の囮にするという、人間の無駄遣いを象徴するような部隊であり、ここに配属された人員は通常一週間も生存することはできない。激戦区にばかり送られ前線に出されるため、例えまともに訓練を積んだ忍であっても、1ヶ月生き残れるか怪しいレベルだ。
その特殊補充部隊に配属されて……約1年? 何かの間違いじゃないの?
しかも通常、特殊補充部隊は忍と混ざって行動すると足手まといになるため補充部隊の人員のみで行動させられることが多く、その上ゲリラ戦術を主にしているため額当てが支給されることもない。一部の比較的有能なまとめ役だけが額当てを支給され、忍の部隊に混ざって行動することもあるが、囮や壁役にされる頻度はむしろ増加するため生存率はさらに下がる。
報告書によれば、草笛一族の生き残りはこの特殊補充部隊で額当てを支給され、小隊等の臨時補充要員や、部隊間の連絡補佐係として働いているらしい。連絡補佐係というのは要するに、伝令役の忍に付いて、襲撃されたときに囮として使い捨てにされる係のことだ。
「フウン。中々面白そうじゃない。この子」
イタチくん程ではないが、私の琴線に引っ掛かる何かをこの子に感じた。
そうして私は研究の息抜きに、趣味の人材蒐集活動へと出掛けることになったのだった。
そして、現在。
「大蛇丸様? どうかなさいましたか?」
蒐集活動の帰り道。目的の少女を無事に蒐集し、音隠れの里へ帰還する道中。そろそろ火の国の国境に差し掛かろうとする辺り。私が向けた視線に反応し、少女が顔を上げる。
草笛 由也。私によって新しく、『音隠れの多由也』という身分を与えられた、元草隠れの少女。
「いえ。ここまで大分距離を移動したけど、アナタが疲れてはいないかと思ってね」
「お心遣い感謝します。大蛇丸様が宜しければ、お言葉に甘えて少し休憩を取らせていただいても構わないでしょうか?」
咄嗟に出た観察の言い訳に、多由也は社交的な笑顔で返答する。
彼女が疲れているようには見えない。どちらかというと、私を慮って休憩を具申しているような風情だ。確かに、今の言い方だと私の方が休憩を求めているようにも取れるわね。
幼いのに随分と気の利く子だこと。戦闘時にうっかり私のことをクソジジイ呼ばわりした子と同一人物とは思えないわ。
その事で弄ってあげようとも思ったが、せっかく好意的な提案を向けられてしまったのだし後の楽しみにとっておくことにした。もう少し、関係を深めてから弄るのも、悪くなさそうだ。
何にせよそういうところも異常といえば異常である。彼女が本来気の強い性格であることは、その戦闘スタイルを見れば分かる。
だけどそれとは逆に、とても9歳の子どもとは思えないような、大人びた社交性を彼女は有している。
本性を仮面で隠すが如き理性を、この歳で既に獲得している。
忍としてはこれ以上ないほどに有望だ。普通ならアカデミーに通っているような年齢で、既に一人前の忍として実戦に参加している。大戦があった頃ならそういう子どもは木ノ葉にもいたが、大抵の場合はすぐに戦死することになる。
若さと実績の対比で言えば、6歳で中忍になったカカシくんが一番だけど、戦時中の昇進というものは、実力相応とは言い難いからねェ。やはり比較するなら、イタチくんということになるのでしょうけど……。
そういう思考で比較してしまうこと自体が既に異常なのだ。
9歳にあるまじき保身的な交渉術を仕掛けてくるものだから面白くなって実力を試してみたけど、彼女の実力は予想以上だった。何かあるだろうとは思っていたが、思った以上の結果が帰ってきた。
使う術のバリエーション、術使いのセンス、戦術眼。どれを取っても彼女は下忍のレベルではない。そもそも下忍レベルに私の影分身が消されてしまうなんてことは有り得ない。例えそれがどんなに油断していた末の結果であろうと、私のプライドが許さない。
イタチくんの中忍昇格は、確か10歳。単純な年齢による比較ならば、彼女はイタチくんすら上回るスピードで成長していることになる。早熟さだけなら、恐らく全忍の中でもトップクラス……。
それだけじゃない。彼女はこの若さで、少なくとも1つ新術を開発しているという。しかもその新術は私との模擬戦で本命に使用できるレベルの実用性を誇る術だ。
そんな忍、私は今まで聞いたことがない。
何でもかんでも若さで比べるのは早計だとは分かってはいる。彼女は極端に早熟なだけで、伸び代がこのまま続くのかは分からない。だが、若さが1つの指標となることには間違いがないのだ。そしてその指標だけで言えば、彼女の才能は私を優に越えている!
当たりだ。間違いなく。しかも大当たりだ。
思わぬ収穫に私は興奮を押さえつつ、休憩に丁度良い木陰に着地する。
「それじゃあ、ひとまずここで休憩しましょうか。私としては、アナタの生い立ちとか、何か暇潰しになる話を聞かせて欲しいところ──」
私は中腰に座りながら、周囲の警戒を行い、そのついでに多由也に語りかけようとする。しかしその時、
ピク……、と。肌に風向きの変わる気配を感じた。これは……。
「追っ手ですね」
中腰の姿勢で地面に指を当て、多由也が言う。
そう。これは、忍の気配だ。しかも複数。明らかにこちらへと向かってきている。
「足音から見て……。4、5、……6人。
「随分反応が早いわね。もう追っ手が来るなんて」
「私のいた小隊は伝令役でしたから、連絡が途切れたのを不審に思った他の小隊が、死体でも見つけたのでしょう」
「ああ。連絡補佐……」
少し考えれば予想できる事態だったか。しかしまあ、追っ手が来ているというなら返り討ちにすれば良いだけの話。草隠れは人員不足だ。追っ手に出した者達が帰ってこなければ、迂闊に増援部隊は出してこなくなるだろう。その間に国境を越えれば、安全は保証される。
「それじゃあ、さっさと片付けましょうか」
私がウエストバックからクナイを取り出すと、右手に笛を持った多由也が、左手をこちらに向けて私を押し止める。
「いえ。私が招き入れた事態ですので。ここは私が」
「一人でやれるの?」
私の質問に、多由也は少し目を閉じて考えるような仕種をすると、目を開けて首肯する。
「追っ手の人員は把握していますので、可能かと。大蛇丸様はここで休憩なさっていてください」
休憩していろと言われても、多由也が戦う姿を間近で観察する機会がせっかく訪れたのだ。この私がただ座して待っていられるはずがない。
「なら私は、多由也の戦いを見物させてもらうとするわね」
「……眠くなっても知りませんよ」
少し仏頂面を見せながらも別段止めることもなく、多由也は木の上に飛び上がる。私が後から付いていくと、早速敵を見つけたらしく、笛の音が森に響き渡る。私は影に隠れて、多由也の戦闘を見守ることにした。
私の時に見せたものとは違う曲だ。先程の曲が聴く者を眠りに誘う優しいものだったのに対して、今度の曲には、聴く者を一撃で昏倒させるような激しい攻撃性がある。一瞬意識が遠退くが、素早くしっかりと解呪すれば、問題なく意識は保てる。
成る程。私との戦闘時に奏でた曲は、本命を準備するためにチャクラをおさえめにしたものだったのか。それに対し、今奏でている曲は単体で決めに行けるだけの威力を持った攻撃というわけだ。私相手にはチャクラの無駄遣いだが、下忍・中忍相手ならば有効な一手となるだろう。
曲調が変わる。今度の曲は一音一音をしっかりと押し込むような雄大で力強い曲調だ。
すると、一撃で昏倒させられた四人の下忍が、意識を失ったまま立ち上がる。
意識の無い人間を操る音楽。面白い! そういうものもあるのか!
多由也が奏でる笛の音に合わせて草隠れの下忍が動き、クナイを構え、意識を朦朧とさせながらも幻術に抵抗している中忍に襲いかかる。
中忍も抵抗するが、朦朧とした意識で行う抵抗など子どもの癇癪と同じだ。操り人形達の持つクナイによって、あっという間に首を掻き斬られる。
四人が操られ、一人が死亡。残りは一人。
「クソ! 貴様! こんな術を隠していたのか!!」
忍者刀で、襲いかかる下忍二人を袈裟斬りにした眼帯の男が多由也に怒鳴りかかる。中々様になった剣術だ。あれはおそらく……。
「ええ。まあ。こんな術の一つでも隠し持ってないと生き残れなかったものですから。アイラ上忍」
草隠れの上忍。恐らくこれまでの三つの小隊全体を管理していた任務の司令塔。
普通なら、今の多由也に勝てる相手ではない筈だけれど……。
「……少し有用だからと身分を与えてやれば、孤児の分際でつけあがりおって……。卑怯にも同志を背後から射殺し里抜けか? 忍の世界で同胞殺しと抜け忍がどれ程の重罪か分かっているんだろうな」
「生憎、里で忍としての教育なんて受けたことの無い身の上ですので。というか、アイラ上忍。今あなた、部下を二人ほど袈裟斬りにしませんでしたっけ?」
ブチリ……、血管の切れる音が聞こえた。多由也ったら、随分と嫌味と挑発の切れ味が鋭いのね。おかしくって吹き出してしまいそうになる。どうやらあの上忍、多由也とそれなりに因縁があるらしいわね。直属の上司。いや、ひょっとするとそれ以上?
カリ……と、多由也が何かを口に含む。あれは兵糧丸かしら? どうやら、消費したチャクラを回復させようとしているらしい。
「もういい。由也。貴様は何も言うな。死人がものを言うのは道理から外れるからな」
「勝手に人様を殺してんじゃねーよボケカス黙んのはテメーだ。それにウチは、もう由也なんて呼び捨てにされるよーな貧弱女じゃねェよ」
バチリ……。と、上忍の持つ忍者刀から稲妻が漏れる。
雷遁の性質変化。それにチャクラ刀か。
雷遁の使い手はそのほとんどが優れた瞬身の使い手だ。多由也と上忍の間には少し距離があるが、それでも、そのくらいの距離なら一瞬で詰められかねないわよ?
先に動いたのは多由也だ。笛を吹き下忍の一人を操る。
下忍はクナイを構えたまま上忍の正面に躍り出る。上忍はチャクラ刀を無造作に振り上げ、振り下ろされるクナイに合わせた。
ジジ……と、金属の焼き切れる音がして、クナイが両断され、そのまま下忍の首が飛ぶ。そして、下忍の首から下が木の枝から落ちると同時に、上忍が高速で動く。真っ直ぐに、多由也に向けて刀を突き込む!
しかし多由也は、自分の前に既に最後の下忍を移動させていた。クナイを構える下忍が上忍を待ち構え、多由也はその背後で笛を奏で続ける。
「甘い!」
だが、上忍はそのまま下忍に構わず真っ直ぐに突っ込んだ。下忍の壁がそのスピードに反応できない内に、下忍ごとチャクラ刀を多由也に突き刺す!
「ぐッ……うううぅぅぅゥゥゥ!!!」
多由也は身を捩って、辛うじてチャクラ刀の直撃を免れるも完全に避けきることが出来ず、脇腹に裂傷を受ける。
一先ず致命傷は免れたものの、上忍の攻撃がこれで終わるとは思えない。あのスピードで連続攻撃されれば、間違いなく多由也は攻撃を受けきれずに死ぬだろう。
少し手助けしましょうか……。
「身体が……。動かん……」
上忍が言う。そうだ。上忍の言う通り、身体が動かない。
ジャラ……。と、何時の間にか、私と上忍の身体全体に何本もの鎖が巻き付いて全身を縛り付けている。私と上忍は地に膝をついて、腕を磔にされた状態で動けなくなっている!
森の木々は消え失せ、空には赤い暗雲がたちこめ、地面には血のような濁った液体が満遍なく浸されている。
これは……幻術……!?
急いで解呪しようとするが、指がうまく動かせず、印を結ぶことができない。かと言って、印を用いないチャクラ制御では、この幻術を解くことができない!
一体何なの!? これは!!
「何だ! これは!」
上忍が叫ぶ。
「ハァ……。ハァ……。これはな……『魔笛・夢幻音鎖』っつーんだよ。ゼェ……。会得難易度Bクラス……。今のウチじゃあ……一度使えば動けなくなっちまうような高等忍術だが……。同時に……、オマエ程度に解ける幻術でもねーんだよ……。アイラ上忍」
脇腹を押さえ息も絶え絶えになりながら、多由也は嗤う。
その瞳に、復讐者特有の暗い炎を纏わせて。
フ────ッ! と、多由也は一度天を仰ぎ、息を長く吐いて調子を整える。
「は、あぁ……。やっと。やっとだよ。父さん。母さん。やっと私は、
「なんの……ことだ……」
天を仰いだまま喋る多由也に、上忍が疑問の声をあげる。
多由也は、眼球だけを上忍の方に向けると、語る。
「忘れるわけがねェ。忘れるわけがねェンだよ。アイラ上忍。二年前のことは。いきなり故郷が火の海に包まれて。何が何だか分からない内に両親が光り輝く刀に切り伏せられたウチの人生最悪の瞬間はよぉ。なァ、オマエならその光景がちったぁ理解できるだろ?草笛の里襲撃作戦実行部隊隊長、しまのアイラ!」
「きさま……まさか……。草笛一族の……」
「そうだ。アンタ等草隠れには結局名前しか名乗ってなかったからな。アンタ達にとってのウチはただの哀れな孤児の一人に過ぎなかっただろうさ。両親もいない。自分の姓も分からない哀れな哀れな小さなクソガキだ。使い捨てても何ら問題ない奴隷の
「だ……、だが、俺は、お前に目をかけて、保護してやった……。その恩を……仇で返すのか!」
「ああ……そうだな。アンタがロリコンで助かったぜ。ちょっと愛想をふるったら簡単に昇進させてくれたんだから。感謝してもしたりないよ。……何が「5年後が楽しみだ」……だ。5年も待ってられるか。こっちは今すぐブチ殺したくてしょうがねェんだっつーの!」
そう言って、多由也は太ももにつけたケースからクナイを取り出す。
「いつかアンタを殺してやろうと、せっせと起爆札を貯めてきたことを思うとそっちで殺してやりたい気持ちも大きいんだがな。まァ、でも、
きっと今、多由也は幻術世界の外でも、同じようにクナイを構えているのだろう。
『魔笛・夢幻音鎖』。幻術世界の中ですら敵を縛り、その抵抗を許さないある種の究極幻術。
素晴らしい。本当に素晴らしい術だ。何より多由也。
「ま、待て──! 分かった! 何でもする! 何でもするから命だけは―」
「じゃあ死ね。この、ゲスチンヤロー」
赤黒い幻術世界の中心で、復讐の美しい炎を燦然と輝かせる世界の支配者。その姿は、まるで鎌を持つ死の神と見紛うばかりで……。
多由也は、その鎌を振り下ろした。
「ほんっっっっっとおおおおおおおにっっ!! 申し訳ありませんでしたぁ──────!!」
深々と、地面にめり込むんじゃないかと思うくらいにそれはもう見事な土下座を敢行した多由也に、私は思わず苦笑する。
「調子に乗って周りを省みずに、まさか大蛇丸様まで幻術に巻き込んでしまうなんて!! このお詫びは如何様にも!! ですので! ですのでどうか命だけは助けてください! 何でもしますから!!!!」
うーん。さっきまではあんなに美しい姿を私に見せつけてくれたのに、これじゃあ、見る影もないわね。
「立ちなさい。多由也。アナタはこの私を幻術に嵌めてみせたことを誇りこそすれ、卑下する必要など微塵もないのよ。むしろそうしてアナタがアナタを卑下することによって、私の立場は更に惨めなものになってしまうでしょうね」
「す……すいません!!」
ビンッ! と、土下座の姿勢から一転して多由也は直立する。どう人体を動かしたら一息にそんなことができるのか少し興味が湧いたが、多分多由也自身説明できないでしょうし、そこは置いておきましょう。
それよりもまずは、多由也の手当ての方が先でしょうしね。
「そんなことより、ほら。傷を見せなさい。今の無理な動きのせいで更に開いたんじゃないの? 脇腹の刀傷」
「そう言えばそんなものも……イタタタタ! 痛い痛い痛い!!!」
多由也が脇腹を押さえて踞る。どうやら今まで傷の痛みを認識していなかったらしい。叫びだしたのも束の間、多由也は直ぐに意識を手放してしまう。
アドレナリンの出すぎね。どれだけ興奮してたんだか……。
復讐には興味ないなんて言ってたくせに。本当、どこまでも面白い子。
よくよく感知してみればこの子、チャクラがほとんど底をついてる。これでは生命エネルギーが不足して出血量によってはポックリ死んでしまうかもしれない。
私の弟子になろうって子がその日の内にお陀仏とかジョークとしては三日は笑ってられるわね。
笑い死んでしまうかもしれないわ。
だけど今回ばかりは、三日で収まってしまうジョークのためにこの子を死なせるわけにはいかないでしょう。私も死ぬわけにはいかないし。
なんせ、この子の才能は私以上。私以上にこの世界を見通せるかもしれない可能性をここで摘んでしまっては、探求者として恥さらしになってしまう。
何より、この子の身体はもしかすると、
フフ……。その身体。変な傷跡を残しちゃダメよ? アナタの身体は一つしかないんだから。大事に使わなきゃね?
とは言っても、私はそこまで医療忍術が得意な訳じゃない。傷口は塞ぐとしても、最終的にはカブトに任せなければならない。
だから私にできるのは一先ず彼女の生命エネルギーを底上げしてあげることだけだ。
アナタに、私のとっておきを授けてあげましょう。
私のお気に入りの証。天の呪印。
気に入ってくれると嬉しいのだけれど。
私は舌にチャクラを溜め、ぐったりと気を失っている多由也を抱きかかえ、その白く細い首筋に、優しく牙を突き立てた。
▼次回へ続く。
大蛇丸のやることなすことって、なんか全部エロい気がするのは私だけですかね。とりあえず俺達の多由也ちゃんを汚すんじゃねえ男ども(怒)!そんな第三話でした。楽しんでくだされば幸いです。
前書きの一言に対する自問自答。
「概念。」
……次回をお楽しみください。
と、いうわけで皆さんご一緒に。せーの、
「はい、エドテン」