前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。 作:N-SUGAR
ここで自分に向けて一言。
「書いたら見直せ」
「お前たち。こんなところで何してるんだ?」
本日二度目の重吾の言葉。何が起こっているのか分からずフリーズしている君麻呂をよそに、私は、今度は最初からニッコリと笑みを作って応える。
「どうしたの? 重吾。そんなに息を荒げて」
「息を荒げてって⋯⋯。いきなりお前たちがいなくなったから、オレが兄貴に頼まれて探しに来たんじゃないか! 今日は祭りの日だって言っただろう!」
「知ってるよ。今日は注連縄祭の日でしょう?」
「そうだよ! わかってるじゃないか! ほら、行くぞお前達」
重吾が手を差し伸べて、私達を祭りの準備へと誘う。私は仰向けに寝そべった格好からその手を取って、至極穏やかに宣言した。
「だが、断る♡」
そのままグイッと重吾の腕を引くと、合気下げの要領で重吾を転ばし、その反動で起き上がる。
「よし。行くぞ君麻呂」
「え? あ、あぁ」
私が君麻呂を呼びながら走り出すと、一瞬の間を空けた後、君麻呂も私の後を追って走り出した。そのまま洞窟の外に出ると、チャクラを足に溜めて、それを放出し、瞬身でさっさと重吾の前から姿を消してしまう。「おい!? お前たちどこに行くんだ!?」と喚く重吾の声も、一瞬で小さくなって、聞こえなくなる。
そのまま一息に里の反対側に広がる森まで走り抜けると、私は君麻呂に合図を送ってようやくそこで足を止めた。そのすぐ隣に、君麻呂が立ち止まる。
「ふぅ。最初と打って変わって、随分と乱暴に事を運ぶね。もう擬態はいいのかい?」
「まぁ取り敢えず、今回は。な」
私はキョロキョロとあたりを見回しながら応える。⋯⋯ちっ。前回の時間軸であれだけ放っておいても寄ってきた連中が、今に限って見当たらない。
「今回。ね。まぁ、いい加減、この試練のルールはボクも分かってきたよ。アレだろ? 鬼童丸がいつもやってるヤツだ」
「あぁ。テレビゲームな。お前、意外と他の奴らの趣味とか把握してんだな」
残機制どころか、おそらく無限コンティニューの死にゲーの予感がプンプンするが、この場合、ゲームのジャンルは何なのだろう? アクション? RPG? それともミステリか?
「ボクは興味ないけど、この前多由也が鬼童丸に借りたやつを幾つかやっていただろう?」
「あぁ。なんか名作だってやつを何個か手慰みにな。UIがクソすぎてすぐにやめちまったが」
NARUTOの世界は江戸時代みたいな文化と昭和から平成初期くらいの機械文明が混在する不思議な世界観だ。そんな世界観が生み出すテレビーゲームってどんなもんなのだろうかと気になって、ちょっと前に鬼童丸の部屋から無理やりゲーム機を強奪してきたことがあった。その時にやった、侍が主人公のマリオもどきと、忍者が主人公のストリートファイターもどき。あと、なぜか口寄せ動物が主人公のドラクエもどきは、どれもパチモン臭が臭すぎた上に、普通にもどきじゃない方をやりたくなる感じのクオリティだったので、すぐに飽きてしまった。
「死んだら最初の時間と位置に戻されて、達成条件か失敗条件が満たされるまで延々と同じことが繰り返される。クリアまでに何度も死ぬことが想定される死に戻りの試練。だろう? それ故に、多由也は今回慎重さをかなぐり捨てている」
どんなに不自然な行動をして里の住人から怪しまれたところで、どうせ死に戻れば元に戻るから。
君麻呂の考察を聞いて、私は肩をすくめ無言の肯定を行う。まったくもってその通り。さすがの理解力だ。話が早くて非常に助かる。
「死に戻りを前提条件にできるなら、普段は取れないような不用意な行動にも意味がある。死に戻りの利点は、行動に対する慎重さをかなぐり捨てられるところだ。細かな確認作業にすら命を懸けられる」
『敵』はいる。確実に。前回の周回では何もできずに死んだ私だが、この試練においてはそれが確信できただけでも収穫はあったと言える。ならば次に確認すべきは、その『敵』の明確な正体だ。予想はある。だが確信はないから、確信を得たい。
「とはいえ、死に戻りを前提にしていると言っても素直に死んでやる気は微塵もねー。擬態に重きを置かないのは単純に意味が薄いからで、スピード勝負をしないと状況が不利になる一方だと思ったからだ。今回の周回では、祭りの時まで待つつもりはない。さっさと敵の正体を確認して、可能ならさっさと殺す」
「『敵』の正体か。しかし、多由也もさっき言っていただろう? この里は侵入も潜伏も難しいって。実際、里の住人は重吾を含め全員が感知タイプだった。それは、前回の最後で確認できたことだろう? だったら、『敵』は祭りのあの瞬間に、突然現れたんだと考えるべきじゃないか?」
確かに君麻呂の推測にも一理ある。この里での潜伏は不可能に近い。少なくとも私や君麻呂では、この里で隠れ潜むことはできないだろう。正直私は『敵』の潜伏手段については確信を得られるほどの見当がついていない。もしかしたらというのは勿論あるが、それこそ推測の域をでない。最後、敵が襲撃してきた際に聞こえた口寄せらしき音からしても、『敵』の大部分は、あの時あの瞬間に呼び出されたと見るべきだろう。
しかし、口寄せで『敵』が現れたというのなら少なくとも、その口寄せを行った一人は、確実に先に里に潜入していなければならない筈である。
そして、その『敵』の潜入手段には、1つだけ心当たりがある。こちらも確信を得られるほどの見当ではないが、その心当たりがもし当たっていたなら、同時に潜伏手段にも確信が得られる。
音隠れの多由也になってから得られた私の武器の大半が失われた現状、しかしそれでも残っている数少ない武器が、知識力と情報力だ。私が異世界転生者で、この世界のかなり広範囲の知識を持っていること。そして、転生したこの世界で、千手扉間による薫陶を受けていること。この二点において、私は確実にゲス仙女のゲスな思惑を越えられる筈なのだ。故に、その分だけ私は死に戻りをショートカットできると信じている。
だからこそ私は、あらゆる折衝を省いて、その手段の痕跡をさっきから探していたのだが⋯⋯。
「あ、いた」
私はようやく目的のものを君麻呂の首筋に見つける。
「君麻呂。そこ、動くなよ」
「え?」
私は素早く君麻呂の懐に潜り込み、それが反応するよりも素早く、君麻呂の首筋から目的のものをつまみ上げる。
「それは、⋯⋯蚊?」
「そうだな。蚊だな」
私はつまみ上げたそれをまじまじと観察する。多少デカいが、普通の蚊とあまり見分けはつかない。昆虫の専門家とかだったらまた違ったのかもしれないが、昆虫博士どころか、どちらかといえば虫は苦手な部類に入る私では蚊の種類なんてのは知ったことではない。
だが、問題なのはこの蚊の種類ではない。この、
「あの蚊から目を離すなよ君麻呂。追いかけるぞ」
私の言葉に君麻呂は頷き、二人、一匹の虫を追いかけて森へと入って行く。私は虫を目と耳で追いながら、何時だか扉間様から教わった、忍術講座を思い出していた。
「忍びの隠れ里に潜入することは決して容易ではない。なぜだか分かるか?」
「忍びの隠れ里には、基本的に探知結界が周囲に張り巡らされているからですね。規定の手順を踏まずに侵入した者がいたら、すぐにそれが結界の観測者にバレてしまう」
扉間様は実践的な訓練ももちろん行うが、どちらかといえば座学に割く時間が長めなタイプの指導者だ。音隠れの里のはずれ、人気のない森のなかで、わざわざ何処から持ってきたのか机と黒板まで並べて、忍術や戦術に関する座学やシミュレーションを行う。
「その通りだ。隠れ里の探知結界の種類は様々だが、例えば木ノ葉の場合は、チャクラに反応する結界とチャクラ感知を行う術者を組み合わせることで、不審な侵入者を判別している。里に登録されていなかったり、逆に
扉間様は机の上に円形の簡易的な模型を置き、その周囲に、球状の小さな結界を作る。私はふむ。と考える。
里の外周結界。ぶっちゃけ、作中で何度かしれっと破られているザルもいいところな探知結界である。サスケ奪還編の音の四人衆然り、里帰りしたイタチと、それに付き添っていた鬼鮫しかり。どうして破られたのかなんかさすがに知らないが、まァ、音の四人衆は中忍試験の時になんやかんやで登録されていたのが見逃されていたと想像することはできる。うちはイタチも裏事情から考えると、登録が解除されておらず普通に木ノ葉の里に入れても別におかしくは無い。だが、干柿鬼鮫は⋯⋯。
「はい。質問です」
「許可する」
「木ノ葉の外周結界には、結界を無効化するパスワード的なものは設定されていますか?」
「設定されている。木ノ葉の門を守る門番は、その暗号を使って正規の入場者を結界に登録し、侵入者と認識させないようにしているのだ」
成る程。謎が解けた。つまり干柿鬼鮫は、木ノ葉の探知結界の暗号を知っていたうちはイタチと共に入ることで、結界を無効化していたのか。つまるところ、木ノ葉の者に協力者がいるか、木ノ葉の者を利用するかのどちらかで、あの結界は無効化できるわけだ。なら、答えは一つだろう。
「予め木ノ葉の忍を捕らえておいて、操るなり暗号を聞き出すなりしてから、その暗号を使って侵入する。が、正攻法だと思われます」
「正しい。では、暗号を知る木ノ葉の者を捕らえられなかった。あるいは、そもそも里の外にそのような者がいなかった場合は?」
質問に答えられても、すぐに条件が上乗せされる。考え出した答えが常に達成できるとは限らない。現実を見据えて、二の矢三の矢を番えなければ
気づかれる前提で、想定外の戦力を送り込む手段ならば存在する。ペイン六道の木ノ葉襲撃時のように、一人が侵入し、口寄せすればいいのだ。それならば、一人の潜入失敗で、残りの潜入は隠すことができる。とはいえ、これでは今回の答えにならないだろう。だが、
侵入者といえば、九尾事件や、うちは族滅の際のうちはオビト。アイツの潜入手段も、どうせお得意の神威でのすり抜けだろうしな。
「はい。質問です」
「許可する」
「木ノ葉の外周結界は、チャクラのみを感知の対象としていますか?」
「その通りだ。的をチャクラに絞らなければ、飛んでくる鳥や羽虫の全てに結界が反応してしまうことになる。これでは監視者の負担が大きくなりすぎる。アレはあくまでも、不審な忍の者を探知するための結界システムだからな」
ならば、話は簡単だ。
「飛雷神の術を使えば簡単です。マーキングを仕込んだ何かを外から投げ入れて、そこに避雷針でワープする。これで、バレずに潜入は完了します」
「正しい。だが、貴様はまだ飛雷神の術を使えない」
にべもない。私が使えなくとも、私の味方が使えるんだから良いじゃないか。それはアレか? お前もさっさと飛雷神くらい使えるようになれと、そう言っているのか? そんなん私だって使えるようになりたいわ。汎用性を売りにしている扉間様の術の中でも、アレは飛び抜けて難易度が高すぎる。
「まぁ、だが、及第点にはしておくか。仲間を使うというのも、忍としては大事な一条件だ。自分に足りないものは他で補うしか無い。勿論、仲間の手助けが貰えない場合も想定しておくことは必要だがな」
扉間様は余計な一言を加えながら、しかし私の答えに及第点を出してくれた。それでもやはり一言余計なので、私は素直に喜べない。
「あのー。じゃあ、模範解答はなんなんです?」
「ん? 簡単だ。チャクラを枯渇させればいい」
えー⋯⋯。まさかの力技⋯⋯。てか、そんなことしたら死ぬんじゃ⋯⋯。
「別に全てを全て枯渇させる必要はない。野生の鳥や虫にも僅かながらチャクラはあるからな。というか、生きとし生けるものは皆、何かしらチャクラを持っている。忍者はそれを不自然に練り込んでいるから結界に反応してしまうのだ。この結界は正確には、『一定以上のチャクラを持つものに反応する結界』というわけだ。ならば、不自然にならない程度にチャクラを枯渇させれば潜入は可能だし、里の内部でチャクラを回復させても、それをピンポイントで見つける手段は里には存在しない」
まぁ、そりゃあそうなんだろうが、なんというか
「地味な答えっすね」
「忍び仕事は本来地味なものだ。他に手段がないなら、地味な答えを出すしかない。そして、地味で結構。忍が目立っていいことなど何もないのだからな。勿論何の条件もつけなければ方法なんてものは幾らでもある。例えば──」
そうして扉間様が戦術演習の度に挙げ連ねる『例えば』は、まさしく重箱の隅をつつくという言葉がふさわしいほどの裏技の連続になる。そこまで重箱の隅をつついて掘り返したらもう残り物なんて何もない。そんなところまでつつき出す。だから、当然、そんな『例えば』は、今回みたいな場合にも有効だった。
「──動物を使う。これは、どんな忍びの隠れ里を相手にしても共通して有効な潜入手段だ」
森の中を小さな羽虫一匹追いかけながら、私は君麻呂に語る。受け売りの知識を、さも自分の手柄のように。
「里の守りってのは、基本的に人間相手に行うものだからな。動物はその対象から外されていることが案外多い。特にチャクラをあまり持たない一般動物なんて、いちいち警戒していられないからな。そんな奴らを先に潜入させて、その動物を目印に逆口寄せを行うのが、最も対策の行いにくい隠れ里への潜入手段になる」
そうして私は、話しながら思い出す。木ノ葉隠れの里に存在する、最も潜入に適した生物を扱う秘伝忍術の一族を。
「
扉間様は、忍びの里潜入シミュレーションの『例えば』の一例として、その一族の持つ特異な蟲についてを私に語って聞かせた。
「飼い慣らした吸輪蟲をばらまき里に潜入させ、その里の忍から少量ずつチャクラを吸い取る。そして、束ねたチャクラで術者を口寄せし、その後は感知妨害用
かの千手扉間をしてこの高評価。流石は有能すぎてサスケ奪還編からハブられたと噂の、油女シノが所属する油女一族である。
そう。油女一族。蟲を操る秘伝忍術を扱う、
「──つまり、この蚊がその吸輪蟲だとすれば、今まで問題視していたこの里への潜入、潜伏問題に説明がつくってわけかい?」
「ああ」
君麻呂の質問に、私は受け売りの文句を思い出しながら答える。
「田心姫の幻術結界は、あくまでも人間用だ。この里の人間が森の恵みを糧に小動物たちと触れ合いながら生活している時点で、動物は幻術に迷わずこの里にやってくることができているわけだからな。蟲なんか、尚更だ。そもそも幻術にかかるような生き物なのかすら疑問だろう」
そうして一匹でも里に侵入できれば、その情報を下に何匹もの蟲が里に侵入できるようになる。それを繰り返すことで、仲秋にかけての蚊の大量発生なんていう、まぁ、何年かに一度はあるかもしれない程度の不自然な現象が、祭りの日に重なったわけだ。意図的に。
そして、龍地洞の一族の高すぎる感知能力も、蟲に紛れてしまえば上手く機能しなくなる。なにせ、体内にまで無数の蟲を飼っている変態一族だ。こうも大量発生した蟲が例えば一箇所に集まっていたら、その中に体内にまで虫を蠢かせる変態が一匹混じっていたって、それはもうただの蟲の集団にしか見えないだろう。潜入・潜伏において、木ノ葉で右に出る者は居ないと扉間様に言わしめた能力は、確かに流石だとしか言いようがない。
そんな油女一族がこんな秘境の里で一族族滅なんていう汚れ仕事に精を出している。その動機は果たして何なのか。ここは残された数少ない疑問点であるが、まぁ、そこに説明がつけられないこともない。完全なる予想ではあるが、NARUTOファンの私からすれば、まぁいつものことかと流してしまいそうな、しかし本当にそうだったらマジでドン引きも視野に入る、そんな説明が。
そして、犯人が油女一族だというのなら、もう一つ、説明のつく事柄がある。
君麻呂の死因だ。
「敵が木ノ葉隠れの忍だと仮定すると、後の推測は簡単だ。触っただけで骨の鎧に身を包んでいる君麻呂が死に至るなんてトンデモな能力者なんざ、木ノ葉隠れ広しといえど、現状2人くらいしか存在しないんだよ」
「⋯⋯逆に、2人は存在するのか。ボクの屍骨脈をひと撫でで死滅させる能力者が」
君麻呂が引き気味に口角を痙攣させながら遠い目をしている。現状音隠れ最強の血継限界持ちとしては、確かにプライドを潰される話だろうし、衝撃は強いだろう。
まぁ、仕方ねーよ。どんな忍術にも相性ってやつがあるからな。大体そもそも2人いるなんて言ったが、その2人の能力者は同じ能力を共有しているだけだから、実質君麻呂の骨の防御が通じない近接忍術の使い手は1人みたいなもんなんだ。強大な木ノ葉の里において、1種類しか相性の悪い能力者がいないんなら、それはむしろ賞賛されてしかるべき事柄だろう。とはいえそんな慰めをかけたところで君麻呂が納得するはずもないから、私は特にそこでコメントを加えるようなことはしなかった。
その代わり、私は右手で合図を送り、君麻呂を制止する。
私と君麻呂は、同時にピタリと立ち止まった。森の奥深く、木漏れ日のなかに湧き出る小さな泉。紅葉した落ち葉がハラハラと舞い落ち、ある一点を除いてとても幻想的な場所だった。
しかし、その唯一の欠点──大量に蠢く羽虫の大群が、その幻想的な光景を致命的なまでに台無しにしていた。木漏れ日も木々の彩りも何もかもを遮って、その一区画だけが、夜のような真黒に染まっている。
「⋯⋯君麻呂の屍骨脈を乗り越えて、触っただけで死に至らしめる能力者は、木ノ葉の里には現在2人しかいない。だが、そのうち1人は現時点では若すぎて、こういった任務に就いて働いているとは考えにくい」
私達の存在を確認したのか、蠢く羽虫達の反応に変化が生じる。統率された群れが一斉に集まり、その形が人型に纏まっていく。
「そして、残る一人はその父親。油女一族の中でも秘伝の忍術を扱う、特定の毒虫に抗体を持った特殊体質の蟲使い」
凝縮された羽虫たちが、ブワッと、一瞬にして三々五々に散らばっていく。その中から現れた人物の姿は見覚えがなく、そして同時に見覚えがある。
白いフード付きのマントを目深に被り、その奥に覗く顔は、これまた白い犬の面で隠されている。一切の個人情報を隠されたその姿は、逆に、その人物の身分を顕にしている。
ある程度その正体に察しは付けていたが、これで確定的になった。私はこの人物を見たことがないし。詳細も知らないし、ましてや顔貌なんて分かるわけもない。
だが、状況と忍術とその格好で、およそ殆どが理解できてしまった。憶測が見事に当たった形になる。どうしよう。実はちょっとだけ、NARUTOファンとしては嬉しさもある。まさかこの人に会えるとは思ってなかったから、知る機会があるというのは素直に嬉しい。しかし反面、素直に喜べない要素もある。
相手が敵だから。ではなく、この目の前の状況が伝えてくる情報に、辟易としてしまうから喜べない。いやはや。まさか息子だけでなく親まで
「まさか、アンタが暗部の、それも最暗部の『根』なんかに所属しているとは思わなかったよ。なぁ?
「⋯⋯⋯⋯。何故、知っている」
くぐもった声が仮面の下から呻くように聞こえる。肯定の声だ。つまりこの瞬間、私の予測の正しさが、こうして証明されてしまったわけだ。
油女シクロ。五影会談編に登場した暗部の『根』に所属する油女一族、油女トルネの父親とされる人物。原作ではその名前しか登場せず、トルネの持つ特殊能力の出自として示された設定上だけの登場人物である。私が転生した時点で既に死んでいたであろう人物だったため、まさかお目にかかれるとは思ってもみなかった。
驚きだ。そして、呆れ果てる。
目の前の彼にではなく、その直属の上司に、嘆息する。
正当な理由すらない一族族滅なんていう汚れ仕事が命じられる。そんな可能性がある暗部なんて、木ノ葉隠れには一つしか存在しない。暗部の『根』の者。木ノ葉隠れの闇を一手に引き受ける、必要悪にして絶対悪の、薄汚れた悲劇の温床。
そして、その『根』を取りまとめる男もまた、木ノ葉の闇の象徴だ。
⋯⋯あの野郎。あのクソゲスボンクラ耄碌爺!
──
一体お前は、幾つ悲劇を追加で量産すれば気が済むんだ!?
原作と、そしてアニオリの悲劇。その大半の原因に一枚噛んでる正真正銘のゲスチン野郎。頭に劣等感と猜疑心と卑劣を詰め込むだけ詰め込んで、信念でコーティングして押し固めてしまった救いようのない産業廃棄物!
あの野郎! 重吾の里の壊滅にまで一枚噛んでやがったのか!!
本当に何処にでも出てくるなあのゲリグソ老害!
まだ出会ってすらいないのに溢れ出るこの存在感。最早軽蔑を通り越して賞賛すら送りたくなってくる。
いちNARUTOファンとしては、なんだいつものダンゾウ黒幕パターンかと流してしまうくらいの当然といえば当然の帰結。傍から見ている分には一種のネタとして昇華できるくらいのことでしかない。しかし、今の私は曲がりなりにも扉間様の弟子の一人である。妹弟子としては、兄弟子のそんな無様を黙って見過ごすわけにはいかない。あの扉間様から訓戒を受けておいて、よくもまァここまでゲスに成り下がれるものである。どんな理由でそうしているのか知らないが、何処とも関わらず平和に暮らしているだけの龍地洞の一族を族滅させていい正当な理由なんて有ろう筈もないだろうに。どういう了見なんだ目の前のカス虫どもは。
たとえ最早手遅れなことなのだとしても、一旦ぶち殺してやらないと気がすまない。
まさかここに来て試練に対するモチベーションが増加するとは思わなかったが、しかしモチベーションが高いに越したことはないので、これは結果オーライなのか?
「君麻呂。アイツの手に直接触れるなよ。できれば身体にも触れるな。攻撃手段は中・遠距離を主体に、直接攻撃をするにしても、必ず武器を通せ。骨を触れさせるときは、身体から切除した骨を使うことを意識しろ」
「了解」
「あまりにも、知りすぎているな。到底見逃すことなどできない程に」
ゆらりと、油女シクロは身体を前傾姿勢に傾けながら、両手の手袋を脱ぎ捨てる。そこから顕になるのは、皮膚の全体を紫に染めた毒手。
油女シクロの秘伝忍術。その身体に宿したナノサイズの毒虫による、接触感染の細胞壊死。
皮膚だろうが筋肉だろうが骨だろうが、触れた先から細胞を食い荒らし、相手を死に追いやる。毒虫の使役ゆえに印を必要とせず、予備動作も無く、ただ相手に触れるだけで決着がつく。
チート性能ここに極まれりといった感じだが、しかし、相手が近接格闘を主体にすると分かっていれば、こちらは遠距離と武器攻撃に徹するだけ。攻略法は、しっかり存在している。
私は着物の袖の下から笛を取り出し口に構え、君麻呂は私の前に躍り出て、両手首から骨の短剣を作り構える。いつも通りの手順。相手に音幻術を浴びせて行動不能にし、君麻呂がとどめを刺す!
前回の最後、恐らく奴は蟲を隠れ蓑に住人の集まる大広間の屋根の上まで侵入し、そこから口寄せの術で仲間を呼び出し、一気に襲撃をかけたのだと思われる。相手が木ノ葉隠れだと分かってしまえば、他のメンバーにもある程度想像はつく、それが誰かなんてのは知ったことではないが、その能力くらいは見当がつく。当然のように、厄介極まる連中ばかりが思い浮かぶ。
ならば、そんな厄介な増援が来る前に根本を断ち切って、そもそも侵入不可能な元の龍地洞の状態に戻すのが、この場での最善行動だ。流石に潜入と潜伏のプロフェッショナルが、増援にそう何人もいるとは考えにくい。だからこその、スピード勝負。
早期に勝負を仕掛け、早期に決着する。これに勝る解決策はない。
たとえ敵が何者だろうと。秒でボコってゲームセットだ!!
私は笛を吹こうとして指穴に指を置き、唄口に口を添えて息を吸い込み──
「がぼっ!!??」
「げほっ! ガハッ!! い⋯⋯いつの間に!?」
「何時でもどこでも、だ。なぜなら、蟲なんてものはどんな隙間にも常にもぐり潜んでいるものだからだ」
す⋯⋯。と、指先を向けられ目線を落とすと、笛の穴という穴から、羽虫がうぞうぞと這い出てくる姿が目に入ってしまう。
きっ⋯⋯⋯キッッッッッッッショ!!!!!!
本日のトラウマ更新確定。天井に圧死させられた時の百倍超えの精神ダメージが心にグサリと突きささる。
違うじゃん! なんかこれは違うじゃん! 生きるとか死ぬとか、そういう恐怖とはいつも戦ってきたからある程度慣れすら感じてるけれど! これはもうそういうのとは別次元の何かじゃん!!
こんなの反則じゃん!?
「多由也!?」
不味い。あまりの動揺に、心の中で口調がカンクロウになってしまっている。油女一族の前で口調がカンクロウなんて、そんなの最早負けフラグだ!
現実逃避で思考が彼方に飛んでしまっている。集中力が乱され、まともに戦える精神状態じゃない。
そしてそんな精神状態のお荷物を抱えて勝てるほど、相手は生易しい相手でもない。思わずコンマ六秒フリーズしてしまった私と、そんな私に気を回す君麻呂に生じた一瞬の隙。これを逃すほど、油女シクロは忍として未熟ではない。
「ぐっ⋯⋯!?」
私が笛を手放し、反射的に火遁の印を結んで蟲を焼き払おうとしたその瞬間、その手に大量の羽虫が纏わりつく。構わず印を結ぼうとするも、この蟲の塊、妙に硬い。
「秘伝・蟲縄」
気付けば私と君麻呂の身体には、縄状の蟲の集団が全身に纏わりついていた。蟲の一体一体は粒なんだからと力で押し退けようとするが、全くびくともしない。まさかコイツら⋯⋯。
「チャクラでお互いの身体を結合させて、本当の縄みてーになってやがんのか!?」
「ご明察だ。この蟲達は貴様らの里の住人たちからたっぷりとチャクラを吸い取っている。そう簡単に千切れるとは思わないことだ」
言いながら、油女シクロはゆったりとした動きで私達に近付き、そのまま両の手で私達の首を掴み上げる。それだけで、全てが終わる。
鈍い痛みとともに首元から痺れが広がり、呼吸が止まり、血流が停止する。頭のすべての思考が止まり、全身の力が抜け、意識がゆっくりと暗転し、────
────洞窟の硬い地面で、目を覚ます。
「あー⋯⋯⋯これは──」
私は未だに重く感じる頭を地面の上で横に向け、隣で同様に目を覚まし、天井をぼんやりと見つめる君麻呂の姿を確認する。
そして、とうとう私は言った。
「悪い君麻呂。ウチ、本気で心折れそう」
「頑張ろう。アレは、多分何度もぶつかって慣れるしかないやつだ」
君麻呂は、心臓まで骨でできているんじゃないかってくらい大抵のことには動じない。部屋にゴキブリが湧いても気にしないし、私が悲鳴を上げて早く潰せと喚いても不思議そうな顔をしながら、自分で潰せばいいじゃんなどと宣う共感性皆無のノンデリ野郎だ。そんな君麻呂ですら、先程体験した未知の集合体的恐怖体験は流石に効いたらしく、額に脂汗が浮かんでいる。
油女シクロ。この試練において、倒せるとか倒せないとかそれ以前の問題として、最初にして最大の障壁と言っていい強敵だった。
主に、心の平穏的に。
あとがきのコーナー
ギャア!蟲だ!駆逐しなきゃ!私のおすすめはアースのコバエがホイホイですね。あれめっちゃコバエ捕れるんですよねー。
え?そんな話してない?生ゴミは定期的に捨てましょうって話じゃない?そっかー。
冗談はともかく、あーあ。黒幕が判明してしまったなぁ。いつもの黒幕がなぁ!というわけで、登場してないし、今回はまだ登場しないであろういつもの黒幕こと志村ダンゾウさんに代わりまして、その部下役に特別ゲスト、油女シクロさんにご登壇いただきました。わー。誰ー?カガミさんやトルネさんはまだ作中顔も出てるし台詞もあるけど、君台詞すら無いじゃないか!本当に名前だけのキャラじゃん!逆に珍しいよ君!作者はなんか覚えてたけど、多由也もよく覚えてたな!そんなキャラなんで設定は盛りに盛れそうですね。やったぜ。呪印もエドテンも起爆札も、チャクラを多量に消費する術も使えない六歳多由也ちゃんと、屍骨脈でまぁある程度戦えるかなくらいの七歳君麻呂は、彼相手にどう戦っていくのでしょうか!敵が彼だけとも限らないのに!お楽しみに!
前書きの一言に対する自問自答。
「えっとぉ、読み返すとかぁ、そういうの苦手でぇ。間違い探しもそんなに得意じゃなくてぇ⋯⋯がんばりまーす」