前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。   作:N-SUGAR

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いよいよ、『音隠れの多由也』としての、主人公の転生ライフが幕を開けます。多由也の本番はここからですね。お楽しみください。

ここで自分に向けて一言。

「復讐に興味ないとは一体…」




第四話 弟子としての生活

 私が大蛇丸様の弟子となり、音隠れの忍びになってから一ヶ月が経った。

 

 うっかり草隠れの追っ手を一人で引き受けてしまい、死にかけてしまった時はもう駄目かもしれないと思ったが、すんでのところで大蛇丸様の寛大さに命を救われた。

 

 仇討ちに興味なんてないですよーって顔してたけど、まあ、出来なきゃ出来ないでも別にいいかなと思ってただけで、出来るんだったらそりゃあするよね。復讐。後ろに大蛇丸様も付いてたし、あそこまで整った環境はなかなか無い。

 

 仇の方からのこのこ追ってきてくれやがるんだから、それはもうぶち殺しますよ。

 

 草笛の里の両親は転生者である私にとって唯一の両親でこそなかったが、それでも愛情を持って私を育ててくれた大切な人達だった。それこそ、私を命懸けで守ってくれたくらいには。

 

 だから私は、お父さんとお母さんの願いの分もこの世界を生き抜く義務があるし、私の大切な人達を奪った人間には報いを与えたいと思うのが、人情ってもんだ。

 

 復讐とは己の心に1つの折り合いをつけるための儀式である。

 

 憎しみや復讐が虚しいことを教えてくれる人生の教科書である『NARUTO』には申し訳ないが、復讐によって心が洗われ、憎しみの連鎖を断ち切れる私みたいなクズも世の中にはいるのだ。

 

 あの上忍を殺すことで、私はなんの悔いもなく「草笛 由也」から「音隠れの多由也」へと生まれ変わることができた。

 

 ならば、あれはあれで良かったのだ。きっぱりと割りきって、私は新しい道に進む。

 

 

 

 ……まぁ、結果、私の首筋に原作のサスケくんと全く同じような呪印が施されてしまったことに関しては全然良くはなかったんだけど……。

 

 呪印。私が大蛇丸様から最も施されたくなかった最悪の鎖。

 

 大蛇丸様の話では私の命を救うために必要な処置だったらしいのだが、絶対他の手段があっただろと思わず心の中で毒づいた。命を救ってもらっておいて酷い物言いだが、それだけショックが大きかったのだ。

 

 この呪印の効果如何によっては、私の計画すべてが断ち消えになること請け合い。特大のバッドエンドフラグ第一号だ。

 

 それこそ、命に関わるのである。

 

 この一ヶ月というもの、朝起きて鏡を見るたびに憂鬱になる。首筋を擦って、ひょっとしたら消えたりしないかな……なんて思ったりするが、くっきり浮き出た三つ巴紋は全く薄まる気配がない。

 

 せめてサスケくんに何もなかったのと同じように、この呪印に私を縛り付けるような効果が何もないことを祈りたいが、呪印の効果について根掘り葉掘り質問したらそれはそれで怪しまれそうだしなぁ……。ああ。考えてたらまた憂鬱になってきた。結果的に呪印を施されることになると分かっていたなら、無理に復讐しようなんて思わなかったのになぁ……。

 

 

 

 結局未練たらたらではあるものの、私は大蛇丸様に弟子入りし、無事に約30日も生存したわけだ。

 

 朝、鏡の前で私はこの一ヶ月間を振り返る。

 

 色んなことがあったと言えば色んなことがあったが、なにか劇的な出来事があったかと言えば別段そんなこともなかった。呪印でちょっと死にかけたくらいだ。

 

 ……それも大分ヤバイか。

 

 まあとは言え、ヤバかったのは本当にそれくらいだ。他に大きく変わったことがあるとすれば、比較的規則正しい生活と十分な栄養が行き渡るようになったので顔の肌艶が若干良くなったのと、あとは、普段からの「大蛇丸様」呼びがクセになったせいで、心の中でも無意識に様を付けて彼の事を呼んでしまうようになったことくらいか。

 

 ボロを出さなくて済むという点ではこの方がいいと思うが、着々と調教されているという意味ではあんまり嬉しくないかもしれない。

 

 調教。そう。まさに調教だ。

 

 大蛇丸様の弟子に対する接し方は、その一言に尽きる。

 

 別に鞭で打たれるとか、暴力を振るわれるとか、そんなことは一切無い。むしろ大蛇丸様の教えは丁寧で、優しい。

 

 ただなんと言うのだろうか。指導の仕方が妙にねっとりしていて粘着質なのだ。蛇が絡み付くような、うっかり油断すると心も身体も丸呑みにされて支配されそうになるような……。

 

 音隠れを纏めるリーダーとしてのカリスマ性も合わさって、そりゃあ、大蛇丸様に心酔する部下も多くなるだろうなと納得する。あらゆる意味でいやらしい奴だ。じわじわと心に侵入してきて、着々とこちらを調教してくる。

 

 その上あの野郎、事あるごとにべたべたと身体を触ってきて気持ち悪いことこの上無い。修行で成果を出して褒められるときも、子ども相手なんだから普通に頭を撫でればいいのに、わざわざ頬を撫でて来やがるのだ。頬から首筋、うなじから鎖骨にかけてねっとりと愛撫されて、その度一々背筋が凍る。オネエキャラだからって何しても許されると思うなよクソジジイ! ロリコン認定してやろうか!? 

 

 ……しかし何より恐ろしいのは、大蛇丸様の過剰スキンシップに、だんだんそこまで嫌悪感を感じなくなってきている私がいるということだ。

 

 というかむしろ……。

 

 ぶるっ! と、背筋が寒くなった。ありえないありえない! 

 

 あのセクハラオネエはいつか殺す! 

 

 パン! と、両手で勢いよく頬を叩き、喝を入れる。

 

 大蛇丸様に流されるな。服従はしても平伏はするな。私が生き残るためには彼を出し抜き、乗り越えなければならないのだ。

 

 大蛇丸様を攻略するのは私であって、私が大蛇丸様に攻略されるようなことはあってはならない! 

 

 ……様付けが定着しちゃってる時点で既に攻略されているようなもん? 

 

 認めない。認めないぞそんなもの! 

 

「よし!」

 

 弱気な自分を振り払い、気合いを入れ直す。私は寝間着からラフな忍装束に着替え、何のために着けているのかよくわからないぶっとい腰帯を巻く。そういえばよく覚えてないが、原作の多由也も、頭に額当てを被っていることを除けば似たような服装をしていた記憶がある。原作で着けていた変な被り物は何時着けることになるのか知らないが、私のファッションセンスとは合わないから何ならこのままでいい気もする。だが、何か実戦でアレがないと困ることになるのなら、やはりそのうち被ることになるのだろう。ともかく、着替えが終わった私は、割り当てられた自室を出て大蛇丸様の部屋に向かう。

 

「おや、おはよう。多由也」

 

「おはようございます。カブトさん」

 

 部屋に向かう途中、大蛇丸様の部下である薬師カブトとすれ違い、挨拶を交わす。彼は身分こそ大蛇丸様の一部下ではあるが、忠実な右腕として、殆ど私の兄弟子のような立場にある。医療忍術に精通していて、大蛇丸様の健康管理を行っているのも、私の刀傷を傷跡一つ残さずに治してくれたのも全て彼だ。音隠れにおける彼の功績は計り知れない。しかもその声はあの神奈延年様(声優)と全く同じだ。会話するだけで耳が幸せになること請け合いである。

 

 しかし残念ながら彼は現在木ノ葉隠れの里で長期潜入任務に就いているため、音隠れの里で会う機会はあまり無い。今日すれ違ったのも、たまたま報告の時期と被っただけの偶然に過ぎない。寂しい話だ。

 

 大蛇丸様の部屋の前に立ち、ドアを三回ノックする。

 

「入りなさい」

 

 中から大蛇丸様がこちらに呼び掛け、私はドアを開け、部屋に入る。

 

「いらっしゃい。多由也。準備は十全に済ませてきたかしら?」

 

 薄暗い部屋。窓はなく、周りは石の壁で覆われている。微かに灯る灯籠の明かりが、石の玉座に座る青白い大蛇丸様の相貌を映し出す。

 

「はい。用意していただいたものを、しっかりと」

 

 大蛇丸様に返答すると、彼は頷き、立ち上がる。

 

「いいでしょう。今日は午前を修行の、午後を研究の時間にすることにするわ。付いてらっしゃい」

 

 そう言って部屋を出る大蛇丸様に、私は後から付いていく。

 

 暫く付いていくと、大蛇丸様は、ある扉の前で立ち止まった。

 

 第一八実験場。

 

 プレートには、そう刻まれていた。

 

 ゴゴ……と、重い石の扉が開き、私と大蛇丸様は実験場の中に入る。

 

 私が扉の直ぐ脇にある壁の窪みにチャクラを流すと、ボッ! と、部屋全体に蝋燭の火が灯る。

 

 立方体の、殺風景な石の部屋。広さはちょっとした体育館くらいはある。私達が入った扉以外にも、四方それぞれに扉がある。

 

「今日の修行は実戦形式にしましょう。軽く準備運動をしたら、対戦相手を用意してあげる。貴方はその対戦相手を倒しなさい」

 

 実戦訓練。今日が初めての事ではない。大蛇丸様が術を研究し、私に伝授。そして実戦という風に、基本的な修行の流れをこの一ヶ月で固めたのだ。実戦訓練は、これで三度目になる。

 

 相手の忍びはいつも大体中忍以上で、その上大蛇丸様は絶対に何らかの制限を加えてくるからやり辛いことこの上無い。大体、なんの遮蔽物もない密閉空間で戦闘させられること自体が中・遠距離タイプの私からすればハンデのようなものなのだ。

 

「制限は、どのように」

 

「そうね。今回の相手ならさしずめ術の限定といったところかしら。先週以降に私が教えた三つの術。そろそろ使えるでしょ? 使える忍術はその3つ。この条件下で、三人倒しなさい」

 

 三対一か……。多対一は私の得意分野だが、術が制限されるとなると話が別だ。というか、一週間前に教えられたばかりの術をもう使えると思われてること自体が心外である。まあ、最初から似たような要求ばかりされてきたから、そりゃ最低限使えるようにはしてるけども? 実戦で使えるかとなると、怪しいを通り越して「後もう一週間待って!」と叫びたくなる。

 

 だけど、私の修行に否やは無い。私の計画のためにも、私は大蛇丸様の期待に応え続けなければならない。

 

 私は軽く柔軟体操をして、大蛇丸様に指示を仰ぐ。

 

「何時でもいいですよ。さっさと始めましょう」

 

「クク……。その余裕、何時まで保てるのかしらね」

 

 何を言ってるんだろうこの人は。私が余裕だった時など二年前辺りから一度もないのだが。

 

 大蛇丸様が手を叩くと、私達が入ってきた扉を除く三つの扉が開く。その奥から、一人ずつ、忍の影が現れる。

 

 小さな影だった。まるで、私とそう変わらない子どものような……。

 

「紹介するわ。右から順に、次郎坊、鬼童丸、そして左近。アナタと同い年の、私の可愛いモルモット達よ」

 

 影から歩いてきた三人が、蝋燭の灯りに照らされその姿を現す。

 

 大柄体型のデブ。次郎坊。

 

 褐色肌に腕が六本生えたクモ男。鬼童丸。

 

 首の後ろからコブが生えたヒョロヒョロヤロー。左近。

 

 原作では、音の四人衆として多由也と共に登場した音の忍達が、とうとう私の前に現れた。

 

「お前が大蛇丸様のお気に入りってやつか? ただの弱っちいメスにしか見えねーぜよ」

 

「お、おい。女にそういう風に言うのは……」

 

 早速鬼童丸が口を開く。次郎坊が後から何か言うが、ボソボソと小声で聞き取りにくい。

 

 まあ、ガキの戯れ言に一々取り合う必要は感じないが、喧嘩は買ってやった方が向こうも楽だろう。円滑なコミュニケーション術は社会人の嗜みである。

 

「あ? なんで腕が余分に生えてるよーなクソザコ相手にんなこと言われにゃならねーんだボケ。あと、デブの方はもっとハキハキ喋れ。デブならデブらしくどっしり構えられねェのか?」

 

 私の返事に青筋を浮かべる鬼童丸の隣で、左近が笑う。

 

「ヒャハハ! オーケー。お前がムカつくヤツだってことは理解した」

 

「ええと、左近だっけ? お前に至ってはその瘤どうした? 新手のガンならさっさと切除してもらえ」

 

「ああ。ウン。成る程ね。殺す」

 

 うん。グッドコミュニケーション。やはり音隠れの里はこうでなくては。

 

「フフ。盛り上がっているところ悪けれど、早速始めさせてもらうわよ? 左近、鬼童丸、次郎坊。三人がかりでこの多由也を倒すことができれば、ご褒美に今欲しいものを1つあげるわ。多由也はこの三人を倒したら……、まァ特に何もないけど、取り敢えず撫でてあげるわ」

 

 何故寒気を催すご褒美のために私がコイツら三人と戦わなければならないのか……。

 

 まぁ私自身の修行なんだから、そんなものか。

 

 大蛇丸様が戦闘開始の合図を出すとまず動いたのは、意外にも次郎坊だった。

 

「『土遁結界・土牢堂無』!!」

 

 ボコリ、と、私の周りの地面が迫り上がり、私を半円状の土壁の中に閉じ込める。

 

 ふうん。この歳で既に土遁の性質変化を身に付けているのか。原作からして伸び代無さそうなのに、この時点でそれ使えたらこの後何を学ぶんだよ。

 

 とはいえ私は非力なので、原作の描写より小さいとはいえこの分厚さの、しかもチャクラの膜がある再生機能付きの土壁を破壊することはできない。

 

「できれば女を傷つけたくはない。そのままチャクラが切れるまで閉じ込められていてくれ」

 

 外から次郎坊の声が届く。なんだあのデブ。デブの癖に私を心配しているのか? 

 

 まあ、ただのデブなら別に構わないが、ザコのデブに心配される謂れは私にはない。

 

「黙れデブ。声がこっちに届いてる時点で穴しかねーだろこの結界」

 

 私は笛を咥えて、新しく覚えた幻術を奏で始める。

 

『魔笛・心想操響曲』

 

「!? ぐ、あ……」

 

 外がどうなっているのかは見えないが、私の術が掛かっているのなら、次郎坊は土壁から手を離しているはずである。そして、両手が離れた土牢堂無に、もはやチャクラの流れは無い。『土遁結界・土牢堂無』は対象から常にチャクラを吸収し強度を高める凶悪な術だが、術者が土壁に常に触れ続けていないとチャクラの吸収ができないのだ。

 

 そして、チャクラの供給さえ止まってしまえば……。

 

「オラッ!」

 

 ボロボロと、土牢堂無の土壁に穴が穿たれる。私の回し蹴りで、土壁が壊れたのだ。非力な私の蹴りでは簡単には壊れないような厚さはあったが、

 

「呪印でパワーを底上げすれば、これくらいの土塊どうってことねェ」

 

 ゾワゾワと、私の身体に呪印の痣が広がっていく。

 

 チャクラ消費が激しすぎてまだ状態2になることはできないが、流石に天の呪印ともなると、状態1でもそこそこのパワーが出る。

 

 ……あんまり呪印に頼りすぎるのも考えものではあるが……。

 

「あらあら、もう呪印をそこまで使いこなすようになってたなんて。もっと早く私に教えてくれれば良いのに」

 

 大蛇丸様が後ろで何かを言っているようだが、無視だ無視。大体、音隠れに来た最初の数日は、呪印を抑え込むだけで大分苦労したのだ。少しでもチャクラを練ると途端に活気付いて手がつけられなくなる。呪印にチャクラが渡った瞬間周囲から自然エネルギーを吸収し始めるのだ。ちゃんとした修行もなしに強制的に疑似仙人モードにさせられるとか大蛇丸様は私を自滅させたいのかと、割と本気で絶望した。私が封印の秘術に詳しくなかったら今頃普通に死んでるからな! 反省しろよマジで! 

 

 とは、もちろん言えないので、私は一人で呪印を使いこなすための訓練に励んだ。

 

 草笛一族の封印秘術で呪印を押さえ込んでいるのを発見した大蛇丸様は、丸薬を用いて呪印に耐えられる身体に変質させようと提案したが、私はそれを断った。

 

 そもそもその丸薬が不完全だから、呪印でチャクラを大量に消費してしまうのだ。

 

 漫画で読んだ知識と、実際に体験した呪印の性質から、私は一週間かけて呪印の仕組みを解析した。

 

 そもそも呪印とは、自然エネルギーを吸収する体質を持つ重吾の細胞から作られたものだ。つまり、呪印はそのままだと、妙木山秘伝のガマ油と同じ効果があるということになる。

 

 自然エネルギーを取り込めば、当然身体中のエネルギー総量が跳ね上がる。取り込まれていく自然エネルギーの量をコントロールできなければ、エネルギーは暴走し、身体がみるみるうちに異形のものへと変化する。最終的には膨大なエネルギーに押し潰されて何らかの形で死に至る。

 

 仙人モードになるための仙術チャクラというのは、精神・身体の二つのエネルギーを練り込んで作る普通のチャクラに、さらに自然エネルギーを材料に加えたもののことを指す。材料が一つ多い分、同じ分量で作ればより多いチャクラを生み出すことが可能になる。そのため取り込む自然エネルギーの量をコントロールすることで、本来以上のチャクラを作り出すことが可能になるのだ。

 

 それに引き換え、呪印は自然エネルギーを取り込むだけ取り込んで仙術チャクラを練るという過程をまったく行わないため、コントロールできたとしても仙人の力は発揮できない。ただ余分なエネルギーが暴走して身体全体の機能を一時的に高めるだけのものになってしまう。自然エネルギーの暴走は常に抑え込む必要があるから、押さえ込むためにチャクラは余計に消費される。効率の悪い劣化仙人化こそが、呪印の効能なのだ。

 

 呪印を安定化させる薬というのは、呪印の発動条件であるチャクラをうっかり呪印に流してしまい、自然エネルギーの吸収が抑えきれない身体を、「意識しないと呪印にチャクラが流せず、かつ、チャクラを消費して、吸収した自然エネルギーを安全に暴走させる」ことができる身体に作り替えるというものだ。これでは根本的な解決になっていないし、不完全なパワーアップとそれに釣り合わない代償を伴う結果になる。

 

 すなわち、呪印を使いこなすこととは、「普段は呪印を封印しつつ、使いたいときに封印を解いて自然エネルギーを吸収し、それを素に仙術チャクラを生成。必要なチャクラを作ったら再び呪印を封印する」という一連の動作を完璧にこなせるようになることに他ならない。これなら、多少自然エネルギーを余計に取り込んでも少しの異形化で形態は止まるし、チャクラを余計に消費するどころか、むしろ使えるチャクラを増やすことが可能になる。

 

 状態2には決してなってはいけないのが、本来の仙人モードというやつなのだ。

 

 まあそんなこと言っても、私は仙術チャクラの練り方を知らないから、こんなんどうやっても不可能なんだけどね! 

 

 だから今の私にできるのは封印の秘術を用いて呪印のオン・オフを明確にし、取り込んだ自然エネルギーをチャクラで抑えつつ、身体機能を向上させるという通常呪印プレイだけだ。

 

 それなら、態々封印の秘術なんて使わなくても素直に薬を飲んどけばいい話じゃないかって? 

 

 だって、あの薬、一回死なないと効果を発揮できないレベルの劇薬だよ? 

 

 どんな副作用があるか分かったもんじゃないよ? 

 

 危なっかしくて、とてもじゃないが私は飲む気にならなかった。

 

 自分の所有する安全な秘術で同じ効果を期待できるなら、多少チャクラを余分に消費してでも私はそっちを選ぶ。

 

 そんなわけで、今の私は呪印の状態1をまあまあ使いこなすことが出来るわけだ。

 

「お。初手でゲームオーバーかよと思っちまったが、流石に大蛇丸様のお気に入りだけあってそこそこやるぜよ。だが! これはどうだ!?」

 

 土牢堂無から脱出した私を見て、鬼童丸が口の中でチャクラを練り始める。

 

 あれは確か……。

 

「『忍法・蜘蛛縛り』!!」

 

 鬼童丸の口から蜘蛛の巣の形をした網が吐き出される。あの網を構成する糸には常にチャクラが流れていて、一度標的を捕らえたら粘ついて決して離さないし、鋭い刃をもってしても容易に断ち斬ることは敵わない。

 

 しかし、私が笛を吹くと蜘蛛の巣の軌道上に次郎坊が立ち塞がった。

 

『魔笛・心想操響曲』

 

 大蛇丸様と私の研究により、私が今まで使えなかった草笛一族の秘伝忍術を実用に落とし込んだ新術だ。

 

 先月私は草隠れの下忍に対し、強めの『魔笛・夢幻音叉』をかけて眠らせて、『魔笛・失意の舞』という術で身体を操るという戦術を取った。

 

『魔笛・失意の舞』は、幻術で意識を失った者の身体を操る術だ。この術を使用するためには、予め敵を何らかの幻術で眠らせておく必要がある。

 

 それに対し、『魔笛・心想操響曲』は意識のある人間をそのまま操る術だ。この曲を聴いた者は、自分の意識は残したまま、身体の操作権を私に奪われることになる。

 

 この術の良いところは、先月行った手順から手間を一つ減らせることにある。このように一曲かけるだけで、次郎坊の身体は既に私のものになっているというわけだ。

 

 一見メリットしか無い術のようにも見えるが、勿論デメリットもある。意識を奪わないまま操ると、時間とともに段々術の強度が落ちていくのだ。つまり時間とともに幻術返しをされるリスクが高まることになる。

 

 何よりこの術は意識のある者のみを対象とするため、『魔笛・失意の舞』とは逆に対象が意識を失うと、その身体が操れなくなる。

 

 以上の点を踏まえて、私は操った次郎坊を盾代わりに使用する。蜘蛛縛りの術を受けてしまえば、次郎坊にそこから抜け出す手段は無い。

 

 問題は、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「クク……やはり、音で操ってやがったか。甘ェんだよ。その程度の術じゃあ、オレ達は操れねェ」

 

「へえ? カスヤローの割には順応が早いな。まぁ、お前らみてーなガキじゃあ、まだウチの曲を理解するだけの芸術的感性は備わってねーか」

 

「ほざけ!! てめえも同い年だろうが!」

 

「………………」

 

 左近がこちらに駆け出し、鬼童丸は無言で口から蜘蛛糸の束を取り出していく。

 

 二人のその様子から、私は二人が行った私の術への対策を理解する。

 

 鬼童丸は恐らく現在、音を一切聞いていない。彼には蜘蛛粘金という、自身の身体から分泌する体液を硬質化させる術がある。その術で、恐らく鼓膜に硬質化させた蜘蛛粘金の膜を重ねたのだ。そうすることによって、鼓膜はほぼ振動しなくなり、音を内耳に伝えなくて済むようにした。

 

 それに対して、左近の対策の方はもっと単純だ。単純に、幻術返しを行っている。

 

 左近の身体には、右近という名の兄が同居している。普段は左近の身体で眠っている右近だが、左近が幻術に掛かると右近が目を覚まし、幻術返しを左近に施す。片方が眠り片方が起きる。このサイクルを繰り返すことで、右近左近の兄弟は幻術に対し圧倒的な耐性を得るというわけだ。

 

 左近・右近の幻術返しに対抗するには、うちはイタチの『月読』のような、一瞬で莫大な精神負荷を与える幻術か、『魔笛・夢幻音鎖』のような、起きていようが寝ていようが関係なく相手を幻術世界に落とし込む幻術が必要になるが、残念ながら今の私は『魔笛・夢幻音鎖』をルール上封じられている。

 

 私は指定された三つの術だけで、この二人を攻略しなければならないのだ。

 

「多連拳!!」

 

「『忍法・紫炎壁』!!」

 

 私は、こちらに突っ込んでくる左近と私の間に、一枚の壁を作り出す。

 

 この壁は、立方状の結界として繰り出したとき、『忍法・四紫炎陣』と呼ばれる別の術になる。本来は四人で行わなければ繰り出せない術なのだが、限定的に、一枚の壁や、自分だけを守る小結界としてのみ、一人だけでも展開することができる。

 

 木ノ葉隠れの里に代々伝わる結界忍術だが、大蛇丸様が先週、私に授けてくれたのだ。原作では音の四人衆全員でこの結界忍術を使い、木ノ葉崩しの際大蛇丸様と三代目火影のバトルフィールドを作り上げた。

 

 しかし今の私達は敵同士であり、四紫炎陣を使えるのは四人の中でまだ私一人だ。

 

「ぐああああアアアア!!!!!」

 

『四紫炎陣』に触れたものは、その名の通り紫色の炎によって焼かれることになる。それは壁一枚の『紫炎壁』でも同じこと。正面から『紫炎壁』に突っ込んだ左近の身体に、火の手があがる。

 

「何をやっていやがる左近!! このクソが! 熱い! 熱いぞ!」

 

 燃え上がる炎にたまらず、眠っていた右近が飛び出してくる。

 

 だが、今更出てきたところで燃え上がった炎が消えるわけではない。一人で二人ならともかく、二人で一人なんてのは、所詮同じダメージを共有することにしかならないのだ。呪印の状態2になれない今の左近と右近では、二人別れることすら出来はしない。

 

 大体、状態1にすらなれないようじゃ、ここの面子では私の『紫炎壁』を打ち破ることも出来やしないだろう。

 

「少し拍子抜けだが、呪印の無いお前らなんて、そんなもんだろ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 パリン……という軽い音と共に『()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 これは──―鬼童丸の蜘蛛粘金!? 

 

 馬鹿な、いくら鋼のごとく硬質化させた矢だろうと、呪印でパワーを底上げしない限り鬼童丸に私の『紫炎壁』が破れる筈が! 

 

「呪印が使えるのは、何もお前だけの特権じゃねーぜよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()!!」

 

「な……に……!?」

 

 何だそれ!? ()()()()()()()()()()()!! 

 

 ざわざわと、鬼童丸の肌に、呪印の痣が広がっていく。

 

「オメーがどれだけ特別なのか知らねーが。たかだか一ヶ月前にここに来たばかりの新人に、物心ついたときからこの音隠れで闘争を繰り広げてきたオレ様が! そう簡単に手玉にとられると思うな!」

 

 ギリギリギリギリ……。鬼童丸が、口から出した矢を弓につがえて引き絞る。

 

「もう耳栓は外しちまったが、関係はねえよな? 利き手が使えねえんじゃ、ろくに笛も吹けねえだろ」

 

「……舐めるな。ウチくらいの奏者になれば、片手でも────!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ガ──―ッ!!」

 

 左手で構えようとした笛を、取り落とす。

 

 左肩と左手に、同時に矢を受ける。腕が……上がらない! 

 

「さあて、これでお前は何もできないんだよな? 笛が持てないんじゃあ、笛の術は使えねーし、そもそも両手が使えなきゃあ、印も結べねぇしなァ!」

 

 ク……ソ……! 油断した! 三人相手とは言え、9歳のガキ相手に不覚を取るなんて! 

 

「さあて。次はどこを撃ち抜いてやろうか? 足か? 胴か? 頭か? それとも、どこぞのギャルゲーの如く心臓(ハート)でも撃ち抜いてやろうか?」

 

 ギャハハハハハ!! 

 

 と、品の無い声で哄笑を上げる鬼童丸。どうやらお得意の「遊び」が始まったらしい。

 

 鬼童丸はゲーム好きで、面白いと思った相手にすぐに止めは刺さない……ん、だったっけ? 

 

 ああ。本当に、いい性格をしている。

 

 そんなんだから。

 

 ()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()

 

 甲高い高音が、実験場に響き渡る。

 

「は…………!! あ…………!!???」

 

 鬼童丸の笑いが止まる、どころか、()()()()()()()()()()()

 

「はァ……。まったく。大したクソヤローだよお前は。まさかお前ら相手に三つ目の術を使わされることになるとは思わなかった。まあ、三つ目は別に大した術じゃないんだけどな。今、お前を縛っているその術は、『()()()()()』っつーんだけどよ」

 

『金縛りの術』。会得難易度Dランク。下忍レベルの超基本忍術だ。もっとも、基本的な術であるだけに、その効果は術者の力量によって大きく左右される。

 

 天の呪印込みの私だから、今回はギリギリ鬼童丸を縛ることができたといった辺りだろう。相手が上忍以上なら、まず効かなかった。

 

「な……! か…………!」

 

「ああ、ああ。何言ってるんだかさっぱりわかんねーが、何を言いたいのかは分かる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、だろう?」

 

 ひた……ひた……と、一歩ずつ鬼童丸に近づきながら、私は話す。

 

「ウチの里に伝わる秘伝忍術。『魔笛の術』っつーのはな、「笛を奏でて発動する忍術」()()()()()()()()。より正確には「()()()()()()()()()()()()()()()()()」なのさ」

 

「…………………………!!」

 

「ウチの魔笛の術は、笛を吹くだけで発動できるから印を必要としない忍術だと誤認されがちだが、ウチの術にも、実は印は必要なのさ。ただその印が、()()()()()()()()()()()

 

 まあ、詰まるところ私の一族は、笛の音を使った秘術を持つ一族ではなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という話なのだが、きっとこの事実は、私が里の秘術をほとんどすべて記憶していなければ気付けなかった事だっただろう。こいつは、大蛇丸様が私の覚えている限りの秘術を解析し、研究し、分析して、ようやく違和感に気付けた、そういうレベルの隠された秘奥だったのだ。

 

「そこまで分かれば、何も使う笛は、指を使わなきゃ奏でられないような笛じゃなくても別に良いとは思わないか?」

 

 私は唇をすぼめ、ピュウ、と、実験場によく響く高音を奏でる。

 

 口笛。流石にいつも使ってる笛と比べると、吹き慣れていないということもあってか、チャクラの出力が大分限定されてしまい、あまり難しい術は繰り出せない。繰り出せるものと言えば、せいぜい下忍が余裕で使えるような忍術くらいのものだった。

 

「さて、と」

 

 私は腰を屈め、頭を下げて、太もものケースから口を使い、クナイを取り出す。

 

 私はそのまま顔を移動させ、クナイの先を鬼童丸の首元に触れて、言った。

 

「今からウチはテメーをクナイでぶっ刺す訳だけど、足か、胴か、頭か心臓(ハート)。どこを刺されるのがいい? 好きな場所を選べよ」

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「よくやったわね多由也。今日も、アナタは期待以上の成果を見せてくれたわ」

 

 大蛇丸様が頬を撫でる。抵抗しようにも、今の私の両手両腕には包帯が巻かれていて、とても動かせそうにない。

 

 実験場から少し離れた場所にある治療室。戦闘が終了して応急処置を終えた私は、大蛇丸様と修行の振り返りをしていた。

 

「毎度のことながら、見苦しい戦闘だったと自覚しています。お褒めに与るほどのことでは……」

 

「いいえ。今回の実戦内容は、「普段使わない限られた忍術のみを使用する限定状況下における模擬戦闘」という項目でね。雲隠れの里の暗部採用試験の試験項目になっている内容なのよ。実際の試験の場合はもうちょっと相手の戦力が上方修正されるけど、三人の標的を全員倒したアナタは、まず間違いなく合格できる成績だったわ」

 

 そんなもんやらされてたのか私は……。もういい加減慣れてきたけど、それでも改めて聞かされるとキッツイな……。

 

 その後も、一頻り私の首元を撫で回した大蛇丸様が、ぽつりと呟く。

 

「うん。良い顔色になってきたわ」

 

 ……顔色? 

 

「……あの、大蛇丸様」

 

「何?」

 

 この際だ。私は、少し勇気を出して、聞いてみることにした。

 

「大蛇丸様はなんで、褒めるときにこう……、頬や首元を撫でるんですか?」

 

「それはアナタ」

 

 大蛇丸様は私の決死の疑問に対して、さも当然であるかのように答える。

 

「訓練したあとのアナタ、いつも決まって疲れて顔色が悪くなってるんですもの。顔の下辺りのツボを押すとね、顔の水回りが良くなるのよ」

 

 顔の下辺りのツボ? 顔の水回り? 

 

 ちょっと何を言っているのか良く分からない。良く分からないが、私の現代知識と照らし合わせてみるとそれは……。

 

「り、リンパマッサージ……」

 

 嘘だろ。私、常日頃から大蛇丸様に顔のスキンケアをされていたのか? 

 

 もしかして最近肌艶が以前に比べて良くなってきたのって、大蛇丸様のスキンケアの成果なのか? 

 

「あの、えっと、なんでそんなこと」

 

「そんなことって。若いからって油断してると、肌艶なんて直ぐになくなってしまうのよ? アナタは若すぎるくらいだけど、過酷な生活送ってたらどうなるかなんて分からないでしょう? 一つしかない身体なんだから。せめて大事に扱わないと」

 

 なんでこの人は、そんな親戚のおばさんみたいなことを言っているのだろう。

 

 私の身体がどうとか、そんなに心配することか? 

 

 何だか良く分からない、得体の知れないものを見たような気がして背筋を凍らせていると、部屋の扉が開いてカブトさんがなにやら急いだ様子で中に入ってきた。

 

「大蛇丸様! これを!」

 

 そして、カブトさんは大蛇丸様に、一本の巻物を渡す。

 

 大蛇丸様は直ぐに巻物を開いて、その内容に目を通した。

 

 ゾクッ……。身体全体に悪寒が走る。先程の意味不明な戯れ言の比ではない。大蛇丸様の目付きが、明らかに変わった。

 

 目を血走らせ、極上の獲物を目の前にしたかのような舌舐めずりをして、大蛇丸様は、言葉を漏らす。

 

 

 

「イタチくんが……。暁に…………!!」

 

 

 

 

 ▼次回につづく。

 




忍術三つのみ。ということでしたが、呪印は忍術にはカウントしません。あれはたぶん仙術に近いものだと私は思っているので。また、呪印と仙術チャクラの関係性、特性については、そのほとんどを憶測で語っていますので、もしどこかにちゃんとした説明があった場合は、こちらはオリジナル設定ということでご了承いただければ幸いです。え?そんなことよりももっとおかしなところがあったって?特に大蛇丸付近で?な、なんのことでしょう。私には良くわかりませんね(汗)。誰だって、自分の身体には気を使うものじゃないです?(問題発言)

前書きの一言に対する自問自答

「復讐には興味がない(やらないとは言ってない)」
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