前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。 作:N-SUGAR
ここで自分に向けて一言、と、言いたいですが、一言じゃなかったのであとがきに載せますね。
それでは第五話、お楽しみください。
左近、鬼童丸、次郎坊との戦闘訓練の後、本来なら、午後のこの時間は大蛇丸様の研究の手伝いをする時間だった。
だが、カブトさんの手で大蛇丸様にもたらされた一報によって、研究どころではなくなってしまった。
うちはイタチの『暁』への加入。
それは、大蛇丸様に全ての予定を返上させるのに十分すぎる情報だった。
「うちは……イタチ」
『NARUTO』ファンなら知らない者はいない。第一部において、『暁』のメンバーとして初めてその姿を現し、みんなの頼れる上忍だったはたけカカシを圧倒してその実力の高さを読者に見せつけた。うちはサスケの実兄にして、自らの一族を滅ぼした、サスケくんの復讐対象。
何より第二部後半において明らかにされた彼の、木ノ葉の里の平和を影から守る偉大なる忍としての姿と、弟を守らんとする愛深き兄としての姿には多くの読者が心打たれたという、NARUTOの影の主役とすら呼べる人物。
若くしてその顔に皺を刻んだ大人びた風貌と、石川英郎様(声優)の普段とギャップの有るクールで落ち着いた声が印象的な、作中屈指のイケメン。
忘れられるはずがない。彼が死に、その本当の姿が語られた当時の衝撃と、穢土転生によって復活した彼の活躍を見たときの興奮は、時を経た今でもありありと思い出せる。
そんな彼の名前が、この世界に転生した私の耳に、他人の口から飛んでくる。
大蛇丸様の漏らした言葉を聞いたときは一瞬衝撃のあまり顔に出そうになったが、済んでのところで何とか堪えた。
多由也である私がその名前に特別な反応を示すのは、あまりにも不自然すぎる。存在すること自体は前々から知っていたはずなのに、いざ少しでも身近にその存在が示唆されると興奮が隠しきれないのは、もはやNARUTOファンとしての業のようなものだろう。
そんな状態で何時までも動揺を隠すのは、土台無理な話だった。
「あら多由也。あなたイタチくんのこと、知ってるの」
衝撃的な一報から数時間、何やら机に向かって一心不乱に書き物をしている大蛇丸様の脇に立つ私は、うっかり呟いてしまった一人言を耳聡くキャッチされ、声をかけられる。
「あ、はい。……先月更新された
「その通り。良く調べてるわね。それは、木ノ葉の里の手配書かしら?」
「確かそうだったと思います。木ノ葉と、あと、その同盟国の砂の手配書に、彼の名前が更新されていました」
私は当たり障りの無い返事をして、大蛇丸様の質問に応じる。まあ、嘘ではないから怪しまれるようなことは何もない。
原作の知ってる名前を探すために、私はよく手配書を確認する。流石大蛇丸様は各地にスパイを送り込んでいるだけあって、ここでは各里に出回る様々な手配書を閲覧することができた。大蛇丸様が積極的にこの手の情報を集めているだけあって、この里は情報の宝庫と言っても過言ではない。
現在の暁のメンバーの名前もちらほらと見ることができたし、勿論大蛇丸様本人の情報もあちこちの手配書に出回っていた。
「クク……。成程ね。相変わらず情報の蒐集に余念がないようで何よりだわ。それで、アナタはそれを見てどう思ったの?」
「どう。とは?」
「アナタはこの一ヶ月。修行の傍ら弟子として私の研究を手伝ってきたでしょう? 何か、思うところが有るんじゃない?」
大蛇丸様の研究。彼が今最も多くの時間を割いて行っているのは、写輪眼の移植に関する研究だった。
写輪眼。うちは一族が持つ血継限界で、三大瞳術の一つとされている、忍の世界でも有数の特殊能力の一つ。
幻術に強く、チャクラを見通し、かつ、一度見た術の性質を理解しコピーする複写能力にも優れるなど、様々な能力を保有し、うちはの血縁の限られた者にのみ発現すると言われている選ばれし力。
基本的にはうちは一族にのみ使用可能とされている瞳術だが、写輪眼を持つ者からその瞳を奪い、移植することによって、うちは一族でない者もその力を受け継ぐことができると言われている。
有名なところでは、千の忍術を操ると言われるコピー忍者のはたけカカシがその代表例だと言えるだろう。写輪眼のはたけカカシと恐れられる彼は、木ノ葉隠れを除く各里の詳細な手配書には、必ずと言っていいほどその名前が登場する。
しかし写輪眼の移植は、その能力を完全なものとして獲得する手段には程遠い。写輪眼の能力は、うちはの血族だからこそ、その力を十全に働かせることができるのだ。それをうちはでない者に移植すれば、様々な劣化が起こることになる。
原作でも、カカシ先生は写輪眼の能力を使うと直ぐにチャクラ切れを起こしてバテてしまっていたし、その能力も十全に使えていたとは言い難かった。
まあ原作最終章で一瞬だけ、作中最強レベルに写輪眼を使いこなしていたシーンがあったが、あれは例外中の例外だろう。滅多なことでは、あんなうちは顔負けのパフォーマンスをうちはの血族以外の者が発揮することなどできはしないのだ。
ましてやうちはの秘奥など、うちは一族以外の者がたとえ写輪眼を持ったとして、発動できる訳がないのである。
万華鏡写輪眼を限定的にとはいえ使いこなせたのは、カカシ先生が写輪眼無しでも天才と呼ばれる凄腕忍者だったからだし、ましてやイザナギだのイザナミだのといったチートに両足ジャンプしたような瞳術が使える道理など、本来決してありはしないのである。
だけど大蛇丸様は、そこで諦めるようなことはしなかった。ついでに共同開発者である志村ダンゾウも、全く諦めるようなことはしなかった。
彼らは、恐らく滅ぼされたうちはの者が持っていたであろう写輪眼を出来る限り回収し、実験体への移植実験を繰り返し、移植された写輪眼のパフォーマンス向上を目指していた。
つい最近まで遅々として進んでいなかったその研究も、大蛇丸様の過去の研究資料を流し読みしていた私がうっかりこぼした、「この、柱間細胞ってやつが余ってるならぶちこめば何とかなるんじゃないっすかね」という一言が切っ掛けで大きな進展を見せてしまった。うっかり言ってしまった瞬間すぐに後悔したが、完全に後の祭りだった。相変わらずこの細胞チートだなぁとかぼんやり考えてたのが完全に裏目に出てしまった訳だ。だけどそのご褒美に、大蛇丸様は私の一族の秘術に関する研究に大きく時間を割いてくれたりもしたので、原作的にはプラマイゼロかなと私は勝手に納得している。
とはいえ、そんなこんなで一定の成果をあげることには成功している写輪眼の移植研究ではあるが、写輪眼の詳しい入手経路とか生前の写輪眼の持ち主のこととか、そこら辺のことは聞いていいのかどうかよく分からなかったので、大蛇丸様との会話では話題にしたことは無かったな。そう言えば。
うちはイタチをどう思う……か。
イケメンだと思う。
なんて答えを返すことは勿論できないので、当たり障りの無いというか、知っている限りの知識を使って有能感溢れる感想を考える。
「……あんな大量の写輪眼がどこからやって来たのかっていう疑問は、とりあえず解消されましたかね」
死体が積み上がってたら、そりゃあさぞかし取り放題だったろう。そんな感情を顔に滲ませながら、取り敢えず言ってみる。
「フフ……。そうね。彼がうちは一族を無造作に打ち捨ててくれたお陰で、私達はああして写輪眼の研究を存分に出来たと言えるわね。ここ数日の研究におけるMVPは確実にアナタだけど、全体のMVPが誰なのかと問われれば、それは彼の方に軍配が上がるでしょう」
イタチさんも、随分と不名誉なMVPに選ばれてしまっているものだなぁ。と、私は心のなかで同情する。まぁイタチさんも私に同情されたからって彼の人生がどうなるわけでもないし、そんなことされても困惑するだけだろうけど。
「多由也。まがりなりにも写輪眼の研究に携わった者として、想像できるでしょう? うちはイタチ。彼が、どれ程の可能性を秘めた存在であるのかということを!」
大蛇丸様は興奮した声で言う。でもなぁ、はしゃいでいるところに水を差すのもなんだけど、私、そういうこと言われるのが一番困るんだよなぁ。
これがファン同士の会話だったら、能力のこととか彼の人間性とか心情とか人間関係とかカップリングとか、そういう深いところに突っ込んで夢中で話すところだけれど、大蛇丸様と私じゃ同じイタチファンでもファンの意味が違うんだもんなぁ。「食べちゃいたいくらい好き」の「食べちゃいたい」がマジもんのEATなんだもん。話合わないし話し合えないんだよなぁ……。
前世のオタク友達を懐かしく思いながら、私は脳内で現在多由也が述べられるだけの回答を組み立てる。
「写輪眼の発現条件が何らかの強い感情の発露であったり、古い文献に書かれているような、『戦争の苛烈な体験などから、一部のうちは一族がただの写輪眼とも違う特種な瞳力に目覚めた』という話が事実であるならば、彼の持つ瞳にそういった能力が宿っている可能性は否定できないと思います。同じ写輪眼を持つ者が大勢、不意を突いたとしても一方的に虐殺されてしまうのには、やはり何らかのカラクリがあるかと」
研究室にあった資料の情報を断片的に繋ぎ合わせながら、原作の事実をベースに仮説という形でそれっぽい言葉を紡ぎ出す。うーむ。我ながら見事なアドリブ能力だ。
有能プレイを楽しみたいなら、複数犯説をどうにかして絞り出してみるのも面白そうだけど、そこまで語ってしまうのはどう考えてもやりすぎだ。
与えられた情報で、与えられた分だけ。仮説を組み立てるにしても、妄想を垂れ流すにしても、根拠を持ってこれるようにしなければ。
「流石に良く分かってるじゃない。ならば、私がこれから何をしたいのかも当然、アナタなら分かるわよね?」
それはもう。爛々と輝く貴方の瞳を見れば一目瞭然ですとも。
「随伴か留守番か。どちらにしても、今後の予定を考え直さなくてはなりませんね」
「任せなさい」
サッ! と、大蛇丸様は筆を走らせると、書き物をしていた巻物を閉じる。
「これから私は『暁』に潜入し、どのような形でもいい。イタチくんの身体を手に入れてくるわ。でも、恐らくそれには何ヵ月、ひょっとしたら何年という時間がかかるでしょう」
「では、その間、私は何をすれば?」
どうか潜入に協力しろなどと言われませんようにと、心中で祈りながら尋ねる。
『暁』のメンバーに興味がないとは言わないが、あんな危険人物共の渦中に首を突っ込んだら、一分と経たずに死ぬ未来しか見えない。
「『暁』への潜入は危険な任務。アナタは優秀だけど、『暁』の相手をするにはまだ早い。あそこのメンバーはどいつもこいつもクセの強いS級犯罪者ばかりだから」
よしよし。どうやら私が巻き込まれることは無さそうだ。ええと、こういうときの受け答えは……。
「……大蛇丸様やうちはイタチのような忍が、他にもいるというのですか? 『暁』とは一体どんな組織なのです?」
「ええ。カブトに調べさせたところによると、私と同レベルか、それ以上の忍もちらほらと見受けられるらしいわね。『暁』は、超A級の危険人物のみを主な構成員とした謎に包まれた組織……。活動内容は傭兵や賞金稼ぎと凡庸だけど、その目的とするところは、残念ながらまだ掴みきれてないわ。潜入は、きっと私自身でなければできないでしょうね」
潜入か……。原作で大蛇丸様がどのように『暁』に入ったのかは知らないが、この分だと、自分から接点を持ちに行ったということになるのだろうか。
「因みに、潜入とは、どのように?」
「実は前々から、カブトが『暁』のメンバーの一人の部下として既に潜入しているのよ。イタチくんの情報も、その伝から渡ってきたものよ。そして先程カブトに、私が『暁』に探りを入れているという情報をそのメンバーに流してもらうよう命令したわ。恐らく、数日としないうちに私に追っ手がかかる」
うわ……。なんという荒業……。
でもそうか。そう言えばカブトさんは原作では、サソリと大蛇丸様の間で二重スパイをしていた記憶がある。この頃には既に、カブトさんはサソリの部下として潜入していたのか。
「そんなことをして、大蛇丸様は大丈夫なのですか!?」
私は心配するふりをして尋ねる。まあ、今更私が大蛇丸様に心配するようなことは何もない。何だったらそこで死んでくれても構わないくらいだ。
どうせ死なないんだろうけど。
「何。私は生き残ることにかけてはそれなりに自信があるからね。うまく交渉して、『暁』のメンバーに迎えて貰うわよ」
うん。知ってる。
信頼はしてないけど、その言葉には嘘も虚飾もないと信用できる。
「そう……ですか……」
だから、私は大人しく引き下がる。あと、やるべき会話は……と、そうそう。
「出発は、いつ頃にされる予定でしょうか」
「今すぐよ」
私の質問の答えは、思ったよりもすぐだった。
大蛇丸様は行動が早い。
「この巻物に、音隠れでやるべきことは大体書き記しておいたわ。アナタはこれを使って部下達に役割を分担させなさい」
大蛇丸様は私に巻物を手渡すと、机を離れ歩き出す。私は慌ててそれに続き部屋を出た。
「アナタの修行は、残念ながら一時中断ね。申し訳ないけど、私のいない間は、自分で修行をこなしてちょうだい。必要なら、ここの実験場と実験体、全部使っても構わないわ。好きにしなさい。その旨は、後で皆に伝えておくから」
まじでか。それは破格の待遇だ。それに私の計画的にも非常に嬉しい。誰からも監視されてなければ、の話だが……。
「とはいえ、定期的にはここに戻ってくるつもりだから、その時に修行の成果を報告してちょうだい」
「わかりました」
素直に返事をする。余計なことは言わない。余計なことを言って、折角の破格の条件を潰されても困る。
さあ、大蛇丸様、遠慮なくお出掛けください。
どんどんアジトの出口へと近づく大蛇丸様の後ろ姿に、私がそう念じていると。
「お待ちください!」
私と大蛇丸様の背後から、私達を引き留める声があった。
やめてくれ。余計なことはするな。
そう思いながら振り返ると、そこには実験服に身を包んだ男がいた。
頭をスキンヘッドにし、何より、まるで妖怪のように、身体のあちこちに眼が生えている。
妖怪百々目鬼のようなその身体は、一つ一つの眼が写輪眼だった。
「うちはイタチと接触すると聞きました! その任務! どうか! この
シン。大蛇丸様の実験体の一人で、あらゆる細胞移植に拒否反応を示さない特種な体質を持つ。
写輪眼移植研究の優秀な被験体だった男だ。
実験をするにつれ、写輪眼を植え付けられ、うちはイタチの木ノ葉での所業に感化されたシンは、いつからかうちはを自称するようになり、うちはイタチに憧れを抱くホモヤローになった。
ある意味大蛇丸様以上にうちはイタチうちはイタチとうるさい男だ。実験中は、完全に戯れ言として聞き流してたので、こいつがイタチについて言及していたという事実をついぞ忘れていた。
「シン……アナタでは……」
大蛇丸様は、少し身体を傾けてシンの方を向く。シンは、更に前のめりになって自らの主張を続ける。
「同じ写輪眼を持つこの私なら! うちはイタチを必ずや説き伏せて見せましょう! 堕落したうちは一族に革命を起こした偉大なるうちはイタチを! 必ず! この音隠れに迎え入れます!」
うーむ。これは酷い熱狂だ。人の話を素直に聞くような感じではない。
大蛇丸様は、少しの間シンを睨むと、短く言う。
「多由也。幻術」
「あ、はい」
両手が使えないので、私は、口笛を奏でる。
「む、う……!?」
『口笛・魔響の術』
不気味な音色で相手の恐怖心につけ込み動きを鈍らせる、初歩的な幻術だ。
ピクピク、と、シンの身体が痙攣し、一人語りが中断される。
「シン。この程度の幻術に惑わされているようでは、アナタがイタチくんの前に立つことはできないわね」
大蛇丸様はシンにそう言い放つと、再び身体の向きをもとに戻し、アジトの出口へと歩を進める。
私はその後ろ姿を追うために、うちはシンを視界から消して、大蛇丸様の後を追いかけた。
「それじゃあ、多由也。留守を任せるわね」
「大蛇丸様こそ、どうか、お気をつけて」
アジトの外。良く晴れた青空の下で、私と大蛇丸様は社交辞令的な別れの挨拶を交わす。
大蛇丸様は、これから『暁』のメンバーと接触し、『暁』のメンバーとして迎え入れられる。それは、確実だ。
そして同時に、いつの日か、うちはイタチの身体を奪おうとイタチに襲い掛かり、一蹴されて帰ってくる。これも、確実だ。
大蛇丸様が帰ってくる時、そこには、今以上にうちはへの執着を滾らせる、粘着の鬼とでも言うべき大蛇丸様がいるのだろう。
そしてその蛇の目は、いつの日か、イタチの弟うちはサスケに向けられるようになる。
ああ、感じる。約束の日が、私の前に迫っているという実感を。
急がなければ。
私が次に王手をかけられる前に、私は逆王手の布石を打っておかなければならない。
恐らくそのためには、大蛇丸様のいない、この空白期間こそが勝負の要となる。
「あ、そうそう」
去り際に、思い出したかのように、大蛇丸様は言った。
「私がいない間は、多由也。何があるか分からないから、自分の命は自分で守りなさいね」
「え?」
私がその言葉の意味を問いただそうとする前に大蛇丸様は森の中へと消え、私は、束の間の自由を手に入れた。
私の心に、特大の不安を残しながら。
私がアジトの中に戻ると、シンがさっきの場所でうなだれていた。
「うちはを……。私が……うちはの再興を……」
ぶつぶつと、たわごとを呟いている。
………………うぜえな。殺そうかな。
おっと、不味い不味い。
音隠れに来てからというもの、どうも過激な思考に磨きがかかってしまったような気がする。周りの連中が過激派過ぎて、二言目には殺すだのぶっ殺すだの言うもんだから、ついつい感化されてしまった。
いけないいけない。私はいたいけな女の子なんだから、もっときれいな言葉遣いを心がけなきゃ。
私がシンを無視して部屋に戻る途中、角を曲がると、偶然そこを通りかかった鬼童丸と出くわした。普通に一人で歩いているところを見るに、どうやら私のぶっ刺したクナイは無事に抜けたらしい。
「おや、多由也チャンじゃねーの。さっきはドーモ。大蛇丸様の後ろに引っ付くお前の仕事はどうしたぜよ? あ、もう大蛇丸様に見放されちゃったんだっけ? 可哀想に。腕も使えないのに大変だな。なんならオレが介護してやろーか? 手取り足取り」
「うるせェよザコ。手取り足取りぶっ殺してやろうか?」
まぁ何事も、なるようにしかならないんだ。私は、私にできる限りのことを頑張ればいい。
私は鬼童丸に頭突きを食らわせるついでに、少し気を楽にして、今後の計画に思考を巡らした。
大蛇丸様が里を出てから、二週間が経った。
両手両腕の包帯も外れ、指も思い通りに動くようになった。
とは言え、暫く笛を吹けていなかったのもまた事実。ブランクが開けば、腕前が鈍るのも道理だ。
「まずは、リハビリだな」
「お、包帯とれて早速修行でもすんのか?」
廊下を歩く私の背後から、左近が声をかけてくる。左近の両隣りには、鬼童丸と次郎坊も並んで付いてきていた。
「いや、お前ら、何でウチの後ろを付いてくるわけ?」
「だからさー。何度も言わせんなっつの。大蛇丸様にお前と一緒にいるよう言われてんだよ。かったるいけど」
「だからそれをウチは聞いてねーっつってんだろゲスチンが」
この二週間というもの、私がどこかにほっつき歩く度に、必ずと言っていいほどこの三人の誰かが付いてくる。
監視のつもりなんだろうか。
するならするで、大蛇丸様も事前に言ってくれりゃいいのに。
大蛇丸様の信用を少しは得られていると思っていた私が甘かったのか? それともただ単に、イタチショックで忘れてただけか?
「多由也。女がそういう言葉遣いはやめた方がいいと……」
「ウルセェ黙れデブ。ハァ……。ウチは監視されんのが嫌いなんだよ。お前らも、好きなことしてた方がよっぽど時間を有意義に使えるんだからそうしろよ」
「監視じゃなくて護衛ぜよ。オレたちの任務はな。それに、お前といると今までより多く経験値を得られる。だから、オレはむしろ好きで付きまとっているぜよ」
「粘着質なのはお前の出す糸だけにしとけよストーカー。……頭痛くなってきた」
これでは私がせっかく建てた計画もろくすっぽ進みやしない。
この二週間、腹いせにこいつらを口笛の術の実験台に使用しまくったが、お返しとばかりに糸で縛られ腹パンされ泥まみれにされた。音隠れの連中は私を療養させる気が微塵もないらしい。
特に鬼童丸のヤローは、私が嫌な顔をするのを見て楽しんでいる気配がある。非常にムカつくことこの上ない。
よし、今日は両手が使えることだし、こいつらをぶちのめして護衛どころじゃなくしてやろう。
私が決意すると、急に背後からの視線を感じなくなる。
おや? どうしたのだろうと思ったのも束の間、背後の三人が、いきなり地面に倒れ伏す。
「────―!!??」
反射的に、足にチャクラを溜め、飛び退る。
右手は無意識に笛を構え、身体が戦闘体制に移る。
私が草隠れの頃から自然と身に付けた、条件反射。
見ると、私がさっきまで立っていた場所が、大きく抉れている。間一髪だ。私は緊張の息を漏らす。
取り敢えず、命を拾った。
だが……、
「へえ、まあ、少しは反応できるじゃないか」
声が聞こえる。四代目火影を思い出す、爽やかなイケボだった。違う! そうじゃない! 大体こんなところに波風ミナトがいるわけがない!
波風ミナト。波風ミナトと言えば森川智之様(声優)。
森川智之様と言えば……。
視線を上にあげる。そこには、一人の少年が立っていた。
白い。そう思った。
大蛇丸様が普段身に付けているものと、全く同じ着物を身に纏った、白髪の少年。
そうだ。音隠れには、コイツがいた。
音隠れの四人衆。その前身。音隠れの五人衆の、最強格。
大蛇丸様の信望者であり、特別な血継限界を持つ、かぐや一族の生き残り。
なにより原作と違い、未だ病魔にその身体を蝕まれていない────全盛期!
本来ならばサスケくんと並ぶ大蛇丸様のお気に入りとして、その身体を大蛇丸様に差し出すはずだった。音隠れ最強の忍。『地の君麻呂』が、私の前に、立っていた。
「僕の持つ地の呪印と並ぶ、天の呪印を与えられた、大蛇丸様の新しいお気に入り……。君が僕と並ぶだけの可能性があるのか、試させてもらうよ」
まずい。
私の頬を、汗が伝う。
まずい。まずい。まずい!
私は理解する。
直感的に。本能的に。
そして最後に、理性で脳が理解する。
王手。
そんな言葉が、どこからか頭に響くのを、聞いた。
▼次回につづく。
原作の、恐らくサソリ様と思われる人物の発言に端を発する『大蛇丸の暁抜けた時期整合性とれない問題』ですが、この二次創作では、サソリ様の話が間違っていたというスタンスを取ります。イタチの里抜けが第一部終了時点で5~6年前なのに対して、サソリ様が大蛇丸の(イタチに敗れて)組織を抜けた時期が7年前とかほざいていた件ですね。ええ。現在この小説は第一部終了時点から数えて約5年前なので、つまりそういうことですね。サソリ様至上主義の方々には、大変申し訳ないことをしたと反省しております。私もサソリ様は好きですよ。イケメンだし。声が良いし。
自分に一言、改め、私の脳内エドワードとショウタッカー(鋼の錬金術師)。
エド「タッカーさん。多由也が大蛇丸の声を表現するとき、性別不詳の何て言ったか、覚えてる?」
タッカー「ええと…くじら(声優)ボイスだね」
エド「扉間やカブト。それと、イタチや君麻呂に共通してイケてると表現したのは?」
タッカー「……声優だね」
エド「もひとつ質問いいかな」
エド「多由也の前世のOL。声豚だな?」
タッカー「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」