前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。   作:N-SUGAR

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多由也vs君麻呂!原作なら瞬殺必至のマッチング。いよいよ開幕です。お楽しみください!


ここで自分に向けて一言

「勝てるの?(不安)」




第六話 天と地の決闘

「僕の持つ地の呪印と並ぶ、天の呪印を与えられた、大蛇丸様の新しいお気に入り……。君が僕と並ぶだけの可能性があるのか、試させてもらうよ」

 

 君麻呂はそう言うと、問答をする暇もなく、手の中から長い棒状の骨を生やしこちらに向かって走り出した。

 

 まずい。まずい。まずい! 

 

 ()()君麻呂を相手に、この距離はまずい! 

 

 私は足元に全力でチャクラを流し、一息に放出させ瞬身する。

 

 私は中・遠距離タイプの幻術使い。対して、君麻呂は超近距離タイプの体術使い。

 

 その上、強力な血継限界持ち! 

 

 アジトの廊下という逃げ場のないフィールドも合わさって、もはやこちらが不利とかそういう次元ですらない。

 

「クソ! いきなり過ぎんだろゲスチンが!」

 

「世界というのは常に流動するものだ。前兆のない出来事などというものは、この世にはないよ」

 

 何言ってんだコイツは! 誰もそんな世界全体の話はしていない! ウチはウチの視界だけの世界で暮らしているんだよ! 

 

 そんな悪態をつく余裕も私には無い。とにかく全力で逃げる。距離を稼がなければ、私の生存は無い。

 

 だが────―。

 

「そら。追い付くぞ」

 

 グン! と、君麻呂の移動スピードが上がる。かなりの距離を走った今の今まで全く開けていなかった互いの距離が、みるみるうちに縮まって行く。

 

「チクショウが!!」

 

 私は逃げ切れないと悟ると、笛を持ったまま手で印を結び、()()()()()()()()()

 

『多重忍法・変わり身分身の術』!! 

 

 私の姿が二重になり、もう一人の自分の姿が現れる。

 

「ただの分身か。このボクが、映像と実体を見分けられないとでも?」

 

「んなもん知るかよ。今日が初対面だろうがボケカス」

 

「それもそうだ!」

 

 私の悪態に律儀に反応しながらも、君麻呂は正確に分身と実体の違いを見抜き、実体に向けて骨の棒を突き立てる。

 

 そして棒は正確に片方の私の心臓部分を貫き、()()()()()()()()()姿()()()()()()! 

 

「何?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()8()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『多重忍法・変わり身分身の術』。この術は分身と自身の周囲に目に見えない膜状の結界をはり、光を反射させて見かけ上の分身と実体の位置を入れ替える術だ。観察眼に自信のあるエリート忍者であればあるほど、実体と分身の位置を間違え隙を作る。

 

 これは、本来ならば『分身』と『結界』を連続で使用しなければならない術であり、どちらを先に発動しても若干のタイムラグが生まれ、看破される隙を作ってしまう欠陥忍術だ。だが、()()()()()()()()()()()()()

 

 私は、笛の音を用いて印を結べる血継限界を持つ一族だ。口笛を用いて、簡単なものならば忍術を発動できる。

 

 そして、口笛で印を結べるということは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 属性変化の血継限界が一つの印で二つのチャクラ属性を練ることができるのと同様、私は一人で二人分の印を結ぶことができる! 

 

 だから、タイムラグによって通常上手く行かないこの忍術も、私なら完全なものとして扱うことができるというわけだ。

 

「ほう? ただの分身では無かったか」

 

 立ち止まり、私の方に目を向けた君麻呂は、そのまま私の方に右手の指を向ける。

 

 クソ! 

 

「『忍法・紫炎壁』!」

 

 私が印を結ぶのと同時に、君麻呂の五本の指先がパックリと割れ始め、私が地面に手を突くと同時に、それぞれの指の骨が銃弾のように射出される。

 

 十指穿弾。

 

 原作で見てなきゃ、不意を突かれてまず間違いなく直撃を受けるところだが、そうでなくともこの距離で防御できるかは怪しいところだ。

 

 間に合え……! 

 

 ガガガガガッ! と、鋭い衝突音が鳴り、ポタポタと骨の銃弾が落ちる。ギリギリのところで、壁の生成が間に合った。

 

 危なかった。よく見ると廊下の四方の壁にまで張り巡らした紫炎壁には、ちょうど五か所のひびが入っている。

 

 もう少し威力が高ければ貫通していた。

 

 君麻呂は、自身が地の呪印を与えられたと言っていた。つまり、彼は呪印の力を使い少なくとも状態1になることができる可能性があるということだ。

 

 その状態で撃たれていたらと思うと、ゾッとする。

 

 思えば私は他の連中と戦った時も、高速で直接こちらを狙ってくる攻撃には弱かった。動体視力が、体術を得意とするような連中と比べると格段に弱く、高速で迫りくるものを上手く避けることができないからだ。

 

 君麻呂相手に悠長に構えている余裕はない。君麻呂はすでに、腕から骨を幾重にも重ねながら巨大な槍を作り、こちらに迫ってきていた。私は呪印を発動し、身体能力を底上げしつつ、笛を口に咥える。

 

『魔笛・夢幻音鎖』

 

 手加減している暇はない。私の全力を、一息に君麻呂にぶつける! 

 

 笛を吹き始めた瞬間には既に、君麻呂は紫炎壁の前に迫り、拳を振り上げていた。

 

 そして君麻呂は、そのまま拳を振り下ろす! 

 

 バリン……! と、紫炎壁が君麻呂の振り下ろした拳の槍を中心に、波紋上に割れる。そしてそのまま槍の先端は私の頭へと迫り……。

 

「グ……ゥ……。これは……」

 

 私の頭に、触れるか触れないかの位置で停止した。

 

 あ……あぶねェ。間一髪どころの話じゃない……。

 

 予想はしていたがやはり、紫炎壁の炎では、君麻呂の骨を燃やすことはできないらしい。紫炎壁の効果に左右されることなく、君麻呂は普通に壁を破ってきた。

 

 私は急いで君麻呂から少し距離を取り、笛の音を奏で続ける。

 

 君麻呂の体は、私に拳の槍を振り下ろす姿勢から徐々に、地に膝をつけ、両腕を磔の形へと変えて行く。

 

 よし。君麻呂が余計なことをしないうちに! 

 

 しない……うちに……。

 

 どうすれば良いんだ? 

 

 無意識にいつもの手順でクナイを掴んでしまったが、薄皮一枚下に高密度の骨の鎧を纏っている君麻呂相手には、クナイ程度では刺し貫けない。何しろあの我愛羅の砂ですら結局圧し潰すことが叶わなかったのだ。単純な物理的防御力だけなら、作中最強クラスと言っても過言ではない。

 

 物は試しと、少し離れた場所から君麻呂の胸部にクナイを投擲してみるが、カキン! という金属同士が当たったような音ともに、クナイは弾き返されてしまう。

 

 私は、腰につけたバッグを漁りながら、慌てて何か有効な攻撃手段を探す。

 

「えーっと、えーっと、手裏剣じゃなくて、煙玉でもなくて……あ! 起爆札!」

 

 つっても、一枚だけじゃ恐らく君麻呂の骨の鎧は貫けないだろう。

 

 じゃあ──―。

 

「クク……。成程ね。良い幻術だ」

 

 私がクナイと起爆札を使って君麻呂の鎧を撃破する準備をしていると、縛られて現実世界では声も出せないはずの君麻呂の口が、突然開く。

 

「な……!?」

 

「指の一本すら動かせないから、解呪の印ができず、幻術返しが出来ない。成程考えられてる。だけど、幻術返しというのは結局のところ、相手に支配された自身のチャクラをより強いチャクラコントロールで乱すという行為だ。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ぞわぞわぞわ……。と、君麻呂の胸元から、呪印の痣が広がっていく。

 

「こいつ……! 呪印の発動で幻術を解いたのか!?」

 

「そうだ! そして、()()()()()()()! ()()()()()()()()!!」

 

 呪印は更に広がり続け、君麻呂の全身を侵食し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()! 

 

「……状態2……だと!?」

 

 クソ! 可能性はあるとは思っていたが、まさか、君麻呂が既に状態2への移行をマスターしていたなんて……! 

 

「最年少の呪印使いは、鬼童丸じゃなかったのか……?」

 

「ああ。最年少の呪印使いなら、確かにそれは鬼童丸だ。彼はボクより一つ年下だからね。だが、最年少の呪印使いが、一番の呪印使いであるというわけでもないだろう」

 

 ああ。まったくその通りだよ。クソッタレ。

 

 ゴリゴリと、君麻呂の身体の皮膚が割れ、様々な形の骨が露出していく。

 

 鬼のような、竜のような、まるで人間ではない化け物に、変質していく。

 

 屍骨脈。骨芽細胞や破骨細胞を自在に操り、カルシウム濃度さえもコントロールし骨を形成する特異な血継限界。

 

 骨の大きさは勿論、骨の強度、骨の数すら自在に操るかぐや一族の血継限界が、呪印の力によって増幅されて行く。

 

「既に、ボクの鼓膜は閉じた。君の音楽は、ボクには届かない」

 

「ほざけ。音響芸術を舐めるな。音は、耳の聴こえない人間にも届く!」

 

 鼓膜を封じているのなら、どうせ私の声など聞こえやしないのだろうが、それでも私は宣言する。

 

 耳栓だの鼓膜封じだのと、毎回毎回同じ手で音使いを虚仮にされては堪ったもんじゃない。

 

 外耳を閉じただけの阿呆には、音使いの洗礼を浴びせてやる! 

 

 私は印を構え、術を発動する。

 

「『忍法・響音結界』!」

 

 薄い膜状のチャクラが広がり、私の周りにシャボン玉のような球状の膜ができる。

 

 私はその膜を、君麻呂に向かって飛ばす。

 

「? ……なんだこれは?」

 

 君麻呂は自身の飛び出た骨の一部を鞭のようにしならせ膜を追い払おうとするが、球状の膜は骨をすり抜け、君麻呂の周りを覆う。

 

「眠れ。凡骨ヤロー」

 

 私は持っていたクナイと笛を持ち替え、音楽を奏で始める。

 

 『魔笛・夢幻音叉』

 

 『魔笛・夢幻音鎖』を使ってしまったせいで、もう私のチャクラは残り少ない。だから、少量のチャクラで繰り出す睡眠誘導の幻術を、君麻呂にお見舞いする。

 

 現代日本の世界を生きる者達であれば「骨伝導」という言葉を、人生で一度は聞いたことがあるだろう。

 

 人間の認識する音には二種類がある。「気導音」と「骨導音」だ。

 

 「気導音」は、空気を伝わって認識される音だ。空気の振動が鼓膜を震わせ、耳小骨という骨を通して内耳に伝わり音声信号に変換。最後に電気インパルスとして聴覚神経を渡って脳に音を伝える。

 

 対して「骨導音」は、頭蓋骨の振動によって鼓膜を通さずに直接内耳に伝わる音を指す。この、鼓膜を通さずに骨の振動で音声情報を受信する仕組みを、私達は「骨伝導」と呼んでいる。

 

 身近な例では、自分の声がその代表例だろう。他人の声は「気導音」だから、耳を完全に塞げば聞こえなくなるのに対して、自分の声は耳を完全に塞いでも問題なく聞こえる。これは、自分の声が「骨導音」として内耳に直接伝わるから起こる現象だ。

 

 また、「気導音」と「骨導音」では音の伝わり方が異なるのも、有名な話だ。自分の声を録音した音を聞くと、自分が普段聞いている自分の声とは全く異なって聞こえる。これは、自分の声が「骨導音」として伝わるか「気導音」として伝わるかの違いに由来する現象だ。

 

 この仕組みを利用して。音を伝える。

 

 例えば骨伝導補聴器や骨伝導イヤホンは、耳ではなくこめかみ等から振動を伝える音響機器だ。また、かの音楽家ベートーヴェンは、晩年耳が聞こえなかったにも関わらず、咥えた指揮棒をピアノ本体に押し付け、ピアノの振動を直接骨導音として聞くことで作曲活動を行っていたという。

 

 いわんや私は音のプロだ。直接頭蓋骨に触れなくとも、頭蓋骨に振動を伝える方法はある。それがこの、『忍法・響音結界』だ。

 

 この結界は相手のチャクラを誘導灯にして常に対象の周囲に漂い続け、結界内に侵入した音を反射し、反響、増幅、かつ固体に振動を伝導させやすくする効果がある。

 

 音を骨髄にまで浸透させ、直接脳に私の曲を叩き込む! 

 

 これが私の、鼓膜封じの攻略法だ。

 

 膜に構わずこちらに接近する君麻呂の身体が、よろめく。

 

 幻術が、効いている。

 

 いいぞ。このまま眠らせて、後からゆっくりと『口寄せ・起爆札』で吹っ飛ばしてやる! 

 

「クッ……フハハ! 成程な!」

 

 突然、君麻呂が哄笑を上げる。

 

 かと思うと、

 

「『鉄線花の舞・蔓』」

 

「ぐぁ……!?」

 

 君麻呂は、ぐらりとよろけた姿勢から勢いよく脊柱を引きずり出し、そのまま鞭のように長い骨を振るう! 

 

 骨が……私の鳩尾に直撃する。

 

 バキバキバキ! と、私の肋骨が砕ける音と共に、私は大きく吹き飛ばされた。

 

「か……は……! な……んで……」

 

 何で、私の幻術が……効いていない! 

 

 呪印はすでに発動済み! 解呪の印を結んだ気配もない! 

 

 なのに! 何で! 

 

「骨伝導……。骨を操るこのボクの骨を逆に利用し、幻術に嵌めようとするとは。なかなか大した奴だ」

 

 君麻呂は脊柱の鞭を払い、仰向けに倒れ伏す私に向かってゆっくりと歩く。

 

「だけど、何を利用しようとも音なんてのは結局ただの振動だ。ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………!!」

 

「頭蓋骨が何故振動するのか。それは脳を囲む骨が固くて薄いからだ。鉄板のような板状の骨であるからこそ、骨伝導は起こる」

 

 ああ。くっそ。コイツ、流石に骨については詳しいな。

 

 私は痛みに呻きながら、君麻呂が近づいてくるのを、ただ見守るしかない。

 

「なら、その振動を吸収すればいい。固い頭蓋骨の内側に、吸収性の高い柔らかい頭蓋骨を新たに作れば、音は聴覚神経まで届かない」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「この……チートヤロー……が……」

 

 知っていたよ。そんなことくらい。

 

 だけど、まさかここまでだなんて……。

 

 さっきの攻撃で、かなり吹っ飛ばされた。

 

 10メートルは飛んだ……か? 

 

 腹が痛い。背中も痛い。足を捻った。肋骨が折れてる。その上、内臓も損傷しているのか、吐血が酷い。

 

 たった一発でこの威力かよ……。ったく……。これだから状態2ってヤツは厄介なんだ……。ただでさえ致命的な攻撃が、即死級の威力に底上げされる……。

 

 私がギリギリ状態1だったから耐えられたが……。通常状態だったらおそらく、この時点で詰み。私は既に死んでいたことだろう。

 

「ご……ゴホ! ……あぁ……!」

 

 私は口笛を吹こうとして噎せる。腹筋が断裂しているのか、肺に穴でも空いてるのか、恐らくはその両方。

 

 これでは口笛など到底吹けはしない。

 

「苦しいかい? 苦しいのならそれは、キミの身体が弱いのが悪い。そんな貧弱な身体では、とてもではないが大蛇丸様の身体として選ばれることなど有り得ない」

 

 勝手なことを言う……。そんなもんに選ばれたいのはお前だけだろう。私を一緒にするな。

 

「大蛇丸様のお役に立てないのならば死ぬしかない。大蛇丸様はキミの僅かな意外性に興味をお持ちになられたようだが、ボクがいる限り、その意外性を活用する機会も無いだろう」

 

 勝手に判断するな勝手に行動するな。お前は、大蛇丸様の候補であって大蛇丸様じゃないだろうが。

 

 身体が弱い? 意外性? 大蛇丸様の役に立てるか? 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! 

 

 君麻呂は、脊柱の鞭に更に骨を幾重にも重ね、一本の剣を作り上げる。

 

 原作でも見たことの無い形態だが……、まぁ、食らえば終わりなことに変わりはないか。君麻呂が、私まであと5メートルの距離へと歩を進める。

 

 身体中が軋む。チャクラも残りわずか。笛を吹くこともかなわないし、印を瞬時に結ぶことも、できない。

 

 やれることは……もう……。

 

 ()()! ()()! 

 

 印を結ばなくてもいい! 笛を吹かなくてもいい! そんなことをしなくても出せる技が。この世界には! 存在する! 

 

 私は、印を結ばなくてもコントロールできるだけのチャクラを口に溜め、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! 

 

『水遁・天泣』!! 

 

「何!?」

 

 これは、私の尊敬する人生の指標にして絶対神。二代目火影、千手扉間様の卑劣な術だ!! 

 

 印を結ばなくても、身体を動かせなくても発動できる。本家本元ただの『天泣』ならば、チャクラすら練らなくても繰り出せるという、もはや忍術なのかどうかも怪しい扉間様の奥の手! 

 

 あの伝説のうちはマダラをして、スサノオによる防御を選択させた程の攻撃性を誇る低コストハイリターンの極み。

 

 何本もの針のような形に形態変化した私の血液は、油断しきった君麻呂の身体に突き刺さる! 

 

 元々チャクラを一切練らなくても原作のような威力になる技なのだ。私の『天泣』が扉間様に遠く及ばないような劣化版でしか無かったとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私は君麻呂に敵わない。能力でも、才能でも、実力でも。それは確かだ。

 

 だけどそれでも、()()は勝たなきゃならない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! 

 

 特別な才能ばかりが蔓延るこのNARUTOの世界で、誰でも使えて、低コストで、かつ、物語のインフレに付いていける術を開発した偉大なる人物。

 

 千手扉間様……。私の……救世主……。

 

 

 とはいえ、君麻呂の絶対防御は堅牢だ。鎧に針は刺さっても、鎧を貫通するには至らない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()! 

 

 私は最後の力を振り絞り、右手と左手の手首の関節を使って、2本のクナイを投げる。

 

 私は手裏剣術が得意なのだ。例えどんな状態だって、威力は低くても、()()()()()()()()()

 

「くっ! 血の針には驚いたが、今更そんなものが何だって!」

 

 君麻呂はそう言いながらも、クナイを警戒して、両腕に骨の鎧を作る。そして、左右の腕でクナイを受け止めようとして──────()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「互乗……起爆札……!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 一枚の起爆札が次々と新しい起爆札を口寄せし、連鎖的に爆発する……連続一点集中の爆破だ……! 

 

 流石に、無数の起爆札というわけではない。私がこの音隠れに来てから集めた起爆札。一本のクナイにつき50枚が2本。

 

 合計100枚。

 

 大蛇丸様の時と違い、爆発範囲ではなく一点での爆破威力に重点を置くため範囲自体は広くはないが、それでも100枚だ。大蛇丸様の時とは比較にならない爆発が巻き起こる。わざわざ二本のクナイに分けて爆風を計算して、私に降り注ぐ爆風が一番弱くなるように投げたのに、それでも、余波を受けた私の身体はゴミのように吹き飛ばされる。

 

 アジトの広い床と壁が崩壊し、天井が崩れ落ちる。

 

 私は、残りのチャクラを全て呪印に注ぎ込み、身体全体の強度を高めながら、三回程のバウンドを繰り返し、グチャリと嫌な水音をたてて墜落した。

 

 意識が……残っているのが……不思議だ……。

 

 これで君麻呂を倒せたとしても、このままでは結局死んでしまう可能性の方が高い。というか、普通に死ぬ。

 

 破れかぶれだったとはいえ、これでは本末転倒だ。

 

「な……に……、やってんだ……、ウ……チ……は……」

 

 声にならない声で、自嘲する。

 

 耳を地面につけようとすると、何かが邪魔をしてつっかえる。

 

 これは……つの? 

 

 なんで……。

 

 思考回路が働かない。

 

 ピチャリと嫌な感触がして、見ると、真っ赤に染まった床が視界を染める。

 

 これ……全部ウチの血か? 

 

 よく見てみると、腕が途中から無くなっている。爆風で……吹っ飛んだのか……。

 

 笑えねーな。いや、笑うしかないのか。

 

 ガラガラと、瓦礫が崩れる音がする。向こう側の壁は完全に崩落し、外の日差しが私に向かって降り注ぐ。

 

 ああ……あたたかい。

 

 身体全体を浄化していくような気持ちよさが、身体を包む。

 

 もう、痛みも感じない。

 

 私は……。ウチは……。

 

 

 

 フッ……と、私の身体の上に、影が降りた。

 

「それが……キミの状態2か……」

 

 声がした方に、首を向けようとして上手く行かず、何とか眼球だけを向ける。ボロボロに焼け焦げた、全身炭のような姿をした君麻呂が、そこに立っていた。

 

 コイツ……! まだ……! 

 

 あんな攻撃を受けてまだ立っていられるなんて、本当に化け物としか思えない! 

 

 呪印の状態は既に解けているようだが、それでも、彼は朦朧とした意識で倒れ伏す私に顔を近付け、喋りかける。

 

「フフ……。凶悪だ。あんな攻撃をしたキミに相応しい。恐ろしい姿だ。……だが……しかし……どこか……可愛らしいな……。そのすがた……は……」

 

 ドサリ……と、私の身体に重石がかかる。

 

 君麻呂は、既にその意識を手放していた。

 

 

 

 

「相討ち……か。ウチにしちゃあ……。上出来だが……。しかしこの成果に……意味は……」

 

 私の胸元で眠る黒ずんだ少年の顔が、私の視界から外れ、壊れた天井と澄みわたる青空だけが、私の視界に映る。

 

 これが……ウチの……最後の景色か……? 

 

 急な爆発で驚いたのだろうか。小鳥たちが、空を舞っている。

 

 ああ……。ウチもあんな風に、自由に空を羽ばたきたかった……な……ぁ。

 

 視界がぼやけ、目を開けていることすらめんどうくさくなり……。

 

 

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

 ウチは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 見覚えのある天井が、そこにはあった。

 

「な……に……。痛。イタタタタタ!!!」

 

 首を動かそうとして、全身に激痛が走る。

 

 いや、痛! もう、心の中ですら痛いしか言えない! 死ぬ! これ死ぬって! 

 

「ああ、目覚めたのかい? 動かない方がいいよ。君の身体、まだ普通に死んでるから」

 

 なにおう!? 

 

 聞き覚えのある声の主が、私の視界に入る。

 

 少し長めの白髪を後ろで束ねた眼鏡の優男。

 

 カブトさんが。そこにいた。

 

 ということは、ここは、アジトの手術室か? 

 

「まったく、無茶するよね。ストックしてた重吾の細胞をありったけ使って、それでも死にそうだったから一か八かで柱間細胞まで加えて、やっと何とか一命を取り留めたんだから。いや、まだ多由也自身の身体はほとんど死んでるんだけどね?」

 

 なんか、とんでもねーことを矢継ぎ早に言われている気がする。

 

 突然のこと過ぎて理解が追い付かないが、取り敢えず、私は助かったという認識でいいのだろうか。

 

「うずまき一族の系譜は本当に生命力が高くて助かる。千手一族にも連なってるから柱間細胞とも相性が良かったのは奇跡的だ。君麻呂にしても同じことが言える。かぐや一族というのはひょっとすると……」

 

 ぶつぶつと、一人言を呟くカブトさんの姿を見る。

 

 そうか。アジトにたまたまカブトさんが居合わせて、それで助かったのか。だとしてもかなり奇跡的な話だったみたいだけど。

 

 まさか、サスケ奪還編の遥か前にここまで死にかけるとは思わなかった。原作前に死亡とか悪い冗談が過ぎる。

 

 多分原作の多由也だったら、ここまでのことにはならなかったんだろう。大体、死因の殆どが互乗起爆札だし。

 

 私がなまじ大蛇丸様の弟子として音隠れに来てしまったから、歴史が変わったのか。

 

 だとするなら本当に油断が出来ない。今後も、私の行動ひとつで今までの未来予想がまるまる全てひっくり返ることになりかねないのだから。

 

「あの、それで、カブトさん。私は、このあとどうなるのでしょうか……」

 

 私の質問に、カブトさんは一人言をやめてこちらに振り向く。

 

「ああ。このあとね。取り敢えず、身体を生き返らせて動けるようになるまで一ヶ月は意識を失っていてもらうのと、立ち上がれるまで更に一ヶ月は安静にしていること。完治するのは、まあ、大体一年くらいじゃないかな?」

 

 はあ? 

 

「はあ!?」

 

 一年!? 

 

 オイオイオイ待て待て待て!! 

 

 一年ってお前! 下手したら大蛇丸様が帰ってきちゃうじゃねーか! 

 

 私の計画はどうするんだよ! 

 

 そんな文句を垂れ流すわけにも行かないので、私が困惑した表情で固まっていると、カブトさんはため息をつく。

 

「あのね多由也。今回は、君も君麻呂も、こうして生き残っただけでも儲けものだと考えるべきだと思うけどね。それに状態2の君麻呂を撃ち破ったという君の戦績評価は恐ろしいものだ。たとえ最悪一年くらい修行できなくても、大蛇丸様は納得してくれるとボクは思うけどね」

 

「いやいやいやいや! ウチ! 今回は! 完全な被害者! いきなり襲撃されて死にかけたんですよ!? こっちにも予定があったのに! そんなこと思えませんて!」

 

「予定なんて誰にでもあるさ。それがたまたま、今回は破綻してしまっただけ。生きてればよくあることだし、生きてなければ味わえないことなんだから。それも一つの楽しみに出来るくらいの余裕を持たなきゃ大人になれないぜ?」

 

「綺麗事のように語ってんじゃねー!」

 

 大体予定の破綻を楽しめてないとかそれ大蛇丸様に一番言えることですからー! (木ノ葉崩し)

 

 頭を抱えたかったが、腕の感覚が全く無いので抱えることも出来ない。

 

 見るとなんだか包帯にぐるぐる巻きにされてる腕が、以前に比べて少し短いように思える。

 

 そういえば、私の腕って、吹っ飛んでたんだっけ。

 

 もしかしてこれ……生えかけ……。

 

 背筋にうすら寒いものを感じつつ、私は急いで他のことを考えようと頭を働かせる。

 

 その時、頭に電流が走った。

 

 直感。そう。ただの勘だ。

 

 だけど、思考を深める。

 

 深めると、ちょっと待てとなる。

 

 

 ちょっと待て。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 

 

 それが偶然である確率と必然である確率は、どちらが上だ? 

 

 そもそも、このアジトにはもともと君麻呂はいなかったのである。それが、今日いきなり姿を現した理由は? 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()? 

 

「あの……カブトさん……」

 

「ん? 今度はなんだい?」

 

 私は、恐る恐る尋ねる。

 

「ウチにその君麻呂ってやつを差し向けたのって、ひょっとしてカブトさん……ですか?」

 

 そもそもこの人は原作において、絶対安静だった君麻呂を言葉巧みに誘導して、ナルト達の下に差し向けた張本人なのだ。

 

 私の直感が、全力でこの人が怪しいと指し示している。

 

「…………」

 

 カブトさんが、ゆっくりと、私のベッドに近づいてくる。

 

「どうして、そう思ったんだい?」

 

 すっ……と、私の首に差し出された手には、メスが握られていた。

 

 なんだこれ。ひょっとしてまたピンチか? 

 

 今、まさに命を拾われたばっかりなんですけど。

 

「証拠らしい証拠はありません……が。では、大蛇丸様のお気に入りらしい君麻呂に、ウチの情報を渡してここまで連れてきたのは、いったい誰なんです?」

 

 カブトさんは眼鏡の奥から鋭い視線を覗かせ、私の話を聞く。

 

 そして。

 

「ハハハ! 成程! まあ、普通に考えればそうなるよね! 容疑者は、それなりに絞られるか!」

 

 カブトさんは爽やかに笑うと、メスを私の首から放す。

 

「ああ。それもそうだ。まあ確かに、君麻呂を焚き付けてキミにぶつけたのはボクだ。その結果どちらかが死んでも構わないとは思ってたし、死ぬのはキミの方だろうなとも思っていた」

 

 おい。ぶっちゃけすぎだぞ。

 

 なんでそんなにこやかに、私の殺害計画を語っていやがるんだ。

 

「大蛇丸様が君を拾ってきて、弟子にして、修行を始めてからね。研究そのものの時間が大分遅れるようになった。キミのアイデアのお陰で短縮された部分があったのは否定しないけどね」

 

 カブトさんはメスを置きながら続ける。

 

「君麻呂というお気に入りが既にいるのに、新しく君というお気に入りを育て、かつ、うちはイタチという本命を狙うというのは、いささか非効率的なんじゃないかとボクは思ってしまってね。それに、君が優秀なのは認めるけど、君麻呂程とも思えなかったという事情もある。

 

 で、それを大蛇丸様に進言したら、『ならばアナタが自分で多由也の価値を見定めてみればいい』と仰るのでね。ちょうど今時間があったので、ことのついでに君麻呂を君にけしかけてみたのさ」

 

 う、ワオ。とんでもねーこと暴露しやがったよこのインケンメガネ。とんだクソゲスヤローだ。

 

 やっぱりイザナミされた方がいいなコイツ。

 

 つーか、大蛇丸様も、許可出してんじゃねーよ。

 

 大蛇丸様が出ていくときのあの言葉は、そういう意味だったのか……。

 

「……で、どうだったんですか? ウチは、カブトさんの目から見て」

 

 私は訊く。

 

 というか、返答によっては、今後のカブトさんに対する警戒レベルを100ぐらい上げないといけなくなる。

 

 そんな私の心配を余所に、カブトさんはにこやかに笑って言った。

 

「少なくとも、今ここで失うには惜しい逸材だとは思ったよ」

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 その後、睡眠薬を注射され、薬が効くまで絶対に動くなと忠告された私は、カブトさんが出ていった手術室の天井を見上げる。

 

 私は、何一つ自由に動かせない身体をただまんじりともせずにもて余す。

 

「はぁ……。なんでこーなるかな……。クソ……」

 

 私がため息をつくと。

 

「済まないとは思っているよ」

 

 と、予想外の返事があった。

 

 この声は……。

 

「君麻呂か?」

 

「うん。とは言え、僕も君と同じでベッドから動けないんだ。済まないが、このまま話させて貰うよ」

 

「それは……しかたねーな」

 

 どうやら、私と君麻呂は並べられた状態で手術を施されていたらしい。

 

 執刀者がカブトさん一人なら、まあ、自然と言えば自然なことだった。

 

 君麻呂が、語る。

 

「カブトが話を誇張して僕を唆していることは理解していた。だが、大蛇丸様が部下ではなく弟子として迎え入れたというもう一人のお気に入りを、どうしてもこの目と呪印で確かめたかったのも本心だった」

 

「呪印……ね」

 

 私は首筋にある、忌ま忌ましい呪印を意識しながら呟く。

 

「ああ。君に与えられた天の呪印と対をなす、地の呪印だ。僕と大蛇丸様を繋げる絆であり、僕と親友を繋げる絆であり。同時に僕の誇りでもある」

 

 親友。そういえば、君麻呂と重吾は仲がいいという話だったんだっけ。

 

「重吾って奴か」

 

 重吾の存在は、私が多由也として見た大蛇丸様の過去の研究資料にも少し記載があったので、語ることができる。

 

「知ってるのか?」

 

「いや。名前だけだ」

 

「そうか……。機会があれば、会ってみるといい。アイツは優しいやつだから。きっといい友達になれる。君の幻術ならば、アイツの衝動も優しく抑えることができそうだしな」

 

 重吾の衝動……。殺人衝動か。確か、サスケが来るまでは、彼が心の奥に秘める殺人衝動を抑える事ができるのは、君麻呂一人だったという話だった。

 

 君麻呂の優しい声を聞く限りでは、確かに、良好な人間関係を築いていたらしい。

 

「まあ、そいつのことは良いとして、問題はお前だよ。襲撃はもう済んだことだが、これからお前はどうするつもりなんだ?」

 

「どう。とは?」

 

「またウチを襲うのかって訊いてるんだ」

 

「まさか」

 

 即答だった。場合によっては、また計画と警戒レベルを建て直さなければならない重要なことだ。もう襲われないという保証は、絶対に獲得したいところである。

 

「じゃあ、ウチはお前のお眼鏡に適ったってことでいいんだな?」

 

「君程の忍を試すような真似をしたのは本当に申し訳なく思う。でも、やらなければならないことだった。大蛇丸様が有象無象にかかずらう時間を少しでも減らしてみせるのも、僕の役割だからね」

 

「そりゃ、大蛇丸様が自分で判断することだろ。お前が判断することじゃない」

 

「かもしれない」

 

 君麻呂は、意外にも私の言葉を肯定する。

 

「でも、我慢ならないんだ。大蛇丸様のお役に立てない全ての存在と、それをみすみす見逃す己という存在が」

 

 うーん。これが真の狂信というものなのか。理性的に本能的。自分の行うことが、結果的には全て好転すると信じている。と言うよりは、自分の信じる神のもとで、自分の信じる神のためならば、どんなことをしても良いと思える精神性。

 

 うわー。こわいなー。こういう手合いとは、関係ないところで生きていたいなー。

 

 君麻呂は続ける。

 

「でも、君は違った。君は、間違いなく大蛇丸様の器に足る存在だった。僕をあそこまで追い込んだ忍びは、過去一度もいない」

 

 器に足る? いや、そんなもんに足りたいとは思ってないのですが。

 

「一族が滅んだ唯一の生き残り。行き場を失った。いや、生きる場所を失った僕に、生きる場所と、そして生きる意味を与えてくださった。大蛇丸様には感謝しかない。大蛇丸様が僕を器の候補として見做してくれたときは本当に嬉しかった。だから、この身分は大切なものにしたいんだ。有象無象とは、競いたくもない。まぁ、本命は、まだ別にいるようだが……」

 

「競う? 要らん要らん。余計なお世話だ。器に足りたいなら常に自分が一番であればいいだけの話だろ。それに、一族が滅んだ唯一の生き残り? 別に珍しくもないだろそんなこと。そんなのウチだってそうだ。ハハ……。一族欠け友達ってか? 略してカケトモだな」

 

 どっかで聞いたことあるような台詞回しで茶化す。しかし君麻呂は、怒りもせず笑いもせず、至極真面目に受け取ったようで

 

「カケトモ。なるほど。そういうのもあるのか……」

 

 と、真剣に何やら考え始める。おいおいやめろやめろ! 

 

 そんなもんが実際にあったら傷の舐めあいにしかならねェよ! どんな不毛な関係だよ! 

 

「それに、自分が一番であればそれでいい。なるほど。そういう考え方もあるのかもしれない」

 

 むう……。いまいち掴み所がない。強すぎる自意識があると思えば、私の言葉に納得する素直さも併せ持っている。

 

 子どもの特徴と言えば、まぁ、その通りなんだけど、でも、ただの子どもと認めるのは、何だかなぁ……。

 

 駄目だ。思考がまとまらない。睡眠薬が効いてきたのか、頭がぼんやりしてきた。

 

「まぁ、ともかく、……お前が無闇に喧嘩吹っ掛けてこなくなるんなら……。良かったよ……。流石のウチも……。お前の相手は……、疲れる……」

 

「それは困るな」

 

 は? 

 

 なんで困るんだ? 

 

「君の言に従うならば、ボクは今一番じゃない。大蛇丸様にはまだ本命がいるし、なんなら君がいる。ボクはよくても三番目だ」

 

「なんでウチが二番目なんだよ。いいよ。お前が一番だよ」

 

「そうはいかない。先程の戦闘で最後まで意識を保っていたのは君だ。ボクは、あの自分に有利なフィールドで君に負けてしまったことになる」

 

「ならねーよ! 死にかけたんだよウチは! ていうか死んだよ!」

 

 たとえそれが事実だったとして、どれだけ贔屓目にみても相討ちが良いところだよ! 

 

「とにかく。ボクは大蛇丸様のため、何より自分のために、大蛇丸様の器として最高の素材にならなければならない。一番を目指すんだ。でも、それには器としての実力が全く足りていない」

 

 待て待て待て。なんだか話がおかしな方向に向かっているぞ!? それはおかしい。その理論はおかしい! 全部聞かなくてももう分かるもん! 

 

「だから、修行が必要だ。そして修行をするためには、実力の拮抗した修行相手が必要不可欠になる」

 

 あーあーあー! 聞こえない聞こえない! 

 

「そして、ボクにとってのそれはキミだ。多由也。キミは大蛇丸様の弟子として忍術の修行に明け暮れているんだろう? ならばこれほどお互いにとって好都合なことはない!」

 

 不都合極まりないことこの上ない! いいから大人しく元いた実験場に帰ってくれ! 

 

 お前が一緒にいても、私にとって良いことなんて、少し低めの男前森川(声優)ボイスを身近で拝聴できるってことくらいしかないぞ! 

 

 あ、いいな……。それ。

 

 いや、ちがう。ちがうんだ。そうじゃないんだ……。

 

 ええと……。

 

 駄目だ。一旦意識すると、耳に全神経が集中してしまう……。

 

「多由也! お願いだ! ボクの好敵手として、修行に付き合ってくれ! 二人で切磋琢磨し合えば、きっといつか、大蛇丸様の本命すら超えた最強の器に、二人でたどり着けるかもしれない!」

 

「いや、おい、ちょっとあんまり大きな声で……!」

 

「頼む! ボクには、キミしかいないんだ!」

 

「ふぁい!? 」

 

 あ。

 

 駄目だ。眠い。

 

 もう何も考えられない。

 

 

 不覚にも感情が高ぶり血流が促進されたことによって、睡眠薬が素早くその効果を発揮する。

 

 

 私は君麻呂の言葉に、思わず何か返事を返した気がするのだが、眠すぎて、自分でなんと言ったのかうまく認識できなかった。

 

 

 朦朧とする意識の中、無駄に耳をくすぐる美声だけが頭に取り残され、私は意識を失った。

 

 

 最後に、君麻呂が口にした言葉が、耳に届く……。

 

 

 あぇ? 

 

 

 なんで、君麻呂は、おれいのことばなんて……。

 

 

 

 ………………? 

 

 

 

 

 

 ▼次回へつづく

 




私は大まかな時系列と大雑把な出来事を考えるだけで、後のことは私の中のキャラ達に全ての行動や発言をお任せすることにしているのですが、巧いこと話を繋げてくれる有能なキャラもいれば、話の流れを覆しちゃう困ったちゃんなキャラもいるんですよね。主人公は、自分を形作るための信念はあるけど、本当に大事なところ以外では場と空気と相手に流されてしまうキャラですね。話の流れの主体なので、基本的には流れてくれるから楽なんですけど、暴走したキャラがいるとそれに流されてしまうので困るときはマジで困ります。今回は、だから、全員いましたね…。


前書きの一言に対する自問自答。

「イケボには勝てなかったよ…(諦め)」

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