前略。多由也に転生したけど、人生の詰将棋をしている気分です。 作:N-SUGAR
ここで自分に向けて一言。
「お前は難易度を上げ続けないと気が済まないのか?」
地獄谷。
草木の一本も生えず、岩盤が露出し、あちこちから真っ赤な泥状の温泉が湧き出す閑散とした土地。
その荒廃した景色は、かつて地獄谷へと追い込まれ、凄惨な殺し合いを繰り広げた血の池一族の怨念が今もなお漂い続けているかのような感覚を見た者に抱かせる。
任務三日目。
私と君麻呂の二人は、この地獄谷を起点として、ジャシン教のアジト捜索を開始する。
「とにかく人だ。人の気配を探す。ウチは音感知。君麻呂は骨感知。それぞれの感知能力をフルに使って、人間を探しだす。行くぞ!」
「了解!」
私と君麻呂は、手分けして、お互いがお互いを感知できるギリギリの距離に分かれて探索を始めた。服装も潜入用ではなく、いつもの忍装束だ。
地獄谷の周囲には、基本人が寄り付かない。逆に言えば、人を見つければ、それだけで私達にとっては何らかの手掛かりになる可能性が有るということだ。
隠れ潜む場所としては、こういう土地はむしろ隠密性が低いと言わざるを得ない。木を隠すなら森の中なんてよく言われるが、実際、本当に誰にも気付かれたくなかったら、人が隠れる場所の周囲には有象無象の人がある程度いた方が良いのである。
なぜこんな土地周辺にアジトを構えるのかいまいち意図を量りかねるが、ともかく、私達からすればむしろそれはありがたい事実だった。
「……あー。集中できねー」
自分を中心とした結界を張り、岩々を跳び移りながら周辺の物音に耳を凝らす私は、呟く。
昨日のことがあって、どうも君麻呂に対して特別な意識を向けてしまう。
自分からあんな約束をしておいてなんとも厚かましいが、焦れったくなってしまってなんとも気まずい。
でも、あれは私のプライドの問題だし、こっちから折れてしまうのも気に食わないし、何より昨日の二人の誓いを無為にはしたくない。
もどかしい。本当にもどかしい!
困った。全然任務に集中できない。
気をしっかり持て、私。
相手は
原作に出てきたジャシン教徒、飛段は暁のメンバーにすらなった男だ。
どれだけ殺されても死なず、その上他人の血を用いて自身と相手の感覚をリンクさせる能力を持つ。
リンクした状態で自身の心臓を貫けば相手の心臓にも同じダメージが入り、相手は絶命する。
だが、飛段は死なない。何故なら不死だから。
なんだそのチート能力。そもそも能力が全体的にエグいしグロいんだよ。
絶対に会いたくねえ。
とはいえ、恐らくそういうわけにもいかないのだろう。
飛段は、原作の暁では、トビが入るまでは一番の新入りだったという。
そして現在は、大蛇丸様が暁に加入して約半年。
飛段はまだ、暁に入っていない可能性が高い。そもそも大蛇丸様は暁でサソリとコンビを組んでいるという話も聞く。場合によってはデイダラすら加入してない可能性もあるのだ。飛段は、まだ暁に入っていないと見るべきだ。それなら彼と接触する可能性も視野に入れて行動しなくてはならない。
飛段が一体何時不死身になったのかは知らないが、最悪を想定して動くなら、やはりその不死を前提とした対策も講じなければならない。
動揺している場合ではないのだ。対応を誤れば、呆気なく死んでしまってもおかしくない。
飛段の攻撃手順は、既に把握している。まず、相手から血を奪い体内に取り込み、次に地面に自身の血でジャシン教のシンボルマークの陣を描き、その中に立って「儀式」を行う。
そして、自身の身体に凶器を突き立て、相手の身体に同じダメージを与える。
『呪術・死司憑血』
そう。この術は、忍術ですらない。
登場したのはこの一度きり、未だにその原理が解明されていない、謎に満ちた力。
呪術。
この世界に転生し、数々の忍術理論を学んでも尚、その仕組みが全く理解できないよく分からない力だが、しかし、究明ではなく対抗するとなれば話は別だ。
『呪術・死司憑血』の対抗策は簡単だ。その内容を聞けば、誰でも二つはすぐに理解できる。
1、血を奪われるな。
2、陣の中に飛段を入れるな。
この二つだ。この二つを守ってさえいれば、私達が飛段の術中に嵌まることはない。
手順の多い術式は強力なものが多いが、手順を1つでも邪魔できれば、その力は大きく削がれることになる。飛段の術はその典型だ。
そして飛段は基本的に、特殊な鎖鎌を用いた近・中距離戦闘を専門とする物理アタッカーだ。
対して私は遠距離から音を使った幻術を使用することができ、結界という壁を張ることもできる。
君麻呂は近距離専門だが、骨を使った絶対防御を持つ体術のプロ。最悪君麻呂は前に出ても、対策をしっかりと講じていれば飛段に血を奪われずに戦うことができる。
大丈夫。な、筈だ。
私が結論を下すと同時に、私の結界ギリギリの場所で捜索を行っていた君麻呂が、私にだけ聞こえる合図で連絡を飛ばしてきた。
「多由也。怪しい場所を見つけた。急いで合流してくれ」
とうとう、その時が来た。
「あの洞窟か……」
「ああ。人の動く気配がする。ただ……ちょっと様子がおかしいんだ」
君麻呂の示す洞窟に、私は結界の感知を広げ、内部の音を拾う。
嫌な音がした。
違う。むしろ音が、ひとつひとつ、消えていく様を聴いた。
洞窟の内部では今まさに、命の鼓動が1つ、また1つと、現在進行形で消えていく動きがある。
その中心に、高笑いをあげながら何かを人体に突き立てるような音を出す男がいる。
聞き覚えのある、てらそままさき様(声優)の、独特の深みがある狂気じみたイケメンボイス……。
間違いない。こいつは飛段だ。
「どうやら、教義通りの殺戮が行われているらしいな」
「どうする多由也。僕達にとって情報源が少なくなるのは、あまり喜ばしいことでは無さそうだけど」
君麻呂が投げ掛けた問いに、私は悩む。
中で飛段が暴れていると分かった以上、本心としては回れ右をして帰りたい。帰りたい……が……。
「様子見……と、いきたいところだが、何が起こっているのか確認しておく必要はあるか……。おい、君麻呂」
「なんだい?」
「あの中で暴れている奴は、湯隠れの
私は、君麻呂に忠告を飛ばす。
「流石多由也だ。そんなことまでわかるなんて、よく調べてるな。分かった。血を取られなければ良いんだね?」
「ああ」
嘘だ。湯隠れの手配書に抜け忍としての飛段の名前が載っているのは確かだが、血を扱う術を使うなんて情報はどこにも書かれていない。
だが、君麻呂にあの初見殺しの情報を全く伝えずに戦わせるなんてことは私にはできない。今、私にできるだけの干渉は、やはり行うべきだろう。
任務がある以上、後戻りはできない。ならば、嫌でも戦うしかない。
「行くぞ。君麻呂」
「うん。頑張ろう」
私と君麻呂は、洞窟の入口に、足を踏み入れた。
こっそりと足音をたてずに、私と君麻呂は洞窟内を進む。
やがて、私達は1つの部屋へと辿り着く。
大きな空洞の部屋だった。扉はなく、中を覗けば、松明の明かりに照らされた不気味な儀式場が目に映り、鉄の錆びたような臭いが鼻の奥を刺激する。
そして────。
────夥しい量の死体が、そこにはあった。そしてその全員が、特徴的なローブを羽織り、首元にジャシン教のシンボルを象ったネックレスを下げている。
「死体は全員……ジャシン教徒か……」
「ああ、もう誰一人、生きてはいないようだね」
私と君麻呂は、お互いに聞こえるギリギリの声量で会話をする。
全員……か。
そうでもない。
何故ならこの殺戮の実行者が、舞台の中心に、まだ立っているからだ。
「んー? なんだぁ? オマエら」
死体の海の中心で、周りの死体と同じネックレスを首に下げた、髪をオールバックにしている革ジャン姿の若い男が、こちらに振り向く。どうやら私達の存在に気付いたらしい。意外と鋭い。
私達は隠れるのをやめて、男の前に姿を現す。
「湯隠れの抜け忍。飛段だな?」
「そーゆーお前らはどこのどちらさんだよ。入信希望者ってワケじゃあ、なさそうだな」
私が確認すると、ジャラリと、飛段は手に持つ鎌をこちらに向ける。三つの刃が並んだ、様々なギミックを内包する仕掛け鎌だ。
「別に名乗る必要はないだろう。ボクらはお前らから情報を奪いに来ただけだ。こちらから情報を渡してやる義理はない」
飛段を注視する私の隣で、君麻呂が挑発する。
多分、君麻呂は挑発しているつもりもないと思うけど……。
「ケッ! そうかいそうかい! まぁ、ムカつくガキだってことが分かればそれでいいや。うっし! それじゃあ再び、儀式を始めるとしますかね! 殺戮の時間だぜ!」
ガシャン! と、大きな鎌を肩に担ぎ、飛段は私達に指を差す。
私は笛を構え、君麻呂は表皮に骨を覆い始める。
「つーかよ。お前らは運がいいぜホント。都合良くも今日この日、このオレ様の究極儀式の完成が、その目で拝めるんだから……な!!」
飛段はそう言うと、鎌を引き摺りながらこちらへ向かって走り出す!
同時に君麻呂が私の隣から飛段へ向かって走り、迎え撃つ。
戦いが、始まった。
「オラ! ギッタンギッタンに斬り刻まれろ!」
飛段は、引き摺る鎌を思いっきり振り上げ、鎖鎌のギミックを作動させて刃を君麻呂へと投げつける。
ガイン! と、金属同士がぶつかる音を立てながら、君麻呂は鎌の刃をその腕で受け止めた。
骨の腕当が、君麻呂の腕を刃から守る。
「ああ!?」
飛段は一度鎌を引き戻し、その勢いで今度はまだ骨の外殻が形成されていない君麻呂の胴体部分を狙う。
「無駄だよ」
ガッ! と、固いものにぶつかる音をたてて、鎌が地面に落ちる。
君麻呂は、薄皮一枚下にも骨の鎧を敷くことで、鎌の刃から身を守っていた。
「多由也から、お前は血を扱うと聞いている。だからそう易々と、お前に血を奪われるわけにはいかないさ」
「なんだよ! 妙な術を使いやがる上にオレの儀式の内容まで調べてるってのか!? クソ! メンドクセーなぁ!」
飛段と君麻呂は接近し、体術戦へと移行する。君麻呂は骨を使ったトリッキーな動きで飛段に迫るが、飛段はそれを一個一個丁寧に捌いていく。
……流石にアスマ先生やカカシ先生と体術で渡り合っただけあって、身体能力は普通にバケモノ並みだな……。
私が後方から注意深く二人の戦闘を観察していると、君麻呂が骨の振動を使って、私に準備完了の合図を出した。
────ここだ!
『魔笛・金縛りの術』!!
私は笛を吹き、音を洞窟内に反響させる。
「な……に!?」
ビクンッ! と、一瞬の痙攣の後、飛段の動きが明らかに鈍る!
「そこ!」
その隙を逃す君麻呂ではない。骨を作り私の音を防いだ君麻呂は、更に腕の骨を槍のように尖らせて、そのまま飛段の心臓に突き刺した!
血飛沫があがり、飛段はぐったりと君麻呂の腕に凭れ掛かる。
ガランガラン……と、飛段の手から離れた大鎌が、地面に落ちる。
「しまった。勢い余って殺してしまったか。これじゃあ情報が聞き出せないな」
君麻呂はうっかりしたような声で私に話しかける。
……これで死んでくれたら、むしろ楽で良かったんだけど……。
「君麻呂! 蹴り飛ばせ!」
私が叫ぶより先にその振動を感知した君麻呂は、凭れ掛かる飛段の鳩尾を蹴り飛ばす。
ゴボリ……、と、君麻呂の開けた穴から血を吹き出しながら、飛段はゴロゴロと地面を転がり死体にぶつかり跳ね上がり、最終的に向こう側の壁にぶつかって停止する。
「…………んあー……。痛ェ……。痛ェじゃねェかよオイ……」
ゆっくりと、飛段が地面から起き上がる。
ゴキリ! ゴキリ! と、首を回し、胸に大きな穴空けたまま何事もなかったかのように立ち上がった。
……クソ! やっぱりか!
しかもさっきの発言から推測するに、ヤツが不死になったのは今日! それもついさっき!
飛段がジャシン教徒達を殺戮してやがったのは、その「儀式」のためか!
「どうなってるんだ……」
呟く君麻呂に向かって、私は声を張り上げる。
「任務の内容を思い出せ! ソイツは既に不死身なんだ! だから、殺すのではなく拘束する!」
「!」
私の言葉を聞き、瞬時に状況を理解した君麻呂は戦闘態勢に戻る。
私は更に続ける。
「いいか君麻呂、首を刎ねろ。奴がどんなに不死身であろうと、ものを考えて行動を身体に命じるのは脳ミソだ。首を刎ねれば、ヤツの身体は動けなくなる!」
いや、そうは言っても不死身の時点で常識外の存在なので、首を刎ねたところで全体が動けても不思議ではないのだが、原作において首を刎ねることで胴体が動けなくなるという事実は既に確認済みだ。
……さっき蹴り飛ばすときに首を斬れと言っておけば良かった……。判断ミスだ。
案の定過ぎて逆に焦ってしまった。反省だ。
「オイオイ、不死のことまで知ってんのかよ。カーッ! 教えがいのねぇガキ共だこと!」
ぶつくさ言ってる飛段を見て、私は不気味なものを見る気持ちになる。いや、実際不気味だけど……。
飛段の身体は非常識だが、
少なくとも、人間は最低限脳と繋がってないと活動できないという常識には、飛段は当てはまっていた。
だが、常識的なのはそこまでだ。
血が巡り、酸素が渡らなければ脳も筋肉も動かせないという常識は、どうやら飛段の肉体には無いらしい。
原作でも、頭だけになった飛段は普通に口を使って喋っていたし(肺と声帯がないと喋れないはずなんだけど!)、当然脳でものを考えることもできていた。
こちらでもそうだ。心臓を潰され血液循環が無くなったにも関わらず、お構いなしに平気で立ってこちらを睨み付けている。心臓が無いのに、そんな運動ができるほどの酸素が肉体に供給されるわけがない。
もちろん。人間心臓を取られたり首を切られたからってその瞬間死ぬわけじゃない。痛みでショック死すれば終わりだが、ショック死しなければ、ほんの一瞬、首だけで首から上の筋肉を動かせたという記録はある。心臓が止まっても脳が死ぬまで数分かかるというのも有名な話だ。でもそれは、そうするのに必要なものが揃っていたからだ。ほんの僅かな間だけ、そういうことができる材料が頭に残っていたから、そういうことができた。
他にも首を切断した豚の脳を4時間後に蘇生させたという実験もあるし、更に例えば、「首なし鶏のマイク」と呼ばれたとある鶏なんかは、飛段とは逆に頭を失った状態で18ヶ月もの間生存し続け、歩き回ることすらできたという。でも、やはりそれも切断された首の残った部分に脳幹という、動物が最低限生命維持するのに必要な脳の一部分が偶然残っていた結果によるものだ。
だけど、飛段は違う。
もはやそれは、人体の所業ではない。トカゲの尻尾切りとか、プラナリアの分裂と再生とか、そういう次元も踏み越えている。ああいう生物学的な不死性や再生能力は、やっぱり必要なものがちゃんと揃っているからこそ発揮されるものなのだ。
ガン細胞だって、ちゃんと栄養を送って培養しなきゃそのうち死んでしまうのである。
「儀式」という名の人体実験で不死になった?
どんな実験をすれば、そんな身体になれるんだ。
この世界の住人は大概が非常識だが、それでも、「チャクラや生命エネルギーという未知の力が有るからだよ!」とでも説明されれば、理解には遠くとも、まだ納得はできる。
だけど、飛段にはその説明すらない。呪術とかいう、チャクラや生命エネルギーを使ってんだかどうかも分からない謎の技術で、よく分からない不死身を達成している。
異常なこの世界においてすらも、異端。
飛段とは、そういう存在なのである。
……まぁ、詳しい理論の研究は、こいつの首でも引き渡せば大蛇丸様が勝手にやってくれるだろう。
私の人生計画的には原作のおおまかな流れは変えない方が良いと思っているのだが、コイツの場合は、別に後々いなくても大した影響は無い気がする。
アスマ先生が死ななくてもシカマルなら勝手に成長しそうだし、こいつがいなくてもナルトが風遁・螺旋手裏剣を会得するのに大した影響は無い。
だから、任務達成の証としてコイツの首を持ち帰っても、まぁ別にいいかなとは思っている。
「行くぞ。君麻呂」
「ああ!」
合図と共に君麻呂が駆け出し、私は笛を咥える。
悪いが次で決める!
『魔笛・夢幻音鎖』!
状態1を解放した私の演奏が、洞窟内部に響き渡る!
そして、無防備に突っ立っている飛段の首に、刃のように腕の骨を変形させた君麻呂が、その腕を振り下ろす!
だが──
「隙だらけだオラ!」
──飛段は、私の幻術にお構いなしに、君麻呂を蹴り飛ばした!
「なっ!」
私は土煙を上げながら地面を横滑りする君麻呂を見ながら衝撃の声を上げる。
「クソが! 何故ウチの幻術が効かねェ!」
「あァ!? 口のわりー嬢ちゃんだな。そりゃオメー、
「…………っ!!」
そうだ……! 音を聴かない、幻術返しをする、チャクラを乱すといった手段意外にももう1つだけ、私の幻術を跳ね返す手段があった。
幻術というのは結局どこまで行っても、
ウチの幻術なら「聴覚」。写輪眼なら「視覚」といった風に、五感の何れかに作用してその効果を及ぼす。
そして、そういった術は大抵の場合、
一番分かりやすいのは、「皮膚感覚(触覚)」の一種である「痛覚」だ。実際、原作においてシカマルは自身の指先をへし折った痛みで『魔笛・夢幻音鎖』に抵抗した。
現在、
私の聴覚に対する訴えよりも、痛覚の訴えの方があまりにも強すぎる! ちょっとした痛みなら更に強い幻術で上書きできるが、流石に心臓を無くすほどの痛みより強い五感なんて有るわけがねェ!
こ……こんな幻術封じ、飛段にしかできねぇよ!
「こ……この穴空きヤロー……! そんなことでこのウチの幻術を……!」
「ギャハハ! なんだ? もしかしてプライドをへし折っちゃったのかにゃー? 残念だったなー術が効かなくてなーええ? お・じょ・う・ちゃん!」
こ……こいつ! なんてあからさまな挑発口調……!
すげームカつく!
「そういやぁ、あの骨のガキからは血が取れそうにねぇが、お嬢ちゃんなら、どうなんだろうなぁ! 遠距離タイプのヒョロヒョロ幻術使いちゃんよォ!」
飛段はそう言って、私に向かって走り出す。その頃には君麻呂も起き上がって飛段を追いかけるが、君麻呂の足では飛段に追い付けそうにない。
野郎。途中で落ちてる大鎌を拾って、ウチに斬りかかる気だな?
私は状態1を更に進行させながら印を結び、強化された脚力で大鎌に向かって走る。
そして、僅かな差で飛段よりも早く大鎌へと辿り着いた私は、そのまま術を発動させる!
『忍法・紫炎壁』!
私が展開した結界壁に、飛段は勢いをそのままに正面から突っ込んだ!
「あっぢぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!!」
飛段に紫の炎が炎上し、堪らず飛段は地面を転がり回る!
ハッ! どうだ! これがテメーの言うヒョロヒョロ幻術使いちゃんの実力だ!
「君麻呂! 今だ! やれ!」
「ありがとう多由也!」
炎を撒き散らしながら転げ回る飛段の首に、君麻呂の骨の刃が迫り────ストンと、軽い音を立てて飛段の首が落ちた。
「ぐっお……! 痛ェ……! 言葉にならないくらい痛ェ! これが……首を切断される痛み……!」
首を切断され、君麻呂によって髪の毛を掴まれ持ち上げられ、やっと炎を払われた飛段は、それでも口を休めることはなかった。
「うわ……。まだ喋ってやがる……」
「本当に不死なんだな。……なんというか、この世の神秘を見ている気分だよ」
「ウルセェ! んなことよりさっさと首を戻しやがれ! ぶっ殺すぞガキ共!」
その格好でどうやってぶっ殺すんだ……。
頭だけになってもなお戦意猛猛しい飛段に、私は呆れた表情を浮かべる。
私は一応胴体も研究材料になると判断し、炎にまみれた胴体の火消しを行う。
「さて、不死の身体はこうして手に入れた訳だが、研究資料もどこかにあるはずだ。おい、首だけ人間の飛段。研究資料はどこにある?」
「なんだそのふざけた呼び方! そんなもんお前みたいな信仰心の欠片もねぇ生意気なメスガキに教えるわけねーだろ!」
飛段が喚くと、君麻呂が恐ろしく殺意の籠った目を手元に向けるが、私は君麻呂が何かしようとするのを制止して、飛段に目線を合わせて語りかける。
「ほーん。それじゃあ、テメーの身体だけを研究して情報を絞り出すことになるけど、それでもいいんだな? 首だけのテメーを更に縦に真っ二つにしたらどうなるのかとか、見てみるのすげー楽しそうなんだけど」
実際気になるし、大蛇丸様ならまず間違いなくやるだろう。
「し……知らねえんだよオレ、そういう小難しい書類が置いてある場所なんて……。そーゆーのはほら、もっとメガネを掛けたネクラなインテリ系のヤツがやる仕事だろ? そいつらもう殺しちゃったし……」
私の言葉を聞いた飛段は青冷めた顔で即答するが、全く答えにはならなかった。
「チッ。使えねーゲスヤローだ。こりゃ後で麻酔なし真っ二つコース決定だな」
「ちょっ! おいボウズ! このクソ怖ェー嬢ちゃん何とかしてくれよホント! アイツマジの目してるんだけど!」
「フン、いい気味だ」
飛段の鬱陶しい絶叫を聞き流しながら、私は洞窟を見回す。少し怪しいところがあって結界を広げ、反響を利用し調べると、隠された奥へと続くルートがいくつか有ることが判明した。
「それじゃあ、ウチは奥の部屋を調べてくるから、君麻呂はその首だけクソヤローを見張っていてくれ」
「分かった。多分大丈夫だと思うけど、それでも気を付けて行ってくるといい」
君麻呂と情報を共有し、私が奥へと進もうとすると────。
「
と、私達の背後から声が聞こえた。
馬鹿な! 敵だと!?
飛段が全員殺した筈じゃなかったのか!?
バッ! と、私と君麻呂が振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
真っ白な白髪の、少年のような背格好の男。
年齢はよく分からないが、見た目はとても若く見えるのに、雰囲気はむしろ年寄りのそれに近い。
そこら辺に転がっている死体と似たようなローブを羽織り、ジャシン教のシンボルマークを、その首にぶら下げている。
「あり? おっさん。アンタまだ殺してなかったっけ?」
キョトンとした顔で、飛段が言う。その言葉を聞いた白髪の男は、呆れたようにため息を吐く。
「はァ……。飛段君。君は我が教団員の中でも最も優秀な忍ですが、本当にその単純な頭だけは残念ですね。間の悪いことに、私が偶然気まぐれで出掛けたタイミングで図ったように儀式を実行してくれやがったのは君じゃないですか。それに殺戮した教団員の数と名前くらい覚えといてください。お陰でジャシン様の贄になりそこなってしまいました」
「ハハッ! そりゃ悪かったなおっさん! コイツらをジャシン様に捧げ終わったら、その後で殺してやるよ!」
「頼みますよホント。まぁ、今回はその間の悪さが幸いしたようですが」
飛段と白髪の男は、私達を無視して会話をする。
……というか、なんだこの会話……。
これが、ジャシン教の信徒達の会話?
狂ってるのか? コイツら。
もしかして、ここに転がっている死体共も、こんな風に自ら望んでジャシン様とやらの贄になったのか?
日々少しでも長生きしようと生き足掻いている私にはとても理解できないその精神性に、吐き気のようなものが込み上げてくる。
「さて」
ここでようやく、白髪の男は私と君麻呂に視線を向ける。
「初めまして。少年少女。私はこのジャシン教教団において、一応立場上は教団長を務めさせて頂いております
血之池……だと!?
私の衝撃を余所に、血之池 赤と名乗ったその男は、話を続ける。
「少年がその手に持っている飛段君は、我々ジャシン教にとって神より遣わされた使徒のごとき存在。神道風に言えば現人神ですかね。とにかく、彼はジャシン教を世に広め、世界の隣人により良き殺戮を齎すために必要な存在なのです。私にとって何よりも代えがたい大切な存在……。どうか、飛段君をこちらへ返しては下さいませんかね」
「……その話を聞いて、はい、そうですかと大人しく返すとでも思ってんのか。この、クレイジーサイコホモヤロー」
私の返答を聞いたアカは、目を瞑って天を仰ぐ。
「ああ、やはり。私達はいつも少数派だ。平和ボケした湯の国しかり、何故人々は平和に向かおうとするのでしょう。エントロピーの収束など、この世に有ってはならないというのに。やはり多数派を殺戮し、少数派を殺戮し、世界を一度均等に均さねば……」
やべえ。
こいつ、本格的にサイコだ。
さっきの会話からして、原作登場前には既に飛段の手で殺されてたようなタイプのキャラなのだろうが、同時に、本格的に殺されててくれて正解なタイプのキャラだ。
そもそもエントロピーの収束を嫌うのに、世界を均等に均すってなんだ。発言に自己矛盾が発生してるぞ。
矛盾、しててもいいんだろうな……多分。
宗教って、良くも悪くもそういうものだ。
もちろん、人間を良い方向へと導く宗教はいっぱいあるんだろう。人々の心の支え。日々の生活の潤い。宗教はそういうものだって世界に与えてくれるはずだ。
だけど、コイツらはダメだ。世の中に殺戮しか撒き散らそうとしてねェ。
世を乱す、典型的なダメなタイプの宗教だ。
私が辟易した表情を浮かべていると、それを見た飛段はニヤリと笑う。
「わかるぜその気持ち、あのおっさんは、オレから見ても明らかに頭がイッちまってるサイコ野郎だ。人の話を聞きゃしねぇし、何言ってんだかわかりゃしねぇ」
でもな。と、飛段は続ける。
「
スッ……と、アカは閉じていた目を開く。
その目はまるで、
「…………ッ!!」
『
かつてうちは一族によって地獄谷に追いやられた悲劇の一族、血之池一族が持っていたとされる、三大瞳術の影に埋もれた特殊な瞳の血継限界!
血を自在に操り、写輪眼に匹敵する幻術を操るという、極めて強力な瞳術使い!
血之池一族。
その生き残りが今、私と君麻呂の二人の前に立ち、牙を剥こうとしていた。
▼次回につづく。
ここでオリキャラの登場ですね。まあ、その出自に関しては、外伝小説サスケ真伝からの出典ですけどね。
ここら辺でひとつ、瞳術使いと戦わせてみよっかなーとかなんとか画策した結果生れたキャラです。飛段以外のジャシン教徒も気になりますしね。
やっぱり飛段だけじゃ、この二人相手には物足りなかった気がしまして。こうなりました。楽しんでいただければ幸いです。
ここで裏話なんですが、当初の計画では、大蛇丸暁在任中に、飛段と角都をセットで登場させようと考えていたんです。でも、現段階の多由也と君麻呂だと角都に勝てるイメージが全く湧かなかったので、泣く泣く断念しました。時系列もちょっと怪しかったし…。
はい。というわけで次回、vs血龍眼です。多由也ちゃんを、もっともっと追い込みます。お楽しみください。
前書きの一言に対する自問自答。
「かわいい女の子の絶望顔が好きで本当にごめんなさい」