Rogue 5は悲しいけど、それだけじゃなくて確かにイユと千翼が生きていた事が示されて終わるような、アマゾンズSeason2の何処か物悲しい終わり方が好きです
「……さてと、これからどうすっかな。俺もまたあのオーロラ探さねえと」
目を赤くした長瀬は鼻をすすりながらつぶやいた。
そろそろ自分も帰る時間だろう。
「……ひょっとしてあなたも……他の世界から来たの?」
「ぶっちゃけいうとな。道走ってたら灰色のオーロラに巻き込まれて気づいたら瀬戸大橋の下あたりに居た」
「わーすごい! 長瀬さんって本物の異世界転移者だったんですね! 初めて見た~!」
「高嶋さん……初めてじゃなかったらおかしいと思うわ」
ちょっとした漫才めいたやりとりを繰り広げる千景と友奈をよそに長瀬は悩む。
いや本当にどうやったら帰れるんだろうか元居た世界。
「そうだよなぁ俺が初めてこっちに来たなら特に過去の文献とかないしなぁ。……戸籍も金もないしどしよ……あん?」
長瀬は自分の方をポンポンと叩く人間が居る事に対して自然に振り向く。
いつの間にか長瀬の背後に居たのは今度は顔見知りではなく知らない男だ。
なんかやたらと存在感がある。
「……誰だお前」
「うひゃあ!?」「誰……?」
「三人ともとんだご挨拶だな」
知らない男は長瀬にも分かるくらいに明白な白主体の神主姿だが、その格好は絶望的に似合っていない。
茶髪で傲岸不遜な表情をしているうえに、全体からゴーイングマイウェイな雰囲気に満ちている。
絶対に本職の神主ではない事は誰の目にも明らかだ。
もし本職だったら友奈ですら日本神道界の腐敗を疑うくらいに。
「俺は門矢士。長瀬裕樹、お前を迎えに来た」
「いや名乗られたって誰だかわかんねえよ。誰だお前。つーかその格好コスプレか? 俺のスーツ姿より似合ってねーぞ」
「……一名様ご案なぁぁぁぁい」
「うわっオーロラ出た! ていうかこれ俺の地元じゃん!?」
適当な声と共に門矢士が指を鳴らすと灰色オーロラが出現する。
その向こうにあるのは長瀬の生まれ育った世界の景色。
紛れもない自分の故郷だった。
「そうだ長瀬裕樹。お前の役目はこれで終わりだ。後は自分の世界に戻ってせいぜい真面目に生きろ」
「えっ何その上から目線。なんだか知らねえが、あそこから帰れるって事か」
「だからそうだと言っているだろう。さ、二人に別れを告げたらとっとと帰れ」
なんだか状況が分からないがこの男はあまり待つ気がないらしい。
ならば最後にと長瀬は千景に向き直る。
「千景。正直お前の人生にはクソな奴が多いかもしんねえ」
「……ええ。これまでで痛い程分かっているわ」
「それでも、お前の未来はきっと悪くないって俺は思う。幾らお前を否定する奴らがいてもぜってえに生きてやれ。少なくとも高嶋と、後もう会わねえと思うけど俺と千翼はお前に生きていてほしいと思っているから」
「……うん」
「まぁお前ならそのうち友達も増えんだろ。高嶋以外にも大切な友達がな。高嶋も頼むぜ? こいつけっこ―危なっかしいから」
「えへへ~わかってます。ぐんちゃんとは結構長い付き合いですから」
「た、高嶋さん!? まったくもう……」
その様子を見て長瀬は大丈夫だと確信した。
ならば帰ろう。明日から自分の世界に戻ってまた頑張って生きるのだ。
「それじゃあな! 二人とも元気でいろよ!」
「あなたも元気でね」
「ばいばーい!」
手を振って揺らめくオーロラを通して消えていく。
長瀬は思う。本当に突飛な出来事だったけど案外悪くなかったなと。
これから長瀬も千景も幸せな人生を歩める事が保証されているわけじゃないけど、それでもこの出会いがもたらした物は確かにあるはずだ。
それに長瀬は自分が少しだけ前に進めた事を千翼に伝える事が出来た。
それでもう、十分だ。
(何ができるかまだ分かんねーけど、俺は頑張って生きるぜ、千翼)
灰色のオーロラを通り抜け、帰ってきた世界で長瀬は千翼とイユのプリクラを見た。
自分の背中を押してくれる二人の顔を、いつもよりも少しだけ誇らしい気分で見た。
長瀬がオーロラを潜り抜けると同時に門矢士と言う男も事は済んだと言わんばかりに新たに発生させたオーロラの元へ入っていく。
「二人共、せいぜい平和な人生を歩むんだな」
それが最後に門矢士の告げた言葉だった。
長瀬と違って良く分からない男である。
「……あの変な人も、長瀬さんも行っちゃったね」
「……ええ。ねえ高嶋さん」
「なあにぐんちゃん?」
「これから何があっても、友達でいてくれる?」
「当たり前だよ! ぐんちゃんは私にとっても大切な友達だから!」
それから二人で顔を見合わせて笑う。
この数日間二人とも浮かべなかった、心からの笑みを。
千景は中学校の窓越しにもう夜空が迫る時刻の暗くなった景色を見る。
千景たちの門出を祝うかのように色鮮やかな桜が舞うのが見えた。
「あ、郡さんはもう帰るの?」
「ええ。校門で友達が待っているから」
「そっかー郡さん高嶋さんと仲いいもんね。私はこれから部の仲間と会うんだ。それじゃーねー」
「うん、さようなら高校に行ってもお元気で」
今日まで千景のクラスメイトだった子が挨拶し、千景も穏やかに返しながら歩く。
校舎の中を郡千景はいつも通りの、それでいて満ち足りた表情で歩く。
今日は千景が中学校を卒業する日でついさっき卒業式とクラスの集まりまでが終わったから、卒業証書を片手に自分を待つ友達の元へと歩いていく。
あの日、古傷を抉られ泣いていた千景は異世界から来たという長瀬裕樹と会い、高嶋友奈と仲直りしてその後に現れた異形達から千翼によって救われた。
その日から年単位のそう短くない月日が流れたが、その時の事は今も鮮烈に千景の心に残っている。
あの時の経験がきっかけで友奈を通じて千景にも何人もの友達が出来た。
責任感の強い
それ以外にも友奈や若葉の縁もあり、何人も、まさか四国の内外、諏訪とかに知り合いが増えるなんて思いもよらなかったが、元は狭かった世界が広くなっていくのは悪い気分ではなかった。
……尤もちょっと友奈の真似をして困っているところを助けて、読みにくい名前を一発で当てただけの相手からあそこまで慕われるとは思わなかった。
無論高地に居た頃と変わらなかった事もある。
千景の母親が戻ってくることはなかったし、父親とは相変わらずお互い不干渉のままだし、結局卒業式にも来なかった。
ただ長瀬が何か言ってくれたのか、あれから父親は千景を生まれてこなければよかったと否定するようなことをいう事はなくなった。
それでいいと思う。千景の過去が消えないようにこの世にはどうにもならない事があるのだから。
校門を通り抜け、桜吹雪の中千景は歩き出す。
千景は少しは良い方に変われたと思うけど、それは自分の力だけではない。
友奈たち自分の友達と、あの日自分を助けてくれた二人のおかげだといつも思っている。
だからだろうか、今はどういう道に進もうか決めていないけど、自分の友達や彼らみたいに少しだけでも苦しんでいる人を助けられればいいと思う。
そうして誰かを助けながら千景自身も大切な人たちと幸せに、例え苦しい事があっても頑張って、前みたいに無様を晒しても、生きていく。
それが千景の中に根付いた決意だ。
校門の先に友奈や若葉の姿が見えた。
彼女達の笑顔に対して柄にもなく千景も笑顔で駆け出していく。
千景はこれからまでも、これから生き続ける。大切な人たちに支えられながら。
これにて本作は完結となります。
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