~清水幸利~
さて、バツ達が離反し、王宮に帰ってきた俺達だが…まぁ予想はしていたが、勇者君ってばバツとハジメが魔人族側に寝返ったと報告してくれやがりましたよ。メルド団長以下、騎士団員と天之河以外のクラスメイト全員がそれを否定したけどな。
それでも、勇者の言葉、っていうことで、そっちを信じた奴らが一定数いたらしく、貴族間でのバツたちの扱いは、魔人族に寝返った裏切りの使徒と、それに洗脳され連れ去られた悲劇の使徒、って扱いになっている。言い出したのが天之河なせいで、原作にあったらしい、天之河が憤慨してその貴族が処罰される、というような流れもない。
王族やその側近たちは、流石に天之河以外の全員が否定したことを無下にはできなかったようで、表向きには納得している。ちなみに一応メルド団長は、バツが蘇生魔法を使えることも報告したが、ありえないと一笑に付してその話は終わった。まぁ、オレと恵理も使えるんだが…教える理由はないな。オレは王宮の犬になる気はないし。
そんなこんなで、王宮帰還後の最初の訓練だが…
「よぉし、それじゃあこれより訓練を始める」
そう言って、メルドさんが用意したものは…
「あの、メルドさん、その人達は…?」
「ああ、こいつらか?なに、ただの死刑囚共だ」
「死刑囚!?一体何を…」
「なぁに、今から一人づつ、こいつらを殺してもらうだけだ」
「なっ…」
勇者サマはバツとメルドさんが話をしている間、気絶していたからな…ああ、死んでた檜山も驚いた顔してるな。いやお前はハジメを殺そうとしたんだし普通にヤれるんじゃないか?
まぁ、そこで黙ってられないのが我らが勇者サマが勇者サマたる所以なんだな。
「何を考えてるんですかメルドさん!?人を殺すだなんてそんな…」
「何を言っている?魔人族とて外見は俺らとそう変わらん。人も殺せずに魔人族との戦争はできんよ」
「外見が人みたいでも、魔人族は魔物みたいなものなんでしょう?だったら!」
「何を言ってるんだ?魔人族は国も作るし、感情もある。知恵も回る。魔物の延長線上とか思っていたら簡単に返り討ちだぞ?」
「なっ…いや、それでも、殺人は悪いことです!俺は、クラスの皆を悪人にしたくはない!」
この中で唯一ガチの殺人犯したやつが何いってんだ?まぁ、コイツにその自覚はまったくないらしいけどな…いっそ羨ましいな、この能天気さ。能天気とは違うか。
「そうか、殺人を犯したものは悪人か…」
「そうです!」
「ならば、俺も悪人だな」
「えっ?」
「当たり前だろう?俺は騎士団長、騎士の仕事には賊の制圧などもあるのだぞ?俺もこれまでに何人の人を殺してきたか、覚えてはいない。
殺人が悪、というならば、俺も間違いなく悪人ってことになる」
「そ、それは…悪人相手だから問題は…」
「こいつらだって死刑囚、間違いなく悪人だぞ。悪人相手なら問題はないな?」
「うっ…」
なんだかんだ言っても、結局、自分が、人を殺したくないだけなんだろう。天之河の反論には、道理が通ってない。
「まぁ、別に構わん。光輝は不参加でいいな。他にやりたくない者は今のうちに言っておけよ?」
天之河との話を切り上げ、こちらへ話しかけてくるメルドさん。その言葉に、女子を中心に、何名かが不参加を表明する。
「そうだ、こんな訓練はやる必要がない!みんな、こんなことはやめるんだ!」
そう叫ぶ勇者を無視して、一人の男子が前に出てきた。190オーバーの巨漢、永山だ。
「メルドさん、方法は?」
「何でも構わんが…近接のほうがいいかもしれんな。遠隔だと殺した実感に乏しい」
「わかりました」
「永山!?なにを!」
…その後のことは、あまり思い出したくはないな…
結論だけ言えば、その日、殺人訓練を熟せたのは永山、俺、恵理の三人だけだった。そして、そこにいた全員が、胃の中身をぶち撒けることになった、とだけ言っておく。
その後、一週間ほどこの殺人訓練を行い、最終的には全員が一度は人を殺した。…いや、勇者天之河だけは、最後の最後まで、頑なに殺そうとはしなかったな。腕を断つ、足の腱を斬る、など、絶対に致命傷にはならず、しかし確実に戦闘力を奪う攻撃しか行うことはなかった。
一週間後、殺人訓練にて心が折れなかったメンツは、大迷宮攻略へと向かっていった。永山パーティーは、女子も含めて、全員が心折れなかったのはちょっと驚いた…が、これも例のベヒーモスみたいな『世界の修正力』みたいなものの結果、なのかもしれない。
ちなみに俺と恵理は愛ちゃん先生の護衛組。自称愛ちゃん親衛隊の方へ参加だ。ぶっちゃけあの勇者のもとで戦ってたら早死にしそうだからな。
愛ちゃん親衛隊は、殺人訓練で心折れた、バツ曰く『原作組』にプラスして、恵理と、恵理の親友の谷口が参加していた。なぜこっちに参加したのか聞いたところ…
「シズシズもカオリンもエリリンもいないのに、あっちにいく理由がないよ!」
…だそうだ。『世界の修正力』なんて無いのかもな。
ちなみに天之河と坂上は、永山のグループに入ることを拒否られて、仕方なく檜山グループとともに攻略しているらしい。勇者に拳士、軽戦士に槍術士、炎術師に風術士という、なんとも脳筋極まりないパーティーになっている。この世界の勇者は自己バフオンリーの脳筋だからなぁ…バフもなければ回復もない勇者パーティーとかゾッとしないな。
ちなみにオレと恵理と谷口は、『折れた』訳じゃなかったが、『折れた』魔物要員だけだと、いざ魔人族が来たときに何もできない、として、こちらに参加することを承諾させた。王国としても神殿としても、愛ちゃん先生は大事だろうからな。まぁ勇者は逃げだの何だのグチグチやかましかったが。
ちなみにメルドさんは既に天之河を見限っている。頑なに殺人を拒否した天之河は、いざというときに使い物にならないという判断だ。まぁ、『原作』だとそれは大当たりらしいが。
その後は、オレ達『愛ちゃん親衛隊』はのんびりしたものだ。ハニトラのために送り込まれたイケメン神殿騎士はオレと恵理の二人で撃退、雑魚は足手まといにしかならない、という事で、デビットとかいう騎士のみ付いてくることを許した。
あとはあちこちの村や町を回って、愛ちゃん先生の能力で農作物を育てるだけの簡単なお仕事だ。今のところは魔人族は接触はしてないな。
大迷宮攻略組は、どうやら順調に迷宮を攻略しているようだ。どうやら迷宮攻略再開1週間で、55層までたどり着いたらしい。何?原作よりペースが遅い?そりゃ原作より四人も攻略組が少ない上に、回復役が一人ってのが致命的なんだと思うぞ?
まぁ、とにかくこっちはそんな感じだ。そっちはどうだい?…そうか、例の子…名前はユエ?とりあえずその子も助けて、問題なく大迷宮攻略できたのか。そりゃ良かった。これからはどうする?日程は原作にあわせるのか?…あわせる気なし、巻いていく、ね。了解だ。合流地点はその時の流れ、だな。
うさ耳はどうする?…すぐに会えなきゃ時間合わせて一旦戻る、か。二度手間じゃ?…なるほど、先に他の迷宮攻略を目指すのか。確かにハジメの錬成魔法以外って、ぶっちゃけ無いなら無いでも問題なさそうだよな…お前ら四人と、えー、ユエ、だっけ?彼女だけ全部確保しとけば帰る分には問題なさそうだしな。
しかし、この…ひそひ草、だっけ?便利だな。まさか大迷宮の底から届くとは思わなかったわ。…ん?むしろ底だから届いたと思う?なるほど、攻略中も何度か通信試みていたのか。隠れ家にはジャミングがなかった、と。
…じゃ、そろそろ通信終了するか。もう結構遅いからな。また何かあったら連絡くれ。こっちも何か動きがあったらそっちに連絡する。…定時連絡?またいつ通信不良になるかわからないし、定時はいらないんじゃないか?仮に送れなかったら互いにヤキモキするだろうし。
…おう…おう。分かった、お前達も気をつけろよ?じゃあな、お休みだ。
…ふぅ、とりあえずこいつが使えると分かって助かったな。これで最悪恵理と別れて動くのも選択肢に入る、か。
…………覚悟、決めるか。
というわけで、クラスメイトサイドという名の、ひそひ草による清水くんの跋への近況報告でした。
原作より遥かに早く大迷宮攻略した上に、勇者組がごっそり抜けてるせいで上層組の攻略が全然進んでいません。
ちなみに、跋達が最下層に到着したのは、別れて大体二週間後です。レベリング無視して突っ切っていたならおそらく一週間弱で駆け抜けられたと思われます。
最後に清水くんが決めた覚悟とは…?
次回更新前のどこかのタイミングで、一章人物紹介を投稿します。
FF簡単解説
・ひそひ草
原理不明の携帯電話。たぶん植物。盗聴器の代わりにもなるスグレモノ。今回、全二百層のダンジョンの最下層から地上まで声が届くことが判明。ちなみにバツは、インビジ使ってあちこちに仕込んどきゃよかったとちょっと後悔中。