~シア・ハウリア~
「了承」
そんな事を言いながら、バツさんが何かを投げる仕草をしました。ハッとして前方を見ると、空中に六匹ほどの、モーニングスターのような尻尾を持つ飛竜の姿が見えます。
「ハ、ハイベリア…」
自分の声が震えているのがわかります。その時、一匹のハイベリアが、急降下していくのが見えました。
それに気がついて耳を澄ませば、家族達のものと思われる悲鳴や怒号が聞こえてきます。恐らく、私がダイヘドアを引きつけて逃げ出した後に、見つかってしまったのだと思います。
ハイベリアは、次から次へと急降下していきます。恐らく、私の家族達を襲っているのでしょう。地上に降りたハイベリアは再び飛び上がってきません。いつの間にか、家族の声も聞こえません。恐らく、地上で『餌』に喰らいついてるのでしょう。
間に合わなかった。私は絶望して、俯いて、涙が止まりませんでした。
「ふぅ、セーフ…って、どうしたシア!?なんで泣いてるんだ!?」
バツさんの声が聞こえてきます。なんで泣いてるかなんて、そんな分かりきったことを聞くなんて、少し、見損なってしまいます。
「シア!?」
父様の声が聞こえます。絶望のあまり、幻聴が聞こえてきたのでしょうか?
「シア、無事だったのか!何故泣いて…」
「わかりません、気がついたら泣いていたんです。あ、私は八重樫雫。こっちが…」
「ユエ」
「私は白崎香織です」
「僕は南雲ハジメ」
「せっかく家族を助けてやったのに、何も泣く必要なんてないだろうに…あ、俺は蔵兎咲跋。ハイベリアを叩き落としたのは俺です。驚かせてしまって申し訳ありませんが、割と一刻を争いそうだったので、遠距離から仕留めさせていただきました」
「なるほど、娘だけではなく、我らハウリア族も助けていただき感謝いたします。
私はカム。シアの父にして、ハウリアの族長をしております」
…あれぇ?幻聴にしては、しっかりと会話をしている気がしますね?
私が涙を拭い顔を上げると、この、ジープ?という乗り物から降りている香織さんとユエさん(幼く見えるが私より年上らしい)、ハジメさんと、ジープに乗ったまま私の背中を擦る雫さん、私の頭を撫でる跋さん…そして、心配そうに私を見つめる父様がいました。
「…父様?」
「どうした、シア?何をそんなに泣いているんだ?」
「父様、生きて…?」
「ん?それはもちろん生きているぞ?」
「だって、ハイベリアがあんなに…急降下して…」
「急降下?」
「あー、なるほど、そういう事か」
私達の会話で何かに気がついたのか、跋さんが会話に入ってくる。
「つまり、シアはハイベリアが家族に向かって急降下して、みんなが餌になってしまったと思ったのか」
「は、はい。それで絶望して…」
「たしかにあの距離からならそう見えてもおかしくはないか。あのな、シア、あれは急降下じゃない、墜落だ」
「つい、らく…?」
「そ、墜落だ。俺が『手裏剣』を投げて空中のハイベリアを倒したからな。そのまま墜ちるのは自明の理さ」
「流石にいきなりハイベリアが落ちてきたときは肝が冷えましたがな、はっはっは」
「下敷きになった人もいなかったらしいし、結果オーライって事で」
父様と跋さんの会話を聞きながら、頭が現実に追いついてきます。跋さんがあの時、何かを投げるような仕草をしていたのは、しゅりけん?を投げていて。そのしゅりけんは、ハイベリアを倒せる武器で。急降下と思っていたのは、絶命した故の墜落で。跋さんは、宣言通り、家族を助けてくれていて…
「…うわぁ~ん!!!」
私は、思わず飛び出して、父様に抱きついて、再び号泣してしまいました。
「ごめんなさい」
しばらく父様の胸の中で泣いて、ようやく落ち着いてから、私は跋さんに謝罪をしていました。
「ん?何の謝罪だ?」
「あの、実は…ジープ?の中で、なんで泣いているのか、って声かけられた時、分かりきったこと聞くなんて最低って、ちょっとだけ見損なっちゃいまして…勘違いでした、ごめんなさい」
「言わなきゃ分からないことなのに…割と律儀なんだな」
別に律儀ってわけじゃなくて、なんか、このことを隠したままでは居たくないなって思ってしまって…この気持ち、なんなんでしょう?
「とりあえず、これからどうするか、それが問題だね」
「そうね…流石に60人超えのハウリア族を連れ回すわけにも…」
「そうだなぁ…一度樹海の大迷宮見に行くのもありかもな」
「でも、バツは今は入れないって言ってた」
「まぁ、ちゃんと『原作』通りか確認するのもありかなと思ってな。必要なもの揃えて、いざ行ってみたら、別なものが必要でした、なんてオチがあってもつまらないし」
跋さん達が何事かを話しています。どうやら樹海に行きたいらしいです。まだ私のことはフェアベルゲンにはバレてないはずですけど…大丈夫でしょうか?
「よっし、とりあえず方針は決まった。『ハルツィナ樹海』の最深部、『大樹ウーア・アルト』に案内してくれ」
「それは構いませんが…それだけでいいのですかな?」
「ああ、とりあえずはそれでいい。安心してくれ、ちゃんと一族揃って安全な状態にするまで面倒見るから」
「分かりました、とにかくここから出ましょう」
こうして跋さん達は、とりあえず峽谷へと入っていた、私含めて12名の家族とともに、峽谷の出口へと歩みを進めていくことになりました。
道中、魔物たちが襲ってきましたが、ただの一匹も、私達に触れることすら叶わず、ある魔物は細切れになり、ある魔物は手裏剣の餌食になり、ある魔物は魔法で燃やされ凍らされ落雷に黒焦げに…待ってください、なんでこのライセン大峡谷で普通に魔法が使えるんですか!?
「いやぁ、皆様お強い。特にその…手裏剣、と言いましたか?投げるだけにしか見えないのに、凄まじい威力ですね」
「いや、父様、そんなことより、この地で普通に魔法を使ってることに驚きましょうよ」
「おっと、私達は魔法が使えんから、あまり気にならなかったよ」
などと、無駄な話をしながらも、私達はライセン大峡谷の出口に当たる階段に差し掛かりました。
跋さんを先頭に、雫さん、私達、ユエさん、香織さん、殿にハジメさんという隊列で階段を登っていきます。
そして、崖の上を登りきった、そこには…
「族長!」
「シアちゃん!」
「みんな無事だったか!!」
大峡谷に入らず、待機していた家族の皆がいました。
「…流石にここで帝国兵とのエンカウントはないか」
跋さんが何かをぼそっとつぶやいてますが、なんなんでしょう?
と、そこに聞き覚えのない声が聞こえてきました。
「おー、なんだ?兎人族がこんなにたくさん。まぁいいや、樹海に入る手間が省けた。おいお前ら、適当に捕まえろ」
「はいよ」
「了解」
あれは奴隷商とその護衛の冒険者です!きっと亜人族を捕まえて奴隷として売るために来たんです!
皆が怯えて、散り散りに逃げようとしたところで、跋さんが私達の前に出てきました。
「おーっとちょっと待てそこのデブ」
「あぁん?何だこのガキ?」
「こいつらは俺達が保護している一族だ。何勝手に捕まえようとしてんだ、あぁん?」
「保護ぉ?何だお前、この私に逆らうってのか?私が誰だか知らんのか?」
「てめぇみたいなデブは知らんし興味もない。いいからとっとと諦めて帰れ。じゃねぇと容赦しねぇぞ?」
そう言って私達をかばう跋さん。ハジメさんや香織さんたちも前に出てきて、私達をかばうように展開します。
すると、顰めっ面だった奴隷商の表情が、にやっとしたいやらしい笑いに変わりました。
「ほぉぅ、上玉ばかりじゃないか。ガキどももよく見たら割と整った顔をしているな。これなら男娼として売れるやもしれん。お前ら、気にする必要はない。このガキどもも纏めて捕まえてしまえ」
奴隷商のその言葉に、下卑た笑みを浮かべた冒険者達が、各々武器を片手にジリジリと距離を詰めてきました。
「…ハジメ」
「…うん、皆は、乗り越えたんだよね?」
「…ああ、一部は折れたらしいけどな…どうする?」
「…私はやるわよ」
「…私も、がんばるよ」
「…僕も、一度くらいは…」
「…無理すんなよ?折れても、誰も責めはしない」
「…私、やる?」
「…いつかはやらなきゃいけないことだと思うから、一人づつは俺達で処理する」
「…ん」
跋さんたちは、小声で何かを話し合っていたみたいですが、一体何の話だったんでしょう?
と、気をそらしたことに気がついたのか、冒険者たちが一斉に襲いかかってきました。
そこからは、一方的でした。
雫さんにかかって行った剣士らしき冒険者は、一歩横にずれた雫さんの剣の一振りで胴体を輪切りにされ。
香織さんに向かっていった斥候らしき冒険者は、真正面から心臓を香織さんの槍に串刺しにされ。
遠距離からハジメさんに矢を射かけた弓使いは、ハジメさんが持っていた『じゅう』という武器に矢を撃ち落とされ、動揺している隙に距離を詰めたハジメさんに斬り捨てられ。
魔法陣を展開して魔法を詠唱していた術師は、跋さんが投げた小石で魔法の展開を妨害され、そのまま駆け寄った跋さんに…素手で殴り飛ばされ、首が曲がってはいけない方向に曲がって。
残りは全員、ユエさんの魔法で消し炭に。
最後に残ったのは、太った奴隷商のみ。
ここまで、数秒の出来事でした。
「な、な、な…」
「…どうだった?」
「意外と、なんとも思わなかったわね」
「なんだろう、魔物を倒したときとそんなに…」
「命を奪うことに、慣れ過ぎちゃったかな?」
「…悪人なんて、ゴブリンなんかと変わらない」
「悪人に人権はない、って事で、悪人を人と認識してないのかねぇ?」
「な、何だお前たちは…一体なんなんだ!?」
奴隷商が叫びます。が、跋さんたちは平然と…
「あぁん?まだいたのか?今すぐ逃げ帰るなら追撃はしないでおいてやるぞ?」
「いやいやバツ、それ禍根残すやつじゃない?」
「だからといって無抵抗の人を殺すのもねぇ…」
「巻き込んで一緒に燃やせばよかった」
「まぁ、私達の主観では悪人でも、向こうの主観ではそれが常識だから…」
と、どう考えても煽ってるだけな会話をかわしています。
「ふ、ふ、ふ…」
「ん?」
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!」
跋さんたちの態度にキレた奴隷商が、懐から何かを取り出して…あれは鉱石に刻んだ、攻撃用魔法陣!?
「死ねぇ!」
「リフレク」
「なっ!?げふぁっ!」
跳ね返した!?魔法を!?
跋さんたちって、まだまだ力を隠してるみたいです…
「反射した風刃だから急所に当たらなかったみたいね、まだ息があるわ」
「まぁ、敵対行為確認したし、トドメ刺す?」
「そうだな」
そして、跋さんはあっさりと奴隷商の首を落として、武器をどこかへとしまいました。
「…」
私を含めて、ハウリア族は跋さんたちに恐怖の宿った目を向けることを止められませんでした。
「…守られてるだけのあなた達が、そんな目をハジメたちに向けるなんて、お門違い」
「そう言うなってユエちゃんや、ハウリア族の皆は荒事が苦手なんだ。こういう事があれば恐怖くらい感じるさ」
「…ん、バツがそう言うなら…」
跋さんは私達をフォローしてくれてますが、本来はユエさんの言うことが正しいです。
「バツ殿、申し訳ない。別にあなた方に含むところがあるわけではないが…バツ殿の言う通り、我らは荒事に慣れてはおらん。少々、驚いてしまったのだ」
「跋さん、皆さんも、すいません」
父様と私が代表して謝罪すると、跋さんは気にしてないと言ってくれましたが、ちょっと考えて…
「それならそうだな、一つ、俺の願いを叶えてくれ」
「ふむ、私達にできることならなんなりと」
「そうか…何、できないことは言わんよ」
そう言うと、跋さんはニヤリと笑って、私達にこう言いました。
「ハウリア族全員、俺の奴隷になってくれ」
時系列的に兵士はいませんでしたが、運悪くこのタイミングで商品の補充にやってきた奴隷商がいたようです。
大迷宮で精神的に鍛えられた跋達、初の能動的殺人でも特に動揺はナシ。悪人に人権はありませんからね。
あ、ちなみにジープはオープンカー仕様です。なぜなら、ハイベリアがいることを知ってたから。
さてさて、せっかく助けたハウリアを奴隷に、と望む跋の真意やいかに?
FF簡単解説
今回初出のFF 用語はなし。
・悪人に人権はない。
生まれながらにして悪い人間なんてこの世にはいないし、人間話せばわかってくれる。
つまり、生まれついての悪や、話してもわからないような奴は人間ではない。故に悪人に人権はない。Q.E.D.
作者の人生のバイブル、スレイヤーズの主人公、リナ=インバースの座右の銘。