ありふれた無職が世界最強   作:夏影

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できるだけ週一ペースを保ちたい


第一章 無職の力とオルクス大迷宮
第一話 異世界召喚~誘拐と何が違うのか小一時間(ry~


~南雲ハジメ~

 

 香織さんを抱きしめ、目を固く閉じていた僕は、光が収まり、周りがザワザワと騒がしくなったことに気が付き、ゆっくりと目を開いた。

 まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画、なにやら後光を背負った中性的な人物が書かれている。長い金髪を靡かせ、薄っすらと微笑んでる姿は、神々しくもどこか薄ら寒い物を覚える。

 次に周囲を見回す。大理石で作られたと思しき、巨大な広間のようだ。大聖堂、という言葉が浮かんでくるような作りをしている。

 どうやら僕たちは、その最奥にある台座のようなところにいるようだ。周りには、あの時教室にいた全員がいるようだった。

 僕は抱きしめていた香織さんの様子を確認する。どうやら異常なさそうだったので、そっと手を離す。

 

「ハジ…南雲くん、これって…」

「かお…白崎さん、おそらく予想通りだと思うよ…」

 

 そんな会話を交わしつつ、台座の周囲へと目を移す。そこには、何やら祈るようなポーズをする、法衣らしきものを着た集団が…30人ほどだろうか?存在していた。

 その中でも特に豪奢で煌びやかな衣装をまとった、やたらと覇気を纏った70代くらいの老人が進み出てきて、口を開いた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュ「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」!?」

 

 老人の自己紹介の最中、唐突に叫び声が聞こえてきた。しかもこの声は…聞き覚えのある、どころか僕の親友の声のようだ。

 

「バツ!?」

「バツくん!」

「どうしたのバツ、しっかりして!!」

 

「あぁぁぁあああっっぁぁぁぁ!!!!!頭が、頭が割れる!?!?!?」

 

 僕たちはバツの周りに集まって、声をかける。が、バツは頭を抑えて転げ回るだけだった。どうも激しい頭痛に襲われているらしい。

 

「ちょっと!あんたたち!バツに一体何したのよ!」

「い、いえ、我らは何も…」

 

 イシュなんとかという老人に詰め寄る八重樫さん。僕と香織さんはバツが台座から転がり落ちないように支えている。

 しばらくすると、少しづつバツの様子が落ち着いてきたようだった。

 

「っぐ、ハァ、畜生、こんなの聞いてねぇぞ…」

「バツ、大丈夫?」

「ハジメか…ああ、大丈夫、問題ないぜ。

 …やっぱ…りふれ…トシと…どうす…」

 

 頭痛は治まったらしいけど、小声で何やらブツブツつぶやいているバツ。八重樫さんが心配そうに声をかけ、僕に目配せしてきた香織さんに頷いて、香織さんにもバツのところへ行ってもらう。

 

「…さて、気を取り直しまして。私の名は、イシュタル・ランゴバルド。以後、宜しくお願い致しますぞ」

「宜しくするわけ無いだろド阿呆…」

 

 眉間に深いシワを刻んだバツの呟きが、やけに鮮明に耳に届いた。

 

 

 

~キンクリ~

 

 

 

 その後、僕たちは場所を移り、10メートル以上はありそうなテーブルがいくつも並んだ大広間に通されていた。

 上座から順に、畑山先生、天之河くん、坂上くんが座り、他の生徒も各々適当に座っていく。僕とバツは最後方へ。香織さんと八重樫さんも、こっちにおいでと視線で訴える天之河くんをフルシカトして僕らの近くに座っている。

 というか、僕、香織さん、バツ、八重樫さんの順だ。二人に挟まれてるバツに嫉妬の視線がすごい。僕なら既に胃に穴が開いてると思う。こぼれ落ちた嫉妬の視線でも割と胃が痛いのに…バツの胃は何で出来てるんだろう?

 

 全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押してメイドさんが入ってきた。生のメイドさん!クラスの男子の半数以上が本物の美女・美少女メイドさんに釘付けである。なお女子の視線は氷河期の模様。

 かく言う僕やバツも、思わずメイドさんに視線を送る。どうやら清水くんも僕たちと同じような目をメイドさんに向けているようだ。一瞬険しい顔を向けた香織さんたちが、僕らの目を見てキョトンとした顔になっている。

 

「南雲くんもバツも、メイドさんってだけで興奮しそうなものなんだけど…なんでそんなジト目向けてるのよ?」

「いや、完全にハニトラ要員じゃねぇかこんなの」

「うん、そうでなくても彼女持ちの僕たちがメイドさんに目を奪われるとか、可愛い彼女に申し訳ないよ」

「ハジメくん…」

 

 小声でそんな会話をしつつ、明らかに付け焼き刃な拙い給仕をジト目で眺めつつ、全員に飲み物が行き渡るのを待つ。

 全員に飲み物が行き渡ったタイミングで、イシュタル老が話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱しておられることでしょう。一から説明させていただきますので、まずは私の話を最後までお聞きくだされ」

 

 そう前置きして、話し始めたイシュタル老の話は、実にファンタジー、実にテンプレ、そして実に自分勝手なものだった。

 今北産業。

 

 この世界は人間族、魔人族、亜人族の三種族が暮らすトータスって言うよ!

 人間族と魔人族は数百年単位で戦争してるよ!

 最近魔人族が魔物の使役をするようになったんで、数という人間族の優位性が崩れて滅亡のピンチだよ!

 

 …本当に三行にまとまるとは思わなかったよ。

 

「あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を作られた至高の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それゆえ、この世界より上位にあるあなた方の世界から、あなた方を喚ばれたのです。召喚が実行される前に、エヒト様から神託がありました。あなた方という救いを送る、と。あなた方はぜひその力を発揮し、エヒト様の御意志の元、魔人族を打倒し、我ら人間族を救っていただきたい」

 

 どことなく恍惚とした表情を浮かべるイシュタル(もう呼び捨てでいいだろう、この爺さん)。神託を聞いたときのことでも思い出してるのかな?

 とりあえずふざけたことを言ってる狂信者と、その同類しか存在しないであろうこの世界の歪さに危機感を抱いてると、先生がいきなり立ち上がって猛然と抗議を始めた。

 

「ふざけないでください!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!

 そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!

 私達を早く帰して下さい!きっとご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 御年二十五の社会科教師、畑山愛子先生。愛ちゃん先生とも呼ばれる彼女の抗議する姿に、周りの生徒はほっこりした表情をしている。いや、そんなほっこりしてる場合じゃないと思うよ?

 頭の中で色々と考えつつ、呆れた表情で周りを見ていると、次のイシュタルの言葉にほっこりしていた生徒たちが凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし…あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

 場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。

 誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。

 

「ふ、不可能って…ど、どういうことですか!?

 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

 愛子先生が叫ぶ。

 

「先ほど言ったようにあなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな。

 あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな…」

 

 硬直する愛子先生。

 

「うそだろ?帰れないってなんだよ!」

「いやよ!なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで…」

 

 パニックを起こす皆。僕も平気というわけではないけど、今はそんなことより考えるときだ。

 現状は最悪一歩手前、だけど最悪じゃない。最悪は奴隷として強制的に戦場行きのパターンだ。

 ちらりとイシュタルを見やる。パニックを起こす様子を静かに眺めているだけだ。が、その奥にどことなく侮蔑の光が見える。

 エヒト様に選ばれておいて、なぜ喜べないのか、とでも言いたいんだろう。

 こんな時、頼れる親友はどうするのか…ちらりとバツを見ると、天之河くんの方を見て…?

 

 ガタッ!パァン!ゴンッ!

 

 おもむろに天之河くんが立ち上がり、テーブルを叩こうとした、その瞬間。

 バツが手を打ち、その音で驚いてテーブルを叩きそこなった天之河くんが頭をテーブルに叩きつけていた。

 

 パンパンパンパンパン…

 

 バツはそのまま拍手をしながらゆっくり立ち上がる。

 皆がバツに注目するのを確認すると、バツはおもむろに話し始めた。

 

「いやー、黙って聞いてりゃ随分と自分勝手言ってくれやがるなァオイ?

 勝手に呼んで?帰せないから?戦争に参加してくれ?

 おまけにパニックに陥る俺ら見て、あんた、俺らの事侮蔑の目で見てたろ?

 おおかた神のご意思で呼ばれたのになぜ喜ばないんだこのクソガキどもは、とでも思っていたんだろ?ん?」

「い、いえ、そんなことは…」

「ちなみにここで首を縦に振らなかった場合、唯一の宗教として、異端認定でもして居場所奪うくらいするつもりだったんじゃないか?

 ああいや、答えなくていいぜ?ぶっちゃけ俺はお前のことを一切信用してないからな。口でなんと言っても信じる気はない」

「蔵兎咲!お前イシュタルさんに…」

「お前は黙ってろ正義バカ。

 さてイシュタルさんよ、ぶっちゃけ戦争とかまっぴらごめんだが、帰れない以上俺らに選択肢はない。

 だが、俺らは元の世界じゃただの学生だったんだ、戦争どころか生き物殺したことないやつの方が多いくらいさ」

「そこは訓練などを受けていただきますが」

「オーケー、だったら俺は参加するのも吝かじゃない。

 ただし、これだけは認めてもらうぞ?

 明らかに戦えない、または戦いたくない、そういう奴らは後方支援に配置することを認めろ。

 敵と戦うだけが戦争じゃない。補給や作戦指揮、生産職なんかも戦争では重要だ、構わないよな?」

「…致し方ありませんな。ただ、全員が後方、なんてことは認められませんぞ?」

 

 バツが譲歩の条件を示し、イシュタルがそれを認める。そしてこういうときに黙っていないのが我らのカリスマリーダー(仮)だ。

 

「安心してください、イシュタルさん!俺は、戦う力があるのなら、戦います!」

「へっ、お前ならそういうと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。…俺もやるぜ?」

「龍太郎…」

 

 無駄に歯を光らせて宣誓する天之河くん、それに追従する坂上くん。

 更に何人かの生徒が、彼らに追従して戦う決意を固める。

 

「というわけで、全員が後方ってことはなさそうなんで、さっきの条件を認めてくれよ。

 お前の言葉は信用してないからな、今この場で『エヒト様』に誓ってくれ」

「いいでしょう。戦えないもの、戦いたくないものを戦場に出さないことをエヒト様に誓いましょう」

「グッド、その誓い、破ってくれるなよ?」

 

 最後にバツがそう締めて、話し合いは終了した。




清水くん、今は空気
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