~南雲ハジメ~
橋の両サイドに、赤黒い魔法陣が現れて、そこから魔物が出てきた。一方は、無数の魔法陣から出てくる数百体に及ぶかとも思われる大量のガイコツ剣士、確か名前は、トラウムソルジャー。空洞の眼窩に赤黒い光を灯し、その数は未だに増え続けている。
そしてもう一方。十メートル級の魔法陣から現れた、体長十メートル級の四足獣。頭部に兜のようなものを取り付けたそれは、メルド団長の、そしてあのときのバツの言葉が正しいのなら、ベヒモス。その怪物は大きく息を吸い…
「グルァァァァァァアアアアアア!!!」
凄まじい咆哮を上げた。それにより正気を取り戻したのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「アラン!生徒たちを率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイル!全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前たちは早く階段へ向かえ!」
「待ってくださいメルドさん!俺達もやります!あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!俺達も…」
「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!」
「団長さんの言うとおりよ!私達がいても足を引っ張るだけ!まずは退路の確保が先決でしょう!」
メルド団長の言葉に続くように八重樫さんが天之河くんに撤退を促す。しかし彼は「見捨ててなど行けない!」とその場に踏みとどまった。
「~~~~~~~~~~♪」
そこに一小節ほどの歌が響き渡る。バツの声だった。しかし、何も起こらない。
「チィッ、やっぱりスケルトン系じゃなくてボーンゴーレム系かよ!『レクイエム』が効きやしねぇ!てめぇら、いつまでも呆けてねぇでさっさと立って戦え!!」
バツがそう叫びつつ、両手で剣を持ちトラウムソルジャーの群れへと突っ込んでいく。後ろでは、咆哮と同時に突進してきたベヒモスが、騎士三人の聖絶によって止められていた。その衝撃波で再度転倒していた生徒たちも、その叫びを聞き慌てて立ち上がり、がむしゃらに階段へと走っていく。
「『ぜんぎり』」
バツがつぶやき、剣を振るった瞬間、数百体はいたはずのトラウムソルジャーたちが全部吹っ飛んだ。しかし、魔法陣からは依然湧き出し続けている。それでも、数瞬の間で生徒たちはだいぶ階段に近づいていた。
そのままもう一度ぜんぎりを発動したバツは、後方からオートボウガンを撃ち続ける僕に近づき話しかけてきた。
「じゃ、ハジメ、予定通りに」
「正直怖いけど、了解したよ」
そんなやり取りをかわしつつ、僕とバツは天之河君達がいるベヒモスの方へ駆けていった。
ホルアドの宿でのやり取りを思い出しつつ。
「トラップ?」
「ああ、二十階層、今回の目標地点の部屋の一つにある転移トラップ、これで俺達はベヒモスという化け物とトラウムソルジャーというガイコツの群れに挟まれる大橋、そこに転移してしまう。ちなみにやらかすのは檜山のバカだ」
「一応まずは転移自体を防ぐような動きをするけどな。そこにいるロックマウントというゴリラの化け物が岩投げをしてきたら、実はそれもロックマウントなんだが、それを見た香織たちが気持ち悪さで顔を青ざめるんだ。で、それをみた我らが馬鹿之河くんが洞窟崩落させる気かバカってレベルの攻撃をぶっぱする」
「つまりまずはその岩石投げを阻止するのが先決ね」
「そしてもし投げられたら、僕がオートボウガンで迎撃」
「そう。それでもぶっぱしようとしたら、俺が止めるかそらすかする」
「そして、それでもトラップが露出したとしても、私はその転移トラップの鉱石を欲しがる素振りを見せないようにするんだね?」
「おう、檜山は香織に惚れてるからな。お前の気を引くために取りに行くから、ほしそうな素振りがなければ行かないとは思う。それでも取りに行こうとしたらやっぱり俺が止める」
「なぁ、オレと恵理の仕事は?」
「ここまでの間で転移阻止に成功したらないかな」
「えー、ボクつまんない」
「まぁまぁ、転移してしまった場合、後を頼むぜ?」
「さて、転移してしまった後だが、まずは俺が『レクイエム』を試す。これはアンデッド特効の『うた』でな、トラウムソルジャーがスケルトン系アンデッドだった場合、これだけで撤退成功が約束される。が、まぁ恐らく骨を使ったゴーレム、アンデッドじゃないと思うから、そのときは俺が『ぜんぎり』でぶっ飛ばす。で、ある程度階段に近づいたところで、『原作』通りに光輝を呼んできて皆の統率を取り戻してもらう。そうしないと階段についた時点で全員そのまま撤退しかねないからな。ちなみに一応ベヒモスはぶち転がす予定だ」
「僕はその時に一緒に行って、錬成での援護をすればいいんだね?」
「おう、下手したら死にかねない危険な仕事だが、頼めるか?」
「正直怖い、けど、まぁやってみるよ」
「ありがとな」
そんな会話を思い出しつつ、ベヒモスのもとへ向かう僕とバツ。むこうから天之河くん達とメルド団長のやり取りが聞こえてくる。
「えぇいくそ、もう持たんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」
「嫌です!メルドさん達を置いていくわけには行きません!絶対皆で生き残るんです!」
「くっ、こんなときにわがままを…」
「光輝、いいから早く撤退するのよ!団長さんの足を引っ張ってるのがわからないの!?」
「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ?付き合うぜ、光輝」
「龍太郎…ありがとな」
「状況に酔ってるんじゃないわよ、この馬鹿どもがぁぁぁぁ!!!」
「し、雫ちゃん…」
…うわぁ、この先の流れがわかってるせいか、八重樫さんマジギレモードだぁ…そしてここに飛び込まなきゃいけない僕…あぁ、なんか流石にイライラしてきたぞ…
「馬鹿之河くん!」
「なっ、南雲!?お前もその呼び方をするのか!」
「うるさい!いいからさっさと撤退しろこの馬鹿野郎!」
「そうだよ、とっとと撤退して皆のパニックを収めてきてよ、それがリーダーのやくめでしょ!」
「蔵兎咲まで…ここはお前達がいていい場所じゃ」
「うるせぇとっとと行って来いドアホウ!!!」
そう叫び、天之河くんの襟首を掴んで後方へ投げ飛ばす。と同時に…
「下がれぇーーーー!!!」
メルド団長の叫びと同時に障壁が砕け、ベヒモスが突っ込んでくる!
「錬成っ!」
僕はとっさに壁を錬成し、多少なりともベヒモスの勢いを殺すことに成功した。
「ナイスだハジメ!『まもり』!」
そして…なんとバツが生身でベヒモスの突進を受け止めた。話には聞いていたけど、『まもり』…すごいな。
「ここは俺達がなんとかします、メルド団長はそこの馬鹿勇者様を連れて撤退支援を!」
「だが!」
「こいつの突進を無傷で受けきった俺が、できると断言します。さっさと退路確保して援護してくれたほうが楽でいいんですが?」
「…わかった、まさかお前達に命を預けることになるとは…頼んだぞ!」
そう言って、渋る天之川くんを連れて後方に下がるメルド団長達。撤退の際、香織さんと目が合う。お互い無言で頷き、僕はバツとともに、化け物と対峙した。
「さぁて、ここまで来たら出し惜しみはナシだ。どうせこの後は高確率で離反ルート。全力で行かせてもらうぜ!」
「ははは、僕、必要なのかな?」
冷や汗を垂らしつつ、僕は僕のできることをやる。すなわち。
「オラァ、伏せだ!!」
「錬成!!」
バツが無理矢理ベヒモスの頭を地面に叩きつけ、僕がそれを拘束する。
「さぁて、いっちょ暴れさせてもらうか…魔法剣『フレア』」
いつの間にか、両手で持っていた剣を片手で一本づつ持ち、二刀流のスタイルになっていたバツが、その剣に魔力を纏わせる。ベヒモスは拘束されて動けない。
「行くぜぇ、『みだれうち』!!」
そう叫ぶと同時に、バツが高速の八連撃をベヒモスに叩き込む。結果…
「…あれ、死んだ?」
「死んだんじゃない?」
ベヒモスはピクリとも動かなくなりました。いや、本気で僕がいた意味ないんじゃないかな?というかもうバツ一人でいいんじゃないか?
「まぁいいか、退路確保できたみたいだし、撤退しようぜ」
「うん…なんかあっさり過ぎて嫌な予感がするけど…」
そう言いながら、二人でベヒモスに背を向け、階段の方に歩いていこうとすると…
「後ろだーーーーー!!」
「!?」
メルド団長の叫び声に、慌てて振り向くと、確かに死んでいたはずのベヒモスが、兜の角を赤熱化させこちらに攻撃しようとしてくるところだった。恐怖で体が動かない。
「えぇい、Ⅵのキングかよ!ハジメ、避けろ!」
バツがそう言って僕を突き飛ばす。次の瞬間、バツはベヒモスに吹き飛ばされて転がっていく。
恐怖による硬直が解けた僕は、攻撃により頭が地面に埋まったベヒモスを、すぐさま錬成で拘束し、バツの元へと向かう。
幸い、大したダメージはなかったらしく、バツはすぐさま起き上がって臨戦態勢を取っていた。
「…やっぱりアンデッドとして復活してるな…普通に倒せるだろうが…撤退したほうがいいかもしれないな、無限復活の可能性もある」
「でも、ベヒモスにそんな力は…」
「カミサマの介入の可能性もある。ここはおとなしく尻尾巻いて逃げようぜ」
バツはそう言い、拘束を破壊し攻撃してきたベヒモスをカウンターで再度地面に埋める。僕はそれを錬成で拘束する。
「よし、撤退!」
「ラジャー!」
二人同時に振り向き、ダッシュする。同時に、色とりどりの魔法がベヒモスの方へ飛んでいき、隣でバツが魔法を唱える声が聞こえる。そして、香織さんと八重樫さんがこっちに走ってくるのが見えた。ああ、やっぱりこの流れは変わらなかったのか…
僕は軌道を曲げこっちに向かってくる火球を眺めながら、昨日の会話の続きを思い出していた。
「へぇ、檜山がねぇ…」
「流石にこっちでの殺人第一号候補がクラスメイトとか、ボクドン引きなんだけど」
「しかも、風の適性を持つ自分が疑われないように火球を飛ばしてくるという周到さだぜ」
「それで、バツは私と香織に一緒に奈落に落ちてほしい、と?」
「それ、運が悪かったら死ぬんじゃないかな?」
「まぁ、最悪そうなるが…すまん、ハジメと香織と雫の命を俺にくれ」
「んー、まぁ、僕はバツを信じてるから構わないけど」「私もよ」「私はハジメくんを信じてるから」
「ごめんな…で、トシと恵理だけど…」
そんな会話を思い出しているうちに、目の前で火球が炸裂、僕とバツは衝撃で吹き飛ばされた。事前にバツが唱えていた防御魔法により、ダメージは最小限だが、それでも多少はふらつく。
耳もやられたらしく、香織さんと八重樫さん、バツや団長たちがなにか言っているが、それも聞き取れない。そうこうしているうちに、背後から衝撃波が来て、バランスを崩して倒れてしまい、橋にヒビが入って…
「ハジメ!」
「ハジメくん!」
「南雲くん!」
こちらに向かって飛び降りてくる三人の姿を見ながら、崩落した橋とともに、僕は奈落へと墜ちていった。
落下は回避できない、それが世界の修正力。
FFシリーズ簡単解説
・うたう(FFⅤ)
様々な効果を発揮する『うた』を歌うことができるアビリティ。基本的には歌っている間は他の行動ができず、その間それぞれの歌に対応した能力値が上がっていく。または歌うことにより様々な状態異常などを与えたり、味方にリジェネを付与したりすることもできる。こちらは発動ターンのみで、以降も普通に行動できる。
・レクイエム(FFⅤ)
アンデッドへ大ダメージを与える『うた』。魔力依存かつ高威力、全体攻撃のうえに防御魔法貫通のくせに消費MPは0とかいう、スペックだけ見ればただのぶっ壊れ。アンデッド以外には何の効果も発揮しないとは言え、対アンデッドでは文字通り無双の威力を発揮する。
・ぜんぎり(FFⅤ)
檜山たちにも叩き込んだ全体攻撃。そう、全体攻撃である。魔法剣が乗ったりするので割と強いが、今作はそんなことより、数百体の敵にも問題なく全体攻撃できるというバカみたいな強化が成されてしまった。正直ちょっとやりすぎた気もする。
・りょうてもち(FFⅤ)
一本の武器を両手で持ち、攻撃力を倍にする。盾が装備できなくなるので防御面は下がるが、正直縛りプレイでない限り盾はあまり使わないし気にするまでもない気はする。短剣などは両手持ち不可。別に武器を両手で握ったからと言ってさほど威力は変わらないとか言ったらダメ。後述の二刀流のせいで空気気味なアビリティでもある。
・まもり(FFⅤ)
ダメージは0じゃ(物理攻撃限定)
・にとうりゅう(FFⅤ)
武器を両手に一本づつ持つアビリティ。やろうと思えば二槍流でも二斧流でもできるし、なんだったら右手にベル、左手にロッドとかいう色物スタイルもできる。物理キャラなら必須レベルのアビリティの一つ。
・魔法剣(FFⅤ)
剣に魔法を付与し、様々な効果を発揮する魔法。属性魔法剣で弱点を突くも、状態異常魔法剣で敵を封殺するも自由自在。作中で出た『フレア』は、魔法剣では攻撃アップと敵防御減算という、純粋な物理特化の効果。
・みだれうち(FFⅤ)
威力半減の必中攻撃をランダムな相手に四回繰り出す攻撃。相手が一人なら単純な攻撃力は二倍。これだけだと少し強い攻撃でしかないが…
・魔法剣フレア二刀流みだれうち(FFⅤ)
防御減算超威力物理攻撃八回攻撃。後半だと大抵威力半減後で9999ダメージ、それが8回放たれる。個人的にはFFⅤを代表するぶっ壊れ攻撃の一つだと思っている。なお、魔法剣の部分を敵の弱点にすれば、古代の超戦闘兵器ですら2ターンキルである。
・Ⅵのキングかよ!(FFⅥ)
FFⅥのキングベヒーモスというボス敵は、倒したと思ったら同名のアンデッドモンスターにバックアタックされる。アンデッド化して蘇ったのか、元から二匹だったかは永遠の謎。