ありふれた無職が世界最強   作:夏影

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このあたりから割とオリジナル展開へとシフトしていきます。


第七話 脱出、糾弾~天之河が悪いよ、天之河が!~

~清水幸利~

 

 四人が奈落に落ちていく。オレと恵理は檜山のクソ野郎を睨みつつ、未だ健在なベヒモスに魔法を撃ち続ける。昨日話を聞いたときは、正直半信半疑だったが、マジでハジメに向かって、しかもバツの言った通りの火魔法をぶっ放すとは思わなかったぞ。檜山の適性は風、つまりこの場で火を選択する理由はないはずだ。おまけにあの野郎、ハジメに向けて魔法撃った瞬間はニヤニヤしてやがったくせに、白崎と八重樫が一緒に落ちるのを見た瞬間あからさまに動揺してやがる。

 

「香織、雫っ!クソ、せめて一矢報いてやる!!」

 

 天之河が詠唱を始める。

 

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ!全ての暗雲を吹き払い、この世を清浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!」

 

 詠唱クッソなげぇなおい、この詠唱の間にオレ闇弾十発は叩き込んだぞ?

 

「神威!!」

 

 天之河の詠唱終了と同時に、ベヒモスに向かって極光が迸る。おいおい、足元崩して奈落に叩き落とすんじゃないのかよ。本当につっかえねえなこの勇者サマ。

 

「恵理」

「オッケ」

 

 恵理に呼びかけ、視線をベヒモスの足元に。それだけでオレの意図を察した恵理は、どこからともなくベルを取り出す。オレも同じものを取り出し、光の砲撃が直撃した、ベヒモスがいた場所を睨む。

 

「よし、やったか!?」

 

 ご丁寧に天之河の馬鹿が旗を立ててくれた。現れるのはもちろん、無傷(バツの攻撃で元々傷だらけだが)のベヒモス。それを見て、騒ぎ出すクラスメイト達。一度はおさまっていた色とりどりの魔法の流星が再び流れ出す。

 オレと恵理は、そんな阿鼻叫喚の中、手に持ったベルをベヒモスに向かって振る。周りはオレ達に注目する余裕もないようで、俺達がやってることに気づいてるやつはいない。と…

 

「な、何だ?」

「揺れ、てる?」

「じ、地震?」

 

 地面がかすかに、しかし徐々に大きく揺れている。成功か…昨日聞いたときは半信半疑通り越して絶対ウソだろと思ったものだが…恵理に目配せしてどこへともなくベルを収納する。

 

「嘘だろ、こんなところで地震だなんて!」

「ちょっと、橋が…」

「く、崩れる!?」

「皆、早く階段へ!」

 

 皆が慌てて階段の方へと避難する。と、同時に本格的に橋が揺れ、ヒビが広がり、止まっていた崩落が再開する。

 

「グオォォォォォォォォ!!!!」

 

 断末魔の悲鳴を上げながら、奈落へと墜ちていくベヒモス。オレと恵理が使っていたベルは、『だいちのベル』というらしい。これでも武器の一種で、一定確率で地震が起きるベル、だそうだ。実際に地震が起きてるから本当のことだったんだろう。

 皆が階段へ避難し終わり、橋がほとんど崩落してしまった頃、地震はおさまった。

 

「よし、揺れもおさまったし、脱出だ!」

「待ってくださいメルドさん、まだ香織と雫が!」

「馬鹿野郎!今は生き残った奴らの安全が最優先だ!それとも何か、お前、ここを飛び降りて探しに行く気か!?」

「うっ…すいません…」

 

 メルドさんの発破でクラスメイトたちはノロノロと動き出し、階段を登っていく。オレと恵理は最後尾で、殿の騎士の人に聞こえないようにヒソヒソと会話する。

 

「…気づいたか?」

「…うん、あのエセ勇者、南雲くんとバツくんのことには言及しなかったね」

「…ああ、南雲とバツは死んだ、だけど白崎と八重樫は生きている。そう言いたげな言い方だったな」

「…これ、本当に地上であれ、やるの?」

「…会話になる気がしないんだよなぁ」

「…ボクもそう思うよ」

「「…はぁ」」

 

 二人で揃ってため息を吐き、とりあえず会話を終わらせる。それから黙々と階段を登っていき、体感で三十階強か?登った頃、魔法陣の描かれた大きな壁が見えてきた。

 メルド団長がフェアスコープを使い、罠の有無を確認する。どうやら罠ではなかったようで、詳しく魔法陣を調べ、式通りに詠唱をして魔力を流し込む。すると、壁が回転扉のようにくるりと回り、奥の部屋への道を開いた。そこは、例の二十階の部屋だった。

 

「帰ってきたの?」

「戻ったのか!」

「帰れた…帰れたよぉ…」

 

 クラスメイトたちが安堵の吐息をもらす。泣き出す女子やへたり込む男子、天之河も壁によりかかり、今にも座り込んでしまいそうだ。ちなみにオレと恵理は割と余裕がある。バツとの訓練の賜物だろう。

 

「おらおまえら、ここで気ぃ抜いたら帰れねぇぞ。ここはまだダンジョンの中だ、魔物に襲われても知らねぇぞ?」

「そうだよ、あそこほどじゃないにしても、ここの魔物でもボクらを殺すには十分な力を持ってるんだ、死にたくないなら早く地上に戻ったほうがいいと思うよ?」

 

 オレと恵理のセリフに、なんでお前らはそんな元気なんだ、死んだのはお前らの親友だぞ?みたいな目をむけられるが無視だ。

 オレと恵理がスタスタと部屋の出口に歩いていく。慌ててメルド団長が発破をかけ、他の生徒達も渋々と立ち上がり、オレ達は最短距離でダンジョンを脱出した。

 ちなみに道中の敵は、オレと恵理と騎士の皆さんであらかた片付けた。自分がまともに動けないのに、普通に戦うことができているオレ達に、天之河が敵意の視線を向けているのがわかった。さて、こいつの脳内ではオレ達は何者にされてるのかねぇ?

 

 

 

ダンジョンを脱出した後は、メルド団長が受付へと諸々を報告し、皆精根尽き果てたようにそのあたりにへたり込んでいる。

 

「な、なんだと!?」

 

 その時、メルド団長の驚きの声が聞こえてきた。という事は…よし、はじめるか。

 

「さて、無事脱出できたし、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいかな?…檜山」

 

 オレが名指しでそう問いかけると、あからさまにビクッとした檜山がこちらを睨んできた。

 

「な、何だよ清水。俺が何したっていうんだよ?」

「ん?オレは聞きたいことがあるといっただけで、お前が何かしただなんて言ってないぞ?」

「ッ!?」

「まぁ、語るに落ちるとはこのことだな。まさか初手でやらかしてくれるとは思ってなかったけど」

 

 オレがそんな話をしていると、メルド団長がこちらへやってきた。

 

「…?どうした幸利、何かあったのか?」

「いえ、ちょっとあの時、南雲に向かって飛んでいった魔法について聞きたいことがありまして」

 

 オレの言葉を聞いたクラスメイトたちが息を呑む。あれは誰がやったのかわかってないからな、自分だったらどうしようと考えてるんだろう。

 

「清水、皆は疲れているんだ。今この場でする話じゃあないだろう?」

「天之河は黙ってろ。安心しろよ、もう犯人はわかってるから。…なぁ?檜山?」

「…!お、俺がやったって証拠がどこにあるんだよ!あの時飛んでいった魔法は火、俺の適性は風、俺じゃねぇ!」

「オレは同意を求めただけで、お前が犯人とは一言も言ってないんだがな?」

 

 そんなオレの言葉に声をつまらせる檜山。そこに恵理の追撃が入る。

 

「ところで、あんな状況下で南雲くんに飛んでった魔法の属性把握できてた人なんているの?ボクはベヒモスじゃなくてバツくんと南雲くんの方見てたから把握してるけど」

「いや…」

「さすがに、なぁ?」

「魔法で吹き飛ばされたのはわかったけど、属性までは…」

「私達、ベヒモスの方しか見てなかったから…」

「うん、普通そうだよね?ベヒモスに魔法撃つんだもん、ベヒモスの方見てるはずだから、南雲くんの方へ飛んでった魔法の属性なんてわからないよね。

 …ねぇ檜山くん?なんで飛んでいった魔法が火属性ってわかったの?」

 

 オレと恵理、二人の追求に言葉を返せない檜山。そこに割り込むは我らがご都合正義バカ。

 

「待て、待ってくれ!清水と恵理は檜山がわざと南雲と蔵兎咲に魔法を撃ったと言いたいのか!?」

「ああ、その通りだ。実際オレと恵理は見てたからな。檜山が笑いながら、火属性魔法を撃つ瞬間を」

「ちなみにその魔法が南雲くんの方に軌道を変えるのも確認済みだよ。あとボクを名前で呼ばないでって何度も言ってるじゃん」

「ち、違う!わざとじゃ…そう、わざとじゃないんだ!そもそも俺は火のほうが好きで、かっこいいと思ってたから…だからあの時、火属性魔法を使って…適正じゃなかったから、制御をミスって…わざとじゃなかったんだ!許してくれ!頼む、このとおりだ!」

 

 そんな言い訳をしながら、皆の前で土下座をする檜山。

 

「…檜山も反省してるし、俺は許そうと思う。清水も恵理も、矛を収めてくれないか?友人が死んで、許せない気持ちはわかるけど…」

 

 そんな事を言いはじめたのはもちろん天之河。何いってんだこいつ?

 

「何いってんだお前。あいつを許す権利があるのは南雲だろ?なんでお前が勝手に許してるんだよ?」

「だが、南雲は死んだ。だったら、生き残った俺達が彼らの遺志を継いで、この世界に平和を取り戻すために一致団結するべきじゃないか?」

「あー、そのことなんだが…」

「メルド団長、ごめんなさい、これはボク達の問題ですから」

 

 何か言いたそうなメルド団長を恵理が華麗にインターセプト。うん、グッジョブ。

 

「遺志?遺志って言ったかお前?バツも南雲も戦争反対派だったのに、その遺志がこの世界の平和?なに寝言言ってんだ」

「それは…」

「それに、白崎と八重樫も一緒に落ちてるんだぞ?それでもお前は檜山を許せるっていうのか?」

「香織も雫も優しい女性だ。きっと檜山を許してくれるさ。それに、きっとあの二人は生きてる。俺の助けを待ってるはずさ」

「はぁ?バツと南雲は死んだのに、一緒に落ちた白崎と八重樫は生きてる?お前、どこをどう考えたらそういう思考に行き着くんだよ?」

「それに天之河くん?そもそも全ては天之河くんのせいなんだけど、その自覚はあるの?」

 

 オレに続いて、恵理のターンだ。

 

「なにを言ってるんだ恵理、俺が一体何をしたっていうんだ?」

「確かに檜山くんも悪い、というか実行犯は檜山くんだしね。あそこにワープさせられた直接の原因も、檜山くんが軽率な行動をとったからだ。これはそう簡単に許していいことじゃないと思うんだけど?」

「だが檜山は…」

「わざとじゃなくても、日本の法律ではアウトなんだよ?まぁ、ここは日本じゃない。だから日本の法律を適用すること自体がナンセンスだと思う。さてメルドさん?この場合檜山くんにふさわしい刑罰は?」

「…まぁ、普通に考えれば処刑だな。しかし…」

「という事で、トータスの法に照らし合わせても檜山くんは処刑らしいよ。それを、勇者様の威光で捻じ曲げるのかい?」

「俺は仲間を死なせない!」

「既に四人死なせてるよね?」

「香織と雫は死んじゃいない!」

「じゃあ南雲くんとバツくんは?あの二人は仲間じゃないっていうの?」

「それは…」

「それに、だよ。あの二人が落ちたのはベヒモスからの撤退時に檜山くん…もうくんはいらないかな?檜山に魔法を撃たれたからだ。本人がなんと言おうが、ボクも幸くんも檜山は故意的にやったと確信してるけどね。

 それはともかく、問題は『じゃあ、なぜあの二人があそこにいたか』だよ」

 

 恵理のセリフに続けるようにオレが言葉を引き継ぐ。

 

「なぜあの二人があそこにいたか、簡単な話だ。どっかの勇者様がメルド団長の指示を無視して、倒すどころか傷をつけることもできやしないベヒモスに、無駄な攻撃を繰り返していたからだ。八重樫も、撤退するように言ってたはずだけどな…この件については坂上、天之河に追従したお前も同罪だ」

「お、俺かぁ!?」

「当たり前だ。お前達がとっとと団長の指示を聞いて後退していれば、南雲もバツもお前らのところへ行く必要はなかった。つまり、指示を無視したお前らにも責任はあるってことだ。現状の最強技で傷一つついてなかった以上、メルド団長の言葉は正しかった、それが全てだ」

「い、言いがかりだ!」

「言いがかりじゃないじゃん。実際メルド団長の指示を無視したよね?それに、あの転移トラップ。あれも、天之河くんがあんな壁崩落するような技放たなければ転移トラップが露出することはなかったよね?まぁこれは結果論だけど、なんにしてもあんな技、崩落の危機がある洞窟で放つ技じゃないし、雫ちゃんが突っ込んでることにも気づいてなかった。注意力散漫にもほどがあるよね?」

「そ、それは…」

「そもそも論だが、なぜオレ達がここで訓練をすることになった?お前が戦争参加を表明したからだ。それがなければ、オレたちが命の危機に陥ることはなかった」

 

 これに関しては、戦争参加を表明していなかったら異端として粛清されてた可能性もあるし、どっちが良かったってわけじゃないけどな。まぁこんな事になった遠因の一つではある。

 

 

「もっと言ってしまえばさぁ…天之河くん、勇者じゃん?」

「あ、あぁ、そうだ。だから俺は…」

「今はそういうのいらないから。そう、天之河くんが勇者なんだよ。そして、教室でのことを思い出してみて?」

 

 恵理の問いかけにクラスメイトたちが考えはじめる。

 

「教室でのこと?」

「なんだっけ?」

「あ、そ、そういえば…」

「気づいた人もいるみたいだね?そう、あの魔法陣は天之河くんを中心に展開していた。つまり、ボク達は天之河くんの勇者召喚に巻き込まれた、ってことなんだよ」

 

ΣΩΩΩ<な、なんだってー!?

 

 なんかどっかのMMRみたいな驚愕っぷりだな皆。

 

「言ってみれば、ボクらは全員、君の召喚に巻き込まれた被害者なんだよ?それを扇動して、戦争に参加させて。愛ちゃん先生の反対も無視して。戦争に参加しないといったバツくんに噛み付いて。仲間を守るとか言いながら勝てもしない化け物に無謀な戦い挑んで。バツくんがいなかったらあの骨に何人か殺されてたんだよ?」

 

 オレと恵理の糾弾にぐうの音も出ない天之河。しかし、恵理の言葉に反応したのは周りの方だった。

 

「そ、そういえば、二回ほど骨の群れが吹き飛んだよな」

「あれ、バツがやったっていうのか?」

「そんな、無職のバツがそんなことできるはずが…」

「…そうか、蔵兎咲のやつ、魔人族側と繋がっていたんだな!南雲もだ!オタクの蔵兎咲や南雲が、あんな力を持っていたり、あんなものを作り出せるわけがない!香織と雫は洗脳されていたに違いない。清水、おまえもだ!魔人族側について恵理を洗脳してるんだ!そうだろう!!」

 

 天之河のご都合解釈が炸裂である。さすが馬鹿之河、こちらの期待を全く裏切ってくれない、というか…

 

「くくく、くはははは、はーっはっはっはっは!!!」

 

 流石に堪えきれなくなったのか、聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。というかなんで八神庵なんだよ…。




最後の笑い声の正体は…!?

今回の勇者様(笑)への糾弾は前々から作者が思っていたことです。ちゃけば全部馬鹿之河が悪くね?と。
召喚されたのは勇者天之川、周りは巻き込まれただけ。
戦争に積極参加を表明したのは勇者天之川、即賛成した筋肉は同罪。雫ちゃんは他に解決策がなかったので仕方ない、と消極賛成なので情状酌量の余地はあり。香織ちゃんは…もうちょっと自分で考えましょう。周りは煽動されただけ。
壁を崩して罠を露出させたのは勇者天之川。洞窟の中でバ火力ブッパしなかったら壁も崩れず罠の露出もなかった。檜山はギルティ。周りは(ry
ベヒモス戦で皆を危険に晒したのは勇者天之川。とっとと後退してクラスメイトをまとめて突破していれば悲劇はなかった。檜山はギルティ。周りは(ry

そりゃ公式で勇者(笑)言われますわ。

FFシリーズ簡単解説
・だいちのベル(FFⅤ)
伝説の12武器の一つ。装備すると地属性が強化され、攻撃時に確率で地震が発生。地震の威力は魔力依存。しかし、最速入手時点で地属性攻撃自体がほぼ空気と化している上、装備できるのは風水士とすっぴんのみ。風水士自体はそこまで使わないし、すっぴんが装備する場合は上位互換とも言える武器が存在する。などなど、原作で活用するには割と愛が必要。誰だ伝説の11武器と目覚ましのベル一個とか言ったやつ。
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