~蔵兎咲跋~
「くくく、くはははは、はーっはっはっはっは!!!」
流石に予想通りすぎる馬鹿之河の理論展開に我慢できなかった俺は、思わず含み笑いを漏らしてしまい、我慢できずにそのまま大爆笑へと移行してしまった。これどっかの月を見るたび思い出す人の三段笑いみたいになっちまったな。
「え、蔵兎咲!?」
「嘘、なんで…」
「生きてたのか!?」
「他の三人は!?」
クラスメイトが騒ぎ出す。そりゃ奈落に落ちて死んだって思われていた人間が、生きて普通に現れたら驚きもするだろう。
「跋、お前今どこから…」
「ずっとここにいましたよ?全員気づいてなかっただけで。ほら、他の三人もそこに」
メルド団長の問いに答え、少し離れた場所を指差す。そこには馬鹿之河を睨む香織と雫、土下座の体勢を取る檜山を複雑そうに見るハジメの姿があった。そっちを見たクラスメイトたちは、再び驚きの声を上げた。ちなみにずっとこの場にいたのは本当だ。ただインビアで姿を隠していただけである。
「し、しかしさっきまでは確かに…」
「疲れていて見落としただけじゃないですか?死んだと思っていた人間がまさか普通にここにいるなんて思わなかったでしょうし」
「い、いや、しかしお前…」
「香織!雫!無事だったのか!」
メルド団長のセリフを遮り、香織と雫の下へ駆け寄る馬鹿之河。次の瞬間、パァーン!と、すごくいい音が響いた。香織と雫が馬鹿之河の頬にビンタした音だ。え、二人でビンタしたのになぜ一回しか音がしなかったか?全く同時に左右の頬を挟むようにビンタしたからだよ。あれ衝撃逃げないから相当いてぇぞ。
「!?な、なにを…」
「すいません天之河さん。私に近寄らないでいただけませんか?」
「ごめんなさい天之河さん。気軽に名前を呼んでほしくはないかな?」
動揺し、震える声で問いかける馬鹿之河…あれ、あいつの本当の名字って天之河なんだっけ?まぁいいや馬鹿之河で。馬鹿之河に、二人が拒絶の意思を伝える。おーおー、名前の呼び方まで変えちゃって。
「いや、ふたりとも、名字読みに変わった理由はわかるけどさ、なんでさん付け?」
「君付けや呼び捨てにするほど」
「親しみを持てない、かな?」
「うわぁ…」
ハジメの問いに答える二人。哀れ馬鹿之河、扱いがミストさんと化す。いや、同列扱いは流石に失礼か、ミストさんに。
「…南雲ぉっ!二人に一体何をした!」
「別になにもしてないよ天之河くん。と言っても君は信じないんだろうけど」
「当たり前だ!二人が俺にこんな態度を取るはずがない!ならお前か蔵兎咲がなにかしたに決まってる!」
「うん、じゃあそれでいいよ」
「何?」
「僕が何もしていないと本当のことを言っても、君の中では既に僕やバツが何かをしたと確定していて、そしてそれを曲げる気がない。だったら僕が何を言ってももう無駄。意味がない。
だから、君が想像通りのことを僕らがやった。そういうことでいいよ、ってことだよ。僕も、香織さんも、八重樫…いや、雫さんも、そしてもちろんバツも。もう君に何も期待はしていない、ってことだよ」
ハジメに睨まれながら…いや、あれは憐れみか。哀れんだ目で見られながら、そんなことを言われる馬鹿之河。失礼な、俺はまだまだ期待してるぞ。楽しく踊ってくれる道化としてな。
「…そうか、やはりお前らは魔人族と繋がっていたんだな。そして雫や香織を洗脳して…奈落に落ちて生きていたのも魔人族が…」
「おーい、馬鹿之河」
「何だ蔵兎咲!お前も魔人族と…」
「レビテト。」
馬鹿之河に声をかけ、噛み付いてくるヤツを無視してレビテトを唱える。俺の体がふわりと宙に浮く。
「な、な…」
「ほれ、後ろ」
「後ろ…?なぁっ!?」
全体掛けを意識したので、ハジメや雫、香織も宙に浮いている。
「この魔法で適当に軟着陸、そのあとテレポっていう、まぁ脱出魔法か。それを使ってぱぱっと脱出。受付にダンジョン内で起こったことを軽く説明。詳細は後から脱出してくるであろうメルド団長に聞いてくれと伝え、皆が出てくるまで待っていた、と、まぁそういうことだが、どのへんに魔人族が介入する余地があったか教えてくれないか?」
「その魔法だ!この世界に空を飛ぶ魔法やダンジョンを脱出する魔法があるなんて聞いたことがない!」
「そりゃそうだ。これは俺の最終幻想スキルに内包されていた魔法の一つだし」
「嘘だ!」
「お前がそう思うならそうなんだろうよ、お前の中ではな」
投げやりにそれだけ言って、ディスペルを使いレビテト状態を解除する。流石に永続浮遊状態はまだ慣れてない。
「さてさて、んじゃこっからは楽しい楽しいダンガンなんちゃらや逆転なんとかのお時間だぞ」
「何?」
さぁこっからは舌戦のお時間だ。まーたセリフばっかりになるなぁ。まぁこれは小説じゃなくて現実だ。現実なんてそんなもんだ。
「まず最初の疑問だ。なんでお前は俺やハジメ、トシが魔人族側についた、と思ったんだ?俺達はずっと城で訓練していたんだ。接触する機会なんてなかったはずだぞ」
「それは…魔人族が忍び込んで」
「異議あり!城の警備をすり抜けて侵入できるなら、暗殺でもしたほうが早いし確実だ。それにわざわざ接触するのが、闇術士のトシならともかく、無職の俺と錬成師のハジメなのはおかしい」
「ぐっ…ならこの街で…」
「それはおかしいよ!この街で個人行動してたタイミングなんて宿の中だけだ。同じ理由で暗殺のほうが手っ取り早い」
「うっ…」
はい論破。
「で、次の疑問だが。まぁ仮にだ。俺達三人が魔人族と接触して寝返ってたとしよう。なぜ雫達三人は俺らが洗脳したと思った?」
「やはりお前達は魔人族に!!」
「お前仮にの意味知らんのか?仮定だ仮定。で、なんで三人は洗脳だと?」
「香織たちが魔人族側につく理由がない!」
「理由は俺達にもないんだが。まぁいいや。その場合のムジュン点その1。洗脳するならまず勇者であるお前を最優先にするわ」
「なっ」
「ムジュン点その2。本当にこんな短時間で洗脳する力があるなら、もっと戦力高いやつを洗脳するよ。坂上とか遠藤とか。特に脳筋の坂上は洗脳に弱そうだし」
「俺!?」
「ムジュン点その3。そもそも洗脳なんて力どうやって手に入れるんだよ」
トシの闇術でできるけどまぁそこは置いといて。
「魔人族にもらった力だろう!」
「はい、ここでさらなるおかしな点が出てきたな。仮定に仮定を重ねた結果、俺たち三人は魔人族と接触し、洗脳する手段をもらって女子三人を洗脳した、という設定になってる事がわかった、というかさっき声高に叫んでいたことだが」
「それがどうした!」
「ここで根本的な疑問だ。魔人族から洗脳の仕方を教わったなら、その魔人族は洗脳の方法を知っていた、ということになる」
「卑劣な魔人族ならおかしくはない!」
「んじゃ、なんで俺たち三人が、そもそも魔人族に洗脳されてる、って発想が出ないんだ?」
「っ!?」
「洗脳、という発想が出た時点で、普通なら俺達も裏切り、離反じゃなくて、洗脳されたんじゃないか?って発想が出てきてもおかしくはなさそうなもんだけどな?なんでその発想がなかったんだ?単純に思いつかなかっただけか?まだそこまで考えてなかっただけか?」
「そ、それは…」
「……」
「……」
「なぁ、天之河」
「な、なんだ?」
「お前、何をそんなに悩んでるんだ?」
「え?」
「普通、思いつかなかっただけとか考えがそこまで回ってなかったとまで言われたら、肯定するよな?冷静に考えたらその通りだと認めるよな?俺の言ってることが的外れだ、というならともかく、特に矛盾点もない、当然の話だったよな?」
「ぐっ…」
「なのにお前は必死に、俺の話を否定することを考えてる。なんでだ?」
「そ、それは…」
一拍おいて、俺はこの馬鹿にとどめを刺す。
「…お前は、俺達三人に敵であって欲しいんだよ。
南雲と蔵兎咲は奈落に落ちた。あんなところに落ちて生きてるわけがない。俺は仲間を死なせたのか?いいや、俺は仲間を死なせない。ならあの二人は?そう、あの二人は敵だったんだ。香織と雫が一緒に落ちた?いいや、彼女たちは生きている。だって、俺のヒロインの二人が死ぬわけないから。なぜ二人と一緒に落ちた?そうか、あの二人が何かをしたんだ。つまり、南雲と蔵兎咲は敵で、雫と香織は奴らに洗脳されただけ。俺はまだ仲間を失ってはいない!
以上、お前が無意識のうちに脳内で組み上げたであろう物語だ」
「そんなことは!」
「無意識って言ったろ?お前は無自覚に全部自分が正しく、自分の思い通りになるシナリオを脳内で組み上げ、それを真実だと思いこんで行動するっつー悪癖があるんだよ。それもガキの頃から。いってみれば完治不可能なエターナル中二病、ご都合解釈の極み。だって自覚してないんだからな、他人から言われてもそんなことはない、としか思わない。治るわけがない」
俺はため息をつき…
「お前は次に「「うるさい!俺は間違ってない!俺と戦え、蔵兎咲!」」と言う」
「なっ!?」
「本当に昔っから変わらねぇな。自分の間違いを指摘されたら逆ギレして、決闘という名の暴力で解決を図る。お前は剣道の才能があったし、素手の戦いも強かった。だからお前に勝てるようなやつは少なかった。勝てば官軍、いい言葉だな。まさにその通りだ。お前は最後は暴力に物を言わせて、勝ったほうが正義、ってやつを実践してきたよな?」
「っ…!」
「挙句の果てには、無職相手に勇者様が聖剣握って決闘要請。普通に考えて、俺に勝ち目あると思うか?」
俺の言葉に、視線だけで人を殺せそうな目つきでこちらを睨む馬鹿之河。さて、最後の仕上げと行こうか。
「いいぜ、いつでも、どこからでもかかってこい」
「…なっ!?」
俺の言葉に驚く馬鹿之河。おいおい、決闘挑んできたのはそっちだろ?
「勇者様のお前が、無職の俺をボコって、自分の我を通すんだろう?ほら、さっさとかかってこいよ。俺は武器も持っていないぞ?」
「…後悔するなよ、行くぞ!」
勇者は聖剣を抜き、斬りかかってくる。そこそこ速いな。俺は動かない。そして勇者は、俺の体を袈裟斬りに…する直前で、剣を止めた。
「見ろ、反応すらできぐぺぺぺぺーっ!?」
「寸止めするのがわかってるのに動く必要がどこにあるんだ?」
剣を寸止めし、勝ち誇る勇者の顔面を殴り、ぶっ飛ばす。なんかサハギンみたいな悲鳴を上げてぶっ飛んだな。
「ひ、卑怯な…勝負はついていたはずだ…」
「かってに俺の負けを決めるなよ。それが許されるなら今この場で俺の勝ちを宣言してやるぞ?」
「くそ、怪我しても文句は言うなよ!」
そう言うと、馬鹿之河は再度俺に向かって斬りかかってきた。俺は魔法を唱え、軽くバックステップをする。
「もらった!なにっ!?」
「ブリンク。自分の分身を生み出し、物理攻撃を回避する魔法だ」
「卑怯な!正々堂々と勝負しろ!」
「お前術士相手に同じこと言えるの?」
「お前は術士じゃないだろう!」
「術が使える人間に術縛りを科すのがお前の言う正々堂々かよ?」
超一流の剣士と超一流の魔法剣士の勝負で、魔法剣士側に魔法縛りをするようなものだ。剣一流、魔法一流、合わせて超一流の魔法剣士の魔法を縛れば、残るは一流の剣士。超一流の剣士に勝てる道理はない。いや別にそう決まってるわけでもないが。
とにかく、魔法縛りを言い渡されたならおとなしく縛ってやろう。ぶっちゃけそれでも負ける気はしない。
再び斬りかかってくる馬鹿之河。ホント馬鹿の一つ覚えだな。俺はあっさりと剣をかわし、カウンター気味に拳を叩き込む。
「ぐっ…卑怯者め!避けるな貴様っ!」
「え、俺棒立ちでお前の剣を受けない限り卑怯者扱いなん?」
つうかどこのマシュマーさんだお前はよ。まぁいいけどさ。
四度斬りかかってくる馬鹿之河。俺はあえて棒立ちでその袈裟斬りを受ける。なお防御を抜けなかったらしく微々たるダメージしか受けていない。そして今度こそ、正真正銘のカウンターが発動する。俺は馬鹿之河の顔面に、渾身のワンツーパンチを叩き込んだ。
「ぐ…卑怯…も…の…」
「勝手な寸止めに反撃しても魔法使っても普通に避けても棒立ちで剣戟受けても卑怯者って…え、何、攻撃すること自体が卑怯なの?それとも「俺に勝つなんて卑怯者」とでも言いたいのかこの馬鹿は?」
結局最後まで俺を卑怯者呼ばわりしながら、馬鹿之河は気を失ったのであった。
「さて、まぁこんな事になってしまったわけだけど、クラスメイト諸君。そしてメルド団長殿。さっきまでのこの馬鹿を見てどう思った?端的な意見を聞きたいんだが」
俺は、話の流れについて来れずに、呆然としていた皆を見回した。
※現在位置はダンジョン前広場です。大事なことなので二回言いました。
周りに迷惑にもほどがある。
普通に考えたら、六人まとめて洗脳されたって思うのが当たり前なんですけどね。だが天之河なら違和感ないと思ってしまうのがどうにもこうにも。
最初はバツ君は天之河に殺される予定でした。が、どう考えても防御抜けないよな、と思いこのような流れに。
FFシリーズ簡単解説
・インビア(FF)
初代FF、FFⅠなどと呼ばれるファイナルファンタジーシリーズ記念すべき第一作にのみ登場する魔法。インビジという姿を消す魔法の上位魔法。ゲーム内効果は姿を消して回避率+40。効果範囲が全体化されている。下位のインビジは他作品に出たこともあるが、インビアは初代だけにしか存在しない。
・レビテト
空中浮遊魔法。浮遊して地属性ダメージを無効化し、溶岩地帯などのダメージ床のダメージを無効にすることもできる。浮遊であって飛行ではないので、落下した場所に戻るのは不可能。というか原作中でも落とし穴は回避できない。割と低空しか飛べないようだ。…そんだけ低空なら普通に溶岩の熱でダメージ受けそうなものだが。
・テレポ
戦闘離脱やダンジョン脱出に使う魔法。使う機会はそこまで多くはない。Ⅴで言えば孤島の神殿や大海溝くらいでしか使った覚えがないし。
・ブリンク
分身を生み出し、相手の物理攻撃を完全回避する魔法。ただし出てくる分身の数は決まっており、一度攻撃されると一つ消える。最大数以下になれば重ねがけができる。らしいけど作者は使ったことほぼないので詳しくは知りません。
・カウンター(FFⅤ)
モンクのアビリティ。物理攻撃を受けた際、一定確率で反撃を行う。まもりと組み合わせたら、脳筋相手だと完封できる。
・サハギン(FFⅣ)
うっ ぐぺぺぺぺーっ!
・ミストさん(スパロボK)
ある意味伝説のスパロボ主人公。詳しくは二コニコ大百科やpixiv大辞典を参照。個人的には敵側に回ることのないミストさんのほうがマシかな、と思います。