沈殿する思い出に   作:横電池

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はじまり

 

 

 

 幼馴染のカザミは、はっきり言って変な奴だ。

 

『コール君、実は私、前世の記憶があるんだ』

 

 なんて突然言いだす奴だ。

 特別感を出したいお年頃なアレとかではなく、小さいころから言っちゃう奴。

 まだ僕も幼かった時期は、素直にその言葉を信じていたが、さすがにもう信じれるほど素直な歳じゃない。

 

 ある程度の年齢になってもなお前世の記憶がどうとか言いだすものだから、彼女は自然と周囲から浮いてしまっていた。その事も今回の発言に関係するかもしれない。

 

「おーい、コール君。聞いてる?」

「……ごめん、もう一回言ってくれないかな?」

「昨日夜更かしでもしてた? まぁいいよ。とにかく私は恋人に会いに行ってくるから」

「うん、恋人なんていないよね?」

「今世は! 前世はいたの!」

「うん、それはいないって言うんだよ」

 

 前世の記憶云々がたとえ本当だとしても、今の人生にいないならカウントできません。

 

「だから今世でも前世の恋人と付き合うためにね! 会いに行くの! 愛に生くの!」

「何言ってんだこの人」

 

 前世設定を出すならもうちょっと大人の落ち着きを持ってほしい。設定が甘すぎるよ。それとも精神年齢は記憶と比例するわけじゃないって感じでいくのかな。

 

「というかカザミ、突然『前世では恋人でした。だから付き合ってください』とか言ったらどう思われるかわかってる?」

「運命を感じて胸キュン?」

「うん、前向きすぎるよね。たぶん変なナンパとしか思われないよ」

「大丈夫! ちゃんと前世を証明するから! ナンパじゃわからないことまで事細かにあの人のプロフィールを話したら信じてもらえるでしょ!」

「こわすぎだよね」

 

 確実にヤバイストーカーにしか思われないよ、それ。

 

「そもそもその人は実在するの? 想像上の生き物なのでは?」

「コール君どんどん冷たくなってない!? 実在するよ! 名前はアンドリューで今の年齢は40歳! ちなみに来月が誕生日だから誕生日のサプライズに会いに行くの! 私と付き合ってた頃は22歳の若さで自分の喫茶店を持ったすごい人だよ! 性格は見栄っ張りで素直になれないタイプで、今風に言えばツンデレって感じだったなぁ」

「うわぁ……」

「何その反応!?」

 

 こんな妄想を今まで秘めていたなんて、どうしてこの幼馴染を放っておいていたのだろう。もっとしっかり話を聞いてあげて、それとなく普通の人生に導いてあげるべきだったのではないか。

 

「……」

「生暖かい眼差し向けないで!」

「……いいんだよ。もう、カザミはそのままでいいんだよ。僕が、ちゃんと面倒を見るから……」

「私の扱い本当にひどくない?」

「ひどくない、ひどくない」

「とにかく! そういうわけで旅立ちます!」

「素直に外国へ旅行したいって言えばいいのに」

「旅行じゃないから! 運命を手繰り寄せる旅だから!」

 

 いっそ旅行であってほしいんだけど。

 さっきの話もカザミにとっては大真面目なんだろうなぁ。事実かどうかは置いておいて。

 

 まぁこんな変な幼馴染。正直一人で旅をさせるのは心配なわけで。こう、周囲への迷惑的な話で。

 

「僕も一緒に行くよ」

「え?」

「だってカザミだけじゃ心配だしね」

 

 キョトンととぼけた顔をしたので理由を説明したら、だんだんと彼女の表情がニヤニヤとしたむかつくものに変わっていった。

 

「コール君、私がいないと寂しいって素直に言えばいいのに~」

「ソウダネー」

「でもごめんね? 私には大事な恋人がいるから、コール君の気持ちには応えられないの……」

「何を……っ! て、展開飛んでないかなぁ!? あと恋人いないじゃん!」

「いーまーすー!」

「前世は数に入りませーん!」

 

 わーきゃー騒ぎ合って疲れたこともあって、あと準備などもあるので、出発は明日ということになった。

 

 

 

 

 

 いくつもの馬車を乗り換えては目的地へと目指す。

 前世の恋人のいる国まで設定しているカザミの妄想力には恐れ入る。行動力も半端ない。

 

 他の乗り合い客もいるので小声で気になることを聞いた。

 

「別に信じてるわけじゃないんだけど、前世のカザミはどういう設定だったの?」

「その前置きいらなくない? あと設定って言葉もいらなくない?」

「いいからいいから」

「もう……、前の名前はアルルア。享年21歳という若さでこの世を去った薄幸の女の子」

「へー」

「自分から聞いといて反応薄い……」

 

 特にできるリアクションがないよ、今の話だけじゃ。

 

「その時は遺跡の探検家をしててね~。馴れ初めは偶然立ち寄った喫茶店があの人ので。馬があったっていうか、とにかく盛り上がってね~」

「うわ、スイッチ入っちゃった」

「それから何度も喫茶店を通うようになっちゃって、時々お店手伝ったりしてさ~。常連さんからは時々二人の仲をからかわれたりしてね、その度にあの人は『か、勘違いすんな! こいつとは店と客の関係なだけでだな!』ってもう顔を真っ赤にしちゃって、今思えばお手本みたいなツンデレね!」

 

 だんだん声が大きくなっていってるカザミが恥ずかしい。この人、馬車には他に乗客がいることをもうすっかり忘れているよ。

 

「今の話だと付き合ってない気がするけど」

「まぁ……、結局付き合えなかったから。互いに好き合ってはいたんだけどね~」

 

 あー、悲恋話展開にするつもりだ。

 本人同士は互いに愛し合ってたけど家族が反対とか、そんな感じのやつだ。

 

「そのころ近くに遺跡が見つかってね。で、私は遺跡探検家としてそこに行ったん、だけど……」

 

 言葉が詰まり始めた。

 ということはそのあたりの設定はしっかり練り込んでいなかったのだろうか。カザミにしては珍しい。

 

「……その遺跡に行く途中に深い渓谷があってね、その崖壁にも人工物の通路みたいなのが見えたの。位置関係からして発見された遺跡の一部だと思って、その崖壁から入ってみようとして……、入れたはいいんだけど戻るためのロープがねー。確認のためにぐいぐい引っ張ったら千切れちゃってねー。戻れなくなっちゃって……。そこで餓死だったか自殺だったか……、まぁどっちかが死因」

「……ふ、不幸な話を聞かされて反応に困る」

「めんご。やっぱりコール君は優しいなぁ。お姉さんは誇らしいよ」

「うん、同じ歳だよね?」

「精神年齢が違うから」

「うん、カザミの精神年齢ってそんなに高くないよね?」

「ひどくない!?」

 

 ごほん、と大きな咳ばらいが他の乗客から聞こえた。少しずつ僕も声が大きくなっていたようだ。

 

「し、静かにしなきゃだね。ちょっと眠くなってきたし寝るよ」

「うん、僕も少し寝ようかな」

 

 目的地までまだ距離があることだし、ガタガタ揺れる馬車の中で二人並んでうたた寝をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 揺れに揺られて3週間ほど。

 

「やーっとついた!」

 

 カザミの目的地、前世の恋人が住んでいる街に辿りつくことができた。

 改めて彼女の行動力って半端ない。それに付き合っている僕もたいがいだけど。

 

「ああ、懐かしいなぁ。すごい懐かしいなぁ!」

「はいはい。観光はあとね、今は先に宿を取ろうよ」

 

 カザミのテンションがすごく高い。僕も内心では結構ワクワクしてたりする。僕たちは国を出たことが今までなかったのだから。一応初めての外国旅行という本を読んだけど、どこまで通用するだろう。あ、お土産とかも大事だよね。帰るとき忘れず買わないと。

 

「宿ならこっちだよ!」

「カ、カザミ?」

「ほら! はやく!」

 

 初めての土地のはずなのに、宿の場所を把握してるのか。あ、前もって調べてたのかな。話の信憑性をあげるために。

 

 半ば引きずられるように連れていかれた先は……

 

「あれ?」

「うん、どう見ても宿じゃないね」

「おかしいな……、ここに確かにあったんだよ。丸鳥の宿って名前の、緑色の看板を掲げた宿屋さん」

「まぁ宿の場所がわからないなら人に聞こう」

 

 見知らぬ土地でどこに何があるかなんて、現地の人とかじゃないとわからないよ。いくら妄想逞しくても限界があるしね。

 丁度近くに通りかかったおばさんにさっそく聞くことに。

 

「すみません、この街の宿屋ってどこにあるか教えてもらえますか?」

「おや? 観光の人かい? こんな辺鄙な場所に珍しいねぇ」

「え? 観光客ってよくいたと思うんだけど」

 

 おばさんの言葉にカザミがつっかかった。

 カザミの中のこの街は観光客がよくいる場所らしい。

 

「若いのに良く知ってるねぇ。20年ぐらい前はいっぱいいたけど、今はさっぱりだよ。あの頃はこの辺りで遺跡がいくつも見つかって、そりゃもう毎日賑わってたもんだよ」

「遺跡で人って来るんですか?」

「あたしも遺跡の何がいいかわからなかったよ。だけど人が人を集めるって言うのかね、いっぱい人が来たもんさ。学者さんや探検家はもちろん、旅行者なんかも遺跡の見学によく来てたよ」

「あの、ここに宿屋さんってありませんでした? 丸鳥の宿って名前の……」

「丸鳥の宿……、ああ! あったよあった! ボールみたいな変な鳥が描いてあった緑の看板の! 懐かしいねぇ……、たしか観光客も減ってきた頃に潰れたよ」

「そう、ですか……」

 

 本当にあったんだ。

 驚きから思わずカザミの方を見れば、彼女は少し沈んだ表情を浮かべていた。

 

「お嬢ちゃん、この街について詳しいんだねぇ。知り合いでも住んでいるのかい?」

「それは」

「僕たちの叔父がよく旅行に行ってて、この街についても少し聞いていたんです」

「コール君?」

「そうだったんだねぇ。丸鳥の宿がなくて驚いたろう。今もある宿はこの道を真っ直ぐ行くと左側にあるよ。呑蛙の家って看板が目印さ」

「ありがとうございます。それじゃカザミ、行こう」

「う、うん」

 

 

 教えてもらった通りの道を真っ直ぐ歩き続ける。呑蛙の家という看板を探して。

 どうせ変なカエルの絵が描いてあるに違いない。

 

「コール君、どうしてあんな嘘をついたの?」

「んー、話が長くなりそうだったしー」

「……、座ってるだけでも疲れるもんね。馬車って案外しんどいから」

「あとあれかな。カザミがまた前世でとか言いだして、さっそく変な目で見られるのを避けたいし」

「わー、複雑な気持ちになれちゃうなぁ」

 

 そうこう言っているうちに呑蛙の家という宿を見つける。看板には二本脚で立つ青いカエルの絵が描いてあった。この街は変な看板を立てる決まりでもあるのだろうか。

 

「そういえばカザミ。どれぐらいここに滞在する予定?」

「永住する予定だけど?」

「うん、却下ね」

「え!?」

 

 カザミは何を言ってるんだ。旅行じゃなくて引越し気分なのか。突発行動で引越しとかどういう考えから出てくる発想だ。

 

「まさか本気で前世の恋人と今世でも恋人になる、とか考えてるの?」

「そんな信じられないものを見る目で言うのはやめてほしいなぁ……。でも本気っすよ! ええ、そりゃもちろん!」

「えぇ……」

 

 ぜひとも考え直してほしい。

 まぁなんだかんだで前世の記憶というのがあるって少しは、本当に少しだけは信じてもいいけど、今世でも恋人関係は諦めるべきだと思う。

 

「そもそもその人、まだこの街にいるの?」

「わからないけど、いてほしいよねー」

 

 確か店を持ってるって話しだし、さっきの宿屋みたいにお店をたたんでいる可能性だってある。さすがにそのあたりは自信がないのか。

 

「……、仕方ないか。荷物置いたらその人のお店探しに行こう」

「うん! 店の名前はね、ローソクの火亭だよ!」

「消えてそうな名前すぎるよね。もう帰らない?」

「諦めないで!?」

 

 すらすらと店の名前が出てくるのは、良いことなのか悪いことなのか。

 

「どう転がっても、いい話にはならなさそう……」

「コール君、早く行くよ~?」

「了解ー」

 

 つい口に出てしまった独り言は、彼女に届かなかったようだ。

 

 

 

 

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