今、あいつはどんな夢を見ているんだろう?
たった一人で終わらない夢を見続ける「眠りウサギ」。
終わらない悪夢を見続ける「眠りウサギ」。
なんでこんなことになったんだろう。
俺たち同級生全員がのぞんだ「七不思議」の先は、こんな結果じゃなかったはずなんだ。
俺たちが望んだのは、あの人との××なんだ。
ああ、ごめん。
俺の独り言だ。
とにかく。
俺たちはクラス全員でこの「砂時計」の七不思議を解明することになった。30人、眠りウサギを除いてだから29人、全員でだ。
絶対、助けてやるからな。
信じて、待ってろよ?俺たち、友だちだろ?
俺は眠り続ける眠りウサギのベッドの横にイスを引っ張ってきて、一冊のノートを広げる。そこには、眠りウサギが「砂時計」に関して調べたこと、見た夢のことが細かく書かれている。
ほらみろ。あいつはしっかり努力しているんだ。
俺は居残り要員としてこの場所に残された。
まずは、わかりやすいところから。
あるはずの七不思議「砂時計」はもう話したよな。
それと、実際今七不思議を経験している眠りウサギがどうなっているのかも。
じゃあ、次は「今、以前の七不思議のやり方を辿ったら」だな。
もうすぐ連絡が入るはずだ。
砂時計が沈んでいるはずの池は近くだから。
俺が知っているのは、人づてに聞いた話だけ。「その池、ちょっと前に埋め立てられたぜ?」いつだったか、そんな話を聞いた。
実際には見に行ってないんだ。
ああ、電話だ。同級生の現場に行ったやつらからだ。
ああ、うん。おい、なんか犬吠えてるぞ?さくら連れてったんだろ?大丈夫か?
いや、それ犬か?犬なのか?おーい、さくら大丈夫かー?んー、まあいいか。
で、そっちどうよ?そっか。やっぱりな…さんきゅ。どうすっかな…
ああ、一旦戻ってきて
うわ!うるさ!おい、なんか変だって!それ、やっぱ犬じゃないって!
…あ、切れた
変な電話だったな…
同級生からだったぜ?池を見に行ったやつら。
池はもう影も形もないってさ。埋め立てられて、ビルが建ってるって。住所は確かだから間違いはないはず。
いつの間にこうなったんだろうな…
お、メールだ。
池のあった場所が辿った経緯がこれでわかるな。
よし。じゃあ、一緒に辿ってくぜ?
なんか外で犬が吠えてる気が…
いやいや、気のせいだ。
えー、まず埋め立てられた年。
俺たちが七不思議を調べ始めた時はまだ無事だったらしいな。そりゃそうだ。「この七不思議、もうありませーん」なんて言われてたら問題だ。
埋め立てられたのは高校生になってから。
意外と最近のことだったんだな。
で、埋め立てられた理由。
「池に飛び込む人が急増したから」
…嘘だな。
池に飛び込む人は元々いたって話だ。七不思議の砂時計目当てのやつらだな。「砂時計」の七不思議自体はずっとあるんだ。それが今さらになって突然有名になるなんて、考えにくいだろ?他に原因があったとしても、地元民である俺たちが知らないはずない。
偶然…だよな?
背筋にぞくっとしたものがはしった。この15の数字が何を示しているのかは、俺には解らない。
埋め立てられた年の名前の名字は一個前とは違っていた。そして、それまで規則正しく並んでいた名前が、その年を最後にプツリと途絶えていた。
その年から、既に15と2年経とうとしていた。
今の…土地所有者ってどうなってるんだ?
単純に考えれば、「土地所有者」こそ一番その土地に詳しいと思う。だって、自分の「持ち物」のことは大体知っていているのが当然だろ?
うわ…わからん。
マジでこんがらがってきた…
…
……
………よし。
ここはあいつの登場だな。
元・学級委員長。
現・役所勤め!
こいつに聞けば一発だろ!
はい、電話ー。
(あいつのとこって確か、まだ黒電話だったよな。通じるかな?)
つー、つー、つー(がちゃ)
あ、俺だ。俺、俺!俺だって!俺なんだから分かるだろ?!
俺俺詐欺じゃないって!
だーかーらー!お…
あ、切れた。
あ、かかってきた。律儀な奴め。
あー、ごめんご。
ちょっと聞きたいことあってさー。ほら、眠りウサギのこと連絡あったろ。あれだよ、あれ。
砂時計なんだけどさ、あるはずの池が埋められてんの。年とかはわかったんだけど、どうしてそうなったのかがわからんの。
うん、そう。ふんふん。え、ヤバくね?
俺は、今は役所で働いている元学級委員長へ電話をかけ、片っ端から質問を投げ掛けていった。
俺は七不思議に関して極力こいつに頼みたくなかった。同級生みんなに七不思議のことを話したのは俺。でも解明しようと誘いをかけたのは、実は、この学級委員長だったんだ。責任感が人一倍強い学級委員長。今回の件も含めて、俺はこいつに全部を背負わせたいわけじゃない。
だから、遠ざけたかったんだ。
と言っても、結局は向こうもそれがわかっちまってるんだよな。
俺たちは仲が悪いわけじゃない。信頼してるから避けるんだ。あいつができないことを俺がやる。俺ができないことをあいつがやる。それでいいじゃないか。
だから、忘れないでくれよ。
『同窓会』の話にはきっと自分の番まであいつは出てこない。出席番号が一番最後の学級委員長。
誰とも関わっていないっていうことじゃない。首をあえて突っ込まずに見守ってるんだ。
だから。
頼るのは今回限り。
あいつのことは誰も語らないからな。
代わりに俺が語ってやる。
俺たちが同窓会で語る話に誰かしらの他の同級生が出てくるように、学級委員長もずっとそこにいるんだ。
学級委員長は誰よりも先にそこへいって、俺たちを待っているはずだから。
だって、あいつは。
学級委員長は
わりぃ。
話がずれたな。
電話は終わった。
必要なことは全部教えてくれたぜ。さすが、役所勤め。の、社畜。仕事が早え。
しかも、ちゃっかり電話を切る直前に「落ち着いてしっかりやれば、おまえなら助けられる」なんて言葉を残しやがった。
やーっぱ、わかってるんだよな。あの学級委員長は。
まずな。
15年ごとの土地所有者が代わるのはそのままの意味だ。名義の奴が死亡して、他の奴に所有権が移る。大体血が繋がった誰かだってさ。事故だったり、病気だったり。ここの関係性ははっきりとは言えない。
で、約17年前に今の名義になったらしい。その時、今までと違うことが一つあった。
この町出身じゃない奴が土地を所有したんだ。
つまりな。
元々そこの土地を持っていた人と全く関係のない人が名義に載ったんだ。今まではどんなに遠縁でも血の繋がりはあったそうだ。でも、その時、とうとう誰もいなくなった。
外から嫁いできたり婿入りした人は、様は「他人」。その子どもは血が繋がってる。「この町出身」ってことになるな。
理由は分からないけど、そこの土地を所有して15年でいなくなる。その時、大抵は周りの人、家族とかだな、も一緒だ。
ほんと、わけわかんねぇな。
俺たちのこの町にはな。結構古い話とかが色濃く残ってるんだ。
町中に植えられていた桜の木。
一番古い、公園に残る一本の桜。
七不思議。
変に強い地元の団結力。
他にも数えきれない位の伝承がある。
例えばさ。
俺たち同級生の団結力。異常だろ?
いじめとかが普通にある「外」から見るとキモいだろ。
でもこれが「俺たち」なんだ。
意識はしていないけど、「地元民」ってことだけで無条件に心を許してる。俺にはそう思えるんだ。
だから、逆に言えば「外」の奴らと一線引いてるとも言えるかもな。
いや、「外」の奴らが引いてるのかも。
名義が外の奴らに代わったとき、向こうはどう思ったかな。
土地が手に入ってラッキー?
池の管理なんて面倒だ?
地元の奴らが変な言い伝えを信じている、気味悪い?
多分どれも当てはまるよな。
現に、何百年も残っていたはずの池を呆気なく埋め立てたんだから。
俺たちにとっての価値が、そいつらにとっては無価値だったんだ。まあ、しょうがないさ。
土地が手に入るって話が出た段階で、池の埋め立てはほぼ決められたらしい。地元連中の話も聞かないで、というよりこっちには全く話がなかったらしいんだ。業者ももちろん外の連中。
気付いた時には池の水は抜かれてた。
もう、どうしようもなかったんだろうな。
本当に古い池だったし。
七不思議だって、時代と共に変わるもんなんだよな。
なーんて易々と受け入れてたまるかよ。
池の埋め立てはしょうがないとしても、問題はその後!
そいつら、マンション建てやがった。金儲け目的に池を潰してたんだ。やけに最近知らない奴増えたなー、って思ってたんだよな。
こういうことかよ。
ということで、砂時計が沈んでいるはずだった池は今じゃコンクリートの下。
はぁ…
でも問題があるんだよな。
こんなことになったら、七不思議「砂時計」なんて消えるはずだろ?
池が埋め立てられてから、もう15年以上経ってる。それでも今の今まで「砂時計」はまだあると俺は思ってたんだ。
俺は学校の教師をしてる。だから、そういった話題の時事的なネタもすぐに手に入るんだ。でも、「七不思議が変わった」なんて話、少しも聞いたことがない。池が埋め立てられたって話も、今回のことがなければ「ふーん」で終わってた。
俺だけじゃないぜ?
同級生の誰もが知らなかったんだ。
おかしいと思わないか?
で、だ。
俺、思うんだけどさ。
七不思議とか都市伝説っていうのは誰かが話を流さないと消えるもの。誰かが少しでも信じていれば、その話はまだ「生きて」いることになるんじゃないかって。
だからさ。
「砂時計」、まだ池だったとこに埋まってるんじゃないか?
じゃあさ。
もし元の七不思議みたいに砂時計を拾い上げて時間を動かせば、眠りウサギも目を覚ますんじゃ?
これしかない…のか?
というか、これくらいしか打開策浮かばねぇ。
(わんわんわんわん!)
うーん。と言っても、どうすんだよ。池はコンクリの下だぜ。
(わんわんわんわん!)
うるせぇ!
あー
そう言えば、眠りウサギも犬飼ってたっけな。変な犬。ちっさい頃に山で拾ってきた犬。
どっかの昔話みたいに怪我してたのを拾ってきて、手当てしておいといたらなつかれたっていうお決まりの話なんだけどさ。
ずいぶんと長生きしてるよな、あの犬。俺たちが幼稚園児の時の話なんだぜ?それ。
電話口で吠えてたのもあの犬かな?
犬じゃないような気もするんだけど…
その犬を拾った山も、半分もうないんだよな。池ほどじゃないけど、町を跨いであった山だから土地開発で切り崩されたんだ。今じゃ、俺たちの町に入ってる部分だけ辛うじて残ってる状態。
可哀想だよな。その山にいた生き物たち。
ああ、可哀想なんだよ。
その池にあった砂時計も。
勝手な都合で潰されて、消されて。
だから、もし砂時計に意思があったら俺たちにも怒っていいんはずなんだ。なんで助けてくれなかったのかってね。
今のこの現状ってさ。
もしかして「砂時計の呪い」じゃなくて「砂時計のSOS」なんじゃないか?
…考えすぎかな。
俺の勝手な想像だ。
なんにしても、眠りウサギを助けないことには話は終わらない。
さあ、どうすっかな。
どうすれば池のコンクリを打ち破れる?
どうすればコンクリの下の砂時計を取り出せる?
聞こえていたはずの犬の鳴き声は、いつのまにか遠くなっていた。